パート等の日米租税条約 5 条所定の「恒久的施設」 所掲の活動が『準備的又は補助的な性格』の活動であ 該当性 , ③本件アパート等が直久的施設に該当すると ることを前提とした」ものと解されるから , 「ある場 した場合の恒久的施設に帰属する所得の範囲 , であっ 所が同項各号に該当するとして恒久的施設から除外さ れるためには , 当該場所での活動が準備的又は補助的 な性格であることを要するものと解すべきである」。 判旨 「 OECD コメンタリーは , OECD モデル租税 Ⅲ 請求棄却。 条約 5 条 4 項各号の活動の共通の特徴が準備 「法律により , 政令などの下位の法令に課税 的又は補助的な性格であって , 同項全体が準備的又は 要件等の定めを委任することは可能ではあるも 補助的な性格の活動を恒久的施設から除外するための のの , その委任の方法は , 当該法律において委任の内 規定であるとの解釈を示しており , 日米租税条約 5 容を個別的・具体的に限定するなどして , 租税法律主 条 4 項 ( a ) 号ないし ( d ) 号に係る当裁判所の解釈 ( 上 義 ( 憲法 84 条 ) の本質を損なわないものでなければ 己Ⅱ ) に符合したものであるということができる。」 ならず , 委任の内容を何ら限定することなく , 包括 「本件アパート等は・・・・・・本件販売事業の全部 Ⅳ 的・一般的に委任することは , 憲法 84 条に反するも 又は一部を行う一定の場所であったことは明ら のとして許されない」。 かであり・・・・・日米租税条約 5 条 1 項の規定する「恒 「実特法省令 9 条の 2 は , 実特法省令に基づく届出 久的施設』に該当する。」「本件アパートは , 本件倉庫 書を提出しなかった場合において , 租税条約に基づく が賃借され , X 及び本件従業員による具体的な作業 税の軽減又は免除を受けることができない旨を具体的 の場所が本件倉庫に移転した後においても , 本件倉庫 に規定しているわけではない。また , 実特法省令は , と一体となって , 本件企業としての活動を行う場所と 実特法 12 条の委任規定に基づくものであるところ , しての機能・役割を担っていた」。「ある場所が・・・・・・恒 同条は , 『租税条約の実施及びこの法律の適用に関し 久的施設に該当するか否かは , 企業としての活動 ( 事 必要な事項は , 総務省令 , 財務省令で定める。』との 業 ) の有無及び内容によって判断すべきものであるか み規定しており , その委任の方法は , 一般的 , 包括的 ら , X 及び本件従業員が本件アパートにおいて具体 なものであって , 租税法律主義 ( 憲法 84 条 ) に照ら 的な作業を行っていなかったことは , 上記認定・判断 し , 実特法 12 条が課税要件等の定めを省令に委ねた を覆す事情には当たらない。」 ものと解することはできない。そうである以上 , 同条 「以下述べるとおり , 本件アパート等におけ が , 実特法省令に対し , 届出書の提出を租税条約に基 る活動が『準備的又は補助的な性格』のもので づく税の軽減又は免除を受けるための手続要件として あるということはできず , 本件アパート等は , 上記 定めることを委任したものと解することはできない」。 〔日米租税条約 5 条 4 項〕各号のいずれにも該当しな 「 X が日米租税条約 7 条 1 項による税の軽減又は免 いというべきである。」 ( i ) 「本件販売事業の事業形態 除を受けることができるか否かについては , 同項に基 は , 日本国内の顧客に対し , インターネット・・・・・・を通 づき判断されるべきものであって , X が実特法省令 じて , 本件アパート等にある在庫商品を販売するとい に基づく届出書を提出しなかったことをもって , 同項 うものである」ことに鑑みて , X のホームページや の適用を否定することはできない。」 電子商店街・オークションサイト出品のための登録 「日米租税条約 5 条 4 項各号の文言について 上 , 本件アパートの住所等が引き続き用いられていた Ⅱ みるに , 同項 ( e ) 号は , 「企業のためにその他 ことが「取引の前提条件となる重要な要素」であり , の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目 「本件アパートは , 本件販売事業における唯一の販売 的として , 事業を行う一定の場所を保有すること』と 拠点 ( 事業所 ) としての役割・機能を担っていた」。 規定しており , 上記『その他の』準備的又は補助的な 「本件倉庫も , 本件アパートと一体となって , 本件企 性格の活動という規定ぶりに鑑みれば , 同号に先立つ 業の販売拠点 ( 事業所 ) としての役割・機能を担って 同項 ( a ) 号ないし (d) 号は , 文理上 , 「準備的又は補助 いた」。 ( ⅱ ) 「通信販売という事業形態に鑑みれば・・・ 的な性格の活動』の例示であると解することができ 商品の配送 ( 発送 ) 業務が事業の重要な部分を占めて る」し , 同項 ( f ) 号の規定も「同項 ( a ) 号ないし ( d ) 号 いることは明らかであ」り , 通信販売の性質上 , 「顧 旨ロ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 120
