スケート - みる会図書館


検索対象: 空のてっぺん銀色の風
9件見つかりました。

1. 空のてっぺん銀色の風

立ちあがった時、目のすみつこを細い影が通りすぎた。 「あいっ・ : ・ : まただよ」 おとめだ。ばくのスケートの練習がはじまってから、ひとりでさっさと帰ってしまう。そして、 日がとつぶり暮れてから、かくれるようにしてばくの部屋にくるのだ。い くら学年でスケートが ゝいはずだろう。ま 一番下手だからって、それはないと思う。一時間くらい待っていてくれてもし くがそういうと、おとめは長いまっげをふるわせながら、「だって、お父さんのところにいって話 を合わせてもらったり、お母さんに洗たくものだって持っていかなくちゃならないだろ。ばく、 いろいろ大変なんだ」ってつぶやく。そういわれてしまうと、ばくは返す言葉がない。だけど、 考えてみるとどうもおかしい。教室でも、おとめはばくを避けているようなんだ。仲がいいわけ ささもと でもなんでもない笹本たちのグループにまじって、ニコニコ笑ってたりする。あいつらはついこ きん の間まで、お前のことを「おんな菌」ってよんでいたやつらなんだぞ。よく、平気で笑っていら れるもんだ。 きたじま 「おー し北島。おそいぞー。早くこい」 カッシーが、リンクの上から手まねきしている。ばくは、足に力を入れて歩きだした。雪の上 にスケートの刃がっきささって、迷路のような細い道がいくつもできあがっていた。 めいろ ノノ 4

2. 空のてっぺん銀色の風

食はセレクト給食というのがあって、自分の好きなメニューが選べるんだ。ただし、毎日ではな 8 くて、一週間に一度だけだけどね。先生たちはそういうことがじまんらしく、何かといえば「う ちの学校は : : : 」って、ほこらしげに鼻をヒクヒクさせる。だけど、それって意味のないことだ つまり、 とばくは思う。入れ物だけがりつばだって、中身がともなわなくちゃ何にもならない。 りつば 人間と同じだ。まあ、入れ物が立派なら、それにこしたことはないとは思うけどね。 ばくもおとめも、この小学校の六年一組にいる。一組といっても、クラスはひとっしかない 一年生のときからずっと同じ顔ぶれだ。こうふんもきんちょうも、ありはしない。 このまま小学校を卒業して、中学校でもみんないっしよなんだろうな。おとめも : えたら、胃のあたりが、もやもやとくもっていくような気がした。 二月のはじめ。はく息まで凍ってしまいそうな季節。小学校卒業まで、あと二か月もなくなった。 ピリピリピリ 1 ホイッスルの音が、大きくひびいた。担任のカッシーが、こしに手をあて てみんなを見回した。 いいか、みんな。スケート大会が近づいてきた。小学校最後のスケート大会だ。自分の持って いる力を最大限に発揮して、思い出に残る大会を : : : 」 はっき こお たんにん そう考

3. 空のてっぺん銀色の風

8 フクロウになる人 せま スケート大会が、一週間後に迫ってきた。運動全般が得意なばくは、スケ 1 ト大会でももちろ ん選手に選ばれていた。大会の最後、一番盛りあがるリレ 1 の選手だ。夏の運動会でも、アンカ ーを走って拍手かっさいを浴びた。とうぜん、スケ 1 トのリレ 1 でもアンカ 1 だ。みんなを沸か くつう きよ、っせい せる自信はある。だけど、放課後の強制練習が苦痛だった。 きたじま じゅんび 」島早く準備しろよ。みんな、もうリンクで待ってるぞ」 カッシ 1 の声が、耳にさわる。 「わかってるよ」 けいご 「目上の者には敬語 ! 」 「 : ・・ : わかっています」 カッシ 1 は右のほっぺただけでニッと笑うと、けたたましくホイッスルをならしながらはなれ ていった。今の時代、三十代のほうがばくらよりもよっぱどエネルギッシュだ。 それでも、黒い革のスケートぐっに足を入れると、気持ちがひきしまる。ひもを固くむすんで はくしゅ かわ ぜんばん わ 7 ノ 3

4. 空のてっぺん銀色の風

夜の七時すぎ、ばくの部屋の窓が小さくゆれた。フクロウおとめだ。 「ただいま」 小さな声で、つぶやく 「おかえり。夕飯は ? 」 こめんね。きようも食べてきちゃったんだ。お父さんが、食べていけってしつこくてさ」 そこまでいって、クスッと笑う。 ふうふ 「なんかさあ、今の、夫婦の会話って感じだったね」 おとめの笑顔に、ばくはうまく笑い返せない。 てるのか ? 「おれは、おとめの奥さんじゃないよ」 ばくのふくれつつらに気がついて、おとめが口をつぐむ。 「ごめん。あの、ばく : つかさくんに、あんまりめいわくかけたくないだけなんだ」 「へえ、もうさんざんめいわくかけてるとは思わないのかねえ」 きようのばくは、意地悪だ。スケートの練習で体がっかれている上に、おとめのことを考えっ おく こいつ、ば くがどんなに心配していたかわかっ 〃 5

