尋ねた柊一自身、自分の質問が間が抜けて聞こえ、少し恥ずかしくなった。同じ制服なの だ、これだけ印象的な在校生を彼女らが知らないはずがあるまい 早紀子は素直にうなずく。 みや 「うん、小城美也 : : : さん。同じ部のひと」 「部活動、いっしよなんだ」 この美女が十六、七の同級生たちに混じって部活動をしているさまが、柊一にはなかなか想 像できなかった。 「きみたち、何部だったけ ? 」 「漫研」 美也が漫画を描いているさまは、なおさら想像しにくい。 美也はその切れ長の瞳で、じっと柊一をみつめている。視線に圧倒されそうになりながら彼 の うは、聞かれてまずいことでもしゃべっていただろうかと考えた。 をおそらく、大丈夫だ。御霊部の名称はまだ口にしていない。それより前の、ダウジングをし 夜 ている場面から見られていたとしたら厄介だが、そのとき境内に人影はなかったはずだ。 狩「えっと、何かご用で : : : 」 まばた 聖 神社に参拝に来ただけかもしれないのに、ついそう訊いてしまう。美也は一度だけ瞬きをし てから答えた。 やっかい
しことだわ」 「それはい、 早紀子は重々しくうなずいた。部誌の原稿が早めに集まるのは、漫研部長として大変喜ばし い。問題は内容の過激度である。 萌はいままでもしきりに、濃厚なラブシーンのあるポーイズ・ラブを描きたがった。それを もちろ なんとかなだめすかし、男の子とポーイッシュな女の子のほのばのラブストーリー ん実際は男同士の話なのだが、少女漫画の絵柄だと普通の男女に見えるーーを部誌用に提供さ せてきたのだ。 早紀子も同じ漫画描きである。体制側の圧力に屈することなく、思う存分、創作者に描きた いものを描かせてやりたい気持ちはある。だが、部誌が発禁になる事態だけはどうしてもさけ たかったのだ。 「じゃあ、次回はラブストーリーじゃなく、飛鳥井くんモデルのヒーローが活躍するアクショ ンものにするわけね ? 」 それだったら、部誌に載せられる。そう期待して問いかけると、萌は遠い彼方を笑顔でみつ めながらつぶやいた。 「アクションもの : : : 。飛鳥井くんが戦闘で怪我をしたり、敵側に捕まって拷問されたりする のね」 「うん、まあ、そういうシーンならね、部誌に載せられるわね」 かなた
「専売特許をとったわけでもないからな。『入らずの森』は公立高校の敷地内にあるんだから、 文部科学省の管轄だと判断されたのか : : : 」 「敷地がどうのとか関係あるものか。御霊がらみなら御霊部の管轄のはずだそ ! 」 「弾圧された隠れキリシタンを御霊とみなすかどうかは、今後の調査次第。いまはまだ限りな く灰色に近い段階。ヤミプンもそう判断して出張ってきたんじゃないのか ? 」 「やつらが扱うのは文化財だろうが ! 」 ヤミプンーー・正式名称、文部科学省文化庁文化財部特殊文化財課。その名のとおり、特殊な 文化財を扱う、闇の組織である。たとえばホープ・ダイヤのように、持ち主に害をもたらす霊 こ調査・収集している。 的に危検な物品を、密か幺 = 御霊を扱う御霊部と、霊的な物品を扱うヤミプンとは、似ているようで成り立ちも任務の性 質もまるで違う。しかし、その業務の性格上、現場でバッティングすることは過去にも何度か あり、互いに互いをうっとうしく感じていたのであった。 「冗談じゃない。断然、抗議に行ってやる ! 」 柊一はこぶしを握って勇ましく宣一一 = ロすると、いきなり走り出した。その後ろから、のんびり と雅行がついていく。 「学校まで車で送るよ」 「あの、わたしたちも」
早紀子と萌は笑顔で近づいてきた。早紀子は遠慮がちで、友人に引きずられて不本意ながら やってきましたといった感じがした。萌は目尻を微妙に波打たせて、本当に嬉しそうに笑って 何がそんなに楽しいのか、よくわからない。それが柊一の正直な感想だった。 御霊部に関わったことで、彼女らは普通では味わえないような怖い思いもしている。懲りて もよさそうなはずなのに、どうでもいいような理由ーーケーキを焼いたから持ってきたとか、 いなか こんな田舎で退屈してるだろうと思ってとかーーーをつけて、足繁く通ってくるのである。夏休 みもまだ中盤で自由に動ける時間がたつぶりあるらしく、それこそ訪問は二日とあかない。 うらや 羨ましい話である。柊一も彼女たちと同じ十六歳。御霊部の任務がなかったら、恋や部活動 や勉学など、ティーンエイジャーらしいことに励んでいるはずだが : 「クッキー焼いてきたんです ! 」 の 萌がそう言って、かわししノ 、、、ート柄の紙袋を両手で突き出した。 を「いつも、ありかとう : ・・ : 」 夜 と、柊一には見える 勢いに押されて、柊一は紙袋を受け取った。邪気のまったくない 狩ーー顔をされると拒むに拒めない。 ) それに、女の子から手作りクッキーをもらうというのも、 聖けしていやではない。差し入れの味だって悪くないのだ。 「あのさ」
