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検索対象: 聖霊狩り : 夜を這うもの
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1. 聖霊狩り : 夜を這うもの

「秋祭りの件もお話したいんです ? ・たいした祭りじゃありませんが、五郎神社では二十年に一 ほう . のう・ 度、秋祭りに巫女舞いを奉納するんですよ」 それを聞いて、御霊部のふたりは互いに目配せをし合った。 二十年に一度。 五郎神社では二十年に一度、しかもそれが冬温かく、春先に雨が多かった場合は要注意、と の伝承があった「二十年に . 一度、、巫女舞いを奉納するというのも、その伝承と関係あるのだろ その可能性は大だ。ここは義民・山田五郎左衛門を祀る平凡な神社のはすだったのに、実際 は二十年ごとに発生しかねない人喰い昆虫を監視し、かっ、害を与えないでくれとあがめたて やしろ まつる社だった。いままで気づかなかった謎の答えが、すぐそこにごろごろ転がっていること もありえるだろう。 ( まったくこの街は : : : ) 厄だとくべきか、やり甲斐があると喜ぶべきか。 T その舞いのことなんですが、そちらに異論がなければ、ぜひとも : : : 」 さらに詳しく話を詰めようとする宗一郎を、雅行が押しとどめた。 「こんなところで立ち話もなんですから、社務所のほうにでも。神社庁からの書類もお見せし ますので」

2. 聖霊狩り : 夜を這うもの

縁がひそんでいるのか。人食いジガバチはなんとか退治したが、これで終わったといえるのか 」 , つか それをさらに詳しく調査するため、柊一はもうしばらくこの地に滞在することになったので あった。 寝泊まりする場所は、そのまま五郎神社を使わせてもらうことにした。宮司はすでにいな ふか い。ジガバチに捕らわれて地下にひきずりこまれ、無数の卵を生みつけられたあげく、孵化し え た幼虫たちの生き餌にされてしまったのだ。 御霊を祀る神社の宮司だったというだけで、彼は普通の人間であり、一時的に協力者になっ てくれたものの、本来、御霊部とはなんの関係もない一般人である。その彼を守りきれなかっ ぎんき た慙愧の念は柊一とていだいているが、怨霊相手に危険はっきもの。済んだことに気をとられ して。し力に御霊部でも任務遂行中に命を落としかねない。冷たいようだが、ここ は割りきるしかなかった 「穴の処理も大事だけど、神社庁との話はついているのか ? 」 柊一が尋ねると、雅行は軽くうなずいた。 「もちろん。五郎神社を調査の拠点にすることは伝えておいたし、新しい宮司の手配も待って うじこそう もらった。で、むこうさんいわく、境内の穴の件も含めて、あとのこまごましたことは氏子総 代と話をつけろだと」 ねん

3. 聖霊狩り : 夜を這うもの

言いにくそうに、早紀子は少しロごもりつつ話しかけてきた。 「さっき、桜田先輩が石段降りてくるのを見たんだけど : : : 」 「桜田先輩 ? 彼、きみらの先輩なのか ? 」 「うん、舟山高校の」 なるほど、あの高校の卒業生なのかと柊一は勝手に思いこんだ。 「どうして、先輩がここに ? 」 「ああ。桜田家って、五郎神社の氏子総代なんだと。で、親が来れないからって代わりに彼が 話をしに来たわけ」 「氏子総代 ? 」 、「氏子の総代、代表。神社の。ハトロンさん。この大穴、埋める業者を手配してくれるって」 柊一が穴を指差すと、早紀子は納得したように、ああとつぶやいた。 「そっか、埋めるんだ。こ 0 ままだと危ないもんね。あのイモ虫とかが這い上がってくるかも しれないし」 爿この穴はあそことは直接繋がってないんで大丈夫だとは思うけど、でも、参拝客が落ちたら 面倒だろ」 「こんな神社、普通は誰も来ないけど : : : 」 「秋に祭りがあるって聞いたぞ」

