平成 - みる会図書館


検索対象: ジュリスト 2016年8月号
87件見つかりました。

1. ジュリスト 2016年8月号

I. はじめに 最高裁平成 10 年 4 月 28 日判決 ( 民集 52 巻 3 号 853 頁 ) は , 民訴法 118 条各号所定の外国 判決の承認要件について判断しているところ , 本稿の論点である送達要件については , 「民訴 法 118 条 2 号所定の被告に対する『訴訟の開始 に必要な呼出し若しくは命令の送達』は , 我が 国の民事訴訟手続に関する法令の規定に従った ものであることを要しないが , 被告が現実に訴 訟手続の開始を了知することができ , かっ , そ の防御権の行使に支障のないものでなければな らない」と判断している。平成 10 年最判は , 日本国内に居住する被告に対する送達の効力が 問題となった事案であるが , 担当事件で問題と なったのは , 外国に居住する被告に対して当該 外国の手続法に従ってされた送達の効力であ る。この点について , 第 1 審判決 ( 前掲東京地 判平成 26 ・ 12 ・ 10 ) は , 結論として X ( 第 1 審原告 , 控訴審控訴人 ) の行った直接交付の方 法による送達は民訴法 118 条 2 号の要件を欠く ものであるとして , X の請求を棄却したのに 対し , 判決は , X による送達は民訴法 118 条 2 号の要件をみたすものであるとして , X の請求を認容した。なお , 判決に対しては , 上告及び上告受理申立てがされたが , 最高裁の 判断がされる前に裁判外の和解が成立し , 上告 並びに上告受理申立ては取り下げられた。 圧担当事件の概要および意義 1 . 事案の概要 担当事件の事実関係の概要は , 次のとおりで 60 外国判決の承認要件 としての送達 高松薫 ( 判決原告・控訴人代理人 ) [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 ある。 控訴人 x ( 第 1 審原告 ) は , アメリカ国籍を 有する者であって , アメリカ合衆国力リフォル ニア州内に居住している。被控訴人 Y ( 第 1 審 被告 ) は , 日本国籍を有する者であって , 平成 15 年夏に就学ビザを取得して渡米した。 平成 17 ( 2005 ) 年 4 月 21 日 , X は , 平成 16 ( 2004 ) 年 1 月 5 日に Y の所有する機械が X の足に落下したこと ( 以下「本件事故」とい う ) により損害を被ったと主張して , カリフォ ルニア州オレンジ郡中央管轄区上位裁判所 (Superior Court of C 面 rn れ County of Orange) ( 以下「本件米国裁判所」という ) に対して , Y を被告として , 損害賠償を請求する訴え ( 以下「本件外国訴訟」という ) を提起した。 平成 17 ( 2005 ) 年 5 月 17 日 , カリフォルニ ア州登録送達人は , Y に対してカリフォルニ ア州内の住所において , 本件外国訴訟の呼出 状 , 訴状等の直接送達 ( 交付送達 ) (Personal Service) ( 以下「本件送達」という ) をした。 本件送達に係る上記送達書類に日本語翻訳文は 添付されていなかった。その後 , 同年 7 月に Y は日本に帰国した。 本件外国訴訟において Y が本件米国裁判所 の期日に出頭することはなく , 平成 18 ( 2006 ) 年 2 月 3 日 , 本件米国裁判所は , Y に対し , X に 15 万 6947.00 米国ドルを支払うよう命ずる 判決 ( 以下「本件外国判決」という ) を言い渡 し , 同判決は確定した。 2. 判決の概要 以下では , 担当事件における争点のうち , 本 件送達が民訴法 118 条 2 号の要件を具備するか 否かの点に絞って紹介する。 第 1 審判決は , 民訴法 118 条 2 号の「送達」 の意義について , 「民訴法 118 条 2 号所定の被 告に対する『訴訟の開始に必要な呼出し若しく は命令の送達』は , 我が国の民事訴訟手続に関 する法令の規定に従ったものであることを要し ないが , 被告が現実に訴訟手続の開始を了知す ることができ , かっ , その防御権の行使に支障

