か否かの評価は , ライセンス交渉の対象となっ ている技術や製品の分野における商慣習に照ら して判断されることが考えられる。」とされて いる ( 担当官解説 45 頁 ) 。 ( ⅳ ) 「商慣習に照らして 誠実に対応しているか否か」 「商慣習」については , 上記 ( i ) で挙げた Huawei v. ZTE 事件判決の ( c ) が参考になろ う。なお , これは当事者間の具体的な交渉にお ける対応状況の誠実さを見定める指標として 「商慣習に照らして」判断することが表された ものであるため , 独占禁止法 2 条 9 項 5 号の 「正常な商慣習」とは必ずしも一致しない ( 担 当官解説 45 頁 ) 。 (v) その他の考慮要素 「 FRAND 条件でライセンスを受ける意思を 有する者」であるか否かの判断で考慮されるそ の他の要素として , 担当官解説によれば , 「例 えば , ライセンス交渉の相手方 ( 特許技術を利 用する者 ) の財務・経営状況 ( ライセンス料の 支払い能力があるか否か , 事実上の破産状態に あるか否か ) が考えられる。」とされている ( 同 45 頁 ) 。損害賠償等の金銭的な手段で解決 できない場合は差止請求権を認めることが公平 であるという趣旨と考えられ , 上記の他には , 管轄外等の理由により執行不能である場合等が 挙げられよう。これらの点は , 成案に追記して も良かったのではないかと思われる。 ( 3 ) 「裁判所又は仲裁手続において ライセンス条件を決定する意思を 示している場合」の削除 原案の上記 ( I) ③の記載は , 裁判所において 過去のライセンス実施分の支払を決定すること や , 国外の裁判所又は仲裁手続での結果に基づ き , 日本を含む地域におけるライセンス条件を 決定することは可能であると考えられることか ら記載されたものであり ( 担当官解説 45 頁 ) , 前記 Huawei v. ZTE 事件判決や Microsoft v. 時論 M 。 t 。 r 。 la 事件米国控訴裁判所第 9 巡回区判決 ( 2015 年 7 月 ) と合致するものといえる。しか し , これに対して , 日本の司法制度の下では当 事者間のライセンス条件そのものを決定するこ とは訴訟物にならないことや , 日本のライセン ス交渉の実務の状況を指摘する意見が寄せら れ , この点は記載しないこととされた。 この点 , 担当官解説によれば , 「両当事者の 対応状況として , 考慮要素になることが否定さ れるものではないと考えられる。」 ( 同 45 頁 ) とされているが , 考慮要素が詳細であればより 実務上の指針として有益であるから , 考慮要素 として成案に追記しても良かったのではないか と思われる。上記意思を形式的に示すことで交 渉の時間稼ぎがなされることなどを懸念する意 見が多数寄せられたようであるが , そのような 濫用的な使われ方についても考慮要素として詳 細に記載しておく方法もあったのではないかと 思われる。 ( 4 ) 「標準規格必須特許の有効性 , 必須性 又は侵害の有無を争うこと」について 原案では , 上記 (1) ④のとおり , 「ライセン スを受けようとする者が必須特許の有効性 , 必 須性又は侵害の有無を争うことそれ自体は , FRAND 条件でライセンスを受ける意思を否定 する根拠とはならない。」とされていた。これ は , 海外の主要な競争当局等の立場と整合する ( 欧州委員会の MotoroIa に対する決定及び Samsung に対する確約決定〔 2014 年 4 月〕な らびに前記 Huawei v. ZTE 事件判決等 ) 。成案 においては , 原案に「商慣習に照らして誠実に ライセンス交渉を行っている限り」という限定 が追加されたが , 原案も想定していた事項を明 確化したものと思われ , 実務的には大きな影響 はないものと思われる。 Ⅳ . 本一部改正において 規定されなかった事項 格必須特許権者が , 損害賠償請求や不当利得返 本一部改正では , FRAND 宣言をした標準規 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 63
号の規定を適用して人員削減を行うことができ ると判断される。実務上 , このような状況にお いて , 会社はまず会社所在地の労働部門の意見 を求めたうえで , どの条文を適用して人員削減 を行うかを決定することが望ましい。 2. 「客観的状況」と「客観的経済状況」との関係 「客観的経済状況に重大な変化が発生」 ( Ⅱ 2 参照 ) に対し , 「客観的状況」との違いを示 す明文規定が置かれていない。「客観的経済状 況」をどのように理解するかは , 重要になる。 基本的には , 40 条が規定する「客観的状況」 の内容が「客観的経済状況」の内容を含んでい ると解釈できる以上 , 「客観的状況」の関連事 由に基づき , 「客観的経済状況」の解釈ができ ると思われる。つまり , 「法律法規の変化」及 び「不可抗力」といった非経済的な要素を除去 し , 企業外部の経済形勢及び企業内部の経営管 理により引き起こされた企業の移転 , 合併 , 資 産譲渡などの状況が「客観的経済状況」に該当 すると思われる。 なし、。 た。なお , A 社には労働組合が設置されてい 従業員と労働契約を協議解除することを決定し A 社は , 清算を宣言しないことを前提として , の貿易会社である。