反社会的勢力 - みる会図書館


検索対象: ジュリスト 2016年8月号
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1. ジュリスト 2016年8月号

最高裁時の判例 引約定書に盛り込むべき反社会的勢力排除条項 判旨 の参考例を公表し , 全国信用保証協会連合会も 信用保証協会と金融機関との間で保証 信用保証委託契約書に盛り込むべき反社会的勢 契約が締結され融資が実行された後に主 カ排除条項の参考例を公表した。もっとも , 金 債務者が反社会的勢力であることが判明した場 融機関と信用保証協会との間で結ばれた信用保 証に関する基本契約書 ( その内容は , 信用保証 合において , 上記保証契約の当事者がそれぞれ の業務に照らし , 上記の場合が生じ得ることを 協会連合会が昭和 38 年に作成 , 公表した約定 書例に準拠したものである ) 及び個別の保証書 想定でき , その場合に信用保証協会が保証債務 を履行しない旨をあらかじめ定めるなどの対応 には主債務者が反社会的勢力であった場合の保 を採ることも可能であったにもかかわらず , 上 証契約の効力等について定めた規定は置かれて 己当事者間の信用保証に関する基本契約及び上 ーうした中で , 信用保証協会と金融機 し、なし、。 己保証契約等にその場合の取扱いについての定 関との間で本件と同種の訴訟が多く係属し , 高 めが置かれていないなど判示の事情の下では , 裁において , 保証契約の錯誤無効を認めるもの 主債務者が反社会的勢力でないことという信用 と認めないものとに判断が分かれていた。 保証協会の動機は , 明示又は黙示に表示されて 1 主債務者が反社会的勢力であるか Ⅱ いたとしても , 当事者の意思解釈上 , 上記保証 否かという問題は , 当然に保証契約の内 契約の内容となっていたとは認められず , 信用 容をなすものとはいえないが , 以上で述べた企 保証協会の上記保証契約の意思表示に要素の錯 業活動からの反社会的勢力の排除の取組等に鑑 みると , 保証契約の締結や融資の実行前に主債 誤はない。 金融機関が , 主債務者が反社会的勢力 務者が反社会的勢力であることが判明した場合 Ⅱ であるか否かについて相当な調査をすべ に , 保証契約が締結されたり , 融資が実行され きであるという信用保証協会との間の信用保証 たりすることはなかったといえるから , 保証契 に関する基本契約上の付随義務に違反して , そ 約が締結され , 融資が実行された後になって , の結果 , 反社会的勢力を主債務者とする融資に 主債務者が反社会的勢力であることが判明した 場合には , 信用保証協会の意思表示に動機の錯 ついて保証契約が締結された場合には , 上記基 本契約に定められた保証債務の免責条項にいう 誤があると解される。 金融機関が「保証契約に違反したとき」に当た 2 学説上 , 民法 95 条の錯誤は , 原則として 「表示錯誤 ( 表示行為の錯誤 ) 」に限られ , 「動 る。 機の錯誤」は例外的な場合を除き , これに含ま 解説 れないとする二元論と , 動機と意思とは同質の 連続した心理的意識状態であり , 現実にはそれ 1 反社会的勢力とは , 一般的には暴 らの限界を画することは困難であるとして , 力団員やその周辺で活動している者を指 「表示錯誤」も「動機の錯誤」も同条の錯誤に す概念である。企業活動から反社会的勢力を排 含まれるとする一元論とがあるが , 判例は , 基 除する取組は , 平成 19 年に政府が「企業が反 本的に二元論に立つものと理解され , 現在国会 社会的勢力による被害を防止するための指針」 を策定 , 公表したのを皮切りに , 政府 , 地方公 に提出されている民法の一部を改正する法律案 においても , 判例法理を規定上明確にするとの 共団体が中心となって強力に推進され , 各業界 考え方の下に表示錯誤と動機の錯誤 ( 事実錯 がこれに呼応する形で , それぞれの取組を進め 誤 ) とを分けて考える二元論が採用されてい ているところである。 2 そうした取組の一環として , 平成 20 年か る。 3 ( 1 ) いかなる場合に , 動機の錯誤が民法 ら平成 21 年にかけて , 全国銀行協会が銀行取 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 73

