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検索対象: ジュリスト 2016年6月号
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1. ジュリスト 2016年6月号

貸借契約に基づく貸金元金 2683 万 8266 円および Y2 の横領を理由とする任務懈怠責任 ( 会社 423 条 ) に 基づく損害賠償として 5191 万 8142 円の支払等を求 める訴訟を提起した。これを受け , Y2 は平成 24 年 1 月 23 日に YI に対し , 未払報酬 50 万円 , 役員退職金 相当額 8279 万 5152 円および不当解任によって失っ た得べかりし報酬 650 万円の支払 , ならびに Y2 が横 領行為を行った旨の掲示をしたことが Y2 に対する名 誉毀損に該当するとして謝罪広告の掲載および慰謝料 100 万円の支払等を求めて , 前記訴訟に対する反訴 ( 以下両訴訟を併せて「別件訴訟」という ) を提起し 平成 24 年 12 月 17 日 , YI と Y2 は別件訴訟におい て , Y3 を利害関係人として関与させたうえ , 以下の 内容を含む裁判上の和解をした ( 以下「本件和解」と いう ) 。 ( ア ) YI は Y2 に対して , 名誉毀損による慰謝 料として 500 万円 , 退職金として 3402 万円を支払 う。 ( イ ) Y2 は , Y3 に対し , Y2 保有に係る YI 株を売 り渡し , Y3 がこれを買い受ける ( 以下「本件株式売 買」という ) 。 ( ウ ) YI は , Y2 に対し , 上記 Y3 が負担 する代金債務につき連帯保証する。 ( ェ ) YI は , Y2 に 対し , 平成 25 年 3 月 31 日限り東京交通新聞広告欄 に謝罪広告を 1 回掲載する。 ( オ ) YI は , Y2 に対し , フロッピーディスク , バッグ等の動産を引き渡す。 ( カ ) Y2 は , YI に対する別件名誉毀損訴訟および別件 株主権確認訴訟を取り下げ , YI はこれに同意する。 ( キ ) YI および Y2 は , 和解条項に定めるもの以外の 請求を放棄する。なお , 本件和解により , Y3 は総株 主の議決権の約 25.3 % を有することになり , YI の筆 頭株主となった。 そこで , X らは本件和解が会社法 120 条 1 項によ り禁止される利益供与にあたること , 会社法 853 条 1 項の再審事由に該当する瑕疵があること等を理由とし て , 和解無効の確認等を求め , 本件訴訟を提起した。 判旨 訴え却下。 「いわゆる和解無効確認の訴えは , 請求の趣 旨が過去の法律行為の確認を求める形式となっ ているものの , 当該和解が有効であるとすれば , それ から生すべき現在の特定の法律関係が存在しないこと の確認を求めるものと解される場合で , 確認を求める につき法律上の利益を有するときは , 確認の利益が認 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 104 められ , 適法として許容され得るものと解される。 そして , 上記法律上の利益に関しては , 判決をもっ て法律関係等の存否を確定することが , その法律関係 等に関する法律上の紛争を解決し , 当事者の法律上の 地位ないし利益が害される危険を除去するために必 要 , 適切である場合に , 確認の利益が認められると解 するのが相当である。」 1 本件和解が「違法な利益供与であるとす Ⅱ れば , 株主である XI は , 会社法 847 条 1 項 , 3 項等の規定に基づき , 責任追及等の訴え ( 株主代表 訴訟 ) を提起することができる ()I の役員に対する 責任追及の訴え ( 会社法 847 条 1 項・ 120 条 4 項に基 づくもの又は 847 条 1 項・ 423 条 1 項に基づくもの ) も考えられる。 ) のであって , 本件和解無効確認の訴 えによらずとも , 上記責任追及等の訴えによってより 直截にその目的を達成することができるというべきで ある。このことに加え , 本件和解は , Y らの間にお いて成立したものであって , 確認の対象となる法律関 係は , いずれも Y ら相互間における法律関係である ところ , 確定判決の効力は , 当該訴訟の当事者間にお いてのみ生じ , 当事者以外の者には及ばないのが原則 である ( 民事訴訟法 115 条 1 項 1 号 ) から , 仮に , 本件訴訟における判決によって本件和解の無効が確認 されたとしても , 同判決の効力は , X らと Y らとの 間においてのみ生じるもので , Y ら相互間には及ば ないことになる。殊に , 別件責任追及の訴えは , 株式 会社である YI が取締役である Y2 に対して任務懈怠 責任に基づく損害賠償等を求める訴訟であって , 上記 のとおり , YI と Y2 の間において上記判決の効力が 及ぶことがないとすれば , 本件和解において確定され た株式会社と取締役との間の法律関係には何らの影響 を及ばさないことになるから , 紛争の抜本的解決にな り得ないというほかはない ( かかる紛争の解決として は , 上記株主代表訴訟等によるのが相当である。 ) 。」 2 「さらに , ・・・会社法 853 条 1 項が , 責任追及 等の訴えにおける会社と取締役との馴れ合い訴訟を防 止することを目的とし , その趣旨が , 判決により訴訟 が終結した場合のほか , 和解により終了した場合にも 及ぶべきであるとしても , 和解による場合には , 上記 訴訟に関与しなかった株主が , 当該和解が無効である ことを前提として ( 同項の再審事由は , 和解を無効と する事由にもなり得ると解する。 ) , 責任追及等の訴え を提起することができるのであって , 必ずしも , 会社

