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検索対象: 聖霊狩り : 夜を這うもの
87件見つかりました。

1. 聖霊狩り : 夜を這うもの

んできて世界が一変したのだ。 光の中には女がいる。翼を持った女だ。この輝きは彼女自身から発せられていた。翼自体は きわだ 闇の色なのに、女は光に満ちている。だからこそ、翼の暗さが際立つ。彼女の有している力の 強さも際立つ。 あんど 光に耐え切れなくなったのだろう、あっという間に毒虫たちは消えた。助かったと安堵する べきだが、女の放っ光は柊一にとってもまばゆすぎた。熱すぎた。 彼自身の身体も、鉄板の上であぶられているかのように熱くなった。息苦しい。汗をぬぐお うとするが、腕があがらない。 それでも、無理をして左腕をあげた。右は全然だめだが、こちらならなんとかなった。しか し、せつかくあげたその左腕も、ふいに誰かにつかまれてしまった。振りほどこうとしても、 のまったく力が入らない。 いらだって、声を出した。小さな声だったが、柊一はその自分の声で目を醒ました。 這 まさゆき 柊一の腕をつかんでいるのは雅行だった。どうして同僚がこんなところにいるのか思い当た 霊らず、ばうっとしていると、雅行は柊一の腕をもとの位置にーーー布団の中に戻させた。 聖 「無理に起きようとするな」 見回せば、窓辺に白いカーテンが揺れていた。小ぎれいで殺風景な洋室だ。小さな洗面台と

2. 聖霊狩り : 夜を這うもの

「じゃあ、帰りましよう」 事もなげにそう言って、美也はサソリをぶら下げたまま、すたすたと歩き出した。 ′」ろう もはやわが家と呼んでもいような五郎神社の拝殿内で、柊一は昨夜、霊園で採取した発光 しがい サソリの死骸を前に、低くつなっていた。 昼の明かりの中では、もっ青く光ってはいない。全体的に色は黒っほい。ただし、脚や尾は 胴体より、やや黄色がかついる。尾は細く、胴体部分から急に太くなる。目立つのはハサミ きやしゃ 付きの前脚。それ以外の四、の脚はかなり華奢だ。 なが 死骸とはいえ、こんなにじまじとサソリの現物を眺めるのは初めてである。あまり気持ち いいものではない 0 しかしそういうものに限って、見始めると目が離せなくなるから不思議 の うだ。こうして、最初の嫌悪 ~ さえ乗り越えてしまえば、誰でもサソリマニアへの道に転がり落 をちてしまうのかもしれない 夜 柊一は台所から持ってキた、いちばん長い菜轡でサソリの死骸をひっくり返した。裏側は ケ狩「うわっ」な感じだ。節々はっきりした胴といい、細い脚のつき具合といい、ゴキプリじみ 聖 ていて、ぞわぞわくる。 ちょっとした好奇心でひっくり返してみたことを後悔し、柊一はもう一度菜箸で表向ぎに返

3. 聖霊狩り : 夜を這うもの

「うちの高校の『入らずの森』に次ぐ心霊スポットだぞ ! 」 ふねやま 『入らずの森』とは、地元の公立高校・舟山高校の敷地内にある森のことである。 グラウンドに食いこむ形で存在するその森は、いままでにも何度か潰してしまおうという計 たた 画が持ちあがったが、そのつど果たされずに来た。祟りがあると噂されていたからである。 実際、ほんの数カ月前にも、森を潰してグラウンドを拡張との話が盛りあがっていたのだ が、数々の噂ーーーサッカー部員が森の草むらで何者かに足首をつかまれた、誰もいない廊下を とどろ 大勢の足音だけが轟いていった、不気味なうなり声が夜の学校中にこだました等々ーーが発生 し、拡張計画も流れてしまったのである。 そこへ最近、学校関係者のみならず街中の話題になるようなニュースが飛びこんできた。 『入らずの森』の地下から、人骨が出てきたというのだ。 まこら ちんぎ 森の中にいつの頃からか鎮座していた小さな石のが突然、地中に陥没。その下から、複数 し ) う もの人骨と戦国時代のものらしき遺構が発見された。近々、文部科学省から調査隊も派遣される 這らし、 夜 この話を聞いた在校生は例外なく、「ああ、やつばり、あそこには何かあったんだ」と納得 ばくぜん あんど 狩した。漠然とした祟り話にとりあえすの理由が付与されて安堵したと言ってもいい。森がらみ 聖の怪談を知らぬ者は、舟山高校ではモグリと呼ばれても仕方ないほど、その話は代々語り継が れてきたのだ。 っ かんばっ

