特集 / 中国拠点の再構築 表持分譲渡と解散・清算のポイント整理 持分譲渡 解散・清算 会社が存続するため , 債権者保護 , 従業員の会社が消滅するため , 債権者保護 , 従業員の 認可取得の 雇用維持等の問題が発生せす , 認可が比較的失業問題や外資誘致実績に対するマイナス評 難易度 下りやすい 価が伴い , 認可も慎重に行われる 法律事務所等による手続の代行費用 法律事務所・会計事務所等による手続の代行 主な費用 費用 , 経済補償金 , 労務・債権債務に関連す る紛争解決費用 ( ある場合 ) 現地法人による商務部門の審査認可 , 工商登現地法人による商務部門の審査認可 , 清算の 記その他関連登記の変更手続 ( 譲渡側及び譲ための各手続 , 税務登記の抹消 , 海外送金に 主な手続 受側がこれに協力する ) , 譲受側による海外伴う税務・外貨手続 , 工商登記の抹消 , 他の 送金に伴う税務・外貨手続など 政府部門の登記の抹消など 送金までの 2 カ月 ~ 3 カ月 ( 譲受希望者探し及び譲渡 9 カ月以上 ( 1 年以上かかるケースが多い ) 所要時間 価格等の交渉にかかる時間を含ます ) 譲受側の経営方針及び引受け条件により , 譲全従業員 ( 雇用関係が企業の解散と共に終 リストラの 要否・対象 渡する前に人員調整を実施する場合あり 了 ) 譲受を希望する第三者がいる場合は , 出資金資産の処分価格が低くなり , 労働契約の終了 投下資本の の一部又は全部の回収が可能 ( 場合によりプに伴う経済補償金の支払等の支出もあるた 回収 レミアムの可能性 ) め , 残余財産の分配は少額又は零になる場合 が多い 認可の取得が容易 , ( 一部譲渡の場合 ) 事業完全撤退が可能 縮小・完全撤退が可能 , 費用が低廉 , 手続が 簡易 , 所要時間が短い , 労務紛争のリスクが 低い , 法人格が存続するため株主 ( 親会社 ) の信用や他の事業に与える影響が少ない 譲受希望者の有無 , 及び譲渡価格の多寡は不認可の取得に時間がかかる場面が多い , 手続 確定 ( ケースパイケース ) が煩雑 , 費用が高い , 所要時間が長い , 労務 紛争のリスクが高い , 親会社やグループ内の 他の事業の信用に影響するリスクあり だからである。 は , リストラを一気に実施せず段階的に実施す また , 解散・清算の場合 , 一旦手続に入ると るとか , 予め商品の作り溜めを行うなどの工夫 後戻りはできず , 様々な当局対応が必要になる をすることが考えられる。 ことから , 事前に専門家と相談して様々な問題 また , 会社の解散発表ないしリストラ後は現 を検討する必要性が高い。 地スタッフが急減するため , 当局対応を含めた 例えば , 清算期間中は清算と無関係な経営活 清算業務の円滑な進行に支障が生じることがな 動ができなくなるため , 通常の製造・販売活動 いよう手配をすることが重要である。具体的に は停止する必要があることの , また , 会社の解 は , 税務調査への対応に備えて財務部門スタッ 散発表やリストラの敢行後は多くの従業員が会 フの継続雇用や , 会計事務所へのアウトソーシ 社に止まろうとせず , 前倒しで続々と退職し始 ングなども , 事前に検討・準備する必要があ めることから , 顧客への商品供給に支障が生じ る。 ることがないかを慎重に見極めつつ各手順のタ イミングを図ることが重要である。具体的に : ロ一三 メリット デメリット 7 ) 「公司法」 205 条参照。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
特集 / 中国拠点の再構築 消手続が完了できれば , 現地法人の解散・清算 明書に記入された対外支払金額を地方税務局登 手続はほほ完了したといえる。残される手続と 己抹消通知及び国税局登記抹消通知に記入す して , 技術監督局の登記抹消 , 財政登記抹消 , る。銀行が当該地方税務局登記抹消通知及び国 統計局の登記抹消 , 銀行口座閉鎖 , 社会保険登 税局登記抹消通知に記入された金額に基づき , 己抹消及び社印登記抹消があるが , これらの手 国外出資者に外貨送金を行う。外貨管理局での 続に際して最も重要な書類は工商行政管理部門 登記抹消手続は通常 20 営業日以内に完了でき による登記抹消通知書である。これらの手続 る。外貨送金は通常当日に完了できる。 は , 当日またはわりと短い期間で完了できる。 7. 工商行政管理部門での登記抹消手続 皿管轄各政府部門への実務的対応方法 工商行政管理部門での登記抹消手続で最も重 各地の政府部門は外国投資者の投資を歓迎す 視されているものは , 税務登記抹消通知及び税 るが , 外国投資者の撤退については , 政府部 関登記抹消証明書である。