4. 聖霊狩り : 夜を這うもの

たいらのまさかど みちぎねかんだみようじん 道真、神田明神の祭神・平将門などがその代表格だ。 元が怨霊なだけに、強大な力を有する荒ぶる神。その扱いは慎重を要する。よって、彼らの ような特殊な能力を持っメンバーが御霊部という闇の組織を形成し、密かに監視の目を光らせ ていた。 はる 御霊信仰は遙か昔より、民間の間に深く根づいている。何も、道真や将門といった有名人ば かりが御霊としてあがめたてまつられているわけではない。柊一たちがいまいる五郎神社 地方都市のこの小さな神社も御霊を祀っているのだ。 ねんぐ やまだ こ , ) ・・の祭神は「江戸時代の義民・山田五郎左衛門。厳しい年貢の取り立てを行う城主に抗議 はりつけごくもん して、民衆を率い、一揆を起こすも失敗。磔獄門にされ刑死する。彼の怨霊は城主の一族に こんりゅう しず 祟り、その霊を鎮めるためにこの神社が建立されたのであっ、た。 わりによくある話、といえなくもない。ノ 御霊としても、小粒である。調査だけだし、これは の 、も 簡単な仕事だと、柊一も肩の力を抜きまくって安内市にやってきた。 、つ あ を・それなのに簡単どころか、彼は次から次へととんでもない目に遭わされてしまった。 ぐうじ 夜 五郎神社の宮司がいきなり行方不明になるわ、境内に大穴があくわ、気持ちの悪いイモ虫の 狩大群に追われたあげく、幼虫たちの親であるジガバチ、それも人間並みの大きさのものと格闘 聖する羽目になったのである。 この土地にはどうい、ったいわく因 なんの変哲もない小さな街だったはずなのに。いったい、

5. 聖霊狩り : 夜を這うもの

で優しげに細められている目は些細なことも見逃しはしまい。そんな気がするのだ。 「あなたのお名前をまだおうかがいしていませんでしたね」 おおの 宗一郎に訊かれ、雅行は簡潔に「多能です」と答えた。十中八九、『大野』と変換されたは ずだ。彼の名は、耳で聞く分には平凡な印象しか与えない。 「さきほどは言いそびれましたが、わたしは宮司じゃありませんよ。神社庁からの使いみたい なもので、年若い柊一くんのために引き継ぎ業務のお手伝いにあがったと思っていただけれ 雅行の説明はけして嘘ではない。神社庁の人間だとひと言も口にしていないのだから。 「宮司職は隣町の天神社の磨司がしばらく兼任するということで。ただし、これは名義のみ。 次の宮司が正式に神社庁から派遣されるまでは、柊一くんとわたしがここの業務にあたること になります。それで、とりあえず、境内にあいている大穴の処置に関して、氏子総代の桜田さ の んとお話ししたいと思いまして」 をよどみなくしゃべり、あまり突っこまれたくないところはさらりと流して、本題へと会話を 夜 持っていく。その間、柊一はおとなしく口をつぐんでいた。 狩安内市の調査は柊一に任された仕事であり、雅行はあくまでサポート役にすぎない。しか 聖し、柊一はまだ十六歳の未成年。行動できる範囲は自然と限られてくる。 いきなり彼が「しばらくここに住んで、宮司の役も務めます」と言ったと・ころで、相手にさ ささい

6. 聖霊狩り : 夜を這うもの

楠木誠志郎 桜田宗一郎 柊ーか、調査を続けてい いわくつきの文化財を る五郎神社の氏子総代 発見し収集する丗哉・ として現れた青年。早 ヤミフンのメン / 、一 紀子や萌の学校の先輩 レモン色の前髪を持ち、 で、美也のいとこ 霊的存在への感度が高 い。オ冬ーとはいささか 非友好的な関係にある ( , おしろみや 」小城美也 謎めいた雰囲気を持つ 第ふ , 美少女。早紀子や萌の 毅を同級生で、同じ部に所 属する。五郎神社に奉 意納する巫女舞いの踊り ド手をつとめる。 くすのきせいしろう さくらた・、そういちろう

7. 聖霊狩り : 夜を這うもの

れるわけがない。こういうとき、どうしても雅行のーー成人の助けが必要なのだ。いまいまし ツ」とこ。 「なるほど、わかりました」 宗一郎はそれ以上雅行たちを困らせるような質問はせず、身を乗り出して大穴の底を覗きこ んだ。 「これですね。突然、境内にあいた穴とは。 : そういえば、入らずの森では地下からミイラ が数体出てきたとか。あれと関係あるなんてことはないでしようね。ここからも何かみつかる とか」 内心、ぎくりとしたものの、柊一も雅行もそれを顔に表すようなへマはしない。 「ただの陥没ですよ。地盤が緩んでいたんでしようかねえ。こちらではミイラどころか、小指 の骨一本出てきはしません」 雅行は平然と言い、柊一もポーカーフ , イスで通す。本当はこの五郎神社の地下にも広大な どうくっ 洞窟が広がり、ミイラどころか、でかい幼虫や白いサンショウウオが大量発生していたのだが そんなことはとても言えない。 「この穴の埋め戻しは神社の積み立て金を使ってもらって、足りない分を桜田家が出資しまし よう。業者の手配もこちらに任せていただけますか ? 」 「それはもう、願ってもないことで」 ゆる

