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1. ビジネス法務 2016年8月号

合でも , JASRAC などの著作権管理団体が被 災地支援のために使用料減免措置をとるケー スがあるので , 確認してみるとよいだろう。 最後に , 著作権が制限される場合において も , 著作者人格権は制限されないことに留意 する必要がある ( 法 50 条 ) 。また , 許諾を得ず に複製することが認められている場合におい ても , 許諾を得ない翻案は認められていない 場合が多い。たとえば , 引用する際には原文 をそのまま使うべきであり , また , 非営利の 公演としてチャリティーコンサート等を行う ことが可能な場合であっても , 権利者の許諾 を得ずに既存楽曲の歌詞を変えて被災地応援 ソングを作ったりすると , 著作権を侵害する ことになる。各権利制限規定の守備範囲につ いては , 正確に理解しておく必要がある。 【参考】権利制限条項 ・私的使用のための複製 ( 30 条 ) ・付随対象著作物の利用 ( 30 条の 2 ) ・検討の過程における利用 ( 30 条の 3 ) ・技術の開発又は実用化のための試験に用 いるための利用 ( 30 条の 4 ) ・図書館での複製・自動公衆送信 ( 31 条 ) ・引用 ( 32 条 1 項 ) ・公共の広報資料の転載 ( 32 条 2 項 ) ・教育目的の利用【教科書への掲載 ( 33 条 ) , 拡大教科書作成のための複製 ( 33 条の 2 ) , 学校教育番組の放送等 ( 34 条 ) , 学校におけ る複製等 ( 35 条 ) , 試験問題としての複製等 ( 36 条 ) 】 ・障害者の便宜のための利用【視覚障害者等 のための複製 ( 37 条 ) , 聴覚障害者等のため の複製 ( 37 条の 2 ) 】 ・非営利目的の演奏・上演 ( 38 条 ) ・時事問題に関する利用【時事問題の論説の 転載等 ( 39 条 ) , 政治上の演説などの利用 ◎ ビジネスシーンから考える著作権のキホン ( 40 条 ) , 時事事件の報道のための利用 ( 41 条 ) 】 ・裁判手続等における複製 ( 42 条 ) ・法に基づく利用【情報公開法による開示の ための利用 ( 42 条の 2 ) , 公文書管理法によ る保存のための利用 ( 42 条の 3 ) , 国立国会 図書館法によるインターネ、ソト資料の複製 ( 42 条の 4 ) 】 ・翻訳 , 翻案等による利用 ( 43 条 ) ・放送等のための一時的固定 ( 44 条 ) ・美術品に関する利用【美術の著作物等の所 有者による展示 ( 45 条 ) , 公開の美術の著作 物等の利用 ( 46 条 ) , 展覧会の小間子等への 掲載 ( 47 条 ) , インターネット・オークショ ン等の商品紹介用画像の掲載のための複製 ( 47 条の 2 ) 】 ・コンピュータの使用に関する利用【プロ グラムの所有者による複製等 ( 47 条の 3 ) , 機器の保守・修理のための一時的複製 ( 47 条ー の 4 ) , コンピュータにおける著作物利用に 伴う複製 ( 47 条の 8 ) 】 ・インターネットサービスに関する利用【送 信障害の防止等のための複製 ( 47 条の 5 ) , 情報検索サービスにおける複製 ( 47 条の 6 ) , 情報解析のための複製 ( 47 条の 7 ) , インタ ーネットサービスの準備に伴う記録媒体への 記録・翻案 ( 47 条の 9 ) 】 ・複製権の制限により作成された複製物の 譲渡 ( 47 条の 1 D 唐津真美 ( からつまみ ) 骨董通り法律事務所所属。早稲田大学法学部卒業 , 1996 年弁護士登録 , 99 年ハーバード大学ロースクー ル LL. M. 修了 , 2000 年ニューヨーク州弁護士登録。ア ート・メディア・エンターテイメント業界を中心に企 業法務全般を取り扱う。特に , 著作権等の知的財産権 に関する相談や紛争解決 , および国内・国際契約の作成・ 交渉に関する助言が多い。 ビジネス法務 2016.8 101