4. 聖霊狩り : 夜を這うもの

っこ、、どんなことをされたん 「敵に拉致された楠木さんを救い出したあと、『あ、つこ、 くつじよくしゅうち だ ! 』と迫る飛鳥井くん ! 屈辱と羞恥から、泣きそうになりながらもけして口を割らない からだ 楠木さん ! じれた飛鳥井くんは『だったら、この身体に直接訊いてやる』と 「それは : : : まずいかなあ : ふいに、萌が立ち止まった。 「萌ちゃん ? 」 せつかく創作意欲に燃えているところへ水を差すようなことを言ったので、気分を害したの だろうか ? 彼女は、あの目尻の波打ちを消 不安になった早紀子は足を止め、友人の表情をうかがった。 , して、真面目な顔をしていた。何かを決意したような、思い詰めた目だ。 の「早紀ちゃん」 、も 「何 ? 」 這 を「わたしね、飛鳥井くんと楠木さんはベストカップルだと思うの」 「はあ、なるほど」 にぶ 霊「でも、飛鳥井くんは素直になれそうもないし、楠木さんは鈍そうだから、このままだといっ 聖 までたってもふたりは平行線のままだわ」 そのほうがいいのではないかと早紀子は思ったが、ロにはしなかった。

5. 聖霊狩り : 夜を這うもの

182 「昨日のことは昨日のことだ ! 」 「ああ、そうか「そおいうことを言うのか。この、恩知らずの御霊部めい」 「でしやばりでお節介なヤミプンめⅡ」 相性がもとから悪いのか、レベルが似通っているために反発しあうのか。せつかく友好的な 雰囲気が漂い出していたのに、それも長くは持たず、結局はこうなってしまう。 こんな彼らの様子を、草葉の陰からほくそ笑みつつ見守っている者たちがいた。萌を筆頭に した女の子三人である。正確には、ほくそ笑んでいるのは萌のみだが。 「やってる。やってる : : : 」 自分たちが身を隠しているのがよそのご家庭の墓石であることも念頭から消し飛ぶほど、萌 たんでき は個人的な楽しみに耽溺していた。美也の視線は冷静である。ただひと一言、早紀子の耳もとで ばそっと、 「彼女、変わってるわね」 「わははは」 美也が言うのもどうかと思い、早紀子は笑ってごまかした。 「それにしても 1 ー」 柊一たちに気取られぬよう、早紀子は小声でつぶやいた。 「彼らの言うとおり、妙なこと力ししし ; 、つよ、よね。ジガバチの次がサソリ。安内が隠れキリシタ

6. 聖霊狩り : 夜を這うもの

息せき切って境内に走りこんできたのは、セーラー服姿の早紀子と萌だった。 柊一はあわてて鈴と地図を隠そうとし、すぐに、そんなことをする必要はないのだと思い直 してやめた。 「あ、ダウジングしてたんだ」 早紀子が地図と鈴を見て、すまなそうな顔をした。 じゃま 「邪魔してごめん」 「いや、べつに : 素直に謝られると怒るに怒れない。柊一はごそごそと地図を脇へ押しやり、彼女らに向き直 「で、今日は何 ? 」 また、手料理を差し入れに来てくれたのだろうと柊一は思っていた。どうせ仮の住まいなの の だからと、彼はろくに食糧の買いこみもせず、近くのコンビニでバンや弁当を買い、食事に当 そうざい をてていたのだ。そんな状態だから、萌が手作りの菓子や惣菜を持ってきてくれるのが実は嬉し 夜 かったりする。当人にそれを教えると、三食宅配されそうで、とても言えないのだが。 狩予想に反し、萌はランチボックスや紙袋の類いを差し出しはしなかった。代わりに、ためら 聖 いかちに、 おもしろ 「今日、学校で面白い話を聞いたんだけど : : : 」 けい ~ い たぐ わき

7. 聖霊狩り : 夜を這うもの

はら あすかい 「だって : : : 飛鳥井くんは神社関係者でしょ ? 神主さんみたいなものよね。神主さんはお祓 ひとだま くわ いもやるんだから、心霊現象には詳しくあるべきじゃない。なのに、人魂の正体をサソリだっ て見抜けなかったわけだしさ」 弓引に理由づけをして、ごまかした。萌がさりげなく目で「よくやった」と合図を送ってく る。 美也はこの説明に納得しきれないのか、ほんの少し首を傾げた。 「でも、敏感だったわ」 「え ? ああ、鈴の音がうるさいって文句つけたこと ? あれはただ神経質なだけよ。ザラリ にだって、死んでるってわかっているのに菜箸でさわってたじゃない。情けない」 「サソリには毒があるから。死んでいるからって、一素手ではさわらないほうがいいわ」 むじゅん 素手でサソリの尾を持ってぶら下げた美也が言うのも矛盾していた。しかし、毒があるのは の おか 事実である。うつかり尾の先に指をひっかけて、そこから毒に侵されないとも限らない。 を四つ辻に来ると、美也は唐突に、 夜 - 「じゃあ、わたしはここで」 狩それだけ言ってい角を曲がっていった。早紀子と萌はあわてて、さよならと美也の背中に叫 、聖 んだが、返事はない。振ク返りもせず、すたすた歩いていく。実にあっさりした別れかただ % が、美也らしくもあった。