易業務への転換を含む。均等法施行規則 2 条の 2 第 6 号 ) を理由として , 解雇その他の不利益取扱いをする ことを禁止している。 従来 , 産休・育休の取得等を機になされた配転・降 格等につき , 下級審裁判例は , 何らかの業務上の必要 性があり , 産休・育休等の取得を唯一のまたは決定的 な理由としてなされたものでない以上 , 均等法や育介 休法の不利益取扱禁止規定や公序には違反せず , 人事 権の濫用にも当たらないと判断してきた ( 本件第 1 審 , 控訴審 , コナミデジタルエンタティンメント事 件・東京地判平成 23 ・ 3 ・ 17 労判 1027 号 27 頁 , み なと医療生活協同組合 ( 協立総合病院 ) 事件・名古屋地 判平成 20 ・ 2 ・ 20 労判 966 号 65 頁など ) 。これに対 し , 平成 26 年判決は , 妊娠中の軽易業務転換を機に 行われた降格は原則として均等法 9 条 3 項に違反す るとした上 , 例外事由として , 労働者の自由意思に基 づく承諾 ( 例外① ) と業務上の必要性に基づく特段の 事情 ( 例外② ) を挙げた。右判決は , 均等法 9 条 3 項と使用者の人事権の関係について原則と例外を逆転 し , 例外事由の立証責任を使用者側に課したものであ り , 理論的にも実務的にも大きな意義を有する。 本件は平成 26 年判決の差戻審であり , 右判決の判 断枠組みの下で本件について前記の例外事由を認めう るか否かが主たる争点となった。広島高裁は , 右判決 の示した基準に照らして例外①②ともに否定し , 本 件措置 1 は均等法 9 条 3 項に反し違法無効であり , かっ不法行為または債務不履行として損害賠償責任を 生じさせるとして , X の請求をほば全面的に認容し Ⅱ . 自由意思に基づく承諾の有無 ( 判旨 I ) 1 平成 26 年判決は , 本人が「自由な意思に基づ いて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理 由が客観的に存在するとき」には , 右降格は均等法 9 条 3 項の禁止する取扱いに当たらないとし , 右承諾 の有無は ( ア ) 労働者が業務転換及び降格によって受け る利益と不利益の内容や程度 , ( イ ) 使用者の説明の内 容や経緯 , ( ウ ) 労働者の意向に照らして判断するもの としている。また , 右判決を受けて改正された均等法 の解釈通達 ( 平成 27 ・ 1 ・ 23 雇児発 0123 第 1 号によ る改正後の平成 18 ・ 10 ・ 11 雇児発第 1011002 号 ) は , 妊娠・出産等の事由を契機とする不利益取扱いに 0 労働判例研究 労働者が同意している場合に , 労働者が受ける利益が 当該取扱いによる不利益を上回り , 使用者から適切な 説明がなされる等 , 「一般的な労働者であれば当該取 扱いについて同意するような合理的な理由カ喀観的に 存在するとき」は均等法 9 条 3 項に違反しないと定 めている。 これらの判断基準によれば , 例外①が認められる ケースは相当に限定される ( 例えば , 業務の性質上 , 管理職を外れない限り労働者の希望する業務負担軽減 が困難である場合に , 使用者が復帰後の処遇等につい て十分な配慮と説明を行い , 本人が納得した上で承諾 を得て , 一時的に管理職を免ずる場合などが考えられ よう ) 。本件措置 1 につき明確な説明も復帰時の保証 もないまま X が渋々受け入れたという本件において は , 自由意思に基づく承諾を認める余地はなく , 判旨 I の結論は妥当である。 2 ただし , 判旨の判断枠組みには問題とすべき点 がないわけではない。 第 1 に , そもそも平成 26 年判決の判断枠組みに関 して , 強行法規に違反する取扱いは同意の有無にかか わらず違法無効なはすであり , 同意による例外を認め ることは理論的に妥当性を欠くとの批判がある ( 水町 勇一郎〔平成 26 年判決判批〕ジュリ 1477 号 103 頁 〔 106 頁〕。判例上は , 労基法 24 条 1 項に関して , 労 働者の自由意思に基づく賃金債権の放棄や合意相殺は 同項の定める全額払原則に違反しないとの法理が形成 されている〔シンガー・ソーイング・メシーン事件・ 最判昭和 48 ・ 1 ・ 19 民集 27 巻 1 号 27 頁 , 日新製鋼 事件・最判平成 2 ・ 11 ・ 26 民集 44 巻 8 号 1085 頁〕 が , 問題の局面が異なるとする ) 。他方 , 平成 26 年 判決は強行法規からの逸脱を認めたのではなく , 自由 意思に基づく同意を得てなされた降格はそもそも均等 法 9 条 3 項が禁止する取扱いに該当しないとしたも のと解釈することも可能であり , このような解釈によ れば , 右のような問題は生じない ( 市原義孝〔平成 26 年判決判解〕ジュリ 1488 号 94 頁〔 96 頁〕。なお , 長谷川珠子〔平成 26 年判決判批〕法教 413 号 35 頁 〔 40 頁〕は , 同意に基づく降格は「〔妊娠等を〕理由 として」の要件を欠くと解し , 富永晃一〔同〕季労 248 号 173 頁〔 179 頁以下〕は「不利益取扱い」の要 件を欠くと解する ) 。 均等法 9 条 3 項は , 男性と女性を同一に扱うこと を求める性差別禁止 ( 同法 6 条等 ) とは異なり , 妊 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 113
