ったんだ。 「お前にも聞く。お前は、おとめの友だちか ? 」 ばくは、そっぱを向いた。答えないでおこうと思ったんだ。だけど、そうはいかなかった。お とめが横目でばくを見ていたからだ。 「どうした、つかさ。答えよ。早く答えよ」 うるさいやつだ。こういういばりくさったやつが、ばくは世界で一番きらいなんだ。天をにら んではっきりいってやる。 「おとめは、ばくの友だちだよ。大好きな友だちだ ! 」 「つ、つかさくん」 おとめの目がうるみだした。ばくのほうにおずおずと手をのばしてくる。どこまでも女らしい やつだ。ばくは、おとめの手をつかまえて、力いつばいひきよせた。 「おとめは、ばくのだいじな友だちだあ ! 文句あるかあ」 かただ 肩を抱いて、大声でさけんでやる。木の枝が、またザワザワとゆれた。 「一つぬ一つ・ うそだったんだな。だから、人間なんて、きらいなんだ」 声が終わらないうちに、上からすご ) しいきおいで何かが落ちてきた。 えだ 2
「あ、ワラビっていうのはね、この森に住む神さまのひとりなんだ。森にはいろんな神さまがい るんだけど、その中でも一番小さな下っぱの神さまらしいよ。山菜のワラビって知ってる ? そ の近くで生まれたから、ワラビっていう名前がついたんだって」 ばくは、頭がクラクラした。森に住む神さまだって ? そんなものが本当にいて、それがあの 声の主だっていうのか ? うそだろ : ばち く、うそっいたから」 「罰があたったんだな、ば おこ 思わずけとばしてしまうところだった。こいつ、なんで怒らないんだ ? 友だちがいないって すがた いったのは、その時のおとめの本心だったにちがいない。それなのに、こんな姿にされてしまっ て : : : お人良しにもほどがある。 「でも、よかったな。つかさくんがぶじで」 なみだ 首をかしげて、目を細くする。しぐさが、人間のおとめのままだ。ばくは、不覚にも涙ぐんで しまった。正直にいおう。ばくは、おとめのことを友だちだなんて思ったことは一度もない。た だのクラスメイト、おとめがいった通りの関係だ。友だちだっていったのは、あの声の主をギャ フンといわせてやりたかったから。ただそれだけだったのに。 「だけどさ、これからど一つしょ一つ、ばく
かわいた音を立てた。そして、声がふってきたのだ。 「お前、うそっいた」 ばくののどが、ヒクッとなった。なんだ、今の声 ? 風みたいな声だ。ばくは、思わず、おと しせん めの視線の先を見た。やつばり何も見えない。おとめが、高い声でさけぶ。 「うそなんてついていないよ、ばく」 「ついた。お前、 友だちなんていないって、いった。ひとりばっちで、世界一不幸だっていった。 だから、ワラビ、友だちになった」 おとめは、くちびるをかんで、うつむいた。 「うそはついていない つかさくんは、ばくの友だちじゃないよ。ただのクラスメイト。保健委 員だから、さがしにきてくれただけだよ」 ばくはびつくりして、おとめを見た。小さなおとめが、ますます小さく見える。 「ほお、そうか。お則、つかさ」 急に声がばくをよんだ。 えたい 返事をしてしまってから、後悔した。こんな得体の知れないやつに、返事する必要なんてなか こ、フかい ほけん 2
「当たり前だ、、 はかたれ」 じじいは、鼻をならして、お茶をグビリとのんだ。ばくは気がつくと、あのフクロウのはくせ いを目でさがしていた。フクロウになったまま死んでしまった、じじいの友だち、何ていう名前 ゞ」っ ? 」ゝ 子 / 子 / 1 刀・ 「テルヒコだ」 じじいが、ボソッとつぶやしオ ゝこ。ばくは、湯飲みを落としそうになった。 「ばくの友だちは、シュン」 たかすぎ カた 高杉の兄さんが、何をいったのかわからなかった。ばくの目に気がついて、お兄さんは肩にカ を入れた。 「ばくの友だちもシマフクロウになった。三年前、君と同じ十二歳の時だ」 ばくは、今度こそ本当に湯飲みを落としてしまった。ささくれだったたたみが、茶色に染まっ てしく。どなり声が飛んでくるかと思ったのに、じじいは何もいわず、首にまいていたてぬぐい でたたみをふきはじめた。 おれがふくよ」 りよういち 「ばかたれ。亮一の話を聞け」 ノ 22
ゅうこ たかすぎ があった。何日か前、おとめがフクロウのとき、夜に見た優子さんだ。もうひとりは、高杉そっ くりのかつば頭をしている。 「あら、お客さん ? 」 かんけつめつりよう 目をまるくしているばくに、優香さんが簡潔明瞭に教えてくれた。 ゅ、つツ」 ゅうき 「カのふたりの姉、優子と優希」 きたじま 「あ、北島つかさです」 頭をさげる前にかつば頭に手をにぎられた。優希さんのほうだ。ばくの手をふりまわしながら、 大声をあげる。 「うれしいわあ、カの友だちだなんて」 「いっしょにケーキ食べましよ。力の友だちは、わたしたちの友だち」 「さあ、食べて食べて」 機関銃のようにしゃべりながら、ケーキやくだものを次々とだしてくれる。まるで、誕生パ あっとう ティーみたいだ。ひとりつこのばくは、すっかり圧倒されて、声もでない。 「北島くんっていったかしら。力をよろしくね」 きかんじゅう きたじま ちから ちから ちから ゅうか ちから ゅうき たんじよう ノ 6 7
