4 、刀。し ? ・」 誠志郎は少し考えてから、首を横に振った 「なんにも感じません。怨念とか、そういったものは全然 : 。この場所は好きじゃないです けんおかん けど、それは純粋に生理的な嫌悪感ですから。なにしろ、どっちを向いても骨、骨、ミイラ、 骨、ですよ」 「イタリアのカタコンべは立派に観光名所になってるぞ。ここも公開したら物好きが連日、大 勢来るな」 「ミイラ見にですか : : : 」 先輩は小さく笑ってまたシャッターを切った めずら ふじわら 「そりやそうだろう。珍しいし。即身仏や東北藤原三代のミイラぐらいしか、この国にはミイ ラがみつかっていないんだから。日本みたいに湿度の高い環境じや「自然にミイラができるは ずもないし」 「じゃあ、ここのも ? 」 「当然、ひとの手が加わっている。ここのミイラは人工的に作られたものだ」 先輩は自信たつぶりにそう断言した。
れるわけがない。こういうとき、どうしても雅行のーー成人の助けが必要なのだ。いまいまし ツ」とこ。 「なるほど、わかりました」 宗一郎はそれ以上雅行たちを困らせるような質問はせず、身を乗り出して大穴の底を覗きこ んだ。 「これですね。突然、境内にあいた穴とは。 : そういえば、入らずの森では地下からミイラ が数体出てきたとか。あれと関係あるなんてことはないでしようね。ここからも何かみつかる とか」 内心、ぎくりとしたものの、柊一も雅行もそれを顔に表すようなへマはしない。 「ただの陥没ですよ。地盤が緩んでいたんでしようかねえ。こちらではミイラどころか、小指 の骨一本出てきはしません」 雅行は平然と言い、柊一もポーカーフ , イスで通す。本当はこの五郎神社の地下にも広大な どうくっ 洞窟が広がり、ミイラどころか、でかい幼虫や白いサンショウウオが大量発生していたのだが そんなことはとても言えない。 「この穴の埋め戻しは神社の積み立て金を使ってもらって、足りない分を桜田家が出資しまし よう。業者の手配もこちらに任せていただけますか ? 」 「それはもう、願ってもないことで」 ゆる
「いつでも逢えるしね ? 」 「冗談じゃない ! 」 思わず怒鳴ったが、事実そうなるだろうことは彼もわかっていた。 誠志郎は柊一と別れると、早足で『入らずの森』の奥へと向かった。 ほ ) ら 木々の間にゆるく張られたロープをまたぎ越し、〈現場〉へと入る。そこでは小さな石の祠 が横倒しにされていた。そのかたわら、大木の根もとには、ばっかりと穴があいている。以前 かんまっ はその場所に祠が建っていたのだが、 突然、地面が陥没したのである。 ひとひとりなんとか通れそうなその穴には、梯子が下ろされていた。誠志郎はためらいな く、その梯子を使って地中に潜る。 地下は大きく広がっていた。ライトも引きこまれていて、それなりに明るい。 照らされてい るのは四百年以上の昔、ここに密かに運びこまれた隠れキリシタンのミイラだ。 ミイラは一体ではない。あと四体。両手をだらりと垂らして、壁にもたれかかっている。ロ かす が微かにあいて、笑っているようなミイラもいる。 どくろ 全身そろっているのが、その五体だ。あとはもう数えられないほどの髑髏が積みあがってい る。骨をあたかも装飾品のように組み合わせて置かれた場もある。舟山高校の在校生たちは
「関係者以外立入禁止 ? そっちこそ関係外の人間じゃないのか ? 」 さっそく皮肉を言われて、誠志郎は不快そうに眉をひそめた。両腕を組んだのも、無意識に 自分を守ろうとしてだろう。友好的な間柄でないことを、彼のほうも自覚しているのだ。 「それは心外だな。ばくらは『入らずの森』の真下に発見されたカタコンべの調査に来ている んだ。五郎神社に立ち入ったわけじゃない 。ここでは御霊部のほうが部外者だ」 「ヤミプンは文化財を扱うのが本筋だろ。カタコンべのミイラが文化財になるのか ? 」 「なるとも。それとも、ミイラは御霊だって主張するつもりか ? 」 「その可能性はある。現に、カタコンべのミイラは迫害された隠れキリシタンのものだ。さら に『入らずの森』はいろいろな怪奇現象を起こしているし、調査を要する物件であることは間 あさ しない。なのに、そこへ骨董品漁りが本分のはずのヤミプンがしやしやり出てくるのはおか の しくないか ? それとも、調査なんて表向きで、実は墓泥棒をしでかそうと企んでるんじゃな をいだろうな」 夜 誠志郎は大きく息を吸った。挑発に乗らぬよう、自分を抑えているらしい。そこへ、森の奥 狩から亠尸がかカった 聖「ーーー坊や ? 」 若い男の声だ。ヤミプンの仲間らしい こ。
