そうごうてき 「総合的な学習の時間」 そうごうてき 洋ニは中学 3 年生。洋ニの通う学校では、「総合的 『戦争が答えではない、戦争という暴力はみとめられ ゆういちみゆき ない』という立場で、世界中からいろいろな分野の人 な学習の時間」がはじまった。洋ニは、祐ーと美幸と の声を集めて本をつくったんだよ。坂本龍ーさんは、 9 グループをつくり、テーマを決めて学習をすすめていく 月 22 日の朝日新聞でこう言っている。 ことにした。 『もし日本の首相が憲法に基づいて戦争反対を表明 3 人は、 20 0 1 年にアメリカで起きた 9 . 1 1 テロに ちゅうかいてきやくわり かいけつ し、平和的解決のための何らかの仲介的役割を引き 興味をもったのだが、なにをどうやって調べていくか まつおか 受ければ、世界に対して大きなメッセージを発し、日本 まよっていた。そこで、社会科の松岡先生に相談に の存在を大きく示すことができたはずだ。その絶好の いった。 おそ 機会を逸してしまったが、まだ遅くはない。これは日本 こくさい せいき のためだけではなく、 21 世紀の国際社会への大きな 洋ニ「 9 .11 テロについて調べてみたいと思っている 貢献となるはずだ。』」 んです」 祐ー「へえ、ミューシシャンもテロや憲法について考 美幸「この事件があって、日本も変わってきたと思う じえいたい えているんだね」 から。たとえば、自衛隊が海外に出たり・・・ 洋ニ「 9.11 テロと憲法のことか。ちょっとむずかしそう 松岡「事件のことだけ調べたいの ? 」 だけど調べてみようか」 裕一「それだけじゃ、なにかものたりない気がしたんで 美幸「平和と戦争についても考えてみたい」 けんぼうかんれん 松岡「それぞれ自分が興味をもったことから調べてみ 松岡「そうだね。では、憲法と関連づけて調べてみた たらどうだい ? 」 ら ? 」 3 人「はい」 洋ニ「憲法と ? なんかむずかしそうな気かするなあ」 さかもとりゆういち 松岡「ミュージシャンの坂本龍ーさんを知ってるか ほうふくせんそう かれ こうして 3 人の「総合的な学習の時間」がはじまっ い ? 彼は、アメリカが報復戦争をはじめたのをきっか かんしゅう ひせん けに『非戦』という本を監修したんだ。 9.11 テロ後、 ほうりよく せんそう じ もと きようみ ぜっこう そんざい きかい こうけん じけん 0 4
じえいたい 海を越える自衛隊 ほうふくこうげき 9.11 テロとアメリカの報復攻撃がはじまったことか ほうりつ せし、小 ら、日本の政府は法律をつくり、それまで日本国内で じえいたい ぐんしえん 活動していた自衛隊を、アメリカ軍支援のために海外 はけん せんそう へ派遣させた。自衛隊が、戦争をしているところへはじ ようじ めて出ていったのだ。洋ニたちはこのことについて話 しあった。 洋ニ「自衛隊がアメリカの後方支援をして海外に出て けんぼう いったのは、憲法に違反していると思うよ」 ゆういち 祐ー「 9 . 1 1 テロであれだけの人が死んだのだから、 アメリカの報復はしようがないよ。テロをなくすために 日本もなにかしないといけないと思う」 みゆき 美幸「アフガニスタンでもたくさんの人が死んで、そ かんけい のなかには、テロとは関係のない人もいたのよ」 祐ー「でも、日本にはアメリカ軍の基地があって、そ れによって日本の安全も守られているんだから、アメリ きようりよく 力が戦争をしたら、せめて物資を送るぐらいの協力は 当然じゃない ? 」 美幸「物資を送るのも、戦争の一部よね」 せつきよくてき 洋ニ「戦争とはちがう支援を、積極的にやるべきじゃ ないかな」 祐ー「それはそれで大切だけど、アメリカとの関係は 大きいからな」 いはん ぶつし 22 美幸「アメリカとの関係を考えるだけでいいのかな。 アジアやほかの国との関係はどうなの ? 」 洋ニ「日本は戦争をニ度としないという憲法をつくり、 平和な国づくりをすすめてきたよね。自衛隊がアメリカ せいしん 軍を支援することは、憲法の精神に反していると思う おざわりういち 小沢隆一先生のコメント 20 0 1 年 1 1 月 2 日、 9 . 1 1 テロをきっかけにしたア ふりよく こおう フガニスタンへのアメリカの武力攻撃に呼応して、日 たいさくとくべっそちほう せいてい 本では「テロ対策特別措置法」が制定された。この法 じっしつしんぎ ちょう 律は、国会での実質審議が約 10 日という超スピード かんせん で成立したものだ。この法律によって、自衛隊の艦船 ほきゅう がインド洋に派遣され、アメリカ軍艦に対して補給活 げんじっせんとう 動を行っている。自衛隊が現実の戦闘にかかわるとい うのは、自衛隊がつくられて以来はじめてのことだ。 じゅうよう 重要なのはこれが「自衛」ではなく、「海外派兵」と いう形で行われたことだ。場所からしても「自衛」をす る場所ではないね。これは、アメリカの戦争を後方から 支援するということだから、憲法の平和主義から言って も大きな問題となるだろう。 はヘい