工商行政管理部門で 門 , 特に外国投資の誘致を奨励する政策がある の登記抹消手続は通常 5 営業日以内に完了でき 地方の政府部門は消極的な態度をとるのが一般 る。現地法人は工商行政管理部門での登記抹消 的である。したがって , 現地法人が解散・清算 手続を終えてから初めて法人として登記から抹 の手続を行う前に , 各政府部門に打診し , 非公 消される。それが原因で , 税務登記抹消手続が 式に報告や通知を行えば , その後スムーズに解 完了してからすぐに工商行政管理部門での登記 散・清算手続を遂行できる可能性がある。 抹消手続をしようとする現地法人がある。確か に外貨管理局の登記抹消手続及び外貨送金を後 れ商務部門 回しにして先に工商行政管理部門での登記抹消 現地法人の解散・清算を行うために最も重要 手続を行うことは可能である。しかし , 先に工 な認可をする政府部門である。当該商務部門に 商行政管理部門での登記抹消手続を終えた現地 よる解散・清算に関する認可が受けられない 法人が外貨管理局での登記抹消手続を行う場 と , 現地法人の解散・清算は絵に描いた餅に 合 , 現地法人の全ての出資者が捺印した申請表 なってしまう。したがって , 上に述べたよう や出資者の登記証明書類や全ての出資者が署名 に , 解散・清算に関して , 各政府部門に打診 , 捺印した保証書 ( 清算が合法的に行われたなど 説明することが難しいならば , 少なくとも , 商 の内容を記入するもの ) などを提出しなければ 務部門には事前に相談すべきである。特に , 地 ならず , 工商行政管理部門での登記抹消手続前 方では , 商務部門や税務部門及び工商行政管理 に手続を行うより複雑になる。それだけではな 部門の連携が緊密であるため , 解散・清算に関 く , 工商行政管理部門での登記抹消手続を行う して商務部門を納得させ , 実質的な問題がなけ ために , 税務登記抹消通知のオリジナルや営業 れば , その他の政府部門が手続自体を妨げる可 許可証のオリジナルを全て工商行政管理部門に 能性は低いといえる。 提出する必要があるため , 銀行で外貨送金の手 続を行う場合 , 銀行からそれら書類のオリジナ 2. 税務部門 ルの提出を求められても , それらを提示でき 税務部門での登記抹消手続はまず地方税務局 ず , 送金自体が影響を受ける可能性がある。し での登記抹消手続を行い , その後国税局での登 たがって , そのようなリスクを避けるため , 通 己抹消手続を行うという二段階に分けられる。 常 , 外貨管理局での登記抹消手続及び外資送金 税務登記抹消手続は解散・清算手続の中で最も を終えたあと工商行政管理部門での登記抹消手 重要な手続である。当該手続において , 現地法 続をしたほうが無難である。 人の財務書類 , 帳簿などは税務局の精査を受け 上記のように , 工商行政管理部門での登記抹 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 一三ロ 一三ロ 一三ロ
能性に関わる要検討要素であるが , 初期型外資 4. 小括 の場合は , これらに加えてさらに ④そもそも経営期間を延長するか , 経営期間 以上みてきたような , 土地使用権の払下を受 を延長する場合 , どの程度延長するか ( コス けることによるコストの発生やその資金調達方 トをかけて当該場所での事業延長をする場 法 , 将来の建物改築等の可能性の検討は , ビジ 合 , 建物の耐用年数等を踏まえ , コスト回収 ネス上は単に土地使用権の問題にとどまらず , が可能な経営期間はどの程度か 5 ) ) 初期型外資自体の事業継続可能性ひいては存続 ⑤経営期間を延長するか否か , 土地使用権の 可能性の問題に直結しやすい。法的には , 初期 払下を受けるか否か等の問題について中国側 型外資の会社の経営期間と土地使用権の使用期 パートナーと合意が可能か 間の問題は別個の問題であるものの , これまで も問題となりうる。 中外合弁旧土地制度のもとで低廉な土地使用費 また , 初期型外資が図 3 パターン B を採 を支払うのみで土地使用権を利用することがで 用し , 土地使用権の払下を受けて事業を継続 きていた初期型外資にとってみれば , 図 3 パ する可能性があるのであれば , ターン B の選択は , これまで初期型外資にお ⑥いつからいずれの手続を開始するか いてはほほ無縁であった土地使用権の取得コス についても検討が必要である。 