堂 - みる会図書館


検索対象: ツバメ日和
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1. ツバメ日和

おも くる。そうしたら、つるかめ堂のわらびもちをおとうちゃんに食べさせたげよ、そない思 にあじ てたンや。生まれてはじめて食べたわらびもちとよく似た味のわらびもち。いっしょに、 うた おも ア—ライイ—気モチイ、と歌お、そない思てたンや。 どう けど、そのつるかめ堂も夜逃げをしてしもうた。 どう

2. ツバメ日和

第一章・夢吉 ゅめきち 第一章ー夢吉 ある だいいちゃまの じつぶん ジェイアールさんようほんせんしおやえき 第一山野センターは、山陽本線塩屋駅から歩いて十分ほどのところにある、ほと たてものちじようにかいちかいっかい いちば んどっぷれかけた市場だ。建物は地上二階、地下一階のコンクリ 1 トづくりで、もともと さんじゅう みせ ちか ーマーケットやコンビニエン は三十あまりの店がはいっていた。それが、近くにスー ろつけん いつけんにけんみせ スストアができたせいもあり、一軒、二軒と店をたたんで、いまでは六軒だけしかのこっ ていない だがしゃ やおや 八百屋ととり肉屋、まんじゅう屋にきっさ店、それに駄菓子屋とカラオケスナック。ば し ~ いにやまの くはまだ、第二山野センタ 1 がどこにあるのか知らない。 どう どうゆめきち や やごう おな よねんにくみ つるかめ堂の夢吉とばくは同じ四年二組 まんじゅう屋の屋号は〈つるかめ堂〉といし ゅめきち だ。夢吉は、ばくのたったひとりの、かけがえのない友だちだった。 どうゆめきち な つるかめ堂の夢吉はじぶんの名まえをとてもいやがっている。 きち にほんじゅう 「ユメキチやデ、ユメキチ。いまどき、日本中さがしたかて、吉のつく名まえのやつな や てん とも な

3. ツバメ日和

ちじようにじっ 地の木という木が地上二十センチくらいのところですつばりと伐られてしまっていた。 「うつ、うそやろ。それはないデ」 くち おも というのが、ばくの口から思わす飛びだしたことばだった。 ちか どうちょっこう どう おもてぐち ばくは地下にあるつるかめ堂へ直行した。センター表ロではないほう、つるかめ堂は ぐち ちか ゅめきちあ おも うら口からか近い。だから夢吉は空き地のことに気づいていないんだと思う。 「おっちゃん、こんにちは」 店でもちを丸めるおっちゃんにあいさっし、おくへはいった。おくが住居部分になっ ゅめきち 夢吉。えらいこっちやデ」 と呼びかけた。すると、 あきら 「ん ? なんや、明か。なに、えらいこっちゃねン」 ゅめきちくび 夢吉が首だけのぞかせた。 「あっ、空き地がぐちゃぐちやや」 「そら、えらいこっちゃ」 ゅめきち へや いうなり夢吉は、だだっと部屋からでてきた。そして、 みせ まる じゅうきよぶぶん

4. ツバメ日和

し ゅめきち 子を細ばそとでも作りつづけているから、それを知っているお客もちゃんと来る。夢吉が っ どうくろまめだい おとなになっておっちゃんのあとを継ぐようになったら、いつまでもつるかめ堂の黒豆大 おも 福が食べられるのにナ、とばくは思う。 どう ゅめきち 「夢吉、つるかめ堂はいやか ? 」 ゅめきち ばくは夢吉にたずねる。 いややない」 ゅめきちくび 夢吉は首をふってこたえる。 この もんだい 「いややないけど、好みの問題、かナ」 もんだい 「好みの問題、か」 あきら かんが 「そゃ。考えてもみイ。明は、おばちゃんのあと継いで、おそうざいやコロッケ作るつも 「うーん。そんなこと、考えたことないワ」 おやしごとっ 「な、そやろ。子どもはかならす親の仕事継がんならんいうこと、ないねン。すきなこと しよくぎよう ゅめ を職業にするのが夢ちゅうモンとちがうか」 「ああ」 この ほそ こ かんが し っ きやく 2