2. ジュリスト 2016年8月号

判例 最高裁 Comments on Supreme Court Decisions 本件の事実関係の概要は , 次のとおり である。 1 外資系日本法人である B 社は , 平成 12 年 11 月 30 日 , 英国領ケイマン諸島に所在する 外国法人 ( 以下「本件営業者」という ) との間 で , 本件営業者が営む航空機リース事業 ( 外国 の航空会社に航空機をリースする事業。以下 「本件リース事業」という ) に出資をする旨の 匿名組合契約 ( 以下「本件匿名組合契約」とい 民事 う ) を締結して匿名組合員の地位を取得し , そ の後さらに , 上記地位の一部を A ( 個人 ) に 1. 匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける 利益の分配と所得区分の判断 譲渡した ( この地位譲渡に係る契約は , A, B 2. 匿名組合契約に基づき航空機のリース事業 社及び本件営業者の 3 者間で締結され , A は , に出資をした匿名組合員が , 当該契約に基 B 社が本件営業者との間で本件匿名組合契約を づく損失の分配を不動産所得に係るものと 締結した平成 12 年 11 月 30 日に遡って , 匿名 して所得税の申告をしたことにつき , 国税 組合員の地位を取得した ) 。本件匿名組合契約 通則法 65 条 4 項にいう「正当な理由」があ るとされた事例 及び上記の地位譲渡契約に係る各契約書には , 本件リース事業は本件営業者がその単独の裁量 最高裁平成 27 年 6 月 12 日第二小法廷判決 に基づいて遂行するものであって , 匿名組合員 は本件リース事業の遂行及び運営に対していか 平成 24 年 ( 行ヒ ) 第 408 号 , 所得税更正処分取消等請求事件 なる形においても関与したり影響を及ほすこと / 民集 69 巻 4 号 1121 頁 / 第 1 審・東京地判平成 22 年 11 月 18 日 / 第 2 審・東京高判平成 24 年 7 月 19 日 ができないなどと記載されていた。 2 本件リース事業については , 平成 14 年 Shimizu Chieko 最高裁判所調査官清水知恵子 10 月から同 17 年 9 月までの各計算期間 ( 各年 の 10 月 1 日から翌年 9 月 30 日まで ) に本件営 事実 業者に損失が生じ , 各計算期間の末日におい 本件は , 匿名組合契約に基づき航空機 て , A の出資割合 ( 上記 1 の地位譲渡契約に リース事業に出資をした匿名組合員であ おける A の拠出額が本件匿名組合契約におけ る A が , 当該事業につき生じた損失のうち当 る B 社の出資額中に占める割合 ) に応じた金 該契約に基づく A への損失の分配として計上 額が A への損失の分配として計上された。 された金額を不動産所得 ( 所税 26 条 1 項 ) に A は , 上記のとおり計上された金額につき , 係る損失に該当するものとして所得税の確定申 これを所得税法 26 条 1 項に定める不動産所得 告 ( 3 年分 ) をしたところ , 所轄税務署長か に係る損失に該当するものとして他の所得の金 ら , 上記の計上金額は不動産所得に係る損失に 額から控除 ( 損益通算 ) して税額を算定した上 該当せず同法 69 条に定める損益通算の対象と で , 平成 15 年分から同 17 年分までの所得税の ならないとして , 各年分の所得税につき更正及 各確定申告をした ( 以下「本件各申告」とい び過少申告加算税の賦課決定を受けたため , A う ) 。所轄税務署長は , 後記 3 の通達改正の後 の訴訟承継人である X ら ( 控訴人・上告人。 である平成 19 年 2 月 22 日 , 上記の計上金額は A は控訴提起後に死亡した ) が , 国 ( 被告・ 不動産所得に係る損失に該当せず , 損益通算を 被控訴人・被上告人 ) を相手に , 上記の各更正 することはできないなどとして , 上記各年分の 及び各賦課決定の取消しを求めた事案である。 所得税につき更正及び過少申告加算税の賦課決 68 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 Ⅱ

3. ジュリスト 2016年8月号

商事判例研究 平成 25 年度 32 させ得る賃貸借契約の 不動産売却価額を低下 ロ 東京大学助教 東京大学商法研究会 宇野瑛人 Uno AkitO 金沢地裁平成 25 年 1 月 29 日判決 平成 24 年 ( ワ ) 第 443 号 , X 会社対 A 会社破産 管財人 Y, 否認請求認容決定に対する異議請求 事件 / 金融・商事判例 1420 号 52 頁 / 参照条 文 : 破産法 160 条 1 項 2 号・ 161 条 1 項・ 170 条 1 項 事実 旅館経営等を目的とした賃貸借契約を締結した ( 以 係にある旅館の営業を行っていた ) を賃借人として , 締役を代表者とする法人であり , 別の不動産で姉妹関 訴外 B 会社 (B は , A の創業者の友人かっ A の元取 ら建物の存在する敷地である ) につき , A を賃貸人 , る。本件不動産は , 旅館の建物と従業員寮 , 及びそれ 月 7 日 , A 所有の不動産 ( 以下 , 「本件不動産」とす 事案の概要は以下の通りである。 A は平成 20 年 1 原告 ) の提起した異議訴訟である。 約における賃借人であった X 会社 ( 原決定相手方・ 約の否認請求を認容する裁判所の決定につき , 当該契 決定申立人・被告 ) がした , A の締結した賃貸借契 本件は , 破産者である A 会社の破産管財人 Y ( 原 下 , 「本件契約」とする ) 。平成 20 年 3 月 1 日 , B は A の承諾を得て賃借権を X へ譲渡した (X は , A が のれんや取引先の維持等を目的として本件契約後に設 立した運営会社であり , A の役員を代表者取締役と して設立された ) 。賃借権を譲り受けた X は , A が使 用していた本件不動産や備品等を用いて旅館経営を行 い , 従前 A の従業員であった者の多くも X の雇用下 に入った。平成 20 年 9 月 24 日 , A の債権者により A に対する破産手続開始の申立てがなされて , 平成 22 年 9 月 6 日に破産手続開始の決定が下され , Y が 破産管財人に選任された。 破産手続開始後 , Y が X を相手方として本件契約 が破産法 160 条 1 項 2 号に該当するとして否認請求 を申し立てたところ , 原決定がこれを認容した為 , X はこれを不服として本件訴訟を提起した。 判旨 原決定認可 ( 控訴・控訴棄却確定 ) 。 「破産債権者を害する行為とは , 破産者の責 任財産を減少させる行為をいうところ , 財産を 量的に減少させるもののみならず , 責任財産の経済的 な価値を質的に低下させるものも含むと解するのが相 当である。」 「破産者の責任財産となる不動産に賃借権が Ⅱ 設定されていた場合 , 当該不動産を任意売却す るに際し , 買受希望者が , 賃借権の解除や賃借人から の占有の移転が円滑に行われないことを危惧して , 買 受けを断念したり , 買受希望価格を減額することが十 分に想定され , 当該賃借権の存在は , 任意売却の不成 立や , 売却価格の低下などの原因になるものと認めら れる。 そうすると , 当該賃借権を設定する行為は , 当該不 動産の経済的価値を低下させるものというべきである ところ , 本件契約は破産債権者を害する行為に該当す 「 B と A とは , 本件契約締結以前から密接な 関係を有していたこと及び A は遅くとも平成 18 年頃から支払停止の状態にあったことが認められ 「 B は , A の上記財務状況を熟知していたものと推 認される」。 「不動産に対する賃借権の存在が , 任意売却等に当 たっては当該不動産の財産的価値を減少させる要因と Ⅲ [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 99

