「株主総会プロセス電子化報告書」が実務に与える影響 4 具体的な制度設計 供を行う範囲や手続を柔軟に変えていけるよ 上記の提言内容をふまえ , 「新たな電子提 う , 企業に選択肢を与える方向で制度を整備 供制度」の具体的な制度設計について検討が していくことが重要であるという点 , 本研究 なされている。その概要は以下のとおりで 会における議論として共通していたと指摘さ ある。 れている。そのほか , 報告書では , 書面提供 する情報の範囲は必要最低限とするべきであ ①株主の個別承諾を得ない限り , 書面提 るなど , 制度設計に際しての留意点が取りま 供する情報の範囲 とめられている ( 詳細は , 本提言 13 ~ 14 頁 , (i) 株主総会の基本的情報 ( 総会日時・ 本報告書 34 ~ 35 頁参照 ) 。 場所 , 議決権行使手続に関する情報 , 議題など ) ( ⅱ ) 法令上 , 株主総会前に提供すべき情 報が掲載された Web サイトのアドレス ( ⅲ ) 議決権行使書面 ②個別承諾なしに電子提供できる情報の 範囲 上記①以外 ( 現行制度上の株主総会参考 書類 , 事業報告 , 計算書類・連結計算書 類 , 会計監査報告・監査報告に相当する 情報 ) ③「新たな電子提供制度」の利用手続 【 A 案】株主意思確認手続 ( 総会決議 ) を経たうえで利用 【 B 案】企業内部の意思決定により利用 可能 ④株主からの書面請求への対応 【 A 案】法令上は書面請求への対応を求 めないが , 企業が内部で取扱いを定め たうえで対応する 【 B 案】法令上 , 書面請求への対応を求 石﨑泰哲 ( いしざきやすのり ) めるが , 企業実務への影響等に配慮し 弁護士。 2005 年京都大学法学部卒業。 06 年西村とき わ法律事務所 ( 現西村あさひ法律事務所 ) 。 14 年南カ た内容とする リフォルニア大学ロースクール卒業 (LL. M. )。主な著 作として , 「上場企業法制における企業の中長期的利益 制度設計に関しては , 今後 , インターネッ とショートターミズムとの調整 ( 上・下 ) ー最近の欧 米の議論の諸相から一」商事法務 2097 ・ 2098 号 ( 共 ト利用がさらに普及していくことが見込まれ 著 ) など。 ることから , 今後の環境変化に応じて電子提 5 今後 , 当面の間 , 「対話型株主総会プロセス」の実現に向けた関係者の取組みについて , フォローアップのための会合が定期 的に開催されるようである ( 報告書 ] 05 頁 ) 。また , 2016 年 6 月 2 日に策定 , 公表された「日本再興戦略 201 6 ー第 4 次産 業革命に向けて一」においては , 「株主総会の招集通知添付書類 ( 事業報告や計算書類等 ) の電子提供について , 原則電子提 供とする方向で来年早期の会社法制の整備の着手も目指しつつ , 講ずべき法制上の具体的な措置内容を検討する。【来年早期 の会社法制の整備着手も目指す】」 ( 42 頁 ) などとされている。 特別企画 第物第第当窄 2 一を毅第をを おわりに 報告書で整理された早期 Web 開示と招集 通知関連書類の電子提供について , 今後上場 企業における自主的な対応や , 法制度の改正 に向けたさらなる議論 , 動きが予想されると ころであり 5 , 株主総会に関わる会社関係者 や実務家は , これらの動向に注目すべきであ 61 ビジネス法務 2016.8
いて定める , 労働契約法 10 条に留意する必 要がある。 同条により , 就業規則によって労働条件を 労働者に不利に変更する場合 , ①会社側の変更の必要性 ②①との兼ね合いで , 変更による従業員 の不利益が過大ではないこと ③変更後の規則の内容自体が妥当なもの といえること ④変更内容について , あらかじめ労働組 合等 ( 労働組合がなければ従業員 ) との 協議を行ったうえで , 変更後の規則を従 業員に周知すること のすべての要件を満たさなければならず , い ずれかが欠けると規則の変更が無効となる。 