ト ( 払下金 ) の負担が生ずるうえに , 経営期間 経営期間の延長手続 ( 商務部門への延長認 の満了のタイミングで土地使用期間の満了や前 可申請及び工商行政管理部門での変更登記手 己のような各種検討要素が一気に課題として浮 続 ) は , 経営期間満了の 6 カ月前までに商務 上するため , これを機に , 事業計画の見直し 部門への延長認可申請ができていればよい や , さらには会社をこのまま存続させるか , が , 土地使用権の払下手続には , 様々な許認 れを機に撤退するかの再検討を余儀なくされが 可や関係当局との調整を含めると 6 カ月以上 ちである。初期型外資に該当する外商投資企業 の時間を要すると考えられるうえ , 1980 年 の数は , 現時点では既に相対的には多くないと 代に設立された初期型外資の中国側パート 思われるものの , 該当する企業においては , 単 ナーは国有企業であることも多いため , その に期間延長という手続の問題と考えず , 前広に 意思決定には時間を要することもある。図 その対応策を検討する必要がある。 3 パターン B を採用する可能性がある場合 には , より早い時期から , 遅くとも土地使用 期間及び経営期間満了の最低 1 年前 ( 可能で あれば 2 年前 ) には土地使用権払下に向けた 手続申請を開始するのが望ましいと思われ る。 5 ) なお , 図 3 パターン B を採用し土地使用権の払下を 受けることにより取得する , 現行制度における有償払下土地 使用権は , 用途に応じて土地使用期間が定められており , 当 該土地使用期間の範囲内で敷地を利用することになる。かか る土地使用期間が満了した場合 , 法令上は , 延長申請が可能 とされており , また , 公共の利益のため収用の必要性がある 場合を除き延長申請は認可される旨が規定されているものの ( 「城市房地産管理法 ( 2007 年改正版 ) 」〔主席令 ( 2 開 7 ) 第 72 号 , 2 開 8 年 8 月 30 日公布・施行〕 22 条等 ) , 実務上は , 延長後の期間 , 延長回数 , 延長が認められない場合の地上建 物の取扱い ( 補償されるか否か ) にはまだ議論が多い ( 即 ち , 現行制度に基づく有償払下土地使用権に転換したとして もなおその土地使用権の利用可能性には使用期限にからむ課 題がある ) ことに留意されたい。 48 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
185 条の規定に従い , 会社の解散及び清算につ 登記抹消手続を行うことができる。もし , 会社 いて書面で全ての既知債権者に通知し , かっ会 が税関登記をしていないならば , 税関に未登記 社の規模及び営業地域の範囲に基づき , 全国的 証明書を発行してもらえばよい。最短で当日 , にまたは会社の登録登記地省レベルにおいて影 長くても 1 週間以内に当該手続を終えられる。 響力を有する新聞紙上で公告を行わなければな しかし , もし税関登記をしている場合 , 税関登 らない」と定められている。念のため , 公告新 記証明書 , 抹消申請書 , 商務部門による解散認 聞のレベルについて , 新聞公告を出す前に , 所 可書 , 董事会決議 , 営業許可証などを所轄税関 轄の工商行政管理部門に確認すべきである。 に提出して税関登記抹消手続をしなければなら なお , 新聞公告には清算委員会の届出通知 ない。手続所要時間は通常 10 営業日ぐらいで 書 , 営業許可証 , 董事会決議 , 法定代表者の身 ある。 分証明書のコピーが必要とされ , 商務部門によ 5. 対外支払に関する国税局での届出手続 る解散認可書が必要とされていないことが多い ため , 清算委員会の届出手続を終え , 通知書が 清算手続の終了後に , 国外の出資者に残余財 発行された後 , 新聞公告を開始することが可能 産を送金する場合 , 2013 年 9 月 1 日より , 5 万 である。 米ドル以上の清算後国外出資者への送金は「服 務貿易等項目の対外支払に関する税務届出問題 4. 税務登記抹消手続及び税関登記抹消手続 に関する公告」 ( 国家税務総局 , 国家外貨管理 税務登記抹消手続は解散・清算手続の中で最 局公告〔 2013 〕第 40 号 , 2013 年 7 月 9 日公布 , も重要であり , 時間がかかり , 場合によっては 同年 9 月 1 日施行 ) に基づき , 所轄の国税局に 税金返還 5 ) , 滞納金納付などのペナルティを伴 て届出手続を行わなければならない。当該手続 う恐れがある手続である。通常まず地方税務局 の中で , 対外支払金額を記入する説明書及び当 の登記抹消手続を行い , それから国税局の登記 該金額を証明できる第三者による清算報告書が 抹消手続を行うことになる。以前は , 地方税務 必要不可欠な書類である。当該説明書に国税局 局の登記抹消手続では会社帳簿の精査を行って の捺印がない場合 , 外貨管理局での登記抹消手 いたため時間がかかったが , 国税局の登記抹消 続もできなければ , 銀行での送金手続もできな 手続では会社帳簿の精査を行わなかったため , い。