柿﨑報告へのコメント 松岡啓祐 ( 専修大学教授 ) ロ けるほうが日本よりはましに見えてくるから 動かしながらそれでも目標に向かって動き続 アメリカのようにごちやごちゃとモザイクを 方で日本の法の突破力の弱さを見ていると , ができないアメリカ特有の限界に見える。他 市場を論ずるしかないが , これは理論的整理 な伝統的な取引ルール・私法ルールによって メリカは詐欺や不法行為 , 受託者責任のよう 連邦会社法形成の手法に見えなくもない。ア メリカ法の限界を突破するための , 実質的な てこれは , 会社法ガバナンスは州権というア ガバナンスに介入するのも同類だろう。そし 使って , コンプライアンスやコーポレート・ ことは平気だから , 司法省の刑事規制権限を 欺法でインサイダー取引を規制するくらいの 法を使って証券会社規制を行い , 郵便通信詐 アメリカは , 組織暴力対策法である RICO 上村達男 ( 早稲田大学教授 ) 政上の関与との関係に関心がある。 社外役員や監査法人等の位置づけと SEC の行 制の充実は議論されているが , アメリカでの るべきなのか。わが国でも会社内部の監査体 な取扱い ( 担当官の情報交換等 ) が要請され られるように刑事手続と民事手続相互の柔軟 ラムの動向は参考となるが , Yates メモに見 い。アメリカでのコンプライアンス・プログ 関係をめぐる議論が深まっているとは言い難 計事件等の際における企業責任と個人責任の のだが , 翻ってわが国でも粉飾決算や不正会 業のコンプライアンス体制の実質化を図るも 官マニュアルと司法省次官メモの変遷は , 企 点が多い。柿﨑論文が焦点を当てる連邦検察 法の開示規制違反等の動きには , 注目すべき 業犯罪の訴追活動の活発化 , 特に連邦証券諸 近年におけるアメリカの規制当局による企 不思議だ。市場規制やガバナンス規制を正面 から論ずる際に , 弁護士の守秘義務を乗り越 えなければならないという壁の無意味さも感 ずるが , それを克服するプロセスが持っ教育 効果に意味があるようにも見える。日本の検 察の無謬性神話 ( 必ず勝っという法運用 ) と は大変な違いだ。柿﨑論文が紹介する企業犯 罪訴追時の考慮要素とは , 単なる当局への恭 順の姿勢 , 政策介入にも見える人事に関する 会社の措置 , その他の裁量行政等々であり , 他方で , 2015 年の司法次官によるメモは企業 不祥事と個人責任に関するもので , この両者 を合わせると法人と個人の責任関係という大 問題になるはずだが , 肝心なのはアメリカで は個人の民事責任額として数百億円というよ うな馬鹿げた金額が前提にはなっていないと 思われるため , 払えなければ企業が負担する のであるから , この問題は企業責任の話その ものでもあることに留意すべきだろう。 渡辺宏之 ( 早稲田大学教授 ) 米国における法人処罰論の近年の理論的根 拠として「 constructive corporate liability 」 なる概念が提唱されてきたようであるが ( 研 究会時の柿﨑教授の報告による ) , この constructive" という概念の英米法 ( 米国 法 ) 的含意に関心を有した。たとえば , 「 constructive trust ( 擬制信託 ) 」は信託 (trust) の成立を事後的に認定する際に用い られる英米法に特徴的な理論であるが , 柔軟 な法運用を行うためその要件を徹底的に精密 化することはあえて行われていないものと理 解される。米国の法人処罰論では , 代位責任 論の難点を克服するために「 constructive corporate liability 」論が提唱されてきたとの ことであるが , 法人処罰の要件に曖昧な部分 が残っているとすれば , constructive trust 同 様に , 要件にあえて未確定な部分を残すとい う理念が背景にありうるのではないだろうか。 136 ビジネス法務 2016.8
の中で重要なものは , 電子メールやデジタル ドキュメントについて , 保存のルールを定め て , 一定の期間が経過をした場合には完全に 消去してしまうというルールである。 HDD ( ハードディスクドライプ ) などの保存媒体 の単価が安くなってきているといったとして も , 企業活動に関連する情報を無尽蔵に , い つまでも保存していくということはあまり合 理性がない。通常の文書管理の仕組みに従っ て消去された場合 , そのデータが存在しない として提出ができなくても , e ディスカバリ ーの法的に問題を生じるわけではない ( いわ ゆるセーフハーバーである ) 。海外の企業に おいては , このルールを定めて厳格な運用が なされるのが一般である。