4. ジュリスト 2016年8月号

が満了している者については , 上記定款変更の効力発 XI らを取締役として再任しないことが正当化される 生時において取締役から当然に退任すると解すること とはいえない・・ ・・・ XI らを取締役として再任し が相当である。 なかったことにつき正当な理由があるという Y の主 けだし , 上記の定款変更は , 取締役の解任と同様の 張はいずれも採用できず , その他にこれを認めるに足 効果を発生させるものであるところ , 取締役はいつで りる証拠はない。」 も株主総会の決議によって解任することができるとさ 「そこで , XI らが被った損害について検討す Ⅲ れており ( 会社法 339 条 1 項 ) , 他方 , 定款変更に ・・・ XI らは , XI らが取締役を退任した日 る。 よって当然に退任させられた取締役の保護は , 解任の の翌日である平成 23 年 1 月 21 日から本件定款変更 場合と同様に , 損害賠償によって図れば足りるという 前の本来の任期の終期である平成 28 年 6 月末日まで べきだからである。 の間の得べかりし取締役報酬相当額が損害となる旨主 これによれば , 平成 20 年 5 月 21 日に取締役に選 張する。 任された XI らは , 平成 23 年 1 月 20 日に取締役の任 しかしながら , 平成 23 年 1 月から平成 28 年 6 月 期を 10 年から 1 年に短縮する旨の本件定款変更がな までの 5 年 5 か月以上もの長期間にわたって , Y の されたことにより , 同日 , Y の取締役から当然に退 経営状況や XI らの取締役の職務内容に変化がまった 任したことになるというべきである。その後 , XI ら くないとは考えがたく , XI らが平成 28 年 6 月までの が Y の株主総会において取締役に再任された事実は 間に上記の月額報酬を受領し続けることができたと推 認められないから , 結局 , XI らが Y の取締役の地位 認することは困難であって , その損害額の算定期間 にあるということはできない。」 は , XI らが退任した日の翌日から 2 年間に限定する 「会社法 339 条 2 項は , 株主総会の決議に ことが相当である。」 Ⅱ よって解任された取締役は , その解任について 平釈 正当な理由がある場合を除き , 会社に対し , 解任に よって生じた損害の賠償を請求することができる旨定 判旨の結論の一部及びその理由付けに疑問。 めているところ , その趣旨は , 取締役の任期途中に任 本件は , 取締役の任期途中の定款変更によっ 期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に て , その任期が満了となり再任もされなかった 取締役から退任させられ , その後 , 取締役として再任 取締役が , 会社に対して定款変更前における任期期間 されることがなかった者についても同様に当てはまる 中と任期満了時に得べかりし取締役報酬の損害賠償を というべきであるから , そのような取締役は , 会社が 求めた事案である。争点となったのは , 定款変更に 当該取締役を再任しなかったことについて正当な理由 よって退任させ , 再任しなかったことに基づく損害賠 がある場合を除き , 会社に対し , 会社法 339 条 2 項 償の可否とその損害額の範囲である。 の類推適用により , 再任されなかったことによって生 株主総会において解任された役員及び会計監 Ⅱ じた損害の賠償を請求することができると解すべきで 査人 ( 以下 , 役員等をまとめて「取締役」とい ある。 う ) は , その解任について正当な理由がある場合を除 これを本件についてみると , XI らは , 本件定款変 き , 会社に対して , 解任によって生じた損害の賠償を 更によって本来の任期よりも前に取締役から退任させ 請求することができる ( 会社 339 条 2 項 ) 。本条文の られ , 取締役として再任されることもなかったのであ 趣旨は , 株主に解任の自由を保障するとともに , 他方 るから , Y が XI らを再任しなかったことについて正 で取締役の任期に対する期待を保護して両者の利益の 当な理由がある場合を除き , Y に対し , 損害賠償を 調整を図るためである ( 弥永真生・リーガルマインド 請求することができることとなる。」 会社法〔第 14 版〕 160 頁 , 江頭憲治郎・株式会社法 「そこで , Y が XI らを取締役として再任しなかっ 〔第 6 版〕 395 頁 ) 。裁判例では , 商法 ( 平成 17 年法 たことについて , 正当な理由があるか否かについて検 律第 87 号改正前 ) 257 条 1 項但書 ( 会社 339 条 2 項 ) 討する。・・・・・・取締役全員が親族関係にあって取締役会 に基づく損害賠償責任は , 同法が特に定めた法定責任 が形骸化していたというのであれば , 新たに親族以外 であって , 賠償すべき損害の範囲は , 取締役を解任し の者を取締役として追加すれば足りるのであって , なければ , 残存任期期間中と任期満了時に得べかりし [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 92

