開業のための手続き えなくてはならない。また、店舗の敷金は立地がよいほど高額になる 賃貸関係の費用は固定的な出費のため、絶対に無理のない額以下に抑 そうなところであるほど、高い賃料設定になっているが、月々支払う る計画の範囲内で収まっているかである。店舗であれば来客が見込め とによって支払い続けるコストの月額合計が、自分自身で想定してい 支払う賃料・共益費・その他冷暖房や駐車場等、その貸室を借りるこ 当初賃借するに際して必要となる敷金・礼金等と、賃貸期間中ずっと その次に考えなくてはならないのが、賃借に掛かるコストである。 る。 でき、利便性も向上するので、立地としてはよりよいということにな 鉄道が 2 線以上交わる駅の方が、より顧客ターゲットを広げることが 人の所在地に一番行きやすい場所である。店舗であれ事務所であれ、 たところから選ぶことになる。法人を顧客とするなら、顧客である法 決まってくる。その地域で一番人通りの多い場所や、駅前を中心とし 〇〇市、〇〇区というように行政区分を中心に絞り込むかで、立地が である。工ンド顧客であれば、〇〇線沿線とか〇〇駅という鉄道か、 次に考慮しなくてはならないのが、ターゲットとする顧客の所在地 ば足りる。 る必要はなく、必要最低限の広さのところを 1 室借りて事務所とすれ 予定がなく、事務作業がこなせればいいということであれば店舗にす 額になることを考慮しなくてはならない。一方、特定の人しか来客の し、店舗にすると必ず店番を置かないといけないことと、賃借料が高 も、宅建業の場合、 2 階以上との自然来客数の格差は大きい。ただ 通りに面した 1 階という立地がベストである。 1 階の賃借料が高くて なり、人通りが多く通りがかりの人が自然と来店するような、目抜き
の行動である。宅建業者 1 社だけを訪問して、その会社に依頼すると いうのは、その会社を知人などから紹介でもされた場合を除いてまず 無く、ほとんどの顧客が幾つかの宅建業者を訪問して見極めているの である。 一般の顧客から見れば、宅建業者というのは敷居が高く入りにくい ものである。敷居をまたいだ途端に、「いらっしゃいませ」の声も無 かったり、無愛想な人が応対に出て来たりすると、それだけで顧客に とり、その宅建業者の印象はかなり悪くなってしまうものである。ま た、顧客は売買についての相談をした時やその後のフォローの時に 紹介された物件の内容、不動産に関する知識、接客態度、言葉使い、 営業マンの熱心さなどをよく見て、本当に不動産取引を頼んで大丈夫 かどうかを、判断しているのである。 物件の売却をする時には、どの顧客も高い金額で早期に成約し、無 事取引が完結することを希望しているのは共通である。しかし、細か く見るとそれぞれの顧客によって個別性があり、とにかく急いでいる 場合や、一定の金額以上でないと売却する意味が無い場合や、買い替 えや相続といった総体的な相談や組み立てを考えてほしい場合など、 様々である。その顧客の一番欲しがっている部分を見つけ出し、そこ を満たせるようにすることが、顧客満足に結び付いていくのである。 ただ売るだけ、ただ買いたい物件を探すだけという行動や、強引な セールスで顧客に押し付けて売るといったやり方は、長続きしないこ とを理解してほしい。 満足感を得た顧客は、あなた自身やあなたの会社のファンになり、 身近に不動産取引をしようとしている方がいれば紹介してくれ、顧客 本人がまた売買することがあればリピーターとしてあなたに頼む。 1 1 6