2. ビジネス法務 2016年8月号

連載進化する知的財産法務 A t o Z 第 7 回 権利の許諾 ◆許諾条項と法律上の規定 ◆ 日本法に準拠してライセンス契約の権利を 許諾する条項を作成する場合 , 実施 ( 特許法 77 条・ 78 条 , 実用新案法 18 条・ 19 条 , 意匠法 27 条・ 28 条 ) , 使用 ( 商標法 30 条・ 31 条 ) , 利用 ( 著作 権法 63 条 , 種苗法 25 条・ 26 条 , 半導体集積回路の 回路配置に関する法律 ( 以下「半導体集積回路法」 という ) 16 条・ 17 条 ) というように各法の用語 が相違することを意識して条項を定め , 実施 ( 特許法 2 条 3 項 , 実用新案法 2 条 3 項 , 意匠法 2 条 3 項 ) , 使用 ( 商標法 2 条 3 項 ) , 利用 ( 種苗 法 2 条 5 項 , 半導体集積回路法 2 条 3 項 ) に含ま れる行為 , または著作権法上の支分権に基づ く行為 ( 著作権法 21 条ないし 28 条 ) の一部に限 って許諾するのであれば , 法律上の規定に整 合するように許諾の範囲を定めることが必要 である。 ュアサハラ法律特許事務所 さらに , 著作権法以外では , 専用実施 ( 以 弁護士山口裕司 下では , 説明の便宜上 , 使用 , 利用を含め て , 単に「実施」と記載する ) 権と通常実施 権の区別があり , 設定行為による範囲の制限 ◆ライセンス戦略 がなされる余地はあるが , 専用実施権が物権 ◆ 的・排他的な権利であるのに対し , 通常実施 権は債権的で , 本来的には 2 つ以上の通常実 今日のハイテク製品には , きわめて多くの 施権の並存を許容する非排他的な権利である。 特許された技術が用いられており , その製品 しかし , 専用実施権は , 登録を効力発生要 に関わる技術を 1 社で独占して保有すること は実際上困難である。それゆえ , 競合他社を 件としていて ( 特許法 98 条 1 項 2 号 , 実用新案法 排除するための知的財産権の行使ばかりでな 18 条 3 項 , 意匠法 27 条 4 項 , 商標法 30 条 4 項 , 種苗 法 32 条 1 項 2 号。ただし , 半導体集積回路法 21 条 く , 他社に知的財産の利用を許諾するライセ ンスの交渉が重要となる。とりわけ競合他社 1 項 2 号は , 登録を対抗要件とする ) , ライセン ス契約を非公開としたい要請からも利用しに との間で相互に包括的に特許の実施を許諾す くく , 独占的ライセンスは , 一般に , 通常実 るクロスライセンスは広く行われており , 保 施権の許諾をほかに行わないことを特約する 有特許を活用する見地からも , 保有特許を積 独占的通常実施権の許諾によって行われる。 極的にライセンスすることに戦略的な意義が 許諾が独占的 (exclusive) か否かのほか ある ( マーシャル・フェルプス = デビット・クラ に , 取消可能 (revocable) か否か , 移転可 イン ( 加藤浩一郎監訳 ) 『マイクロソフトを変革し 月匕・譲渡可能 (transferable, assignable) か た知財戦略』 ( 発明協会 , 2010 ) 参昭 ) ビジネス法務 2016.8 137

3. ビジネス法務 2016年8月号

会社法 - 巻 3 、冫 一丁 酒巻俊雄・龍田節編集代表 上村達男・川村正幸・神田秀樹 編集 永井和之・前田雅弘・森田章 第①巻総則・設立ー ー会社法の沿革・会社法の性格・第 1 条 ~ 第 103 条 A5 判・ 560 頁定価 5 , 076 円 ( 税込 ) 第囘巻株式・ 1 第 2 回配本 ー第 104 条 ~ 第 187 条 A5 判・ 540 頁定価 5 , 076 円 ( 税込 ) 第 3 巻株式・ 2 / 新株予約権一 ー第 188 条 ~ 第 294 条 A5 判・ 508 頁定価 4 , 860 円 ( 税込 ) 第巻機関・ 1 第 3 回配本 ー第 295 条 ~ 第 373 条 A5 判・ 648 頁定価 5 , 400 円 ( 税込 ) 第 6 巻機関・ 2 ー 第 5 回配本 ー第 374 条 ~ 第 430 条 A5 判・ 464 頁定価 4 , 752 円 ( 税込 ) 第⑨巻外国会社・雑則・罰則ー ー第 817 条 ~ 第 979 条 A5 判・ 844 頁定価 7 , 992 円 ( 税込 ) 【続刊】 第 6 巻計算等・定款の変更・事業の譲渡等・解散・清算 第 7 巻持分会社・社債 第 8 巻組織変更・合併・会社分割・株式交換及び株式移転 補巻総索引・資料 中央経済社 や気社法・ ムバ社法 いへム社法、ー 会社法誂 会社法 第 4 回配本 第 6 回配本

