エージェント - みる会図書館


検索対象: ビジネス法務 2016年8月号
17件見つかりました。

1. ビジネス法務 2016年8月号

ェックしていますが , これは非常に重要で す。営業部のほうでルールを理解して , 必 要に応じて申請を上げてきているはずなの ですが , ルールを知らない社員もいるので , 取りこほしがある。それを少しでも減らす ためには事後のチェックが不可欠です。ル ール通りに運用されていないことが発覚し たら , たとえば我々がもう 1 回研修に行く などして , 営業部にルールへの理解を深め てもらいます。そうすると , きちんとオペ レーションが回るようになっていきますね。 髙 : そのときに何を監査するか , これが明 確になっているのですね。メーカーさんは どうなのですか。工ージェントを使う機会 はありますか。 C 社 : 正直 , 全部を本社で把握し切れている かというと怪しいです。特に , 二次代理店 等については , ほとんど販社・現地任せに なっています。 D 社 : 当社の場合 , どの国でも許認可をもら って商売をするので , 公務員との関係把握 は重要なポイントです。昨年は , まず公務 員とのタッチボイントについて現地での取 引先をディストリビューター以外も含めて 調査しました。 リスクの高いエージェントへの対応 髙 : さきほど , 「リスクがあるエージェン トは使わない」という話がありましたが , でもどうしても使いたい , そのエージェン トしかない , 先方が指定してくるため , 選 こういう場合もある 択肢は 1 つしかない , でしよう。そういうときは , どう判断され るのですか。途上国の案件で , しかも , そ のプロジェクトは非常に規模が大きい場 合 , この問題が出てくると思います。 A 社 : もしレピュテーションが悪いところを どうしても使わざるをえないということに なると , 腐敗行為防止を担当しているチー ムだけの判断ではなく , コンプライアンス のトップ , または社長に相談することにも なると思います。 高 : その決裁に対し承認する人のレベルを 上げるわけですね。 A 社 : そうですね。 髙 : 申請を通さなかったケースなどはあり ますか。 A 社 : 海外の入札案件で現地のエージェント を使いたいという申請がありましたが , リ スクが高いと判断して却下したことはあり ます。実績のあるエージェントだったらし いのですが , 営業部としてはそういったカ のあるエージェントを使いたいという要望 があるわけです。そのエージェントについ て調査をかけましたが , 現地政府との関係 性について非常に悪い評判が出てきてしま いました。営業部と協議し , 最終的には工 ージェントを変えることで決着しました。 髙 . B 社さんはどうでしよう。 B 社審査の結果 , 贈収賄リスクの極めて高 いことが判明した案件ではエージェントを 起用することができませんが , どうしても そのエージェントでなければ案件を遂行で きないという場合は , 子会社の社員として 雇用し , 管理を強化することで対応したこ ともありました。 髙 : なるほど。社員として採用してしまう のですね。 B 社 : 社員であれば徹底的にコントロールで きますので。社員にするに当たっての条件 もかなり厳しくして , 単独で絶対に出張さ せないし , たとえばその者が電話で交渉す る際は本社の責任者がすべて聴取しながら 対応させるなどします。これは , どうして も外せないキーパーソンに限った極めて例 外的な対応ですが , リスクを抱え込むこと にはなるけれども , 逆にそこまで対応すれ ば不正も働かないだろうと。 髙 : それでコントロールをきかせるという ことですね。 B 社 : そうですね。そこまでやったケースは 本当に稀です。あとは基本 , ェージェント を使わず自分たちだけで対応することもあ 46 ビジネス法務 2016.8