貸借契約に基づく貸金元金 2683 万 8266 円および Y2 の横領を理由とする任務懈怠責任 ( 会社 423 条 ) に 基づく損害賠償として 5191 万 8142 円の支払等を求 める訴訟を提起した。これを受け , Y2 は平成 24 年 1 月 23 日に YI に対し , 未払報酬 50 万円 , 役員退職金 相当額 8279 万 5152 円および不当解任によって失っ た得べかりし報酬 650 万円の支払 , ならびに Y2 が横 領行為を行った旨の掲示をしたことが Y2 に対する名 誉毀損に該当するとして謝罪広告の掲載および慰謝料 100 万円の支払等を求めて , 前記訴訟に対する反訴 ( 以下両訴訟を併せて「別件訴訟」という ) を提起し 平成 24 年 12 月 17 日 , YI と Y2 は別件訴訟におい て , Y3 を利害関係人として関与させたうえ , 以下の 内容を含む裁判上の和解をした ( 以下「本件和解」と いう ) 。 ( ア ) YI は Y2 に対して , 名誉毀損による慰謝 料として 500 万円 , 退職金として 3402 万円を支払 う。 ( イ ) Y2 は , Y3 に対し , Y2 保有に係る YI 株を売 り渡し , Y3 がこれを買い受ける ( 以下「本件株式売 買」という ) 。 ( ウ ) YI は , Y2 に対し , 上記 Y3 が負担 する代金債務につき連帯保証する。 ( ェ ) YI は , Y2 に 対し , 平成 25 年 3 月 31 日限り東京交通新聞広告欄 に謝罪広告を 1 回掲載する。 ( オ ) YI は , Y2 に対し , フロッピーディスク , バッグ等の動産を引き渡す。 ( カ ) Y2 は , YI に対する別件名誉毀損訴訟および別件 株主権確認訴訟を取り下げ , YI はこれに同意する。 ( キ ) YI および Y2 は , 和解条項に定めるもの以外の 請求を放棄する。なお , 本件和解により , Y3 は総株 主の議決権の約 25.3 % を有することになり , YI の筆 頭株主となった。 そこで , X らは本件和解が会社法 120 条 1 項によ り禁止される利益供与にあたること , 会社法 853 条 1 項の再審事由に該当する瑕疵があること等を理由とし て , 和解無効の確認等を求め , 本件訴訟を提起した。 判旨 訴え却下。 「いわゆる和解無効確認の訴えは , 請求の趣 旨が過去の法律行為の確認を求める形式となっ ているものの , 当該和解が有効であるとすれば , それ から生すべき現在の特定の法律関係が存在しないこと の確認を求めるものと解される場合で , 確認を求める につき法律上の利益を有するときは , 確認の利益が認 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 104 められ , 適法として許容され得るものと解される。 そして , 上記法律上の利益に関しては , 判決をもっ て法律関係等の存否を確定することが , その法律関係 等に関する法律上の紛争を解決し , 当事者の法律上の 地位ないし利益が害される危険を除去するために必 要 , 適切である場合に , 確認の利益が認められると解 するのが相当である。」 1 本件和解が「違法な利益供与であるとす Ⅱ れば , 株主である XI は , 会社法 847 条 1 項 , 3 項等の規定に基づき , 責任追及等の訴え ( 株主代表 訴訟 ) を提起することができる ()I の役員に対する 責任追及の訴え ( 会社法 847 条 1 項・ 120 条 4 項に基 づくもの又は 847 条 1 項・ 423 条 1 項に基づくもの ) も考えられる。 ) のであって , 本件和解無効確認の訴 えによらずとも , 上記責任追及等の訴えによってより 直截にその目的を達成することができるというべきで ある。このことに加え , 本件和解は , Y らの間にお いて成立したものであって , 確認の対象となる法律関 係は , いずれも Y ら相互間における法律関係である ところ , 確定判決の効力は , 当該訴訟の当事者間にお いてのみ生じ , 当事者以外の者には及ばないのが原則 である ( 民事訴訟法 115 条 1 項 1 号 ) から , 仮に , 本件訴訟における判決によって本件和解の無効が確認 されたとしても , 同判決の効力は , X らと Y らとの 間においてのみ生じるもので , Y ら相互間には及ば ないことになる。殊に , 別件責任追及の訴えは , 株式 会社である YI が取締役である Y2 に対して任務懈怠 責任に基づく損害賠償等を求める訴訟であって , 上記 のとおり , YI と Y2 の間において上記判決の効力が 及ぶことがないとすれば , 本件和解において確定され た株式会社と取締役との間の法律関係には何らの影響 を及ばさないことになるから , 紛争の抜本的解決にな り得ないというほかはない ( かかる紛争の解決として は , 上記株主代表訴訟等によるのが相当である。 ) 。」 2 「さらに , ・・・会社法 853 条 1 項が , 責任追及 等の訴えにおける会社と取締役との馴れ合い訴訟を防 止することを目的とし , その趣旨が , 判決により訴訟 が終結した場合のほか , 和解により終了した場合にも 及ぶべきであるとしても , 和解による場合には , 上記 訴訟に関与しなかった株主が , 当該和解が無効である ことを前提として ( 同項の再審事由は , 和解を無効と する事由にもなり得ると解する。 ) , 責任追及等の訴え を提起することができるのであって , 必ずしも , 会社