5. ジュリスト 2016年8月号

者としての地位を有するものと認められる場合 には , 当該事業の内容に従い , 事業所得又はそ の他の各種所得に該当し , ②それ以外の場合に は , 当該事業の内容にかかわらず雑所得に該当 する ( ただし , 出資が匿名組合員自身の事業と して行われている場合には , 事業所得に該当す る ) と判断したものと解される。これは , すな わち , 匿名組合員が実質的な共同事業者として の地位を有するという例外的な事情のない限り 雑所得に該当することとするものであるから , 本判決は , 新通達と同趣旨の解釈を採用したも のと考えられる。 本判決の判旨Ⅱ ( 「正当な理由」の有 Ⅲ 無 ) についての説明は , 次のとおりであ る。 国税通則法 65 条 4 項は , 過少申告があって も「正当な理由があると認められる」場合に は , 例外的に過少申告加算税を課さないことを 定めるところ , 上記の場合に該当するのは , 真 に納税者の責めに帰することのできない客観的 な事情があり , 過少申告加算税の趣旨に照らし てもなお納税者に過少申告加算税を賦課するこ とが不当又は酷になる場合をいうものと解され ている ( 最ー小判平成 18 ・ 4 ・ 20 民集 60 巻 4 号 1611 頁 , 最三小判平成 18 ・ 10 ・ 24 民集 60 巻 8 号 3128 頁参照 ) 。 租税法規の解釈に関して確定申告の当時に示 されていた課税庁の公的見解が後になって変更 されたために , 修正申告や更正を余儀なくされ た場合については , 上記の「正当な理由」があ ると解するのが通説的見解である。そして , 本 件における旧通達から新通達への改正 ( 平成 17 年通達改正 ) については , 学説の一部に , 新通達をもって課税庁の公的見解を変更したも のとはいえないとする見解もある ( 酒井克彦 「匿名組合契約に基づく分配金に係る所得区分 いわゆる航空機リース事件の検討を契機と して」税大ジャーナル 2 号 96 頁 ) ものの , 公 的見解の変更に当たると解する学説が圧倒的多 数を占めている。 本判決は , 旧通達と新通達とは取扱いの原則 最高裁時の判例 を異にするものであること , 本件を含む具体的 な適用場面 ( 匿名組合員に営業者の営む事業に 係る重要な意思決定への関与等の権限が付与さ れていない場合 ) についての帰結も異にするこ とを考慮して , 平成 17 年通達改正につき課税 庁の公的見解の変更に当たるものとして , 上記 改正前に旧通達に従ってされた平成 15 年分及 び同 16 年分の各確定申告には「正当な理由」 が認められるとしたものと解され , 上記の多数 的見解に沿うものと考えられる。 本判決は , 行政解釈に変遷があり学説 Ⅳ 上も見解が分かれていた匿名組合契約に 基づく利益の分配に係る所得区分について , 新 通達と同趣旨の解釈を採用する判断を示した点 で , 所得区分に関する所得税法の解釈上重要な 意義を有するものといえ , また , 平成 17 年通 達改正による新通達の発出が課税庁の公的見解 の変更に当たることを明らかにして , 変更前に された確定申告につき国税通則法 65 条 4 項に いう「正当な理由」が認められるとした点で も , 租税実務上重要な事例判断としての意義を 有するものと考えられる。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