2. ビジネス法務 2016年8月号

④ ⑤ ⑥ 工ージェントのスポンサーを決める スポンサーにエージェントを評価させる 高リスク・エージェントを再調査する 第 1 は , 企業グループとして , どのような 工ージェントを使っているか , 全体を把握す ることである。すべての事業所に質問票を送 り , 一定期間内に回答してもらうことが , 般的な作業となる。ただし , 海外の事業所 が , 本社からの要請にそのまま正直に答えて くれる保証はない。仮に集まったエージェン ト情報が不正確・不十分であれば , 本社は作 業をやり直さなければならない。 タイコの場合 , 2008 年 , 最高コンプライア ンス責任者 ( 以下「 CCC 」という ) が世界 中の事業所に質問票を送り回答を求めたが , 集まったエージェント情報は約 4 , 000 件にと どまった。 CCC は , この結果に満足できず , 作業を最初からやり直した。専任スタッフか ら成る特別調査チームを組織し , 同チーム主 導で各事業部のマスター・べンダーやカスタ マー・ファイルを確認し , 可能性のあるエー ジェントをすべて洗い出した ( 過去 2 年間で 5 万ドル以上の取引実績のあるすべてのエー ジェント ) 。その結果 , 工ージェント数は 6 万 6 , 000 にものばった 3 。 第 2 は , 工ージェントの数を絞り込むこと である。洗い出されたエージェントの中に は , 先進国で事業を営む取引先 , 先進国内の 業務に関し助言を行う弁護士やコンサルタン トなども含まれる。通常 , そうしたエージェ ントの贈賄リスクはゼロに近いため , これら をリストから外さなければならない。タイコ でも同種の作業が行われ , 工ージェント数は 3 万 2 , 000 前後にまで絞られた。 第 3 は , 工ージェントの分類法を決めるこ とである。リストができれば , 今度はこれを 一定の方法で分類していく。そのために , リ ストを全体的に眺め , 自社に合致する分類法 を確定しておくわけだ。特に , DD の枠組み をゼロから構築する会社は , 必ずこの分類法 を決めておく必要がある。ただし一度確定し た分類法は , 以後 , 一切変更してはならない というわけではない。使いながら , より効率 的・合理的な括り方が見つかれば , 分類法も 柔軟に改善すればよい。ちなみに , タイコ は , スタート時点で 22 の分類法を採用してい る ( 監査法人 , 環境コンサルタント , 再販業 者 , 貨物運送者 , 法律事務所など ) 。 第 4 は , 工ージェントのスポンサーを決め ることである ー ' にいう「スポンサー」 ( オーナーともいう ) とは , 各工ージェント の行為に関し責任を負う社内関係者を指す。 たとえば , 会社としてエージェントを正式に 採用した者 , 工ージェントを現在利用してい る者などがスポンサーに指定される。この作 業を通じて「誰も責任を負わないエージェン トがいる事実」が判明することもあるが , の場合 , 当該工ージェントとの契約を解除す るか , 新たにスポンサーを決める必要があ る。実際 , タイコでは誰も責任を負わない工 ージェントが数千もいた 第 5 は , スポンサーにエージェントを格 付・評価させることである。この時 , スポン サーには「評価に意図的な操作や虚偽があれ ば , スポンサー自身が責任を負うこと」を伝 えておかなければならない。この前提を確認 したうえで , タイコでは , スポンサーに「な 2 2002 年 7 月 , 幹部の不正などで倒産の危機に瀕していたタイコを立て直すため , モトローラ元社長のエドワード・ブリー ン氏が CEO に就任。 2012 年 9 月まで同社の改革をリードした。後に氏は , タイコの問題が大量のエージェントを無規則的 に使用していたことにあったとしている。 Mont, J. "How Compliance, Ethics & Leade 「 ship saved Tyco," Comp/iance Week, July 201 3 , p. 46. 3 K 「 oll, K."How Tyco Tu 「 ned A 「 ound Thi 「 d-pa 「 ty Risk P 「 og 「 am," Comp/iance Week, Septembe 「 201 1, p. 54. 4 Mont, J. Op. cit. , p. 47. 34 ビジネス法務 2016.8

