破産管財人が破産債権者への配当を行うなど適 正かっ公平な清算を図ろうとするため乙に対し て当該配当金の返還を求めているなど判示の事 情の下においては , 乙が当該配当金の給付が不 法原因給付に当たることを理由としてその返還 を拒むことは , 信義則上許されない。 ( 補足意見がある。 ) 民法 708 条本文は , 「不法な原因のために 及び従前の検討 I . 本件の問題の所在 解説 1 するものにして破産者の権利を行使するものに 権利に属し破産管財人は債権者全員の為に行使 について , 「否認権なるものは各破産債権者の して破産者の給付した金員の返還を求めた場合 22 輯 2250 頁と , ②破産管財人が否認権を行使 て権利行使を否定した大判大正 5 ・ 11 ・ 21 民録 り」 ( 原文旧字・旧仮名遣い。以下同じ ) とし 者に於ても之を請求することを得ざるの筋合な れば債務者が請求することを得ざるものは債権 権者が其債務者に属する権利を行ふに他ならざ ついて , 「民法第 423 条の定むる代位訴権は債 いて不当利得返還請求権を代位行使する場合に ①給付者の債権者が民法 423 条の代位権に基づ 2 判例は , 第三者による権利行使のうち , てきた論点である。 ることが許されないのかは , 古くから議論され ように給付者以外の第三者もその返還を請求す 点は法文上明確ではなく , 本件の破産管財人の 果 , 要件 , 範囲をどのように考えるのかという いった説明がされている。しかし , 同条の効 理・不当利得・不法行為 ( 上 ) 157 頁 ) であると もの」 ( 四宮和夫・現代法律学全集 ( 10 ) 事務管 することができないという法の理想を表明する 者は , 自己の不法を主張して国家の救済を要求 の否定という形で , 法の是認しない行為をした 趣旨については , 「給付者の不当利得返還請求 求することができない。」と定めており , この 給付をした者は , その給付したものの返還を請 最高裁時の判例 非ず」などとして行使を肯定した大判昭和 6 ・ 5 ・ 15 民集 10 巻 6 号 327 頁が著名であり , 主 にこの 2 つの判例が議論の対象とされてきた。 もっとも , それほど議論の対象とされてきた ものではないが , ③破産管財人が管理処分権に 基づき返還請求する場合については , 大審院の 判例として , 「破産管財人は破産宣告当時破産 者に属する財産の範囲に於てのみ其の財産の管 理及び処分を為す権限を有するものにして破産 者は不法原因に基く給付に付不当利得返還請求 権を有せざるも其の破産管財人は該請求権を有 すと云ふが如き法理存することなき」 ( 大判昭 和 7 ・ 4 ・ 5 法律新聞 3405 号 15 頁 ) として , 破 産管財人の権利行使を否定したものがある ( な お , この判例の事案は , 破産者が , 株式取引所 の取引員である被告との間で「名板貸借」を し , 保証金名下に金銭を預託していたところ , 破産管財人がその金銭の返還を求めたという事 案であり , 上記昭和 6 年判例と同一の当事者の 事件である ) 。 3 これに対し , 破産管財人が管理処分権に 基づき行う権利行使に関して , 学説や戦後の下 級審裁判例 ( 特に本件のような無限連鎖講等の 事業を行っていた会社が破産開始決定を受けた 場合 ) は , 結論としては権利行使を認める旨の 立場がほとんどを占める。 学説の代表的な理由付けは , 「管財人の返還 請求などは , 非難性を阻却されるから , 拒否せ られない」とするもの ( 谷口知平・不法原因給 付の研究 18 頁 ) , 不法原因給付の理論は , 給付 者に対する懲罰的趣旨に基づいていることか ら , 差押債権者には適用されないことを前提と して , 管財人についても同理論が適用されない とするもの ( 伊藤眞・破産 172 頁 ) , 返還され た金員等はすべて破産財団に組み込まれて債権 者に対する配当財源になり , 不法原因給付者の 手元には渡らないことから , 裁判所による法的 保護を拒否する理由はないとするもの ( 伊藤眞 ほか・条解破産法〔第 2 版〕 595 頁 ) 等が挙げ られる。 下級審裁判例としては , 大阪地判昭和 62 ・ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 79