4. ビジネス法務 2016年8月号

Law 論点 係が問題となり , 実践例をふまえこれを解明する。 で詐害行為に対処する同法 23 条の 2 が新設された。そこで既存の商号続用責任規制との関 及できるよう会社法 22 条 1 項があるが , 2 項の免責登記で逃れられるため , 平成 26 年改正 弁済を免れる行為に出ることがある。そのため , 譲渡人の債権者が事業譲受人に責任を追 企業が倒産に瀕したとき密かに第二会社に事業と商号を移転させ , 譲渡人の債権者への 弁護士山下眞弘 名古屋学院大学教授 どう解釈されるべきか ( 上 ) 商号続用責任規制 ( 会社法 2 は 目次 I 何が問題か 会社法 22 条 1 項の立法趣旨 Ⅱ 〔以下次号〕 Ⅲ最近の関連裁判例 Ⅳ商号続用基準か詐害性基準か V 詐害事業譲渡規制の新設と会社法 22 条 I 何が問題か A 社が Y 社に事業譲渡あるいは会社分割に より事業を移転した場合 , A 社の債権者 X は 事業承継会社である Y 社に対して , 自己の債 では債権者の過失の有無や善意・悪意を問わ 1 項 ( 商法 17 条 1 項も同じ ) が , 権を行使できるか。現行法では , 会社法 22 条 ず , 「商号続用」の有無だけで , 規定のうえ 「無限責任」 を追及できるとしている。そして , この規定 を会社分割にも類推適用するのが判例の立場 である ( 最三小判平 20.6.10 判時 2014 号 150 頁 ) 。さ らに , 平成 26 年会社法改正によって , 詐害的 な事業譲渡・会社分割の場面で , 悪意の Y 社 に対する「有限責任」の追及が認められた ( 会社法 23 条の 2 第 1 項 , 商法 18 条の 2 第 1 項 , 会 社法 759 条 4 項以下 , 同 761 条 4 項以下 , 同 764 条 4 項以下 , 同 766 条 4 項以下 ) 。このような法改正 が従来の議論にいかなる影響を及ばすか。 れについても , 検討課題が追加された。 なお , これに関連して , 譲渡人の「債務 者」が , 譲渡人の商号を続用した譲受人に対 し誤って弁済したらどうなるかも問題となる 会社法 22 条 4 項および商法 17 条 4 項が , が , 譲受人にした弁済は , 弁済者が「善意かっ無 重過失」である場合に限って効力を有すると 規定しており , これは理解できる。受領資格 のない者と知ったうえで , その者に弁済して 92 ビジネス法務 2016.8