8. 聖霊狩り : 夜を這うもの

「やだ、妄想だなんて人聞きの悪い」 萌の頭の中で繰り広げられているビジョン。それは妄想としか言いようがないのだ。 彼女は男同士の恋愛を取り扱ったポーイズ・ラブが大好きなのである。よって、見目良い男 性がふたり以上いれば、必然的にそこには燃えるような恋愛感情が生まれ、あんなこんなの愛 つねひごろ 憎劇が繰り広げられるのが「自然の成り行き」だと、常日頃、豪語している。 そんな思考回路を持っ萌の前に現れた美少年、飛鳥井柊一。しかも、御霊部という謎の組織 に属し、妖しい闇の世界に生きている。 えじき 彼が妄想の餌食にされぬはずがあろうか。いや、ない。絶対にない。 萌は伏し目がちに、しかし、その瞳をきらきらと輝かせつつ、ささやいた。 「やつばり : : : 飛鳥井くんはヤミプンが気になって仕方ないのね : : : 」 「そりやそうでしようよ。管轄が違うとかなんとかいったって、やってることはどっちも化け 物退治でしよ。似てるもん。気になって当然」 化け物退治のひと言で、御霊部とヤミプンをひとつにくくってしまう早紀子も極端だが、極 端さでは萌も劣らなかった。 「ううん、飛鳥井くんのヤミプンへの執着ぶりにはただならぬものがあるわ」 「執着っていうのかなあ」 「本人はまだ気づいていないかもしれないけど : : : あれは〈愛〉よ ! 」

9. 聖霊狩り : 夜を這うもの

早紀子と萌は笑顔で近づいてきた。早紀子は遠慮がちで、友人に引きずられて不本意ながら やってきましたといった感じがした。萌は目尻を微妙に波打たせて、本当に嬉しそうに笑って 何がそんなに楽しいのか、よくわからない。それが柊一の正直な感想だった。 御霊部に関わったことで、彼女らは普通では味わえないような怖い思いもしている。懲りて もよさそうなはずなのに、どうでもいいような理由ーーケーキを焼いたから持ってきたとか、 いなか こんな田舎で退屈してるだろうと思ってとかーーーをつけて、足繁く通ってくるのである。夏休 みもまだ中盤で自由に動ける時間がたつぶりあるらしく、それこそ訪問は二日とあかない。 うらや 羨ましい話である。柊一も彼女たちと同じ十六歳。御霊部の任務がなかったら、恋や部活動 や勉学など、ティーンエイジャーらしいことに励んでいるはずだが : 「クッキー焼いてきたんです ! 」 の 萌がそう言って、かわししノ 、、、ート柄の紙袋を両手で突き出した。 を「いつも、ありかとう : ・・ : 」 夜 と、柊一には見える 勢いに押されて、柊一は紙袋を受け取った。邪気のまったくない 狩ーー顔をされると拒むに拒めない。 ) それに、女の子から手作りクッキーをもらうというのも、 聖けしていやではない。差し入れの味だって悪くないのだ。 「あのさ」

10. 聖霊狩り : 夜を這うもの

ういう名の鳥はいないのだということが判明しました。俗にシラサギと呼ばれるものは、ダイ サギ・チュウサギ・コサギの三種のことなんだとか。 では、わたしの心をときめ・かせたディートリッヒは、この三種のうちのどれ ? 、黄色い素足 とく′ト - う が決め手となりました。あれこそがコサギの特徴だったのです ! それからしばらくして、オープン・カレッジだの生涯学習の講座だののパンフレットを眺め ていたわたしは、専門家が案内してくれるバードウォッチングの企画を発見しまして。双眼鏡 のレンタルもしてくれるそうなんで、こりやもう行かなくっちゃと、友人一名を引きずりこ さんけいえん み、さっそく申し込み。横浜・三渓園へ。 初めての双眼鏡だあ ! 鳥がぐぐっと近くなって、細かいところもはっきりくつきり。そう して見てみると、あのハシプトガラスだって全然違って見える ! 「アニキ ! ノ、、 、ノブトのアニキい」 と絶叫したくなるようなりりしさよ。そうなんです、短く立った頭の羽根がスポーツ刈りつ いのくまとめきち ばくて、まるで柔道部のエース・猪熊留吉くん ( 仮名 ) みたいよーっロ ′一うかい そのハシプトガラスが突如、三渓園の池に入って水浴びを始めたんですが、とっても豪快で と 豪快で。練習の終わった柔道部のエース・猪熊くんが、蛇ロの下に直接頭を持っていってジャ あ バジャパ汗を流しているみたいなんですよ。・瀬川としては思わず、「あの、これ : : : 」とタオ ルを差し出してあげたくなりました。きっと、びしょ濡れになって顔を上げた猪熊くんは、瞬