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検索対象: 二つの環境 : いのちは続いている
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1. 二つの環境 : いのちは続いている

そうしよく らしいガラスの象眼細工で装飾されている。 ふる そ、つい ハワード・カーターがツタンカーメンの墓を発見したとき、おそらく彼の体は震えたに相違 まばろし ない。三十年の長きにわたり、探し続けた幻の王。これまで「あいつは気が狂っている」「歴 史に名を残していないファラオなどいるはすがないじゃないか」とさんざん非難された声が聞 こ、える。 おうえん 人が興味を持ってやっていることだ。応援してあげたらよいのに、人間は時として意地悪に なる。 でも、カーターにしてみれは、そういう苦労があったからこそ墓を掘り当てた時にはその褒 美が与えられる。その褒美とは、苦しみをくぐり抜けて来た者だけが感しる深く大きな感激だ。 あせ 汗をかきかき登った山の項上から見る景色は格別だけれど、ヘリコプターで山の項上に降り うす 立っても感激は薄い。 まして、どんなに素晴らしいビデオを見ても自分で山を登ったときの感 ふもと くしん 激とは比べ物にならない。山の麓から大きな荷物を背負い、危険を冒して急な坂を登り、苦心 さんたん かがや 惨して項上に立ったとき、眼 ~ 則に広がる景色がこれまで見たこともないよ、フな美しさで輝く 「みんなにバカにされたけれど、自分は三〇年がんはった。そしてついにそれを見つけた。 ぞうがん くる

2. 二つの環境 : いのちは続いている

わた アメリカ大陸に渡ってきたヨーロッパ人は、新しく「アメリカ人」となり牧場を経営し、大 しいく 規模な農場を運営する。そしてバイソンに代わって「ウシ」を飼育する。ウシはバイソンとち がって人の言うことも聞くし、良質の肉や乳を取ることができる。だから、ウシは可愛い めざわ リードッグは目立早 そう思って草原を見ると、ウシが食べるはずの草を「横取り」するプレー あな りだ。その上、地面に穴を掘る習性も気にくわない。プレー ) トノグが地面に掘る穴はハイ くし テク技術を駆使した巣でもあった。字型で、穴の片方が少し高くなっている。そのために、 せんぶうき 扇風機がなくても穴の中には空気が流れいつも央適だ。時間がゆっくりと過ぎていたその昔、 ーリードッグはその巣の中で、ゆったりと楽しい夢を見ながらまどろんだことだろう。か っての友、バイソンはこの穴に足をとられることはなかったが、新しく草原に来たウシはこの 穴に足を取られる。まさかプレー 丿トノグが掘る穴が地面の風通しを良くし、いつも豊かな ねんざ 草原を作ることに一役買っているとは知らない牧場主は、ウシの足首を捻挫させるような穴を おこ ねだ 堀りやがって ! とんでもないやつだー と怒り、「けしからぬ小さな動物」を根絶やしにす ド ) ゅ、つ しゆっ守・き るために銃をもって出撃する。 撃って撃って撃ち殺したが、なんといっても四〇億匹もいる。そのうち疲れた人間は、毒、 ちち ひき

3. 二つの環境 : いのちは続いている

ダムによって作られた人工の湖にはエジプト独立の父、ナセル大統領の名前をとって「ナセル 湖」と名づけられた。その大きさは琵琶湖の五倍である。 せき すいばっ ダムにまつわる最初の物語は、水没する遺跡。 ナイル川の上流には古代エジプトの遺跡が点在する。どれもこれも人類の歴史を物語る貴重 なもので、いわば「人類の宝」。それがダムによって水没するのだから一大事だ。貴重な遺跡 という強硬意見もあった。 が水没するようなダムを作るべきではないー ひかく でも、古代の遺跡を守ることと、いまエジプトに住む人の幸福を比較すれば、そこに住む人 のことを大切に考えなけれはならない。昔の人はすでに死んでいるし、文化財より人だ。 そこで、水没から守るために遺跡の方を移動することになった。その一つにフェラエ島があ しんじゅ る。古代エジプト人が「ナイルの真珠」と呼んだこの美しい島は、最初のアスワンダムが建設 されたあとには、一年に一〇か月の間だけ水没するようになった。でもアスワンハイダムがで きたら一年中、完全に水没する。 しんでん そこで、ユネスコが中心となって遺跡の大移動作戦が行われた。有名な「イシス神殿」はこ のフェラエ島にあった遺跡だ。幸い、イシス神殿は移動し水没をまぬかれ人類の宝を守ること きようこ、つ 114