手続所要時間はそれほどかからず , 1 週間 それほど時間がかからなかった。したがって , 以内に完了できる。 税務登記抹消手続の所要時間は通常 2 カ月 ~ 4 6. 外貨管理局登記抹消手続及び外資送金 カ月ぐらいであった。しかし , 現在は地方税務 局も国税局も会社帳簿の精査に力を注ぐ傾向に 外貨管理局での登記抹消手続においては , 上 あるため , 税務登記抹消手続は以前より時間が 己の国税局に捺印された対外支払説明書 , 地方 かかり , 通常 4 カ月 ~ 6 カ月ぐらいである。 税務局の登記抹消通知 , 国税局の登記抹消通知 なお , 税務登記抹消手続を行うと同時に税関 が最も重要な書類である。外貨管理局は当該説 一三ロ 4 ) 「公司法司法解釈二 ( 2014 年改正版 ) 」 ( 法釈〔 2014 〕 第 2 号 , 2014 年 2 月 20 日公布 , 同年 3 月 1 日施行 ) 13 条に より , 債権者が規定される期間内に債権を申告しなかった場 合 , 会社清算手続終了前に補充申告すれば , 清算委員会が登 記しなければならない。同司法解釈 14 条により , 債権者に 補充申告された債権について , 会社の分配されていない財産 から弁済することができ , 当該分配されていない財産で弁済 できなかった場合 , 債権者は出資者が余剰財産の分配で取得 した財産で弁済するよう求めることができる。 5 ) 「外商投資企業元来の税収優遇政策が取り消された後 の関連事項の処理に関する国家税務総局の通知」 ( 国税発 〔 2 開 8 〕第 23 号 , 2 開 8 年 2 月 27 日公布・施行 ) により , 2 開 8 年 1 月 1 日までに所得税優遇政策を受けた生産型現地法人が 経営期間 10 年未満で解散・清算すれば , 免除された税金を 返還しなければならないことについてご留意いただきたい。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 30
なければならない 6 ) 。税務局は当該精査におい て問題を発見した場合 , 解散・清算の手続その ものをストップさせることができる。したがっ て , 解散・清算を行う前に , 社内の財務状況が 税務局の精査に耐えられるかどうかについて財 務担当者に調査させるべきである。また , 解 散・清算を決定した後 , すぐに現地法人の財務 担当者に所属地域の地方税務局の専門担当者と 相談させ , 提出資料から準備事項まで様々な面 においてアドバイスをしてもらったほうが無難 である。通常 , 日ごろ当該専門担当者とコンタ クトしている現地法人の財務担当者に当該専門 担当者との相談 , 税務部門への対応を担当して もらうのが最も望ましい。 3. 税関 , 外貨管理部門 税関登記を行った現地法人は , 解散・清算の 場合 , 税関登記抹消手続を行わなければならな い。当該税関登記抹消手続は , 日ごろの通関手 続の適正さや保税貨物または税関監督管理下に ある輸入税減免設備などの状況について検査を 終えてから初めて行われることになる。した がって , 税関登記抹消手続を受理する部門だけ ではなく , 通関部門や密輸取締部門などの税関 内の関連する各業務監督管理部門の同意が必要 とされている。したがって , 普段これらの部門 と良好な関係を保っことも望ましい。また , 解 散・清算手続を行う前に , 税関監督管理下にあ る輸入税減免設備などの状況 7 ) や密輸問題の有 無や通関手続の適正さを自ら調査すべきであ る。さらに , 社内の税関担当者に未解決問題が あるかどうかについて非公式で上記の関連部門 に打診してもらい , 問題がある場合 , 早期解決 方法をアドバイスしてもらったほうが無難であ 6 ) 「税収徴収管理法 ( 2015 年改正版 ) 」 ( 主席令〔 2015 〕 第 23 号 , 2015 年 4 月 24 日公布・施行 ) 52 条により , 解散・ 清算中の税務調査の場合 , 税務局が少なくとも 3 年間 , 長い 場合 5 年間の企業の帳簿を精査し , 未納税金を追徴し滞納金 を徴収することができる。 7 ) 「輸入設備の税収政策の調整に関する国務院の通知」 ( 国発〔 1997 〕第 37 号 , 1997 年 12 月 29 日公布・施行 ) 1 条 32 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 る。さもなければ , 税関登記抹消手続中に問題 が発見され , 税関登記抹消手続そのものが難航 しかねないのみならず , その後の手続にも影響 を及ばす恐れがある。