5. ビジネス法務 2016年8月号

否か , 再許諾可能 (sublicensable) か否か , 全世界 (worldwide) に及ぶか , 国や地域を 限定するかも規定することが重要である。 通常実施権は , 平成 23 年改正前には , 登録 を対抗要件としていた。平成 23 年改正前にお いて , ライセンス契約実務上 , 通常実施権に ついて対抗要件としての登録を行うことも稀 であったが , 特許権等が譲渡された場合に 登録をしていなかった通常実施権者は譲受人 に通常実施権の存在を対抗できないし , 特許 権等の権利者が破産した場合に , 通常実施権 者は通常実施権につき「登録その他の第三者 に対抗することができる要件」を備えていな い限り ( 破産法 56 条 1 項 ) , 実施料を完済して いないライセンス契約を双方未履行の双務契 約として破産管財人に解除されるおそれがあ った ( 破産法 53 条 1 項・ 2 項 ) 。特許法 , 実用 新案法 , 意匠法は , 通常実施権について , 対 抗要件としての登録制度を廃止し , 通常実施 権の存在を立証することにより当然に対抗で きるようにする平成 23 年改正が行われたが ( 特許法 99 条 , 実用新案法 19 条 3 項 , 意匠法 28 条 3 項 ) , 対抗要件としての登録制度を維持して いる法律もある ( 商標法 31 条 4 項・ 5 項 , 種苗 法 32 条 3 項・ 5 項 , 半導体集積回路法 21 条 1 項 3 号・ 2 項 ) 。なお , 著作権法にライセンスの登 録制度はなく , 「許諾に係る著作物を利用す る権利」の登録制度が提案されたこともある が ( 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 「中間まとめ」 ( 平成 19 年 10 月 ) ) , 改正は見送ら れ , 著作権が譲渡された場合や著作権者が破 産した場合のライセンシーの保護は立法的に 解決されていない。 特許出願段階の発明もライセンスの対象と することが実務上行われるが , 平成 20 年改正 は , 特許を受ける権利に基づいて取得すべき 特許権について仮専用実施権の設定 ( 特許法 34 条の 2 ・ 34 条の 4 ) や仮通常実施権の許諾 ( 特許法 34 条の 3 ・ 34 条の 5 ) をできるようにし て , そのような実務に法的根拠を与えた。そ して , 平成 23 年改正は , 通常実施権の当然対 抗を認めることになった実用新案権と意匠権 にも , 仮通常実施権の規定を整備し , 同じく 当然対抗を認めることとした ( 実用新案法 4 条の 2 , 意匠法 5 条の 2 ) 。 なお , 法制審議会民法 ( 債権関係 ) 部会に おいて , 賃貸借に類似する契約としてライセ ンス契約に賃貸借の規定を準用する規定を民 法に設けることが検討されたが ( 「民法 ( 債権 関係 ) の改正に関する中間試案」 ( 平成 25 年 2 月 26 日 ) 第 38 の 15 ) , ライセンス契約に賃貸借の 規定を準用するのは必ずしも適当ではない面 があって , 反対意見が強く , 平成 27 年 3 月 31 日に第 189 回通常国会に提出された民法改 正案に , ライセンス契約に関する規定は盛り 込まれなかった。 ◆ライセンス契約のその他の条項 1 ロイヤルティの支払 ライセンス契約が有償である場合 , ライセ ンスの対価であるロイヤルティ ( 実施料 ) の 定め方が交渉のポイントになる。売上高や販 売数に応じて算出されるランニング・ロイヤ ルティは , ライセンスによってライセンシー が受ける利益からの配分という側面があり , ロイヤルティ支払の適正さをライセンサーが 監査できるように , ライセンシーがランニン グ・ロイヤルティを計算した報告書をライセ ンサーに提出することやライセンサーが工場 に立入検査に入ったり , 帳簿を閲覧したりで きることをあわせて定めることも行われる。 他方で , 開発費の回収や過去分の損害の清算 という観点から一定の額をまとめてロイヤル ティとして支払うことにもメリットがあり , ロイヤルティの全額を一括して支払うことを ランプサム・ペイメントといい , ランニン ◆ 138 ビジネス法務 2016.8