もっとも , わが国 において , これをそのまま導入できるかとい うことについては , 2 つの問題がある。 1 つ は , わが国においては , 事案の解明のための 関連文書の保存が , 極めて長期間にわたって 求められているように思えることである。 の場合 , いままでの企業活動で , 一般に必要 とされるドキュメントを消去することをルー ルとして定めたとしても , 遵守されずに形骸 化するというリスクが生じる。これが第 2 の 問題となるが , 文書保存規定を有していたと してもそれに従っていなかった場合 , それを 有していないのと同様であるとして , このセ ーフハーバー規定の適用が否定されてしまう 可能性がある。これらの問題点を認識したう えで , 海外紛争に巻き込まれる可能性等など を考慮して , ドキュメント管理ポリシーの内 容を決め , 導入し , そのうえで遵守し , 実際 ( イ ) コンプライアンスプログラム に運用することが重要である。 めに , それを情報管理システムの中に実装し ムが求められ , そのプログラムを実現するた 対応しうるようなコンプライアンスプログラ 独占禁止法や腐敗防止法の要請に対しても デジタル証拠実務のための技術と法 ていくということが必要になる。 米国においては , 司法省におけるマニュア ル等によって , 特に企業による自発的な情報 開示や調査への協力 , 違反解消措置などの行 為を , 訴追要求や制裁措置の選択に際して , 判断の重要な要素とすることとしている。し たがって , 関連するドキュメントをただちに 特定し , レビューし , 分析し , 情報を開示・調 査に協力することが極めて重要なことになる。 ( ウ ) インシデント対応プログラム 情報漏えい事件などがあるのではないかと いう発見の契機を認識した場合に , 企業にお いては , 全社で一丸となって危機に対応する 緊急対応プログラムを発動させることになる。 その中で , とくに情報漏えい事案に対して のインシデント対応プログラムを準備してお くことは , 昨今 , 情報漏えい事件が , 新聞等 のメディアを大きく騒がしており , 世間の関 心も高いためきわめて重要である。情報漏え い事件については , 「事実確認と情報の一元 管理の原則」に従って , 事実関係を確認し , その事実関係をもとに種々の対応をなしてい くことが重要である。この事実関係について は , IT システムに関する種々のログや関係 者のメールなどが極めて重要な証拠となるの で , これらを緊急の場合において , 確実に確 保し , 分析できるように日頃から準備してお くことが重要になる。 高橋郁夫 ( たかはしいくお ) 駒澤綜合法律事務所所長・弁護士 , 株式会褪 T リサーチ・ アート代表取締役 , 宇都宮大学大学院工学部講師。情 報セキュリティ / 電子商取引の法律問題を専門として研 究する。法律と情報セキュリティに関する種々の報告 書に関与し , 多数の政府の委員会委員を務める。著書 に「テジタル証拠の法律実務 Q & A 」 ( 共著 , 日本加除 出版 , 201 5 ) , 「仮想通貨』 ( 共著 , 東洋経済新報社 , 2015 ) 。平成 24 年 3 月情報セキュリティ文化賞を受賞。 ビジネス法務 2016.8 113
「平成 25 年 11 月 13 日付調査報告書」 ( 以下「平 成 25 年報告書」という ) の存在である ( 委員会 報告書 20 頁以下 ) 。第三者委員会としては , OFS 社のコーポレートガバナンスを評価・検証 するうえで , どうしても根拠とせざるをえない 資料であるがゆえに公表に踏み切ったものと思 われる。平成 25 年調査報告書とは , 平成 24 年 11 月 , OFS 社が東証 1 部への自立上場を目指 していたころに , 同社の不適切取引再発防止に 向けた取組みとして , とりまとめられたもので ある。その調査結果は , 平成 25 年 11 月 13 日の 取締役会で報告された。しかし , 平成 25 年調査 報告書の原案文書は , 一部の取締役だけが保管 しており , 同日の取締役会でも他の取締役・監 査役に対してわずか 30 分だけ閲覧に供され , た だちに回収されたのである。同報告書の内容 が , このたびの委員会報告書によって公表され たことにより , 「ステークホルダーの皆様に安 心してほしい」との OFS 社のリリースとは裏 腹に , OFS 社の株価は急落し , リリース開示 翌日はストップ安となった。 3 反社チェックの結果をめぐる会社と世間 との認識の差 委員会報告書のリリースと同時に , OFS 社 が過去に不適切取引によって A 氏らに 200 億円 以上の会社資金を流出させて , そのうち約 170 億円が未回収になっていることがマスコミ によって大きく報じられるところとなった。