8. 聖霊狩り : 夜を這うもの

) ろう 照りつける真夏の太陽のもと、五郎神社は嬋のかまびすしい鳴き声に包まれていた。 ひざ い。が、周りが木立に囲まれているせいか、都会のべたっくような暑さ 今日も陽射しは厳し の とは異なり、緑のにおいをいつばいに含んだ風が境内を駆け抜けていく。 あすかいしゅういちひたい ようしゃ をそれでも、頭上の太陽は容赦がない。暑いことは暑い。飛鳥井柊一は額ににじんでくる汗 夜 を手の甲でぬぐってため息をついた。 狩「どうするんだよ。この穴」 とつじよ 聖 小さな神社の境内には、ばっこりと大きな穴が口をあけていた。先日、突如として起こった 地鳴りにより地面が陥没してできた大穴である。 。女の子たちはひきつった顔で小さく悲鳴をあげる。 「やだ、ちょっと、マジ ? 」 「ねえ、何があったのよ ! 」 友人たちに囲まれた彼は、大きく息を吸ってから叫んだ。 「出たんだよ、人魂がⅡ」 たぶんこの表現は正しくないとは思いながらも、自分が目撃したものをそう形容することし か、彼にはできなかった。 けいだい せみ

9. 聖霊狩り : 夜を這うもの

「プラックライトをあてると蛍光色に光るの。全部のサソリがそうなるかどうかは知らないけ れど」 へえっと声をあげ、早紀子と萌は感心したが、柊一は異議を唱えた。 「ちょっと待てよ。昨日の懐中電灯はプラックライトなんかじゃなかったぞ」 「そうね。やつばり普通のサソリとは違うってことかしら ? 」 そう言うと、もうサソリへの興味を失ったかのように舞いの練習に入った。 「きみ : : : 」 「気にしないで」 とことん、ゴーイング・マイウェイな相手のようだ。 舞いといっても神社での巫女舞い。それほど激しい動きがあるわけではない。鈴を振りなが ら、拝殿の中を歩いているだけである。 だが、 " 美也がやるとそれだけでは終わらない。白いシャツにプラックのジーンズというラフ をな格好でも、背筋を伸ばして優美に足を運ぶだけで、神事らしい厳かさが漂ってくるのだ。 夜 これでちゃんと巫女装束を着せて舞わせれば、それこそ息を呑むほど美しい空間が出現する 狩だろう。ひなびた神社は彼女という舞い手を得たことにより、本当の意味で神聖な場所となる 聖に違いない。桜田家がわざわざ彼女を指名したのもうなずけるというものだ。 萌も同じように感じたのか、うっとりとつぶやく おごそ

10. 聖霊狩り : 夜を這うもの

やつばり聞かなければよかったと早紀子は深く後悔した。 夜空には薄青い月がかかっていた。 ′一ろう まるで、あのサソリが放つような色の光。五郎神社の境内で月を見上げながら、柊一はサソ リの青いてかりを連想して顔を歪めた。 病院には一日いただけで、夕方にはもう退院手続きを取って神社に戻ってきた。しかし、そ 山霊園にみたび出向くための準備だ。 れも準備を整えに戻ったに過ぎない。北 熱は薬を飲んだおかげでひいた。ただ、右手の痺れがまだ少し残っている。親指と人差し指 は曲げるのもひと苦労だ。 柊一は軽く舌打ちして、赤い組み紐を手首に巻きつけた。こうしておけば、うつかり鈴を落 とすこともあるまい 軍手はつけない。ただでさえ危うい指先の感覚がさらに鈍るから。あの尾の先にふれないよ う注意すればいいのだと自分で判断し決めたことだった。 万が一、刺されたらーーーそのときはそのとき。いたすらに命を落としたくはないが、四の五 の言っていられないときもある。いまがまさにそのときだと、柊一は一途に思い詰めていた。 だから、雅行もさっさと東京に帰らせたのだ。ここは自分で仕切る、手出しするなと言い張っ けい」い