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検索対象: ジュリスト 2016年8月号
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1. ジュリスト 2016年8月号

評釈 判旨賛成。 社会保障制度は複雑で , 制度改正も頻繁であ るため , どの給付をどのような場合に受給でき るのかが一般市民には難解であることも多い。受給要 件を満たす者が漏れなく給付を受給し , 社会保障各法 がその目的を達成するためには , 行政による制度の周 知徹底 , 情報提供 , 適切な教示が必要である。しか し , 個々の法令に教示等にかかる明文の規定がない場 合に , 行政の教示義務を , 違反すれば損害賠償責任を 生ぜしめるような法的義務として導くことができるか は , 議論のあるところである。 従来の裁判例では , 児童扶養手当制度の一般的な広 報・周知徹底が問われた永井訴訟 ( ①大阪高判平成 5 ・ 10 ・ 5 判自 124 号 50 頁 ) を除くと , 具体的な制度 について相談に来た者に対し , 受給要件等につき適切 な説明・教示をする義務が問題となることが多かった ( ②大阪高判平成 17 ・ 6 ・ 30 判自 278 号 57 頁 , ③東 京高判平成 22 ・ 2 ・ 18 判時 2111 号 12 頁 , ④福岡地 小倉支判平成 23 ・ 3 ・ 29 賃金と社会保障 1547 号 42 頁 , ⑤さいたま地判平成 25 ・ 2 ・ 20 判時 2196 号 88 頁など ) 。これらの裁判例と比較すると , 本判決は , 制度を特定しない相談者に対して受給可能な制度につ いて適切な教示をする義務が問われた点に , 事案とし ての特徴がある。この点で , 本判決は , 身体障害者手 帳の交付時に民間事業者が提供する介護者運賃割引制 度について情報提供する義務が問題となった , ⑥東京 高判平成 21 ・ 9 ・ 30 判時 2059 号頁に類似している。 本判決は , 本件事案の下で市職員の教示義務違反を 認め , 国家賠償請求を認容しており , 社会保障に関わ る行政実務に対して影響を与えるものと思われる。 不作為による不法行為が成立するためには , Ⅱ その前提として法的な作為義務が必要である。 法は情報提供や教示について明文の規定を設けておら ず , 本件手当についての教示義務をどう導くかが問題 となる。 判旨 1 1 は , 本件手当のような非遡及主義の社会 保障制度においては , 制度の実効性の確保のために , 国または地方公共団体の機関が制度の周知徹底や窓口 での適切な教示等を行う「責務」を負うとする。しか し , 教示等の具体的な方法については行政機関の広範 な裁量を容認し , 上記責務への違反が直ちに国賠法上 労働判例研究 違法となるわけではないとした。判旨 1 1 は , 児童 扶養手当制度の広報・周知徹底は国の責務にとどまる とした , 前掲①判決に倣うものといえる。学説も , 法 律上の明文の規定がない場合に不特定の給付対象者に 対する一般的な広報・情報提供を法的義務として行政 に課すことには , 消極的である ( 堀勝洋〔判批〕季刊 社会保障研究 27 巻 2 号 207 頁 , 西村健一郎・社会保 障法 110 頁 ) 。 これに対し , 続く判旨 1 2 は , 一般市民にとって の社会保障制度の難解さと , 社会保障に関わる行政窓 ロの対応の重要さに照らし , 窓口に来訪した相談者に 対して担当者が適切な教示を行う職務上の法的義務を 導く。判旨 1 1 が不特定多数の市民に対する行政機 関の責務を述べるのに対し , 判旨 1 2 は , 行政との 具体的な接触関係に入った個々の市民に対して個々の 職員が負う義務を述べるものと整理することができよ う。前掲①判決も , 市民からの具体的な質問に対して 担当者が誤教示をした場合には , 広報・周知徹底に係 る裁量の範囲を逸脱したものとして損害賠償責任を肯 定する余地を認めていた。実際に , その後の裁判例で は , 誤教示や申請受付拒否について担当者の義務違反 が認められてきた ( 前掲③ , ④ , ⑤判決など ) 。学説 でも , 不特定多数の者に対する広報と個々の市民に対 する助言・教示を区別し , 後者にかかる義務違反につ いては損害賠償責任を問いうるとの見解が , 有力に主 張されている ( 木下秀雄「社会保障法における行政の 助言・教示義務ー永井訴訟控訴審判決を手がかり に」賃金と社会保障 1457 ・ 1458 号 31 頁 ) 。判旨 1 2 はこのような裁判例・学説の流れに沿うものである。 また , I で述べたように , 本判決では制度を特定し ない相談者に対する行政の対応が問われた。判旨 1 2 は , 制度を特定しない相談・質問であっても , 窓口の 担当者は関連する制度につき適切な教示を行う法的義 務を負うとしており , 従来の裁判例よりも担当者が教 示義務を負う場面を広げたといえる。そもそも制度に ついて知らなければ具体的な質問をすることも不可能 であるから , 来訪者の相談等の具体性にかかわらず教 示義務を認める判旨には首肯できる ( 太田匡彦〔判 批〕季刊社会保障研究 46 巻 3 号 315 頁参照 ) さらに , 窓口担当者に課される教示義務の法的根拠 として , 判旨 1 2 は条理を挙げる。判旨は , 不当に 長期間にわたり処分がされないことで申請者が内心の 静穏な感情を害されるような結果を回避すべき条理上 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 109