2. ジュリスト 2016年8月号

95 条の錯誤として意思表示の無効を来すかに ついて , 判例は , 一般論として述べるときは , 「動機が表示されて意思表示 ( 法律行為 ) の内 容となっていた」場合でかっそれが要素の錯誤 に当たる場合であるとしている ( 最二小判昭和 29 ・ 11 ・ 26 民集 8 巻 11 号 2087 頁 , 最二小判 昭和 45 ・ 5 ・ 29 判時 598 号 55 頁 , 最ー小判平 成元・ 9 ・ 14 判時 1336 号 93 頁 ) 。しかし , 個々の判例の表現振りにはバリエーションがあ り , その理解の仕方についても , 動機が表示さ れているか否かを重視する立場 ( 相手方の信頼 を保護するという信頼主義的アプローチ ) と動 機が意思表示 ( 法律行為 ) の内容になっている かどうかを重視する立場 ( 当事者がした合意を 尊重するという合意主義的アプローチ ) との対 立を反映して見解の対立があるところである。 ②もっとも , 判例を全体としてみた場合 に , 動機が表示されさえすれば , 常に要素の錯 誤として意思表示の無効を来すことを認める立 場を採っているわけではなく , 上述した動機の 錯誤に関する一般論を述べつつも , 実質的に は , 問題となる契約類型 , 契約当事者の属性 , 錯誤の対象となった事項等の諸事情を踏まえ て , 動機の錯誤がある表意者と相手方のいずれ を保護するのが相当であるかという衡量が働い ているのではないかと考えられる。 4 (1) 本判決も , 前記の一般論を述べた上 で , 表意者の動機が法律行為の内容とされたか 否かは , 当事者の意思解釈によって決まるもの とした。 そして , ①保証契約の基本的な性格・内容に 加え , ②保証契約の当事者の属性 ( いわゆるプ ロ同士の間の契約であること ) に照らして主債 務者が反社会的勢力であることが事後的に判明 する場合が生じ得ることを想定でき , かっ , そ のような事態が生じた場合の取扱いを取り決め るなどの対応を採ることも可能であったにもか かわらず , そのようなことがされていなかった ことに鑑みて , 主債務者である A 社が反社会 的勢力でないという点に誤認があったことが事 後的に判明した場合に保証契約の効力を否定す [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 ることまでを Y 及び X 銀行の双方が前提とし ていたとはいえず , 当事者の意思解釈上 , この 点についての Y の動機が , 保証契約の内容と なっていたとはいえないとして , Y による保 証契約の錯誤無効の主張を排斥した。 ②本件のような事案において保証契約の 錯誤無効を認める裁判例は , 信用保証協会と金 融機関との間の信用保証契約において , 主債務 者が反社会的勢力でないことは , 信用保証契約 の当然の前提であり , かっ , ( この前提が崩れ れば信用保証契約は締結されなかったといえる から ) この点の錯誤は要素の錯誤に当たるとす るものである。これらの裁判例は , 結果的にせ よ , 反社会的勢力が信用保証を利用することが できるとすると , その資金需要を公的資金に よって担保することになり , 社会正義に反する という政策判断が背景にある。しかし , 保証契 約の基本的な性格や契約前の審査で反社会的勢 力が主債務者となることを完全に排除すること は実際上極めて困難であるという観点から , 保 証契約締結後に主債務者が反社会的勢力である ことが判明した場合に「反社会的勢力の資金需 要を公的資金によって担保することになる事態 を避けるべき」ということのみから保証契約を 無効としてそのリスクを全て金融機関側だけに 負担させることを正当化するのは難しいという 趣旨の指摘も多くされていたところであり , 本 判決の判断の背景には , 後者の指摘と同様の認 識があることが窺われる。また , 本判決は , 補 充的にではあるが , 保証契約が締結され融資が 実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力 であることが判明した場合には , 既に上記主債 務者が融資金を取得している以上 , 信用保証協 会と金融機関との間で保証契約の効力を争うよ りも , 社会的責任の見地から , 債権者と保証人 において , できる限り上記融資金相当額の回収 に努めて反社会的勢力との関係の解消を図る方 が先決ではないかという政策判断も示唆してい る。 1 本判決は , 他方で , 本件基本契約 Ⅲ 上の付随義務として , 金融機関及び信用