6. ジュリスト 2016年8月号

Number 労働判例研究 1280 制度を特定しない相談 者に対する特別児童扶 養手当の教示義務 名古屋大学教授 中野妙子 Nakano Taeko 東京大学労働法研究会 大阪高裁平成 26 年 ll 月 27 日判決 平成 25 年 ( ネ ) 第 549 号 , 甲野太郎ほか 1 名対交 野市 , 損害賠償請求控訴事件 / 判例時報 2247 号 32 頁 / 参照条文 : 国家賠償法 1 条 特別児童扶養手当 ( 以下 , 「本件手当」とい 事実 期以後 1 年以上の療養を必要とするものを , その病 れており , 悪性腫瘍については , 当該疾病の認定の時 度を定める。さらに , 通達で障害の認定基準が策定さ 任を受け , 同法施行令別表第 3 が具体的な障害の程 害等級には 1 級および 2 級があり , 法 2 条 5 項の委 う ( 法 38 条 1 項 , 同法施行令 13 条 ) 。法に基づく障 条 1 項 ) , 認定請求の受理および審査は市町村長が行 当の額の認定は都道府県知事の事務であるが ( 法 5 者 ) に支給される ( 法 3 条 1 項 ) 。受給資格および手 する父または母 ( 父母以外の者が養育する場合は養育 法律」 ( 以下 , 「法」という ) に基づき , 障害児を監護 う ) は , 「特別児童扶養手当等の支給に関する 状の程度により 1 級または 2 級と認定することとさ れている ( 昭和 50 年 9 月 5 日児発第 576 号別添 1 第 15 節 ) 。 XI および X2 ( 原告・控訴人 ) の子である訴 Ⅱ 外 A ( 平成 18 年 8 月死亡 ) は , 平成 13 年 4 月 , 脳腫瘍のため訴外 B 病院に入院した。 A は手術 後も長期療養を必要としたため , 母である X2 は , 看 護学校の教員の仕事を辞めて A の看護に専念するこ とを決意した。退職に伴い経済的に苦しくなることが 予想されたため , X2 は同病院の医事課に相談し , 府 による支援の制度があり , 市が窓口となる旨の助言を 受けた。 X2 は , 同月 20 日 , Y ( 市。被告・被控訴人 ) の C センター ( 保健福祉総合センター ) 内の社会福祉課へ 行き , A が脳腫瘍で長期間療養しなければならず , X2 は仕事をすることができないので , 何か援助して もらえる制度はないかと尋ねたところ , 対応した Y の職員は「ないです。」と即答した。 X2 は , B 病院の 医事課に相談したことを伝えたうえで再度質問した が , 職員は再び「ないです。」と回答した。このため , X2 は , 援助の制度はないものと諦めて帰宅した。 X2 は , A が再入院した平成 18 年 2 月頃 , 本件手 当を扱う Y の担当部署を訪れ , 申請書類を受領した。 X らは同年 3 月に本件手当の受給申請をし , 同年 5 月 , A は本件手当 1 級の認定を受け , XI を受給者と して同年 4 月分から本件手当の支給が開始された。 X らは , Y の職員が本件手当についての教 示義務に違反したため本件手当を受けることが できなかったなどと主張して , Y に対し , 国家賠償 法 ( 以下 , 「国賠法」という ) 1 条 1 項に基づき , 平 成 13 年 5 月分から平成 18 年 3 月分までの本件手当 相当額 , 精神的苦痛に対する慰謝料およびこれらに対 する遅延損害金の支払を求めて提訴した。 原審 ( 大阪地判平成 25 ・ 1 ・ 10 判例集未登載 ) は , X2 の説明は本件手当の支給が考えられる事案である と認識させるような内容ではなく , Y の職員に本件 手当についての具体的な教示義務が発生していたとは いえないなどとして , X らの請求を棄却した。 X ら Ⅲ 原判決取消し , 請求認容。 が控訴。 判旨 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 107