2. ジュリスト 2016年6月号

か否かの評価は , ライセンス交渉の対象となっ ている技術や製品の分野における商慣習に照ら して判断されることが考えられる。」とされて いる ( 担当官解説 45 頁 ) 。 ( ⅳ ) 「商慣習に照らして 誠実に対応しているか否か」 「商慣習」については , 上記 ( i ) で挙げた Huawei v. ZTE 事件判決の ( c ) が参考になろ う。なお , これは当事者間の具体的な交渉にお ける対応状況の誠実さを見定める指標として 「商慣習に照らして」判断することが表された ものであるため , 独占禁止法 2 条 9 項 5 号の 「正常な商慣習」とは必ずしも一致しない ( 担 当官解説 45 頁 ) 。 (v) その他の考慮要素 「 FRAND 条件でライセンスを受ける意思を 有する者」であるか否かの判断で考慮されるそ の他の要素として , 担当官解説によれば , 「例 えば , ライセンス交渉の相手方 ( 特許技術を利 用する者 ) の財務・経営状況 ( ライセンス料の 支払い能力があるか否か , 事実上の破産状態に あるか否か ) が考えられる。」とされている ( 同 45 頁 ) 。損害賠償等の金銭的な手段で解決 できない場合は差止請求権を認めることが公平 であるという趣旨と考えられ , 上記の他には , 管轄外等の理由により執行不能である場合等が 挙げられよう。これらの点は , 成案に追記して も良かったのではないかと思われる。 ( 3 ) 「裁判所又は仲裁手続において ライセンス条件を決定する意思を 示している場合」の削除 原案の上記 ( I) ③の記載は , 裁判所において 過去のライセンス実施分の支払を決定すること や , 国外の裁判所又は仲裁手続での結果に基づ き , 日本を含む地域におけるライセンス条件を 決定することは可能であると考えられることか ら記載されたものであり ( 担当官解説 45 頁 ) , 前記 Huawei v. ZTE 事件判決や Microsoft v. 時論 M 。 t 。 r 。 la 事件米国控訴裁判所第 9 巡回区判決 ( 2015 年 7 月 ) と合致するものといえる。しか し , これに対して , 日本の司法制度の下では当 事者間のライセンス条件そのものを決定するこ とは訴訟物にならないことや , 日本のライセン ス交渉の実務の状況を指摘する意見が寄せら れ , この点は記載しないこととされた。 この点 , 担当官解説によれば , 「両当事者の 対応状況として , 考慮要素になることが否定さ れるものではないと考えられる。」 ( 同 45 頁 ) とされているが , 考慮要素が詳細であればより 実務上の指針として有益であるから , 考慮要素 として成案に追記しても良かったのではないか と思われる。上記意思を形式的に示すことで交 渉の時間稼ぎがなされることなどを懸念する意 見が多数寄せられたようであるが , そのような 濫用的な使われ方についても考慮要素として詳 細に記載しておく方法もあったのではないかと 思われる。 ( 4 ) 「標準規格必須特許の有効性 , 必須性 又は侵害の有無を争うこと」について 原案では , 上記 (1) ④のとおり , 「ライセン スを受けようとする者が必須特許の有効性 , 必 須性又は侵害の有無を争うことそれ自体は , FRAND 条件でライセンスを受ける意思を否定 する根拠とはならない。」とされていた。これ は , 海外の主要な競争当局等の立場と整合する ( 欧州委員会の MotoroIa に対する決定及び Samsung に対する確約決定〔 2014 年 4 月〕な らびに前記 Huawei v. ZTE 事件判決等 ) 。成案 においては , 原案に「商慣習に照らして誠実に ライセンス交渉を行っている限り」という限定 が追加されたが , 原案も想定していた事項を明 確化したものと思われ , 実務的には大きな影響 はないものと思われる。 Ⅳ . 本一部改正において 規定されなかった事項 格必須特許権者が , 損害賠償請求や不当利得返 本一部改正では , FRAND 宣言をした標準規 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 63

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Number 労働判例研究 1275 妊娠中の軽易業務転換 を契機とする降格の 適法性 ー広島中央保健生協 ( C 生協病院・ 差戻審 ) 事件 慶應義塾大学教授 両角道代 Morozumi Michiyo 東京大学労働法研究会 広島高裁平成 27 年 11 月 17 日判決 平成 26 年 ( ネ ) 第 342 号 , 甲野花子対広島中央保 健生活協同組合 , 地位確認等請求控訴事件 / 労 働判例 1127 号 5 頁 / 参照条文 : 雇用の分野にお ける男女の均等な機会及び待遇の確保等に関す る法律 9 条 3 項 , 民法 709 条 事実 付した ( 本件措置 1 ) 。 x は産休・育休取得後 , 翌年 月 2 日に 3 月 1 日付で副主任を免ずる旨の辞令を交 X に説明し , 渋々ながらも X の了解を得て , 同年 4 免除の辞令が交付されなかった。 Y は上記の件につき としたが , 手続上の過誤により異動の時点では副主任 配置されていたため , Y は X の副主任を免じること 科」 ) に異動させた ( 本件異動 ) 。同科には B 主任が 日付で X をリハビリテーション科 ( 以下「リハピリ 病院リハビリ業務を希望したため , Y は同年 3 月 1 平成 20 年 2 月 , 妊娠した X が身体的負担の少ない て訪問リハビリ業務を担当していた。 