2. ジュリスト 2016年8月号

ArticIe SpeciaI Feature 特集国際的租税回避への法的対応 国際的情報収集 I. 企業レベルにおける租税情報の 活用と国際的側面 昨年 , 拙稿 1 ) において , CbCR (Country by Country Report : 国別報告書 ) 等について紹 介した。本稿はその続編となる。とはいえ , 今 年から租税法や国際租税法について勉強し始め たという者もいるであろうから , これまでの租 税法・国際租税法における情報収集について簡 単に振り返るべきであろう。 適正な課税の執行のためには納税者に関する 情報を課税庁が入手する必要がある。申告納税 制度を採用している国では , 先ず納税者が自発 的に自らの租税に関する情報を課税庁に提出す ることが予定されている。しかし正直に自らの 租税情報を課税庁に提出する者ばかりではな い。申告された情報を課税庁が鵜呑みにするわ けにはいかず , 課税庁自身が情報収集に努めな ければならない場合も多い。そして課税庁が納 税者個人個人の情報を確認することは難しい。 この点に関し , 現実の租税制度は企業 ( 法人 である必然性はないが法人であることが多い ) を情報の集約点として利用することが多い 2 ) 。 シャウブ勧告以来の標準的な租税理論の理解に よれば , 法人税の存在意義は法人の背後にいる 個人納税者に対する所得課税の前取りであり , 法人自体の担税力を観念することではない 3 ) 。 立教大学教授 浅妻章如 Asatsuma Akiyuki もし個人レベルの租税情報が分かるのであれば 法人税は不要である。例えば , 毎年の株価 ( 公 開会社 , 閉鎖会社を問わず ) の変動が分かるな らば , 個人株主レベルで株価の変動を時価主義 で課税所得に反映することで , 法人を通じた利 益獲得に対し個人レベルで適正な課税を執行す ることができる。個人所得税に関しても , 給与 所得の源泉徴収を筆頭に , 企業レベルの租税情 報が活用されている 4 ) 。 付加価値税 ( 日本では消費税法による ) につ いても , 経済的な意味で消費者が租税を負担す ることが予定されている 5 ) とはいえ , 法的に納 税義務を負うのは原則として「事業者」 ( 消費 税法 4 条 1 項・ 5 条 1 項 ) であり , やはり企業 レベルの租税情報が活用されている。輸入貨物 については消費税法上個人消費者も納税義務を 負うことがあるが ( 消費税法 4 条 2 項・ 5 条 2 項 ) , 電気通信利用役務の提供 ( 消費税法 4 条 3 項 3 号 ) が外国事業者から日本国内居住者た る消費者に提供される場合は , 登録制を通じて 企業レベルの租税情報を活用せざるをえない。 国際的な所得課税の文脈として , A 国居住 者たる個人株主 B が C 国法人たる D 社を通じ て C 国での事業より利益を得るという場面を 想起する。個人レベルでの課税しか無いとする と , C 国が外国居住者個人たる B に直接課税 することは不可能ではないが難しい。 D 社の所 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

3. ジュリスト 2016年8月号

の前提となる物的拠点なしでも顧客の存在で 以って課税権を確保しようという動きが見受け られるが , 必ずしも国際的に受け容れられてい るか定かではない。価値創造 (value creation) は 20 世紀の国際租税法体系からの接続で理解 すれば生産地を意味するはずであるが , 消費に まつわる何かも価値 (value) に含めようとす ることが , 良いのかどうか , 例えば , 欧州で作 られた製品が中国で消費されるという場合にも 課税権が中国に割り当てられる , といった可能 性まで含めて消費地に課税権を割り当てるべき ( 繰り返すがそれは私見では良いと思っている ) と考えられているか , 定かでない。他方で , 20 世紀からの接続で価値創造に応じた課税権配分 とは生産地への課税権の配分であって多国籍企 業のうち欧州で生産している部分について欧州 で充分な租税負担をせよと求めた場合 , 企業が 逃げ出す可能性を恐れないのか , という疑問も 禁じえない。企業に租税情報の集約点としての 機能を超えて企業自身の租税負担を要求してい るかのように映る欧州の動きが , ややヒステ リックなのではないか ( 表現がきついとすれ ば , 課税権配分の妥協的政策論として整合性を 保ち難いのではないか ) と思われる。 