この点 , 秘密保持義務やモニタリングの規 定を設けることは , 会社の秘密情報の重要性 からすれば , 変更の必要性 ( ① ) や変更後の 規則内容の妥当性 ( ③ ) は認められやすい。 ただし , 特に退職金不支給規定は , 従業員の 不利益は大きいと言わざるをえない。そこ で , これらの規定の導入が有効なものとなる ためには , 上記④ ( 事前の協議と周知 ) を丁 寧に実践することが重要である。事前の協議 と周知は , 以下の手順で行う。 (i) 労働組合や従業員に対する規定変更に 関する説明会を行う。 ( ⅱ ) 従業員側の規定内容に関する意見を聞 き , 反映すべき点があれば , それをふま えて規定の修正を検討する。 ( ⅲ ) 上記 ( i ) , ( ⅱ ) を経て変更した就業規則を 従業員に周知 ] する。 会社の機密情報について , 従業員の認識可 能性を担保するためには , 変更後の規則の 「周知」としては , 社内報やイントラネット等 を活用した , 積極的な情報提供が求められる。 ( 2 ) 第 2 ステップ ( 研修の実施 ) 就業規則や , 責任部署・有事対応の手順を 整備した後にすべきことは , 従業員に対する 研修の実施である。 研修の内容としては , ①会社がいかなる情 報を守ろうとしているか , ②会社の情報を持 ち出した場合の制裁 ( 懲戒等の社内処分 , 損 害賠償や刑罰の対象となること ) , ③会社で 取り組んでいる情報漏えい対策等を説明する ことが考えられる。これらの点を説明するこ とは , 従業員の認識可能性を高めるとともに 情報漏えいの心理的な抑止にもつながる。 研修は , 従業員の構成や , 企業活動の進展 に伴う取扱い情報の変化に対応するため , 定 期的に実施することが重要である。 朝おわりに 企業が永年の苦労により獲得した技術上・ 営業上の情報は , 競争力維持に不可欠な資産 である。本稿が , 各社の情報資産 , ひいては 企業そのものを守る取組みの一助となれば , 幸いである。 白木裕一 ( しらきゅういち ) 京都大学法学部卒業。協和綜合法律事務所バートナー 弁護士 ( 大阪 ) 。知的財産法分野を中心に企業法務を取 り扱う。論文に「秘密管理性の肯否の基準とその実務 的対応」 Patent201 1 年 5 月号 . 「補償金請求権にお ける悪意要件について」知財管理 2013 年 1 0 月号など がある。 林和宏 ( はやしかずひろ ) 京都大学法学部卒業。協和綜合法律事務所パートナー 弁護士 ( 大阪 ) 。労働法分野を中心に企業法務を取り扱 う。論文に「「管理監督者』問題解決の実践的手法」本 誌 2009 年 2 月号 , 「地域労組からの団交申入れに対す る臨み方」本誌 2012 年 7 月号などがある。 108 ビジネス法務 2016.8
第三者割当による海外企業買収時の留意点郞 書と同様の構成・内容をベースとしつつ , 対 いても , クロージングに向けた準備の中で , 価として上場株式を用いることから , 対価の 売主における準備状況を確認しておくべきで 支払に関する規定 , 表明保証事項や誓約事項 あろう。 ( コペナンツ ) には工夫が必要と思われる。 3 クロージング 特に , 売主が日本法の知識のない外国人・外 国法人である場合には , 丁寧なドラフティン クロージングにおいては , ターゲットであ グが求められよう。 る海外企業の株式を買主に移転してもらうこ 前述の金商法上の募集規制の適用がない場 とによって , 売主に対して買主の上場株式が 合には , 買収契約の締結と同時に適時開示を 発行され , 交付される。法的な仕組みとして 行い , クロージングに向けて第三者割当増資 はシンプルではあるものの , 振替口座への記 の手続を進めていくこととなろう。 録のタイミング ( 払込期日の翌営業日から起 他方で , 募集規制の適用がある場合には , 算して 2 営業日目 ) など , クロージングのロジ 前述のとおり , 有価証券届出書の届出の効力 スティクスについては , 売主との間で , 事前 が発生するまでは , 売主との間で募集株式の に十分な調整や説明をしておくべきであろう。 