士として勤務し , b ステーションの副主任とし X は Y の運営する C 病院において理学療法 10 月に b ステーションに復帰したが , x の後輩に当 たる他の職員が副主任の地位に就いていたため , 再び 副主任に任じられることはなかった ( 本件措置 2 ) 。 X は , ①本件措置 1 は男女雇用機会均等法 ( 以下 「均等法」 ) 9 条 3 項に違反し無効である ( 主位的請 求 ) , ②本件措置 2 は育児・介護休業法 ( 以下「育介 休法」 ) 10 条に違反し無効である ( 予備的請求 ) と主 張し , Y に対し副主任手当の支払及び不法行為また は債務不履行に基づく損害賠償 ( 賃金減額により生じ た雇用保険給付等の差額 , 慰謝料 , 弁護士費用 ) 等の 支払を求めて提訴した。 第 1 審 ( 広島地判平成 24 ・ 2 ・ 23 労判 1100 Ⅱ 号 18 頁 ) は , 本件措置 1 及び 2 は , X の同意 を得た上で , 業務上の必要性に基づき使用者の裁量権 の範囲内で行われたものであり , 均等法や育介休法に 違反しない等として X の請求を棄却した。控訴審 ( 広島高判平成 24 ・ 7 ・ 19 労判 1100 号 15 頁 ) も第 1 審の判断を支持したため , X が上告。 上告審 ( 最判平成 26 ・ 10 ・ 23 労判 1100 号 5 頁。 以下「平成 26 年判決」 ) は , 以下のように述べて原 判決を破棄し , 本件を高裁に差し戻した。 均等法 9 条 3 項は私法上の強行法規であり , 「妊娠 中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主 の措置は , 原則として同項の禁止する取扱いに当た る」が , ①「当該労働者が軽易業務への転換及び上記 措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受 ける不利な影響の内容や程度 , 上記措置に係る事業主 による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等 に照らして , 当該労働者につき自由な意思に基づいて 降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が 客観的に存在するとき」 ( 以下「例外①」 ) , ②「当該 労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への 転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置 の確保などの業務上の必要性から支障がある場合で あって , その業務上の必要性の内容や程度及び上記の 有利又は不利な影響の内容や程度に照らして , 上記措 置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないもの と認められる特段の事情が存在するとき」 ( 以下「例 外②」 ) には , 同項の禁止する取扱いに該当しない。 これを本件についてみると , 本件異動及び本件措置 1 により X が受けた利益の内容や程度は明らかでな い一方 , 不利益の内容や程度は重大であり , X が育 休終了後の副主任復帰の可否等について説明を受けて [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 111

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載された。④については , 「商慣習に照らして あると主張できる旨が判示されている。 誠実にライセンス交渉を行っている限り」とい この点 , 担当官解説においては , 「例えば , う限定が追加された。以下 , 詳述する。 標準規格必須特許を有する者が , 自らの特許を 特定し , また , 特許が侵害されていると主張す ②「ライセンス交渉における両当事者の る製品を特定し , 特許の要件と対応する製品の 対応状況」の具体的な考慮要素 構成要素を明示するといった行為が考えられ 上記 ( 1 ) の判断基準においては , 「ライセンス る。」とされ ( 同 45 頁 ) , 上記判決 ( a ) と同様の 交渉における両当事者の対応状況」の後に , 立場と考えられる。 かっこ書で以下 ( i ) ないし ( ⅳ ) の考慮要素が例 ( ⅱ ) 「ライセンス条件及び 示されている。 その合理的根拠の提示の有無」 ( i ) 「具体的な標準規格必須特許の侵害の 「ライセンス条件及びその合理的根拠の提示 事実及び態様の提示の有無」 の有無」についても成案にはこれ以上の具体的 成案には「具体的な標準規格必須特許の侵害 な記載はないが , 上記 ( i ) で挙げた Huawei v. ZTE 事件判決の ( b ) が参考となろう。担当官解 の事実及び態様の提示の有無」としか記載がさ れていないので , 具体的にどのような内容かが 説においては , 「例えば , ライセンス料率を示 問題となる。 す際に , ライセンス交渉の対象となっている技 この点 , 原案公表後である 2015 年 7 月の 術や製品の分野における一般的なライセンス料 Huawei v. ZTE 事件欧州連合司法裁判所判決 率を示すという行為が考えられる。」と記載さ は以下のような内容を含む判示をしており , 上 れている ( 同 45 頁 ) 。 記成案はかかる判決も考慮したものと思われ ( ⅲ ) 「当該提示に対する合理的な対案の ( 公正取引委員会の「意見の概要」「 N 。 54 」参 速やかな提示等の応答状況」 照 ) , 内容を検討する上で参考となる。