そ して OFS 社も世間の誤解を解くために , 未回 収分については平成 14 年 3 月期において会計 上の処理が済んでいることを開示した 4 OFS 社としては , 委員会報告書が「反社会 的勢力との存在は確認されなかった」と結論づ けたことから , 世間的には同社ガバナンスへの 評価が上がることを期待していたものと思われ る。しかしながら , 平成 25 年調査報告書の内容 が明るみになったことにより , 経営陣の期待と は裏腹に , 同社が反社会的勢力との関係をいま だ維持しているのではないか , との疑惑を世間 に抱かせることになった。 委員会報告書には , ( 企業不祥事発生時に設 置されたものではないため , 日弁連第三者委員 会ガイドラインに準拠したものとはいえない が ) 同ガイドラインの趣旨を尊重したうえで調 査にあたることが明記されている。つまり , の報告書は OFS 社のステークホルダーに対し て説明責任を尽くすことを目的として作成され ている。会社側からの諮問事項は , OFS 社 ( お よびその役員 ) と反社会的勢力との関わりの有 無を明らかにすることだが , 委員会は会社側か ら調査依頼を受けた事実だけでなく , その類似 事実の存否についても調査をすることがステー クホルダーへの説明責任を尽くすためには必要 である ( つまり委員会自身が調査範囲を広げた ものと考えられる ) 。また , 調査範囲を広げた 理由にも合理性がある。なぜならステークホル ダーが知りたい事項には , OFS 社が反社会的 勢力との関係を有しているかどうか , というこ とだけでなく , 反社会的勢力と「噂されてい る」人物や法人との関係の有無も含まれるから である。 一般的な認識として , 取引の相手方が反社会 的勢力だと断定できるほどに調査を進めること が困難なことは理解できる ( そのような調査を 進めること自体 , プライバシー侵害や法人の信 用毀損につながるおそれがある ) 。むしろ , 反 社会的勢力と断定はできないが , その疑惑があ ることが合理的な事実から判明する以上 , その 「噂」や「疑惑」の根拠となる事実にこそ , 世 間の関心は集まるであろう。企業の社会的信用 に影響を及ばす事項には , 企業と関わりを有す る者 ( 法人を含む ) が反社会的勢力と断定でき る場合だけでなく , 合理的な根拠から「反社会 的勢力と噂される者」「疑惑を抱かれる者」と の関係性も含むことは , すでに近時の裁判例に おいても指摘されている 5 そこで , 第三者委員会としては「関係の存在 4 平成 28 年 3 月 30 日 OFS 社リリース「一部報道について」 http://contents.xj-sto 「 age.jp/xcontents/AS00845/9 edd25db/ 1 e70 / 4039 / a21 a/680be247f04b/140120160330446373. pdf 72 ビジネス法務 2016.8
王将フードサービス第三者委員会報告書の意義創 OFS 社のガバナンス評価・検証のた 朝反社会的勢力排除体制について ーめに委員会がフォーカスした事実 1 委員会自身による反社チェックの結果の 当初 , OFS 社から第三者委員会が諮問を受 けた事項は① OFS 社のコーポレートガバナン 開示 ス体制 ( 反社会的勢力に対する防止体制を含 当該委員会報告書では , 諮問事項に沿って む ) 全般の評価 , ② OFS 社が反社会的勢力と関 OFS 社と反社会的勢力との関係の有無を独自 係があるか否かの調査 , ③ OFS 社がステーク に調査したことが示されている ( 同報告書 51 ~ ホルダーから信頼を得るための積極的な提言で 64 頁参照 ) 。第三者委員会は , 反社チェック等 あった。このうち , 第三者委員会が最も力点を の調査会社を活用して詳細な調査を行っている 置いている諮問事項はコーポレートガバナンス が , その調査過程が委員会報告書で記されてお り , 有事対応として他社においても参考になる 体制の評価・検証であり , その評価のための前 提事項として反社会的勢力排除体制 ( 内部統制 であろう ( これまで , このような反社デューデ システム ) の現状評価および②に記載されてい リジェンスの内容が公開されることはあまりな かったものと思われる ) 。具体的には , 役職員 る「反社会的勢力との関係の有無」という事実 17 名の人的チェック , 取引先データ調査 , 電子 調査であったと思われる。 