3. ジュリスト 2016年8月号

民事 「保証契約に違反したとき」に当たる場合 約に定められた保証債務の免責条項にいう 金融機関との間の信用保証に関する基本契 勢力であったときにおける信用保証協会と 金融機関による融資の主債務者が反社会的 思表示に要素の錯誤がないとされた事例 合において , 信用保証協会の保証契約の意 者が反社会的勢力であることが判明した場 が締結されて融資が実行された後に主債務 1. 信用保証協会と金融機関との間で保証契約 2. 日 / 第 2 審・東京高判平成 26 年 3 月 12 日 28 頁 ( 民集登載予定 ) / 第 1 審・東京地判平成 25 年 4 月 24 平成 26 年 ( 受 ) 第 1351 号 , 保証債務請求事件 / 金判 1489 号 最高裁平成 28 年 1 月 12 日第三小法廷判決 Tobisawa Tomoyuki 最高裁判所調査官飛澤知行 事実 本件は , 信用保証協会 Y ( 被告・控訴 人兼附帯被控訴人・上告人 ) と保証契約 を締結していた X 銀行 ( 原告・被控訴人兼附 帯控訴人・被上告人 ) が , Y に対し , 同契約 に基づき , 保証債務の履行を求める事案であ る。これに対し , Y は , X 銀行の融資の主債 務者である A 社は反社会的勢力であり , ①こ のような場合には保証契約を締結しないにもか かわらず , そのことを知らずに同契約を締結し たものであるから , 同契約は要素の錯誤により 無効である , ② X 銀行には保証契約違反があ るから , Y と X 銀行との間の信用保証に関す る基本契約 ( 以下「本件基本契約」という ) の 定める免責事由に該当し , Y は , 前記保証契 約に基づく債務の履行を免れる , と主張して 争った ( なお , 以下において , Y の 2 つ目の 主張を「保証免責の抗弁」ということがある ) 。 事実関係の概要は次のとおりである。 Ⅱ 1 X 銀行と Y は , 昭和 41 年に約定 書と題する書面により本件基本契約を締結し た。本件基本契約には , X 銀行が「保証契約 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 72 に違反したとき」は , Y が X 銀行に対する保 証債務の履行につき , その全部又は一部の責め に , 本件を原審に差し戻した。 破棄し , 同抗弁ついてさらに審理させるため 解釈適用を誤った違法があるとして , 原判決を るが , 保証免責の抗弁についての判断に法令の として錯誤無効の抗弁を排斥した点は是認でき ち Y に要素の錯誤があったとは認められない た上 , 判旨のとおり判示して , 原審の判断のう り , 第三小法廷は , 本件を上告審として受理し これに対し , Y から上告受理の申立てがあ を認容すべきものとした。 の抗弁も認められないとして , X 銀行の請求 条件とされていたとはいえない以上 , 保証免責 た , 主債務者が反社会的勢力でないことが保証 表示に要素の錯誤があったとはいえないし , ま であったからといって , Y の保証契約の意思 約の締結及び融資の実行当時から反社会的勢力 おいて , 主債務者である A 社が保証契 Ⅲ 原審は , 以上のような事実関係の下に とが判明した。 であること , すなわち , 反社会的勢力であるこ を務めてその経営を実質的に支配している会社 いて , 暴力団員である B が同社の代表取締役 3 前記の各貸付けが行われた後 , A 社につ 定めは置かれていなかった。 であることが判明した場合の取扱いについての いても , 契約締結後に主債務者が反社会的勢力 契約を締結した。これらの個別の保証契約にお で , A 社の借入債務を連帯して保証する旨の Y は , それぞれの貸付けの際 , X 銀行との間 借契約を締結し , 合計 8000 万円を貸し付けた。 けて , A 社との間で 3 回にわたり金銭消費貸 2 X 銀行は , 平成 20 年から平成 22 年にか 置かれていなかった。 ことが判明した場合の取扱いについての定めは 証契約締結後に主債務者が反社会的勢力である 下 , この定めを「本件免責条項」という ) , 保 を免れるものとする旨が定められていたが ( 以

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最高裁時の判例 保証協会の双方に主債務者が反社会的勢力であ 責の成否についての考え方を示したものとし て , 実務上参考になると思われるので , 紹介す るか否かを調査すべき義務があることを明らか にした ( なお , 当事者の一方が , 保証契約の締 る次第である。 結や融資の実行前に , 主債務者が反社会的勢力 であることを把握していた場合には , これを他 方当事者に知らせて , 保証契約の締結や融資の 実行をしないようにすべき義務があることは言 を俟たないであろう ) 。もっとも , 信用保証制 度を利用して融資を受けようとする者が反社会 的勢力であるか否かを調査する有効な方法は , 実際上限られている。このため , 本判決は , 調 査の程度について , 調査の時点において一般的 に行われている調査方法等に鑑みて相当と認め られるものであればよいとして , 高度の調査義 務は課していない ( なお , 本件の差戻し後の控 訴審〔東京高判平成 28 ・ 4 ・ 14 金判 1491 号 8 頁〕は , X 銀行が行った調査について , 政府 関係機関による指針等の内容に照らして , その 時点において一般的に行われている調査方法等 に鑑みて相当と認められるから , X 銀行に調 査義務違反は認められないとして , Y の保証 免責の抗弁を排斥しているが , 調査義務違反の 有無の具体的な判断の在り方を示す事例として 参考になると思われる ) 。 2 そして , 本判決は , 金融機関に前記の意 味での調査義務違反が認められ , その結果 , 保 証契約が締結されたといえる場合には , 本件免 責条項にいう「保証契約に違反したとき」に該 当し , 信用保証協会が , 同条項により保証契約 に基づく保証債務の履行の責めを免れるとの判 断を示した。ただし , 免責の範囲を決めるに当 たっては , 信用保証協会の調査状況等も勘案す るとして , 一部免責の可能性もあり得ることを 示唆した。これは , 比喩的にいえば , 過失相殺 的な処理も可能であることを示唆したものと考 えられる。 本件は , 事後的に主債務者が反社会的 Ⅳ 勢力であることが判明した場合に関し , 高裁での判断が分かれていた金融機関と信用保 証協会との間の保証契約の錯誤無効の成否につ いての事例判断を示すとともに , 新たに保証免 一三 75 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