附則 ( 平成元年二月十七日建設省告示第二百六十三号 ) この告示は、平成元年四月一日から施行する。 附則 ( 平成九年一月十七日建設省告示第三十七号 ) この告示は、平成九年四月一日から施行する。 附則 ( 平成十六年二月十八日国土交通省告示第百号 ) この告示は、平成十六年四月一日から施行する。 , Ⅳー 4 宅建業はサービス業 宅建業は不動産という物を扱うと同時に、当事者である顧客と相対 で取引を進めるサービス業である。サービス業というのは、顧客の満 足感を得てこそビジネスが成り立つものであるが、宅建業では取引物 件の不動産に目を向ける余りに このサービス業という感覚を忘れが ちである。 顧客満足を CS (Customer Satisfaction) という呼び方もしている。 大手や中堅の不動産会社では、不動産取引を通じて顧客の満足感を高 め、それを提案し続けることで自社のファンになってもらうという手 法を、多くの企業が取り入れて社員研修などを行っている。ファース トフードのレストランに行くと、「いらっしゃいませ」から始まり、 食事の味や価格といったものに加え、接客した店員の対応から得る満 足感を含めて、そのレストランの評価が高まるようになっているので あるが、これが CS である。 会社に利益をもたらしてくれるのは顧客であり、その顧客を大切に 1 14
営業と取引のヒント するという考え方は商業が盛んな江戸時代から既にあった。そして、 工業化が進み大量生産によって、作れば売れる時代が長く続き、顧客 へ目を向けることを忘れていた。ところが、バブル崩壊以降顧客の選 別眼が厳しくなった。こうして、更に情報社会の進展により顧客が 様々な情報を気軽に入手できるようになった。こうして、企業間競争 も厳しさを増すといった社会状況の中で、市場は企業主導から顧客主 導へと移っていったのである。 不動産取引をしようとしている顧客は、まず信頼できる会社やしっ かりした営業マンの選択から、始める場合が多く見られる。不動産は 高額商品であり、残念ながら昔から不動産業者に騙されたという話が 付き物なのが当業界である。不動産取引を始めようとする顧客が、安 心して任せられ信頼のおける宅建業者に依頼しようとするのは、当然 顧客との関係 姿勢 重点 業務の取り組み方 売上げ中心と顧客中心 売上げ中心 どのくらい売上げを増やすか 単に物件を扱う 取引関係 〇言われたことだけに専念し、 言われたことだけを行う お客様カードなどの記入 事項を通して知る 目先の成約に専念する 顧客中心 固定客を何人増やすか 顧客のライフスタイルの トータルサポートをする 取組関係 〇顧客と一体になって主体的 な姿勢で取引に取り組む 顧客の暮らしぶりやライ フスタイルを理解する 取引を通しての顧客の満 足感に重点をおく 1 1 5
第 章 開業のための手続き が、当初負担の重さと同時に、昨今退去時に返還されないということ が起きていることをよく考慮に入れて、あまり高額な場合は金額の妥 当性をみなくてはならない。 店舗賃料の判断の目安として、候補の場所で見込める月間新規来客 数を予想し、「月間賃借料 + 月間新規来客数」を出せば、一人の新規 顧客を得るための反響コストとなり、賃料の効率性を比べる目安にな る。賃料が高めでも、その分多くの来客が見込めれば広告コストの削 減に結び付けられる。 なお、自宅の一部を利用して事務所にしようとすることも可能であ るが、宅建業免許を取得する関係で注意しなくてはならないことがあ る。まず、自宅と事務所の出入口を兼ねることはできず、事務所専用 の出入口を必ず設けることが必要となる。また、部屋の一部を事務所 とすることは不可能で、壁で完全に間仕切りされた独立したスペース が、事務所だけに使用されるという状況にしなくてはならない。自宅 に限らず、法人の事務所の一角を開業の事務所とする場合において も、出入口と独立性について同様の形態を整える必要がある。 会社を設立する ビジネスを遂行するときに、「個人として責任を持ちやります」と 言われるより「会社として責任を持ちやります」と言われたほうが、 信頼感がすごく高まるのではなかろうか。会社という法人格にするこ とによって、社会的信用を得るという大きなメリットがあり、ビジネ スに積極的に取り組んでいく上で不可欠なものである。 会社にするためには法律に即した手続きや資本金が求められ、設立 1 9
