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検索対象: 空のてっぺん銀色の風
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1. 空のてっぺん銀色の風

「いや。わしは、そんな : たかすぎ じじいの声が小さくなった。ばくが耳をすまそうとした時、高杉の兄さんの声がとびこんできた。 お前もいやになる時がないか ? 人間でいるの」 とっさに返事ができなかった。 「だれだってあるよな。だからって、逃げてどうするんだよ」 たかすぎ 湯飲みをにぎりしめた手が、白く変わっている。ああ、そうか、と思った。高杉の兄さんは、 し シュンって人の意志を継いでいるのかもしれない。人のめんどうを見て、助けてやって、手かげ んせずに戦って : もうわがままで、泣き虫で、弱虫で、これ以上手がかかる子がいるのかしらって思うく らいです」 急に、はっきりとした声が聞こえた。 「でも、子どもってふしぎですよね。生まれてくれただけで、ありがたいっていうか」 たかすぎ 高杉の兄さんが、顔をあげる。 「ばくの友だちの : : : おとめのお母さん」 ? 一士 6 たかすぎ ばくのささやくような声に、高杉の兄さんは、黙ってうなずいた。じじいが何て答えたかは、 っ ノ 28

2. 空のてっぺん銀色の風

5 真夜中のさんぽ 外にでると、もう日が落ちていた。しばれがいっそうきつくなっている。かたい雪をふみしめ ながら歩く。足の下で、雪がキュンキュンと、歌うような音をだす。てぶくろをはめていても、 - 手がこ」えるくらい寒、い。ふきかけた自 5 は、 ) しっしゅん、ふわっと手を守るように広がった後、 青い空気にとけていった。 「夢でない世界で、生きていると ) しいきれるか ? 」 ゅめ じじいの一言葉が、耳にはりついてはなれない。夢だとしたら、この寒さは何だ ? 足の下にさ かんしよく こんいろ わるこの雪の感触は、頭の上に広がる紺色の空は ? 夢のはずがないじゃないか。夢の部分があ るとしたら、森の神さまとシマフクロウだけだな。ふみしめた雪が、キュキュ : : と小さな声で 笑った。 「おかえりなさい」 とっぜん 突然、声がして、ばくはひっくりかえるところだった。部屋におとめがいたのだ。しかも、フ ゅめ ゅめ

3. 空のてっぺん銀色の風

ったんだ。 「お前にも聞く。お前は、おとめの友だちか ? 」 ばくは、そっぱを向いた。答えないでおこうと思ったんだ。だけど、そうはいかなかった。お とめが横目でばくを見ていたからだ。 「どうした、つかさ。答えよ。早く答えよ」 うるさいやつだ。こういういばりくさったやつが、ばくは世界で一番きらいなんだ。天をにら んではっきりいってやる。 「おとめは、ばくの友だちだよ。大好きな友だちだ ! 」 「つ、つかさくん」 おとめの目がうるみだした。ばくのほうにおずおずと手をのばしてくる。どこまでも女らしい やつだ。ばくは、おとめの手をつかまえて、力いつばいひきよせた。 「おとめは、ばくのだいじな友だちだあ ! 文句あるかあ」 かただ 肩を抱いて、大声でさけんでやる。木の枝が、またザワザワとゆれた。 「一つぬ一つ・ うそだったんだな。だから、人間なんて、きらいなんだ」 声が終わらないうちに、上からすご ) しいきおいで何かが落ちてきた。 えだ 2