5. 空のてっぺん銀色の風

まど 昼休みの理科室は静かだ。人体模型のジョニー君が、寒そうに立っているだけだ。窓の外では、 ガラスみたいなスケートリンクが光ってる。その上を、たくさんの生徒がすべっていくのが見え は・サ . る。スケート大会が近いから、練習に励んでいるんだろう。ついこの間まで、ばくもその中のひ とりだった。、 すいぶんむかしのことみたいだ。 「練習しなくていいの、つかさくん ? 」 おとめが、ほおづえをついたまま、ばくを見る。 「いいんだ。練習なんてしなくても、ほら、おれって実力あるから」 しんみよう ま 冫くがいったら、おとめは神妙な顔でうなずいた。調子が狂う。 「それで、うまくいったのか、家のほう」 「うん。夜はかえらずの森にいて、朝になってから、家に帰ったんだ」 「それで ? 」 「まいっちゃったよ。ま 冫くがどうにかなったら、お母さんも生きてないなんて、泣かれちゃって さ。仕方がないから、うそっいたんだ」 「おとめか、うそ ? 」 くる

6. 空のてっぺん銀色の風

もっと早く、おれのいうことを聞いて、いっしょに住まなかったんだ。ばかやろうだ」 男の人のにぎりこぶしが、ドン : : : と戸をたたく。戸がきしんだ音を立てて、上につもってい た雪がこばれ落ちた。ばくとおとめは、声もだせなかった。男の人のふるえる背中を見つめなが ら、ばくらはただじっと、立ちつくしていた。 スケート大会の日は、ほればれするくらゝ しいい天気だった。冬が、すっかりカをなくして、一 足とびに春がやってきたようだ。リンクは表面がとけて、はなれて見ると湖みたいに見える。そ の湖の横で、ばくらは全員出場の競技、五百メ 1 トル走の出番を待っていた。カッシ 1 が、 こま 「こんなに高い気温じゃ、リンクの表面がすべって困る。どうしてくれるんだ」 と、さっきから文句をいっている。 「ばくらのせいじゃないですから」 カッシ 1 が口をポカンと開けたのは、むりもない。ゝ しったのは、おとめだったのだ。 「お前らのせいだとは、いってないだろ」 モゴモゴとロごもりながら、カッシ 1 ははなれていった。ばくは、笑いをかみしめる。ほんの 何日か前のおとめなら、ぜったいにいわなかったせりふだ。 せなか ノ 76

7. 空のてっぺん銀色の風

こ、つしゃ ばくはふくれつつらで、学校のまわりを見てあるいた。小心者のおとめのことだ。校舎の中に じゅぎよう はいないにちがいない。第一、あのさんさんと冬の光がふりそそぐ中、授業をさばってひとりで いるなんて、ばくだってできやしない。外のほうがよっぱど落ちつく。 ちゅうしやじよう おとめはどこにもいなし うさぎ小屋のかげ、花だんのすきま、駐車場のすみ : だんだんばからしくなってきた。なんで、ばくだけがおとめをさがさなくてはならないのだろう。 ほけん 今までだって、おとめはしよっちゅういなくなってたじゃないか。保健委員がさがしにいったこ となんて、一度もない。手がかじかんで動かなくなる。カッシーのやっ、スケート大会の練習を おくらせたくないものだから、ばくにめんどうなことをおしつけたな。まあ、練習熱心なのはけ っこ一つなことだけどさ。 顔をあげて、のびをする。すみきった青い空、金色の日ざし、きんと冷えた空気 : : : 。夏の間 土におおわれていたグラウンドは、スケートリンクに姿を変えて、きらきらと光っている。先生 こお や生徒たちが雪をふみしめて平らにならし、その上からくりかえし水をまいて凍らせて作ったリ ンクだ。、 カラスのような地面の上を、クラスメイトたちがすいすいすべっていく。泳ぐ魚、いや、 すがた 鳥が飛んでいる姿に似ている。なんだか、ふしぎな気分になった。ばくだけが、世界を外側から すがた

8. 空のてっぺん銀色の風

おとめが、大きく息をはいた。ばくもつられてため息をつく。そうだよな。あのどハデなピン たかすぎ たかすぎ クのスカートは、高杉にまちがいないよな。どんなうわさを流すつもりなのか、高杉の兄さんか いた ら、またよびだしをくらうことになるのか : : : 考えだしたら、頭が痛くなる。 キーンカーン・コーンカーン : ばくとおとめをあざ笑うように、チャイムがのんびりとなりひびいた。

9. 空のてっぺん銀色の風

「ばく、一週間分の荷物まとめたんだ。悪いけど、うちまできてくれるかな。荷物運ぶの手伝っ てほしいんだ」 おとめが、もじもじと手を組みあわせてる。 「ほんとはひとりで運べるんだけどね、お母さんが、だめだって。お父さんをよんで運んでもら うなんていうもんだから、ばく、友だちがいっしょに持っていってくれるっていっちゃったんだ」 「いいよ。オッケーだ」 もけい おとめが、ほほえんだ時だ。人体模型のジョニーくんが、ガタンと音を立てた。あわててふり ろ、つ。か 向く。ピンク色のスカートが、ひるがえるのが見えた。パタバタと廊下をかけていく。おとめの 顔色が変わった。 「き、聞かれたかな、今の話 ? 」 「多分な」 「どうしょ一フ。ばく、フクロウのこととかいっちゃった ? 」 「いや、いってないと思う」 「それならいいし ゆいなちゃんだもんね」 でも、うそっいたことはばれるよね。だってさ、あれ、スピーカーの