6. ビジネス法務 2016年8月号

もって説得することも考えられよう。 ( 3 ) 株主に対する通知・公告 取締役会で募集事項 ( 会社法 199 条 1 項各号 ) を決定した場合には , 払込期日 ( または払込 期間の初日 ) の 2 週間前までに , 株主に対し て募集事項を通知または公告しなければなら ない ( 会社法 201 条 2 項・ 3 項 ) 。ただし , 後述 の募集規制の適用がある場合には , 有価証券 届出書の提出が行われるため , 会社法に基づ く通知・公告は不要である ( 会社法 201 条 5 項 ) 。 払込期日等の 2 週間前までに臨時報告書等 が提出され , これにより募集事項が開示され る場合についても , 同様に , 会社法に基づく 通知・公告は不要となる ( 会社法施行規則 40 条 ) 。しかし , 有価証券届出書以外の開示 書類によって同条の要件を満たす場合は限定 的であろう。 2 金融商品取引法上の留意点 ( 1 ) 募集規制の適用の有無の確認 上場株式の新規発行を行う場合には , 原則 として , 金融商品取引法 ( 以下「金商法」と いう ) に基づく募集規制の対象となる。募集 規制の下では , 有価証券届出書の提出や目論 見書の作成・交付が必要となり , 有価証券届 出書の届出の効力が発生するまでの間 , 募集 株式を発行し , また , その引受けについての 確定的な合意を行うことはできないなど , 会 社法とは別個の制約が生ずる ( 金商法 4 条 1 項 , 15 条 1 項 ) 。 この点 , すべての売主が外国に所在する外 国人・外国法人であるような場合には , 売主 が日本に来て買主と交渉等を行うようなこと がない限り , 日本国内では有価証券の取得勧 誘が行われていないとの整理の下で , 日本の 金商法に基づく募集規制は適用されないとい うのが従来からの一般的な解釈であると思わ れる。募集規制が適用されない場合には , 有 第三者割当による海外企業買収時の留意点郞 価証券の募集が「本邦以外の地域において」 行われるものとして , 臨時報告書の提出をす れば足りることとなる ( 金商法 24 条の 5 第 4 項 , 企業内容等の開示に関する内閣府令 19 条 2 項 1 号・ 2 号 ) 。 有価証券届出書の提出の要否は , 買収のタ イムラインなどに大きく影響するため , 早期 の段階であらかじめ当局に照会し , 具体的な 事実関係を正確に説明して確認しておくこと が望ましいといえよう。 ( 2 ) 臨時報告書 前述のとおり , 有価証券届出書の提出が不 要である場合には , 買主 ( 日本の上場会社 ) においては , 第三者割当による募集株式の発 行について , 別途 , 臨時報告書の提出が必要 となる ( 金商法 24 条の 5 第 4 項 , 企業内容等の開 示に関する内閣府令 19 条 2 項 1 号・ 2 号 ) 。 また , 対象会社の買収によって子会社の異 動が生ずる場合には , それについても臨時報 告書の提出が必要となる場合があるため , あ らかじめ関連条項への該当性を確認しておく 必要がある ( 企業内容等の開示に関する内閣府 令 19 条 2 項 3 号・ 8 号の 2 , 同条 10 項 ) 。 ( 3 ) 大量保有報告書 第三者割当の結果 , 売主 ( 外国人・外国法 人 ) が買主 ( 日本の上場会社 ) の総議決権の 5 % 超に相当する株式を保有することとなる 場合には , 当該売主において , 大量保有報告 書の提出が必要となる ( 金商法 27 条の 23 第 1 項 ) 。売主において対応すべき事項ではある ものの , EDINET の利用には事前の ID 取得 等が必要となるため , 売主との協議の中での 確認事項の 1 っとすべきであろう。 ④インサイダー取引規制 株式譲渡による子会社の異動や第三者割当 による募集株式の発行は , 原則として , ビジネス法務 2016.8 イン 129