たものにすぎず , 他の会員の損失といわば直接 の関連性があること ( その意味で , Y は A を いわばトンネルとして他の会員から金銭を受け 取ったものである ) を指摘した。 そして , ②「本件事業の会員の相当部分の者 は , 出えんした金銭の額に相当する金銭を受領 することができないまま A の破綻により損失 を受け , 被害の救済を受けることもできずに破 産債権者の多数を占めるに至っているというの である。」として , 破産債権者の多数は , 本件 配当金の原資となる金銭を出えんし , A の破 綻により損失を受けた他の会員であり , 無限連 鎖講の事業者である A や上位の会員等に対す る損害賠償請求などによる別途の救済も受ける ことができないままとなっている利益状況につ いての考慮を加えている。 その上で , ③「 A の破産管財人である X が , Y に対して本件配当金の返還を求め , これに つき破産手続の中で損失を受けた上記会員らを 含む破産債権者への配当を行うなど適正かっ公 平な清算を図ろうとすることは , 衡平にかなう というべきである。」として , 本件で配当金の 返還を求めているのが破産管財人であり , 返還 が適正かっ公平な清算につながることを指摘し ている。 本判決は , 本件におけるこれらの事情を踏ま え , 「本件配当金の給付が不法原因給付に当た ることを理由としてその返還を拒むことは , 信 義則上許されないと解するのが相当である。」 として , 信義則の観点から X の請求を認容す る結論を導いている。 3 本判決には , 無限連鎖講の事案で破産管 財人の権利行使を認めた場合の帰結等について 分析を加えて , 返還請求する者が破産管財人で あることと信義則の関係について補足する木内 道祥裁判官の補足意見が付されている。 なお , この補足意見は , あくまで無限連鎖講 の事案を前提として述べたものであって , 法廷 意見と同様 , 破産管財人であればどのような事 案であっても権利行使が認められる趣旨のもの ではないと思われる。 最高裁時の判例 Ⅲ . 補足 1 本判決は , 民法 708 条の適用範囲につい て , 特定の解釈を明示するものではなく , この 点については今後も議論の積み重ねが期待され るところである。 もっとも , 本判決は , 前掲昭和 7 年判例を変 更するものとはしていない。返還請求をする者 が破産管財人であることに加えて , 無限連鎖講 に該当する事業によって金銭が給付された金銭 の流れの実態や破産手続が開始された段階にお ける利害関係人の利害状況を考慮し , 信義則の 観点から結論を導いたものであることからすれ ば , 昭和 7 年判例とは事案が異なるとの理解の 下に本件の事案に即した判断をしたものであっ て , 破産管財人であればどのような事案であっ ても管理処分権に基づき返還請求をすることが できるとの解釈に立つものではないと思われ る。 2 他方で , 本件は , 無限連鎖講に該当する 事業によって金銭が給付された事案であるが , 同様の利益状況は無限連鎖講の事案のみに限ら れるものではない。したがって , 例えば , 被害 者が多数に上る高利率の配当をうたった投資名 下の組織的詐欺を行っていた会社等が破産した 場合などにも , 本判決と同様の考え方を及ばす ことが可能なものと思われる。 3 なお , 本件で問題となったのは , 出資金 を上回る配当金を受け取っていた者に対する返 還請求であるが , 出資金に相当する配当金を受 け取ることのできなかった被害者についても , 各自が給付を受けた配当金についてみれば , 他 の会員が出えんした金銭を原資とするものであ り , 破産手続が開始されたにもかかわらず他の 会員の損失の下に配当金を保持し続けることは 相当とはいえない。 したがって , 出資金に相当する配当金を受け 取ることのできなかった者としても , 不当利得 返還請求権等につき出資金全額をもって債権届 出をすることは許されず , 出資金額から配当金 として給付を受けた金額を控除した金額をもっ [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
4 ・ 30 判時 1246 号 36 頁 ( いわゆる豊田商事従 業員不当利得金返還請求事件 ) が先駆けかっ代 表例であり , 「破産管財人は , ・・・・・・破産法に基 づき固有の権限をもって管財業務を執行する独 立した法主体であって , その権利行使は破産者 の権利承継人または代理人としてするものでな い」等として , 破産管財人の請求を認容した。 また , 本件の X が別の会員に対して同様の請 求をした事件の判決として , 本件の原審とは異 なる裁判体による東京高判平成 24 ・ 5 ・ 31 判タ 1372 号 149 頁があり , 同判決は , X の請求を 認容している。 4 しかし , 上記のような学説及び下級審裁 判例の理由付けには , いくつかの検討すべき点 があるように思われる。 ( 1 ) まず , 破産管財人に限らず , 広く給付 者以外の第三者であれば懲罰的趣旨が及ばず返 還請求をすることができるとすると , 第三者と しては , 他にも , 代位債権者 , 差押債権者 , 債 権譲渡の譲受人等も考えられるところ , 給付者 にとって民法 708 条の適用を潜脱することが容 易となる。また , 代位債権者の権利行使を否定 した前掲大正 5 年判例との整合性をどのように 考えるのかという問題点も生じる。 ②また , 破産管財人の地位の性質に着目 し , 破産管財人が管理処分権に基づき返還請求 をする場合であればどのような事案であっても 返還請求が認められると解するとすると , 破産 管財人のみが代位債権者など他の第三者と異 なって返還請求が許されることについての説得 的な理由付けが必要であろう。