Number 渉外判例研究 645 詐害行為取消権の 専属管轄条項の関係 抹消登記請求と 準拠法 , 外国不動産の 北海道大学教授 渉外判例研究会 嶋拓哉 Shima Takuya 東京地裁平成 27 年 3 月 31 日判決 平成 24 年 ( ワ ) 第 30809 号 , 貸金等請求事件 / 判 例集未登載 / 参照条文 : 民法 424 条 1 項等 事実 付元本残金等の支払を求める最終催告書を送付した なかった。 X は契約条項に基づいて , YI, Y2 宛に貸 加担保として提供するよう求めたが , YI, Y2 は応じ YI, Y2 所有の不動産 ( 「本件不動産」という ) を追 平成 24 年 3 月と 5 月に , X はフランスに所在する 万円の追加貸付を行った。 平成 19 年 8 月までに 4 度にわたり総額で約 4 億 180 融資した。 X は , 以後随時 YI , Y2 と合意したうえで , 12 月に同契約に基づき YI, Y2 に約 1 億 3000 万円を ( 日本法を準拠法とする条項がある ) を締結し , 同年 ルランド所在の不動産を担保として金銭消費貸借契約 月に , 日本居住の被告夫婦 (YI, (2) との間でアイ 原告 X ( オーストラリアの銀行 ) は , 平成 14 年 10 が , 他方 YI , Y2 は両者の子 Y3 ~ Y5 ( いずれも未成 年 , 日本に居住 ) に対して , フランス民法 935 条に 基づき本件不動産の贈与 ( 「本件贈与」という ) を行 い , 同年 9 月に本件不動産の所有権移転登記手続を 完了したにの移転登記を「本件登記」という ) 。 平成 24 年 10 月に , X は契約条項に基づき貸付元 本残高を円からユーロに転換した結果 , 最終的に貸付 元本残高が約 388 万 7 0 ユーロ , 確定遅延損害金が 約 14 万ユーロに上った。 X は本訴訟を提起し , YI, Y2 に対して , 上記の貸付元本残高 , 確定遅延損害金 等を連帯して支払うことを求めるとともに , 本件贈与 が X に対する詐害行為に当たるとして , 主位的にフ ランス民法による詐害行為取消権に基づき本件贈与の 無効確認等を , 予備的に日本民法 424 条 1 項による 詐害行為取消権に基づき本件贈与の取消しと本件登記 の抹消登記手続の履践を求めた。 判旨 貸付元本残高 , 確定遅延損害金等の支払請求を認 容。詐害行為取消権については , 主位的請求を棄却 し , 予備的請求を訒容 ルじ、 0 「法の適用に関する通則法 ( 平成 18 年法律 第 78 号 ) においては , 詐害行為取消権の準拠 法についての明文の規定はない。そこで , 詐害行為取 消権の準拠法について検討すると , 詐害行為取消権 は , 債権の内容の実現のために , 責任財産の保全を図 るという制度であるから , 被保全債権である債権の準 拠法によって取消しを認めることができるものである 必要があると考えられる。これに加えて , 取消しの対 象となる行為が債務者と第三者である受益者との間の 法律行為であることに鑑みると , 当該第三者の利益を も考慮する必要があるから , 取消しの対象となる法律 行為の準拠法によってもその取消しを認めることがで きるものでなければならないというべきである。そう すると , 詐害行為取消権の準拠法については , 被保全 債権である債権の準拠法と取消しの対象となる法律行 為の準拠法とを累積的に適用し , 双方の法律が認める 範囲内において , その行使や効果を認めるのが相当で ある。」 本判決では , 被保全債権である貸金返還請求 Ⅱ 権の準拠法は日本法 , 取消しの対象となる法律 行為である本件贈与の準拠法はフランス法であると し , いずれの法においても , X が詐害行為取消権を [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 123
破産管財人が破産債権者への配当を行うなど適 正かっ公平な清算を図ろうとするため乙に対し て当該配当金の返還を求めているなど判示の事 情の下においては , 乙が当該配当金の給付が不 法原因給付に当たることを理由としてその返還 を拒むことは , 信義則上許されない。 ( 補足意見がある。 ) 民法 708 条本文は , 「不法な原因のために 及び従前の検討 I . 本件の問題の所在 解説 1 するものにして破産者の権利を行使するものに 権利に属し破産管財人は債権者全員の為に行使 について , 「否認権なるものは各破産債権者の して破産者の給付した金員の返還を求めた場合 22 輯 2250 頁と , ②破産管財人が否認権を行使 て権利行使を否定した大判大正 5 ・ 11 ・ 21 民録 り」 ( 原文旧字・旧仮名遣い。以下同じ ) とし 者に於ても之を請求することを得ざるの筋合な れば債務者が請求することを得ざるものは債権 権者が其債務者に属する権利を行ふに他ならざ ついて , 「民法第 423 条の定むる代位訴権は債 いて不当利得返還請求権を代位行使する場合に ①給付者の債権者が民法 423 条の代位権に基づ 2 判例は , 第三者による権利行使のうち , てきた論点である。 ることが許されないのかは , 古くから議論され ように給付者以外の第三者もその返還を請求す 点は法文上明確ではなく , 本件の破産管財人の 果 , 要件 , 範囲をどのように考えるのかという いった説明がされている。しかし , 同条の効 理・不当利得・不法行為 ( 上 ) 157 頁 ) であると もの」 ( 四宮和夫・現代法律学全集 ( 10 ) 事務管 することができないという法の理想を表明する 者は , 自己の不法を主張して国家の救済を要求 の否定という形で , 法の是認しない行為をした 趣旨については , 「給付者の不当利得返還請求 求することができない。」と定めており , この 給付をした者は , その給付したものの返還を請 最高裁時の判例 非ず」などとして行使を肯定した大判昭和 6 ・ 5 ・ 15 民集 10 巻 6 号 327 頁が著名であり , 主 にこの 2 つの判例が議論の対象とされてきた。 もっとも , それほど議論の対象とされてきた ものではないが , ③破産管財人が管理処分権に 基づき返還請求する場合については , 大審院の 判例として , 「破産管財人は破産宣告当時破産 者に属する財産の範囲に於てのみ其の財産の管 理及び処分を為す権限を有するものにして破産 者は不法原因に基く給付に付不当利得返還請求 権を有せざるも其の破産管財人は該請求権を有 すと云ふが如き法理存することなき」 ( 大判昭 和 7 ・ 4 ・ 5 法律新聞 3405 号 15 頁 ) として , 破 産管財人の権利行使を否定したものがある ( な お , この判例の事案は , 破産者が , 株式取引所 の取引員である被告との間で「名板貸借」を し , 保証金名下に金銭を預託していたところ , 破産管財人がその金銭の返還を求めたという事 案であり , 上記昭和 6 年判例と同一の当事者の 事件である ) 。 