平成 - みる会図書館


検索対象: ジュリスト 2016年8月号
87件見つかりました。

1. ジュリスト 2016年8月号

Contents と「一 0 →④ ~ 0 一 0 、、一。 00 Pag e 経済法判例研究会期間限定キャンペーンの表示が 有利誤認表示に該当するとされた事例 消費者庁命令平成 28 ・ 2 ・ 16 商事判例研究 定款変更により退任となった取締役の損害賠償 東京地判平成 27 ・ 6 ・ 29 医療法人出資持分の他の社員に対する譲渡 福岡高判平成 26 ・ 3 ・ 26 不動産売却価額を低下させ得る貨貸借契約の否認 ー金沢地判平成 25 ・ 1 ・ 29 労働判例研究 遺族補償年金の支給要件と憲法 14 条 一地公災基金大阪府支部長 ( 市立中学校教諭 ) 事件 大阪高判平成 27 ・ 6 ・ 19 制度を特定しない相談者に対する 特別児童扶養手当の教示義務 ー大阪高判平成 26 ・ 1 1 ・ 27 租税判例研究 米国リミテッド・バートナーシップの 租税法上の「法人」該当性 最ニ小判平成 27 ・ 7 ・ 17 渉外判例研究 名誉・信用毀損、および不貞行為の 国際裁判管轄と準拠法 東京地判平成 26 ・ 9 ・ 5 山本裕子 87 高橋均 91 松井秀征 95 宇野瑛人 99 笠木映里 103 中野妙子 107 加藤友佳 111 種村佑介 115 受贈図書 Juri-site 119 120

2. ジュリスト 2016年8月号

年度税制改正 ( 平成 12 年 4 月 1 日施行 ) で , 贈与税の納税義務者を拡大し , 日本国籍を有す る受贈者は , 贈与の時点において日本に住所を 有していない場合であっても , 贈与者又は受贈 者のいずれかが贈与前 5 年以内に日本に住所を 有したことがある場合には , 納税義務者とする 等 ( 租税特別措置法 69 条〔その後改正あり〕 等 ) の法改正がなされた。②デラウェア州 LPS 事件では , 納税者による投資は平成 12 年 ごろになされ , 平成 17 年 2 月に更正処分がな されているところ , 同年 4 月 1 日に施行された 平成 17 年度税制改正により , 課税庁が当初租 税回避スキームであると主張していた取引によ る不動産所得の損失計上については , 組合 ( 国 内 , 国外双方を含む ) を通じた不動産投資を行 う組合員で , 自ら組合事業の重要部分を執行す る組合員以外の組合員 ( 個人 ) について , 不動 産所得の金額の計算上組合事業から生じた不動 産所得の損失額はないものとみなす措置 ( 租税 特別措置法 41 条の 4 の 2 ; 平成 18 年 1 月 1 日 施行 ) 等を新たに導入する法改正により立法に よる解決がはかられた 8 ) 。一方 , この平成 17 年の法改正前に発生したこの事件では , 外国事 業体の法人性が争点とされたわけであるが , そ の判定基準については未だ立法による解決はな ( 3 ) ガイダント事件において課 されていない。 税処分の対象となった匿名組合契約は , 平成 6 年に締結され , 課税処分は平成 13 年 2 月にな されている。その後 , 匿名組合利益分配金につ いては分配を受ける者の人数に拘わらず源泉徴 収税の対象とするという法改正が平成 14 年 4 月 1 日に施行された。日愛租税条約事件におい て課税処分の対象となった匿名組合契約は , 平 成 14 年の上記法改正施行前である平成 13 年に 締結されている。そして , 平成 15 年の改正日 8 ) 誌面の都合上詳しくはふれないが , この法改正は , 航空機リース事件 ( 名古屋高判平成 17 年 10 月 27 日裁判所 (P) や船舶リース事件 ( 名古屋高判平成 19 年 3 月 8 日裁判 所 (P) ( いずれも納税者勝訴で確定 ) も視野に入れてなさ れたものである。 特集 / 国際的租税回避への法的対応 米租税条約以降に日本が調印した主要な租税条 約又は議定書には , 匿名組合利益分配金につい ては , 日本は課税権を留保する旨の規定が盛り 込まれるようになった。平成 22 年に改正され 翌年発効した新日蘭租税条約の議定書にも , 匿 名組合利益分配金につき日本は課税権を留保す る旨の ( 旧条約にはなかった ) 規定 ( 第 9 項 ) がある。日愛租税条約は未だ改正されていな い。④外国税額控除事件との関係でも , この 事件が下級審に係属中に , 外国税額控除制度上 控除対象とされる外国法人税から , その事案で 問題とされたような取引に基因して生じた所得 に対する外国法人税を外国税額控除の対象から 除く旨の法改正がなされている 9 ) 。 以上のいずれの法改正・条約改正も , 確認的 なものではなく , 創設的な法改正・条約改正で ある。言い換えると , これらの改正による課税 要件の変更や新たな条文の立法は , それぞれの 事件において課税庁が「租税回避である」と主 張していた取引等にかかる「租税回避」につい て , 従前の税効果が得られないように個別具体 的に課税要件を改正したものであり , これら は , まさしく , 武富士事件最高裁判決の須藤補 足意見が言うところの立法による解決にほかな らない。 ところで , ガイダント事件や日愛租税条約事 件で課税庁が「租税回避である」と主張してい た租税条約の濫用・不正利用に対する対抗策の あり方については , 長年にわたって OECD で 議論され , 最近の G20/OECD を中心とする BEPS プロジェクトでも議論されている。その 結果 , 平成 27 年 ( 2015 年 ) 9 月に公表された BEPS 最終報告書 10 ) では , そのような不正利用 ( 条約漁り ) に対する対抗策として , 個々の租 税条約の中で特典制限条項 ( いわゆる LOB 9 ) 上記のほか , 最判平成 21 年 12 月 3 日民集 63 巻 10 号 2283 頁では , 税率が納税者と税務当局との合意により決 定される税が法人税法 69 条 1 項の外国税額控除の対象とな るかが争点となり , この判決後の平成 23 年に , そのような 税を控除対象外国法人税から除く法改正がなされている。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 39