破産管財人の返 還請求を否定した前掲昭和 7 年判例との整合性 をどのように考えるのかという問題点も残る。 さらに , 不法原因給付の事例としては様々なも のが考えられるところ , 例えば臓器売買の代金 として交付した金銭の返還が問題となった場合 など , 破産管財人が返還請求する場合であって も返還請求を認めることが妥当か結論の妥当性 に疑問の生じる事案もあると思われる。 ( 3 ) さらに , 本件の論点は , そもそも民法 708 条の効果をどのように考えるのかという点 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 80 にも関連する。最高裁判例は , 「贈与者におい て給付した物の返還を請求できなくなったとき は , その反射的効果として , 目的物の所有権は 贈与者の手を離れて受贈者に帰属する」 ( 最大 判昭和 45 ・ 10 ・ 21 民集 24 巻 11 号 1560 頁 ) と して , 返還を請求できなくなったことの反射的 効果により物権変動が生ずるとしている。した がって , 受給者としては , 不法原因給付があっ た場合には給付により所有権の移転を受けたは ずであるのに , 仮に一般的に給付者以外の者が 登場した場合には返還請求を拒めないとする と , 受給者への物権変動の効果をどのように考 えるのかについて検討を要するものと思われる ( なお , 本件では金銭が問題となっていること から , 所有権の移転の点は問題とならない ) 。 本件の論点については , 民法 708 条の趣旨 , 解釈 , 返還請求が制限されるのは請求権そのも のが成立しないのか , 請求権は成立しているが 行使が制限されるのか , 第三者の場合にも返還 請求が制限されるのか , 破産管財人の地位をど のように捉えるのかといった様々な点と関連す るとの指摘がされている ( 出水順「破産管財人 による不法原因給付債権の行使に関する覚書」 田原睦夫先生古稀・最高裁判事退官記念論文 集・現代民事法の実務と理論 ( 下 ) 418 頁 ) 。 Ⅱ . 本判決の内容 1 本判決は , 民法 708 条の適用範囲につい て一般論を展開して結論を導くのではなく , 本 件で問題となった事案の内容や , 本件事業を取 り巻く利害関係人の状況 , 本件で不当利得返還 請求権を行使している者についての検討を加え た上で , 信義則の観点から X の請求を認容す る結論を導いている。 2 すなわち , 本判決は , まず , ①「本件配 当金は , 関与することが禁止された無限連鎖講 に該当する本件事業によって Y に給付された ものであって , その仕組み上 , 他の会員が出え んした金銭を原資とするものである。」として , Y が給付を受けた金銭は , 無限連鎖講の仕組 み上 , 他の会員の出えんした金銭から給付され
民事 公序良俗に反する無効な出資と配当に関する契 約により給付を受けた金銭の返還につき , 当該 給付が不法原因給付に当たることを理由として 拒むことは信義則上許されないとされた事例 最高裁平成 26 年 10 月 28 日第三小法廷判決 平成 24 年 ( 受 ) 第 2 開 7 号 , 不当利得返還等請求事件 / 民集 68 巻 8 号 1325 頁 / 第 1 審・東京地判平成 24 年 1 月 27 日判時 2143 号 101 頁 / 原審・東京高判平成 24 年 6 月 6 日 Hata Yoshihide 前最高裁判所調査官畑佳秀 事実 株式会社 A は , 無限連鎖講の防止に 関する法律 ( 無限連鎖講防止法 ) に違反 する事業 ( 以下「本件事業」という ) を行って いたところ , Y ( 被告・被控訴人・被上告人 ) は , A と同事業に係る契約 ( 以下「本件契約」 という ) を締結して会員となり , 出資金を上回 る配当金の給付を受けていた。本件は , A の 破産管財人である X ( 原告・控訴人・上告人 ) が , 本件契約が公序良俗に反して無効であると して , 不当利得返還請求権に基づき , 上記の給 付額の一部の支払を求めた事案である。 A か ら Y に対する金銭 ( 配当金 ) の給付は不法原 因給付 ( 民 708 条 ) に当たり , A の破産手続 開始の決定前に A 自身がその返還を請求する ことは許されないところ , 破産管財人である X による本件請求も同条により許されないか が問題となったものである。 Ⅱ . 本件の事実関係 本件の事実関係の概要は以下のとおりであ る。 1 A は , 平成 22 年 2 月頃から , 金銭の出 資及び配当に係る本件事業を開始した。本件事 業は , 専ら新規の会員から集めた出資金を先に 会員となった者への配当金の支払に充てること を内容とする金銭の配当組織であり , 無限連鎖 講の防止に関する法律 2 条に規定する無限連鎖 78 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 講に該当するものであった。 