『入らずの森』の地下から大昔の人骨が出てきたとしか聞かされていないが、実際はこういう とんでもないものがみつかったのであった。 誠志郎ひとりだったら、こんなところには絶対に入ろうとしなかっただろう。彼は並外れた 霊能力を買われてヤミプンにスカウトされた身だ。こういう場は特に苦手である。 だが、これは任務の一環だ。私情はできうる限り抑えなくてはならない。それに、、まはひ とりではなく心強い先輩がいる。 「何かトラブッていたのかな ? 」 壁際のミイラの資料写真を撮っていた先輩は、ファインダーを覗きこんだままでそう尋ね 「いえ、御霊部の飛鳥井が外をうろうろしてただけですよ」 「御霊部ねえ」 の またた フラッシュが瞬き、ミイラのシルエットが一瞬濃くカタコンべの壁に浮かびあがった。 を「そういえば、隠れキリシタンは御霊になるのかな ? 彼らは為政者に迫害され、老いも若き たた 夜 もむごい殺されかたをしている。これで強烈な祟りでも発生すれば文句なく御霊に認定される 狩んだがーーあんまり、そういう話は聞かないな」 聖「キリスト教徒だから祟らないんですかねえ」 菊「神の概念が違うのか、それとも、他に理由があるのか。彼ら、何か訴えかけたりしていない こ 0
ゴエル・ミシャ、ツト・ ャイヒ 主は汝の魂を墓から貯い出し ハムアテレーヒ・ヘセッド・ヴェラハミ・ーム 慈しみと哀れみの冠を授けたもう 謳いつつ、ゆっくりと進んでいくさまは葬儀の行列のようで、ひどく痩せ細った彼らのシル ェットはまるでミイラのようだった。 や おわり
のど 雅行はおかしそうに喉で笑う。 「こう見えても、柊一はプロだから。心配ないよ」 どこを指して『こう見えても』と称するのか。柊一が問いただす前に、萌が言った。 「でも、あの、『入らずの森』にも動きがあったし : : : 」 びくり、と御霊部のふたりは反応した。『入らずの森』は彼らにとっても気になる場所なの 心霊スポットだからという、そんな単純な理由ではない。『入らずの森』はよくある怪談の おんしよう 温床とは明らかに違う。 「動きって ? 」 柊一のし 1 、に、早紀子が答えた。 「調査が入ったのよ。『入らずの森』の地下を調べるんですって」 彼女と萌は『入らずの森』の地下に何があるかを知っている。行方不明になった五郎神社の 宮司を探しに、柊一が地下に広がる大洞窟へ降りていった際、地割れが生じ、たまたま境内に いた早紀子と萌はそこから地下へ転落してしまったのだ。 地中で彼女らと柊一は合流し、広大な地下迷宮の出口を求めていっしょにさまよった。疲労 と絶望にさいなまれつつも励まし合い、たどり着いたのが『入らずの森』のちょうど真下 そこには人間のミイラが、骨が、整然と並んでいたのである。 0 っ ) 0 。
は考えていない。 どうせ、ヤミプンは品物中心。あそこの遺物を二、三 ミイラ一体と骨少しといったとこ ろだろうーー・採取する程度で終わるはずだ。そのデータも、御霊部の部長が手配すればこちら の手に入る。柊一自身は労せずとも、カタコンべの情報を得ることできるのだ。 「『入らずの森』はいまのところ除外、つと」 そこ以外で、怪しい場所はないか。柊一は精神を集中させ、もう一度、鈴によるダウジング を試みた。 『入らずの森』の吸引力を、まだ指先に感じる。これを意識から消し去って、鈴を吊るす箇所 を移動させる。微妙な引きを地図の北側に感じ、柊一はそちらへ鈴を持っていった。 何かが北にある。 すぐに鈴は鳴るだろう。 かす 柊一のロもとに微かな笑みが浮かんだ。期待が高まっていく。 おおまかな場所さえわかれば、あとは現地に直接足を運んで、もっと本格的に探せばいし この程度のこと、自分ひとりで充分。ヤミプンの誠志郎のようこ、、 ししつまでも先輩に坊や呼ば わりされたりはしない。 が、鈴が鳴るより先に、にぎやかな足音が聞こえてきた。 「飛鳥井くーん ! 」