3 これに対し , 破産管財人が管理処分権に 基づき行う権利行使に関して , 学説や戦後の下 級審裁判例 ( 特に本件のような無限連鎖講等の 事業を行っていた会社が破産開始決定を受けた 場合 ) は , 結論としては権利行使を認める旨の 立場がほとんどを占める。 学説の代表的な理由付けは , 「管財人の返還 請求などは , 非難性を阻却されるから , 拒否せ られない」とするもの ( 谷口知平・不法原因給 付の研究 18 頁 ) , 不法原因給付の理論は , 給付 者に対する懲罰的趣旨に基づいていることか ら , 差押債権者には適用されないことを前提と して , 管財人についても同理論が適用されない とするもの ( 伊藤眞・破産 172 頁 ) , 返還され た金員等はすべて破産財団に組み込まれて債権 者に対する配当財源になり , 不法原因給付者の 手元には渡らないことから , 裁判所による法的 保護を拒否する理由はないとするもの ( 伊藤眞 ほか・条解破産法〔第 2 版〕 595 頁 ) 等が挙げ られる。 下級審裁判例としては , 大阪地判昭和 62 ・ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 79
提出された意見を参考に原案が再検討され , 平 成 28 年 1 月 21 日に成案が公表された。 原案の公表当初は , 成案の公表は平成 27 年 秋頃が予定されていたが , 多くの意見が寄せら れたことから慎重に検討が進められ ( 担当官解 説脚注 4 ) , 平成 28 年 1 月 21 日まで時間がか かった。原案の公表後になされた各国の裁判所 や競争当局における判断との整合性を図ったこ とや , 後述するように , 原案に対して各方面か ら強い意見主張がなされ , できるだけ皆の理解 を得られる指針を制定しようと説明の時間を十 分にとったことも , 成案の公表に時間がかかっ た理由と推察される。 2. 本一部改正の背景の補足 本一部改正に関する実務的な背景について , 補足しておきたい。 ( 1 ) 標準規格必須特許に基づく権利行使 についての従前の議論 標準規格必須特許に基づく権利行使の効力に ついては , 世界各地において古くから議論がさ れてきたところであるが ( 例えば , 岡田誠「標 準必須特許の権利行使をめぐる米国の状況」 ジュリ 1458 号〔 2013 年〕 29 頁 ) , 近時は , 主 にスマートフォン等の電子通信分野における競 争の中で大きな問題となり , 各国の裁判所や競 争当局によって判断が出されるようになってい た。近時の各国の議論については , 池田・前掲 29 頁等を参照されたい。 日本においても , 標準規格必須特許に基づく 権利行使については , 特に , ライセンス交渉 や , 特許権の価値評価の場面等において , 当事 者の頭を悩ませる問題として , 従来から存在し ていた。近時 , 活発に議論される一つの契機と なったのは , アップル対サムスン知財高裁大合 議事件であろう ( 知財高裁平成 26 年 5 月 16 日 判決〔判時 2224 号 146 頁〕及び同日決定〔同 号 89 頁〕 ) 。同事件では , 標準規格必須特許に ついて FRAND 宣言がされた場合における効 力が主要な争点となり , 差止請求権について は , 相手方が FRAND 条件によるライセンス を受ける意思を有する者である場合には権利の 濫用 ( 民 1 条 3 項 ) に当たり許されない旨が判 示された。 同事件において , 知財高裁は , 極めて異例で あるが , 現行法の枠内で国内・国外に広く意見 を募集し , 各方面から多数の意見が寄せられ た。ライセンス契約を締結する意思のある実施 者について差止請求権は認容されるべきではな いとの意見が比較的多く見られたが , ライセン ス契約を締結する意思のない実施者に該当する かについての判断基準の詳細については , 軌を ーにする意見は見出せなかった , とのことであ る。また , 信義則や権利濫用の法理による制限 を行うべきとの意見も数多く見られ , また , 独 占禁止法を活用すべきとの意見もあったが , そ の数は少数であった , とのことである ( 同判 ②本一部改正に関する当事者の利害状況 この問題に関する当事者の利害としては様々 なものが考えられるが , 大きく賛成・反対のそ れぞれの立場を代表する利害状況としては , 以 下のようなものがあると思われる。 まず , 世界で製品を販売しているグローバル 企業においては , 主要国の中で日本にのみ , 標 準規格必須特許に基づく差止請求権を制限する 一般的なルールがないとすれば , 日本において 特許権に基づく差止請求権を行使され , 自社の 製品が差し止められるという甚大な被害を受け る可能性がある。したがって , 公正取引委員会 が本一部改正を行い , 標準規格必須特許に基づ く差止請求権を制限しうる場面について一般的 な規定を設けることは , このような企業にとっ ては非常に意味のあることである。 他方 , 特に , 特許権を多数有する企業におい ては , 実務上 , 極めて強力な力を持つ差止請求 権が制限されることにより , 大きな損失を被る 可能性がある。すなわち , 他国に比べて必ずし も損害賠償額が高額とはならない日本において は , 特許権の権利行使が効果的であるのは , 差 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 59