すなわ ち , 同事件においては , ( a ) 標準規格必須特許 成案には「当該提示に対する合理的な対案の 権者は , 訴え提起前に , 被疑侵害者に対し , 特 速やかな提示」とされており , 上記 ( i ) で挙げ 午を特定しその特許がどのように侵害されてい た Huawei v. ZTE 事件判決の ( d ) が参考になろ るかを明記して , 問題となっている侵害を警告 う。この他の応答状況 ( 提示「等」に当たるも しなければならない。 (b) 被疑侵害者が の ) としては , 担当官解説によると , 「例えば , FRAND 条件でライセンス契約を締結する意思 標準規格必須特許を有する者からライセンス許 を有することを示した後 , 標準規格必須特許権 諾の必要性を通知された相手方が特許技術を利 用している事実はない又は特許の有効性等に疑 者は , 特許のライセンスのため , 特にロイヤル 問があると主張する場合において , 当該主張の ティ及びその算定方法を含む , FRAND 条件に 合理的な根拠を速やかに提示することが考えら よる書面の申出を提示しなければならない。 れる。」とされている ( 同 45 頁 ) 。上記 (I) ④ ( c ) 被疑侵害者は , 当該分野において広く認め 及び後述④のように , 非侵害及び特許無効を られている商慣習に従って誠実に当該申出に真 争うこと自体はライセンスを受ける意思を有す 摯に応答し , この点は客観的な要素を基に判断 ることを否定する根拠とはならないが , その主 され , 特に遅延戦略でないことが含まれる。 ( d ) 被疑侵害者が申出を受諾しない場合 , 標 張を支える合理的な根拠は速やかに提出してお いたほうが良い , ということである。 準規格必須特許権者へ , 直ちに書面にて , なお , どのくらいの期間であれば「速やか FRAND 条件に応じた具体的な対案を提出した な」提示になるかについては , 「速やかである 場合に限り , 被疑侵害者は差止請求等が濫用で 62 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494

5. ジュリスト 2016年6月号

民事 遺言者が自筆証書である遺言書の文面全体に故 意に斜線を引く行為が民法 1024 条前段所定の 「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し遺言 を撤回したものとみなされた事例 最高裁平成 27 年 11 月 20 日第二小法廷判決 平成 26 年 ( 受 ) 第 1458 号 , 遺言無効確認請求事件 / 民集 69 巻 7 号 2021 頁 / 第 1 審・広島地判平成 25 年 11 月 28 日 / 第 2 審・広島高判平成 26 年 4 月 25 日 Tobisawa Tomoyuki 最高裁判所調査官飛澤知行 事実 本件は , A が作成した自筆証書 ( 本 件遺言書 ) による遺言 ( 本件遺言 ) につ いて , A の長女である X ( 原告・控訴人・上 告人 ) が , A が故意に本件遺言書を破棄した ことにより本件遺言を撤回したものとみなされ ると主張して , A の長男である Y ( 被告・被 控訴人・被上告人 ) に対し , 本件遺言が無効で あることの確認を求める事案である。本件遺言 書には , A によって , その文面全体の左上か ら右下にかけて赤色ポールペンで 1 本の斜線 ( 本件斜線 ) が引かれており , これが民法 1024 条前段にいう「故意に遺言書を破棄したとき」 に該当し , 本件遺言が撤回したものとみなされ るか否かが争点となった。 事実関係の概要は次のとおりである。 Ⅱ 1 A は , 昭和 61 年 6 月 , 罫線が印 刷された 1 枚の用紙に同人の遺産の大半を Y に相続させる内容の本件遺言の全文 , 日付及び 氏名を自書し , 氏名の末尾に同人の印を押し て , 本件遺言書を作成した。 2 A は , 平成 14 年 5 月に死亡し , その後 , 自宅に隣接する A の経営する医院内にあった 麻薬保管金庫から本件遺言書及びそれが入った 封筒が発見された。これらが発見された時点で 既に当該封筒の上部が切られ , 本件遺言書には 本件斜線が引かれていた。なお , 遺言書に斜線 が引かれていても誰によって引かれたものかの 最高裁時の判例 認定が難しい場合が多いと思われるが , 本件で は , 本件遺言書及び上記封筒を上記金庫内に入 れた人物は A 以外に考えられないことなどの 事情があったことから , 本件斜線は A が故意 に引いたものと認定されている。 原審 ( 1 審同旨 ) は , 上記事実関係の Ⅲ 下において , 本件斜線が引かれた後も本 件遺言書の元の文字が判読できる状態である以 上 , 本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為 は , 民法 1024 条前段により遺言を撤回したも のとみなされる「故意に遺言書を破棄したと き」には該当しないとして , x の請求を棄却 すべきものとした。 これに対し , X から上告受理の申立てがあ り , 最高裁第二小法廷は , 本件を上告審として 受理した上 , 判旨のとおり判示して , 原判決を 破棄し 1 審判決を取り消し , X の請求を認容 0 判旨 遺言者が自筆証書である遺言書に故意に斜線 を引く行為は , その斜線を引いた後になお元の 文字が判読できる場合であっても , その斜線が 赤色ポールペンで上記遺言書の文面全体の左上 から右下にかけて引かれているという判示の事 実関係の下においては , その行為の一般的な意 味に照らして , 上記遺言書の全体を不要のもの とし , そこに記載された遺言の全ての効力を失 わせる意思の表れとみるのが相当であり , 民法 1024 条前段所定の「故意に遺言書を破棄した とき」に該当し , 遺言を撤回したものとみなさ れる。 解説 民法 1024 条前段は , 遺言者が故意に 遺言書を破棄した場合に , その破棄した 部分について遺言の撤回があったものとみなす 旨の規定である。このような規定が設けられた のは , 遺言書が遺言を証明するために欠くこと のできないものであるにもかかわらず , 遺言者 においてこれを故意に破棄する場合には , 遺言 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 83