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Contents Page 国際ビジネス紛争 処理の法実務 第 5 回 国際送達 INTRODUCTION 国際送達 外国判決の承認要件としての送達 消契法・特商法改正法の成立②ー特商法改正 霞が関インフォ 民事匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利 最高裁時の判例 益の分配と所得区分の判断ほか 最ニ小判平成 27 ・ 6 ・ 12 民事信用保証協会と金融機関との間で保証契約が 締結されて融資が実行された後に主債務者が反社会 的勢力であることが判明した場合において , 信用保証協 会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされ た事例ほかー最三小判平成 28 ・ 1 ・ 12 民事民法 910 条に基づき価額の支払を請求する場 合における遺産の価額算定の基準時ほか 最ニ小判平成 28 ・ 2 ・ 26 刑事密輸組織が関与する覚せい剤の密輸入事件に ついて , 被告人の故意を認めず無罪とした第 1 審判決に 事実誤認があるとした原判決に , 刑訴法 382 条の解釈 適用の誤りはないとされた事例 ー最ー小決平成 25 ・ 1 0 ・ 21 刑事覚せい剤の密輸入事件について , 共犯者供述 の信用性を否定して無罪とした第 1 審判決には事実誤 認があるとした原判決に , 刑訴法 382 条の解釈適用の 誤りはないとされた事例ー最ー小決平成 26 ・ 3 ・ 10 6 7 0 6 5 5 6 6 昌郎薫ニ 正 啓和 田色松上 古一高河 人宏 正芳 内取 垣高 道 清水知恵子 68 飛澤知行 72 畑佳秀 76 矢野直邦 81 矢野直邦 84

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協調的行動が生じやすい市場における 企業結合審査 る対象外 3 種に関しては , 日本製紙との情報遮断措 置の申出 ( 問題解消措置の申出ではない ) も踏まえ , ( 結合関係の強弱 , 議決権保有比率の多寡 , 結合関係 の下での内発的牽制力といった結合関係に関する実質 面の検討をしないまま ) 重点審査の対象から外したも のとみられる。なお , 上記⑤の結合関係に関連して , 理論的には当事会社間の本件 7 種以外の重複商品の 水平競合等も審査対象となりうるが公表文では言及さ れていない。 乢市場画定と供給の代替性 公取委は , 上記③ , ④及び⑤の結合関係の発生に関 連して対象 4 種の審査を行った。まず , 市場画定に 際し , 対象 4 種のうち , 重袋用両更クラフト紙及び 一般両更クラフト紙について , 製紙業者が 1 台の抄 紙機で複数の品種の包装用紙を併抄して製造している 実態に照らし , 一部の包装用紙との「一定の供給の代 替性」を認めつつも , 結論として , 他の包装用紙と一 体での商品範囲の画定は行われなかった。供給の代替 性を商品市場の画定に際して重視せず , 隣接市場から の競争圧力又は参入圧力として評価できるか否かを検 討する , という傾向は , 王子案件やジンマーとバイオ メットの統合の件 ( 平成 27 年 3 月 25 日発表 ) など 近時顕著にみられる。 Ⅳ . 協調的行動による競争の実質的制限 ー王子案件との比較 王子案件と本件とは , 同一業界における時期的にも 近接した案件であり , 一斉価格改定という行動パター ンが存在する中での企業結合の実行がその後の各事業 者の行動 ( 特に協調的行動 ) に及ばす影響が重要な論 点となった点で共通するが , 競争の実質的制限の可能 性に関しては真逆の結論となった。本件では単独行動 と協調的行動による競争の実質的制限の可能性の検討 に際しての考慮要素が並列的に列挙され , 最後にそれ らを総合考慮した結論が述べられているのみであるた め , 本件においていかなる考慮要素がどの程度重視さ れたのかは明らかでない。ただ , 両案件の公表文を丹 念に比較すれば , (a) 両案件における製紙業者各社の 供給余力の捉え方の違いや (b) 王子案件で公取委が述 べた所見 ( 供給余力があるとしても他社の市場シェア を奪う競争行動が期待できない ) が本件の対象 4 種 に当てはまらなかったことが結論を左右したとの推測 が可能である。以下詳述する。 まず , ( a ) の供給余力の捉え方につき , 本件では同 ーの抄紙機で様々な紙を併抄でき特定の種類の紙の生 産量を機動的に増やすことが可能であることも踏まえ て対象 4 種のうち 3 種 ( 残り 1 種はセーフハーバー 該当のため検討されず ) につき当事会社も含む各事業 者の供給余力の存在が認定された。一方 , 王子案件で は , 王子グループに供給余力は一定程度存在するが製 紙業者各社の供給余力は総じて限定的と認定されてお り , 結論が異なるほか , 認定に際して本件のように併 抄可能性が考慮された形跡はみられない。 もっとも , ( b ) の王子案件の所見が本件にもあては まれば , 供給余力の存在はさして意味を持たないまま に競争の実質的制限の可能性が肯定される可能性も高 かった。王子案件では , 製紙業界全般につき「供給余 力があったとしても〔中略〕寡占度が一層高まった市 場において , 取引量を拡大しようとするような行動が これまで以上に採られるようになるとは考えられな い」 , 更に本件には登場しない一部の商品については 「供給余力があるとしても , 当事会社の価格が引き上 がったときに , 競争事業者が当該供給余力を活用して 競争的行動に出ることは期待できない」との記述が あったからである。企業結合に伴う競争単位減少と寡 占度上昇があれば通常は一斉価格改定をよりやりやす くなる方向に針が振れるのが通常と思われるが , 本件 にはこれら王子案件の各記述と同等の記載はなく , む しろー般両更・重袋用両更クラフト紙につき「競争事 業者の中には , 供給余力を解消すべく , 販売強化を図 るとしているものが存在」するとされていた。本件で は販売強イヒによる競争行動の可能性が当事会社や製紙 業者各社の供給余力の存在その他の事情とあいまっ て , 企業結合に伴う競争単位減少と寡占度上昇があっ てもなお , 一斉価格改定がよりやりやすくなるとは言 えないとの結論に至ったものと考えられる。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 7

