一つ - みる会図書館


検索対象: ツバメ日和
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1. ツバメ日和

うわぎ かえるのかたつほが上着のボタンをなくす。べつのかえるもいっしょになってボタンを さかす。見つけるけれど、ちがう。また見つけてちがうし 。ゝつばいボタンは落ちているの ひと いえかえ に、みんなちがう。かえるのボタンは一つもない。はらがたって家に帰ったら、ゆかにな おも くしたボタンが落ちていた。ああ、ばくはなんてことしたんだろうとかえるは思って、二 ぜんぶうわぎ ひきで見つけたボタンを全部上着にぬいつける。そしてそれをべつのかえるにプレゼント おも ゅめきち する、そんな話だったと思う。おばえてるか、夢吉。 こころ いまおも ゅめきちいっしようたいせつ 今思えば、ばくが夢吉を一生大切にしようと心にきめたときの気もちと、とても近い とも ゅめきち ゅめきち おも 気がする。ああ、夢吉。ばくは、夢吉がばくの友だちであることをとてもうれしく思って いるぞ。 ゅめきち しん ゅめきちしおやかえ 夢吉。 いっかかならず夢吉が塩屋に帰ってくることを、ばくは信じて待ってるぞ。 あわじしま かおあ てがみふうとう おおさかなんたんすまうらさんじようゆうえん 顔を上げ、手紙を封筒にもどし、淡路島から大阪南端、須磨浦山上遊園へとゆっくり いちわ 見わたしていたら、一 羽、二羽、ツバメが空気を切りさくようにツィッと飛んでいった。 ゅめきち 夢吉。きっともどっておいでや。ツバメはじぶんの生まれたところをわすれへんで。 ことし かえ さきすっく おとうちゃん。いつでも帰ってきてや。ツバメ、また今年ものき先に巣を作るからな。 びよりそらうみ あお 本日はツバメ日和。空も海もツバメの背も、青い ほんじっ はなし ちか 102

2. ツバメ日和

第六章・カノヾがほしい日 きなくなって、ばはあ、とやる。カバはいつまでたってももぐりつこをやめない。 ち しゃ あっ いつだったか、暑い午後、カバ舎からあらわれたそのからだがひびわれて、血がでてい おも こ。ばくらはてつきり、カハがけがをしているんだと思った。 し かかり ゅめきち しいくかかり 夢吉が、「えらいこっちゃ。飼育係のひとに知らせンな」とあわてていたら、係のひと ち おし あかあせ が、「あれは血じゃなくて、赤い汗なンや」と教えてくれた ぐすりやくめ あっ ふせ あかあせ 赤い汗は、ひふのかわきを防いだり、暑さから身をまもったりする、きず薬の役目をし あぶら ていると。油みたいにぬるぬるしていると。 くち おお ばくらは、カバが大きな口をあけているところがすきだった。そして、そのしゅんかん ゅめきち しやしんと おも を写真に撮りたいと思っていた。ばくはずっとファインダ 1 をのぞきつづけ、夢吉がその し しゅんかんをばくに知らせることになっていた。 「今や ! 」 むちゅう ゅめきち 夢吉にばんとかたをたたかれたばくは、夢中でシャッターを二度きった。一枚目は手ぶ くちうつ にまいめ れしていたけれど、二枚目はきれいにカバのひらいたロが写っていた。 いちど ゆる ゅめきち となった。 それをすっかりわすれるなんて。許せ、夢吉。そして、もう一度、あっ , おも ずっとわすれていた大切なものを、ばくは思いだしたのだ。 たいせつ み いちまいめ て

3. ツバメ日和

ばくはかた目をあけておとうちゃんを見た。 「一つン 2 おとうちゃんは、まのぬけたようななまへんじをした。 こえき ばくはスピーカ 1 の声か気になっていた。 「アラ、イイ気モチイって、なにフ 「はンフ おとうちゃんの手かとまった。 そと 「ほら。 しま、タでいうてるやろ、おとうちゃん」 む ばくはあごを外のほうに向けた。それでもおとうちゃんは、なんのことだかわからない みたいだった。 こえ うた スピ 1 カーの声のとおり、ばくはふしをつけて歌った。 「ア—ラ、イイ—気モチイ—」 かお おとうちゃんの顔かくにやくにやっとゆがんだ。そして、びん ! とのびた。 あきら 「明。もういっぺん、ようく聞いてみイ」 あいたほうの手を耳のうしろにあてて、おとうちゃんはにんまりわらった。 そと てみみ み