4. 空のてっぺん銀色の風

ょに、学校にいったり、ゲーセンで遊んだり : もうひとつの影が、ゆらゆらゆれる。答えはすぐに返ってきた。 「わるい。もう、もどりたくない。 シマフクロウのほうがおれにとっては、生きやすいんだ。た りよういち だひとっ気になるのはお前のことだけだ、亮一」 たかすぎ 高杉の兄さんが、息を止めたのがわかった。 「、も一つ いいから。おれのことは気にするな。お前はお前の道をいけよ。おれは、今のほうがずつ としあわせなんだ」 こっっ・ たかすぎ カた 高杉の兄さんが、肩をふるわせている。 「そこの子ども。では、い っ 1 しょにい ~ 、カ」 ふたつの影が、 ばくを見る。ばくは自分がプリキの人形になった気がした。なかなかうなずく ことができない。 「どうした ? 決心がっかないのか」 「さあ、いっしょにい プ」つ」 影から手がのびてくる。よく見ると、それは手ではなくて、シマフクロウの羽だった。 ノ 60

5. 空のてっぺん銀色の風

七時 : : : 一日中 ? ハッとした。ばくは、シマフクロウになったはずだ。手を見る。五本の指 ヾジャマのズボンから、 がちゃんとあった。力を入れると、一本ずっちゃんと動く。足、足は ? ごばうみたいな足がニョッキリとはえている。 「何してるのよ、つかさ ? 」 「ママ、ばく : : 変なところない ? 」 「一つ、ーメル」 ママの顔が近づいてくる。けものくさいにおいが鼻についた。 「全部変」 「お父さんにそっくりの顔になってきたわ。変な顔」 せ ママは、カカカ : : : と笑うと、ばくに背を向けた。 「さてと、早くシャワ 1 あびなくちゃ。犬くさくてたまんないわ」 あっけにとられているばくを残して、ママは部屋をでていってしまった。 鏡の前に立つ。細いふたつの目、低い鼻、うすいくちびる、はちみつ色の手と足 : : : 人間だ。 どういうことだろう。ばくは、夢を見ていたんだろうか。それとも、こっちが夢 ? ほっぺたを ゅめ ゅめ ノ 63

6. 空のてっぺん銀色の風

たかすぎ ばくは、立ちあがった。高杉の兄さんが、あわててばくの手をひつばる。その手をふりほどいた。 夢と同じにしてはいけよい。 「おとめ」 みのが おとめは、すぐにばくを見つけた。目がかかやいたのを、ばくは見逃さなかった。 「どうしたの、つかさくん。こんなところにきて」 「決まってるだろ。おとめをさがしにきたんだ」 せなか おとめはいっしゅん黙って、それからばくに背中を見せた。 「いやだなあ。そんなこといって、ほんとはばくをばかにしにきたんでしよ」 「なにいってんだよ」 「ばく、知ってるんだ。つかさくん、親切なふりしてたけど、ぜんぜんちがうって」 「は ~ め ? ・」 たかすぎ 高杉の兄さんが、もう一度、ばくの腕をひつばった。ばくは、今度は力を入れてふりはらった。 「本当はばくのこと軽べっしてるでしよ。それなら最初からばくなんてほうっておいてくれれば よかったんだ。そしたら、シマフクロウにだって、もっとすんなりなれた。よけいなこと考えな くてすんだんだよ」 ゅめ うで ノ 5 ノ

7. 空のてっぺん銀色の風

らついているんだろう、そのうちでてくるからほうっておけって。ほら、ばくって、そういうふ うに見えるタイプでしよ」 ゝこ。まくは、とっさに何もいえなかった。そ一つい一つふ一つって、ど一つい一つタイ おとめがつぶやしオ プなんだろう ? 「いいんだ、それで。そのとおりだからさ」 すがた おとめは、鼻をすすると小さく笑った。首をかしげて笑う姿が、実に女らしい 「だけどっかさくん、どうしてばくがここにいるってわかったの ? 」 「あ、ゝ しや、ただ、なんとなくだ」 「ふ 1 ん」 ばくをよぶ声がしたなんて、いえやしない。おとめは、首をかしげたままばくをじっと見た。 「ほんとに一つれしかった。ありがと一つ」 白い手をばくの前につきだした。ばくは、ため息をのみこむ。なんだって、こいつは、こうド ハラバラとすご ) ラマチックなんだ。しぶしぶ手をだしかけた時、木がゆれた。それから、 おいで、小さな木の実が落ちてきたんだ。風もないっていうのに。 「 ) こ、いたたた。なんだよ、これ ? 」