3. ジュリスト 2016年8月号

商事判例研究 平成 27 年度 8 取締役の損害賠償 退任となった 定款変更により 獨協大学教授 東京大学商法研究会 高橋均 Takahashi Hitoshi 東京地裁平成 27 年 6 月 29 日判決 平成 25 年 ( ワ ) 第 17534 号 , 甲野太郎ほか 1 名対 株式会社乙山社 , 取締役地位確認等請求事件 / 判例時報 2274 号 113 頁 / 参照条文 : 会社法 339 条 2 項 事実 まで Y の取締役の地位にあったものとして登記され 社し平成 20 年 5 月 24 日から平成 23 年 1 月 20 日 XI の子であり , 平成 18 年 9 月 , Y に従業員として入 記されている A の叔父である。また X2 ( 原告 ) は , 月 20 日まで Y の取締役の地位にあったものとして登 日まで Y の監査役を務めた後 , 同日から平成 23 年 1 しており , 平成 10 年 8 月 25 日から平成 20 年 5 月 24 XI ( 原告 ) は , 公認会計士及び税理士の資格を有 表取締役に就任した同族会社である。 が , 同月 11 日からは A の従兄弟である訴外 B が代 り , 設立時から平成 20 年 7 月 10 日までを訴外亡 A 的として平成 7 年 9 月 28 日に設立した株式会社であ Y ( 被告 ) は , 総合靴やユニフォームの販売等を目 ている者である。 X2 は , 取締役就任後 , 財務経理部 部長 , 財務経理部部長兼総務人事部部長として昇格・ 昇給となったものの , その後 B との経営等を巡った 対立もあり降格となった。 平成 18 年 8 月 30 日の Y の定時株主総会において , 取締役の任期を選任後 2 年以内に終了する事業年度 のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時ま でから , 選任後 10 年以内へと定款変更をした。その 後 , XI と X2 ( 以下「 XI ら」という ) は Y の取締役 に就任し , 任期の終期は , 早くても平成 28 年 6 月末 日であった。 平成 23 年 1 月 20 日開催の臨時株主総会において , 取締役の任期は選任後 1 年以内へと定款変更された。 Y はこの定款変更に伴い , XI ら取締役の任期がすで に満了したとして , XI らが取締役を退任したものと して扱った上で , XI らを Y の取締役としては再任せ ずに , 新たな取締役 2 名を選任した。そして , Y は , 同日付けで XI らが取締役を退任した旨の変更登記を 0 このために , XI らは Y に対して , 主位的請求とし て , XI らの Y の取締役としての地位確認 , 取締役退 任の変更登記の抹消登記手続 , 取締役の地位に基づく 未払いの報酬の支払等を求め , 予備的請求として , 取 締役の任期を 10 年から 1 年へと変更する旨の定款変 更によって XI らが Y の取締役から退任させられたこ とにつき , 本来の任期満了日までに , 得べかりし取締 役報酬相当額の支払を求めて訴訟を提起した。 なお , 本件において , 定款変更により取締役として の任期が満了し , かっ再任されなかった場合には退任 するものとして扱われるとして , XI らの主位的請求 は認められなかったことから , 本稿では予備的請求に ついて検討する。 判旨 請求一部認容 , 一部棄却。 「 XI らが現在もなお Y の取締役の地位にあ るといえるか否かは , 取締役の任期を短縮する 旨の本件定款変更によって XI らが Y の取締役から当 然に退任することになるかに関わるところ , 取締役の 任期途中において , その任期を短縮する旨の定款変更 がなされた場合 , その変更後の定款は在任中の取締役 に対して当然に適用されると解することが相当であ り , その変更後の任期によれば , すでに取締役の任期 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