深刻な債務危機に陥った A 社は 90 年代に上海で設立された外商独資 1 . A 社事例の基本状況 れる。以下は , 協議解除を行った事例である。 を経て , 労働契約を解除する方法がよく用いら ( 協議解除 ) に基づき , 会社が労働者との合意 的から乖離することになる。そのため 36 条 法的に要求されることは , 本来の人員整理の目 人員に対し , 職場配置転換 , 労働契約の変更を いケースが見られる。一方 , 40 条を適用する 画を関連部門に提出する際 , 当局に受理されな 41 条の実際の運用においては , 人員削減計 ー A 社事例を中心として Ⅵ協議解除を行う際の留意点 特集 / 中国拠点の再構築 2. A 社事例において遭遇する問題と対策 ( 1 ) 方案の秘密保持 方案を公布する前に , いかにして方案の討論 と内容の秘密保持をするかは , A 社が最初に 遭遇する問題である。当時 , 以下 2 つの対策を 講じた。 ア ) 方案の討論は , できるかぎり高級幹部層 の小範囲内に抑え , 方案の漏洩を防ぐ。 イ ) 方案を制定するためには A 社人事部の 中国籍従業員の参与が必要であり , 方案の漏 洩を防ぐため , A 社は方案を制定する前に これらの従業員と逐次面談を行い , 秘密保持 契約締結し , 相応の違約責任を約定した。 れと同時に , 会社業務に積極的に協力させる ため , A 社は事前に , 労働契約を協議解除 し , 経済補償金を支払った後 , 再度一定期間 の固定期限労働契約を締結することを承諾 し , 会社の清算準備業務を手伝わせた。 ②補償基準の設定方法 A 社は赤字企業であったことから , 経済補 償金の予算には限りがあり , いかにして予算を 超えずに , 大部分の従業員に認められる経済補 償金を確保するかが , A 社の方案制定におい て終始立ちはだかる難題であった。最終的に A 社は以下の対策を講じた。 ア ) 法定経済補償金は月次賃金の 3 倍を上限 とした。従業員の労働契約解除前の 12 カ月 分の平均賃金が前年度の上海市従業員月次平 均賃金の 3 倍を超える場合 , 前年度の上海市 従業員月次平均賃金の 3 倍にて計算した。 A 社の一部の従業員の賃金は特に高く , A 社 がこのようなやり方をとったのは , 法に則り これらの従業員の補償コストを抑えること で , その他の従業員により多くの補償を与え ることにより , 予算を超過しない前提におい てより多くの従業員に経済補償金の内容を認 めさせることができるからである。 イ ) 従業員の勤続年数に基づき , 追加経済補 償金をレベル別に設定した。すなわち , A 社での勤続年数が 5 年未満の場合 , 賃金の 1 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 39
われているのであるから , そもそもいわゆる効果主義 に基づく検討が必要となる余地はなく , 我が国の独占 禁止法を適用できることは明らかである。 判旨に疑問がある。 ・・・ EU に おいては , 実施行為が域内に存在する必要があるもの I . 本判決の意義 とされ , いわゆる実施行為理論が採られているとされ ているところ , 本件においては , 本件合意に基づく実 本判決は , 外国事業者が外国でカルテル合意をし , 行行為カ哦が国に所在する我が国プラウン管テレピ製 その対象商品が外国子会社に販売された場合であって 造販売業者を対象にして行われていたものであるか も , 日本親会社がその取引条件を実質的に決定したの ら , 実施行為理論の下においても , 実施行為は我が国 であれば , 我が国独占禁止法に違反し , 外国子会社に に存在すると認めることができると考えられる。ま 対する売上額をもとに課徴金を算定することも法に適 た , X の引用する米国の連邦第 7 巡回区控訴裁判所 合するとしたものである。国際カルテルの文脈で合意 大合議による決定は , 損害賠償を請求する民事訴訟に の対象者を市場における需要者としつつ , 当該需要者 おいて , 損害が発生して原告適格ないし訴えの利益を に対する売上額ではなく , その外国子会社に対する売 有するのはモトローラではなく , その子会社であるこ 上額を基礎に課徴金を算定した点に本件審決の特徴が とを理由としてモトローラの請求を認めなかったもの あったが , 本判決は , この結論を全面的に支持した。 であって , 当裁判所の前記判断と相いれないものでは また , 本判決では処分前手続の適法性も争われた。 ない。」 しかし , 本件の除斥期間 ( 7 条の 2 第 27 項 ) は既に 前記 I のとおりであるから , 「我が国プラウン管テ 徒過しており , 手続違背となれば再度命令し直すこと レビ製造販売業者は『需要者』に当たるというべきで もできない状況にあった。本判決が手続の形式面だけ ある。・・・・・・複数の国等の競争法が重複して適用される でなく実質面を重視して慎重な審理をしたのは , 判断 ことによる弊害がある場合には , 条約等による主権の 手法としても適当であったと思われる。 調整や執行機関間における協力 , 調整等によって , そ Ⅱ . 需要者概念と市場画定手法 の弊害の回避が図られるべきものであ」る。