引受けについての確定的な合意を行うことが 禁止されるため , 買収契約締結のタイミング には留意が必要である。実務上大変悩ましい 問題であるが , かかる規制の下では , 新株式 を引き受ける確定的な合意を含む買収契約の 以上のとおり , 上場株式の現物出資による 締結自体は , 有価証券届出書の届出の効力発 第三者割当を利用した海外企業の買収は , 国 内外の法令等をふまえた慎重な検討が必要で 生後に行うこととせざるをえないように思わ れる。この場合には , 第三者割当および海外 はあるものの , 技術的な難易度は決して高く 企業の買収に関する意思決定後 , ただちに有 はなく , 比較的シンプルな手法といえよう。 価証券届出書を提出するとともに適時開示を 前例はごく少数であるものの , 既存事業に当 行い , 届出の効力が発生してから買収契約を 面の間資金を集中させつつ海外での事業拡大 締結し , クロージングを行うというやや変則 を図りたい上場会社 ( 特に比較的規模の小さ 的な流れとなろう。 い上場会社 ) にとっては , 一考の価値のある 買収案件が公表された後もしばらくの間は 手法と思われる。また , 同様の手法は自己株 買収契約が締結されない状態が続くことにな 式の処分によっても可能であり , 金庫株の取 り , この点に海外の売主が不安を持っことも 扱いを検討している上場会社にとっては , そ 考えられる。買収契約の締結に先行して行わ の積極的な活用策として検討の対象となりえ よう。本稿が , そのような会社の参考になれ れる適時開示によって案件が公表されること で , 事実上 , 上場会社として後戻りは困難と ば幸いである。 なることを説明することも一案であろう。 飯谷武士 ( いいたにたけし ) 弁護士・ニューヨーク州弁護士。 2008 年に弁護士登 録し複数の外資系法律事務所を経て , サウスゲイト 2 売主で準備しておくべき事項 法律事務所・外国法共同事業の創業メンバーとして同 証券会社における振替口座の開設など , 外 事務所に参画。国内・クロスポーダーの M & A のほか , 会社法・金融商品取引法・倒産法等の企業法務を幅広 国人・外国法人である売主において事前に準 く取り扱っている。 備しておくべき事項も少なくない。買主にお 一三 131 ビジネス法務 2016.8
Law の論点 も効力は生じないのは当然である。これに対 商号続用責任規制 ( 会社法 22 条 ) はどう解釈されるべきか し , 冒頭の事例で譲渡人 A の債権者 X が , 譲 受人 Y による「債務引受け」のないことを知 っている場合でも , 22 条 1 項の規定ぶりでは 請求できることになっている。以下 , 事業譲 渡を中心に本条 1 項に関する従来の議論から 検討しよう。 1 譲渡会社の商号続用と譲受会社の無限責 任 これについては , 日本法の母法ドイツ商法 25 条に係る議論が参考となる。また , 2005 年 のオーストリア企業法典 38 条 1 項 1 文が , 商 号続用基準によるドイツ商法典から離れ「商 号続用」基準を棄てた。すなわちドイツ商法 典 25 条 1 項に相当する規定に代えて , 任意規 定ではあるが , 事業譲受人が事業を継続する 場合 , 商号続用の有無にかかわらず , 譲受人 は譲渡人の事業に係る債務を引き受ける旨の 規定が新設された 1 。このオーストリア法の 規制は , 日本法の解釈論・立法論にも参考と なる。 2 企業再建と第ニ会社方式の活用 第二会社方式は , 破綻した会社の事業を事 業譲渡や会社分割によって別会社に承継さ せ , もとの会社は特別清算手続等で清算して 実質的に債権放棄を受けるスキームである。 あるいは , スポンサー企業に事業を移さず , 旧会社の経営陣が第二会社として新会社を設 立し , 自己が事業を承継する自主再建もあ る。この場合は , しばしば新旧両会社は「実 質上同一」であると評価される傾向にあるた ここに旧会社の債権者が新会社に対して め , 旧会社の債権につき責任を追及するという背 景が認められる。 弁済を免れる目的で , 債務だけを残して事 1 高橋英治「判例評釈 ( 屋号続用 ) 」金判 ] 342 号 6 頁参照。 