4. ジュリスト 2016年8月号

民事 1. 民法 910 条に基づき価額の支払を請求する 場合における遺産の価額算定の基準時 2. 民法 910 条に基づく価額の支払債務が履行 遅滞となる時期 最高裁平成 28 年 2 月 26 日第二小法廷判決 平成 26 年 ( 受 ) 第 1312 号・ 1313 号 , 価額償還請求上告 , 同附 帯上告事件 / 裁時 1 6 号 4 頁 ( 民集登載予定 ) / 第 1 審・ 東京地判平成 25 年 10 月 28 日 / 第 2 審・東京高判平成 26 年 3 月 19 日 Hata Yoshihide 前最高裁判所調査官畑佳秀 事実 本件は , A の相続開始後認知によっ てその相続人となった X ( 原告・控訴 人・上告人兼附帯被上告人 ) が , A の子であ り , A の遺産について既に遺産の分割をして いた Y ら ( 被告・被控訴人・被上告人兼附帯 上告人 ) に対し , 民法 910 条 ( 以下「本件規 定」という ) に基づき価額の支払を求める事案 であり , 同条の定める価額の支払請求をする場 合における遺産の価額算定の基準時及び価額の 支払債務が遅滞に陥る時期が争われているもの である。 Ⅱ . 本件の事実関係等 本件の事実関係の概要は以下のとおりであ る。 1 A は , 平成 18 年 10 月 7 日に死亡した。 A の妻である B 及び子である Y らは , 平成 19 年 6 月 25 日 , A の遺産について , 遺産の分割 の協議を成立させた。 A の遺産のうち積極財 産の評価額は , 同日の時点において , 総額 17 億 8670 万 3828 円であった。 2 X は , 平成 21 年 10 月 , X が A の子であ ることの認知を求める訴えを提起したところ , X の請求を認容する判決が言い渡され , 同判 決は平成 22 年 11 月に確定した。 民法 910 条に基づく価額の支払を請求した。 A の遺産のうち積極財産の評価額は , 同日の時点 において , 総額 7 億 9239 万 5924 円であった。 4 X は , 平成 23 年 12 月 , 本件訴訟を提起 した。第 1 審は平成 25 年 9 月 30 日に , 原審は 平成 26 年 2 月 3 日に , それぞれ口頭弁論を終 結した。 A の遺産のうち積極財産の評価額は , 第 1 審の口頭弁論終結日の時点において , 総額 10 億 0696 万 8471 円であった。 本件で , X 及び Y らが上告審までに Ⅲ 主張したそれぞれの見解をモデル図にす ると , 概ね , 図のとおりである。 第 1 審 , 原審とも , ①本件規定に基づく価額 支払請求の遺産の価額算定基準時を X が価額 の支払を請求した平成 23 年 5 月 6 日とした上 で評価し ( 評価額は総額 7 億 9239 万 5924 円 ) , X の法定相続分を 8 分の 1 としてこれに応じ た額を相続人のうち価額支払義務が問題となる Y らの員数 ( 3 名 ) で除した各 3301 万 6496 円 ( 評価額の 24 分の 1 ) の請求を認容し , ②本件 規定に基づく価額の支払債務は , 履行の請求を 受けた時に遅滞に陥るものとして , X が価額 の支払を請求した日の翌日である同月 7 日から の遅延損害金の請求を認容すべきものとした。 これに対して , X が上告受理申立て ( 論旨 は , ①価額算定の基準時は遺産分割時とすべき であり , ②遅延損害金の起算日も遺産分割時と すべきとした ) , Y らが附帯上告受理申立て ( 論旨は , 遅延損害金の起算日を事実審口頭弁 論終結日の翌日とすべきとした ) をしたとこ ろ , 最高裁第二小法廷は , 両事件を受理した上 で , 次のとおり判示して ( いずれも第 1 審 , 原 審と結論は同じ ) , 上告及び附帯上告を棄却し 判旨 相続の開始後認知によって相続人と なった者が他の共同相続人に対して民法 910 条に基づき価額の支払を請求する場合にお ける遺産の価額算定の基準時は , 価額の支払を 請求した時である。 3 76 x は , 平成 23 年 5 月 6 日 , Y らに対し , [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