5. ツバメ日和

第二章・ミーちゃんさがし 第一一章ーミーちゃんさかし ゅめきち もうすぐやってくるはずだった、子どものたのしみをうばわれたばくと夢吉は、すっか ち せいち あ どうくろまめだいふくた り整地されてしまった空き地にすわって、つるかめ堂の黒豆大福を食べていた。 ゅめきち つく くろまめだいふく 「ほんま、夢吉のおっちゃんが作る黒豆大福はおいしいなア。もちはやわらこうてねばり くろまめかお あまみさいこう があって、黒豆の香りと甘味は最高や」 まめ 「そら、そゃ。テレビのコマ 1 シャルやないけど、使てる豆がちゃう」 じしんさく 「かしわもちもよもぎもちもおいしいけど、これ、おっちゃんの自信作やナ」 「まア、ナ」 ゅめきち 夢吉はまんざらでもなさそうにわらった。そしてつけ加えた。 うみしろうま 「けどナ、ばくはやつばり、海の白馬のケーキのほうがすっきや。ああ、明。あしたはシ ュークリ 1 ム食べよナ」 どう だいいちゃまの みせ わが 第一山野センターの店はつぎつぎとつぶれていったけれど、つるかめ堂はおいしい和菓 た っこ あきら つん

6. ツバメ日和

第五章・夜逃げ 「レンタイホショウニンフ れんたいほしようにん がっきゅうじけん わる 「ああ。連帯保証人いうのはナ、ほら、学級で事件があったとき、なんにも悪いことし せきにん てへんのにまわりのモンも責任とらされるやろ」 み ちゅうい わる 「そうそう。見てるだけでなんの注意もせんかったモンも悪い いうてナ」 しやっきん せきにん 「おとうちゃんが借金したわけでもないのに、カラオケスナックの責任とらされるンや。 ほしようにん みせ のこった店どうし、そうやって保証人になりおうとった。で、夜逃げ、や」 「夜逃げ ? 」 びやくまんえん 「カラオケスナックは、てってとすがたをくらました。なん百万円もの借金、だれがは どう じゅうえんにじゅうえんあきな ひょうばん らえるかいナ。つるかめ堂のまんじゅうが評判ゃいうても、十円二十円の商いや」 しんけん 「しもたなア。もっと真剣にミーちゃんのことさがして、お礼の百万円もろといたらよ かったワ」 ま ゅめきち 「ちょ、ちょっと待ちイな。夢吉もその、夜逃げ、するのンか」 どう 「子どもひとり、つるかめ堂にのこってどないする」 しゅうぎようしき 「そんな、もうじき終業式やデ」 れいひやくまんえん しやっきん

7. ツバメ日和

わがし ようがし 「ばくは和菓子より洋菓子のほうがすきゃねン」 どう ゅめきち 「けど、夢吉があと継がんいうことになったら、二代っづいたつるかめ堂もいよいよしま いやナ」 「しよがない、しよがない」 くろまめだいふく 「黒豆大福メッポウ、かア」 「ま、せいぜい いまのうちにいろんなモン食べとこ」 じよ、つ′、、つ はなし そんな話をしていたら、上空がさわがしくなってきた。 AJ き 「なんや、セスナ機が飛んどうデ。いまどき、めずらしこっちやナ」 「ああ。おまけに、なんぞいうとうデ」 こえ き ゅめきち そらみあ 夢吉とふたり、空を見上げていると、セスナ機からの声がしだいにはっきりと聞こえて こころ ミ 1 ちゃんをさがしています。どなたかお心あたりはありませんか き 「なんや、ミーちゃんさがしてる、いうとうナ。もっと聞いてみよか」 ゅめきちしゅうちゅう そらみあ 夢吉は集中する顔つきになって空を見上げた。 ちゃくろみけ ミーちゃんをさがしています。ミーちゃんは、白とうす茶と黒の三毛ネコです。と か っ き にだい しろ 2