2 Y は , 平成 22 年 3 月 , A と本件事業の 会員になる旨の本件契約を締結した。 Y は , 同 年 12 月までの間に , 本件契約に基づき , A に 対して 818 万 4200 円を出資金として支払い , A から 2951 万 7035 円の配当金の給付を受け た ( 以下 , 上記配当金額から上記出資金額を控 除した残額 2133 万 2835 円に係る配当金を「本 件配当金」という ) 。 3 A は , 本件事業において , 少なくとも , 4035 名の会員を集め , 会員から総額 25 億 6127 万 7750 円の出資金の支払を受けたが , 平成 23 年 2 月 21 日 , 破産手続開始の決定を受け , X が破産管財人に選任された。上記破産手続にお いては , 本件事業によって損失を受けた者が破 産債権者の多数を占めている。 第 1 審 , 原審とも , 本件事業が無限連 Ⅲ 鎖講に当たるものであって公序良俗に反 するものであり , 本件契約が無効であって A の Y に対する本件配当金の給付に法律上の原 因がないことを認めた。しかし , 本件配当金の 給付は不法原因給付に当たるものであり , A の有する不当利得返還請求権を A に代わって 管理処分権に基づき行使している X は , 民法 708 条の規定によりその返還を請求することが できないと判断して , X の請求を棄却すべき ものとした。 これに対して , x が , 上告及び上告受理申 立てをしたところ , 最高裁第三小法廷は , 上告 受理申立て事件を受理した上で次のとおり判示 して , 原審を破棄し , X の請求を認容した。 判旨 破産者甲との間の契約が公序良俗に反して無 効であるとして , 乙が当該契約により給付を受 けた金銭の返還を求められた場合において , 当 該金銭は無限連鎖講に該当する事業によって給 付された配当金であって他の会員が出えんした 金銭を原資とするものであり , 当該事業の会員 の相当部分の者は甲の破綻により損失を受けて 破産債権者の多数を占めるに至っており , 甲の
有判例六法 て債権届出をし , 配当手続に参加すべきことに 問題点を克服するものと考えられる。 なると思われる。 本判決は , 事例判断ではあるが , 無限 Ⅳ 本判決の判文においても , 金銭の流れの実態 連鎖講の事案について破産管財人に対し には着目されているものの , Y が本件事業の ては不法原因給付であることを理由として返還 上位の会員であったといった請求を受ける者の を拒むことが信義則上許されない場合があるこ 個別の属性に着目した理由付けがされていない とを示したものであり , 民法 708 条に関する理 のは , この点への配慮があったものと思われ 論上及び無限連鎖講等の事業者が破産した場合 る。その意味で , 本判決は , 最三小判平成 の処理に関する実務上も重要な意義を有すると 20 ・ 6 ・ 24 判時 2014 号 68 頁で田原睦夫裁判官 思われる。 が反対意見で指摘した被害者間の衡平に関する 民法・刑事訴訟法改正法案織込み条文収録 Professional 編集代表 = 山下友信・中田裕康・山口厚・長谷部恭男 2 色分冊 978-4-641-00416-0 A5 判・ 4060 頁・ 5 , 400 円 + 税 * 収録法令 399 件 * 判例付き法令 42 件 + 行政法総論・租税法総論 * 収録判例約 1 3 , 400 件 国際平和支援法 , リべンジボルノ防止法 , 有期雇 用労働者特別措置法等 個人情報保法 , 公職選挙法 , マイナンバー法 , 労 働者派遣法 , 特許法 , 不正競争防止法等。 を : = 民ま事まの改正法案 * 付録全国裁判所管轄区域表 , 印紙税額・登録免許税額一覧表。 織込み第文収録 * 別冊総合事項索引・事件名索引・判例年月日索引。 朝民第第ま物在最、 = ゞ 0 、 28 、 = 者量ま、物第ま滝第改第を ・本書購入者特典として iOS 用アプリを優待価格にて提供。 条名の傍線で改正条がひと目でわかる。 有斐閣匯 〒 101-851 東京都千代田区神田神保町 2-17 http://www.yuhikaku.co.jp/ TeI : 03-3265- 11 Fax : 0 3262- 35 ( 営業部 ) ( 表示価格は税別 ) ・好評 * 発売中・ 平成 28 年版 てイをニ第工を 0 ( 一をト [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 82