4. 二つの環境 : いのちは続いている

しがいせん りたるんだりするのはそのせいだ。また皮膚がカサカサになるのもそうで、 < 紫外線を浴びる と皮膚の老化が一挙に進む。紫外線は波長が短いので、皮膚の奧深くは入りこまないかわり えんしよう 皮膚の細胞と反応して炎症を起こす。シミ・ソバカス、皮膚ガンのもとは紫外線。 紫外線にあたるとこのようにいろいろな事が起こるが、目に見えて変わるのはなんといって えいきよ、つ も「日焼け」だ。紫外線に当たると「紫外線が皮膚に悪い影響を与えようとしている」とい う指令がメラノサイトという細胞に伝わり、メラニン色素を作り出す。メラニン色素は紫外線 を吸収する自分の体が作る日焼け止めである。 海水谷場に行くときに日焼け止めを買ってぬるのは悪くないか、本当はちがう。夏でもいっ も外で遊んでいれば真っ黒になる。真っ黒ということは体中を自分で作った日焼け止め「メラ ニン」を塗っているようなものだから、虫 : リしなにもお金を出して日焼け止めを買う必要はな いそが でも勉強ににしくて一夏に一度か二度しか海水浴に行かないとひどく焼ける。 しがいせん ここで、紫外線を浴びると皮膚ガンになるしくみをかんたんに説明しておく。 Z << はアデニン ( 記号 : ) 、グアニン ((-5 ) 、シトシン (O ) 、そしてチミン ( ) とい う四つの文字を使って暗号情報を作り出している。たとえば、わたしたちの体に足を二本つけ さい、ほ、つ ひふ

5. 二つの環境 : いのちは続いている

はんらん ナイルの氾濫はすさましい。徐々に水位を上げた川からジワジワと水が平野をおおい始める。 こ、つ 19 い みわた こうして始まる洪水で見渡す限りの土地は水でおおわれてしまう。現代で言えは「大災害」だ。 でも、古代エジプトではナイルの洪水は大災害ではない。上流から豊かな栄養を運んできた ひりよ、つま 水は、洪水という形で田畑に肥料を撒いてくれる。人間はそれを眺め、水が引くのをじっと待 ち、やがて再び栄養豊富になった田畑に種をまく。 現代の農業は、トラクターで耕し、化学肥料を撒き、ヘリコプターで農薬を散布する。それ はんらん を古代エジプト人はナイル川の氾濫という自然現象を利用した。そのほうが、もちろんエネル ギーは使わない。 かんすい でも、生活が近代化してくると、やはり洪水は困る。道路は冠水するので自動車も通れない。 ゆか 家も洪水に備えて床を高くつくっておかなければならない。だから不便だ。そこでナイル川が さか 氾濫しないようにして、しかも農業を盛んにするためにナイル川の上流アスワンに最初のダム ちすい が建設される。これを〃治水〃という。一九〇二年。ちょうど一〇〇年前だ。全長二キロ。ダ かこうがん ムは花崗岩で作られた。 さらに、それから七〇年後、今度は全長三六キロメートルのアスワンハイダムが作られる。 なが 113

6. 二つの環境 : いのちは続いている

しい。環境とは「境界」だから、自分がいる部屋からズーツと拡がって、自分が見たり、聞い たりすることができるはるか遠いところまでのことだ。クーラーの効いている部屋を一歩出る とムッとした熱気に包まれるから、クーラーは環境には良くないことがわかる。 がいろじゅ 通路から外に出てみるとアスファルトの道路を歩く。弱々しい街路樹、イヌにもネコにも会 わない。向こうから来るのはしかめつ面をした人たち、ゴミを分別するための箱や、時には道 ふくろっ ごたごたした町並み、なんとか人の目を引きつけようと ばたに袋に詰められたきたないゴミ。 かんばん する看板。どこまで行っても「環境を大切にしているはすの人間の作ったきれいな町並み」に も「せせらぎやムシのかすかな羽音」に出会うこともない 一夏まで来ても「ああ、 日本は良いところだ」と思、つことかできない こんななさけない環境を作ったのは人間で、一緒に生活 でも、あまり悲観することはない。 をしていた動物や植物もイヤがっている。だから、私たちが思い直せばすぐ良い環境を作るこ とはできる。そして、それを助けてくれるのは、意外にも私たち人間が作り上げてきた「科 学」だ。 この本を書くに当たって、科学の夢と将来の大切さを教えて項いたノーベル物理学賞を受賞 18 7