じじいの目が、糸のように細くなってたたみの部屋を向いた。じじいの目の先を見て、息をの んだ。部屋のすみつこに、フクロウがいたのだ。まさか : : : おとめ ? いや、ちがう。よく見た ら、フクロウのはくせいだ。 「わしの友だちだ」 すがた 「ワラビってやつに、そんな姿に変えられてしまったんだ。かわいそうなやつだった」 せなか ばくは、つばをのみこんだ。じじいの背中がまるまっている。目は、糸のままだ。 「わしがお前くらいの時だったな。わしと友だちのテルヒコは、かえらずの森に入ったんだ。特 別な理由なんてないさ。ただ、大人たちが、入るなって、あんまりうるさいから、入ってやろう と思ったのさ。あるだろう、そういうこと」 ばくは、だまってうなすいた。 「わしらは、こうふんしてた。森の中を歩きまわったよ。何でも特別に見えたもんだ。木も草も フキの葉っぱだって、別世界のもののように輝いて見えた。その時だ。ワラビに会ったのは」 「じじい、見たのか ? 」 「ああ、見たとも。ものすごくチビで、うるさいやつだったな」 かがや
はそこにいるように思いだせる。 「あっという間に仲良くなった。同じクラスだったのに、今までどうして友だちにならなかった ケームもしたし、 のかふしぎなくらいだった。ばくらは、それからいつもいっしょに行動した。、 ハスケやサッカーもした。虫取りだっていっしょにやった」 たかすぎ すがたそうぞう 高杉の兄さんが、クワガタ虫を持っている姿を想像して、笑ってしまいそうになった。だけど、 たかすぎ 当たり前か。今から三年前のことだもんな。目を向けると、高杉の兄さんの顔がゆがんでいた。 おく 「それなのに、あいつはフクロウになることを選んだ。ばくらをみんな捨てて、あいつは森の奥 こ肖、ん ' たんだ」 しばるような声だった。ばくの目の奥に、この間見た夢が、フラッシュみたいにまたたいた。 「そ、それで ? そのシュンって人、どうしてるの、今 ? 」 「知らない」 「知らないよ。それつきりだ」 ばくののどが、ひからびていく。じじいの友だち、テルヒコさんと同じってことか。ひざの上 でにぎりしめた両手が、細かくふるえた。 おく ゅめ ノ 24
とっぜん 突然声をかけられて、集中力がとぎれた。 「一つわっ・ 久々の失敗だ。ばくは、はでにしりもちをついていた。 「いってえ」 ) と思うよ。北島つかさくん」 「あれ ? スケ 1 トはリンクの上でしたほうがいし たかすぎ すず 涼しい顔でばくをのぞきこんでいたのは、高杉の兄さんだった。切れ長の目を細くして雪の中 じようけんはんしゃてき すがた に立っている姿は、つららを思いださせる。ばくは、条件反射的にはねのいた。 しいよ。とってくったりしないからさ」 「そんなに構えなくてもゝ 「そんなこと : 「第一、きみはうまそうじゃないからね」 たかすぎ 高杉の兄さんは、ばくに手をさしだしながら、低い声でささやいてきた。 「きみの友だちのことだけどね」 お兄さんは、もう一度、今度ははっきりいった。 「きみの友だちだよ、シマフクロウになったっていう」 しつばい かま きたじま ノ 7 9
こえない まど おとめのお母さんは、何度も頭を下げながら帰っていった。窓から見える後ろ姿は、この間よ り小さくなったように見える。 まど ばくたちは、おとめのお母さんがじじいにくれたまんじゅうをほおばりながら、窓に目を向け ていた。 「じじい、おとめのこと知ってるのか ? 」 「まあな」 「このじじいは、ここらの主だからな」 「ふん、ばかたれ」 きみよう お つくづく奇妙な組みあわせだ。友だちがシマフクロウになって、置き去りにされた三人組か。 なんだかなさけない。 「ん ? 何だ ? 」 たかすぎ 高杉の兄さんが、ばくを見る。 「いや。なんでもありません」 ばくは、大口で、まんじゅうにかぶりついた。 すがた ノ 29
「わたしは、つかさってやつのほうを変身させてやるつもりだったのに。かばってやるなんて、新 ゅうじよ、フ 美しい友情だな、おとめ」 「てめえ、おとめに何をしたんだよ」 ばくは、今度は地面に向かって声をあげた。 「ちょっとした魔法。シマフクロウはいい。村を守る神だからな。お前たち、せいぜい仲良くす ると ) ししご」 そういうと、ふつつりと声がやんだ。 ゝゝ、ばけもの、声だけおばけー 「待ちゃがれ。このよう力し てごた ばくは、地面の雪をめちゃくちやけとばしてやった。だけど、手応えはなかった。ただ、雪が けむりのようにわきたっただけだ。 「仕方ないよ、つかさくん。あきらめよう」 くほんとに、うそをついたことになるんだよ。友だちなんていない 「だって考えてみたら、ば、 世界一不幸な子だって、ワラビにいってたから」 フクロウおとめは、うつむいて、するどいくちばしをヒクヒク動かした。