当然 , 税関登記を行って いない現地法人であれば , 手続は簡単になり , 税関未登記証明書を取得すればすむ。 なお , 外貨管理局の登記抹消手続の基礎は税 務登記抹消手続の終了及び国税局による対外支 払説明書への捺印である。したがって , 前記の 2 つの手続を問題なく終了できれば , 外貨管理 局の登記抹消手続において特に問題は発生しな い。ただし , 外貨管理局の登記抹消手続に必要 とされる書類は頻繁に変更されるため , 事前の 問い合わせが不可欠である。また , 必要書類の 記入方法については , 通常 , 外貨管理局の窓口 に貼られている。したがって , 問い合わせのた めに何回も電話をしてつながらなかったり , 電 話がつながったとしてもその対応が不親切で あったりして戸惑うこともあるので , 直接窓口 に行って担当者に確認したほうが早いかもしれ ない。 4. 工商行政管理部門 現在 , 工商行政管理部門で取り扱っている手 続が数多くあるため , 効率よく処理する観点か ら , 手続を行う前に先に工商行政管理部門の ウエプサイトで資料提出時間を予約しなければ ならない傾向にある。したがって , 必要書類を 確認すると同時に手続を行うプロセスを知って おいたほうが計画どおり手続を遂行することが できる。また , 必要書類の中に清算報告書が含 まれる。当該清算報告書は会計士事務所により 作成されるものではなく , 工商行政管理部門の 所定のフォームがあり , 当該フォームに従って 及び「輸出入貨物税金減免に関する税関の管理弁法」 ( 税関 総署令〔 2008 〕第 179 号 , 2008 年 12 月 29 日公布 , 2009 年 2 月 1 日施行 ) 40 条により , 投資総額の範囲内で輸入され , 税関監督期間内 ( 通常 5 年間 ) にある輸入税減免設備があれ ば , 解散・清算時に免除された輸入段階の関税及び増値税を 返還し , 税関による監督を解除する必要がある。
図 1 . 商務部門による解散認可手続 2. 工商行政管理部門での 清算委員会の届出手続 . 5 営業日 20 営業日 3. 新聞公告 . 45 日間 4. 税務登記抹消手続 . 4 カ月 ~ 6 カ月 税関登記抹消手続 . 1 週間 ~ 10 営業日 5. 対外支払に関する国税局での届出手続 . 1 週間 6. 外貨管理局登記抹消手続 . 20 営業日 外貨送金 . 当日 7. 工商行政管理部門での登記抹消手続 : 5 営業日 従前の批准証書返上の手続がなくなった。 2. 清算委員会の届出 商務部弁公庁による「外資系企業解散・清算 作業を法により貫徹することに関する指導意見」 2 条 3 項により , 会社は商務部門の認可を受け てから 15 日 3 ) 以内に清算委員会を設立し , 清 算を開始しなければならない。しかし , 「公司 法」 183 条により , 現地法人が経営期間満了前 に自ら解散する場合 , 解散決定の日から 15 日 以内に清算委員会を設立しなければならない。 また , 通常所轄の工商行政管理部門にて清算委 員会の届出手続を行う場合 , 解散に関する商務 部門の認可を必要としないため , 実務上 , 現地 法人の最高権力機関による解散の決定が行われ た後 , 商務部門での解散申請手続と工商行政管 理部門での清算委員会の届出手続が同時に行わ * 天達共和律師事務所。 1 ) 特に中外合弁企業の場合 , 現地法人の解散・清算は 董事会の全会一致事項である。中外出資者の異なる考え方に より , 董事会の全会一致可決を獲得することが難しくなり , 現地法人の外国出資者が苦しい立場に立たされかねないこと について留意すべきである。 れたほうが効率的であると考えられる。 3. 公告及び債権者通知 「公司法 ( 2013 年改正版 ) 」 ( 主席令〔 2013 〕 第 8 号 , 2013 年 12 月 28 日公布 , 2014 年 3 月 1 日施行 ) 185 条により , 清算委員会を設立し た日から 10 日以内に債権者に通知し , 60 日以 内に新聞で公告しなければならない。債権者は 通知を受けてから 30 日以内に清算委員会に債 権を申告し , 通知を受けていない場合 , 公告日 から 45 日以内 4 ) に清算委員会に債権を申告す る必要がある。したがって , 解散する現地法人 は最短でも 45 日間は新聞紙面にて公告しなけ ればならない。公告の回数については所轄の工 商行政管理部門の要請に従うが , 通常 1 回でよ い。また , 「公司法司法解釈二」 11 条 1 項に , 「会社の清算において , 清算委員会は公司法 2 ) 通常 , 外資系企業の設立を許認可する商務部門であ り , 設立を許認可する書類である批復に捺印した商務部門で あるが , 管轄調整などの原因で異なる商務部門になる可能性 があるため , 事前に問い合わせたほうが無難である。 3 ) 単に「日」と表記した場合 , 営業日ではなくカレン ダー日を指している。以下同じ。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 29