「本件プ ラウン管の価格交渉の自由や価格決定の自由が侵害さ 本判決は , プラウン管テレビ事業の統括及び本件プ れたのは , 我が国に所在して我が国の内外で本件交渉 ラウン管の交渉・決定・指示という事実をもって , 本 等を行っていた我が国プラウン管テレビ製造販売業者 件プラウン管の取引条件を実質的に決定したのは日本 であるというべきである。そうすると , 本件合意によ 所在の親会社だとし , 本件合意が対象としたのもこの り , 11 社がその意思で本件プラウン管の価格をある 日本親会社だと結論付けている。そして , このことか 程度自由に左右することができる状態がもたらされ , ら日本親会社が本件プラウン管の「需要者」であると 本件プラウン管の取引に係る市場が有する競争機能が し , 本件合意の対象となることで本件プラウン管の価 損なわれた場所は , 我が国プラウン管テレビ製造販売 格交渉・決定の自由が侵害されたのは日本親会社なの 業者の所在地である我が国というべきである」。 だから , 本件プラウン管の取引市場が有する競争機能 「課徴金の計算に関しては , 独占禁止法 7 条 カ齟なわれた場所も日本親会社の所在地であるとした。 Ⅲ この理由付けは , 公取委側の主張に強い影響を受け の 2 第 1 項が・・・・・・実行期間における当該商品 の政令で定める方法により算定した売上額に同項所定 たものにみえる。本件合意が日本親会社を対象とした ものであるとの評価事実をもとに , 共同行為が対象と の課徴金算定率を乗じて得た額に相当する額の課徴金 を国庫に納付することを命じなければならない旨規定 している取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討 し , 独占禁止法施行令 5 条及び 6 条が売上額の算定 して , 一定の取引分野を画定すれば足りるという東京 方法について規定していることに照らすと , これらの 高判平成 5 ・ 12 ・ 14 高刑集 46 巻 3 号 322 頁〔シール 規定の解釈として , 商品の供給や代金の支払が外国に 談合刑事〕における市場画定の手法を単純に当てはめ おいて行われた場合にその売上げを課徴金の計算の基 れば , このような結論になるのも当然である。しか 礎から除くべきものと解することはできない。」 し , 本件における需要者概念の捉え方と市場画定の手 法については , いずれも適当といえるか疑問がある。 平釈 97 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
知を代替することができる。さらに , 労働者に 対する経済補償として , 会社は 46 条 3 号の規 定に基づき , 従業員に対し経済補償金 6 ) を支払 わなければならない。 一方 , 4 条は , 使用者は労働者の密接な利益 に直接関わる規則・制度 , あるいは重大事項を 制定 , 改正又は決定する場合 , 従業員代表大会 又は従業員全体と討議し , 方案及び意見を提出 し , 労働組合又は従業員代表と平等な協議を経 て確定する , と規定している。したがって , 会 社は 40 条 3 号を根拠とし , 客観的状況に重大 な変化が発生したことを理由に従業員との労働 契約を解除する場合 , 当該決定は , 従業員の密 接な利益に直接関わる重大事項と認定される可 能性があることから , 従業員代表大会又は従業 員全体に公示又は意見を聴取し , 労働組合又は 従業員代表との平等な協議を経て確定する必要 がある。意見を十分に聴取し , 民主的な手続の うえ , 労働組合又は従業員代表と合意に至らな い場合 , 会社は最終的な決定権を有する。 このほか , 42 条に基づき , 労働者が以下の 6 つの状況 7 ) に該当する場合 , 会社は 40 条 3 号 に基づき従業員との労働契約を一方的に解除し てはならない , という点に注意が必要である。 ①職業病の危険を伴う業務に従事・接触する 労働者が , 職場を離れる前に職業健康診断 を受診していない , あるいは職業病の疑い のある病人が診断 , あるいは医療観察期間 にある場合 ②当該企業において職業病に罹患 , あるいは 業務上負傷し , 労働能力を全部又は一部喪 失したと確認された場合 ③罹病又は業務外での負傷によって , 規定の 医療期間にある場合 ただし実務上 , 従業員側から争われるリスクは極めて少な にある従業員との労働契約を一方的に解除してはならない。 在する。すなわち会社は客観的状況の変化によって試用期間 7 ) 厳格な法律解釈によるとさらにもう 1 つの状況が存 ④女性労働者が妊娠期間 , 出産期間 , 哺乳期 特集 / 中国拠点の再構築 間にある場合 ⑤当該企業において連続満 15 年勤続し , か っ , 法定退職年齢まで 5 年に満たない場合 ⑥法律 , 行政法規が規定するその他の状況 2. 経済的人員削減による労働契約解除の 法的手続 / 留意点 会社が経済的人員削減を行う場合 , 30 日前 までに労働組合又は従業員全員に説明し , 労働 組合又は従業員の意見を聴取しなければならな い。同時に , 会社は削減計画を労働部門に報告 しなければならない。「報告」とは労働部の関 連規定 8 ) によると状況説明のみを指し , 労働部 門の承認を得る必要はない。 実務上 , 経済的人員削減を行う前に労働部門 から同意と協力を得られない場合 , 会社の人員 削減には様々な困難が予想される。