3. ビジネス法務 2016年8月号

わが社でもできる ! 贈賄防止プログラムの実践 ぜそのエージェントを利用するのか」「その トの経歴・特徴から , 誠実さを評価しておく わけだ。具体的な評価項目としては , 次のよ ェージェントは反腐敗ポリシーを遵守できる うなものが考えられよう。 のか」などについて , 合理的な説明を求め た。この時点で , 高リスク・エージェントの ⅵ 当該工ージェントに関して , 贈収賄の 数は約 5 , 000 となっている。 噂はないか 第 6 は , 高リスク・エージェントの再調査 当該工ージェントは , 贈収賄問題でマ を実施することである。リスクが高いエージ スコミに取り上げられたことはないか ェントについては , そのリスクが許容できる 当該工ージェントは , 汚職の嫌疑をか 範囲に収まるのか , コントロール可能なのか けられたことはないか まで確認する必要がある。そのために , より ⅵ 当該工ージェントは , 汚職につき , 有 詳細な確認項目を設け , 再調査を実施し , そ 罪判決を受けたことはないか の結果をデータベースに登録しておく。ちな 当該工ージェントを , 業界関係者は取 みに , タイコでは , 高リスク・エージェント 引先・信用先として扱っているか の再調査費用を , 各事業部に負担させること 当該工ージェントには , 政府関係者が とした。その結果 , スポンサーは , 多くの高 天下っていないか リスク・エージェントとの契約を解消してい 当該工ージェントは , 支払先として個 き , その数は 1 , 750 にまで圧縮された 5 人名義の口座を使っていないか 第 2 の視点は「業務遂行能力」である。業 工ージェント格付における 務遂行能力のないエージェントは , 贈収賄の 主な評価項目 仲介者としての役割が期待される可能性が高 い。そこで , 工ージェントの役割を明確にす 工ージェント・ DD の仕組みを持たない会 るために , 彼らの能力や実績を確認しておく 社にあっては , まず , 以上のような 6 つのス 必要がある。評価項目としては , 次のような テップを踏んで大枠を作る必要がある。大枠 ものが想定されよう。 ができたら , 後は日常的・定期的にエージェ ントを格付・評価していけばよい。すでに上 契約を履行するだけの専門性を持って 記第 5 および第 6 ステップとして , 工ージェ いるか ントの格付・評価・再調査に触れたが , そこ 契約を履行するだけのスタッフを抱え では , 具体的な手続内容にまで踏み込んで説 ているか 明はしなかった。そこで , 次に , 各社におけ 過去の実績を持っているか る実践を促すため , 格付・評価のための 3 つ 過去の成果に関し過大な説明をしてい の視点を提示するとともに , 具体的な評価項 ないか 目を例示しておきたい 6 ⅵ 過去の成果に関し虚偽の説明をしてい 第 1 の視点は , 工ージェントの「誠実さ」 ないか である。ここでは , 工ージェントが不正に関 政府関係者との密接な関係ばかりを強 与する可能性を把握するために , 工ージェン 調していないか 5 K 「 oll, K. Op. cit., pp. 54-55. この時点で , タイコは 3 万 2 , OOO のエージェントの約 95 % を , 中・低リスクのエージェント としている。 6 髙巖「外国公務員贈賄防止に係わる内部統制ガイダンス」 (R-BECO 1 3 ) 麗澤大学企業倫理研究センター , 2014 年 3 月 , 160 頁。 特集 35 ビジネス法務 2016.8

4. ビジネス法務 2016年8月号

実態のない架空の業者ではないか 公表された住所に事業所・事務所を置 いているか いをあげたい。 だ。具体的な評価項目として , 次のような問 ェントの説明責任能力をチェックするわけ の存在を疑われかねない。このため , ェージ し , 適切に説明できなければ , 「不正の意図」 ージェントが自身の仕事の進め方や内容に関 第 3 の視点は「説明責任能力」である。工 過去数年間の財務諸表を見せることが できるか 過去に実態のよくわからない下請けを 個人名義の口座を多用していないか 異常に高い成功報酬を要求してこないか を抱えていないか 記録・帳簿が杜撰で , 財務報告に問題 使っていないか ペー / ヾーカンノヾニ 用していないか ーを介した支払を多 現金の支払を求めてこないか 領収書を出さないなどの傾向を有して いないか 工ージェント評価を終えたら , 最後にやる Ⅳ格付に応じたコントロール を用意されたい 7 性などを考慮し , より実践的・合理的なもの は , 各社の事業規模・内容やプロジェクト特 はあくまで一般的なものに過ぎない。実際に 連する評価項目を列挙した。ただし , これら 以上 , 3 つの評価の視点と , それぞれに関 べきは , その評価に基づき , ェージェントを コントロールすることである。ここでは会社 側が取りうる主な措置として , 以下の 4 つを あげておこう。 第 1 は「契約条項」を通じての管理であ る。一般に , リスクの高いエージェントの利 用は避けなければならないが , それを利用す るしか選択肢がない場合 , 企業側は , 少なく とも次の 5 つの条項の中に , 通常用いる契約 条項よりも厳格で広範な内容を盛り込んでお く必要がある 8 ①公務員に対し不正な資金を提供しない 旨の「法令遵守条項」 ②公務員との関係に関しみずからの立場 を保証する「表明保証条項」 ③上記 2 条項の遵守を確認するための監 査に応じる旨の「監査受忍条項」 ④上記 3 条項に違反があると合理的に判 断した場合の契約解除に関する「無催告 解除条項」 ⑤委託した業務を事前の相談なしに他の 下請に再発注しない旨の「再発注禁止条 項」 最後の「再発注禁止条項」を設けるのは , 業務を直接委託したエージェントが , 上記① から④までの条項適用を嫌い , 当該業務をそ のまま他のエージェントに丸投げしてしまう 可能性があるためである。もっとも , 当該業 務を分割し , その一部を他のエージェントに 委ねたほうが合理的という状況も , 実際には ありうるだろう。そうした場合に備え , 直接 業務委託したエージェントには , 契約段階で 「会社側への事前相談なしに再発注すること」 を禁止しておくのである。会社側が再発注を 認める場合には , 当然ながら , 再発注先の工 7 Abikoff, K. T. , Wood, J. F. and Huneke, M. H. Anti-Corruption Law and Comp/iance. ・ Guide わ the FCPA and Beyond, BIoombe 「 g BNA, 2014 , p. 344. 8 髙巖 , 前掲書 , 162 ~ 163 頁。 36 ビジネス法務 2016.8