次に , 撤退については , 持分譲渡が実務上最 もよく利用されており , 次項で述べるデメリッ トのある解散・清算の事例は比較的少ない。ま た , 破産手続については , 時間と費用を要する 一破産宣告がなされると以降の手続は 上に , 破産管財人によって行われるため親会社はコン トロールできず , また親会社のレピュテーショ ンにも重大な影響が及ぶおそれがあること等か ら , 破産手続を取る例は極めて少ないと思われ る 5 ) 。減資については , 前述の通り実務上の認 可取得が難しい点に加え , 完全撤退ができない 点から , 利用例は多くないと思われる。 2. 各スキームのメリット・デメリットの整理 再編・撤退の法的なスキームとして , 実務的 によく利用される持分譲渡と解散・清算手続の 特徴やメリット・デメリットをまとめたのが次 頁の表である。これらを踏まえ , いすれのス キームを選択するかを検討することになる。そ れぞれの手続等の詳細については , 本誌後掲の 各論文を参照されたい。 皿再編・撤退を進める上での 実務ポイント 以下では , 持分譲渡や解散・清算の具体的な 手続に入る前段階で問題となり又は検討を要す る実務上のポイントを幾つか紹介し , さらに応 用的なケースとして , オフショア投資 ( 新浪ス キーム ) の撤退事例を取り上げることにした 4 ) 「外資企業法実施細則 ( 2014 年改正版 ) 」 ( 国務院令 〔 2014 〕第 8 号 , 2014 年 2 月 19 日公布 , 同年 3 月 1 日施行 ) 21 条は「外資企業は経営期間内に登録資本を減少させては ならない。ただし , 投資総額及び生産経営規模等に変化が生 じたことにより確かに減少させる必要がある場合 , 審査認可 機関の認可を経なければならない」と定めるに止まり , かか る必要性の判断基準は不明確であって , 審査認可機関の裁量 判断によると考えられる。 1 . 再編・撤退のスキーム検討の手順 現地法人の再編 ( 出資比率の変更 , 独資会社 化等 ) に関しては , 持分譲渡を検討するケース が多く , 合弁会社であれば , まず合弁パート ナーとの間で譲渡交渉を行うのが通常である ( 他の合弁出資者は優先的購入権を有し 6 ) , 譲 受を希望する可能性も高いため ) 。合弁パート ナーが持分の譲受を希望しない場合や , 独資会 社の場合は , 譲受を希望する第三者との間で譲 渡交渉を行う。当事者間で持分譲渡の合意に至 れば , 持分譲渡手続を進めることになる。 現地法人の撤退 , 特に完全撤退の場合 , 前述 した通り解散・清算よりも持分譲渡の方が , 手 間・費用がかからない等メリットが多いため , 一般的には持分譲渡を選択することが多い。合 弁会社であれば , まず合弁パートナーとの間で 譲渡交渉を行い , 合弁パートナーが持分の譲受 を希望しない場合や , 独資会社の場合に , 譲受 を希望する第三者と譲渡交渉を行う。当事者間 で持分譲渡の合意に至れば , 持分譲渡手続を進 めることになる。譲受人が見つからない場合 ( 譲渡交渉がまとまらず , その他に譲受希望者 が現れない場合も含む ) には , 解散・清算に向 けて検討を進めることになる。 2. スケジュール立案上の注意点 持分譲渡にせよ解散・清算にせよ , 案件スケ ジュールの立案に関しては , 十分に余裕を持っ た柔軟性のある定め方にしておくのが現実的で ある。必ずと言っていいほど予想外の事態が発 生し , スケジュールに遅れが生じるのが一般的 続に入る必要があり ( 「公司法 ( 2013 年改正版 ) 」〔主席令 ( 2013 ) 第 8 号 , 2013 年 12 月 28 日公布 , 2014 年 3 月 1 日施 行〕 187 条 1 項 ) , それを避けるため , 現地法人が債務超過 の場合に増資又は親会社からの貸付により資金注入を行い , 債務超過を解消した上で解散・清算により撤退する事例が多 く見受けられる。 6 ) 「中外合資経営企業法実施条例 ( 2014 年改正版 ) 」 ( 国務院令〔 2014 〕第 648 号 , 2014 年 2 月 19 日公布 , 同年 3 月 1 日施行 ) 20 条 2 項 , 「公司法」 71 条 3 項。 5 ) 16 清算を行う際に債務超過と判明した場合は破産の手 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494
清算報告書を作成して提出しなければ不備を指 摘され , スムーズに手続を完了できない恐れが ある。手続前に工商行政管理部門への提出用の 清算報告書の作成要領について問い合わせをす べきである。 Ⅳ , 実務上の留意点及び対処方法 解散・清算手続は煩雑で時間がかかる手続で ある。もし , 途中で何らかの問題が発覚する と , 手続そのものがストップされ , 現地法人は 経営を継続させることも , 現地法人を解散させ ることもできないまま放置される恐れがある。 これは解散・清算という方法で中国から撤退を 図り , またはグループ内の再編を実現させよう とする外国投資者にとって最も頭の痛いことで ある。このような状況に陥らないためには , 現 地法人が解散・清算を計画した時点で , 会社に 問題があるかどうかについて自ら精査すべきで ある。 1 . 債務超過 解散・清算手続を行うことができる前提とし て , 現地法人は債務超過にならないことが必要 である。債務超過となれば破産するしかな い 8 ) 。しかし , ただでさえ複雑な中国の破産手 続は , 外資系企業にとってさらに難しく , 何年 もかかって決着がつかないケースもある。