一部地域 ( 例えば上海 ) では , 会社が所在地の労働部門 に報告を提出し , かっ労働部門が発行した受領 書 ( 中国語 : 回執 ) を取得しなければ , 実際の 人員削減手続に入ることができない 9 ) 。もちろ ん , 実際に行政レベルの受領書を取得できて も , 経済的人員削減により労働紛争が発生した 場合 , 経済的人員削減の合法性はそれぞれの紛 争ごとの司法判断に委ねられる。 経済的人員削減の場合も 1 と同様に , 46 条 4 号に基づき , 会社が従業員に対し経済補償金 を支払わなければならない。 経済的人員削減の際には , 以下の労働者を優 先的に引き続き雇用しなければならない。 ①当該会社と比較的長期間の固定期間労働契 約を締結している者 ②当該会社と固定期間の無い労働契約を締結 している者 ③家庭内にその他就業者がなく , 扶養する老 8 ) 「労働部による「労働法」の若干条項に関する説明」 27 条。 9 ) 「雇用企業が法律に従い人員削減報告を実施すること に関する通知」 ( 滬人社関発〔 2 開 9 〕第 3 号 , 289 年 1 月 8 日公布・施行 ) 一 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 37
趣旨と解することができるように思われる ( ーノ澤・ 後掲 18 頁以下参照 ) 。したがって , 要旨Ⅲにも賛成 できる。 本決定は , 株主総会決議取消訴訟の裁量棄却 Ⅳ ( 831 条 2 項 ) について , 瑕疵が重大でないと いえないことと結果に影響しないといえないこととの 両方を認定した原審決定を引用しているが , 裁量棄却 を否定するにはどちらか一方で足りる ( 831 条 2 項参 照 ) 。 最後に , 同族会社をめぐる本件のような紛争におい て , 本決定のような処理をすることで紛争の解決にな るかが問題とはなりうるかもしれない。本決定のいう 「特段の事情」 , すなわち , たとえば , すべての株主が 招集通知書以外の事情により知りえた事実と招集通知 における記載とを総合すれば解任の対象者の氏名を特 定的に知りえたという事情があったか ( 上記の東京地 判昭和 38 ・ 12 ・ 5 参照 ) , あるいは , 全員出席総会と みることができる事情があったか ( 上記の大阪地判平 成 26 ・ 9 ・ 5 参照 ) について , 当事者の主張・立証 ( 疎明 ) 次第では本決定の結論に影響を及ばしたかも しれない。 * 本件評釈として , 弥永真生・ジュリ 1471 号 2 頁 , ーノ澤直人・金判 1463 号 14 頁 , 品谷篤哉・立 命館法学 361 号 258 頁がある。 商事判例研究 平成 26 年度 16 解無効確認の利益 任追及訴訟と株主の和 会社による取締役の責 首都大学東京准教授 東京大学商法研究会 顧丹丹 Gu Dandan 東京地裁平成 26 年 11 月 6 日判決 平成 25 年 ( ワ ) 第 4298 号 , X1 ほか 2 名対スガイ 交通株式会社ほか 2 名 , 和解無効確認請求事件 / 資料版商事法務 371 号 208 頁 / 参照条文 : 民 事訴訟法 115 条・ 345 条 , 会社法 120 条・ 423 条・ 847 条・ 853 条 平成 23 年 7 月 21 日 , YI は Y2 に対し , 金銭消費 ある。 資 , 売買や債券の買取等を事業目的とする株式会社で された。被告 Y3 会社は , 有価証券の保有 , 運用 , 投 平成 22 年 4 月に背任横領行為があったとされ , 解任 有する YI の株主であり , また取締役でもあったが , 役を解任された。被告 Y2 は , XI と同数の議決権を に取締役の地位にあり , XI と同じ日にそれぞれ取締 告 X2 および X3 は , XI の子であり , 本件訴訟提起時 あったが , 訴訟提起直後に取締役から解任された。原 する株主であり , 本件訴訟提起時に取締役の地位に ある被告 YI 会社の総株主の議決権の約 24.9 % を保有 原告 XI は , タクシー業を営む株式譲渡制限会社で 事実 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 103
法人税法 132 条 1 項の 不当減少性要件の解釈とその射程 合理性を欠いている場合」に当たり , 不当性減少要件 問題となる。 が満たされるとする ) ものであって , 同項の適用範囲 Ⅱ . 検討 を , 従来一般に考えられていた範囲よりも大きく拡張 するものといえる ( 以下 , 上記のような考え方を , 便 この点 , IBM 事件では法 132 条 1 項の適用が問題 宜上「独立当事者間取引基準説」という ) 。 となっていたのに対し , ヤフー事件で問題となってい しかしながら , 本決定から 11 日後の平成 28 年 2 たのは法 132 条の 2 の適用の可否であるので , 本決 月 29 日 , 本決定を下したのと同じ第一小法廷は , 甲 定とヤフー事件上告審判決との間には矛盾はなく , 本 株式会社が , 株式会社乙との吸収合併に伴い , 当該合 決定は , 法 132 条 1 項の不当減少性要件の解釈につ 併が適格合併に当たるとして乙から引き継いだ繰越欠 き原判決が採用した独立当事者間取引基準説を是認す 損金の損金算入を行ったことについて , 法 132 条の 2 る立場を採っていると解することも , 論理的には不可 を適用してこれを否認する旨の課税当局の更正処分を 能ではない。