6. ジュリスト 2016年6月号

止請求権が存在しているからといえよう。実際 に差止請求権に基づいて訴訟提起し , 執行をす る段階まで行かなくとも , 差止請求権を背景に してライセンス交渉をすることにより , 相手方 を交渉のテープルに着かせ , 誠実に交渉させる ことができるといえるのであり , 差止請求権が 存在しなければ , 特許権者の交渉力は著しく減 殺される可能性がある。本指針の内容しだいで は , 例えば , 契約交渉時等において , 利用者に よって差止請求権の制限規定が濫用的に主張さ れ , 権利主張を不当に免れるための言い訳に用 いられる可能性があり , 特許権を多数有する企 業としてはかかる事態を強く危惧するであろ う。このような企業の立場からは , 上記事態が 生じない本指針の内容を強く望むであろうし , 中途半端な内容であればそもそも本一部改正は 不要である , という意見もありうるだろう。 Ⅲ . 原案から成案への具体的な変更点 及び実務への影響 上記のような利害状況に基づく多数の意見を 踏まえ , 公正取引委員会は , 原案を一部大幅に 修正し , 成案を作成した。原案から成案への具 体的な変更点は , 本一部改正を深く理解する上 での重要なポイントといえる。以下 , 重要な変 更点とその実務への影響について , 項目を分け て説明する。 1. 本指針の適用対象の明確化 ( 「必須特許」の定義の変更 ) 原案は , 「規格で規定される機能及び効用の 実現に必須な特許等」を「必須特許」として本 指針の対象としていた。しかし , これに対して は , 本指針は標準化とは関係のない文脈で生ず る必須特許等 , 様々なものを取り扱わなければ ならないところ , パテントプールガイドライン ( 「標準化に伴うパテントプールの形成等に関す る独占禁止法上の考え方」〔平成 17 年 6 月 29 日公表〕 ) と同様に単に「必須特許」と呼ぶこ とは問題であるとの意見や , 事実上の標準から 広く普及した特許であっても対象に含まれると [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 60 解釈される可能性があるなどと指摘する意見が 寄せられた。そこで , 成案では「規格の実施に 当たり必須となる特許等」を「標準規格必須特 許」として , 本指針の対象とすることとされ 上記意見の指摘のように , 原案の「必須特 許」の範囲は必ずしも明確ではなかったので , 成案の「標準規格必須特許」の規定により , 本 指針の適用対象が明確になったことは , 実務上 望ましいといえる。また , 本一部改正は , FRAND 宣言がなされた特許が対象になるの で , 原案でも結局は事実上標準に係る特許は対 象とならないと思われるが , 上記修正により , かかる結論がより明確になったといえる。 なお , 本指針第 1 の 2 の記載のとおり , 本指 針の適用対象には著作権等の特許以外の知的財 産も包含されており , 本一部改正の成案におけ る「標準規格必須特許」にも , 著作権等の特許 以外の知的財産が含まれていることには留意が 必要である。 2. FRAND 宣言の効果に関する 権利者側の記載の追加 原案は , FRAND 宣言がされることにより , 利用者側にもたらされる効果が中心に記載され ていたが , これに対し , 権利者と利用者との利 益保護のバランスを考慮すべきとする指摘が寄 せられた。そこで , 成案では , 権利者側にもた らされる効果として , 「標準規格必須特許を有 する者には , 標準規格必須特許の利用に対して 相応の対価を得ることを可能とすることによっ て」と追記された。標準規格必須特許の利点が 明確にされたものであり , 実務的には大きな影 響はないものと思われる。 3. 競争に影響を及ばす場合を 個別に評価することの明確化 原案は , 規格が「広く普及している」ことを 前提にして , 独占禁止法上問題となる可能性の 高いものに焦点を当てて記載しようとしてお り , 「他の事業者の事業活動を排除する行為に

7. ジュリスト 2016年6月号

たものにすぎず , 他の会員の損失といわば直接 の関連性があること ( その意味で , Y は A を いわばトンネルとして他の会員から金銭を受け 取ったものである ) を指摘した。 そして , ②「本件事業の会員の相当部分の者 は , 出えんした金銭の額に相当する金銭を受領 することができないまま A の破綻により損失 を受け , 被害の救済を受けることもできずに破 産債権者の多数を占めるに至っているというの である。」として , 破産債権者の多数は , 本件 配当金の原資となる金銭を出えんし , A の破 綻により損失を受けた他の会員であり , 無限連 鎖講の事業者である A や上位の会員等に対す る損害賠償請求などによる別途の救済も受ける ことができないままとなっている利益状況につ いての考慮を加えている。 