7. ジュリスト 2016年8月号

商事判例研究 平成 26 年度 19 の社員に対する譲渡 医療法人出資持分の他 立教大学教授 東京大学商法研究会 松井秀征 Matsui Hideyuki 福岡高裁平成 26 年 3 月 26 日判決 平成 25 年 ( ネ ) 第 453 号 , 甲野太郎対医療法人社 団乙山会 , 社員権確認等請求控訴事件 / 判例時 報 2242 号 66 頁 / 参照条文 : 医療法 44 条 2 項・ 54 条 事実 員総会において Y の定款 ( 以下 , 「本件定款」という ) 摘されるに至り , 平成 22 年 6 月 14 日 , Y の臨時社 その後 X は , Y における自らの問題行為を複数指 は受けていない。 お , 本件贈与について , Y の社員総会における承認 長男 ) に贈与した ( 以下 , 「本件贈与」という ) 。な 額にかかる部分について , Y の社員である A (X の 年 12 月 2 日 , その出資持分のうち 8500 万円の出資 人で表面化した不正行為の責任をとるため , 平成 5 なった。 x は , 自らが理事長を務めていた社会福祉法 資金 9700 万円のうち 9500 万円を出資する社員と Y 医療法人社団 ( 被告・被控訴人 ) を設立し , 総出 医師である x ( 原告・控訴人 ) は , 平成元年 7 月 , 7 条に基づき除名された。そこで X は , 除名当時 , Y の出資総額 9700 万円のうち 9500 万円を有しており , その評価は純資産方式を採用すると 16 億 7688 万 5123 円になるとして , 同額の出資払戻請求等を行っ た。原審は , 本件贈与が有効であることを前提に X の請求について 8040 万円の限度で認容し , それ以外 の請求を棄却したため , x が控訴。 控訴審においては , 主に次の点カ竫点となった。す なわち , 医療法人の剰余金配当を禁じた医療法 54 条 との関係で , 出資持分の一部譲渡 ( 本件贈与 ) は可能 か。仮に可能とした場合 , 当該譲渡は本件定款 25 条 の「その他の重要な事項」に該当するものとして , 社 員総会の承認決議は必要か。そして , 出資持分の評価 をどのように行うべきか , である。 判旨 原判決変更 , 請求一部認容 ( 認容額 1 億 0080 万円 ) 。 「実務上 , 医療法人の社員がその出資持分を 他の社員に譲渡することが行われているので あって , 本件贈与のように , 出資持分の一部を他の社 員に譲渡する場合 , それは社員資格の変動を伴わず , この譲渡によって医療法人の資産が譲渡当事者に出資 持分の払戻として持ち出されるわけではないから , の譲渡が医療法 54 条に反するものであるということ はできず , 医療法及び Y の定款がこれを一切許容し ないものであるとまで解するのは相当でない。 件贈与は , X の不正行為によって Y の経営が破綻す るおそれがある中 , これを回避すべく行われたもので あり , むしろ , Y の存立基盤を安定させるために行 われたものであるから , この譲渡が医療法及び Y の 定款がこれを許容しないものであるということはでき ない。」 「 Y においては , 出資持分総額に占める割合 Ⅱ が高い出資持分を有する社員であっても一個の 議決権を有するにすぎないが , その社員が退社する場 合は , 出資持分の払戻を受けることができるのである から , Y にとって , 出資持分の譲渡は重要な問題で ある。すなわち , どの社員がどの程度の出資持分を有 しているかは Y の存立基盤に関わる事項であるから , 本件贈与に係る出資持分の一部譲渡は , 本件定款 25 条 8 号の「その他の重要な事項』に該当し , 社員総 会の議決を要するものと解すべきである。」 ・・・ X は , A に本件贈与をし , 「もっとも , [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 これに 95

8. ジュリスト 2016年8月号

ArticIe Special Feature 特集国際的租税回避への法的対応 弁護士 一般的租税回避否認規定の 適用が争われた裁判例 ー旧 M 事件とヤフー / 旧 CF 事件 伊藤剛志 は 0 Tsuyoshi を中間持株 I. はじめに 再編を行うこととし , 日本においては , 有限会 の中間持株会社を置くことによる子会社の組織 かけて , 事業上の主要な地域に地域又は国単位 IBM グループは平成 13 年から平成 16 年に 1 . 事案の概要 Ⅱ . 旧 M 事件 確定した。 がそれぞれ争われ , いずれも本年 2 月に判決が 組織再編成に係る行為・計算の否認規定の適用 の否認規定の適用が , ヤフー / IDCF 事件では のうち , IBM 事件では同族会社の行為・計算 性要件 ) である。近年 , かかる一般的否認規定 結果となると認められるもの」との要件 ( 不当 するのは , 「法人税の負担を不当に減少させる る 1)0 いずれの一般的否認規定においても共通 務署長に与える一般的否認規定を定めてい 準や欠損金額及び法人税額を計算する権限を税 の行為又は計算にかかわらず , 法人税の課税標 結果となると認められるものがあるときは , そ 得について , 法人税の負担を不当に減少させる 編成・連結法人・外国法人の恒久的施設帰属所 れた個別的否認規定のほか , 同族会社・組織再 避に対処するため , 具体的な適用対象が特定さ 法人税法 ( 以下「法」と略する ) は , 租税回 社アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディ ングス ( 以下「 IBMAP 」という ) [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 1 号括弧書 ) 。 IBMAP は米国法人からの購入価 の譲渡対価から除かれる ( 法 61 条の 2 第 1 項 した対価のうち , みなし配当の金額は有価証券 譲渡損益の計算にあたっては , IBMAP が受領 ない ( 法 24 条 1 項 4 号 2 ) ) 。一方 , 有価証券の についてはみなし配当となり , 益金に算入され 自己株式に対応する資本金等の額を超える部分 が受領した対価のうち , 日本 IBM が取得する IBM の自己株式取得に該当するから , IBMAP 本 IBM に対する日本 IBM 株式の譲渡は , 日本 業年度の損金の額に算入した。 IBMAP から日 額約 4000 億円の有価証券の譲渡損失額を各事 に譲渡 ( 以下「本件各譲渡」という ) して , 総 にわたって日本 IBM の株式の一部を日本 IBM 14 年 12 月から平成 17 年 12 月までの間 , 3 回 によって賄われた。 IBMAP は , その後 , 平成 う ) と準消費貸借 ( 以下「本件融資」という ) 該米国法人からの増資 ( 以下「本件増資」とい IBM の持株会社となった。その取得対価は当 して ( 以下「本件株式購入」という ) 日本 人から日本 IBM 等の発行済株式の全部を取得 は , 平成 14 年 2 月にその親会社である米国法 置くこととする組織再編を実施した。 IBMAP 式会社 ( 以下「日本 IBM 」という ) 等 4 社を 会社として , その下に日本アイ・ビー・エム株