図 2 有償・無償 国土資源部門による「国有土政府と契約を締結 ( 競売を経 土地使用権の主な相違点 現行制度 払下土地使用権 ( 原則 ) 有償取得 ( 払下金を要支払 ) 支払不要 割当土地使用権 無償取得 ( 払下金不要 ) 中外合弁旧土地制度 * ( 割当 , 払下の区分なし ) 無償取得 ( 払下金不要 ) 支払必要 土地使用費 * * 使用原則 取得方式 譲渡・賃貸・ 抵当権設定 土地使用期間 土地使用期間と 経営期間の関係 原則として競売を経て ( 注 割当から払下に転換する場合地割当決定書」の発行 は競売不要 ) , 国土資源部門 と土地使用権払下契約を締結 可 あり ( 工業用地 50 年 , 40 年 ) 無関係 支払必要 営利性プロジェクトに使用可非営利性プロジェクトに使用営利性プロジェクトに使用可 不可 原則としてなし 無関係 商業用地 ない ) 不可 あり ( 会社の経営期間と同一 ) 期間は一致 ( 注 : 延長手続は別々の機関 において個別に実施。経営期 間・土地使用期間満了時の処 理パターンについては図 3 参照 ) * 「国務院関於中外合営企業建設用地的暫行規定」 , 「中外合資経営企業法実施条例 ( 1983 年版 ) 」等。 * * 割当土地使用権や中外合弁旧土地制度に基づく土地使用権など無償取得の土地使用権を保有する外商投資企業に対し課され る土地の使用費を指す ( 土地使用権の払下金のような , 土地使用権取得の対価ではない ) 。所在地政府が徴収基準を公表するが , 中外合弁旧土地制度に基づき土地使用権を利用する場合 , 具体的な土地使用費の金額は土地使用契約において定めるとされる。金 額は土地払下金と比して非常に低廉である ( たとえば本稿作成時の北京市の土地使用費は 120 元 / ⅲ / 年である ( 2 開 1 年から改定 されていない ) 。 が取得する土地使用権の「土地使用期間」の満 了日は , 初期型外資の会社の経営期間満了日と 同日に設定される。そして , 初期型外資が会社 の「経営期間」の満了等により解散する場合に は , 土地使用権は国に返還しなければならない とされる 2 ) 。 このような中外合弁旧土地制度に基づき 2 ) 「国務院関於中外合営企業建設用地的暫行規定」 ( 九 ) 等参照。なお , 誤解を避けるために付言すると , 本稿では , 依拠する制度の違いから「中外合弁旧土地制度に基づく土地 使用権」と現行制度下の土地使用権とを区分しているが , 法 令の文言上も , 登記上もそのような区別が明記されるわけで はない。むしろ , 中外合弁旧土地制度に基づく土地使用権 が , 登記上は割当土地使用権として登記証が発行されている 例も少なくないようである。そのため , 登記の外観からはそ の依拠する制度背景による区別がしづらく , 土地使用権の性 質の理解に混乱を生じやすい。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 1980 年代に土地使用権を取得した中外合弁企 業が , 初期型外資である 3 ) 。 このような古い土地制度である中外合弁旧土 地制度のもとで取得された土地使用権は , 現在 の土地使用制度における有償払下土地使用権 , 無償割当土地使用権のいずれとも明確には合致 しない , 次のような特徴を持っている ( 詳細は 3 ) 1983 年 9 月 20 日施行の「中外合資経営企業法実施 条例」 ( 国発〔 1983 〕第 1 絽号 , 1983 年 9 月 20 日公布・施行 ) 47 条は , 中外合弁旧土地制度における土地使用権について 規定したものと考えられる。なお , 同条は , 現行の「中外合 資経営企業法実施条例 ( 2014 年改正版 ) 」 ( 国務院令〔 2014 〕 第 648 号 , 2014 年 2 月 19 日公布 , 同年 3 月 1 日施行 ) 44 条 にも同内容で規定されているが , 同条は中外合弁旧土地制度 のもとでの土地使用権について規定したものと考えられ , 現 行の土地使用制度と相容れないことから , 本稿作成時点では 死文化している。
十分に理解した上で諾否を決定しえたものとはいえな いから , 例外①に該当するとは認められない。また , 本件措置 1 に係る業務上の必要性の有無及び内容・ 程度 , 負担軽減の内容や程度等が明らかにされない限 り , 「特段の事情」 ( 例外② ) を認めることはできな 判旨 請求認容。 1 X が平成 20 年 2 月下旬に副主任免除を 承諾していた事実は認定できない。 2 「 X は , 平成 20 年 3 月中旬に , D から改めて副 主任を免ぜられることにつき説明を受け , この辞令の 日付を 3 月 1 日の異動時に遡らせることを条件に ・・・結局 , 副主任を免ぜられることは受け入れてい る , また , ト・・・・副主任を免ぜられたことにつき異議 を留保したり , 育児休業明けに副主任の地位がどうな るかを尋ねたりはしていない』と供述していることが 認められ , ・・・ X は , 平成 20 年 3 月中旬には , リハ ビリ科への異動に伴い副主任の地位を免ぜられること を承諾 ( 以下『本件事後承諾』という。 ) したと認め るのが相当である。」 3 しかし , X は「進んであるいは心から納得して 副主任免除を受け容れたものということはでき」ず , ・・・肉体的 「 X はリハビリ科へ異動したことにより , 負担の少ない病院リハビリ業務を担当できるとの利益 を得たとは認められる・・・・・ものの , 本件措置 1 は ・・・賃金の低下等の重大な不利益を与えている・・・ ・・・副主任への復帰を保証したものでないこと と , , Y が X に対し育児休業終了後の現場復帰の際 に副主任の地位がどうなるかを明確に説明したと認め るに足りる証拠はないことを併せ考えると・・・・・・本件事 後承諾につき自由意思に基づく合理的な理由カ喀観的 に存在するとはいえない」。 