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得 , 納税額といった数値や経済活動のグローバ ル配分に関する情報を ( 究極の親会社が所在す る国の課税当局に ) 提出することが義務付けら れる。そして , 提出された国別報告書は , 条約 を通じた情報交換によって関係国に提供され , 移転価格等のリスク検証に用いられることと なった 10 ) 。 2. バナマ文書公表を受けて こうしたプロジェクトがすでに推進される 中 , パナマ文書の公表に対する国際社会の反応 は , これらの取組の着実な実施および参加国拡 大を呼びかけることがまずは中心となった。 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議声明 ( 2016 年 4 月 14 ー 15 日 ) は , G20/OECD BEPS パッ ケージおよび国際的に合意された透明性に係る 基準の実施の重要性について「再確認」をし た。そして , 「自動的情報交換に係る基準を ・・・実施することにコミットしていない・・・・・・全 ての関係する国に対して , 遅滞なくコミットす ること及び多国間条約に署名することを求め る」とともに , 「全ての国・地域が自らのグ ローバル・フォーラムのレーティングを , 満足 な水準まで改善することを期待する」と宣言し 0 その上で , 「 OECD に対し , G20 諸国と協力 しつつ , 我々の 7 月会合までに税の透明性に関 する非協力的地域を特定するための客観的基準 をつくることを課す」としたことが重要であろ う。さらに , 「仮にグローバル・フォーラムの 評価によって進捗が見られなければ , G20 諸国 による非協力的地域に対する防御的措置が検討 10 ) OECD, ル an ザド海〃 D 。硼襯劭加れ and C 側加ヴ - - C04 加ヴ火 0 加 g , Action 13 ー 2015 Final Report, OECD/ G20 Base Erosion and Profit Shifting Project ( 2015 ). 11 ) タックスへイプンに対する国際社会 ( 特に OECD) のアプローチについては , 増井良啓「 Havens ⅲ a storm を 読む一一「有害な税の竸争」をめぐる言説の競争」租税研究 720 号 ( 2 開 9 年 ) 264 頁参照。 12 ) 実質的所有者は , FATF 勧告用語集により , 次のよ 特集 / 国際的租税回避への法的対応 される」と述べ , 「非協力的地域」に対する 「防御的措置 (defensive measures) 」を検討す る可能性が示されている。具体的な方策は明ら かにされていないものの , 「制裁 (sanctions) 」 に言及した G20 ロンドン・サミット首脳声明 ( 2009 年 4 月 2 日 ) を想起させるものであっ 加えて , 同声明は , 「法人及び法的取極めの 実質的所有者 (beneficial ownership) 12 ) 情報の 透明性の改善」が , 「国際金融システムの清廉 性を守り , これら法人及び法的取極めが , 腐 敗 , 租税回避 , テロ資金供与 , マネーロンダリ ングの目的で悪用されることを防止するため に , 極めて重要である」という認識を改めて示 し , マネーロンダリングに関する金融活動作業 部会 (FATF) による法人および法的取極め (legal arrangements) の透明性および実質的 所有者に関する勧告 13 ) を全ての国・地域が完 全に履行することの重要性を再認識している。 たとえ金融口座情報の ( 自動的 ) 情報交換が進 められても , 法人および ( 信託のような ) 法的 取極めに係る実質的所有者を把握する手段が限 られていては , その実効性は大きく損なわれる ことになろう。 本稿の関心からは , 「 FATF 及び税の透明性 と情報交換に関するグローバル・フォーラムに 対し , 我々の 10 月会合までに , 実質的所有者 情報の入手可能性 , 及びその国際的な交換を含 む , 透明性に関する国際基準の履行改善のため の方法についての初期提案を提示することを求 める」としている点が注目に値する。なお , イ ギリス , フランス , ドイツ , イタリアおよびス うに定義されている。 「実質的所有者とは , 顧客を究極的に所有又は支配する自 然人 , そして / または実施される取引の利益を受ける自然人 のことを指す。法人または取極めの究極的な実効的支配を行 使するこれらの者を含む。」 13 ) FinanciaI Action Task Force, 加川 i 記 & 4 れイホ 0 れ Co 川″〃 g 財 0 〃ん 4 ″〃施ド加 g and ビ F 加れ c 加 g 花な 0 ′な川 & ro / ifera 〃 0 れ ( 2012 ) , R. 33 and R. 34. [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 21