9. ジュリスト 2016年8月号

Yanaga Masao ロ筑波大学教授 弥永真生 会社法判例速報 ロ東京地判平成 27 年 9 月 7 日 平成 26 年 ( ワ ) 第 26378 号 , 株式会社 CDM コンサルティング対 FBC 株式会社 , 株主総会決議無効確認等請求事件 , 判時 2286 号 122 頁 事実 「会社法 109 条 2 項は , 公開会社でない株式 会社は , 残余財産の分配を受ける権利 ( 105 条 Y ( 被告 ) の株主である X ( 原告 ) と Z ( 被告補助 1 項 2 号 ) に関する事項について , 株主ごとに異なる取 参加人 ) は , 平成 25 年 1 月 8 日 , 基本合意 ( 本件基 扱いを行う旨を定款で定めることができる旨規定する 本合意 ) を締結し「 X 及び X 社長 A は , 除染に関 し , それぞれが所有する知的財産権 ( ノウハウ , 営業 が , その趣旨は , いわゆる閉鎖会社においては , 株主の 異動力泛しく , 株主相互の関係が緊密であることが通 秘密等を含む。 ) の全てについて , 速やかに , Y に独 占的な専用実施権 ( 期間 3 年 ) を賦与する」と ( 第 3 常であることから , 株主に着目して異なる取扱いを認 めるニーズがあるとともに , これを認めることにより 項 ) , 「 Y の解散時における残余財産については , 現 預金その他の金融資産全てを Z が , 金融資産以外の 特段の不都合が生じることはないと考えられるためで 全ての財産を X がそれぞれ配分を受けるものとす あると解される。・・・・・・そうすると , 残余財産の分配に関 る。」と ( 第 6 項 ) , それぞれ定めていた。 する属人的な定めについて , 定款変更という形式がと その後 , Y は , 同年 11 月 20 日開催の株主総会に られなくても , 全株主が同意している場合などには , おいて , X が本件基本合意に基づく特許権の専用実 定款変更のための特殊決議があったものと同視するこ 施権を付与しなかったことから , Y の事業遂行が不 とができるし , 他に権利を害される株主がいないので 可能になったとして , Y を解散する旨の決議をした。 あるから , 会社法 109 条 2 項の趣旨に反するところ はなく , 有効であると解すべきである。 ( なお , このよう そして , Y は , 平成 26 年 6 月 30 日 , 同日時点の残 余財産である 7994 万 227 円のうち , X が支払請求を に解さないで , 前記の属人的な定めについて , 全株主が していた額の一部である 217 万 2687 円を留保した上 同意しているのに , 定款変更という形式がとられなかっ で , その余を , B (X から平成 25 年 2 月 26 日に Y たことのみをもって , その効力が否定されると解する の株式を譲り受けた ) 及び Z に対して残余財産とし ことは , 禁反言の見地から相当でないと思われる。 ) 」 て分配した。他方 , X は , Y に対し , 同年 7 月 4 日 「会社法 502 条は , 株主の残余財産分配請求 Ⅱ 到達の内容証明郵便により , X が Y に対して少なく 権が会社債権者に劣後するという本質的なこと とも 229 万 7220 円の債権を有している旨主張すると を明らかにする規定であり , 同条ただし書は , 迅速な ともに , X の保有する株式数に応じた残余財産の分 清算手続のために , 相当財産を留保することによって 配をするよう請求した。ところが , Y は , 同年 7 月 債権者が株主に優先することを確保した場合に限っ 10 日 , 留保していた財産も , B 及び Z に対して残余 て , 債務弁済前でも残余財産の分配を認めたものと解 される。すなわち , 同条ただし書は , 債権者の主張す 財産として分配し , 同日開催の臨時株主総会におい る債権の存否又は額について争いがあるにもかかわら て , 清算事務が終了したとして , 決算報告を承認する 旨の決議 ( 本件決議 ) をした。 ず , 清算会社においてこれがないものとして残余財産 そこで , X が , 本件決議が無効であることの確認 を分配した後に , 上記債権の存在及び額が確定した場 を求めるとともに , 残余財産の分配及び遅延損害金の 合には , 債権者の優先性が害されることとなるが , そ 支払を求めて訴えを提起したのが本件である。 のような事態を避ける趣旨であると解される。そうす なお , 平成 25 年 11 月 20 日時点の Y の株主は , X ると , 清算会社は , 清算会社に対する債権の存在を主 ( 1 万 8 開 0 株 ) , z ( 4 万株 ) , B ( 2000 株 ) であった。 張する者がいる場合には , 債権者が債権の存在及び額 についての根拠を全く示さないなどといった特段の事 判旨 情がない限り , その存否及び額が確定するまでは , 相 一部認容 , 一部棄却 ( 東京高判平成 28 ・ 2 ・ 10 金判 当財産を留保しない限り , 株主に対する残余財産の分 1492 号 55 頁により控訴棄却 ) 。 配を行ってはならず , その存否及び額を確定すること に努めるべきものと考えられる。」 2 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