5. ビジネス法務 2016年8月号

わが社でもできる ! 贈賄防止プログラムの実践 工ージェントをどう格付・評価・ コントロールするか 麗澤大学大学院経済研究科麗澤大学企業倫理研究センター 教授高最特別研究員藤野真也 概観しておく。そのうえで , 第 2 に , 工ージェ ントのリスクを把握するための格付・評価につ いて解説したい。特に , 「評価ではどのような 点に着目するのか」「どのような評価項目を設 途上国におけるビジネスでは , 腐敗行為が日 常化しているとはいえ , 日本企業が外国公務員 けるのか」を具体的に示しておく。そして最後 などに , 直接 , 不正な利益供与を行うことはほ に , 格付・評価の結果をふまえ , 「エージェン とんどない。もしそうした行為があるとすれば , トをどのようにコントロールするか」を説明し その大半は , 企業のために行動する「エージェ たい。 ント」によるものとなる。通常 , 工ージェント は , コンサルタント , アドバイザー , プローカ Ⅱ大枠を構築する 6 つのステップ ロビイスト , ビジネス・パートナー , 代理 店 , 会計士 , 弁護士 , 取引先など , さまざまな 形で仲介業務を行っている。このため , 本社側 では , どのようにデュー・ディリジェンス ( 以下「 DD 」という ) の大枠を構築するの がエージェントとの取引実態を正しく把握する か。規模・業種・業態などで具体的な取組み のは難しい。 内容は異なってくるが , 通常 , 次の 6 つのス 実質重視のコンプライアンスでは , 実態把握 テップを踏んで , 大枠を作ることになる。抽 が困難な取引こそ , 贈賄リスクが高いとみなし , 象的な説明ではわかりにくいため , 数年前に より積極的かっ合理的にコントロールしなけれ ばならない。しかし , 日本の主要企業 ( 回答企 抜本改革を行ったタイコ・インターナショナ ル ( 火災防止・セキュリティ分野の米国企 業数 221 社 ) を対象とした調査によれば , 工ー 業 , 2016 年 3 月時点の従業員数 5 万 7,000 人 , ジェントに対するコントロールは緒に就いたば かりである 1 。 以下「タイコ」という ) の経験を紹介しなが ら , 各ステップの内容を見ておっ それゆえ , 本稿では , 第 1 に「企業内でエー ジェント・コントロールの大枠をどう構築する ① 関係するエージェントを抽出する か」を整理したい。大多数の日本企業では , そ ② 工ージェントの数を絞り込む もそも基本の体制ができあがっていないため , ③ 工ージェントの分類法を決める 前段の作業として , 各社が踏むべきステップを 1 第 15 回インテグレックス調査 ( 20 ] 5 年 1 1 月 ~ 20 ] 6 年 3 月実施 ) 。 特集 I はじめに 33 ビジネス法務 2016.8