その うえ , 現地法人の破産は親会社としての日本企 業の評判に傷を付けるとも認識されている。し たがって , 解散・清算の決定を行うまでに現地 法人は債務超過になる恐れがあるかどうかにつ いて自ら精査すべきである。もし , 万が一 , 債 務超過となる恐れがあれば , 日本の出資者によ る現地法人への増資や貸付の方法で債務超過回 避の方法を工夫する必要がある。 8 ) 「公司法」 187 条により , 清算委員会が会社の財産を 整理し , 資産負債表及び財産リストを作成した後 , 会社の財 特集 / 中国拠点の再構築 2. 従業員との労働契約の処理 「労働契約法 ( 2012 年改正版 ) 」 ( 主席令 〔 2012 〕第 73 号 , 2012 年 12 月 28 日公布 , 2013 年 7 月 1 日施行 ) 44 条・ 46 条により , 現地法 人が経営期間満了前に自ら解散しようとする場 合 , 従業員に経済補償金を支払ったうえ , 従業 員との労働契約を終了させることができる。し たがって , 現地法人が解散を決定した後 , 従業 員と労働契約の終了について協議することがで きる。この場合 , 法定の経済補償金を支払えば 特に問題はないが , 解散寸前の現地法人が法定 の経済補償金を満足に支払えない場合 , 従業員 と協議して法定の経済補償金より低い金額で労 働契約を終了させることについて納得させるし かない。従業員も現地法人が破産したら経済補 償金がもらえないことを考慮して , もらえるだ けもらおうと考えて法定より低い経済補償金で 労働契約を終了させることに同意する可能性が ある。しかし , もし現地法人が解散・清算とい う事実を隠して先に商務部門の認可を取得し , 解散を既成事実にした後 , 低い金額で従業員と の労働契約を終了させようとすれば , 従業員の 強い反発を招きかねない。さらに従業員が現地 法人の対応に納得がいかずに現地法人を相手に 労働仲裁や訴訟を提起すれば , 現地法人の解散 スケジュールを狂わせる恐れもある。 3. 移転価格の問題 上に述べたように , 税務登記抹消手続は解 散・清算手続の中で最も重要である。問題を発 見されると手続がストップし , 場合によっては 解散・清算手続が 2 年 , 3 年過ぎても完了でき ない可能性も出てくる。なかでも , 現地法人に おいては移転価格の問題に特に留意する必要が ある。 特に親会社の加工工場に位置づけられた現地 産が債務超過したことを発見した場合 , 法に基づいて人民法 院に対して破産の宣告を申請しなければならない。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 33
、。、 , 、、。簽有斐閣 〒 101-0051 東京都千代田区神田神保町 2 ー 17 Tel : 03 ー 3265-6811 / Fax : 03 ー 3262 ー 8035 ( 営業部 ) ※表示価格は税別です。 http: 〃 www.yuhikaku.co.jp/ ・出版案内・ 『実務に効く判例精選』シリーズ 〔ジュリスト増刊〕 B5 判並製 ・好評 * 発売中・ 際ビジネスをめぐる問題 / 第 4 章国際訴訟 / 第 5 章国際仲裁 / 第 6 章国際倒産 第 1 章国際ビジネスのプレーヤー / 第 2 章国際ビジネスをめぐる共通問題 / 第 3 章各種の国 210 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21507-8 道垣内正人・古田啓昌編 実務に効く国際ピジネス判例精選 画 / 第 8 章事業再生のその他の問題 章倒産債権 / 第 5 章倒産者に対する優先的権利 / 第 6 章継続中の契約関係 / 第 7 章再建計 第 1 章倒産手続の開始 / 第 2 章倒産者の地位と手続機関 / 第 3 章積極財産とその回復 / 第 4 280 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21506-1 小林信明・山本和彦編 実務に効く事業再生判例精選 相手方に対する制限的行為 / 第 5 章複合的問題 第 1 章競争者との協調的取組み / 第 2 章取引先の選別 / 第 3 章顧客誘引行為 / 第 4 章取引 248 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21505-4 泉水文雄・長澤哲也編 実務に効く公正取引審決判例精選 ィ / 第 5 章国際裁判管轄・準拠法 第 1 章特許法・実用新案法 / 第 2 章不正競争防止法 / 第 3 章著作権法 / 第 4 章パプリシテ 248 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21504-7 小泉直樹・末吉亙編 実務に効く知的財産判例精選 務・賠償責任 / 第 9 章労災・ハラスメント / 第 1 0 章団体交渉をめぐる諸問題 更 / 第 5 章懲戒 / 第 6 章労働契約の終了 / 第 7 章雇止めと高齢者雇用 / 第 