コノヾルト文庫雑誌 C0ba 忱 ワベル大賞」マン大賞」 募集中 ! 集英社コバルト文庫、雑誌 Cob 引 t 編集部では、エンターティンメン ト小説の新しい書き手の方々のために、広く門を開いています。中編部 門で新人賞の性格もある「ノベル大賞」、長編部門ですぐ出版にもむすび つく「ロマン大賞」。ともに、コバルトの読者を対象とする小説作品であれ ば、特にジャンルは問いません。あなたも、自分の才能をこの賞で開花 させ、ベストセラー作家の仲間入りを目指してみませんかー く大賞入選作〉 く佳作入選作 > 正賞の楯と 正賞の楯と 副賞 100 万円税込 副賞 50 万円 べ ) 大賞 【応募原稿枚数】 40 吉書き原稿用紙 9 ト 10 【】毎年 7 月 10 日 ( 当日消効 ) 【応募資格】男女・は問いませんが、新人に限ります。 【入選発表】月甲魅 C 。 ba 旧 2 月上 ( および 12 月刊の文庫のチラシ誌上 ) 。 大賞 . ス作も同誌上に掲 【原稿宛先】〒 101 ー 8050 、源研玳田区ーツ橋 2 ー 5 ー 10 ) 集土 コバルト験部「ノレ大賞」係 ※なお、ノベル大賞の一は員のによって選ばれる「ノレ大賞・ 賞」 ( 大賞ス選作は正賞のと副賞 5 円 ) の対象になります。 【応募原稿枚数】 40 めき原稿用、 ~ 35 【締切】毎年 1 月 10 日 ( 当日消効、 【応第資格】男女・・プロ・アマて間いません 【入選発表】月甲魅 Coba は 8 月号誌上 ( および 8 月刊の文庫のチラシ誌上 ) 。 大賞 . ス作はコバルト文庫で出版 ( そに広ーの齪に基づき、をお支払い いたします ) 。 【原稿宛先】〒 101 ー 8050 棘研代田区ーツ橋 2 ー 5 ー 10 ( 株 ) 集 コバルト部「ロマン大賞」係 ☆応募に関するくわしい要項は隔月刊誌 Coba 忱 ( 1 月、 3 月、 5 月、 7 月、 9 月、 11 月の 1 日日発売 ) をごらんください。 ( 税込 )
誠志郎も、むっとして言い返す。 「暇じゃないさ。だけど仕方ないだろ、彼女たちに頼まれたんだから。ま、御霊部の飛鳥井柊 一に助けなんていらないのはよく知ってるから、気にせず墓掃除でも害虫駆除でもなんでもや ってくれよ」 「おまえこそ、幽霊にびびってみつとまもない真似するなよ」 「お気遣いありがとう。そっちも足もとに気をつけろよ。墓場で転ぶと三年以内に死ぬってい うからな」 「へえ。そんな迷信、信じるんだ。ヤミプンってのは戦後生まれの新しい組織だと思ってたん だけどな」 「さすが御霊部。戦後生まれを『新しい』って表現するんだ。カビの生えかかった古うい組織 は違うんだねえ」 火花を散らすふたりを見守りつつ、萌は小声でくすくす笑った。 「やってる、やってる : : : 」 秘密の喜びに、彼女の目尻は激しく波打っている。 「萌ちゃん : : : 」 慣れているはずの早紀子も、静かに笑う友人に恐怖じみたものを感じていた。たとえ場所が 夜の霊園であっても、男ふたりいればいくらでも妄想を育てられる、そのたくましさが恐ろし
『入らずの森』の地下から大昔の人骨が出てきたとしか聞かされていないが、実際はこういう とんでもないものがみつかったのであった。 誠志郎ひとりだったら、こんなところには絶対に入ろうとしなかっただろう。彼は並外れた 霊能力を買われてヤミプンにスカウトされた身だ。こういう場は特に苦手である。 だが、これは任務の一環だ。私情はできうる限り抑えなくてはならない。それに、、まはひ とりではなく心強い先輩がいる。 「何かトラブッていたのかな ? 」 壁際のミイラの資料写真を撮っていた先輩は、ファインダーを覗きこんだままでそう尋ね 「いえ、御霊部の飛鳥井が外をうろうろしてただけですよ」 「御霊部ねえ」 の またた フラッシュが瞬き、ミイラのシルエットが一瞬濃くカタコンべの壁に浮かびあがった。 を「そういえば、隠れキリシタンは御霊になるのかな ? 彼らは為政者に迫害され、老いも若き たた 夜 もむごい殺されかたをしている。これで強烈な祟りでも発生すれば文句なく御霊に認定される 狩んだがーーあんまり、そういう話は聞かないな」 聖「キリスト教徒だから祟らないんですかねえ」 菊「神の概念が違うのか、それとも、他に理由があるのか。彼ら、何か訴えかけたりしていない こ 0