6. ビジネス法務 2016年8月号

どこまで取り組む ? 日本企業の贈賄対策 社に問い合わせる必要があるのでしよう か。そもそも , そういう社内ルールはでき ているのか , それとも試行錯誤の段階なの でしようか。 C 社 : 試行錯誤の段階ですね。会社のポリシ ーや社内ルールは規程等で整備されていま すが , そこに運用上のフローが伴っていな い場合もあり , 実際に現場がそのルールに 基づいて動いているのかどうか把握できな いケースもあり今後の課題です。 工ージェントのリスク評価と活用 髙 : みなさんは , 会社が利用しているエー ジェントの数は , 把握されておられますか。 そもそもエージェントをどのように定義し ておられますか。定義づけするには , 一体 どういう人たちを使っているのか , とりあ えずすべてを列挙してみる必要があると思 います。把握と分類ができれば , 次に , 各 工ージェントを格付・リスクづけしていく ことになりますが , みなさんの会社では , 今 , どのレベルにあるのでしようか。 B 社 : 当社の場合は , 社内ルールで審査対象 となるエージェントの数が 100 くらいでし ようか。工ージェントの定義を広くとって いるので , 取引の媒介に限らず , 情報提供 なども含めて一旦工ージェントと認識した うえで , 類型的にリスクが低ければ審査対 象外とし , リスクが高いエージェントを中 髙 : それは法務がやったのですか。 ることで行いました。 ントを集計し , その結果を「レビュー」す B 社 : 各部署が契約を締結しているエー 心になってやられたのでしよう ? 高 : そのエージェントの格付は , どこが中 心にチェックする体制にしています。 ンエ うのはこういう広い定義で考えてくださ ントは使っていますか , 工ージェントとい か , その類型のビジネスにおいてエージェ り , どういう類型のビジネスをしています B 社 : はい。まず質問票をすべての部署に送 い , と説明し , 全部吸い上げて , さまざま なパターンのエージェントがいる実態を把 握してから類型化していきました。 高 : 全体としてどれくらいエージェントを 使っているのかを抽出する際の話かと思い ますが , 抽出にあたっては , 金額による基 準など設けていますか ? 年間の取引高で いくら以下なら , 外してよいなど。 B 社 : それもやりました。 A 社 : 当社も基本的に一緒です。 2013 年 5 月 から規程が導入され本格的に運用したので すが , その前に準備段階として社内調査を 行って , 社内でどのような会社 , どのよう なエージェントを使っているのかを把握し ました。そのうえで , 社内の規程や手続を 策定していきました。 髙 : では , 工ージェントのリスク評価の仕 組みは , A 社さんと B 社さんでは , 大体で き上がっているのですね。 B 社 : この他にも , 反贈収賄監査も行ってい ます。 髙 : 専門の監査ですか。 B 社 : はい。政府系企業向けの案件で起用す るエージェント等に対しては審査を義務づ けておりますが , まずそれを行わなくては ならないかどうかの判断は営業の現場で行 っていますから , それが社内ルール通りき ちんとなされているかをチェックするため に監査をしています。同時に , 会計記録や 帳簿についても , 重要な拠点をピックアッ プしてチェックし , 金銭の流れからも裏付 けを取り , 全体を把握します。 A 社 : 当社もそうですね。社内の監査部でチ 工ージェント 企業から委託を受け情報収集や仲介等の業務 を行う。特に海外における腐敗防止の取組みに おいては , 彼らのコントロールが鍵を握ると言 われる。詳しくは , 高 = 藤野 ( 本号 33 頁 ) を参 キーワード 日召 ビジネス法務 2016.8 45