清算報告書を作成して提出しなければ不備を指 摘され , スムーズに手続を完了できない恐れが ある。手続前に工商行政管理部門への提出用の 清算報告書の作成要領について問い合わせをす べきである。 Ⅳ , 実務上の留意点及び対処方法 解散・清算手続は煩雑で時間がかかる手続で ある。もし , 途中で何らかの問題が発覚する と , 手続そのものがストップされ , 現地法人は 経営を継続させることも , 現地法人を解散させ ることもできないまま放置される恐れがある。 これは解散・清算という方法で中国から撤退を 図り , またはグループ内の再編を実現させよう とする外国投資者にとって最も頭の痛いことで ある。このような状況に陥らないためには , 現 地法人が解散・清算を計画した時点で , 会社に 問題があるかどうかについて自ら精査すべきで ある。 1 . 債務超過 解散・清算手続を行うことができる前提とし て , 現地法人は債務超過にならないことが必要 である。債務超過となれば破産するしかな い 8 ) 。しかし , ただでさえ複雑な中国の破産手 続は , 外資系企業にとってさらに難しく , 何年 もかかって決着がつかないケースもある。その うえ , 現地法人の破産は親会社としての日本企 業の評判に傷を付けるとも認識されている。し たがって , 解散・清算の決定を行うまでに現地 法人は債務超過になる恐れがあるかどうかにつ いて自ら精査すべきである。もし , 万が一 , 債 務超過となる恐れがあれば , 日本の出資者によ る現地法人への増資や貸付の方法で債務超過回 避の方法を工夫する必要がある。 8 ) 「公司法」 187 条により , 清算委員会が会社の財産を 整理し , 資産負債表及び財産リストを作成した後 , 会社の財 特集 / 中国拠点の再構築 2. 従業員との労働契約の処理 「労働契約法 ( 2012 年改正版 ) 」 ( 主席令 〔 2012 〕第 73 号 , 2012 年 12 月 28 日公布 , 2013 年 7 月 1 日施行 ) 44 条・ 46 条により , 現地法 人が経営期間満了前に自ら解散しようとする場 合 , 従業員に経済補償金を支払ったうえ , 従業 員との労働契約を終了させることができる。し たがって , 現地法人が解散を決定した後 , 従業 員と労働契約の終了について協議することがで きる。この場合 , 法定の経済補償金を支払えば 特に問題はないが , 解散寸前の現地法人が法定 の経済補償金を満足に支払えない場合 , 従業員 と協議して法定の経済補償金より低い金額で労 働契約を終了させることについて納得させるし かない。従業員も現地法人が破産したら経済補 償金がもらえないことを考慮して , もらえるだ けもらおうと考えて法定より低い経済補償金で 労働契約を終了させることに同意する可能性が ある。しかし , もし現地法人が解散・清算とい う事実を隠して先に商務部門の認可を取得し , 解散を既成事実にした後 , 低い金額で従業員と の労働契約を終了させようとすれば , 従業員の 強い反発を招きかねない。さらに従業員が現地 法人の対応に納得がいかずに現地法人を相手に 労働仲裁や訴訟を提起すれば , 現地法人の解散 スケジュールを狂わせる恐れもある。 3. 移転価格の問題 上に述べたように , 税務登記抹消手続は解 散・清算手続の中で最も重要である。問題を発 見されると手続がストップし , 場合によっては 解散・清算手続が 2 年 , 3 年過ぎても完了でき ない可能性も出てくる。なかでも , 現地法人に おいては移転価格の問題に特に留意する必要が ある。 特に親会社の加工工場に位置づけられた現地 産が債務超過したことを発見した場合 , 法に基づいて人民法 院に対して破産の宣告を申請しなければならない。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 33