Ⅵ情報交換 国別報告書関連では企業レベルの移転価格税 制との関係に焦点が当たる。他方 , 所得や資産 に関して企業以外の者 ( 個人 , 法人含む ) の租 税情報も重要となる。特に , 何らかの entity 16 ) OECD, Standard for Automatic Exchange of Financial Account lnformation ( 13 February 2014 ) (http:〃 www.oecd.org/ctp/exchange—of—tax—information/ automatic—exchange¯of—financial—account—information. htm) : Council Directive (EU) 2016 / 881 of 25 May 2016 amending Directive 2011 / 16 / EU as regards mandatory automatic exchange Of information in the field Of taxation (http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ TXT/?uri=CELEX:32016L0881 ) 等参照。 17 ) 増井良啓「非居住者に係る金融口座情報の自動的交 換ーー - CRS が意味するもの」論ジュリ 14 号 ( 2015 年 ) 218 特集 / 国際的租税回避への法的対応 の背後の真の稼得者は誰なのかという問題は , 今後益々重要性を増していく。租税条約に基づ く情報交換もなされるし , 租税条約を締結して いない国との関係においても続々と租税情報交 換協定が締結されつつある。パナマ文書で有名 になったパナマ共和国とも最近 ( 平成 28 年 5 月 23 日 ) 租税情報交換協定に関する実質合意 に至ったことが報道されている。 情報交換は , 原則として個別の照会べースで 情報がやりとりされることになっている。これ に対し , 近年 , 自動的情報交換 (AEOI : automatic exchange 0f information) 16 ) として , 照会べー スではなく , CRS (common reporting standard, 共通報告様式 ) 17 ) に沿って定型的に自動的に納 税者の金融口座関連情報をやりとりする仕組み も整えられつつある。価値創造のある国の企業 課税を強化することには前述の通り租税競争悪 化等の観点から懸念がないではない一方で , 所 得稼得者・財産保有者たる個人に対する課税の 強化は分配の正義のためには必要であるし , そ の情報を課税庁に対し隠すことの正当性は見出 し難い。 BradIey Birkenfeld 氏の事例に代表さ れるように内部通報者情報 18 ) 等によるカずく の情報収集もかねてから不可能ではなかったか もしれないが , そうした手法と合わせ , 守秘義 務 19 ) や証拠能力の問題をクリアしつつ租税情 報を効果的に収集する体制の構築が今後も進め られていくことが期待されるし , またそうなる であろう。 頁等参照。 18 ) AshIin AIdinger, A Race to the IRS: Are Snitches and Criminals the New Business Model?, 51 Houston Law Review 913 ( 2014 ) 等参照。 19 ) 情報交換をめぐっては , 日米情報交換を通じてアメ リカ居住者の情報カ坏当に漏れたという苦い事件も存在する。 Aloe vera / 川た 4 砺″ & 4 , 580 F. 3d 867 (9th Cir. ) 等参照。プライバシー権について Philip Baker, Privacy Rights ⅲ an Age Of Transparency: A European Perspective, Tax Notes lnternational, May 9 , 2016 , p. 3 等も参照。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 55

4. ジュリスト 2016年8月号

クオプション費用をアイルランドの関連法人が 負担することもまた arm's length principle に 適っていない , という理由で , アイルランド法 人の費用負担を少なくすることにより結果とし てアメリカ法人からアイルランド法人への利益 移転を可能にした事例も存在している 12 ) 。 arm's length principle の下で事業再編によ るこうした租税回避を課税庁が否認することは できないが , 納税者の主張する事業上の機能等 の配分が本当なのかという問題は別途残る。 の意味で , 企業が国別報告書を出すことを要請 することは , 適正な課税権配分の観点から有意 義であると評価できる。 Ⅳ . 国別報告書の合意とその後の 政治的動き 前稿 ( 注 1) でも紹介したように , 大規模な多 国籍企業グループは , 親会社所在地国において 各国関連会社の租税情報をまとめて申告し , 関 連会社所在地国は親会社所在地国から情報を得 る , ということになった。