7. 二つの環境 : いのちは続いている

も学校に行かなければならない」とか、「今日はテスト」とか、「休むと会社をクピになる」と いうので、てっとり早く抗生物質に頼ってしまう。そうこうしているうちに抗生物質を使いす ぎて、「効かない細菌」か登場してきたというわけだ。 たんさいばう もう一つの理由は、単細胞のえらさである。これは難しいが人間と他の生物の関係を考える ときに重要だ。 レ玉ノ早田・包 糸月 ! 」と叫んで他人をバカにすることがある。細菌の多くは単細胞で、人間のよ うな「高等生物」は多細胞動物だ。細菌と人間を比べるとどうも人間の方がえらいように見え るので、単細胞より多細胞の方がえらいということになる。でも、単細胞の生物にも強みがあ でんし る。は親からもらう遺伝子なので、生まれたあとでは変わらない。 でも子どもを作るときに QZ<< を書き換えることができるので、自分の子どもは、自分より 強くすることもできる。人間は平均すると三十年に一度子どもを作るが、細菌は二〇分に一回、 はんしよく 繁殖する。そのたびに書き換えのチャンスが訪れる。だから、人間が一回書き換える間に、 細菌は八〇万回も書き換えることができるので、進化という点ではとても勝負にならない つまり、人間が「頭脳の力」で抗生物質を作って細菌を殺そうとすれば、細菌は「を たよ

8. 二つの環境 : いのちは続いている

だれ 本人は自然とは離れてしまったので誰も興味を示さない。 かんきよう めずら 本当は、日本は自然と共にある環境を作り出すことのできる珍しい国だ。 きみよ、つ 世界地図をしっと見ると奇妙なことに気がつく。地球は北半球と南半球に分かれていて、不 思議なことに北半球にほとんどの国が集まっている。陸地も同じだ。南半球の太平洋やインド 洋は本当に広い。そこに陸地が点々としている。 そればかりではない。さらに不思議なことに、北半球の温帯には島が少ない。日本だけが北 と、つし い・」こち 半球の温帯の大きな島国だ。温帯と言えは人間が住むのに一番、居心地が良い。寒さで凍死も ふうりん しないし、暑さで焼け死にもしない。冬はコタッでもあれは何とかなるし、夏は風鈴を下げて せんすかつやく ウチワと扇子が活躍する。その温帯に浮かんでいる島だから気候は良い。海は温度の変化が少 なく、昼間は海風がそよそよと吹いてくる。 第一、日本では昔から安心して水が飲める。そんな国は世界広しといってもめすらしい。 日本に住んでいるとそんなことは当り前だが、あまりに当り前なので忘れてしまう。そして、 しやくねっ かわ 寒い風が吹きすさび、灼熱の太陽が照りつけ、カラカラに乾いた大地に住む人たちが身を守 きび るために作る環境と同し環境を作っている。気候の厳しい国では窓を開けられないが、日本で 180

9. 二つの環境 : いのちは続いている

だができた。 た現在の地球はそこに住む人のものだ。だから遺跡 ぎせい かかあるからといって人が犠牲になるというわけには いかない。世界の人にとってみればエジプトの古代 」〔 0 、よ遺跡は大切だが、エジプトに住んでいる人は生活が た大切で、それには電気がいる。アスワンの二つのダ 入ムで作られた電気は現代のエジプトの生活に使われ ている。まして、日本に住んで毎日電気を使ってい 世る人が、エジプト人に電気を使わないで遺跡を守れ とは言えない ところが思わぬことが起こった。 遺アスワンのダムは上流から流れるナイルの水をせ トき止めただけではなかった。ナイル川の河口では、 さかのは 海の水がナイル川を遡るようになった。 いせき 17 )

10. 二つの環境 : いのちは続いている

きねんひ 実物が残っていて、隕石の落下地点には記念碑も建てられている。 ぜひ 是非、見たいものだ。 実物は迫力がある。隕石を見ると、大きな隕石がそはに落下してビックリして顔を見合わせ うやうや おしよ、つ る江戸時代の人たち、さっそく大さわぎになって駆けつける近くの寺の和尚さん、そして恭し ふく くささげられた隕石を覗きこむお城のお殿様 : : : 連想は膨らんでい めずら しよ、つとっ わくせい ところで、地球のような惑星や月のような天体に隕石が衝突することは珍しくない。太陽 ちり ただよ や地球ができる前、宇宙にはガス雲が漂っていた。次第に、そのガス雲が成長し塵になり、集 おく まり始める。あるものは太陽を作り、あるものは地球、そして参加が遅れた塵は、大きくなっ た星の重力に弾き飛ばされるように宇宙のかなたに飛び去った。 この力を「スウイング・バイ効果」というが、太陽から一五兆キロメートルのかなたに集ま めいおうせい って、「彗星のふるさと」を作った。「オールトの雲」である。そして、それと冥王星の外側の ・ベルト」で彗星が誕生し、木星や地球、そして月に落下してくる 「エッジワース・カイハ いんせきつい と考えられている。月の表面のあの無数のあばた、「クレーター」と呼はれる凹凸が隕石の墜 らく 落のあとだと知ったとき、あまりに多い隕石のあとに驚く。こんなに多いのであれは、今でも はじ おお 1 ) 7