図 3 初期型外資の経営期間・土地使用期間満了後の処理バター 特集 / 中国拠点の再構築 ン 土地使用期間 ( 土地利用方式 ) 経営期間 延長をしない バターン A 「経営期間」の延長をせす会社を 土地使用権は有償払下に転換 「経営期間」は延長 バターン B 解散 「経営期間」は延長 バターン C 土地使用権は国に返還 ( 中外合弁旧土地制度の 原則。会社清算手続において , 土地使用権の譲 渡・換価のアレンジは生じない ) 既存の土地使用期間の満了に先立ち , 国土資源部門との土地使用権払下契約締結によ り , 土地使用権の有償払下を受ける ( 土地使用権の性質を中外合弁旧土地制度のも とでの土地使用権から , 有償払下土地使用権に 転換。払下金の支払が必要 ) 満了にあたり経営期間土地使用権の使用期間を , 延長後の「経営期 間」にあわせて延長 ( = 会社解散 ) を延長 ( = 会社存続 ) 満了にあたり経営期間 中外合弁旧土地制度に基づく土地を延長 ( = 会社存続 ) 分が明確となった。換言すれば , 中外合弁旧土 用権の使用形態である「割当土地使用権」の区 土地使用権」と , そうではない例外的な土地使 則的な国有土地使用権の使用形態である「払下 払下が原則的な取得方式となるとともに , ②原 下金を支払って国有土地使用権を取得する有償 来の土地使用権の無償使用制度に代わって , 払 有土地使用権の取得方式は大きく転換し , ①従 ( 図 1 参照 ) 。これにより , 1990 年代以降の国 から土地使用権の有償使用制度が開始された 中国では , 1988 年の憲法改正を経て 1990 年代 前提として 1980 年から開始されたが , その後 中外合弁旧土地制度は , 無償土地使用制度を 地使用制度が変化する。 もっとも , その後ほどない 1990 年頃には土 の開始 ( 3 ) 1990 年代 : 土地使用権の有償使用制度 を支払っている。 / 国土資源部門に対し , 毎年 , 土地使用費 支払っていない。 / 土地使用権取得にあたりその取得対価を と同一期間である。 / 土地使用権の使用期間が会社の経営期間 図 2 を参照 ) 。 使用権も継続 地制度は , 1990 年代には既に過去の制度になっ ていたといえる。 ④外商投資企業の土地使用方式に複数の 方式が併存 では , なぜ土地使用制度の変化により 1990 年代には過去の制度になったにもかかわらず , 中外合弁旧土地制度のもとでの土地使用権を保 有するケース ( 初期型外資 ) が現在も存在する のか。 これは主として , ①土地使用制度が変化して も , 中外合弁旧土地制度のもとで既に取得した 土地使用権の性質や期限が当然に変化するわけ ではないこと ( 1980 年代に中外合弁旧土地制 度に基づき既に取得されている土地使用権は , 土地使用権の性質を切り替える手続がなされる 等しない限り , その「土地使用期間」の範囲内 で性質を変えることなく存続すること ) , ②土 地使用制度の変更後もしばらくは , 中国の各地 方政府は中外合弁旧土地制度に基づく土地使用 権の期間延長を認めてきたこと , が原因と思わ れる。現時点でなお存続している初期型外資の 多くは , 設立から現時点までに一度は会社の当 初の「経営期間」の満了 ( ひいては「土地使用 期間」の満了 ) を迎えていると思われるが , そ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 45
が国では債権保全のために , 差押・転付命令という手 続法上の手段が別途に講じられているわけで , これと 分けて債権者代位権を実体問題として性質決定する余 地は十分にあると考えられる。他方で詐害行為取消権 こうした二重構造は採用されていない。 を巡っては , このことを以て直ちに , 詐害行為取消権を実体問題と して位置付けることを否定するつもりはないが , 債権 者代位権は裁判外での行使も許容されるほか , 訴訟で 行使すれば債務者にも既判力が及ぶとするのに対し て , 詐害行為取消権については上述のとおりであるこ とも考え併せれば , 飽くまで相対的な視点ではある が , 詐害行為取消権を手続問題として捉える余地の方 が大きいように思われる。 Ⅱ . 外国不動産の抹消登記請求と 専属管轄条項の関係 本判決では , 本件贈与を取り消したうえで , フラン ス所在の本件不動産との関係で , 本件登記の抹消登記 手続にかかる請求も認容している。民訴法 3 条の 5 第 2 項では , 登記・登録に関する訴えについて , 登 記・登録地がわが国に所在する場合にわが国の専属管 轄を認めているが , 他方で登記・登録地が外国である 場合には , 他の管轄原因が存在する場合であっても , わが国には国際裁判管轄が認められないと解されてい る ( 佐藤達文 = 小林康彦編著・一問一答平成 23 年 民事訴訟法等改正 108 頁 ) 。本判決の中で直接の言及 はないが , 同条項との関係において , わが国が本件登 記の抹消登記手続にかかる請求につき国際裁判管轄を 有するかが問題となる。 この点に関して , わが国特許権の移転登録請求を認 容した韓国判決について , 当該請求がわが国の専属管 轄に服するとしてその執行を認めなかった事例がある ( 名古屋高判平成 25 ・ 5 ・ 17 平成 24 年 ( ネ ) 第 1289 号。