7. ビジネス法務 2016年8月号

わが社でもできる ! 贈賄防止プログラムの実践 ージェントにも , 上記①から⑤までの条項が く必要がある。データベースが常に最新の情 適用されなければならない。 報に更新されていればこそ , 社員スタッフは 第 2 は「トレーニング」を通じての管理で これにアクセスし , 会社として取るべき合理 的措置を確定できるからだ。通常 , 情報の更 ある。厳格な契約条項を設けたところで , ェ ージェントがその趣旨や会社側の意図を正し 新は , 「モニタリングを実施した後」「委託業 務が完了した後」などに行われる。なお , く理解していなければ , コンプライアンスは 定期間 ( たとえば , 5 年間 ) を超えて利用実 徹底されない。それゆえ , 会社側は , 工ージ ェント向けの贈収賄防止に関する教育訓練 績のないエージェントについては , これをデ ータベースから削除しても問題はなかろう 1 ニングでは , まず , すべてのエージェントに 対する共通事項として「海外腐敗防止関連規 V 結びにかえて 制に関する基礎知識」「コンプライアンス・ ポリシー」「契約条項に盛り込まれた禁止事 ビジネ 項」などの基本的内容を取り扱うこととす 企業活動がグローバル化する中で , スの形態はますます多様化している。とりわ る。さらに , 工ージェントのリスクが高い場 合には , 教育内容や教育頻度 , 教育媒体 ( 講 け , 海外で新規事業を展開する場合 , ジョイ 習会や e ラーニングなど ) , 対象者の範囲など ント・べンチャー (JV) やコンソーシアム を適宜変更することも検討されたい 9 の組成 , 特別目的事業体 (SPV) の設立 , サ プライチェーンの拡大・多様化など , 従来と 第 3 は「モニタリング」を通じての管理で は異なる手段が用いられるようになってい ある。高リスクのエージェントであれば , ト る。このような形態の取引は , 複雑なスキー レーニングを実施したとしても , 契約条項を ムを使って行われるがゆえに , チェックの目 無視して行動するかもしれない。そのため , が届きにくく , 場合によっては , 贈賄の事実 企業側は , 定期的に監査を実施し , 遵守状況 を隠蔽するために悪用される可能性もある。 の確認を行う必要がある。モニタリングで このため , 企業としては , 内部統制の範囲を は , 契約履行に関する監査に限定せず , より 広い視点からチェックを行うのが合理的であ 拡大し , 広くコントロールを行き届かせる必 要があろう。そのための重要な一歩として , る。もっとも , 工ージェントのリスクに応じ 日本企業がより体系的かっ合理的なエージェ て , 監査実施のインターバルを変更すること ント・ DD に着手することを期待したい。 も重要である。たとえば , 低リスクでは 3 年 , 中リスクでは 2 年 , 高リスクでは 1 年と 髙巖 ( たかいわお ) ルール化しておく 1 。 いったように 麗澤大学大学院経済研究科教授。詳細は 1 7 頁参照。 第 4 は「データベースの更新」を通じての 藤野真也 ( ふじのしんや ) 管理である。企業グループとして , 工ージェ 1982 年生まれ。大分県出身。京都大学経済学部卒業 , ントを合理的にコントロールするためには , 京都大学経営管理大学院修了 (MBA), 麗澤大学経済 研究科博士課程修了。博士 ( 経営学 ) 。企業倫理研究セ 工ージェント情報を常にアップデートしてお ンター特別研究員 , 麗澤大学経済学部非常勤講師。 9 ICC Commission, ICC Guidelines on Agents, lntermediaries and 0 e 「万わ / 「 d Parties,lnte 「 national Chambe 「 Of Comme 「 ce, 201 0, p. 7. 1 。髙巖 , 前掲書 , 1 65 頁。 11 髙巖 , 前掲書 , 165 ~ 166 頁。 特集 ( トレーニング ) を実施するわけだ。トレー 37 ビジネス法務 2016.8

8. ビジネス法務 2016年8月号

どこまで取り組む ? 日本企業の贈賄対策 ります。 髙 : 工ージェントを社員にしてしまうとい うのは , 欧米の先進企業などでもよくある 流れなのですか。余り聞いたことがないの ですが。 B 社 : 工ージェントを社員として雇用した事 例はあまり聞いたことはありませんが , 欧 米企業の中にはエージェントの起用を一律 禁止しているところもあると聞いています。 A 社 . B 社さんの中で , 工ージェント , 代理 店の定義はどうしているのですか。 B 社 : 「商取引に関して , 受注支援 , あっせ ん , その他情報の提供をする者」としてい ます。一方で , 政府系企業や公務員と接触 を持たない , 弁護士等の特定の専門家につ ここから除外しています。 いては , A 社 : マーケティングや調査活動するような 会社はエージェントまたは代理店に当たり ますか。 B 社 : それは当たります。 C 社 : 代理店の話ではないかもしれないので すが , 支社や海外の子会社のリーガルとの 役割分担はどうなっているのですか。たと えば先ほどおっしやった教育だとか , 代理 店の審査だとか , すべて本社が決めている のか , それともある程度現地に任せている 部分があるのか , いかがでしよう。 B 社 : ある程度は現地に任せています。一方 で , 現地がリスク評価を行った結果 , リス クが相応に高いものは本社に相談をしても らうようにしています。 腐敗防止の取組み本格化に向けて 髙 : おそらくこれから取組みを始められる 会社さんが大多数だと思うのですが , そう した方々にアドバイスをいただけますか。 苦労話でも結構ですので。 A 社 : おそらく , 最初はトップをその気にさ せることが大事だと思います。これからど この会社も反腐敗関連の規程やガイドライ ンを導入していくことになるのでしよう が , 自分の会社に沿ったレベルで構わない ので , ある一定のルールを早目に決めるし かないと思います。ここまではやる , これ 以上はやらないというラインを見きわめた うえで始めればよいと思います。金額を基 準にするのも 1 つの方法でしよう。 髙 : トップをその気にさせるというのは難 しいと思いますが , どのようにされました か。そこが知りたいところですね。 A 社 . 取引先がそういう体制を要求してくる ようだと , 否応なく対応するのかなと思い ます。腐敗行為防止に対する意識を高めな いと , 競合他社と同じ土俵に上がれない。 会社の格を上げるためなのだということを 社長に認識してもらうことが大事ですね。 髙 : 格を上げるという話の持っていき方も あるわけですね。ただ単に , ペナルティー が重いからとか , 社長の責任が問われるか らという説明だけではなくて。 A 社 : 当社には普通のコンプライアンス規程 以外にもこういう規程までありますよと対 外的に発信できるようになれば , その会社 のレピュテーションは上がっていくものと 考えています。 髙 . 私は , この問題については , たとえば 企業と国税が見解の相違で訴訟になること がありますが , それと同じような問題であ ると思っています。当社はここまでやって , 不正な意図はない , こういう措置をとった と説明する。でも , たとえば検察側が , そ うは考えないというのであれば , これを公 の場で議論すればよいと思っています。す べてにおいてアウトだと断定できるような ものではないと感じています。相手側が , いわば , 恐喝的に求めてくるわけですし , 場合によっては , こちらの命が危うくなる こともありうるわけですから。 B 社 : やはりトップや法務・コンプライアン ス関連の担当役員の強力なサポートを得る のが 1 番重要かと。トップがやる気になっ ていて , 予算も使っていいのなら , たとえ ば社内ルールや審査に用いる質問票等のひ ビジネス法務 2016.8 47