第 社業を発展させる を下げたり、物件案内も建物内部を案内するだけで物件の周辺は自分 で見ることになっているといった具合である。 ただし、安くするだけでは顧客はかえって不安になりついてこな い。しかし、これらの業者は仲介に際して行う業務内容を整理した上 で、業者サイドで行う業務を顧客に明解に指し示し、顧客サイドで行 わないといけないことについては助言をするようになっている。これ により、顧客の仲介業者の業務に対する透明感がむしろ増し、結果と して顧客ニーズにうまく対応している。今後このようなディスカウン ターが増えていくものと考える このほかにも、不動産投資や取引において、対象不動産を法的・物 件的・経済的など様々な観点から精緻に調査・診断するデューデリ ジェンス、居住と介護サービスを一体的に供給する高齢者向け住宅の 経営、高齢者が住み替えにあたり自宅を賃貸化し余裕資金を確保する 住み替え型リバースモゲージ、賃貸住宅への入居時に保証人に代わり 滞納家賃の保証を行うビジネスなど、様々なビジネスが登場してきて いる。これらのことを参考にして、自分の社業発展や夢を拡大させる ためのヒントにしてほしい。 1 73
営業と取引のヒント を対象として、各種の広告を使った広範囲で多人数に向けた販売促進 活動や、個別訪問などの一本釣り的営業を組み合わせて、繰り返して いくことになる。 このように営業のやり方が異なるため、営業活動の重点を法人とす るか個人とするかという、対象の選別をすることが必要となる。法人 を対象とした営業活動は、それぞれが持つコネクションを使った営業 や、紹介を使ったルート営業にウェイトが置かれるであろうが、一方 個人を対象として営業活動を行う場合には、対象の絞り込みとそこに 対しての販売促進活動の内容が重要なポイントとなる。法人営業は 個々人により手法やルートなどの個別性が強いため、ここでは住居系 に絞って話を進める。 成約を目指すためには、そもそも世の中に眠っている潜在顧客を見 つけ出し、顕在化させなくてはならない。住居系の取引を成約させる ための顧客獲得ステップとしては、住宅を購入したいと思っていた り、住宅を売却したいと思っている顧客がいると見込まれるエリアや リストの目安をつける。そして、そこに対して様々な販売促進活動を 仕掛け、住宅売買検討中の顧客を探し出すということになる。このよ うに、水面下に眠っていた検討顧客を探し出せれば、後は営業マンの セールスカで、成約に結び付けることになる。 売却物件の収集を目的として、ターゲットとなる顧客の絞り込みを 行うためにエリアを選定する。この場合、まず、レインズデータなど から売却物件の成約実績や売却中物件を把握した上で、売却物件が出 現しやすい場所を、団地や 1 丁目 2 丁目といった位の単位の広さで抽 出する。「この団地では年間 20 件は取引が成約していて、現状の売却 中物件数が 5 件」といった、具体的なポリュームが見えてくればしめ 103
営業と取引のヒント たものである。成約確率の高いエリアを対象にして、売却物件の依頼 を得るための販売促進活動を行うことになる。 購入希望の顧客の獲得を目指す場合にも、エリアや様々な顧客リス トといったものを対象にして、ターゲットの絞り込みを行う。工リア を選択する場合は、初めて住宅を購入する第一次取得者を対象とし て、住宅を購入できるだけの安定的な収入のありそうな顧客が住んで いる賃貸住宅・社宅・公務員住宅などを、ターゲットとして絞り込 む。既に所有している住宅を売却して、新たに住宅を購入する第二次 取得者を対象とした絞り込みは、売却物件収集と同様成約実績や売却 中物件を参考にして、ターゲットエリアの絞り込みを行う。 また、人が住居を移す場合にはそれなりの理由があり、その理由を ヒントにして対象とするターゲットの絞り込みを行うことも有効的で ある。 Ⅳー 2 ターゲットから反響を得る 選定したターゲットに対してどのようにアプローチするかによっ て、潜在している顧客が、自社に向けて見込みどおり反響してくれる のか、結果は大きく変わってくる。ターゲットを畑に例えるならば、 どんなに土壌のいい畑であっても、耕し方や手入れの仕方の良し悪し で、作物の出来不出来が大幅に違ってくるということである。ター ゲットに対して、顧客からの反響を得られる可能性が少しでも高く、 更に少しでもコスト効率のよい販売促進手段を選んだ上で、実施して いくことになる。 105