しかしながら , ①本決定とヤフー事件上 適法とした事案 ( 以下「ヤフー事件」という ) に係る 告審判決との時期的近接性や②両者が共に同一の裁判 控訴審判決に対する甲の上告を棄却する判決 ( 最ー小 体による判断であること等からすると , 結論的には , 判平成 28 年 2 月 29 日裁判所 HP 。以下「ヤフー事件 この両者の差異は , 本決定においては , 納税者勝訴の 上告審判決」という ) を下し , その際 , 組織再編成に 原判決の結論をそのまま維持すべきとされたが故に , 係る一般的行為計算否認規定である法 132 条の 2 所 原判決の示した , 一般的には納税者にとって不利益な 定の不当減少性要件に関する解釈については , 同事件 内容の法 132 条 1 項の不当減少性要件についての解 の控訴審判決が示した考え方を大きく変更し , 同条の 釈の是非を敢えて問題とする意味がなかったのに対 適用範囲を相当程度限定した。具体的には , 同判決 し , ヤフー事件上告審判決においては , 納税者敗訴の は , 法 132 条の 2 にいう「「法人税の負担を不当に減 原判決の結論を維持するためには , そもそも法 132 少させる結果となると認められるもの』とは , 法人の 条の 2 の不当減少性要件に関する解釈が納税者に 行為又は計算が組織再編税制・・・・・・に係る各規定を租税 とって過度に不利益な内容となっていないかどうかを 回避の手段として濫用することにより法人税の負担を 検証しなければならなかったが故に , 控訴審判決にお 減少させるものであることをいうと解すべきであり , ける当該要件に関する解釈の是非を吟味する必要が その濫用の有無の判断に当たっては , ①当該法人の行 あったことに基づくものと考えるのが合理的であろ 為又は計算が , 通常は想定されない組織再編成の手順 う。したがって , 本決定が , 原判決に対する上告受理 や方法に基づいたり , 実態とは乖離した形式を作出し 申立てを不受理としたのは , 法 132 条 1 項の不当減 たりするなど , 不自然なものであるかどうか , ②税負 少性要件の解釈につき , 独立当事者間取引基準説を妥 担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの 当とする趣旨ではないと解すべきであろう。 合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在する いずれにせよ , 本決定では , 法 132 条 1 項の不当 減少性要件の解釈について最高裁自らの明示的判断が カ : どうか等 0 事情を考慮した上で , 当該行為又は計算 示されていない以上 , 最高裁が , 異常変則性・事業目 カ , 組織再編成を利用して税負担を減少させることを 的併用説に従うのか , それとも , それを修正した新た 意図したものであって , 組織再編税制に係る各規定の 本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受 な基準を定立するのかは , 今後の判断に委ねられるこ とになったといえる。 けるもの又は免れるものと認められるか否かという観 点から判断するのが相当である」と判示した。 そのため , 不当減少性要件の解釈に関する原判決の 判示の射程につき , 本決定 ( 及びヤフー事件上告審判 決 ) を踏まえて , 現時点でどのように考えるべきかが [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
ロ弁護士 Ota Yo 太田洋 租税判例速報 ロ最ー小決平成 28 年 2 月 18 日 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 由だけを挙げて , 「当該行為又は計算が , 純粋経済人 維持する趣旨であることに鑑みれば」という簡単な理 「同項が同族会社と非同族会社の間の税負担の公平を 合理性基準説の立場に立っことを明らかにした上で , 判断すべきものと解される」として , いわゆる経済的 認められるか否かという客観的 , 合理的基準に従って 又は計算が純粋経済人として不合理 , 不自然なものと か否かは , 専ら経済的 , 実質的見地において当該行為 担を不当に減少させる結果となると認められるもの』 条 1 〕項にいう『これを容認した場合には法人税の負 原判決は , 「同族会社の行為又は計算が , 〔法 132 I. 問題の所在 解説 て , 簡単な検討を試みることとしたい。 程につき , どのように考えるべきかという点に絞っ 少性要件」という ) の解釈に関する原判決の判示の射 結果となると認められるもの」の要件 ( 以下「不当減 法 132 条 1 項の「法人税の負担を不当に減少させる では , 本決定によって原判決が確定したことにより , 決定の文言の引用やそれ自体の分析も行わない。ここ 高裁判決の検討」国際税務 35 巻 9 号 80 頁 ) に委ね , 件」ジュリ 1483 号 37 頁及び太田洋「 IBM 事件東京 釈 ( 例えば , 岡村忠生「最近の重要判例ーー IBM 事 事実関係や判示事項については , 原判決についての評 には理由は特に付されていないため , 紙幅の関係上 , 告受理申立てに対する不受理決定の常として , 本決定 する旨の決定 ( 以下「本決定」という ) を下した。