10. ジュリスト 2016年8月号

のないものでなければならない ( 平成 10 年最 判参照 ) 」として , 平成 10 年最判の射程が本件 に及ぶことを明らかにした。その上で , 本件送 達が , Y が「現実に訴訟手続の開始を了知す ることができ , かっ , その防御権の行使に支障 のないもの」であったか否かにつき , 翻訳文添 付の要否という観点から , 「 Y は , 米国に在留 していたものの , 日常会話以上の語学能力 , 特 に文章の理解カ , 読解力が備わっていたのかは 疑問であ」る以上 , 「 Y は , 呼出状や訴状等を 受領していたが , これには日本語の翻訳文は添 付されていなかったのであるから , Y が理解 しうるものであったと認めることはできず , 当 該送達により , Y が現実に訴訟手続の開始を 了知することができ , かっ , その防御権の行使 に支障のないものであったということはできな い」として , 本件送達は民訴法 118 条 2 号所定 の要件を欠いていると判断した。 これに対して判決は , 「民訴法 118 条 2 号 の趣旨は , 外国裁判所の訴訟で勝訴した当事者 の権利保護を図りつつ , 訴訟制度の違いからく る敗訴被告の保護を図る点にあるから , 同号の 送達とは , その趣旨に照らし , 訴訟となった被 告が現実に訴訟手続の開始を了知することがで き , かっ , その防御権の行使に支障のない手続 である必要があるが , そのような手続であれ ば , これをもって足りると解すべきである ( 平 成 10 年最判参照 ) 」として , 平成 10 年最判の 射程が本件に及ぶことを前提とする点では第 1 審判決と考え方を同じくしつつ , 本件において Y が「現実に訴訟手続の開始を了知すること ができ , かっ , その防御権の行使に支障のな い」ような態様で送達を受けたか否かについ て , 「 Y は , 米国において , 語学学校に通い , その間 , 就労し , 音楽活動をするなど , 英語を 用いてコミュニケーションを図る能力を有して おり , 英語によるある程度の表現能力を有して いた上 , 本件送達を受けるより前に裁判所に出 頭した経験も有しており , カリフォルニア州法 に基づき受送達者に直接書類を交付する直接送 達という方法で送達書類の送達を受け , 本件外 連載 / 国際ピジネス紛争処理の法実務 国訴訟の訴状が X との間の本件事故に関する 書類であることを認識したというのであるか ら , たとえ・・・・・・本件送達に際して , 日本語翻訳 文が添付されていなかった事実を考慮しても , 本件外国判決に係る本件送達は , Y が現実に 訴訟手続の開始を知ることができ , かっ , その 防御権の行使に支障がない手続であったものと 評価することができるというべきである」とし て , 本件に顕出した事実を総合考慮した上で , 第 1 審判決と異なり , 本件送達は民訴法 118 条 2 号の要件を満たすものと結論付けた。 乢実務上の留意点と課題 1 . 実務上の留意点 (1) 翻訳文の添付 第 1 審判決は , Y の語学能力を検討しつつ , Y の語学能力からすれば翻訳文の添付が必要 であったにもかかわらず , これが添付されてい なかった以上 , 本件送達により , Y が現実に 訴訟手続の開始を了知することができ , かっ , その防御権の行使に支障のないものであったと いうことはできないとして , 翻訳文の添付の有 無を争点としている。 確かに , 民訴法 118 条 2 号上の「送達」該当 性の判断に際し , 翻訳文の添付を要求する裁判 例も散見されるところである ( 東京地判平成 2 ・ 3 ・ 26 金判 857 号 39 頁 , 東京地八王子支判 平成 9 ・ 12 ・ 8 判タ 976 号 235 頁等 ) 。 しかしながら , これらの裁判例は , いすれも ハーグ送達条約の締約国である外国の裁判所に 提起された訴訟に関し , 日本に居住する受送達 人に対して送達を実施する事案についてのもの であり , ハーグ送達条約の適用が前提となるも のである。そして , 送達条約上 , 我が国が直接 郵送について拒否宣言をしなかったことによ り , 直接郵送によって送達が実施された場合の 民訴法 118 条 2 号該当性が問題となり , 翻訳文 の要否が検討されているものと考えられる。他 方 , 本件のように外国内で完結する送達手続に ついては , 平成 10 年最判等の事案とは異なる こと , 日本国内の訴訟手続において翻訳文の添 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496