当初は , 関連会社所 在地国全てで企業が多国籍企業グループ全体の 租税情報を申告しなければならないという方向 が考えられていたが , 企業秘密が漏れるかもし れないといった懸念から , 親会社所在地国での 申告と , 情報交換を通じた課税庁間での租税情 報のやりとり , という形になった。日本では , 多国籍企業情報の報告に関するサイトが国税庁 ホームページに作成されている 13 ) 。 しかし , 欧州においては , 国別報告書とほば 12 ) x 浦脳 v. C 。襯川わ能ら 598 F. 3d 1191 (9th Cir. , March 22 , 2010 ) 。この問題の続編として , アメリカ法人とケイマ ン法人との間でストックオプション費用の配分が問題となっ ている事例である Altera Co . & 立 v. Co 川な 0 能 r , 145 T. C. No. 3 (July 27 , 2015 ) が注目を集めている ( 浅妻章如 「 Altera 事件等の外国の事例 : 移転価格と arm's length の関 係」租税研究 2016 年 9 月頃予定参照 ) 。 13 ) http://www.nta.go.j p/sonota/kokusai/takokuseki/ index. htm ( 平成 28 年 4 月に開設されたが 6 月に改訂された ) 参照。国税庁「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正 のあらまし」 ( やはり平成 28 年 4 月版から 6 月版に改訂され [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 54 同様の情報をインターネットにアップロードす べきという方向で話が進んでいる 14 ) 。市民団 体から見て , 大規模多国籍企業グループが租税 情報を隠していかがわしい租税逃れ ( 租税回 避 , 脱税を含め ) をしているという懸念が生じ ることも理解できないではないが , ややヒステ リックなのではないかという印象も受ける。あ まり良い比喩ではないが , 夫婦間や家族内でも 違法ではないがプライバシーとして明かしたく ない情報と共有すべき情報 ( 例えば離婚時の財 産分与や遺産の問題を考えると財産に関する情 報はそう簡単に秘匿性を認めるわけにもいかな い ) というものはあり , 企業と課税庁との関係 においても , 租税逃れが関係する情報と課税庁 には申告せざるをえないがほかとの関係では秘 匿しておきたい情報というものはあろう 15 ) 。 欧州における市民団体の企業への反発がやや ヒステリックなのではないかと思われる別の点 として , アメリカ系多国籍企業が欧州で手広く 商売をしているのに充分な税収を欧州各国にも たらしていないという反発があろうところ , 欧 州の顧客 ( 特に消費者 ) を相手に商売をしてい ることが欧州に課税権を配分することに結びっ くとは限らない , という点を指摘することがで きる。付加価値税の文脈では仕向地主義が国際 的に広く受け容れられている一方で , 前述の通 り , 所得課税の文脈では消費地に課税権を割り 当てるべしという考え方は未だ充分には受け容 れられていない。英国の diverted profit tax ( 迂回利益税 ) の動きに代表されるように , PE ている , http://www.nta.go.j p/shiraberu/ippanjoho/pamph/ pdf/h28iten-kakaku. pdf) も参照。 14 ) 浅妻章如「 BEPS 対策とは何かーーその鏑矢から現 在まで」 NBL1074 号 ( 2016 年 ) 1 頁等参照。 15 ) タックスへイヴン等が , 租税逃れやマネーロンダリ ングのために用いられることももちろんあるが , 金融に関 し , 資金供給者と資金需要者を直接結び付ける必要はなく , 資金需要者にとっては資金供給者側の内部事情はどうでもよ くて資金が提供されることが重要なのであるから , 法人・信 託・組合・匿名組合等の entity を駆使して , 必要な情報だ け通して資金供給のルートを作ることには意義がある。

5. ジュリスト 2016年8月号

スイスを代表する金融機関の元従業員による通 報をきっかけとして米国内での脱税ほう助に関 する捜査等が行われた事件 (UBS 事件 ) が相 次いで公になり 5 ) , 税の透明性 (tax trans- parency) を高めるための体制整備・一金融ロ 座情報の自動的情報交換体制の確立ーーを大き く前進させた。 具体的には , 2010 年に米国で外国口座コン プライアンス確保法 (Foreign Account Tax Compliance Act, FATCA) 6 ) が成立したことを 契機に , 金融口座情報の国際的な共有に向けた 議論が急速に進展し , 非居住者が保有する金融 口座情報の自動的情報交換を要請する共通報告 基準 (Common Reporting Standard, CRS) 7 ) の 策定という形で結実した ( 2014 年 ) 8 ) 。