8. ジュリスト 2016年8月号

注目される。 なお , 本件では地公災法上の遺族補償年金が問題と なったが , 遺族厚生年金 ( 厚年 59 条 ) , 労災保険法 及び国家公務員災害補償法上の遺族補償年金 ( 労災 16 条の 2 , 同附則 43 条 , 国公災 16 条 ) が同種の要 件を定めており , 本件訴訟にかかる判決の射程は広い ものとなりうる ( ただし , Ⅱで論じる給付の性格に関 連して , 災害補償の性格をもたない遺族厚生年金につ いては議論を分ける考え方がありえよう ) 。以下 , 判 旨に沿って検討を行う。 判旨は , 遺族補償年金を社会保障制度と性格 Ⅱ づけた上で ( 判旨 I ) , 堀木訴訟・国籍要件違 憲訴訟・学生無年金訴訟にかかる最高裁判決を引用し つつ , 本件区別について立法府の広い裁量が認められ るとして , 緩やかな違憲審査基準を採用する ( 判旨 Ⅱ ) 。堀木訴訟最判以来 , 裁判所は , 社会保障立法に つき , 憲法 25 条との関係での広い立法裁量を前提と して , 憲法 14 条との関係でもごく緩やかな審査基準 を採用する立場をとってきた。本判決は , こうした従 来の判例・裁判例の立場を踏襲するものといえる。 この点 , 原判決は , 遺族補償年金を「一種の損害賠 償制度」と性格づけ , 堀木訴訟最判等を引用せずに憲 法 14 条との関係でのみ判断を行っていた ( ただし , 制度の社会保障的性質にも言及して違憲審査基準を緩 和した ) 。このような原判決の議論に見られるように , 遺族補償年金につき損害賠償 ( 補償 ) 的性格を強調す ることは , 本件を堀木訴訟最判の射程外におく可能性 をひらく。また , 学説には , 損害補償であれば損害を 被る遺族に受給資格を与えることが標準的な制度設計 となるはずで , そこから逸脱する制度設計については 厳格な違憲審査が行われる余地があるとする立場もあ る ( 坂井岳夫〔判批〕社会保障百選〔第 5 版〕 15 頁 ) 。 もっとも , 判旨 I も指摘する給付の年金化 , さらに通 勤災害制度の導入 ( 昭和 48 年 ) を経た労災・公務員 災害補償制度が社会保障の性格を色濃く有することは 否定できず , 遺族補償年金の性格に関する判旨 I の議 論自体は自然なものと思われる ( 判旨の引用では省略 したが , 本判決も「従たるもの」として同制度の損害 補償的性格を認めており , この点にも異論はない ) 。 1 しかしながら , 遺族補償年金を社会保障 Ⅲ 制度と性格づける立場に立ったとしても , 以下 の 2 点において , 本件を堀木訴訟最判及びそれ以降 の判例・裁判例の流れの中で論じることには疑問があ 労働判例研究 る。本件では上記のとおり 3 つの判例が参照されて おりそれぞれに事案・問題状況が異なっているが , 以 下 , 特に堀木訴訟最判との違いに注目して議論する。 まず , 本件区別が性別による異なる取扱いであるこ とに注目すべきである。堀木訴訟は複数の社会保障給 付の併給調整ーーすなわち , ある社会保障給付の支給 要件における , 別の社会保障給付を受ける地位にある 者とそのような地位にない者との異なる取扱い - ーーが 問題となった事案であり , このような区別は , まさに 社会保障制度の構築に関して立法府カ陏する政策的判 断の範囲内と見る余地があった。これに対して本件で は , 憲法 14 条 1 項後段列挙事由であるところの性別 を直接に基準として支給要件を区別することの是非が 問われており , 併給調整とは問題の性格が異なる。な お , 判例は 14 条 1 項後段列挙事由を例示と提え , 特 別な違憲審査基準を採用していないが ( 最大判昭和 39 ・ 5 ・ 27 民集 18 巻 4 号 676 頁ほか ) , 憲法 14 条に 関する近年の最高裁判決は , 非嫡出子という「自らの 意思や努力によっては変えることのできない・・・・・・事 柄」により国籍取得の要件に区別を設けることについ て「慎重に検討」する必要性を指摘し , 違憲審査の厳 格化を導いた ( 最大判平成 20 ・ 6 ・ 4 民集 62 巻 6 号 1367 頁。同判決に付された泉徳治裁判官の補足意見 も参照 ) 。 2 本件を堀木訴訟最判の枠組みで議論すべきでな いと評釈者が考える 2 つめの理由は , 本件において , 社会保障立法と憲法 14 条の関係について , 堀木訴訟 には見られなかった重要な問題が提起されていること である。 社会保障立法は , 現存するニーズを何らかの基準に より画定し , 給付要件・給付水準の形で規定する。 のとき , 所得保障の分野におけるニーズは雇用関係の 裏返しとして存在することが多いため , 雇用関係にお ける差別的慣行の存在が , 社会保障の対象とするニ ズを作り出す , あるいは増大させることがある。この ような状況で , 社会保障立法が , 対象とするニーズの 背景にある差別にどの程度敏感でなければならないの かが問題となる。本件に即していえば , 判旨Ⅲが説く ように , 女性を賃金や雇用形態との関係で男性に比べ て劣位に置く雇用社会の現実が , 遺族補償年金に関す る一一一男性に比してより大きな ーズを女性に生 じさせていると考えられる場合に ( ただし , 判旨Ⅲの 議論が十分に説得的と思われないことはⅣで論じる ) , [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 105