7. ビジネス法務 2016年8月号

わが社でもできる ! 贈賄防止プログラムの実践 公務員等に対する贈賄防止規程は別途定める 贈賄防止規程のサンプルと ことが多いように思われる。 ポイント なお , 民間企業の役職員に対する贈賄は , 贈賄防止規程の項目は会社ごとに異なる 英国法では贈収賄罪の , 日本法でも会社法 が , 一例として , 下記の項目案が考えられる。 967 条 ( 取締役等の贈収賄罪 ) の各処罰対象 であり , 日米英やその他の国を問わず背任罪 第 1 条 ( 目的 ) 等の共犯としても処罰されうることから , 特 第 2 条 ( 定義 ) に近時 , 贈賄防止規程に民間企業の役職員に 第 3 条 ( 禁止行為 ) 対する贈賄防止をも含めて規定するケースも 第 4 条 ( 接待・贈答 ) 増えてきているように思われる。 第 5 条 ( 招聘 ) また , 子会社や関連会社が贈賄を行った場 第 6 条 ( 寄附 ) 合 , 親会社が法的責任を問われたり , 親会社 第 7 条 ( 代理店等の起用 ) のレピュテーションが低下する可能性がある 第 8 条 ( 内部監査等 ) ため , 規程の適用対象を親会社だけでなくグ 以下では , 上記各項目案に沿って , 贈賄防 ループ会社全体に広げているケースも多い。 止規程を定める際の検討ポイントとサンプル もっとも , この場合 , 法的には , 親会社の社 条項を概観する。なお , 紙幅との関係で , サ 内規程がグループ会社の社員を当然に拘束す ンプル条項は , 適宜要約し , かっシンプルな るわけではないので , 各グループ会社の社内 ものとなっている点には留意されたい 1 規程において , 親会社の贈賄防止規程を準用 する定めを置く等の手当ては必要である。 1 目的 2 定義 第 1 条 ( 目的 ) 本規程は , 当社及び当社グループ会社に 第 2 条 ( 定義 ) 1 「贈賄」とは , 公務員等に対し , 営業上 おける贈賄防止に係る取組み体制や遵守す の不正の利益を得るために , ( i ) その職務 べきルールを取り決め , 贈賄を未然に防止 することを目的とする。 に関する行為をさせ又はさせないこと , ( ⅱ ) その地位を利用して他の公務員等にそ 上記サンプルでは , 規程の対象は明確では の職務に関する行為をさせ又はさせない ないが , 目的の箇所では , 規程の対象を , ① ようにあっせんをさせることを目的とし 日本の公務員やみなし公務員 , ②外国公務員 て , 金銭その他の利益を供与し , 又は供 等 , ③民間企業の役職員 , のどこまで広げる 与の申込み・約束をすることをいう。 かを検討することになる。 2 「公務員等」とは , 第 3 項及び第 4 項で 日本企業の場合 , 日本の公務員等について 定める国内公務員等及び外国公務員等を は国家公務員倫理規程などが詳細な行為規範 し、つ。 を設けており , その内容が必ずしも外国公務 3 「国内公務員等」とは , 以下の各号に定 員等には妥当しないことから , 日本の公務員 義される者をいう。 ( 略 ) やみなし公務員に対する贈賄防止規程と外国 1 外国公務員等に対する贈賄防止規程の詳細なサンプルについては , 木目田裕監修 , 西村あさひ法律事務所・危機管理グ丿レープ 編「危機管理法大全」 ( 商事法務 , 2016 ) 397 ~ 419 頁 [ 森本大介 , 河本貴大 ] に述べているため , そちらも参照されたい。 特集 27 ビジネス法務 2016.8

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司法取引導入で変わる 企業の不正発覚後の対応 長島・大野・常松法律事務所 弁護士垰尚義 弁護士坂尾佑平 平成 28 年 5 月 24 日に成立した「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」において創設され た「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」 ( 以下「合意制度」という 1 ) は , 日 本の刑事司法制度を転換する極めて重要な新制度であり , 企業法務への影響も大きい。 本稿では , 合意制度の内容を解説するとともに , 合意制度導入後の刑事手続への対応と して企業が特に留意すべき事項を論じる。 1 概要 合意制度は , 検察官と被疑者・被告人およ びその弁護人が協議し , 被疑者・被告人が他 人の刑事事件の捜査・訴追に協力すること で , 検察官が当該被疑者・被告人の事件につ き , 不起訴処分や求刑の引下げ等を行うこと を合意する制度である。 合意制度は , 米国の司法取引に準えて「日 本版司法取引」等と呼ばれることもあるが , 被疑者・被告人が他人の刑事事件の捜査・訴追 に協力したときのみ利用でき , 被疑者・被告 人が自己の犯罪に関して捜査に協力しても利 用できない点で , 米国の司法取引とは異なる。 合意制度の内容 2 合意制度の対象となる「特定犯罪」 合意制度の対象は , 「特定犯罪に係る他人 の刑事事件」と規定されており ( 刑事訴訟法 350 条の 2 第 1 項柱書 2 ) , 「特定犯罪」は , 同条 2 項各号に規定されている。 このうち , 企業法務において特に問題にな りうる犯罪としては , 贈賄罪 ( 刑法 198 条 ) , 詐欺罪 , 背任罪 , 横領罪等の財産犯 ( 同法 246 条から 250 条 , 252 条から 254 条 ) , 租税に関す る法律 , 私的独占の禁止及び公正取引の確保 に関する法律 ( 独占禁止法 ) , 金融商品取引 法の罪等があげられる。 3 被疑者・被告人による協力の態様 被疑者・被告人の協力の態様としては , 下 記の事項が規定されている ( 刑事訴訟法 350 条 の 2 第 1 項 1 号 ) 。 1 「司法取引」等と呼ばれることもあるが , 本稿では衆議院法務委員会等で用いられている表現に合わせて「合意制度」という 略称を用いる。 2 改正後の条文を記載している。以下同様である。 ビジネス法務 2016.8 53