業を移転する詐害的な行為は許されるべきで ない。しかし , 債務の弁済を目指して , 企業 の過剰債務を解消して事業の継続やその円滑 な承継を図るため , 経営困難に陥っている会 社が , 事業譲渡や会社分割によって採算部門 を第二会社に移転させ , 新たな資金提供者や 企業承継者などのスポンサーを求めて事業再 生を実現するというような第二会社の活用は 健全な行為と評価できる。企業の健全な再建 には , 再建すべき旧会社の債権者保護と会社 再生の実現とを両立させることが求められ る。債務の弁済が遅れても再建が実現すれば 債権者保護になる。第二会社で事業を継続し て , やがて旧会社の債務を弁済するのであれ ば , そのような事業譲渡や会社分割は保護に 値する 2 。「詐害行為」が問題なのである。 単に商号を続用すれば , それだけで事業譲 受会社が譲渡人の債権者に即刻責任を負うと する現行法のあり方に合理性があるのか。し かも , この原則には例外規定 ( 会社法 22 条 2 項 , 商法 17 条 2 項 ) が用意されており , その原 則が排除される。譲受人の立場にたてば , 商 号続用の場合だけでなく「屋号続用」につい ても , 免責登記をしておくのが無難といえる が , 債権者としては信義則違反を問いたいと ころである。なお , 商号を続用しなければ , 譲受人は譲渡人の債権者に一切責任を負わな いという扱いに合理性があるのかという点に も疑問が生じ , 「商号続用」の有無だけで結 論を左右する現行法の規制のあり方には検討 の余地がある。 3 事業譲渡と会社分割の意義 会社の事業譲渡 ( 平成 17 年会社法制定前は 営業譲渡 ) とは何か。旧商法に関する事件 で , 判例は , ①「有機的一体として機能する 組織的財産」の譲渡によって , ②譲渡会社が 2 山下眞弘「営業譲渡・譲受の理論と実際 ( 新版 ) 」 ( 信山社 , 2001 ) 207 頁を参照されたい。 ビジネス法務 2016.8 93
Law の論点 商号続用責任規制 ( 会社法 22 条 ) はどう解釈されるべきか のが常態で , いずれにせよ債権者は譲受人に 対して請求をなしうると信じる場合が多いと される。これに対しては , 外観保護を強調す るのであれば , 債権者の「主観的事情」が問 題とされるべきであるのに , これが問われな いのはどうしてかといった批判がなされる。 この批判に対しては , 「営業主の交替」を 知るだけでなく「債務引受けのないこと」ま で知っている悪意者は保護に値しないとの反 論もありうるが , 規定のうえでも , 会社法 22 条 4 項が弁済者の「善意・無重過失」を要 件としているのとは対照的に , 同条 1 項では 主観的事情は問われていない。このことから も , 外観保護を根拠にするのは問題とする学 説が増加の一途にある。なお , 立法論とし て , 1 項についても善意・悪意 ( 債務引受け のないことまで知るという意味での悪意 ) を 問題とすべきかは検討の余地がある。 ②企業財産担保による説明 現行法では主観が問われないため , 外観保 護によらず , 営業上の債務は「企業財産」が 担保となっているので , 債権者を保護するた め会社法 22 条 1 項は , 原則として企業財産の 現在の所有者である譲受人が併存的債務引受 をしたものとみなした規定と解する見解もあ った。しかし , これに対しては , 企業財産の 担保力を考慮したのであれば , 債権者保護を 「商号続用」の場合に限って規定した理由は ないともいえる。そこで , 上記の ( 1 ) 説とあわ せて規定の趣旨説明をする見解もみられた。 ( 3 ) 譲受人の意思を根拠とする説明 その後 , 商号続用の有無によって事業譲受 人の債務承継の「意思」を認める見解が現れ た。これは , 現行規定の立場を解釈論の範囲 内で説明するには , 債権者側からではなく事 業「譲受人側」の事情から説明するほかない との認識に立つもので , 営業上の債権者を保 護する諸規定を一貫して説明するものともい える。