9. ビジネス法務 2016年8月号

るだけではわかりにくいため , 企業で問題と なりやすい行為をリスク・レベルに応じて , 次の 4 類型に分けておきたい。その第 1 は , 冠婚葬祭などの慣習に基づいて , 贈答・接 待・歓待などの便益を提供する場合 , 第 2 会社側が不利益 ( たとえば , 税関職員に よる金銭の要求を拒否すれば , 通関業務の著 しい遅延という不利益を被る状況 ) を回避す るために便益を提供する場合 , 第 3 は契約履 行上の義務を果たすために費用 ( 旅費・宿泊 費など ) を負担する場合 , そして第 4 は以上 3 つの行為をそのまま「エージェント ( 仲介 業者 ) 」に委ねてしまう場合である 14 3 リスクに応じた決裁権限者の変更 以上の 4 類型を念頭に置き , 決裁権限者の 変更について説明しておこう。まず第 1 類型 では , 通常 , 会社側が特に「有利な扱い」を 受けることはない。それゆえ , 現場責任者に 決済権限を与えても大きな支障はない。第 2 類型では「企業側が被る不利益を小さくする はずの措置」が許容範囲を超え , 有利な扱い を受けてしまう可能性が出てくる。よって , 権限者は各課責任者 ( 課長クラス ) などと し , 許認可が絡む案件などでは , さらに上位 の者を正規の権限者とする必要がある。 第 3 類型では , 「契約履行上の費用」を装 って , 相手側に金銭や過剰な便益を提供して しまう危険性が高まる。このため , 決済権限 者は , 第 2 類型の場合よりも上位の者とし , 海外移動が絡む案件では , 各部責任者および コンプライアンス部責任者などを権限者とす るのが合理的である。最後の第 4 類型では , 工ージェントによる不正な便益提供のリスク が最大となる。このため , 工ージェントのリ スクに応じて , コントロールの内容や強度を 変更する必要がある。その方法については , 別稿 ( 33 頁 ) で後述しよう。 4 リスクに応じた記録の様式と範囲 同様に , 類型の違いに応じて , 記録の様式 や範囲を決めておかなければならない。具体 的なイメージを持ってもらうため , 第 2 類型 のケース ( 2013 年当時のタイ ) を紹介し , れに対処する場合の記録様式を例示しておき 【事例】 タイ・アユタヤ地区にある工業団地では , 地元警察が巡回公務に関し月 1 回の頻度で 2 , 000 バーツ ( 約 6 , 140 円 ) 程度の支払を , 団地内企業に求めてくる。これを拒むこと も可能であるが , 緊急時の対応などで警察 より不利な扱いを受けるおそれがあるため , 実際には , いずれの企業も拒めない状況に ある 15 当然 , 断ることができれば , そうすべきで あるが , これが著しく困難な場合 , 企業側は 少なくとも次の措置を講ずる必要がある。第 1 に , 請求してきた警察官個人に対してでは なく , 地元警察署に対しての支払とするこ と。可能であれば , 警察署あるいは担当部署 の銀行口座などに振り込み記録を残すこと ( 当然 , 先方はこれに抵抗を示すであろう ) 。 第 2 に , 支払わざるをえない理由を記録に 残すこと。たとえば「要求に応じなければ , 緊急時などに協力を得られず , 業務に大きな 支障をきたすこと」などと記す。そう推測さ れる根拠 ( 映像や音声など ) も残したい。 第 3 に , 金銭が提供される場合 , 支払先の 警察署名・部署名 , 支払日 , 支払金額 , 支払 場所などを記録に残すこと。同時に , 先方よ 巖「外国公務員贈賄防止に係わる内部統制ガイダンス」 (R-BECO 1 3 ) 麗澤大学企業倫理研究センター , 2014 年 3 月 , 67 ~ 84 頁。 巖 , 前掲書 , 1 06 頁。 ビジネス法務 2016.8 1 6 15 髙 14 髙