心の中に平和のとりでを そうごうてき さいたく よくねん こくれんそうかい 1 1 月、総合的学習の発表会があった。約半年間調 は、国連総会において採択された。翌年、国連総会は 2001 年から 2010 年までを「世界の子どもたちのため べてきたことを、 3 人は発表した。 せんげん けんぼう にちじよう 洋ニは、憲法と日常生活のむすびつきや 9.11 テ の平和の文化と非暴力の国際 10 年」と宣言した。 みゆき じえいたい じゅうよう しよめい 2001 年、ユネスコは「わたしの平和宣言」署名を ロのことを、美幸は、自衛隊のことと憲法 9 条の重要 せい ゆういち かんけい おく きようかい 世界で 1 億人以上、日本ユネスコ協会も日本で 1 00 性を発表した。そして祐ーは、スポーツと平和の関係、 おきなわ 沖縄の人びとの思いを発表した。この 3 人の発表は、 万人集めることを決めた。 こうひょう ここには、「すべての命を大切にすること」「暴力を むずかしいテーマであるにもかかわらず好評だった。 ゆるさないこと」「相手の立場にたって思いやり、たす 「きみたちはほんとうによくやった。ぼくが思った以 じよう まつおか けあうこと」「男女とも力をあわせること」など、 3 人が 上の発表だった。ばくも勉強になったよ」と、松岡先 けつろん かんけい 生もほめてくれた。 3 人のなかでしつかりした結論が出 平和と憲法について調べてきたことと関係することが、 わかりやすく身近なこととして書かれている。そして、 たわけではないし、意見のちがうところもたくさんの かんきよう こっていた。けれど、憲法のことを調べるなかで、たく わたしたちの生きている地球の環境を守ることも書か さんのことを発見し、考えるきっかけがつかめたと 3 人 れている。 洋ニは、一人ひとりの心のなかに平和のとりでを築 は思っている。 きようつう 共通して心にのこったのは、「人の心の中に平和の くことは、長い道のりかもしれないけれど、平和に生き きず こくれん かくじつ とりでを築く」という言葉だった。ユネスコ ( 国連教育 るうえでもっとも確実な道ではないだろうかと思った。 きかんけんしよう 科学文化機関 ) 憲章のなかで見つけた言葉で、「戦 美幸は、日本国憲法の前文と 9 条が、心のなかに 争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の 平和のとりでを築くうえで、ひとつの道しるべになるの 中に平和のとりでを築かなければならない」と書いて ではないかと思った。 そして祐ーは、「わたしの平和宣言」署名を集める あった。 ユネスコは 2000 年を「平和の文化国際年」とする 活動に協力してみようかと思っている。 ていしよう ことを提唱し、その年の 1 1 月 20 日にユネスコ憲章 やく ひほうりよく じ じよう こくさいねん 52
せいぞん けんり 平和のうちに生存する権利 まつおか しようかい けんばうせんもん お 3 人は、松岡先生の紹介で、大学の憲法専門の小 ざわりゆういち 沢隆一先生に話を聞きにいった。 先生「よく来てくれたね。憲法を勉強しているんだっ て ? どんな話が聞きたいのかな ? 」 みゆき えいきよう 美幸「 9 . 11 テロで日本も大きな影響を受けて、その じえいたい 後、自衛隊を海外に出すことになりました」 ようじ くうばく 洋ニ「アメリカのアフカニスタンへの空爆なども知 しゅぎ り、日本の憲法の平和主義について、あらためて考え てみたいと思ったんです」 先生「なるほどね、ではまず、憲法の平和主義の話を しよう。憲法の前文には、平和についてはなんて書い てあったかな ? 」 だんらく せし、ふ ふたた 美幸「はじめの段落では、『政府の行為によって再び せんそう さんか 戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意 し』とあって、その次の段落はほとんど平和について 書いてあります。 こくみん こうきゅう ねんがん 『日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の かんけい すうこう じかく 関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであっ しんぎ しょこくみん しんらい て、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、わ せいぞん れらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、 せんせいれいじゅうあつばくへんきよう 平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から えいえんじよきょ 永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名 そうご しはい こくさい っと めい 16 よ 誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国 けつほう 民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに せいぞん けんり かくにん 生存する権利を有することを確認する』」 きほんてき 先生「よく読めたね。前文は、憲法を支える基本的な 考え方を示しているんだ。だから憲法全体が、この前 文の考え方でつくられているということだ。平和主義に ついていうと、前文のなかの『平和のうちに生存する 権利』というのが大事なんだよ」 洋ニ「前文って、たんなる前書きとはちがうんですね。 その『平和のうちに生存する権利』って、どういうこと ですか ? 」 けいけん 先生「これは、 2 度の大きな世界戦争を経験した人類 が、今まさに模索している新しい権利だといえる。人間 は平和のなかで生きることができなければ、自由や平 ほしよう 等という他の権利があっても現実には保障されない。 じんけんしんがい 戦争で殺される人は最大の人権侵害を受けるわけだ ふびようどう よくあっ し、国内にひどい人権抑圧や不平等をかかえている 国は戦争をひき起こしやすい。『平和のうちに生存する 権利』とは、戦争と平和の問題を国家まかせにしない きょひ で、戦争を人権侵害として拒否するということなんだ ね。そして、憲法第 9 条は『平和のうちに生存する権 利』を具体化した条文と言えるんだ」 し まぬ きようふ ささ もさく げんじつ さいだい じよう じようぶん