この枠 組には , バミューダ諸島 , イギリス領ヴァージ ン諸島 , ケイマン諸島 , スイスやシンガポール といった代表的なオフショア金融センターも参 加している。 こうした自動的情報交換体制の発展と並行し て , 金融危機以降 , 「税の透明性及び税務目的 の情報交換に関するグローバル・フォーラム」 が果たした役割も重要である。税の透明性を主 要議題として取り上げた 2009 年 G20 サミット ( ロンドン ) では , 非協力的な国・地域に対し て強い姿勢で臨むことが明らかにされ , グロー 1 ) 例えば , オフショア銀行を通じた金融所得の隠匿に よって , 主要国に年間 1 ) 億ドルの税収減をもたらしている とする Zucman 准教授の推計が有名である。 GabrieI Zucman, Taxing across 召 OM 施な . ・ル ac 石れ g Pe 0 記ル 20 ″ん and CO 挈 ora 怦な , 28 ( 4 ) JournaI of Economic Perspectives 121 ( 2014 ). 2 ) 2 開 5 年の設立件数 1 万 3287 社をピークとして , な お 2007 年が 1 万 2883 社であったのに対し , 8553 社 ( 2010 年 ) , 4341 社 ( 2015 年 ) と急減している。く https:〃panama papers.icij.org/graphs/〉 3 ) ただし , パナマ自体は , 情報交換への対応や自動的 情報交換実施へのコミットメントが特に遅れている国であっ 4 ) さしあたり吉村政穂「国際課税における金融口座情 報の共有体制の確立」金子宏ほか編「租税法と市場」 ( 有斐 閣 , 2014 年 ) 532 頁参照。 5 ) See generally Staff of Subcommittee on lnvestigations, 100th Congress, ルエ〃〃おれ〃 d し & Tax Co 川〃 ce 20 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 バル・フォーラムの改組 , そして加入国 ( 97 か国 ) に対するピア・レビューの実施が決定さ れた。グローバル・フォーラムは , 対象国・地 域の法制度および執行態勢をレビューし , 「国 際的に合意された租税基準 (internationally agreed tax standard) 」とされる , 情報交換に 関する国際的な基準 9 ) を遵守しているか否かを 判断する役割を担うことになった。 次に , タックスへイプンを利用した多国籍企 業の租税回避対策という観点からは , 税源浸食 と利益移転 (Base Erosion and profit Shifting, BEPS) プロジェクトを挙げることができる。 OECD ・ G20 によって 2012 年から進められて きた BEPS プロジェクトは , タックスへイプ ンに設立された子会社 ( 特に cash box と呼ば れる , 事業実態のない子会社 ) を利用した租税 回避策を問題視し , 2015 年に取りまとめた最 終報告書では , 移転価格税制 ( 行動 8 ー 10 ) お よび外国子会社合算税制 ( 行動 3 ) について , 関係する提言を行った。 また , 実体ルールを十分に機能させるため , 全体像 (big picture) の把握を助ける取組も進 められた。一定の多国籍企業グループによる国 別報告書の提出制度および関係国間での情報共 有体制の整備 ( 行動 13 ) である。多国籍企業 グループが事業を行う国々における国別の所 ( 2 開 8 ). 6 ) 米国人が保有する国外金融資産の把握を目的として , ①外国金融機関 (foreign financial institution, FFI) に対し て内国歳入庁との間で契約 ( いわゆる FFI 契約 ) を締結し て , 米国人が保有する金融口座の特定および同口座に関する 一定の情報の報告を行うよう求めるとともに , ②同契約を結 ばない場合 ( FATCA 不適格の場合 ) には , 広く米国の金 融商品等に起因する支払について 30 % の源泉徴収を課すこ とを予定していた。 7 ) OECD, & 0 れ da / 0 4 行 c Exchange F 加れ c / 図 cc 側加加 rma 加れ ( 2014 ). 8 ) 現在 , 日本を含む 101 の国・地域が , 2017 年末また は 2018 年末までに情報交換を開始することを約東している ( 2016 年 5 月 9 日時点 ) 。 <https://www.oecd.org/tax/trans parency/AEOI-commitments. pdf 〉 9 ) OECD, / 襯た襯 e 加ⅲ g the Tax ルロ〃挈 0 尾れ & 0 〃 d ホ . ・ / 〃 00 たド / お e 0 な 4 れイノな浦 c 〃 0 ( 2010 ).