8 章労働者の義 第 1 章労働契約の成立・承継 / 第 2 章労働時間 / 第 3 章人事 / 第 4 章労働条件の不利益変 240 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21503-0 岩村正彦・中山慈夫・宮里邦雄編 実務に効く労働判例精選 4 章株主代表訴訟に係る手続ほか / 第 5 章取締役の報酬等 / 第 6 章取締役の刑事責任 第 1 章株主総会の招集と運営 / 第 2 章取締役の経営判断 / 第 3 章取締役のその他の義務 / 第 264 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21502-3 野村修也・松井秀樹編 実務に効くコーポレートガバナンス判例精選 価格決定申立て / 第 7 章その他 & A の事後的効力否定等 / 第 5 章 M & A 契約外での損害賠償請求等 / 第 6 章株式買取請求権・ 第 1 章 M & A 契約の解釈 / 第 2 章 M & A の実施判断 / 第 3 章 M & A の事前差止め / 第 4 章 M 256 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641-21501-6 神田秀樹・武井一浩編 実務に効く M & 組織再編判例精選 留置権 / 第 6 章その他 不動産担保の取得後・実行前の管理 / 第 3 章不動産担保の 230 ページ ・ 2 , 667 円 + 税 978-4-641 -21508-5 実務に効く担保・債権管理判例精選 実行 / 第 4 章非典型担保 / 第 5 章 第 1 章不動産担保の取得 / 第 2 章 小林明彦・道垣内弘人編
の重大な変化には主に企業移転 , 吸収合併 , 企 業資産の移転が含まれると労働部 5 ) は考えてい る。さらに実務上 , 経営悪化による事業部門の 廃止も客観的状況の重大な変化の 1 っとして考 えられる。 2. 経済的人員削減による労働契約解除 41 条は , 経済的人員削減の法定状況の 1 つ に該当し , 削減人数が 20 人以上 , あるいは削 減人数が 20 人に満たないが , 会社の全従業員 数の 10 % 以上に該当する場合 , 一定の手続を 踏まえたうえ , リストラを行うことができると 規定している。法定状況は , 以下のとおりであ る。 法定状況 1 : 企業破産法の規定に基づいて会 社の再編を行う場合 法定状況 2 : 生産・経営に重大な困難が発生 した場合 法定状況 3 : 企業が事業転換 , 重大な技術革 新 , 経営方式の調整によって , 労働契約の変 更後もなお , 人員削減の必要がある場合 法定状況 4 : その他労働契約締結時において 根拠とした客観的経済状況に重大な変化が生 じ , 労働契約を履行することができなくなっ た場合 3. 会社清算による労働契約の終了 44 条 5 号では , 使用者が営業許可証を取り 消され , 閉鎖を命じられ , 登記が抹消された場 1 ) 世澤律師事務所パートナー 2 ) 世澤律師事務所パートナー。また , 「虎門中央法律事 務所世澤外国法事務弁護士事務所 ( 外国法共同事業 ) 」に 所属する外国事務弁護士である。なお , 本稿は , 世澤律師事 務所の徐開元中国律師 , 朱誉鳴中国律師からの協力を得た。 また , 本稿の執筆にあたって , 西村あさひ法律事務所の野村 高志弁護士から全面的かっ適切なアドバイスをいただいた。 3 ) 本稿論述の便宜上 , 特別な説明がないかぎり , 以降 条数のみの場合 , 「労働契約法」の関連規定を意味する。 4 ) 「労働契約法」は労働契約の継続履行を強調してお り , 例え持分譲渡したとしても , 会社からの一方的な労働契 約の解除を許容しない。したがって , 持分譲渡はリストラの カテゴリに入れない。また , 破産解散は , 清算解散と同じく [ Jurist ] June 2016 / Number 1494 36 合 , 又は使用者が繰上解散 ( 以下「清算」とい う ) を決定した場合 , 労働契約を終了する , と 規定している。したがって , 「公司法」及び会 社定款に規定する株主会 ( 株主総会 ) あるいは 董事会 ( 取締役会 ) が , 会社の清算を決定した 場合 , 会社は法に基づき , 従業員の労働契約期 間内に労働契約を終了することができる。 Ⅲ . リストラの法的手続及び留意点 リストラできる経営上の事由に法的根拠があ ると判断された場合 , その後どのような法的プ ロセスが必要とされるかについて , 以下検討す る。 1 . 客観的状況の重大な変化による 労働契約解除の法的手続 / 留意点 会社の客観的状況に重大な変化が生じ , 労働 契約を履行できない状況において , 会社は直ち に労働契約を一方的に解除することはできず , 労働者と協議のうえ , 労働契約を変更しなけれ ばならない。会社と従業員は労働契約の変更を 協議し , 合意に達した場合 , 双方は変更後の労 働契約を履行しなければならない。