その上で , ③「 A の破産管財人である X が , Y に対して本件配当金の返還を求め , これに つき破産手続の中で損失を受けた上記会員らを 含む破産債権者への配当を行うなど適正かっ公 平な清算を図ろうとすることは , 衡平にかなう というべきである。」として , 本件で配当金の 返還を求めているのが破産管財人であり , 返還 が適正かっ公平な清算につながることを指摘し ている。 本判決は , 本件におけるこれらの事情を踏ま え , 「本件配当金の給付が不法原因給付に当た ることを理由としてその返還を拒むことは , 信 義則上許されないと解するのが相当である。」 として , 信義則の観点から X の請求を認容す る結論を導いている。 3 本判決には , 無限連鎖講の事案で破産管 財人の権利行使を認めた場合の帰結等について 分析を加えて , 返還請求する者が破産管財人で あることと信義則の関係について補足する木内 道祥裁判官の補足意見が付されている。 なお , この補足意見は , あくまで無限連鎖講 の事案を前提として述べたものであって , 法廷 意見と同様 , 破産管財人であればどのような事 案であっても権利行使が認められる趣旨のもの ではないと思われる。 最高裁時の判例 Ⅲ . 補足 1 本判決は , 民法 708 条の適用範囲につい て , 特定の解釈を明示するものではなく , この 点については今後も議論の積み重ねが期待され るところである。 もっとも , 本判決は , 前掲昭和 7 年判例を変 更するものとはしていない。返還請求をする者 が破産管財人であることに加えて , 無限連鎖講 に該当する事業によって金銭が給付された金銭 の流れの実態や破産手続が開始された段階にお ける利害関係人の利害状況を考慮し , 信義則の 観点から結論を導いたものであることからすれ ば , 昭和 7 年判例とは事案が異なるとの理解の 下に本件の事案に即した判断をしたものであっ て , 破産管財人であればどのような事案であっ ても管理処分権に基づき返還請求をすることが できるとの解釈に立つものではないと思われ る。 2 他方で , 本件は , 無限連鎖講に該当する 事業によって金銭が給付された事案であるが , 同様の利益状況は無限連鎖講の事案のみに限ら れるものではない。したがって , 例えば , 被害 者が多数に上る高利率の配当をうたった投資名 下の組織的詐欺を行っていた会社等が破産した 場合などにも , 本判決と同様の考え方を及ばす ことが可能なものと思われる。 3 なお , 本件で問題となったのは , 出資金 を上回る配当金を受け取っていた者に対する返 還請求であるが , 出資金に相当する配当金を受 け取ることのできなかった被害者についても , 各自が給付を受けた配当金についてみれば , 他 の会員が出えんした金銭を原資とするものであ り , 破産手続が開始されたにもかかわらず他の 会員の損失の下に配当金を保持し続けることは 相当とはいえない。 したがって , 出資金に相当する配当金を受け 取ることのできなかった者としても , 不当利得 返還請求権等につき出資金全額をもって債権届 出をすることは許されず , 出資金額から配当金 として給付を受けた金額を控除した金額をもっ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494

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民事 公序良俗に反する無効な出資と配当に関する契 約により給付を受けた金銭の返還につき , 当該 給付が不法原因給付に当たることを理由として 拒むことは信義則上許されないとされた事例 最高裁平成 26 年 10 月 28 日第三小法廷判決 平成 24 年 ( 受 ) 第 2 開 7 号 , 不当利得返還等請求事件 / 民集 68 巻 8 号 1325 頁 / 第 1 審・東京地判平成 24 年 1 月 27 日判時 2143 号 101 頁 / 原審・東京高判平成 24 年 6 月 6 日 Hata Yoshihide 前最高裁判所調査官畑佳秀 事実 株式会社 A は , 無限連鎖講の防止に 関する法律 ( 無限連鎖講防止法 ) に違反 する事業 ( 以下「本件事業」という ) を行って いたところ , Y ( 被告・被控訴人・被上告人 ) は , A と同事業に係る契約 ( 以下「本件契約」 という ) を締結して会員となり , 出資金を上回 る配当金の給付を受けていた。本件は , A の 破産管財人である X ( 原告・控訴人・上告人 ) が , 本件契約が公序良俗に反して無効であると して , 不当利得返還請求権に基づき , 上記の給 付額の一部の支払を求めた事案である。 A か ら Y に対する金銭 ( 配当金 ) の給付は不法原 因給付 ( 民 708 条 ) に当たり , A の破産手続 開始の決定前に A 自身がその返還を請求する ことは許されないところ , 破産管財人である X による本件請求も同条により許されないか が問題となったものである。 Ⅱ . 本件の事実関係 本件の事実関係の概要は以下のとおりであ る。 1 A は , 平成 22 年 2 月頃から , 金銭の出 資及び配当に係る本件事業を開始した。本件事 業は , 専ら新規の会員から集めた出資金を先に 会員となった者への配当金の支払に充てること を内容とする金銭の配当組織であり , 無限連鎖 講の防止に関する法律 2 条に規定する無限連鎖 78 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 講に該当するものであった。 2 Y は , 平成 22 年 3 月 , A と本件事業の 会員になる旨の本件契約を締結した。 Y は , 同 年 12 月までの間に , 本件契約に基づき , A に 対して 818 万 4200 円を出資金として支払い , A から 2951 万 7035 円の配当金の給付を受け た ( 以下 , 上記配当金額から上記出資金額を控 除した残額 2133 万 2835 円に係る配当金を「本 件配当金」という ) 。 