5. ジュリスト 2016年8月号

テッド・パートナーシップという外国の事業体 の法人性の有無 , 具体的には , 我が国の租税法 における「法人」の解釈とそのあてはめであっ ガイダント事件 4 ) と日愛租税条約事件 5 ) は , いすれも租税条約の相手国の居住者である匿名 組合員が日本の営業者から受けた匿名組合利益 分配金にかかる所得に対する課税の可否が争わ れた事案である。両事件の事実関係は異なって おり , 課税庁の主張も異なる部分があるもの の , いずれの事件においても , 課税庁は , ①租 税条約の濫用 ( 条約漁り ) は租税回避であると いう主張 , 及び②課税処分の対象となった所得 が日本でも外国でも課税されていないという国 際的二重非課税は租税回避であるという趣旨の 主張をしていた。上記の①と②は , いずれも , 課税庁がする典型的な「国際的租税回避」の主 張である。ところが , いずれの事件において も , 裁判所 ( いすれも東京高裁 ) は , ①につい ては , 適用される租税条約に根拠規定がなけれ ば , 当該租税条約の適用を排除することはでき ないという理由で , ②については , 相手国にお ける課税の有無の判断は , 日本において課税さ れるべきか否かとは別次元の判断であって日本 で課税されるか否かの判断には無関係であると いう理由で , 表現は異なるものの実質的に同趣 旨の見解を示して課税庁の主張を斥けている。 これらの事件における課税庁による「租税回 避である」という主張は , 課税処分の適法性を 法的に基礎づける主張としてなされていたとは 言い難い。他方で , やや異なる様相をみせてい たのが , 日本の銀行による外国税額控除枠の控 1 ) 本稿が念頭に置いているのは , 国境を跨ぐ取引等の 課税取扱いが争点となる事案の税務訴訟のうち , 同族会社の 行為計算否認規定や移転価格税制 , 特定外国子会社合算税制 など「租税回避」に対する対抗策として立法された個別の税 制に基づく課税処分の適法性が争われた訴訟以外の訴訟であ る。 2 ) 3 ) 4 ) 38 最判平成 23 年 2 月 18 日判タ 1345 号 115 頁。 最判平成 27 年 7 月 17 日民集 69 巻 5 号 1253 頁。 東京高判平成 19 年 6 月 28 日判タ 1275 号 127 頁 ( 最 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 除余裕枠を利用して利益を上げる取引に課され た外国法人税が外国税額控除対象か否かが争わ れ , 控除対象とすることが否定された最高裁判 例 6 ) の事案における課税庁の主張である。この 事件では , 課税庁による「租税回避である」と いう主張が , 外国税額控除にかかる条文 ( 法人 税法 69 条 ) の限定解釈の主張というかたちで , 具体的な条文に定められている課税要件の解釈 についての主張として展開されていた点が特徴 的である。 これらの税務訴訟における裁判所の判断は , 「租税回避である」か否かによってではなく , 法律条文に定められた課税要件の解釈を明らか にし , その解釈を前提として課税要件が充足さ れたか否かを検討するという構造でなされてい る。司法判断がこのような構造でなされること は , 租税法律主義という大原則 7 ) を我が国が採 用していることの帰結である。武富士事件最高 裁判決が指摘しているように , 「租税回避であ る」から否認して課税すべきであるというの は , 立法論でしかない。 Ⅱ . 「租税回避である」という 課税庁の主張と法改正の緊密な関係 さて , 上記 I で例に挙げた事件において , 課 税庁が「租税回避である」と主張した点につい ては , それぞれの事件後に次のような法改正が なされている。 ( 1) 武富士事件では , 納税者は , 平成 9 年に 日本から香港に転出した日本国籍保有者であ り , 平成 11 年末に課税処分の対象となった贈 与を受けている。そして , その直後の平成 12 決平成 20 年 6 月 5 日上告不受理により確定 ) 。 5 ) 東京高判平成 26 年 10 月 29 日 ( 東京高等裁判所平成 25 年 ( 行コ ) 第 401 号・判例集未登載 , LEX/DB 文献番号 25505528 。平成 28 年 6 月 10 日付け最高裁上告不受理決定に より確定 ) 。 6 ) 最判平成 17 年 12 月 19 日民集 59 巻 10 号 2964 頁。 最判平成 18 年 2 月 23 日訟月 53 巻 8 号 2447 頁も参照。 7 ) 租税法律主義については , 金子宏「租税法〔第 21 版〕』 ( 弘文堂 , 2016 年 ) 73 頁以下参照。