上 して課税当局 Y が行った上告受理申立てを不受理と 日判時 2267 号 24 頁。以下「原判決」という ) に対 に関して , 控訴審判決 ( 東京高判平成 27 年 3 月 25 き否認することの可否が争われたいわゆる IBM 事件 ある法人税法 ( 以下「法」という ) 132 条 1 項に基づ 失が発生した点を , 同族会社の行為計算の否認規定で 買いにより , その親会社である有限会社 X に譲渡損 という ) 第一小法廷は , A 株式会社が行った自社株 平成 28 年 2 月 18 日 , 最高裁判所 ( 以下「最高裁」 事実・判旨 平成 27 年 ( 行ヒ ) 第 304 号 , 法人税更正処分取消等 , 通知処分取 消請求事件 , 判例集未登載 として不合理 , 不自然なもの , すなわち , 経済的合理 性を欠く場合には , 独立かっ対等で相互に特殊関係の ない当事者間で通常行われる取引 ( 独立当事者間の通 常の取リ l) と異なっている場合を含むものと解するの が相当」〔傍点筆者〕と判示した。 そして , X が , 同項にいう不当減少性要件が充足 されるために必要な「同族会社の行為又は計算が経済 的合理性を欠く場合」とは , 「当該行為又は計算が , 異常ないし変則的であり , かっ , 租税回避以外に正当 な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合 であることを要する」旨主張したのに対し , 「法 132 条 1 項の『不当』か否かを判断する上で , 同族会社 の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合が あることを否定する理由はないものの , 他方で , X が主張するように , 当該行為又は計算が経済的合理性 を欠くというためには , 租税回避以外に正当な理由な いし事業目的が存在しないと認められること , すなわ ち , 専ら租税回避目的と認められることを常に要求 し , 当該目的がなければ同項の適用対象とならないと 解することは , 同項の文理だけでなく上記の改正の経 緯にも合致しない」と判示して , 上記 X の主張を排 斥している。 これは , 法 132 条 1 項にいう「不当に」の意味に ついて , 金子宏名誉教授が , 経済的合理性基準説を採 用して「ある行為または計算が経済的合理性を欠いて いる場合に否認が認められると解すべき」とした上 で , ( i ) 「行為・計算が経済的合理性を欠いている場 合とは , それが異常ないし変則的で租税回避以外にそ のような行為・計算を行ったことにつき , 正当な理由 ないし事業目的が存在しないと認められる場合のこと であり」 , ( ⅱ ) 「独立・対等で相互に特殊関係のない当 事者間で行われる取引・・・・・・とは異なっている取引に は , それにあたると解すべき場合が多いであろう」 〔傍点筆者〕と論じている ( 金子宏・租税法〔第 21 版〕 478 頁。以下 , かかる考え方を「異常変則性・事 業目的併用説」という ) のに対して , 上記 ( i ) の部分 を正面から否定し , 上記 ( ⅱ ) の部分を拡張した上で規 範イヒする ( 同族会社の行為・計算が独立当事者間の通 常の取引と異なっている場合にはすべからく「経済的
該当主る - 。」 , 「 FRAND 条件でライセンスを受 ける意思を有する者とみられる。」「当該規格を 採用した製品の市場における競争に悪影響を及 ばし , 公正競争阻害性を有することとなる。」 ( 下線は筆者追記 ) と断定的な記載がされてい これに対し , 原案では , 記載の行為に形式的 に当てはまれば一律に違法であると判断される という印象を受けるとして , 競争に影響を及ほ す場合に問題となることを明確にすべきとの指 摘が寄せられた。そこで , 成案では , 上記記載 は , 「他の事業者の事業活動を排除する行為に 該当する場合がある。」 , 「公正競争阻害性を有 するときには」 ( 下線は筆者追記 ) といった表 現に修正されたり , 記載が削除されたりした。 公正取引委員会の立場は原案から変更されたわ けではないが , 個別評価されることが明確化さ れたことは実務的には望ましいと考える。 4. 標準規格必須特許を譲り受けた者等 についての記載の明確化 原案では , 本一部改正の適用対象につき , 「規格の策定時に必須特許を有する者の行為で あるか , 規格の策定後に必須特許を譲り受けた 者の行為であるか , 又は必須特許の管理を委託 された者の行為であるかを問わない。」とされ これに対して , 成案では , 「自ら ていた FRAND 宣言をした者の行為であるか , FRAND 宣言がされた標準規格必須特許を譲り 受けた者の行為であるか , 又は FRAND 宣言 がされた標準規格必須特許の管理を委託された 者の行為であるかを問わない」とされ , FRAND 宣言がされた標準規格必須特許である ことが明確化された。 理論的には , FRAND 宣言をした者以外を縛 る理論としてライセンスの成立等 , 各種構成が 議論されているところではあるが , 結論として はほほ異存のないところと思われる。実務上 も , このような結論でなければ , 容易に本一部 改正の潜脱が可能となってしまい , また , 標準 規格必須特許であれば FRAND 宣言がされて 0 時論 いることは予期されているといえるので , 問題 はないものと思われる。 