これに対しても , 意思の推定は擬制的 にすぎるとの批判もなされた。この批判に対 する反論としては , 現実の意思の存在を問う ものではなく , 商号続用の「事実」に意思の存 在を認めるものであるとの反論もできよう。 ④合名会社新入社員の責任と同一との説明 ドイツ学説を参照して従来の議論 さらに とは別の観点から , 事業譲受会社の責任と 「合名会社の新入社員の責任」とを同様のも のと捉える見解が現れた 5 。しかし , 両責任 を同一とする根拠が不十分であるとの批判は 避けられず , この説明には無理がある。 ( 5 ) 詐害的な事業譲渡の防止が目的との説明 最近の説明として , 商号続用の有無で区分 する会社法 22 条の適用が問題となるのは , 債 務者の弁済資力が危機的状況にある場合であ るから , 事業譲渡の方法による債務者の「詐 害的行為」を抑制するとともに , 債権者・債 務者・譲受人の三者による協議に向け誘導す るルールが必要となり , 抜け駆け的な事業譲 渡による詐害的な再建を防止するために本条 がある。商号続用の譲受人は , 会社法 22 条 2 項に定める「登記」をしない限り , 当然に譲 渡人の営業上の債務をも引き受けたものと扱 うことによって , 免責登記をするよう誘導す るのが狙いであると説明される 6 これに対 しては , 登記することで譲渡人の営業上の債 務を引き受けなくてよいとされる根拠が明ら 4 田邊光政「商法総則・商行為法 ( 第 3 版 ) 」 ( 新世社 , 2006) 1 55 頁 , 山下眞弘「現物出資と商法 1 7 条 ( 会社法 22 条 ) の 適用」江頭憲治郎 = 山下友信編「商法 ( 総則商行為 ) 判例百選 ( 第 5 版 ) 」 ( 有斐閣 , 2008) 47 頁参照。 5 小橋一郎「商号を続用する営業譲受人の責任ー商法 26 条の法理ー」河本一郎ほか編「上柳克郎先生還暦記念 / 商事法の解釈 と展望」 ( 有斐閣 , 1984 ) 1 7 頁参照。 6 落合誠一「商号続用営業譲受人の責任」法学教室 285 号 3 ] 頁参照。 ビジネス法務 2016.8 95
「株主総会プロセス電子化報告書」が実務に与える影響 の早期 ( 発送前 ) web 開示 2 と , ( 2 ) 書面送付 開示すれば , 株主が招集通知等の情報を入手 に代わる招集通知関連書類の電子提供につい 可能なタイミングが早まり , 株主の議案検討 期間は拡大しうることとなる。報告書におい て , 本研究会における検討結果を取りまとめ ている。なお , 後者については , 「株主総会 ては , 平成 27 年 6 月に株主総会を開催した早 の招集通知関連書類の電子提供の促進・拡大 期 Web 開示企業 769 社の株主総会日から Web 開示日までの平均日数が 16.7 営業日であった に向けた提言」という形で , 参考資料を添付 のに対して , 早期 Web 開示を実施しなかっ したうえで , 報告書とは別途公表されている。 た残りの企業 1 , 583 社の株主総会日から招集 通知発送日までの平均日数が 12.9 営業日であ ったことをあげ , 約 3.8 営業日の議案検討期 間拡大の効果があったとしている。 1 早期 Web 開示の実施状況 3 早期 web 開示に関する課題と今後期待 報告書においては , 早期 Web 開示等の実 施状況が報告されているが , 早期 Web 開示 される対応の方向性 報告書においては , 早期 Web 開示の課題 を実施する企業が大幅に増加していることが として , ①日本では決算日から株主総会日ま 注目される。たとえば , 平成 27 年 6 月に株主 での期間が非常に短く , 早期 Web 開示等の 総会を開催した上場会社 2 , 352 社のうち , 早 期 web 開示を実施した企業は 769 社 ( 32.7 % ) 対応には限界がある旨の指摘 , ②早期 Web であり , 前年の 91 社 ( 3.9 % ) から大幅に増 開示は法令で強制されない任意開示であるた め , 先進的で自立的な取組みをしている会社 加している。