しかし , 第三者委員会が関係事実を調査して メールデータ分析 , 会計データ調査 , 社員アン いる中で , どうしても OFS 社のコーポレート ケート調査 , ホットライン調査により , 「 OFS と反社会的勢力との関係の存在は確認されなか ガバナンス評価・検証にとって不可欠な課題が 浮かび上がる。それは , 創業家と OFS 社との った」との結論に至っている ( 委員会報告書 関係改善 ( 不当な経営干渉の排除 ) である。社 65 頁 ) 。 外取締役の活用問題や取締役会改革の問題等 , この委員会の結論により , OFS 社は「第三 者委員会の調査報告書をご覧いただきましたと 最近はコーポレートガバナンス改革に関連する 話題が多く , また経営陣の交代を報じるマスコ おり , 当社が反社会的勢力との関係がないとい ミ記事では , 一定数の株式を保有した創業家大 うことは十分ご理解いただけたものと存じま す。これにより , 投資家様 , お客様 , お取引先 株主の支配力がコーポレートガバナンスを骨抜 きにしているのではないか , といった意見も寄 様 , 従業員その他のステークホルダーの皆様 せられているところである。創業家の大株主と に , 安心して当社とお付き合い頂くことができ るものと確信しております」と開示している 3 しての支配力が経営陣の業務執行に過度の影響 を及ばすことになれば , 取締役会の経営執行者 2 平成 25 年調査報告書の存在 に対する監督機能はまったく発揮できない状況 しかし , 委員会報告書は結論こそ「関係の存 となり , ひいては創業家以外の少数株主の利益 在は確認されなかった」としているが , 委員会 を不当に阻害するおそれがある。したがって , は OFS 社と反社会的勢力との取引について疑 創業家による経営介入の事実が疑われる OFS 念を抱かせる根拠となる事実を指摘した。それ 社としても , そのコーポレートガバナンスの評 は創業家社長の時代から続いてきた A 氏および 価・検証にあたっては , 過去から現時点までの A 氏が関係する B グループ ( 以下「 A 氏ら」と 創業家と OFS 社との関係 ( 影響力の変遷 ) に いう ) との不適切取引の経緯である。さらに ついて詳細に事実認定を行っている。 これまで外部には一切公表されていなかった 3 平成 28 年 3 月 29 日 OFS 社リリース「第三者委員会の調査報告書を受けて」 http: 〃 contents. x ト sto 「 age.jp/xcontents/ AS00845/e4cf993b/81 1 8 / 4f1 5 / b257 / 5fOOaaa277e7 / 140120160329445287. pdf 71 ビジネス法務 2016.8
1 概要 インドネシアでは , 従来から公務員が関与 する贈収賄行為がしばしば行われてきてお り , インドネシア政府も近年さまざまな方法 で事態の改善に努めているものの , 現在にお いても , 外国企業がインドネシアにおいて事 業を行ううえで直面することの多い問題の 1 つである。近年では , 日系企業が労働裁判に 関連して自社に有利な判決を得るために , 裁 判官に対して贈賄をしたと認定され , 現地法 人の日本人代表者に対して実刑判決が下され た実例もある。 2 公務員等に対する贈収賄規制 ( 1 ) 贈賄罪の成立要件 公務員が関与する贈収賄行為の成立要件お よび処罰に関する規定は , 1999 年第 31 号汚職 撲滅法 ( 以下「汚職撲滅法」といい , 本稿Ⅱ において条文の適示の際には「法」という ) に定められている。 汚職撲滅法は , ①公務員に対し , その義務 に反してその職務に関連する特定の作為また は不作為をさせる目的をもって , 物を提供す ることまたは提供を申し出ること , および , ② 公務員に対し , その職務に基づいてなされた か否かを問わず , その義務に反する行為に関連 して , 物を提供することを禁止する ( 法 5 条 ) 。 公務員の範囲には , 国営企業の職員も含ま れる。また , 汚職撲滅法上 , 公務員の職務に 関連して提供された利益は , 賄賂とみなさ れ , 金銭 , 物 , 値引き , 謝礼 , 無利子貸付け , 旅 行券 , 宿泊 , 旅行 , 無償での医療その他の便宜 が含まれる ( 法 12B 条注釈 ) 。汚職撲滅法上 , 賄 賂に該当しないための金額基準は存在しない が , 各省庁には , 冠婚葬祭等における 100 万 ルピア以下の贈答は社会的儀礼としての贈答 Ⅱインドネシア 品の受領として許容されるという内規が存在 する。もっとも , 当該公務員には , 汚職撲滅 委員会 (KPK) への報告が義務づけられて いるため , このような報告が望めない場合に は , 保守的な対応を行うのが望ましい。 ( 2 ) 罰則 汚職撲滅法が定める公務員贈賄罪の罰則 は , 【図表 3 】のとおりである。法人の代表 者または従業員等が , 当該法人の業務として 違反行為を行った場合 , 当該法人および / ま たはその取締役も処罰の対象となりうる ( 法 20 条 ) 。実務上 , 法人が起訴される案件はま れであり , 取締役等の個人が贈賄につき起訴 される案件が大多数を占める。 【図表 3 】公務員等に対する贈賄の罰則 贈賄 者 個人 法人 行為類型 職務に反する行為を 行わせる目的でまた は職務に反する行為 に関連して贈賄が行 われた場合 職務権限を濫用させ る目的で利益や支払 が提供された場合 上記同様 刑事罰 1 年以上 5 年以下 の禁固および / また は 5 , 000 万ルピア * 以上 2 億 5 , 000 万 ルピア以下の罰金 3 年以下の禁固お よび / または 1 億 5 , 000 万ルピア以 下の罰金 罰金のみ。ただし , 最大額は個人の罰金 額の 3 分の 1 増し * 1 ルピア = 0. 開 8 円 ( 2016 年 6 月 1 日現在 ) ( 3 ) 第三者を通じた贈賄行為に係る責任 第三者を通じた贈賄行為については , 汚職 撲滅法上明記はされていないが , 本人の利益 のために本人と労使関係またはその他の関係 を有する者 ( 工ージェント , コンサルタント 等 ) が単独でまたは共同して違反行為を行っ た場合には , 本人は第三者が行った違反行為 につき責任を負うことになりうる ( 法 20 条 2 項参照 ) 。実務としても , 第三者を通じた贈 賄行為は多く摘発されている。 20 ビジネス法務 2016.8
0 朝新 0 い ガバナンスの観点から読み解く 王将フードサービス第三者委員会 報告書の意義 弁護士山口利昭 山口利昭法律事務所 めには , 各社各様のガバナンスの現状分析が十分になされることが前提であろう。 ユニークな試みがなされているが , ステークホルダーに対して説得力のある意見を述べるた 的とした第三者委員会報告書が公表された。その検証にあたり , 委員会による調査において 部上場の王将フードサービス社において , コーポレートガバナンスの分析・検証を主たる目 コーポレートガバナンス改革が進み , 実効性の検証が「形から実質」へと進む中 , 東証 1 ガバナンス評価・検証を目的と した第三者委員会報告書 平成 28 年 3 月 29 日 , 株式会社王将フードサ ービス ( 以下「 OFS 社」という ) は , 同日付 「コーポレートガバナンスの評価・検証のため の第三者委員会報告書 ( 公表版 ) 」 ( 以下「委員 会報告書」という ) を開示した 1 そもそも OFS 社が第三者委員会設置に及ん だのは , 平成 27 年 12 月 13 日 , 同社の前社長で ある D 氏の射殺事件に関連して , 九州に拠点を 置く暴力団組員が関与している可能性があるこ とが一部マスコミで報じられたことへの対応を 迫られたからである 2 。同社は , いわゆる反社 会的勢力と OFS 社との関係調査 ( 反社会的勢 カデューデリジェンス ) を含め , 同社における コーポレートガバナンスの評価・検証を外部有 識者に委ね , その結果をステークホルダーに示 すことを目的として第三者委員会を設置した。 一般的に , 上場会社において企業不祥事が発 覚した場合 , 事実関係を明らかにするために公 正中立な第三者による調査に委ねるケースが多 い ( 日本取引所自主規制法人「上場会社におけ る不祥事対応のプリンシプル」参照 ) 。しかし , 当該第三者委員会は , OFS 社において企業不 祥事が発生したことが発端で設置されたわけで はなく , 現状のコーポレートガバナンスの評 価・検証に焦点をあてた点に特色があり , ユニ ークな委員会報告書を作成している。本稿は , この報告書を分析するとともに , コーポレート ガバナンスの評価・検証のあり方について考察 する。 1 平成 28 年 3 月 29 日 OFS 社リリース「第三者委員会調査報告書受領に関するお知らせ」 http://contents.xj-sto 「 age. jp/ xcontents/AS00845/a8e7b956/8c 1 8 / 46e 1 / 9463 / 5b1 568e19773 / 140120160329445276. pdf 2 平成 27 年 1 2 月 ] 3 日付読売新聞朝刊記事等。 70 ビジネス法務 2016.8