5. 「 FRAND 条件でライセンスを受ける意思を 有する者」の判断基準の記載の大幅な修正 (1) はじめに この点が , 本一部改正において最も激しい意 見の対立があった部分である。原案では , 「① なお , FRAND 宣言に反する必須特許の権利行 使が広く普及している規格を採用した製品の研 究開発 , 生産又は販売を困難とするものである ことに照らせば , ② FRAND 条件でライセン スを受ける意思を有する者ではないとの認定は 個別事案に即して厳格になされるべきである。 ③したがって , 例えば , ライセンス交渉の相手 方が , 一定の交渉期間を経てもライセンス条件 の合意に至らなかった場合に , 裁判所又は仲裁 手続においてライセンス条件を決定する意思を 示している場合は , FRAND 条件でライセンス を受ける意思を有する者とみられる。④また , ライセンスを受けようとする者が必須特許の有 効性 , 必須性又は侵害の有無を争うことそれ自 体は , FRAND 条件でライセンスを受ける意思 を否定する根拠とはならない。」 ( ①ないし④の 符号は筆者が追記 ) とされていた。 上記に対し , 権利者と利用者のバランスを欠 き , 権利者を萎縮させるおそれがあること , 違 反とは評価されないことにつながる考慮要素に ついても明確化すべきことなどを指摘する意見 が寄せられた。そこで , 成案では , 権利者・利 用者双方の記載のバランスを図り , 上記①ない し③は削除され , 代わりに , 「 FRAND 条件で ライセンスを受ける意思を有する者であるか否 かは , ライセンス交渉における両当事者の対応 状況 ( 例えば , 具体的な標準規格必須特許の侵 害の事実及び態様の提示の有無 , ライセンス条 件及びその合理的根拠の提示の有無 , 当該提示 に対する合理的な対案の速やかな提示等の応答 状況 , 商慣習に照らして誠実に対応しているか 否か ) 等に照らして , 個別事案に即して判断さ れる。」 ( 強調は筆者追加 ) という判断基準が記 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
該根保証契約に定める元本確定期日前にされた 場合であっても , 当該根保証契約の当事者間に おいて上記債権の譲受人の請求を妨げるような 別段の合意がない限り , 保証人に対し , 保証債 務の履行を求めることができる。 ( 補足意見がある。 ) 解説 I . 本件の問題の所在 1 根抵当権については , 「元本の確定前に根 抵当権者から債権を取得した者は , その債権に ついて根抵当権を行使することができない。」 ( 民 398 条の 7 第 1 項 ) として , 元本の確定前 の随伴性を否定する規定があるのに対し , 根保 証については , 平成 16 年法律第 147 号の改正 により定められた貸金等根保証契約 ( 民 465 条 の 2 ) を含めて , 条文の規定がない ( なお , 本 件根保証契約は , 根保証人である Y が法人で あるため , 貸金等根保証契約には当たらない ) 。 また , 根保証の捉え方については , 大きく分 けて , ①根保証は保証期間中発生する個々の主 たる債務を保証するという考え方 ( 個別保証の 集積と考える ) と②根保証を根抵当権に近づけ て , 保証期間が終了した時点で存在する債務の 一切を担保するのが根保証であるという考え方 に分かれるところであり , 根保証の元本確定期 日前の随伴性についても , 基本的にはこの考え 方の違いに応じて結論が分かれる状況にある ( 鈴木禄弥編・新版注釈民法 ( 17 ) 480 頁 [ 鈴木 禄弥 = 山本豊 ] , 能見善久「根担保ー根保証 を中心に」金融法務研究会報告書 ( 14 ) 担保法制 をめぐる諸問題 7 頁 ) 。 2 前者の考え方 ( 「個別保証集積説」と称す る ) の代表的な見解は , 「継続的保証にあって は , 保証人は , 保証契約成立後その終了に至る まで , 終始 , 継続的に , 抽象的基本的保証責任 を負担し , 契約所定の一定の事由の発生するご とに , この基本的保証責任から派生的に発生す る支分債務としての具体的保証債務を負担す る。」 ( 西村信雄編・注釈民法 ( 1D144 頁 [ 西村 信雄 ] ) とするものである。 この考え方からすれば , 「元本の確定」の概 念は , 被保証債権の発生の終期を区切るだけの 意味でしかなく , 被保証債権の 1 つが譲渡され れば , 元本確定期日前であっても , それに対応 する具体的担保である支分権的債権としての保 証債務も当然に随伴すると考えることが自然と なる。 このように随伴性を肯定する見解に対して は , 複数の債権者に債権が帰属することにな り , 法律関係が複雑になるとの指摘がある ( 鈴 木編・前掲 479 頁 [ 鈴木 = 山本 ] , 告田光碩 「貸金等根保証契約における保証債務の随伴性」 判タ 1214 号 74 頁 ) 。 3 後者の考え方 ( 「根抵当権類似説」と称す る ) の代表的な見解は , 「根保証・信用保証に おいても , 保証人の一般財産による責任が現実 の担保価値として把握され , 将来その保証が実 現される際に , 確定された債権によってその帰 属と数量とが決定される一一それまでの経過に おける被担保債権の変動とは無関係である とみる」 ( 我妻榮・新訂債権総論 462 頁 ) とす るものである。 