6. ジュリスト 2016年8月号

皿ヤフー / IDCF 事件 1 . 事案の概要 ヤフー / IDCF 事件は , ソフトバンク株式会 社 ( 以下「ソフトバンク」という ) とヤフー株 式会社 ( 以下「ヤフー」という ) の間で行われ た一連の M&A 及び組織再編取引が問題と なった事案である。 ソフトバンクの完全子会社であったソフトバ ンク IDC ソリューションズ株式会社 ( 以下 「 IDCS 」という ) は , 平成 20 年 3 月末時点で 約 666 億円の繰越欠損金を有しており , IDCS の当時の利益に照らして , 繰越欠損金を償却す るには相当な期間がかかることが見込まれ , ま た , 繰越欠損金のうち平成 14 年 3 月期に発生 した約 124 億円は , 平成 22 年 3 月期以降は損 金算入が認められない ( 期限切れとなる ) 状況 にあった。 このような状況において , 概要 , 以下のよう な取引が行われた。①平成 20 年 12 月 , ヤフー の代表取締役であった A 氏が IDCS の取締役 副社長に就任 ( 以下「本件副社長就任」とい う ) 。②平成 21 年 2 月 2 日 , IDCS が新設分割 により新会社 ( 株式会社 IDC フロンティア。 以下「 IDCF 」という ) を設立。③同月 20 日 , IDCS がヤフーに対し IDCF の全株式を譲渡。 ④同月 24 日 , ソフトバンクがヤフーに対して IDCS の全株式を譲渡。⑤同年 3 月 30 日 , ヤ フーが IDCS を吸収合併。 ヤフー事件 6 ) は , ヤフーが平成 21 年 3 月期 に係る法人税の確定申告にあたり , 法 57 条 2 項の規定に基づき IDCS の欠損金 542 億円余を 自己の欠損金とみなして損金の額に算入した点 が争われたものである。組織再編税制では , 資 本関係のあるグループ会社間での合併・分割等 の組織再編は , 共同で事業を営むための組織再 6 ) 最ー小判平成 28 年 2 月 29 日裁判所 HP ( 控訴審は 東京高判平成 26 年 11 月 5 日訟月 60 巻 9 号 1967 頁 , 第 1 審 は東京地判平成 26 年 3 月 18 日判時 2236 号 25 頁 ) 。 特集 / 国際的租税回避への法的対応 編成に比べて適格組織再編成に該当するための 要件が緩和されていることから , 繰越欠損金を 有する会社を新たにグループ内に取り込み , グ ループ内の法人と適格組織再編成を行うことに よって繰越欠損金を利用する租税回避行為の発 生が懸念された。そのため , 法 57 条 3 項は , 適格合併に係る合併法人と被合併法人との間の 支配関係が合併に係る事業年度の開始の日の 5 年前以後に生じている場合には , いわゆる「み なし共同事業要件」を充足する場合にのみ , 繰 越欠損金の引継ぎを認めている。みなし共同事 業要件の充足方法は , 大別して 2 つあり , (a) 事業の相互関連性に関する要件 , 事業の相対的 な規模に関する要件 , 被合併等事業の同等規模 継続に関する要件及び合併等事業の同等規模継 続に関する要件の全てに該当するか , ( b ) 事業 の相互関連性に関する要件及び特定役員の引継 ぎに関する要件 ( 以下「特定役員引継要件」と いう ) のいずれにも該当することが必要とな る。本件では , ヤフーと IDCS の支配関係が生 じたのは④の時点であり , その直後にヤフーと IDCS が合併したものであるから , ヤフーが IDCS の欠損金を引き継ぐためには「みなし共 同事業要件」を充足する必要があった。そし て , ヤフーは , 本件では (a) は満たさないもの の , ⑤の合併の際にヤフーの代表取締役であっ た A 氏が IDCS の取締役副社長に就任してい たため , 特定役員引継要件を満たし , 事業の相 互関連性に関する要件も満たしていることか ら , ( b ) のみなし共同事業要件を充足するとし て , 確定申告を行った。これに対して , 課税当 局は , 組織再編成に係る行為・計算の否認規定 である法 132 条の 2 を適用し , IDCS の未処理 欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすことを認 めず , 更正処分等をした。 IDCF 事件 7 ) は , ②の新設分割 ( 以下「本件 7 ) 最二小判平成 28 年 2 月 29 日裁判所 HP ( 控訴審は 東京高判平成 27 年 1 月 15 日裁判所 HP , 第 1 審は東京地判 平成 26 年 3 月 18 日判時 2236 号 47 頁 ) 。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 33