8. 空のてっぺん銀色の風

ゅうこ たかすぎ があった。何日か前、おとめがフクロウのとき、夜に見た優子さんだ。もうひとりは、高杉そっ くりのかつば頭をしている。 「あら、お客さん ? 」 かんけつめつりよう 目をまるくしているばくに、優香さんが簡潔明瞭に教えてくれた。 ゅ、つツ」 ゅうき 「カのふたりの姉、優子と優希」 きたじま 「あ、北島つかさです」 頭をさげる前にかつば頭に手をにぎられた。優希さんのほうだ。ばくの手をふりまわしながら、 大声をあげる。 「うれしいわあ、カの友だちだなんて」 「いっしょにケーキ食べましよ。力の友だちは、わたしたちの友だち」 「さあ、食べて食べて」 機関銃のようにしゃべりながら、ケーキやくだものを次々とだしてくれる。まるで、誕生パ あっとう ティーみたいだ。ひとりつこのばくは、すっかり圧倒されて、声もでない。 「北島くんっていったかしら。力をよろしくね」 きかんじゅう きたじま ちから ちから ちから ゅうか ちから ゅうき たんじよう ノ 6 7

9. 空のてっぺん銀色の風

むし がでたらめ話でもいってあげないと、おとめなんてクラス中から無視されて、いるかいないかわ きたじま かんなくなっちゃうんだから。そんなこともわかんないなんて、北島って、バカじゃないの」 ばくのほっぺたが、熱くなった。ばくも、きっと今、トマトだ。 「お前、ごうまんだぞ。すっげえ、やな女」 たかすぎ たかすぎ なみだ いったとたん、高杉の目から涙がころげ落ちた。ばくは一瞬一言葉をのみこんだ。まさか、高杉 が泣くとは思わなかったのだ。 きたじま 「北島だって、すっげえ、やな男。あんたなんて、お兄ちゃんになぐられて、手とか足とか折ら れて、目だってお岩さんみたいにはれあがればよかったんだ」 : 。ばくがにぎりこぶしを作った時だ。まっすぐ何かが飛んできた。 「うわっ」 「しやっこ ) たかすぎ 雪玉だ。ばくと高杉の頭に一個ずつ、大きな雪玉が命中していた。 「やだあ、だれよ。こんなことするの」 「よう、こっちだ、こっち」 声のほうを見ると、成沢のじじいがしわしわの顔をほころばせながら、手をふっていた。この なるさわ いっしゅん ノ 04

10. 空のてっぺん銀色の風

「ああ、ばくの二番目の姉さんだよ。この人は、クラスメイトの : : : 」 ゅうか 「北島つかさくんだね。よろしく。優香です」 ゅうか 優香さんは、ばくの手をつかんでぶんぶんふった。手がちぎれるかと思った。 「いやあ、うれしいなあ。力に友だちができるなんて、魚が空を飛ぶくらいびつくりだよ」 かみきんにくも おとめとのあまりのち力し冫 ゞ ) こ、まくは金魚み 刈りあげた短い髪、筋肉の盛りあがった腕 : たいに口をばくばくさせることしかできなかった。 ゅうか 「優香姉さんは、中学校の体育の教師なんだ。今日は学校は、もう終わり ? 」 わす 「ちょっと忘れ物とりにきただけだから、す ぐいくよ。これから、バレ 1 部のやつらをきたえて やらなくちゃ」 それから、ばくらを見て口をまげた。 てんきん ちから 「あたしの転勤さえなけりや、力もっかさくんも四月から、うちの学校の生徒になるね。楽しみ だなあ」 ゅうか カカカ : : : と大きな声で笑って、優香さんはばくの背中をいきおいよくたたいた。 なみだ すごい力だ。涙がでる。 きたじま ちから * 一よっし うで せなか