この考え方を前提とすると , 「元本の確定」 の概念は , 被保証債権の発生の終期を区切る意 味のほか , 根保証により保証される主たる債権 を特定する意味を有することになり , 保証期間 継続中に個々の被保証債権を譲渡しても , その 被保証債権は根保証により保証される範囲から 外れる ( 又は , 後の元本の確定時点で根保証に より保証される主たる債権には含まれない ) とになり , 結果的に根保証は随伴しないと考え ることが自然となる。 このように考えて随伴性を否定する考え方に は , ①実務の実態に即した解釈論が必要である 旨の指摘 ( 野村豊弘「根担保の随伴性」金融法 務研究会報告書・前掲 19 頁 ) や , ②元本確定 期日前に保証債務の履行を求め得ないこととな る点について , 民法 465 条の 4 第 1 号の構造と 整合的でないとの指摘 ( 山野目章夫「根保証の 元本確定前における保証人に対する履行請求の [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 75
商事判例研究 平成 25 年度 30 効力停止の仮処分 株主総会決議の 取締役を解任する 学習院大学教授 東京大学商法研究会 神田秀樹 Kanda Hideki 名古屋高裁平成 25 年 6 月 10 日決定 平成 25 年 ( ラ ) 第 177 号 , X 対 Y 株式会社 , 株 主総会決議効力停止仮処分決定認可決定に対す る保全抗告事件 / 判例時報 2216 号 117 頁 / 参照 条文 : 会社法 298 条 1 項・ 4 項・ 299 条 4 項・ 事実 831 条 1 項 , 民事保全法 23 条 2 項 株主総会 ( 本件総会 ) の招集通知 ( 本件通知書 ) を発 平成 24 年 9 月 29 日 , A が Y 会社を代表して臨時 時までとされていた ) 。 任期は , 平成 25 年 3 月期に関する定時株主総会終結 締役に選任され , 以後重任を続けてきた ( 本件当時の 告審相手方 ) は , 昭和 48 年 7 月 10 日に Y 会社の取 ある。 X ( 債権者〔仮処分申立人〕 , 原審相手方 , 抗 り , A が平成 24 年 7 月 10 日以降その代表取締役で 式会社で , 取締役会設置会社・監査役設置会社であ および売買等を目的として昭和 36 年に設立された株 異議審〕申立人 , 抗告審抗告人 ) は , 土地建物の運用 Y 株式会社 ( 債務者〔仮処分相手方〕 , 原審〔保全 June 2016 / Number 1494 出したが , 招集に係る取締役会決議はなかった。ま [ Jurist ] 100 た , 本件通知書には , 本件総会の目的事項として「決 議事項第一号議案〔略〕 , 第二号議案取締役解任 の件 , 第三号議案〔略〕 , 第四号議案〔略〕 , 第五号議 案〔略〕」と記載されていた。 平成 24 年 10 月 7 日 , 本件総会が開催され , x お よび B を取締役から解任した ( 以下 , x を解任した 決議を「本件決議」という ) 。 X は , 取締役会決議のない株主総会の招集がされ , かっ , 招集通知における目的事項の記載がないとの理 由で , 本件決議には取消事由 ( 会社 831 条 1 項 1 号 ) があると主張し , 決議取消訴訟を本案として , 取締役 の地位を保全するため本件決議の効力停止を求める仮 処分命令の申立てをした。 名古屋地決平成 25 ・ 4 ・ 5 判例集未登載は , x の申 立てを認め , 「本件決議の効力を平成 25 年 3 月期に 関する定時株主総会終結の時 ( ただし , 本案判決がこ れに先立って確定したときは , 当該確定の時 ) に至る まで停止する」との仮処分決定をした。 Y 会社が異議 を申し立てたが , 原審決定 ( 保全異議審 ) ( 名古屋地 決平成 25 ・ 4 ・ 25 判時 2216 号 119 頁 ) は , 原決定の 仮処分決定を認可。そこで , Y 会社が抗告したのが 本件である。 決定要旨 「本件総会の招集に当たり , Y 会社において 取締役会の決議がされ , その日時・場所カ玳表 取締役に一任された事実の疎明がないことは , 原決定 ・・・のとおりであるから , これを引用する。 この点 , Y 会社は , 従前 , Y 会社の株主総会の具 体的な日時・場所は代表取締役に一任される運用が続 いていたことが考慮されるべきである旨主張する。し かし , 本件総会は , Y 会社の代表取締役が , 平成 24 年 7 月 10 日 , 昭和 53 年以来代表者を務めていた c ( X の実兄 ) から , x の甥である A ・・・・・・に交代した 後 , わずか 3 か月弱で開催されたもので , 同族会社 である Y 会社の経営を巡って , 親族間で新たな利害 対立や経営方針についての意見の相違が生じ得る状況 にあったといえるし , 実際にも , 昭和 48 年以来取締 役を務めていた X の解任が諮られるなど , そこで決 議された内容も関係者にとって重要なものであったこ とを考慮すると , 仮に Y 会社の株主総会に係る従前 の運用が主張のとおりだとしても , これをもって , 本 抗告棄却。