8. ツバメ日和

第七章・わらいもち ばくはロをとがらせ、ほっぺたをぶうっとふくらます。 あきらかおさいこう 「わらいもち ! っていうたときの明の顔、最高やったなア」 「そやかて、ほんまにそういうてたもン」 よなか かお 「世の中で、ばくの知らンことなんて、なんにもないデー・ーそんな顔やった。おとうちゃ まね かお んには真似のできん、ほればれするほどええ顔やった : 「ア—ラ、イイ—気モチイ」 うた ばくは小さく歌ってみる。 「アマクテオイシイワライモチハイリマセンカ」 うた おとうちゃんもつつけて歌う。 だいしんさい ああ、おとうちゃん、ナ。おとうちゃんが大震災でおらへんようになったあと、夏のあ どう かずかぎ いだだけやけど、つるかめ堂でもわらびもちがでるようになったンやデ。数に限りがあっ ゅめきち てすぐに売り切れるンで、夢吉にこっそり取っといてもらうンや。おとうちゃん、本物の こ わらび粉を使うてるンやデ。 いえかえ ツバメがじぶんちをわすれんともどってくるように、おとうちゃんもきっと家に帰って くち なっ ほんもの

9. ツバメ日和

「あア、あ。子どものたのしみ、なくなってしもうた」 ゅめきち ひどくがっかりしたように夢士ロはいっこ。 ゅめきち どう ゅめきち じかん 夢吉のいうとおりだ。ばくと夢吉ですごす、甘く、ばんやりとした時間。つるかめ堂の じかん まんじゅうやおかあちゃんのコロッケを食べながらすごす、しあわせの時間 た 「ここにマンションが建つやろ」 「あ、ああ」 うえ にんげん 「それで、マンションを買える金もってる人間が、ここにひっこしてくるねン。上のほう かいうみみ の階は海が見える、とかなんとかでナ」 ゅめきち さきっち 夢吉はつま先で土をけった。 す 「ここにウメやサクラ、イチジクやビワの木イなんかがあったこと、ここに住むことにな し にんげん る人間はだアれも知らんのやデ」 ゅめきち だアれもナ、と夢吉はつぶやいた し まいとしはなみ 「ほんまやナ。毎年花見をたのしみにしてきたモンしか知らん」 き し じんるい にんげん 「木イのことなんも知らん人間がどんどんふえつづけたら、人類はメッポウするナ」 ゅめきち あし ち こいしひろ あ な 夢吉は、足もとに落ちていた小石を拾うと、くっそオ ! といって空き地に投げつけた。 お かね た き あま 0 2

10. ツバメ日和

ンか、どこにもおらんワ。おるのは、キチキチバッタくらいのモンや」 ゅめきち こばな 夢吉は小鼻をふくらませてばくを見る。 ゅめきち かいわ ばくは、おかあちゃんはべつにして、たったひとり、夢吉とだけ会話ができる。じぶん ゅめきちった の気もちを、じぶんの気もちのぶんだけ夢吉に伝えることができる。 きち かんじ おも 「吉というのは、エンギのええ漢字やと思うけどナ。タイアンキチジッ、ていうやないか。 ゅめ ゅめしようらいゅめ つか しかも、夢、やぞ、夢。将来の夢は、プロのサッカ 1 選手です、なんてときに使う、ユ メや」 ゅめきぼう 「夢も希望も、ばくにはないのンや」 「そら、ど一つい一つことやフ・」 どうさんだいめ しよ、つらい 「待ってるのは、つるかめ堂三代目ていう、しよばくれた将来だけ」 ゅめきち やむすこ よう力ししよくにん おも 夢吉はまんじゅう屋の息子なのに、ほんとうは洋菓子職人になりたいと思っている。 わがし じぶんちの和菓子も食べるけれど、ケーキに目がない あきら 「名まえのこというんやったら、ばくのほうかヒサンや。明やデ、ア・キ・ラ」 あか 「お日ィさんとおッ月さんを合わせたくらい明るいちゅうのが、アキラ、やのにナ。明は くら 暗い。マックラ、や」 つき せんしゅ あきら