田副ロ「株主総会プロセス電子化報告書」が実務に与える影響 【図表 2 】株主総会関連日程の適切な設定に向けた課題・疑問の整理 課題・疑問 ①投資家にとってのわかりやすさ 投資家には「決算日 = 基準日」 という実務慣行が浸透しており , これを変更するとわかりづらい のではないか ②株主確定コストの増加 : 株主を確定するための総株主通 知を決算日と議決権基準日の 2 度受けるとするとコストが増加 するし , 配当基準日を別に定め る場合はそのコストも必要とな る ③取締役人事の遅れ . 現在よりも総会時期を遅らせる と , 役員体制を新年度から刷新 したい会社において非取締役を 経営陣に加えるまでの期間が長 期化し , 経営者の速やかな変更 に向かない ④配当・税務関係のスケジュール の遅れ . 剰余金配当について総会決議を 要する会社では , 配当支払時期 が遅くなる ⑤第 1 四半期決算との時期の重複 総会と四半期決算の取方の対応 は困難ではないか , また , 総会 前に第 1 四半期決算が公表され る場合 , 決算情報をどの程度説 明すべきか 考え方 〇海外では決算日と基準日は異なる ことが一般的であり , 特段の問題 は生じていない 〇特に個人株主には , 「決算日 = 基準 日」のほうが混乱は少ない 〇関係者においても必要な対応の整 理 , 基準日を変更した場合の円滑 な周知等が肝要 〇金融審議会「ティスクロージャー ワーキング・グループ報告」では , 有価証券報告書および事業報告の 大株主の状況等の記載時点を現行 の決算日から議決権基準日に変更 するという見直しの方向性 〇議案検討期間の拡大というメリッ トのほうが大きい 〇コストは企業ごとに異なるため , 各社で判断するのが適切 〇関係者で料金体系の見直しも検討 すべき 〇海外では一般的であり , 不都合は 感じない 〇経営体制の変更のタイミングは各 社で判断すべき 〇取締役 ( 特に新任取締役 ) の選任 会社のマネジメ が遅れることは , ントの遅れに繋がる 〇一定の条件はあるものの , 総会日 から配当金支払開始日の期間が遅 れることにはならないとの報告あ り 〇長期投資家にとって , 配当の支払 に多少の遅れが生ずる程度であれ ば影響は限定的 〇剰余金配当を取締役会決議によっ て行うことも検討すべきだが , 機 関投資家には否定的な見解もあり , 基準日変更とセットで理解を得る 必要あり 〇海外では対応できており , 時期が 重複しても管理できる範囲ではな いか 〇たとえば , 米国では第 1 四半期決 算について報告している例あり 備考 〇基準日を変更した場合 速やかに証券保管振替機 構に通知する必要あり 〇議決権電子行使プラット フォーム利用会社では , 6 月総会に際し議決権行使 が可能になるまで議決権 基準日から 6 週間程度を 要する ( 総会日まで最低 8 週間確保する必要あり ) 〇一般に , 株主の確定に際 しては , 証券保管振替機 構と株主名簿管理人への 手数料が発生する 〇有価証券報告書における 大株主の状況については 企業内容等の開示に関す る内閣府令第 3 号様式・ 記載上の注意 ( 25 ) a, 事 業報告における上位 10 名 の株主については会社法 施行規則 122 条 1 号参照 〇定款変更を行い , 執行役 員を社長とする実例 ( 三 井物産の例 ) に関する報 告あり 〇上場会社の法人税法上の 確定申告期限は決算日か ら 3 カ月以内であるが , 実務上は総会日程への制 ( 出所 ) 報告書 77 ~ 83 頁 , 86 ~ 87 頁を元に筆者作成 約とはならない ビジネス法務 2016.8 69
田副ロ「株主総会プロセス電子化報告書」が実務に与える影響 シート ) を国内機関投資家が管理信託銀行に より , 利用に当たっての契約・協定関係や申 送信することになり , 総会前日まで行使が可 込み手続等のあり方について検討が開始され 能という議案検討期間の拡大というメリット ることが期待されている。 を十分享受できていない。この点について , 日本国内において ICJ と他のプラットフォー おわリに ムとの技術的な連携自体には大きな障害はな いようであるが , システム連携にあたって名 報告書で PF 利用の利点と課題が改めて整 義株主である管理信託銀行や委託者であるア 理された。 2016 年 6 月 2 日に策定 , 公表され セットオーナーの同意が必要ではないかとい た「日本再興戦略 2016 ー第 4 次産業革命に向 った指摘もされており , 課題の解決に向け けて一」において , 「株主総会における議決 て , ICJ と ISS 間で議論が開始されているとの 権行使プロセス全体の電子化については , 株 ことである。 主の議案検討と対話の期間を確保することで なお , 海外から日本株について議決権を行 権利行使の質を高めるべく , ①議決権行使プ 使する場合 , ICJ のシステムと ISS や Glass ロセスのワンストップ化や , ②議決権の電子 Lewis 等の電子プラットフォームのシステム 行使に関するプラットフォーム同士の連携 , が連携されているためこのような問題はない。 ③当該プラットフォームの適正かっ円滑な利 用手続の在り方等について , 関係者や関係団 3 国内機関投資家による PF の利用手続 体等に検討することを促した上で , 年度内に 国内機関投資家が PF を利用する場合 , ICJ と機関投資家 ( アセットマネージャー ) 間の その検討状況等を確認するための会合を開催 する」旨が記載された ( 147 頁 ) 。電子行使の 利用規約だけでなく , 管理信託銀行と ICJ と 普及に向けて , 研究会の議論や報告書をふま の間のサービス提供契約 , 機関投資家と管理 え , 関係者間において課題の解決に向けた具 信託銀行間の協定書等 , さまざまな契約・協 体的な動きが始まることと考えられる。 定書等が締結される。そして , アセットマネ ージャーとアセットオーナーとの間の投資一 任契約において , 第三者 (ICJ) を経由した 議決権行使の指図に関する取決めが明記され ていないことが一般であるため , PF の利用 にあたり , 実務上アセットオーナーからの事 前同意が得られており , 名義株主である管理 信託銀行は当該同意が取得されたことを確認 する必要がある。 これに対しては , このような同意取得の手 続が煩雑であるとの指摘がある一方 , アセッ トオーナーの同意は不要であるとの指摘や , アセットマネージャーからの要請があれば基 本的にはアセットオーナーは PF の利用に同 意するはずではないかとの指摘もある。 PF の利用を促進するため , 関係者・関係団体に 森田多恵子 ( もりたたえこ ) 2003 年京都大学法学部卒業 , 04 年弁護士登録。 1 0 年 ペンシルバニア大学ロースクール卒業 (LL. M. )。 1 1 年 ニューヨーク州弁護士登録。い年 ~ 1 3 年三菱商事法 務部出向。著書に , 「「グローバルな機関投資家等の株 主総会への出席に関するガイドライン」の解説」商事 法務 2088 号 ( 共著 ) , 「裁判例にみる企業集団におけ る内部統制」商事法務 2092 号 , 「エンプティ・ボーテ イング」証券アナリストジャーナル 2014 年 1 1 月号 ( 共 著 ) 等。 65 ビジネス法務 2016.8
サイダー取引規制上の重要事実に該当する ( 金商法 166 条 2 項 1 号イ・ヨ , 金商法施行令 28 条 2 号 ) 。したがって , 当該買収案件が公表さ れるまでの間 , 会社関係者等が買主の株式 ( 上場株式 ) を売買することは禁止される。 売主が外国人・外国法人である場合には , 日本のインサイダー取引規制についての意識 が十分ではない可能性もある。自社の取引に 絡むインサイダー取引規制違反の事件が起き ること自体が望ましいことではなく , 適宜買 主からも注意喚起を行うなどの配慮が必要と 思われる。 なお , 上場会社である買主に対しては , 案 件公表後に , 日本取引所自主規制法人から , 「会社情報の公表に至る経緯に関する報告書」 の提出要請がなされることがある。いつ誰が 重要事実に接したかの詳細な情報が報告さ れ , インサイダー取引規制違反の調査の端緒 となる。この点を関係者に伝えておくこと も , インサイダー取引の未然防止に資するも のと思われる。 3 証券取引所の規則上の留意点 ( 1 ) 適時開示 ( タイムリー・ティスクロージ 子会社の異動を伴う株式取得や募集株式の 発行については , 証券取引所の適時開示規則 に基づき , 情報開示を行う必要がある。 子会社の異動を伴う株式取得および第三者 割当のいずれについても , 売主および対象会 社に関する一定の情報をプレスリリースに記 載する必要がある。そのため , 証券取引所と の事前相談を開始する時点でプレスリリース に必要事項をすべて記載しておけるように あらかじめ適時開示の必要性を外国人・外国 法人である売主らに説明のうえ , 早めに必要 情報を入手しておくべきであろう。 ( 2 ) 証券取引所への提出書類 第三者割当については , 証券取引所の規則 により , 一定の書類を証券取引所に提出する 必要がある ( 東京証券取引所上場部編『会社情 報適時開示ガイドブック ( 2015 年 6 月版 ) 』 ( 東京 証券取引所 , 2015 ) 739 ~ 740 頁を参照 ) 。売主と の関係では , 「譲渡報告に関する確約書」の 写しの提出が必要であることを説明し , 適宜 英訳を付した様式を作成して提供するなどし て , 内容についての理解を得たうえで , 署名 してもらう必要がある。 