また , 平成 27 年 11 月に実施され と , ぎりぎりまで開示しない会社に 2 極化し た東京株式懇話会会員企業を対象に実施した ているとの指摘 , ③機関投資家が利用してい アンケートの調査結果においても , アンケー る Arrow Force といったサイトのような , い トに回答した上場会社 ( 729 社 ) のうち , 平 わゆるブッシュ型の情報通知サービス 3 を備 成 27 年総会で早期 Web 開示に取り組まなか えた一括プラットフォームについて , 個人株 った企業 ( 333 社 ) の 57.4 % ( 191 社 ) が , 平成 主も利用可能となることが望ましいとの指 28 年総会では早期 Web 開示に取り組む予定 摘 , ④英文招集通知の早期開示の重要性等の であると回答しており , 今後も増加傾向が続 指摘があったとされている ( 詳細は , 報告書 くことが予想される。コーポレートガバナン 15 ~ 17 頁参照 ) 。 ス・コードの補充原則 1 ー 2 ②において , 招 このような課題もふまえ , ①早期 Web 開 集通知情報の電子的提供についての定めがお 示実施企業の拡大 , ②適切な Web 開示のタ かれており , これに対して上場企業が真摯に イミングの検討 , ③ TDnet への提出の推奨 , 対応していることが背景にあるものと窺える。 ④個人株主も利用可能な一括プラットフォー ムの創設の検討 , ⑤英文招集通知の早期 2 早期 Web 開示の効果 Web 開示について , 今後取組みがなされる 招集通知関連書類を紙媒体により株主に提 ことが期待されるとされている ( 詳細は , 報 供する場合 , 原稿の校了から株主の手元に届 告書 17 頁参照 ) 。 くまでの間に印刷 , 封入 , 郵送等の期間を要 するが , 校了後速やかにインターネット上で 3 保有銘柄を登録しておけば , 当該銘柄の招集通知掲載により通知メールを受領できるサービスをいう。 特別企画 早期 Web 開示 59 ビジネス法務 2016.8
男 ) 兄 マイ一三ロ 実解 ディスクロージャー WG 報告書でみえた 開示制度見直しのポイント 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士佐藤光伸弁護士野口真吾 企業の事業活動および株主構成のグローバル化 , ならびに情報通信技術の発展に伴い , 企業および株主・投資者間におけるさらなる建設的な対話のため , 従来の枠組みの見直し が迫られている。この状況をふまえて , 建設的な対話の基盤のあり方につき諮問された金 融審議会は , ディスクロージャーワーキング・グループ ( 以下「ワーキング・グループ」 という ) を設置して審議を行った。本稿は , ワーキング・グループが公表した報告書 ( 以 下「報告書」という ) を概説するものである。なお , 本稿において , 意見に渡る部分につ いては , 筆者らの個人的見解であり , 筆者らが現に所属し , または過去に所属した組織の 見解ではないことをあらかじめ申し沿えておく。 し , 株主総会後に金融商品取引法に基づく有 朝企業情報開示のあり方 価証券報告書を開示している。また , 企業は それぞれ内容を工夫して制度開示を行うほ か , 任意開示も行うことにより , 多様な情報 1 基本的な考え方 開示に取り組んでいる。 企業と株主・投資者との建設的な対話のた 報告書は , 機関投資家や上場会社からの指 めには , 株主・投資者の必要とする企業情報 摘をふまえたうえで , 企業と株主・投資者と が , 全体として , 適時に , 効果的・効率的に の対話を充実させていくという要請に鑑み , 開示されることが必要である。現在 , わが国 欧米の制度や実務も参考に現在の開示制度を の企業情報の開示に関しては , 有価証券上場 規程をはじめとする証券取引所上場規則 ( 以 見直し , 全体としてより適時に , かつより効 果的・効率的な開示が行われるよう , 開示に 下「取引所規則」という ) ・会社法・金融商 係る自由度を向上させることが重要であると 品取引法に基づく 3 つの制度が整備されてい る。制度開示の実務をみると , 多くの企業 指摘する。以下 , 論点ごとに概説する。 が , 事業年度末後の早い時期に , 取引所規則 2 開示内容の整理・共通化・合理化 に基づき比較的詳細な情報を記載した決算短 まず , 制度開示の内容について , 以下に掲 信を公表した後 , 株主総会の 3 週間程度前に 載する各開示書類の間で , それぞれの目的・ 会社法に基づく事業報告・計算書類を提供 ビジネス法務 2016.8 87