6. ジュリスト 2016年8月号

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道機関に対して開示したものであって , そうす るとこの者はモサック・フォンセカ , またその 顧客との関係では秘密保持義務 (confidentiality) に違反しているということになる。また , この 者は刑事免責が与えられるのであればさらに捜 査に協力する用意があると述べている , との報 道もある 5 ) 。言うまでもなく , パナマ文書関係 の報道を端緒として , 日本の国税庁が他国の税 務行政機関から情報を取得し , それに基づいて 課税処分が行われる可能性もある 6 ) 。 そこで , 本稿では , パナマ文書の事例を念頭 において , 私人が何らかの法規範ないし他人と の間の義務に違反して取得した情報あるいはこ の情報を基にして得られた情報を課税処分等の 基礎としうるのか , また , 外国の税務行政機関 が取得した情報あるいはこの情報に基づいて得 られた情報が課税処分等の証拠となりうるの か , という問題を考えてみたい。 1 ) パナマ文書に関する以上の説明は , 主として朝日新 聞 2016 年 5 月 16 日東京版朝刊 2 面の記事に基づく。パナマ 文書が明らかにした問題点については , Yahoo! ニュースの 特集「「税逃れ」より「匿名性」こそが問題だ 「パナマ 文書」取材記者が語る」 ( 2016 年 5 月 28 日配信。 http:〃 news. yah00. c0.jp/feature/198 [ 2016 年 6 月 1 日閲覧 ] ) にお ける澤康臣 ( 共同通信社 ) と奥山俊宏 ( 朝日新聞社 ) の指摘 が的確である。 2 ) モサック・フォンセカが如何にしてアメリカの納税 者の脱税を手助けしていたかを推測させる記事として , 以下 のものがある。 Eric Lipton & Julie Creswell, Documents Show How WeaIthy Hid MilIions Abroad, The New York Times, June 6 , 2016 , at AI, A14 & A15. 3 ) その仕組みについては , 前注のニューヨーク・タイ ムズの記事中の "How Mossack Fonseca Helped Clients Skirt Or Break U. S. Tax Laws With Offshore Accounts" という 解説 ( A15 面 ) がわかりやすい。 4 ) 増井良啓「非居住者に係る金融口座情報の自動的交 換ーーー CRS が意味するもの」論ジュリ 14 号 218 頁 ( 2015 年 ) , 222 頁は「幽霊会社を何層にも介在させて資金の出所 を隠そうとしている場合に , 実質的支配者たる個人を特定す ることは著しく困難である」と指摘していた。 5 ) Scott Shane & Eric Lipton, Seeking lmmunity ⅲ Ⅱ . バナマ文書に基づく 課税処分等は可能か 1 . 違法な行政調査の後続する行為への影響 所得税や相続税といった申告納税方式の租税 について , 納税義務者が提出した納税申告書の 記載内容につき課税庁が更正する際 , 課税庁は 「その調査により」更正することとされている ( 国税通則法 24 条。決定についても同様であ る。同 25 条参照 ) 7 ) 。これらの租税についての 事務を担当する課税庁の職員には , これらの租 税に関する調査に係る質問検査権が与えられて いる ( 国税通則法 74 条の 2 以下 ) 8 ) 。質問・検 査を受ける者は , 応じなかった場合 , 1 年以下 の懲役または 50 万円以下の罰金に処せられる ( 国税通則法 127 条 2 号・ 3 号 ) 。講学上 , この 質問検査権の行使によって行われる調査は「行 政調査」と位置づけられている 9 ) 。 行政調査に際してその根拠法令に違反する事 実が存在した場合 , 国家賠償法上の責任が発生 すること 10 ) とは別に , 当該行政調査を基礎と Panama: Leaker of Tax Papers Would Assist Police, The New York Times, May 7 , 2016 , at A4 & A8. 