10. ビジネス法務 2016年8月号

中でコンプライアンス担当役員が登場して メッセージを伝えたり , 具体的な違反事例 を示したりして注意喚起を促したうえで , 社員が自社に置き換えてイメージできるよ うな研修をしたこともあります。コンテン ツも基本的に毎年更新しています。 C 社 : 海外の教育はどうされていますか。 B 社 : まず , e ラーニングを複数言語で行っ ています。全世界どこでも実施できますし , 腐敗度が高い地域には我々が出張して現地 社員を集めた研修をしています。 髙 : それは社員の方に対してですか。それ ともエージェントに対しても ? B 社 : 工ージェントに対する研修をしたこと もありますが , 基本的には社員です。数年 前には , すべての部署ごとに ( 日本語・英 語で ) 研修を行い , その様子をビデオに収 めて動画配信したので , 海外の駐在員や現 地社員の研修にも使えました。 D 社 : 本社がグローバル全社に要求するェッ センスをコンテンツとして提供し一斉に研 修するという立て付けですね。 B 社 : そうですね。物によりますが , 工ッセ ンスと事例です。 A 社 : 何人ぐらいの方がそういう活動をされ ているのですか。 B 社 : 専任で 6 名ですね。 D 社 : 先ほど従業員トレーニングで , 社長の メッセージを読ませて社員に宣誓してもら うというお話がありましたが , 毎年宣誓も 書き直させているのですか。 B 社 . 毎年です。 高 : では C 社さんはいかがでしよう。 C 社 : 当社も腐敗防止活動を , 2013 年から注 力してやっています。 2013 年から 2014 年に かけては , 主に腐敗防止活動のべースにな るような基盤づくりを行いました。それを ふまえて , これまで , 規程・ポリシー類の 整備 , 贈答接待審査のような個別業務フロ ーの構築 , 教育等の全社的な活動を実施し てきました。 クレベルに応じた個別の活動を開始しまし た。いわゆる「リスクベース・アプローチ」 です。全社一律に同じ活動をするのはリソ ースもコストもかかりますし , 本当に必要 なところに手が届かない場合があるので , 昨年からこの考えを元に活動の見直しを始 めました。リスクの高い事業部に対しては , 腐敗リスクを重要なリスクとして捉えてく ださいと法務部から名指しで指定し , 1 年 間のリスク制御計画を立案してもらいま す。とは言いつつ , ほば法務が立案します が , 二人三脚のような形で , 事業部側にヒ アリングしつつ組み立てています。 この取組みはまだ始まったばかりで道半 ばの状態ですが こうした活動を通して現 場に入り込むことによって , 手を打つべき 事項がようやく明らかになってきたかなと いう状況であります。 髙 : どこも同じかと思いますけれども , ト ップだってそこまでやりなさいとは言いま せんよね。抵抗はなかったですか。 C 社 : 抵抗はやはり , ありますね。事業部か らすると , 腐敗に限らずコンプライアンス リスクは増える一方で , 「そこまでできな いよ」というのが本音だと思うのです。理 解を得るためには , やはりトップダウンで , 時にはコンサルタントなどを使って , 腐敗 リスクというのは決して無関係ではないと 強く訴えることが必要だと感じています。 髙 : では , 現場に対してはやはりトップが 背中を押してくれたということですね。 C 社 : そうですね。コンプライアンスは重要 だと頭ではわかっているけど実感がもてな いという役員も少なからずいると思うの で , 役員研修にも力を入れ , トップを動か すための仕組みづくりをしています。 髙 : では , D 社さん , お願いできますか。 D 社 : 弊社は , 2012 年後半から体制整備を各 部署とタスクフォースを組んで始めまし た。 2013 年の秋に贈収賄防止に関する指針 と国内外全社に対するグループ規程を制定 し , そして国内外各社でグループ規程の下 40 さらに 2015 年からは , 各ビジネスのリス ビジネス法務 2016.8