7. ジュリスト 2016年8月号

Number 渉外判例研究 647 名誉・信用毀損 , および不貞行為の 国際裁判管轄と準拠法 首都大学東京准教授 渉外判例研究会 種村佑介 Tanemura Yusuke 東京地裁平成 26 年 9 月 5 日判決 平成 23 年 ( ワ ) 第 13312 号 ( 甲事件 ) , 平成 24 年 ( ワ ) 第 31937 号 ( 乙事件 ) , 甲野花子対乙山春子 ( 甲事件 ) , 甲野太郎対乙山春子 ( 乙事件 ) , 損害 賠償請求事件 / 判時 2259 号 75 頁 / 参照条文 . 平成 23 年法律第 36 号による改正前民事訴訟法 5 条 9 号・ 7 条 , 民事訴訟法 3 条の 3 第 8 号・ 3 条の 6 , 民事訴訟法附則 2 条 1 項 , 法の適用に 関する通則法 17 条・ 19 条・ 20 条・ 22 条 2 項 事実 X2 および Y がいずれも日本国籍を有することは , 当 旬頃にニューヨークにおいて不貞行為をした (XI, を続け , 平成 22 年 5 月頃および同 8 月ないし 9 月上 の婚姻後も互いに配偶者がいることを知りながら交際 ョークに居住 ) は平成 21 年 10 月に知り合い , XI と X2 と被告 Y ( 平成 20 年 6 月 18 日頃からニュー 活を営んでいた。 が日本からニューヨークに渡航して同地で夫婦共同生 仕事を行うようになり , XI との婚姻後は夫である X2 ク」という ) に渡航したが , その後 X2 は日本中心で ニューヨーク州ニューヨーク市 ( 以下「ニューヨー した夫婦である。 XI らは平成 8 年頃アメリカ合衆国 原告 XI と原告 X2 は , 平成 22 年 2 月 15 日に婚姻 事者間に争いがない ) 。 XI は X2 の浮気を疑い , X2 が Y との不貞行為を認めたため , XI は , Y の夫に対し , X2 と Y が不貞行為をした旨の電子メール ( 以下 「メール」という ) を送るなどの行為をした。これを 受けて Y は , 平成 22 年 9 月 20 日から同月 25 日にか けて , ニューヨークおよび日本における X2 の知人等 に対し , X2 と Y が不貞行為をしていないのに , XI が不貞行為を疑い , Y の夫の職場に押しかけて困っ ている , X2 が精神病であるといった内容のメールを 送るなどの行為をした。 XI は , Y が X2 と不貞行為をしたうえ , X2 の知人 等に対し上記内容のメールを送付するなどの名誉毀損 行為をしたとして , Y に対し , 不法行為にもとづく 損害賠償請求訴訟を提起した ( 甲事件 ) 。また X2 も , Y が X2 の知人等に対し上記内容のメールを送付する などの名誉毀損および信用毀損行為をしたとして , Y に対し , 不法行為にもとづく損害賠償請求訴訟を提起 した ( 乙事件。なお , 平成 23 年法律第 36 号による 改正後の民事訴訟法〔以下「民訴法」という〕の規定 は , 同法の施行期日〔平成 24 年 4 月 1 日〕前に Y が 訴状の送達を受けた甲事件には適用されないが , 乙事 件には適用される〔民訴法附則 2 条 1 項〕 ) 。 判旨 生じたとの客観的事実関係も証明されている。」「よっ Y が日本においてした行為により XI の法益に損害が 文面は , ・・・ XI の名誉を毀損する内容であるから , 本国内に不法行為地がある。また , ・・・・・・本件メールの る方法及び電話をかける方法で行われているから , 日 本国内の東京都及び神奈川県に向けてメールを送信す 「 Y による XI に対する名誉毀損行為の一部は , 日 が相当である」。 との客観的事実関係が証明されれば足りると解するの いてした行為により原告の法益について損害が生じた 轄を肯定するためには , 原則として , 被告が日本にお 法 5 条 9 号 ) に依拠して日本の裁判所の国際裁判管 き , 民訴法の不法行為地の裁判籍の規定 ( 改正前民訴 れた不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につ 「日本に住所等を有しない被告に対し提起さ 記と略同様 ) 。 当する部分が民訴法 3 条の 6 に依拠するほかは , 下 法 3 条の 3 第 8 号および後掲⑥判決に , 判旨Ⅱに相 一部認容 ( 乙事件では , 判旨 I に相当する部分カ眠訴 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 115