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営んでいた「営業的活動」を譲受会社に受け 継がせ , ③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ 法律上当然に平成 17 年改正前商法 25 条 ( 商法 16 条 ) に定める「競業避止義務」を負う結果 を伴うものとしている ( 最大判昭 40.9.22 民集 19 巻 6 号 1600 頁 ) 。かっての多数説は , この最 高裁判例と基本的に同じ立場であり , 判例が 現実に , ②の営業的活動の承継と③の競業避 止義務の負担を要件としているものと理解す るのが , 学説の多数であったようにみえる。 これに対し近年では , 判例の趣旨を再評価 し , 判例は現実に②および③を要件とするも のではないと理解する学説が有力になりつつ ある。すなわち , 株主総会の承認決議の要否 は , 事業譲渡後の譲受会社の行動をみてから 判断されるものではない。したがって , 現実 に②③を問題とするのではなく , 客観的にみ て②③を伴うと判断できるような状況で , ① の「組織的財産」が譲渡されれば足りる。判 例はそのことを意味していると理解すること もでき , そうであれば , 判例を支持すること もできる。現在では , 私は判例をそのように 理解している。「有機的一体として機能する 組織的財産」を重視し , 「事実関係」を重視 すれば , 通常は営業的活動の承継がなされる 結果 , 個別の財産譲渡と異なり事業譲渡が成 立するには , 「商号」を伴うのが原則的とな るはずである。ただし , 「商号続用」は事業 譲渡の成立要件ではない。 なお , 会社分割については , 分割の対象は 権利義務で足り , 「事業性」を要しないとす る見解もあるが , それでは工場の中の機械 1 台でも会社分割の対象となる。事業譲渡と会 社分割の対象を区別する合理性は見当たら ず , いずれも事業を対象とすべきである。 Ⅱ会社法 22 条 1 項の立法趣旨 1 本条導入の経緯 平成 17 年商法改正 ( 会社法制定 ) による会 社法 22 条以下および商法 17 条以下ができる前 の旧商法 26 条 ~ 29 条 ( 昭和 13 年新設 ) は , 現 行の規定と内容に変わりがなく , ドイツ商法 25 条にならったものである 3 。ドイツ商法 25 条の規定を要約すれば , ①商号を続用する 譲受人は譲渡人の「すべての営業上の債務」 について原則として弁済の責任を負う旨定 め , ②商号の続用がない場合は , 譲受人が商 慣行的方法で債務引受けを公告した場合にか ぎり責任を負うと規定している。そして , ド イツで通説とされた「権利外観説」の前段階 では , 譲受人が商号の続用で旧債務を負う 「意思表明」をしたと解されていたが , それ が擬制的との批判を受けたため , 修正した結 果 , 権利外観説が判例でも採用され通説化し たという経緯がある。このような歴史的背景 のない日本に , ドイツ商法 25 条と同様の規定 が当初から「権利外観」と理解され導入され たわけである。このような事情で商号続用責 任規定の趣旨についても , わが国では外観理 論を根拠とするのが通説となった。 2 これまでの本条の趣旨説明 ( 1 ) 外観理論による説明 かっての通説は , 禁反言の法理あるいは外 観理論を根拠にしており , 判例も基本的には このような立場であった。要するに , 商号か 続用される場合は , 営業上の債権者は営業主 の交替を知りえず , 譲受人たる現営業主を自 己の債務者と考えるか , あるいは事業譲渡の 事実を知っていても , そのような場合は譲受 人による債務の引受けがあったものと考える 3 山下眞弘「会社営業譲渡の法理」 ( 信山社 , 1 997 ) 2 1 6 頁を参照されたい。なお . ドイツ立法状況の最近の整理として , 新 津和典「会社法 22 条の趣旨と 2 項の意義ーその起源であるドイツ法での立法理由から」銀行法務 2 1 ・ 752 号 22 頁がある。 94 ビジネス法務 2016.8