【図表 2 】経営者の年齢別事業承継の準備状況 十分にしている ある程度している 法律家のための事業承継入門 準備の必要を感じない あまりしていない全くしていない 80 歳代 ( n = 371 ) 70 歳代 ( n = 1 , 818 ) 60 歳代 ( n = 4 , 653 ) 50 歳代 ( n = 3 , 186 ) 40 歳代 ( n = 2 , 299 ) 30 歳代 ( n = 1 , 142 ) 20 歳代 ( n = 72 ) 18.3 5.4 20.0 07 6.9 42 4.2 7.0 41.0 31.0 31.8 13.5 41.4 36.3 22.2 26.5 30.0 2 .0 5. 26.9 14.2 18.2 422 7.0 7.9 10.0 18.0 0 % ( 出所 ) 中小企業白書 2014 【図表 3 】後継者の育成期間 3 年未満 3 年以上 5 年未満 5 年以上 10 年未満 47.4 中規模企業 ( n = 1 , 910 ) 8.6 小規模事業者 ( n = 2 , 860 ) 14.8 0 % ( 出所 ) 中小企業白書 2014 24.5 29.4 577 62.5 1 0 年以上 20 年未満 39.9 19.8 100 % 100 % 2.3 13.6 3.2 16.3 20 年以上 も 41.7 % , 50 歳代では 22 % と過半数に満たな い状況であり , 事業承継の準備が進んでいな い経営者が相当の割合で存在していることが わかる。 それでは , 経営者は , 後継者の育成に要す るであろう期間の見込みをどの程度と考えて いるのか。企業規模にもよるが , 【図表 3 】 によれば , おおむね 3 年以上 10 年未満と考え る経営者が多いようである。これは , 後継者 が育つにはそれなりの年数がかかるというこ とであり , 事業承継の準備をより早期に取り 組むことの必要性を示している。 2 後継者の選定 後継者候補については , 親族内から選ぶケ ースが多いと思われるが , 親族外から選定す るという選択肢もある。親族でない従業員や 外部から招いた特定の人物を後継者とするよ ビジネス法務 2016.8 77
0 朝新 最新ガイドライン・判例をふまえた 機情報を守る人事労務管理 はじめに 技術上の情報 ( 製造技術 , 設計図等 ) や , 営業上の情報 ( 顧客情報 , 販売マニュアル 等 ) といった機密情報は , 企業の競争力の源 であり , 漏えいが起これば , 収益活動に重大 な影響が生じ , 社会の信用も失う。そのため 情報漏えい対策は重要な課題であるが , 従 来 , 情報へのアクセス制限や暗号化等の物理 的・技術的な管理措置が重視されてきた。 しかしながら , 近時のガイドラインや裁判 例の動向からすれば , 機密情報に不正競争防 止法による保護を受けるためには , 従業員が 秘密として認識しうる状況にあること ( 認識 可能性 ) が重要であり , それに直結した人事 労務管理上の措置を講じる必要がある。また 情報漏えいの多くは , 従業員によるものであ り , 抑止の観点からも , 人事労務管理上の措 置が必要である。すなわち企業には , 情報漏 えい行為を防止し , また法的保護を得るため の , 「企業の機密情報を守る人事労務管理」 が求められるのである。 そこで本稿では , 「営業秘密」に関するガ イドラインと裁判例の動向を俯瞰したうえで ( Ⅱ ) , 機密情報を守る人事労務管理の進め方 ( Ⅲ ) を解説する。 協和綜合法律事務所 弁護士白木裕一 弁護士林和宏 「営業秘密」に関するガイド ラインと裁判例の動向 1 「営業秘密」に該当するための要件とは ? 