8. ジュリスト 2016年8月号

Number 経済法判例研究会 245 期間限定キャンペー ン の表示が有利誤認表示 に該当するとされた事 例 大東文化大学教授 山本裕子 Yamamoto Hiroko 消費者庁平成 28 年 2 月 16 日命令 不当景品類及び不当表示防止法第 6 条の規定に 基づく措置命令 ( 消表対第 189 号 ) / 消費者庁 事実 うに一般消費者に誤認される表示を行っていた。 金返還請求の着手金が無料または値引きとなるかのよ いて本件役務の提供を申し込んだ場合に限り , 過払い 定」等として , 表示された 1 カ月程度の期間内にお ンペーンを実施していたにもかかわらず , 「 1 カ月限 手金を無料または値引きとすることを内容とするキャ 月 31 日までの期間において , 過払い金返還請求の着 ①実際には , 平成 22 年 10 月 6 日から平成 25 年 7 て , 以下のような表示を行っていた。 るにあたって , 自らが運営するウエプサイトにおい 務 ( 以下「本件役務」という ) を一般消費者に提供す A が供給する債務整理・過払い金返還請求に係る役 弁護士法人アディーレ法律事務所 ( 以下「 A 」 ) は , ②実際には , 平成 25 年 8 月 1 日から平成 26 年 11 月 3 日までの期間において , 過払い金返還請求の着 手金を無料または値引きとすること , および借入金の 返済中は過払い金診断を無料とすることを内容とする キャンペーンを実施していたにもかかわらず , ウエプ サイトに「期間限定で・・・・・・キャンペーンを実施」等と して , 表示された 1 カ月程度の期間内において本件 役務の提供を申し込んだ場合に限り , 過払い金返還請 求の着手金が無料または値引きとなり , 借入金の返済 中は過払い金診断が無料となるかのように一般消費者 に誤認される表示を行っていた。 ③実際には , 平成 26 年 11 月 4 日から平成 27 年 8 月 12 日までの期間において , 契約から 90 日以内に 契約の解除を希望した場合に着手金を全額返金するこ と , 過払い金返還請求の着手金を無料または値引きと すること , および借入金の返済中は過払い金診断を無 料とすることを内容とするキャンペーンを実施してい たにもかかわらず , ウエプサイトに「今だけの期間限 定で・・・・・・キャンペーンを実施」等として , 表示された 1 カ月程度の期間内において本件役務の提供を申し込 んだ場合に限り , 契約から 90 日以内に契約の解除を 希望した場合に着手金を全額返金し , 過払い金返還請 求の着手金が無料または値引きとなり , 借入金の返済 中は過払い金診断が無料となるかのように一般消費者 に誤認される表示を行っていた。 これらの表示は , 表示された 1 カ月程度の期間内 において着手金の全額返金などを行う趣旨のもので あったが , 平成 22 年 10 月 6 日から平成 27 年 8 月 12 日までの約 5 年の間に , 1 カ月程度の期間ごとに同様 のキャンペーンを繰り返して実施していた。 命令要旨 「自己の供給する本件役務の取引条件について , 実 際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一 般消費者に誤認させ , 不当に顧客を誘引し , 一般消費 者による自主的かっ合理的な選択を阻害するおそれが あると認められる表示をしていたものであり , この表 示は , 景品表示法第 4 条第 1 項第 2 号に該当するも のであって , かかる行為は , 同項の規定に違反するも のである。」 消費者庁は A に対して , 「本件役務を一般消費者に 提供するに当たり , 自らが運営するウエプサイトにお いて行った・・・・・・表示〔前記① ~ ③〕と同様の表示を行 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 87