3 A は , 本件事業において , 少なくとも , 4035 名の会員を集め , 会員から総額 25 億 6127 万 7750 円の出資金の支払を受けたが , 平成 23 年 2 月 21 日 , 破産手続開始の決定を受け , X が破産管財人に選任された。上記破産手続にお いては , 本件事業によって損失を受けた者が破 産債権者の多数を占めている。 第 1 審 , 原審とも , 本件事業が無限連 Ⅲ 鎖講に当たるものであって公序良俗に反 するものであり , 本件契約が無効であって A の Y に対する本件配当金の給付に法律上の原 因がないことを認めた。しかし , 本件配当金の 給付は不法原因給付に当たるものであり , A の有する不当利得返還請求権を A に代わって 管理処分権に基づき行使している X は , 民法 708 条の規定によりその返還を請求することが できないと判断して , X の請求を棄却すべき ものとした。 これに対して , x が , 上告及び上告受理申 立てをしたところ , 最高裁第三小法廷は , 上告 受理申立て事件を受理した上で次のとおり判示 して , 原審を破棄し , X の請求を認容した。 判旨 破産者甲との間の契約が公序良俗に反して無 効であるとして , 乙が当該契約により給付を受 けた金銭の返還を求められた場合において , 当 該金銭は無限連鎖講に該当する事業によって給 付された配当金であって他の会員が出えんした 金銭を原資とするものであり , 当該事業の会員 の相当部分の者は甲の破綻により損失を受けて 破産債権者の多数を占めるに至っており , 甲の

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よう努める義務を事業主に課すものにすぎない。そう すると , これらの規定が , リスクの分担を変更するよ うな帰結を導くことができるか疑問がある。また , 本 件はマタハラに係る事案であるが , 産休や育休の取得 を理由として , 不利益取扱い ( マタハラ ) をしないと いうことは , 育介法 4 条にいう「福祉の増進」や同 22 条の想定する「必要な措置」以前の問題であると いえる。そのため , これらの規定を手がかりとして , 本件を処理することにも違和感がある。 では , 不利益取扱い禁止規定 ( 雇均 9 条 , 育介法 10 条 ) や使用者の職場環境配慮義務 ( 労契 3 条 4 項 ) 等を根拠として , マタハラがなされた場合には , 労働 者に就労拒絶権を認め , 労務提供の申出をしなくて も , 不就労は使用者の帰責性に基づくと考え , 賃金請 求権が認められるとの解釈は採りえないか。確かに 職場での暴力を回避するための不出社について賃金請 求権を肯定する裁判例 ( 前掲新聞輸送事件 ) や安全配 慮義務違反から使用者の帰責性を肯定する裁判例 ( 前 掲東芝事件 ) を応用すると , 精神的暴力を回避するた めの不出社の事例や職場環境配慮義務違反が認められ る事例において賃金請求権を肯定する解釈が可能であ るようにも思われる。しかし , 上記裁判例は労働者の 安全や健康が直接的に脅かされているようなケースで あることからすると , 直ちに上記の一般的な解釈を導 くことはできない。また , 不利益取扱いや職場環境配 慮義務違反の対象となりうる行為カ昿範かっ多様であ ることを考えると , 上記のような解釈を採ることには 消極の立場を採りたい。 ②既述のように , 私見は , 賃金請求権を肯定す る本判決の結論を支持する。その際の法律構成として は , 本件事案を Y による受領拒絶により就労が履行 不能になったと捉えれば足りたと考える ( 上記 ( B ) の 構成に相当する ) 。そもそも , 本件において , Y が復 職拒否乂は解雇しようとしているのは X の誤解では ないように思われる。確かに , 産休中になされた退職 扱いは撤回されており , Y はあっせん手続や労働審 判において , 解雇や復職拒否の事実はない旨を主張 し , 最終的には , X の出社を求める通知書を送付し ている。しかし , あっせん等の紛争解決手続機関にお ける Y の主張は , そこで示される帰結の有利不利を 踏まえた上でなされた態度の変更とみるべきであり , 重視すべきではない。むしろ , 平成 25 年 4 月頃にな [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 された , 新規雇用になる等 , 労働契約がいったん終了 118 したことを前提とするような Y 代表者の言動は , 休 業の終了により当然復職となるはずの育児休業の取得 を否定するものであり , 退職通知の撤回を自ら改めて 否定する言動とみることができる。また , こうした 連の言動が産休前の面談時の Y 代表者の言動とも一 致することなども踏まえると , 少なくとも , 平成 25 年 4 月時点において , Y 代表者は X を解雇又は復職 拒否する ( した ) とみるのが自然である。したがっ て , 労務の受領は Y によって明確に拒否されており , そのために X が就労不能になった以上 , 賃金請求権 は認められる。 なお , 本研究会の席上では , X があっせん手続に おいて退職勧奨に応じることを前提としていること等 から X は就労意思を喪失したとみる余地があるので はないかとの指摘があった。しかし , 紛争の早期解決 のため , 妥協して退職勧奨に応じた可能性も考える と , 本件において , X が就労意思を喪失したとまで はいえないと考える。 Ⅲ . 