第四章・震災の朝 てしきりと話しかけていた : ・・・・・・う、うん。もう、アカンのや。ううん、もうアカン・ おも れい む だれかに向かってというのはたぶん、冷ぞうこだったと思う。 そのときのおとうちゃんは、からだがするするちぢんでいって、二年生のばくよりも、 一つんと小さい子みたいたた とにかく、もうアカンねン・ : もうなんもできん。ううん、そうやない とお ばくは、だだっ子になっていやいやをするおとうちゃんを、ばんやり遠くにながめてい にど すこちか た。ほんの少し近づいて手をのばせばとどくのに、おとうちゃんは二度とさわれないほど とお 一くにいる。 め しよばっく目をしばたたきながら、これ、きっと夢なんや、そうや、夢にきまってるン おも や : ・・ : と思っていた。 じかん ばくのかたに手がお どれくらいの時間、そうやってつっ立っていたのかはわからない あたた かれた。温かな手だった。 あきら 「かせひいたらアカンから、べッドにもどりナ、明」 こえちい おかあちゃんだった。その声は小さかったけれど、うんとやさしくひびいた。 こ ゅめ にねんせい ゅめ
第三章・くき煮作り おも しオしオれか思いっ 「こんなやわらかいモンがしつかりしたくぎ煮になるやなンて、ゝっこ ) ど たンやろなア」 つよび つよび 「強火。はじめからしまいまで、ずっと強火でたくこと。それと、絶対にいしらないこと。 ふた じようず この二つをまもったら、上手にたけるよ」 てじな 「なんか、手品みたいでわくわくするなア」 おお さんにん 三人でそんなやりとりをしていると、大なべ四つの中央に、コ 1 ヒー色のあわがふわ あっとふくらんできた。 おも 「それともう一つ。このあくをていねいに取ってやること。おいしいモン食べよ思たら、 手間ひまおしんだらアカン」 おかあちゃんはいって、あくすくいで四つのなべのあくをていねいにすくい取っていっ すく こ。ばくらもあく取りをする。そうしているうちに、だんだんあくが少なくなってきた。 「さ、これでもうええ。あとはこの落としぶたをして、一気にたきあげる」 みせ つく おかあちゃんは、アルミホイルを丸くして作った落としぶたをなべにいれた。店いつば ひろ いに、イカナゴをたくしようゆのにおいが広がっている。 さんにん さんよんじつぶん 「たきあがるまで三、四十分かかるから、三人で小腹でもふくらまそ」 ひと まる こばら ちゅうおう ぜったい
きに見つける」 むり あか 「赤ンばは無理やデ」 「モノのたとえ、やがナ」 「たださがしまわってるだけではアカンのとちがうか。なんか、ええ方法ないやろか」 だいじ じみちそうさ ほ、つほ、つ 「そんなムシのええ方法、あるかいナ。地道な捜査、ちゅうのンが大事なんや。とにかく あしつこ 足を使て、さがしまわる。これしかおまへん」 ある しおや がっこうお というわけで、学校が終わるとばくらはミーちゃんさがしのため、塩屋のまちを歩きっ つけた。 ろじ しようこうえん とお しようてんがい こくどうにごうせん 国道二号線をはさんで、商店街のある北がわ。ネコが通りそうな路地うらや、小公園 さかみち ちゅうしやじようがっこう しおやたにがわ のうえこみのすきま。塩屋谷川ぞい、コンビニエンスストアの駐車場、学校よこの坂道、 ぐらもの だいいちゃまの が第一山野センタ 1 のうす暗い物かげ。 ぎよこ、つ うみ いちにちょうめ 海がわの、一、二丁目にも足をのばした。漁港まわりもくまなくさがした。波止には野 こざかな かずおおす 良ネコが数多く住みついている。釣り人が小魚をくれるため居ついているのだ。 みつかよっか 三日、四日とミーちゃんさかしをした。けれどもミーちゃんは見つからなかった。ネコ は何十匹もいた。飼いネコとわかるやつは毛並みがよく、近づいても逃げなかった。三毛 なんじっぴき あし っぴと きた ちか ほ、フほ、つ