9. ジュリスト 2016年8月号

1 「本件手当に関しては , 受給資格者が認定 の請求をした日の属する月の翌月から支給を開 始し , 災害その他やむを得ない理由により認定の請求 をすることができなかったときでない限り , 請求をす る前に遡って支給することはしないといういわゆる認 定請求主義ないし非遡及主義が採用されている。この ように受給資格者の請求を前提とする社会保障制度の 下においては , 受給資格がありながら制度の存在や内 容を知らなかったために受給の機会を失う者が出るよ うな事態を防止し , 制度の趣旨が実効性を保つことが できるよう , 制度に関与する国又は地方公共団体の機 関は , 当該制度の周知徹底を図り , 窓口における適切 な教示等を行う責務を負っているものというべきであ る。もっとも , 制度の周知徹底や教示等の責務が法律 上明文で規定されている場合は別として , 具体的にい かなる場合にどのような方法で周知徹底や教示等を行 うかは , 原則として , 制度に関与する国その他の機関 や窓口における担当者の広範な裁量に委ねられている ものということができるから , 制度の周知徹底や教示 等に不十分な点があったとしても , そのことをもって 直ちに , 法的義務に違反したものとして国家賠償法上 違法となるわけではないというべきである。」 2 「ただし , 社会保障制度が複雑多岐にわたって おり , 一般市民にとってその内容を的確に理解するこ とには困難が伴うものと認められること , 社会保障制 度に関わる国その他の機関の窓口は , 一般市民と最も 密接な関わり合いを有し , 来訪者から同制度に関する 相談や質問を受けることの多い部署であり , また , 来 訪者の側でも , 具体的な社会保障制度の有無や内容等 を把握するに当たり上記窓口における説明や回答を大 きな拠り所とすることが多いものと考えられることに 照らすと , 窓口の担当者においては , 条理に基づき , 来訪者が制度を具体的に特定してその受給の可否等に ついて相談や質問をした場合はもちろんのこと , 制度 を特定しないで相談や質問をした場合であっても , 具 体的な相談等の内容に応じて何らかの手当を受給でき る可能性があると考えられるときは , 受給資格者がそ の機会を失うことがないよう , 相談内容等に関連する と思われる制度について適切な教示を行い , また , 必 要に応じ , 不明な部分につき更に事情を聴取し , ある いは資料の追完を求めるなどして該当する制度の特定 に努めるべき職務上の法的義務 ( 教示義務 ) を負って いるものと解するのが相当である。そして , 窓口の担 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 108 当者が上記教示義務に違反したものと認められるとき は , その裁量の範囲を逸脱したものとして , 国家賠償 法上も違法の評価を受けることになるというべきであ る。」 1 C センターは Y の社会福祉を担当する部 署として本件手当に関与する機関であったと認 められること , X2 の発言内容からは , 脳腫瘍に罹患 した子の母親として経済面での公的援助を必要として いることが明らかであること , 認定基準等によれば脳 腫瘍に罹患した児童は本件手当の対象となる可能性が 高いといえることなどの事情からすれば , 「たとえ X2 の具体的な質問が , 長期療養や長期入院を必要とする 病気となった子を扶養する者への援助の制度の有無を 尋ねるものであったとしても , X2 の相談の趣旨が経 済的な援助を受けたいとすることにあったことは明ら かであり , かっ , その相談内容に照らして , 脳腫瘍に 罹患した A が本件手当の対象となる可能性が相当程 度あったものと考えられるから , X2 の相談を受けた 窓口の担当者としては , 本件手当に係る制度の対象と なる可能性があることを X2 に教示し , 又は X2 から A の具体的な病状や日常生活状況等について聴取す ることにより , X らが本件手当に係る認定の請求を しないまま本件手当を受給する機会を失わないように 配慮すべき法的義務を負っていたというべきである」。 2 「にもかかわらず , X2 の相談を受けた窓口の担 当者は , X2 に対し , 本件手当に係る制度の対象とな る可能性があることを教示することもせず , また , X2 から A の具体的な病状や日常生活状況等について 聴取することもしないまま , 本件手当に係る制度を含 め , 援助の制度はない旨 , 二度にわたって回答をした ・・・こうした対応は , X2 の相談を真摯 ものである。 に受け止め , その相談内容から本件手当に係る制度を 想起すべきであったのに , これを怠った結果 , 教示義 務に違反したものと認めざるを得ないのであり , 窓口 の担当者の裁量の範囲を逸脱したものというべきであ る。 したがって , 上記担当者の対応は , 国家賠償法上の 違法行為に当たると認められる。」 平成 13 年 4 月から平成 18 年 3 月までの A Ⅲ の状態は本件手当の 2 級に該当すると認めた うえで , XI につき本件手当の 2 級相当額の損害賠償 請求を , X2 については慰謝料の支払請求を , それぞ れ認容した。 Ⅱ