また , 「割当先が反社会的勢力と関係がな いことを示す確認書」を提出する関係で , 買 主 ( 上場会社 ) において , 確認書の提出のた めの調査を行う必要がある。割当先となる売 主が外国人・外国法人である場合には , 買主 みずから十分な調査を行うことが難しい場合 もあるものと思われる。海外対応も可能な調 査会社を起用するなど , この点の対処方法も 早期に検討すべきであろう。 ( 3 ) 企業行動規範 上場会社が第三者割当を行う場合で , 希薄 化率が 25 % 以上となるときまたは支配株主が 異動することになるときは , 原則として , 第 三者委員会 , 社外取締役や社外監査役による 第三者割当の必要性および相当性に関する意 見書の取得か , 株主総会決議等による株主の 意思確認が必要となる ( 東京証券取引所有価証 券上場規程 432 条 ) 。 新規発行株式数が発行済株式総数の 10 % 以 内となる場合には , この規制への対応が必要 となる場面は想定しづらいように思われる。 朝実務上の留意点 1 買収契約のストラクチャーとタイムライン 買収契約については , 通常の株式譲渡契約 130 ビジネス法務 2016.8
わが社でもできる ! 贈賄防止プログラムの実践 ぜそのエージェントを利用するのか」「その トの経歴・特徴から , 誠実さを評価しておく わけだ。具体的な評価項目としては , 次のよ ェージェントは反腐敗ポリシーを遵守できる うなものが考えられよう。 のか」などについて , 合理的な説明を求め た。この時点で , 高リスク・エージェントの ⅵ 当該工ージェントに関して , 贈収賄の 数は約 5 , 000 となっている。 噂はないか 第 6 は , 高リスク・エージェントの再調査 当該工ージェントは , 贈収賄問題でマ を実施することである。リスクが高いエージ スコミに取り上げられたことはないか ェントについては , そのリスクが許容できる 当該工ージェントは , 汚職の嫌疑をか 範囲に収まるのか , コントロール可能なのか けられたことはないか まで確認する必要がある。そのために , より ⅵ 当該工ージェントは , 汚職につき , 有 詳細な確認項目を設け , 再調査を実施し , そ 罪判決を受けたことはないか の結果をデータベースに登録しておく。ちな 当該工ージェントを , 業界関係者は取 みに , タイコでは , 高リスク・エージェント 引先・信用先として扱っているか の再調査費用を , 各事業部に負担させること 当該工ージェントには , 政府関係者が とした。その結果 , スポンサーは , 多くの高 天下っていないか リスク・エージェントとの契約を解消してい 当該工ージェントは , 支払先として個 き , その数は 1 , 750 にまで圧縮された 5 人名義の口座を使っていないか 第 2 の視点は「業務遂行能力」である。業 工ージェント格付における 務遂行能力のないエージェントは , 贈収賄の 主な評価項目 仲介者としての役割が期待される可能性が高 い。そこで , 工ージェントの役割を明確にす 工ージェント・ DD の仕組みを持たない会 るために , 彼らの能力や実績を確認しておく 社にあっては , まず , 以上のような 6 つのス 必要がある。評価項目としては , 次のような テップを踏んで大枠を作る必要がある。大枠 ものが想定されよう。 ができたら , 後は日常的・定期的にエージェ ントを格付・評価していけばよい。すでに上 契約を履行するだけの専門性を持って 記第 5 および第 6 ステップとして , 工ージェ いるか ントの格付・評価・再調査に触れたが , そこ 契約を履行するだけのスタッフを抱え では , 具体的な手続内容にまで踏み込んで説 ているか 明はしなかった。そこで , 次に , 各社におけ 過去の実績を持っているか る実践を促すため , 格付・評価のための 3 つ 過去の成果に関し過大な説明をしてい の視点を提示するとともに , 具体的な評価項 ないか 目を例示しておきたい 6 ⅵ 過去の成果に関し虚偽の説明をしてい 第 1 の視点は , 工ージェントの「誠実さ」 ないか である。ここでは , 工ージェントが不正に関 政府関係者との密接な関係ばかりを強 与する可能性を把握するために , 工ージェン 調していないか 5 K 「 oll, K. Op. cit., pp. 54-55. この時点で , タイコは 3 万 2 , OOO のエージェントの約 95 % を , 中・低リスクのエージェント としている。 6 髙巖「外国公務員贈賄防止に係わる内部統制ガイダンス」 (R-BECO 1 3 ) 麗澤大学企業倫理研究センター , 2014 年 3 月 , 160 頁。 特集 35 ビジネス法務 2016.8