やっかい 「厄介事かい ? 」 「いえ、大丈夫です」 誠志郎は振り向いて、仲間にそう返事をした。 「すぐに追い返しますから、調査を続けていてください」 仲間はそれで納得したのか、近づいてこようとさえしなかった。 柊一はわざと、くすっと笑ってやった。 したば 「いまだに坊やなんて呼ばれてるんだ。下っ端はつらいな」 「そっちだって、御霊部の下っ端のくせに」 「うちには年功序列なんてない。何歳だろうと同列だ」 せりふ 誠志郎が苦々しげな表情を浮かべる。柊一の台詞に、いろいろ思うことがあるらしい ほんの少し、柊一は同清した。年功序列はないとはいえ、未成年ゆえに雅行の助けを借りね ばならないケースはいくらでもある。そういうとき、彼自身もあせりを感じざるを得ない。誠 志郎もおそらく、若さゆえに同じような思いをした経験があるに違いな、。 気持ちはわかるがーーー柊一は同情の念を表に出そうとはしなかった。 「とにかく、部外者にうろちょろされるのは仕事の邪魔だ。この街は御霊部が調査中なんだか ら、ヤミプンにはお帰り願いたい。第一、それが筋ってもんだろ」 「そう言われて、素直に従うと思うか ? 」
「やだ、妄想だなんて人聞きの悪い」 萌の頭の中で繰り広げられているビジョン。それは妄想としか言いようがないのだ。 彼女は男同士の恋愛を取り扱ったポーイズ・ラブが大好きなのである。よって、見目良い男 性がふたり以上いれば、必然的にそこには燃えるような恋愛感情が生まれ、あんなこんなの愛 つねひごろ 憎劇が繰り広げられるのが「自然の成り行き」だと、常日頃、豪語している。 そんな思考回路を持っ萌の前に現れた美少年、飛鳥井柊一。しかも、御霊部という謎の組織 に属し、妖しい闇の世界に生きている。 えじき 彼が妄想の餌食にされぬはずがあろうか。いや、ない。絶対にない。 萌は伏し目がちに、しかし、その瞳をきらきらと輝かせつつ、ささやいた。 「やつばり : : : 飛鳥井くんはヤミプンが気になって仕方ないのね : : : 」 「そりやそうでしようよ。管轄が違うとかなんとかいったって、やってることはどっちも化け 物退治でしよ。似てるもん。気になって当然」 化け物退治のひと言で、御霊部とヤミプンをひとつにくくってしまう早紀子も極端だが、極 端さでは萌も劣らなかった。 「ううん、飛鳥井くんのヤミプンへの執着ぶりにはただならぬものがあるわ」 「執着っていうのかなあ」 「本人はまだ気づいていないかもしれないけど : : : あれは〈愛〉よ ! 」
縁がひそんでいるのか。人食いジガバチはなんとか退治したが、これで終わったといえるのか 」 , つか それをさらに詳しく調査するため、柊一はもうしばらくこの地に滞在することになったので あった。 寝泊まりする場所は、そのまま五郎神社を使わせてもらうことにした。宮司はすでにいな ふか い。ジガバチに捕らわれて地下にひきずりこまれ、無数の卵を生みつけられたあげく、孵化し え た幼虫たちの生き餌にされてしまったのだ。 御霊を祀る神社の宮司だったというだけで、彼は普通の人間であり、一時的に協力者になっ てくれたものの、本来、御霊部とはなんの関係もない一般人である。その彼を守りきれなかっ ぎんき た慙愧の念は柊一とていだいているが、怨霊相手に危険はっきもの。済んだことに気をとられ して。し力に御霊部でも任務遂行中に命を落としかねない。冷たいようだが、ここ は割りきるしかなかった 「穴の処理も大事だけど、神社庁との話はついているのか ? 」 柊一が尋ねると、雅行は軽くうなずいた。 「もちろん。五郎神社を調査の拠点にすることは伝えておいたし、新しい宮司の手配も待って うじこそう もらった。で、むこうさんいわく、境内の穴の件も含めて、あとのこまごましたことは氏子総 代と話をつけろだと」 ねん