10. ジュリスト 2016年8月号

Yanaga Masao ロ筑波大学教授 弥永真生 会社法判例速報 ロ東京地判平成 27 年 9 月 7 日 平成 26 年 ( ワ ) 第 26378 号 , 株式会社 CDM コンサルティング対 FBC 株式会社 , 株主総会決議無効確認等請求事件 , 判時 2286 号 122 頁 事実 「会社法 109 条 2 項は , 公開会社でない株式 会社は , 残余財産の分配を受ける権利 ( 105 条 Y ( 被告 ) の株主である X ( 原告 ) と Z ( 被告補助 1 項 2 号 ) に関する事項について , 株主ごとに異なる取 参加人 ) は , 平成 25 年 1 月 8 日 , 基本合意 ( 本件基 扱いを行う旨を定款で定めることができる旨規定する 本合意 ) を締結し「 X 及び X 社長 A は , 除染に関 し , それぞれが所有する知的財産権 ( ノウハウ , 営業 が , その趣旨は , いわゆる閉鎖会社においては , 株主の 異動力泛しく , 株主相互の関係が緊密であることが通 秘密等を含む。 ) の全てについて , 速やかに , Y に独 占的な専用実施権 ( 期間 3 年 ) を賦与する」と ( 第 3 常であることから , 株主に着目して異なる取扱いを認 めるニーズがあるとともに , これを認めることにより 項 ) , 「 Y の解散時における残余財産については , 現 預金その他の金融資産全てを Z が , 金融資産以外の 特段の不都合が生じることはないと考えられるためで 全ての財産を X がそれぞれ配分を受けるものとす あると解される。・・・・・・そうすると , 残余財産の分配に関 る。」と ( 第 6 項 ) , それぞれ定めていた。 する属人的な定めについて , 定款変更という形式がと その後 , Y は , 同年 11 月 20 日開催の株主総会に られなくても , 全株主が同意している場合などには , おいて , X が本件基本合意に基づく特許権の専用実 定款変更のための特殊決議があったものと同視するこ 施権を付与しなかったことから , Y の事業遂行が不 とができるし , 他に権利を害される株主がいないので 可能になったとして , Y を解散する旨の決議をした。 あるから , 会社法 109 条 2 項の趣旨に反するところ はなく , 有効であると解すべきである。 ( なお , このよう そして , Y は , 平成 26 年 6 月 30 日 , 同日時点の残 余財産である 7994 万 227 円のうち , X が支払請求を に解さないで , 前記の属人的な定めについて , 全株主が していた額の一部である 217 万 2687 円を留保した上 同意しているのに , 定款変更という形式がとられなかっ で , その余を , B (X から平成 25 年 2 月 26 日に Y たことのみをもって , その効力が否定されると解する の株式を譲り受けた ) 及び Z に対して残余財産とし ことは , 禁反言の見地から相当でないと思われる。 ) 」 て分配した。他方 , X は , Y に対し , 同年 7 月 4 日 「会社法 502 条は , 株主の残余財産分配請求 Ⅱ 到達の内容証明郵便により , X が Y に対して少なく 権が会社債権者に劣後するという本質的なこと とも 229 万 7220 円の債権を有している旨主張すると を明らかにする規定であり , 同条ただし書は , 迅速な ともに , X の保有する株式数に応じた残余財産の分 清算手続のために , 相当財産を留保することによって 配をするよう請求した。ところが , Y は , 同年 7 月 債権者が株主に優先することを確保した場合に限っ 10 日 , 留保していた財産も , B 及び Z に対して残余 て , 債務弁済前でも残余財産の分配を認めたものと解 される。すなわち , 同条ただし書は , 債権者の主張す 財産として分配し , 同日開催の臨時株主総会におい る債権の存否又は額について争いがあるにもかかわら て , 清算事務が終了したとして , 決算報告を承認する 旨の決議 ( 本件決議 ) をした。 ず , 清算会社においてこれがないものとして残余財産 そこで , X が , 本件決議が無効であることの確認 を分配した後に , 上記債権の存在及び額が確定した場 を求めるとともに , 残余財産の分配及び遅延損害金の 合には , 債権者の優先性が害されることとなるが , そ 支払を求めて訴えを提起したのが本件である。 のような事態を避ける趣旨であると解される。そうす なお , 平成 25 年 11 月 20 日時点の Y の株主は , X ると , 清算会社は , 清算会社に対する債権の存在を主 ( 1 万 8 開 0 株 ) , z ( 4 万株 ) , B ( 2000 株 ) であった。 張する者がいる場合には , 債権者が債権の存在及び額 についての根拠を全く示さないなどといった特段の事 判旨 情がない限り , その存否及び額が確定するまでは , 相 一部認容 , 一部棄却 ( 東京高判平成 28 ・ 2 ・ 10 金判 当財産を留保しない限り , 株主に対する残余財産の分 1492 号 55 頁により控訴棄却 ) 。 配を行ってはならず , その存否及び額を確定すること に努めるべきものと考えられる。」 2 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496