4. ツバメ日和

第八章・夢吉からの手紙 き あ にしゅうかんまえ なくなったのは二週間前のことなのに、もうずいぶん長いあいだ会っていない気がする。 あきらげんき 明、元気でやってるか 、つ げんき こっちはみんな元気や。生まれてはしめて夜逃げというの体験したけど、夜逃げいう み のはわくわくするもんやな。なんせ、だれにも見つからんようにこっそり逃げたすん にじ よなか いえでんき み ゃ。どこでスパイが見はっとうかもしれん。家の電気みんな消して、夜中の二時まで し しい 4 つ、つと かぞくよにん 家族四人、息つめとった。というても、一年生の妹はなんも知らされてへんから、ぐ うすかねとったけどな。 。こいいちゃまの ふるたてもの みせ 第一山野センターは古い建物やし、店はどんどんへっている。シャッターのおりた通 し くろ えたい 路のあっちこっちに、得体の知れん黒ぐろしたもんがうすくまってるみたいや。そこ り . よ、って つう いも、つと をおかあちゃんが妹だきかかえて、おとうちゃんが必要な着がえ両手にもって、通 あしおと げんきん ものぜんぶ 帳やら現金やら大事な物を全部ばくがリュックにしよって、足音たてんようにぬけだ しん はっしん すんや。配達用の車をそうっと発進させる。心ぞうばくばく、スリルとサスペンス、 ちゅうやつやったな。 スハイかいつどこでかぎつけるともかぎらんで、正確なことはいえんけど、ばくらは ちょう ろ はいたつようくるま だいじ いちねんせ、 せい、か′、 なが ひつよう たいけん き つう

5. ツバメ日和

らんぼうもの おも がっこう くて、そいつらに飛びかかっていったが、 ばくだけが乱暴者のように思われるので、学校 ヤ」と ではひと言も口をきかなくなっていった。 ゅめきち しみず 夢吉はちがった。ばくのことを「ションべンたれ」とはけっしていわず、「清水くん」 よ あきら わたらい ゅめきち と - 呼び、仲よくなると「明」といっこ。ばくも「渡来くん」から「益歹士ロ」とい一つよ一つに よっこ。 くみ ゅめきちなか 組がえがあってべつべつの組になっても、ばくと夢吉の仲はかわらなかった。 き ゅめきち はなし だいいちゃまの あ ち た 夢吉から聞いた話によると、第一山野センターのそばの空き地にマンションが建つこと あ ち ようちえん けんせつはんたい しよめい になったそうだ。空き地のうらに幼稚園があり、早くも幼稚園では建設反対のための署名 うんどう た 運動がはじまったという。マンションが建っと、陽あたりが悪くなるというのが、なんで り・ゅ , っ も反対の理由らしい もんだい ち き あ おも 陽あたりの問題なんかじゃないのにな、とばくは思う。空き地が消えてなくなることこ いちばんもんだい そが一番の問題しゃないか あ ちきようしつよっ いっ ひろ 空き地は教室四つか五つぶんくらいの広さで、たくさんの木がうわっていた。イチジ き まいとし じつぼんいじよう クにビワ、カキやキリの木なんかもあった。なかでもウメの木は十本以上もあり、毎年、 ふゅ はなさ ゅめきち 冬のおわりになるとみごとな花を咲かせた。夢吉のおじいさんが子どもだったころから、 はんたい ひ なか くち AJ き ようちえん はや ひ わ き

6. ツバメ日和

第七章・わらいもち 「一つル」 ばくは耳をすました。 とお スピーカーを通して聞こえてくるのは、たしかにちがう。ばくの聞きまちがい、アライ イ気モチ、じゃない ーーヒンヤリツメタイワライモチ アマクテオイシイワライモチハイカガ そういっている。 「わらいもち、や」 とノ、しカお ばくが得意顔でいうと、おとうちゃんはきよとんとなった。それから、くしやくしゃの 顔をして、はじけるようにわらいだした。 うえ おとうちゃんは、からだをくの字におり曲げて、花ござの上でじったんばったんするよ あし うにわらった。手をどんどん、足をばたばたさせてわらった。 ばくにはなにがそんなにおかしいのか、まるでわからなかった。〃 わらいもちみってい うのは、わらいころげるほどおかしいものなのか か みみ