評釈として横溝大「判批」ジュリ 1487 号 106 頁 , 申美穂「判批」平成 27 年度重判解 304 頁 ) 。 の事例では , 直接の適用はないものの , 民訴法 3 条 の 5 第 2 項に依拠して , 同条項新設以前に既に , わ が国特許権の登録に関する訴えをわが国の専属管轄と すべき旨の条理が存在していたとの論旨を展開してい こうした考え方を敷衍すると , 本事案において るが , も , わが国裁判所は本件登記の抹消登記手続の履践を 命じ得ないことになりそうである。同条項には , 義務 者に対する登記・登録の手続をすべきことの意思表示 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 126 を求める訴えや登記・登録の義務の積極的・消極的確 認を求める訴え等が含まれるとされる ( 佐藤 = 小林 編著・前掲 107 頁 ~ 108 頁 ) が , 本事案を念頭に置 いたうえで , 実体法上の権利義務関係の変動を登記・ 登録に反映させる行為を請求する訴えも同条項の射程 に含まれるとの見解が提唱されている ( 西谷・前掲 297 頁 ) 。 他方で , 民訴法 3 条の 5 第 2 項新設前の裁判例を みると , 外国知財権の登録手続の履践を請求した訴訟 において国際裁判管轄の有無を問題とせず本案審理を 行った事案がある ( 東京高判平成 6 ・ 7 ・ 20 知的裁集 26 巻 2 号 717 頁 , 東京高判平成 16 ・ 8 ・ 9 平成 16 年 ( ネ ) 第 1627 号 ) 。民訴法 3 条の 5 第 2 項を巡っては , 登録型の知財権を念頭に立法段階で既に批判が見受け られた ( かかる批判の詳細は横溝・前掲 107 頁 ~ 108 頁を参照 ) こと等も踏まえると , 権利の成立や消滅に 関する登記・登録請求であれば兎も角 , 既に成立して いる権利を巡る移転登記・登録は私人間の実体的な権 利関係に基づいて行われるわけで , わが国が基礎とな る実体的な法律関係について管轄権を有する以上は , その必然的結果として生じる登記・登録義務を認定 し , 当事者に対して外国での手続履践を命じたとして も , 当該外国の公益との関連で大きな支障は生じない と考える余地もあろう。 私見では , 前者の見解に従い , 本件登記の抹消登記 手続にかかる請求について , わが国の国際裁判管轄を 否定し訴えを却下すべきであったと考える。殊に詐害 行為取消訴訟に関しては , ①私見の如く , 詐害行為取 消権を訴訟・執行手続と密接に連動する制度として捉 えるのであれば , 詐害行為として不動産の譲渡が問題 とされる場合には , 不動産がわが国に所在するときに 限定してその国際裁判管轄を肯定するのが , 考え方と して一貫すること , ②詐害行為取消権の準拠法に関す る法廷地法説 ( 前述 I における C 説 ) の難点として , フォーラム・ショッピングの誘発リスクが指摘される こうしたリスクを回避するためにも , わが国の国 が , 際裁判管轄を極力厳格な要件の許に認めるのが適当で あること , の 2 点を補強材料として追加的に提示し 得ると考える。 ( 追記 ) 本稿は JSPS 科研費 ( 25 開 56 , 15H01927 ) および KDDI 財団調査研究助成による成果の一 部である。
譲渡 / 解散・清算 ) が必要となる ( 1 ) オフショア持株会社傘下の独資会社 (WFOE) の撤退手続は通常の独資会 社と同様 ② ICP ライセンスを有する企業は純粋な 内資企業で , 外資式企業とは撤退手続 が異なり ( 商務部門が関与しない ) , ま た工業・情報化部門で ICP 許可証の取 消手続が必要 ③新浪スキームに特有の , 各会社間の契約関 係の解消が必要 ( 契約書には英語・中国 語・日本語の契約が含まれ , 中国投資家と の交渉は中国語によることが多い ) そこで , スキーム全体を見渡した上で , 各会 社毎に撤退に向けて必要作業項目及び問題点を 調査・検討し , それらを網羅的にかっ順序立て て整理したスケジュールを立案し , 中国投資家 とも共有しながら順を追って進めていく必要が ある。 おわりに 中国現地法人の再編・撤退に関しては , 中国 特有の難しい問題も多く存在するものの , 近年 は事例の集積に伴って以前よりも予測可能性が 高まり , 実務ノウハウも蓄積されつつある。中 国市場の変化に応じた事業の再構築のニーズが ますます高まる中 , 本稿が実務家諸氏の参考に なれば幸甚である。 20 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494