10. ビジネス法務 2016年8月号

められる程度の警察の保護を与えることが義 務づけられている。これにより , 投資財産に 対する物理的な暴力や迷惑行為によって投資 財産を害する行為に対し , 警察の保護が約束 されることとなる。 3 パフォーマンス要求の禁止 ( 9.10 条 ) パフォーマンス要求の禁止とは , 外国投資 家の投資および事業活動の条件として , 輸出 要求 , 現地調達要求 , 技術移転要求等をして はならない義務をいう。 WTO の貿易に関連する投資措置に関する 協定 (TRIMs) においても , 物品の貿易に 関連する投資措置として , 現地調達要求や輸 出入均衡要求などをすることは , 貿易歪曲的 な効果が強いことを理由に禁止されている。 TPP 協定では , TRIMs で合意されている事 項に加え , 技術移転要求やライセンス契約に おけるロイヤリティ規制 ( 特定のロイヤリテ ィ率の採用の義務づけ ) の禁止などが規定さ れており , 投資家・投資財産を保護し , 投資 の自由化を促進する内容となっている。 一方で , TPP 協定では , 投資家の投資財産 に関し , 利益の享受またはその継続のための 条件として , 自国の領域において生産拠点を 設けること , 労働者を訓練・雇用すること , 研究・開発を行うことなどを要求することは められており , 投資受入国が一定の投資誘 川い 因政策を行うことが可能となっている。 4 その他の条項 上記に加え , TPP 協定の投資章には , 収用 および補償 ( 9.8 条 ) , 投資に係る資金等の自 由な移転 ( 9.9 条 ) および企業の経営幹部等の 国籍要求の禁止 ( 経営幹部の国籍要求は禁止 されるが , 取締役会の構成員については過半 数の国籍または居住要求が認められている ) ( 9.11 条 ) などが定められている。 Ⅳ不適合措置の留保 ( 9 コ 2 条 ) TPP 協定は , 投資受入国の義務のうち , 内 国民待遇 ( 9.4 条 ) , 最恵国待遇 ( 9.5 条 ) , パフ ォーマンス要求の禁止 ( 9.10 条 ) および企業 の経営幹部等の国籍要件の禁止 ( 9.11 条 ) に 係る不適合措置につき , 例外として附属書に 列挙した措置を除き , すべての分野で義務を 負うことを定めている ( ネガテイプリスト方 式 ) 。この方式は , 適合しない措置が明確化 されるため , 法的安定性や予見可能性が高 い。投資章には , 附属書 I と附属書Ⅱが存在 し , 附属書 I が中央政府と地域政府の現在留 保 ( TPP 協定への適合性の水準を低下させな い義務を負う例外措置 ) を列挙し , 附属書Ⅱ が将来留保 ( TPP 協定への適合性の水準を低 下させる可能性のある例外措置 ) を列挙して いる。地方政府における現行の不適合措置 は , 投資章本文で包括的に留保 ( 現在留保 ) されている。 TPP 協定を活用する際には , 各 国の留保事項もあわせて検証する必要があ る。また , 投資仲裁において , 附属書の解釈 に争いがある場合 , 締約国は , 締約国で組成 する委員会の解釈を要請することができ , 委 員会の解釈が仲裁廷を拘束することとなる ( 9.26 条 ) 。 TPP 協定の附属書では , たとえば , ベトナ ムが TPP 協定発効後 5 年以内のコンビニ等 の進出に係る経済需要テストの廃止を合意す るなど , 他の締約国に進出する日系企業にと ってメリットが見込まれる。 V 旧 DS 条項 ( 9 章 B 節 ) 1 概要 TPP 協定の交渉期間中から , ISDS 条項に ついてはさまざまな議論が行われている。 120 ビジネス法務 2016.8