7. ツバメ日和

おも わらいもちよりもおとうちゃんのほうがおかしいワ、と思っておとうちゃんを見ていた ら、おとうちゃんはきゅうにわらうのをやめた。 わる 「いや、すまん。おとうちゃんが悪かった」 と、おとうちゃんはひとことあやまり、ランニングシャッすがたのまま、表に飛びだし ていった。 ーアマクテオイシイワライモチ ヒンヤリツメタイワライモチハイリマセンカ なんや、やつばり、わらいもちゃンか。 てんじようみあ ばくはくちびるをとがらせると、うでぐみをして天井を見上げた。 そら、〃わらいもち〃を〃あらいい気もち〃とまちがえたンは、おかしかったかもしれ ん。おかしかったかもしれんけど、おとうちゃん、なんであないわらいころげてたンやろ。 しばらくして、おとうちゃんがもどってきた。 あきら 「ほいナ、明」 さしだすおとうちゃんの手に、″わらいもち〃かのっている。たぶん、わらいもちだ。 「あらいい気もちでも、わらいもちでもないデ、これは」 おもてと み

8. ツバメ日和

第七章ーわらいもち えほん カバの絵本のことをすっかりわすれていたように、 小さかったときのことはほとんどお きおく ばえていない。だけど、たった一つ、あざやかに記憶していることがある。それは、五さ いの夏で、わらびもち売りが来たときのことた。 ひる にちょうびあつひ わらびもち売りが来たのは、日曜日、暑い日さしのてりつける昼さかりのことだった。 はな ひる ばくはおとうちゃんと花ござにねころんで、昼ねをしようとしていた。そのころのおと げんき うちゃんはうんと一兀気で、冷ぞうこに話しかけることもなかった。 かぜおく おとうちゃんはひしまくらをして、ばくにうちわの風を送ってくれていた。うちわには あかきんぎよ ち赤い金魚がかいてあった。 こえき おも とお ら あんまりねむくなかったんだと思う。まどの外から、スピーカーを通した声が聞こえて 「おとうちゃん」 なっ ひと そと ちい ご

9. ツバメ日和

ンか、どこにもおらんワ。おるのは、キチキチバッタくらいのモンや」 ゅめきち こばな 夢吉は小鼻をふくらませてばくを見る。 ゅめきち かいわ ばくは、おかあちゃんはべつにして、たったひとり、夢吉とだけ会話ができる。じぶん ゅめきちった の気もちを、じぶんの気もちのぶんだけ夢吉に伝えることができる。 きち かんじ おも 「吉というのは、エンギのええ漢字やと思うけどナ。タイアンキチジッ、ていうやないか。 ゅめ ゅめしようらいゅめ つか しかも、夢、やぞ、夢。将来の夢は、プロのサッカ 1 選手です、なんてときに使う、ユ メや」 ゅめきぼう 「夢も希望も、ばくにはないのンや」 「そら、ど一つい一つことやフ・」 どうさんだいめ しよ、つらい 「待ってるのは、つるかめ堂三代目ていう、しよばくれた将来だけ」 ゅめきち やむすこ よう力ししよくにん おも 夢吉はまんじゅう屋の息子なのに、ほんとうは洋菓子職人になりたいと思っている。 わがし じぶんちの和菓子も食べるけれど、ケーキに目がない あきら 「名まえのこというんやったら、ばくのほうかヒサンや。明やデ、ア・キ・ラ」 あか 「お日ィさんとおッ月さんを合わせたくらい明るいちゅうのが、アキラ、やのにナ。明は くら 暗い。マックラ、や」 つき せんしゅ あきら

10. ツバメ日和

第四章・震災の朝 てしきりと話しかけていた : ・・・・・・う、うん。もう、アカンのや。ううん、もうアカン・ おも れい む だれかに向かってというのはたぶん、冷ぞうこだったと思う。 そのときのおとうちゃんは、からだがするするちぢんでいって、二年生のばくよりも、 一つんと小さい子みたいたた とにかく、もうアカンねン・ : もうなんもできん。ううん、そうやない とお ばくは、だだっ子になっていやいやをするおとうちゃんを、ばんやり遠くにながめてい にど すこちか た。ほんの少し近づいて手をのばせばとどくのに、おとうちゃんは二度とさわれないほど とお 一くにいる。 め しよばっく目をしばたたきながら、これ、きっと夢なんや、そうや、夢にきまってるン おも や : ・・ : と思っていた。 じかん ばくのかたに手がお どれくらいの時間、そうやってつっ立っていたのかはわからない あたた かれた。温かな手だった。 あきら 「かせひいたらアカンから、べッドにもどりナ、明」 こえちい おかあちゃんだった。その声は小さかったけれど、うんとやさしくひびいた。 こ ゅめ にねんせい ゅめ