会社と従業 員が協議し , 合意できなかった場合 , 会社は労 働契約を一方的に解除することができる。 上記の労働契約の解除にあたっては , 会社は 30 日前に書面により労働者に事前通知しなけ ればならない。 30 日前に通知できない場合 , 1 カ月分の賃金を労働者に支払うことで , 事前通 44 条の適用となり , 法的手続が異なるが , 従業員対応の部 分においては , 類似のところが多い。 5 ) 「労働部による「労働法」の若干条項に関する説明」 ( 労弁発〔 1994 〕第 289 号 , 1994 年 9 月 5 日公布 , 1995 年 1 月 1 日施行 ) 26 条によれば , 本条の「客観的状況」とは不 可抗力又は労働契約の全部又は一部の条項を引き続き履行で きなくなる状況が生じた場合のこと , 例えば企業移転 , 吸収 合併 , 企業資産の移転等であり , かっ本法 27 条に掲げる客 観的状況を排除する。 6 ) 経済補償金の算出基準は法定されており , 基本的に は勤務年数が 6 カ月未満の場合は , 当該従業員の平均賃金 ( 直近 12 カ月の賃金総額の平均 ) の 0.5 カ月分 , 6 カ月以上 1 年未満の場合 , 当該従業員の平均賃金の 1 カ月分になる。
撤退案件は随時存在しており , この数年は撤退 案件がやや増加したようにも感じられるもの の , その多くは , 中国市場で国内企業や韓国・ 台湾系企業が力を付けてきたため競争が急速に 激化する中 , 技術やプランド面の競争力を失っ た企業が業績悪化から撤退を余儀なくされる ケースであり , あくまで個別事情によるもの で , 「プーム」と呼ぶには適さないと考える。 そもそも中国における外資投資の場合 , 基本 的には 1 つのプロジェクト毎に当該地域で独立 法人を設立し , 各社が従事可能な事業 ( 中国で 「経営範囲」と呼ばれる ) を具体的に定めた上 で会社設立の認可を受けていること , 会社の設 備や従業員も専ら当該事業への従事が予定され ていることから , 市場の変化で当該事業がライ フサイクルを終えた場合に , 会社の事業を他に 転換することが困難という事情がある。さら に , 例えば生産コストの低い他地域に会社を移 転しようとしても , 地域を跨いだ会社の移転が 実務上困難であるため , 当該法人 ( その工場設 備や従業員を含め ) を場所や内実を変えて維 持・活用することが難しく , 結局は撤退 ( 持分 の譲渡や会社の解散 ) という形を取らざるを得 ないケースが多いと思われる。実際 , 中国に多 数の現地法人を有する大手企業グループの場 合 , 個別の現地法人に関する撤退を少なからす 経験しており , 単なる中国事業の失敗と見るの ではなく , Scrap & BuiId の一環としての積極 的な意義を認めてもよいと思われる。 圧現地法人の再編・撤退に関する 各種スキーム 1 . 各種スキームの説明 中国現地法人の再編・撤退に関し , 法律上利 用が可能なスキームとしては , 主に次のものが ある。その実務上の利用状況について概説した 1 ) 西村あさひ法律事務所上海事務所代表。 2 ) 国発 , 商務部令 ( 2015 ) 第 22 号 , 2015 年 3 月 10 日 公布 , 同年 4 月 10 日施行。 再編 ・持分譲渡 ( 株主・出資比率の 変更 , 合弁会社の 独資会社化 , 独資 会社の合弁会社化 , ・合併・分割 ・増資・減資 ・持分譲渡 ( 一部譲渡 , 全部譲 渡〔完全撤退の場 合〕 ) ・解散・清算 ・破産 ・減資 まず , 再編については , 持分譲渡を通じた株 主・出資比率の変更は , 実務上よく行われてお り , その手続や注意点は , 撤退における持分譲 渡と同様である。 実務上のニーズとしては , 中国各地に点在す る多数のグループ企業を整理・統合する目的か ら , それらの合併が検討されることが多い。法 的な根拠規定として「外商投資企業の合併及び 分割に関する規定」等があり , 吸収合併と新設 合併の両方が認められているが , 実際に実行に 至るケースは極めて少ないようである。特に 地域を跨ぐ合併 ( 具体的には , 会社所在地を管 轄する認可機関や税務署が異なる地域にある会 社同士の合併 ) の場合 , 消滅会社の所在地の認 可機関や税務署等がスムーズな手続進行を認め ないため困難との話をよく聞く。また , 免税措 置や免税設備輸入枠等の優遇政策 , 事業ライセ ンス等を存続会社が包括承継するのは困難であ る。 また減資については , 実務上その認可取得が 難しいとされており ( 具体的な認可基準も不明 確 ) 4 ) , また債権者保護のため新聞での公告が 必要な点が敬遠されることもあり , 利用例は少 ないと見られる。 3 ) 「自由貿易試験区外商投資参入許可特別管理措置 ( ネ ガテイプリスト ) の印刷配布に関する通知」 ( 国弁発〔 2015 〕 第 23 号 , 2015 年 4 月 8 日公布 , 同年 5 月 8 日施行 ) 。 [ Jurist ] June 2016 / Number 1494