1 ( 各組織単位に主任・副主任を併存させな Ⅱ い運用がなされており , 本件措置 1 は業務上 の必要性に基づくものであったとの主張に対し ) 「構 成員が少数の職場単位に権限や責任 , 役割が同じ職責 者を複数配置することが , 一般的 , 抽象的に指揮命令 系統に混乱が生ずる可能性があり , 医療現場において は・・・・・・混乱を生ずる可能性を排除する必要があること 。しかし , ここでいう指揮命令系統 は認められる・・ の混乱が , 具体的にどのような事態を想定しているの [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 112 か , また , 発生した事態に伴い具体的に発生する危険 ( 弊害 ) がどのようなものであるかについては・・・・・・明 確ではないうえ , 本件では , 同地位の職責者・・・・・・が複 数配置されるわけではないこと・・・・・・を併せ考えると , ・・・業務上の必要性があったことにつき十分な立証が なされているとはいえない。」 2 ( x は職責者としての適性を欠くため降格する 業務上の必要性があったとの主張に対し ) 「〔軽易業務 への転換請求を機になされる〕女性労働者の資質・能 力を理由とする降格が一切許されないとまでいうこと はできない」が , 「 Y が X に職責者適性がないことを 裏付ける事実として主張した点はすべて理由がない」。 3 「〔業務軽減は〕降格させたことによる利益とは いえないこと , X はそもそも降格を望んでおらず , これにより経済的損失を被るほか , 人事面において も , 役職取得に必要な職場経験のやり直しを迫られる 不利益を受けること・・ , X は復帰時に役職者とし て復帰することが保証されているものではなかったこ ・・・からすると , ・・・・・・大きな意味を持っとはいえな い。また , Y は , X 〔を〕元の職場・・・・・・に副主任とし て復帰させるための何らの方策・・・・・・を検討することも しないで・・・・・・ C を副主任に任命することを決定してい , Y が , 副主任から降格させるにつき事 前はもちろん , 事後においても , X に対し , 手続及 び決定理由の説明をしたと認めるに足りる証拠はない ことをも併せ考えると , ・・・・・・業務上の軽減措置が , X に対して与えた降格という不利益を補うものであった とは到底いえ」ず , 「本件措置 1 について , 降格措置 の必要性とそれが均等法 9 条 3 項に実質的に反しな いと認められる特段の事情があったとはいえない」。 「 Y には , 本件措置 1 をなすにつき , 使用者 Ⅲ として , 女性労働者の母性を尊重し職業生活の 充実の確保を果たすべき義務に違反した過失・・・・・・ , 労 働法上の配慮義務違反・・・・・・があるというべきであり , その重大さも不法行為又は債務不履行として民法上の 損害賠償責任を負わせるに十分な程度に達している」。 評釈 判旨に概ね賛成する。 I . 本判決の意義 均等法 9 条 3 項は , 妊娠 , 出産 , 労基法に基づく 産休取得その他の事由 ( 労基法 65 条 3 項に基づく軽
うなものがあると考えられる。 ①現在もその土地で土地使用権の有償払下を 受けることができるか たとえば , 当該会社の事業内容が現時点の 当該地域の都市計画の条件と合致しており , 払下を受けることができるかといった問題で ある。土地使用権は , 払下時点の都市計画等 に合致していなければ払下を受けることがで きない。初期型外資が土地使用権を取得した 当初と現時点では , 当該地域の都市計画も変 化していることが多いことから , 初期型外資 が中外合弁旧土地制度に基づく土地使用を終 了させ , 現行制度のもとで払下を受けるので あれば , 現時点でも , 初期型外資の土地使用 の用途や条件が現在の都市計画等に適合して いるかを改めて確認する必要がある。 ②土地使用権の払下価格その他のコストの負 担は可能か 土地使用権の払下価格は通常かなり大きな 金額となるうえ , 土地使用権の払下金は土地 使用権払下契約締結後一定の期間内に通常は 1 回 ~ 数回払で支払を完了させる必要がある ことから , 初期型外資にとって , 図 3 パ ターン B を選択するということは , 大きな コストが一時期に発生することを意味する。 また , 地方によっては , 中外合弁旧土地制 度に基づく土地使用権から現行の払下土地使 用権に転換するにあたり , 土地使用権取得か ら現在までの土地使用費が全て支払われてい るかどうかが審査対象となり , 支払不足があ る場合は土地使用費の追加納付が必要となる こともある。中外合弁旧土地制度のもとで土 地使用権を取得した 1980 年代から現在まで の土地使用費の支払を全て証明することは容 易でないため ( 支払をしていても , 支払証憑 の紛失や担当者の退職等により , 当局に支払 を証明する資料を提出できないこともある ) , 支払の証明ができない結果 , 土地使用費追納 4 ) 「国務院関於中外合営企業建設用地的暫行規定」 ( 九 ) 等参 特集 / 中国拠点の再構築 のコスト負担が生ずるケースもある。 さらには , 土地使用権の払下コスト等を調 達するために初期型外資において銀行借入等 を行う必要が生ずることも考えられるが , 中 外合弁旧土地制度に基づく土地使用権は , 抵 当権を設定することが困難と考えられる 4 ) 。 