企業の機密情報が「営業秘密」 ( 不正競争防 止法 2 条 6 項 ) に該当する場合 , その使用行 為等が差止請求ゃ損害賠償請求の対象となり うる。 「営業秘密」に該当するには , ( i ) 秘密とし て管理されていること ( 秘密管理性 ) , ( ⅱ ) 有 用な情報であること ( 有用性 ) および (iii) 公然 と知られていないこと ( 非公知性 ) の 3 要件 を満たす必要がある。このうち議論が分かれ , 難題であるのは , 「 ( i ) 秘密管理性」である。 2 「秘密管理性」に関するガイドラインの 動向 経済産業省は , 平成 15 年 1 月に営業秘密管 理指針 ( 以下「管理指針」という ) を策定 し , 企業が講じるべき情報管理措置を示し た。管理指針は , その後 , 法改正や裁判例の 蓄積等に対応して 4 度改訂されたが , その中 で示されている管理措置には , 法的に保護さ れるために必要な水準を超えた , 最善措置と もいうべきものが含まれていた。そのため管 理指針に対しては , どこまでの措置を講じれ ば不正競争防止法上の「営業秘密」と認めら 102 ビジネス法務 2016.8
第三者割当による 海外企業買収時の留意点 矛一三ロ 実解 サウスゲイト法律事務所・外国法共同事業 弁護士飯谷武士 日本の上場会社が海外の企業を買収する場合 , 現金を対価とする株式譲渡を利用するこ とが多い。しかし , ごく少数ではあるが , 日本企業が自社の上場株式を対価として海外企 業の株式を取得する例もみられる。株式を対価とする海外企業の買収が可能であれば , そ の分の手元資金を既存の事業や将来に向けた研究開発等に集中させながら , 海外への事業 展開を図ることができる。本稿では , そのような買収手法の 1 っとして , 第三者割当を利 用する場合の法律上・実務上の留意点を紹介する。 いて , そのような手法を可能とする法制度が 株式を対価とする海外企業の 存在していなければならない。また , 外国法 買収手法 に基づく手続であることから , その調査・実 施のためのリーガルコストも生じる。馴染み 1 外国法に基づく手法 のない法制度に基づく手法を用いることに対 日本企業が自社の上場株式を対価として海 して抵抗を感じる向きもあるように思われる。 外企業を買収する手法としては , たとえば , 米国法に基づく逆三角合併がある。買主であ 2 日本法に基づく手法 る日本企業が米国に買収用の子会社を設立 日本法に基づく手法としては , 買主である し , その買収用子会社を消滅会社 , 買収対象 日本企業が第三者割当により新株発行 ( また 会社である米国企業を存続会社とする合併を は自己株式処分 ) を行い , その対価として , 対 行い , その対価として , 買収対象会社の株主 象会社である海外企業の株式を出資してもら に対して , 買主である日本企業の上場株式を う方法がある 2 。いわゆる現物出資である 3 交付する方法である 1 売主 ( 海外に居住する外国人・外国法人で しかし , 買収対象会社が設立された国にお 1 株式会社ディー・エヌ・エーによる米国 ngmoco コ nc. の買収 ( 株式会社ディー・エヌ・エーの 2010 年 IO 月 12 日付プレス リリース「米国 ngmoco 社の買収 , 第三者割当による新株式発行及び新株予約権発行に関するお知らせ」を参照 ) 。 2 株式会社そーせいによる英国 A 「 akis Limited の買収 ( 株式会社そーせいの 2005 年 7 月 1 9 日付プレスリリース「英国のアラ キス社の株式取得 ( 子会社化 ) のお知らせ」を参照 ) , 株式会社リプロセルによる英国 Biopta Limited の買収 ( 株式会社リプ ロセルの 2015 年 ] 1 月 24 日付プレスリリース「 Biopta Limited 社の株式取得 ( 完全子会社化 ) に係る契約の締結 , 及び第 三者割当による新株式発行に関するお知らせ」を参照 ) 。 127 ビジネス法務 2016.8