9. ジュリスト 2016年8月号

Contents Page 国際ビジネス紛争 処理の法実務 第 5 回 国際送達 INTRODUCTION 国際送達 外国判決の承認要件としての送達 消契法・特商法改正法の成立②ー特商法改正 霞が関インフォ 民事匿名組合契約に基づき匿名組合員が受ける利 最高裁時の判例 益の分配と所得区分の判断ほか 最ニ小判平成 27 ・ 6 ・ 12 民事信用保証協会と金融機関との間で保証契約が 締結されて融資が実行された後に主債務者が反社会 的勢力であることが判明した場合において , 信用保証協 会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされ た事例ほかー最三小判平成 28 ・ 1 ・ 12 民事民法 910 条に基づき価額の支払を請求する場 合における遺産の価額算定の基準時ほか 最ニ小判平成 28 ・ 2 ・ 26 刑事密輸組織が関与する覚せい剤の密輸入事件に ついて , 被告人の故意を認めず無罪とした第 1 審判決に 事実誤認があるとした原判決に , 刑訴法 382 条の解釈 適用の誤りはないとされた事例 ー最ー小決平成 25 ・ 1 0 ・ 21 刑事覚せい剤の密輸入事件について , 共犯者供述 の信用性を否定して無罪とした第 1 審判決には事実誤 認があるとした原判決に , 刑訴法 382 条の解釈適用の 誤りはないとされた事例ー最ー小決平成 26 ・ 3 ・ 10 6 7 0 6 5 5 6 6 昌郎薫ニ 正 啓和 田色松上 古一高河 人宏 正芳 内取 垣高 道 清水知恵子 68 飛澤知行 72 畑佳秀 76 矢野直邦 81 矢野直邦 84

10. ジュリスト 2016年8月号

2016 August # 1496 特集 国際的租税回避への 去的対応 Special Featu 「 e Page タックス・シェルターからタックス・コンプライアンスへ 中里実 14 ー会社法と租税法の融合の必要性 国際的脱税・租税回避への対抗 吉村政穂 19 バナマ文書の影響 「バナマ文書」に基づく課税処分及び 渕圭吾 24 脱税犯の訴追の可能性 一般的租税回避否認規定の適用が争われた裁判例 伊藤剛志 31 旧 M 事件とヤフー / IDCF 事件 一般的租税回避否認規定 宮崎裕子 37 実務家の視点から く国際的租税回避への法的対応における 選択肢を納税者の目線から考える〉 一般的租税回避否認規定について 否認理論の観点から 国際的情報収集 残余財産分配と決算報告承認決議無効 会社法判例速報 ー東京地判平成 27 ・ 9 ・ 7 ハラスメントの調査・認定申立てに対する 労働判例速報 調査委員会の不設置等の配慮義務違反性 一学校法人関東学院事件 東京高判平成 28 ・ 5 ・ 19 協調的行動が生じやすい市場における企業結合審査 井本吉俊 6 独禁法事例速報 ー公取委発表平成 28 ・ 3 ・ 18 バロディ商標と不登録事由 小林利明 8 知財判例速報 一知財高判平成 28 ・ 4 ・ 12 多数の会社名義による不動産取引収益の人的帰属 佐藤英明 10 租税判例速報 東京高判平成 28 ・ 2 ・ 26 文 岡村忠生 44 浅妻章如 51 弥永真生 2 水町勇一郎 4