有償の払下土地使用権であれば抵当権の設定 は可能であるが , これから図 3 パターン B を採用しようという払下前の段階では , 初期 型外資は抵当権を設定可能な払下土地使用権 をまだ取得していないため , 銀行借入にあた り , 初期型外資の保有する土地使用権に抵当 権を設定することはできない。そのため出資 者による保証提供や親子ローンによる払下資 金調達の検討も必要となる場合がある。 ③建物の耐用年数 , 増改築の可否 1980 年代に設立された初期型外資にとっ ては , 土地上に建設した建物があと何年程度 使用可能で , 改築・改装が可能かどうかも , 当該土地での事業運営を継続するか , 移転又 は撤退をするかの検討要素となりうる。現在 も中外合弁旧土地制度に基づく土地使用権を 保有している初期型外資には , ホテルやオ フィスビルなどの商業施設も多いが , いった業態の場合 , その土地での事業継続が 可能であるか , 既存の建物の改築・改装の要 否 , 可否は事業の継続可能性にとって非常に 重要である。前記①と重複する部分もある が , たとえば , 当該会社の事業に用いる建物 について , 設立された当初はさほど建設条件 が厳しくなかったとしても , 現時点では周囲 の都市開発が進み , 建物の建設条件に係る要 求が厳しくなる等の原因により大幅な増改築 が難しくなっているケースもある。そのた め , 土地使用権に関して払下というコスト投 下をすることが適切かどうかは , 地上建物の 耐用年数との関係でも要検討となる。 以上は主にコスト面や土地建物の使用継続可 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 47
知を代替することができる。さらに , 労働者に 対する経済補償として , 会社は 46 条 3 号の規 定に基づき , 従業員に対し経済補償金 6 ) を支払 わなければならない。 一方 , 4 条は , 使用者は労働者の密接な利益 に直接関わる規則・制度 , あるいは重大事項を 制定 , 改正又は決定する場合 , 従業員代表大会 又は従業員全体と討議し , 方案及び意見を提出 し , 労働組合又は従業員代表と平等な協議を経 て確定する , と規定している。したがって , 会 社は 40 条 3 号を根拠とし , 客観的状況に重大 な変化が発生したことを理由に従業員との労働 契約を解除する場合 , 当該決定は , 従業員の密 接な利益に直接関わる重大事項と認定される可 能性があることから , 従業員代表大会又は従業 員全体に公示又は意見を聴取し , 労働組合又は 従業員代表との平等な協議を経て確定する必要 がある。意見を十分に聴取し , 民主的な手続の うえ , 労働組合又は従業員代表と合意に至らな い場合 , 会社は最終的な決定権を有する。 このほか , 42 条に基づき , 労働者が以下の 6 つの状況 7 ) に該当する場合 , 会社は 40 条 3 号 に基づき従業員との労働契約を一方的に解除し てはならない , という点に注意が必要である。 ①職業病の危険を伴う業務に従事・接触する 労働者が , 職場を離れる前に職業健康診断 を受診していない , あるいは職業病の疑い のある病人が診断 , あるいは医療観察期間 にある場合 ②当該企業において職業病に罹患 , あるいは 業務上負傷し , 労働能力を全部又は一部喪 失したと確認された場合 ③罹病又は業務外での負傷によって , 規定の 医療期間にある場合 ただし実務上 , 従業員側から争われるリスクは極めて少な にある従業員との労働契約を一方的に解除してはならない。 在する。すなわち会社は客観的状況の変化によって試用期間 7 ) 厳格な法律解釈によるとさらにもう 1 つの状況が存 ④女性労働者が妊娠期間 , 出産期間 , 哺乳期 特集 / 中国拠点の再構築 間にある場合 ⑤当該企業において連続満 15 年勤続し , か っ , 法定退職年齢まで 5 年に満たない場合 ⑥法律 , 行政法規が規定するその他の状況 2. 経済的人員削減による労働契約解除の 法的手続 / 留意点 会社が経済的人員削減を行う場合 , 30 日前 までに労働組合又は従業員全員に説明し , 労働 組合又は従業員の意見を聴取しなければならな い。同時に , 会社は削減計画を労働部門に報告 しなければならない。「報告」とは労働部の関 連規定 8 ) によると状況説明のみを指し , 労働部 門の承認を得る必要はない。 実務上 , 経済的人員削減を行う前に労働部門 から同意と協力を得られない場合 , 会社の人員 削減には様々な困難が予想される。一部地域 ( 例えば上海 ) では , 会社が所在地の労働部門 に報告を提出し , かっ労働部門が発行した受領 書 ( 中国語 : 回執 ) を取得しなければ , 実際の 人員削減手続に入ることができない 9 ) 。もちろ ん , 実際に行政レベルの受領書を取得できて も , 経済的人員削減により労働紛争が発生した 場合 , 経済的人員削減の合法性はそれぞれの紛 争ごとの司法判断に委ねられる。 経済的人員削減の場合も 1 と同様に , 46 条 4 号に基づき , 会社が従業員に対し経済補償金 を支払わなければならない。 経済的人員削減の際には , 以下の労働者を優 先的に引き続き雇用しなければならない。 ①当該会社と比較的長期間の固定期間労働契 約を締結している者 ②当該会社と固定期間の無い労働契約を締結 している者 ③家庭内にその他就業者がなく , 扶養する老 8 ) 「労働部による「労働法」の若干条項に関する説明」 27 条。 9 ) 「雇用企業が法律に従い人員削減報告を実施すること に関する通知」 ( 滬人社関発〔 2 開 9 〕第 3 号 , 289 年 1 月 8 日公布・施行 ) 一 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 37