顧客の住宅の質に対する意識が高いにもかかわらず、顧客が専門知識 を有していないことや、中古住宅の流通量が増加してきていることか ら考えると、今後の潜在ニーズは高く、リスク回避のためにも利用が 増えていくものと考える。 新築住宅であれば、法令により構造耐カ上主要な部分について、売 主が 10 年間の瑕疵担保責任を負うことになっており、中古住宅でも売 主が宅建業者の場合は、 2 年間瑕疵担保責任を負うことになってい る。しかし、中古住宅の売主は個人が中心であり、購入後の瑕疵に対 する保証はないのが実状である。この購入顧客の不安を払拭するため に、国や民間のインスペクションを実施した建物に、瑕疵保証をつけ るビジネスが登場してきている。また一部のハウスメーカーでは、新 築時に付保したアフターサービスについて、所有者が変わると終了し にもなるアフターサービスや瑕疵保証が、今後も広がっていくものと している。顧客のニーズに加え、住宅販売や流通促進のための差別化 てしまうのをやめて、一定期間であれば付保し続けるサービスを開始 見込まれる。 1 72 ている。例えば、ローンの手配を自分で金融機関にいって行えば報酬 行ったり、一定の業務は提供するサービス内容に制限をつけるなどし らの業者がコストダウンできる原因は、顧客への情報提供をネットで している、不動産仲介のディスカウンターが登場してきている。これ ことが一般的に行われている。しかし、この報酬を当初から安く設定 ス 6 万円 ( 税別 ) が上限であり、この上限金額に近い報酬を受け取る 宅建業者が行う仲介業の報酬といえば、成約金額に対して 3 % プラ 〇仲介のティスカウンター
〇仲介業務の中で 不動産取引にかかわる業務は、宅建業者がそのほとんどを行い、多 くの取引においては、ローンを組むための金融機関や、登記のための 司法書士が登場するくらいで完結している。しかし、取引の安全性や 取引物件の質といったものが問われる中で、従来から指摘されてきた 不動産取引の不透明感を払拭し、多様化する消費者ニーズに応えてい くことが、宅建業者に求められている。このような中で登場してきた プレーヤーとして、バイヤーズエージェント、セラーズエージェン ト、ローンアドバイザーといったものがある。 仲介に入る宅建業者は、売主・買主双方の間に立って業務を行うた め中立的な立場となり、依頼する顧客サイドからみると、すべて自分 側の立場に立って行動してくれているのか不安である。そこで登場し たのが、完全に依頼者である買主の立場に立って、専門家が顧客へ助 言するなどのコンサルティングサービスを行うバイヤーズエージェン トである。買主が取引を完結させるために必要なことは、事前チェッ クや立会いなど何でも行い、新築物件の内覧会の立会いなどもこな す。依頼を受けた業務はそれぞれの専門家がこなすため、顧客からの 依頼は取引全体か必要な部分だけかを選択できるようにしている。ま た、買主だけではなく、売主に対して売却価格の妥当性などを助言す るなどのコンサルティングサービスを行う、セラーズエージェントも 登場してきている。 一方、住宅を購入する顧客にとり、住宅ローンを組み込んでの資金 計画は、一度組んだローンが長期間の返済となり自分の生活設計との 兼ね合いもあり、顧客自身だけでは考えにくいものである。最近で は、金融機関の商品も多様化し、どの商品が自分に有利で希望に合っ 166