不法行為の成否について 本判決は , まず , Y が平成 24 年 6 月に産休中の X を退職扱いにし本件退職通知を送付した行為につい て , 労基法 19 条 1 項・育介法 10 条に違反する行為 として , 不法行為の成立を肯定する。労基法や育介法 違反の事実は , 不法行為の成立の前提となるものでは ないが , Y の行為が「解雇」に該当することを前提 とする限り , こうした判示は首肯できる。 しかし , 平成 25 年 4 月以降の Y の対応について , 不法行為を認めない本判決の判断には疑問がある。育 休からの復職過程にある労働者に対して , 不必要に雇 用不安を与える言動を行うことは , それ自体力坏法行 為に該当するといえるからである。 また , 本判決が認めた 15 万円という慰謝料額につ いては , 賃金支払請求の認容による精神的損害の慰謝 や Y が退職通知を送付した数日後に取り消している ことを考慮するにしても , 出産予定日と近接した時期 に退職通知を送付するという , 母体の健康に悪影響を 与えるおそれのある行為の悪質性や退職扱いの取消し がなかったことになっているようなその後の状況を踏 まえると , 低すぎるように思われる。 ※本稿は , 科学研究費補助金・若手研究 ( B ) ( 課題番号 2678 開 (1) による研究成果の一部である。

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該当主る - 。」 , 「 FRAND 条件でライセンスを受 ける意思を有する者とみられる。」「当該規格を 採用した製品の市場における競争に悪影響を及 ばし , 公正競争阻害性を有することとなる。」 ( 下線は筆者追記 ) と断定的な記載がされてい これに対し , 原案では , 記載の行為に形式的 に当てはまれば一律に違法であると判断される という印象を受けるとして , 競争に影響を及ほ す場合に問題となることを明確にすべきとの指 摘が寄せられた。そこで , 成案では , 上記記載 は , 「他の事業者の事業活動を排除する行為に 該当する場合がある。」 , 「公正競争阻害性を有 するときには」 ( 下線は筆者追記 ) といった表 現に修正されたり , 記載が削除されたりした。 公正取引委員会の立場は原案から変更されたわ けではないが , 個別評価されることが明確化さ れたことは実務的には望ましいと考える。 4. 標準規格必須特許を譲り受けた者等 についての記載の明確化 原案では , 本一部改正の適用対象につき , 「規格の策定時に必須特許を有する者の行為で あるか , 規格の策定後に必須特許を譲り受けた 者の行為であるか , 又は必須特許の管理を委託 された者の行為であるかを問わない。」とされ これに対して , 成案では , 「自ら ていた FRAND 宣言をした者の行為であるか , FRAND 宣言がされた標準規格必須特許を譲り 受けた者の行為であるか , 又は FRAND 宣言 がされた標準規格必須特許の管理を委託された 者の行為であるかを問わない」とされ , FRAND 宣言がされた標準規格必須特許である ことが明確化された。 理論的には , FRAND 宣言をした者以外を縛 る理論としてライセンスの成立等 , 各種構成が 議論されているところではあるが , 結論として はほほ異存のないところと思われる。実務上 も , このような結論でなければ , 容易に本一部 改正の潜脱が可能となってしまい , また , 標準 規格必須特許であれば FRAND 宣言がされて 0 時論 いることは予期されているといえるので , 問題 はないものと思われる。 5. 「 FRAND 条件でライセンスを受ける意思を 有する者」の判断基準の記載の大幅な修正 (1) はじめに この点が , 本一部改正において最も激しい意 見の対立があった部分である。原案では , 「① なお , FRAND 宣言に反する必須特許の権利行 使が広く普及している規格を採用した製品の研 究開発 , 生産又は販売を困難とするものである ことに照らせば , ② FRAND 条件でライセン スを受ける意思を有する者ではないとの認定は 個別事案に即して厳格になされるべきである。 ③したがって , 例えば , ライセンス交渉の相手 方が , 一定の交渉期間を経てもライセンス条件 の合意に至らなかった場合に , 裁判所又は仲裁 手続においてライセンス条件を決定する意思を 示している場合は , FRAND 条件でライセンス を受ける意思を有する者とみられる。④また , ライセンスを受けようとする者が必須特許の有 効性 , 必須性又は侵害の有無を争うことそれ自 体は , FRAND 条件でライセンスを受ける意思 を否定する根拠とはならない。」 ( ①ないし④の 符号は筆者が追記 ) とされていた。 上記に対し , 権利者と利用者のバランスを欠 き , 権利者を萎縮させるおそれがあること , 違 反とは評価されないことにつながる考慮要素に ついても明確化すべきことなどを指摘する意見 が寄せられた。そこで , 成案では , 権利者・利 用者双方の記載のバランスを図り , 上記①ない し③は削除され , 代わりに , 「 FRAND 条件で ライセンスを受ける意思を有する者であるか否 かは , ライセンス交渉における両当事者の対応 状況 ( 例えば , 具体的な標準規格必須特許の侵 害の事実及び態様の提示の有無 , ライセンス条 件及びその合理的根拠の提示の有無 , 当該提示 に対する合理的な対案の速やかな提示等の応答 状況 , 商慣習に照らして誠実に対応しているか 否か ) 等に照らして , 個別事案に即して判断さ れる。」 ( 強調は筆者追加 ) という判断基準が記 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494