6 ) 実際 , パナマ文書に関する報道から約 2 週間後の 2016 年 4 月 20 日開催された日本 ( 安倍晋三首相 ) とパナマ ( バレーラ (Juan Carlos Varela) 大統領 ) の首脳会談にお いて両首脳は当該情報交換に必要な自動的情報交換の規定を 含む日・パナマ租税情報交換協定の正式協議を早期に開始す ることで合意していたところ , 同年 5 月 20 日には第 1 回の 交渉が始まり , 早くも 5 月 23 日には日本の財務省により 「パナマ共和国との租税情報交換協定について実質合意に至 りました」との報道発表がされた。 7 ) 裁判例は , 「調査」の意義をかなり緩やかに解してい る。大阪地判昭和 45 年 9 月 22 日行集 21 巻 9 号 1148 頁は 「通則法 24 条にいう調査とは , ・・・・・・課税標準等または税額等 を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味すると解せら れる。すなわち課税庁の証拠資料の収集 , 証拠の評価あるい は経験則を通じての要件事実の認定 , 租税法その他の法令の 解釈適用を経て更正処分に至るまでの思考 , 判断を含むきわ めて包括的な概念である」と述べており , この一般論はその 後の多くの裁判例によって踏襲されている。 8 ) 質問検査権については , 佐藤英明「スタンダード所 得税法〔第 2 版〕』 ( 弘文堂 , 2016 年 ) 388 頁 ~ 399 頁参照。 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 25

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それでは , 行政調査における違法と後続する 行政庁の行為の正統性との関係をどのように考 えるべきか。具体的には , 質問検査権の行使に その根拠法令である国税通則法への違反があっ た場合 , このことは後続する課税処分に何らか の影響を及ばすだろうか。この点については , 質問検査権の行使と後続する課税処分との間に 密接な関連性があり 16 ) , また , 質問検査権の 行使を通じて獲得されたとされる証拠が強制に よって得られたものと評価できるならば 17 ) , 上記の刑事訴訟における証拠排除に関する学説 の枠組みに従って当該証拠の証拠能力が否定さ れる余地があると考えるべきではないだろう 力、 18 ) 。 なお , 証拠排除の問題としてとらえるのでは なく , 質問検査権の行使による情報収集を課税 処分 ( 行政処分 ) の前提たる行政手続と理解 し , 行政手続の瑕疵が行政処分の違法をもたら しうるか , という問題設定がありうる 19 ) 。し かし , 漠然と行政調査の違法性 ( 質問検査権行 使の違法性 ) 及びその重大性を判断してそれに 16 ) 次元が異なるが , 前出の最判平成 15 年 2 月 14 日は , 違法収集証拠を疎明資料として発付された捜索差押許可状に 基づいて差し押さえられた証拠につき , 当該証拠の差押えと 前記違法収集証拠との「関連性は密接なものではない」とい うことから , その証拠能力を肯定した。分析として , 池田公 博「違法な手続または証拠能力のない証拠と関連性を有する 証拠の証拠能力」ジュリ 1338 号 212 頁 ( 2 開 7 年 ) 参照。 17 ) 最大判昭和 47 年 11 月 22 日刑集 26 巻 9 号 554 頁は , 非刑事手続における強制にも憲法 35 条 1 項の保障の枠内に あるものが存在しうると述べている。 18 ) 裁判例においては , 1984 年頃までは調査手続の瑕疵 を主張することは主張自体失当であるという立場 ( 大阪地判 昭和 59 年 11 月 30 日行集 35 巻 11 号 1 6 頁 ) から税務職員 の質問検査権の行使の違法 ( 裁量権の逸脱・濫用 ) はこれに 基づく課税処分をも違法ならしめるという立場 ( 京都地判昭 和 59 年 4 月 26 日シュトイエル 274 号 1 頁 ) まで , かなり 様々な見解が見られたが ( 最高裁判所事務総局編「主要行政 事件裁判例概観 2 : 租税関係編」〔法曹会 , 1989 年〕 274 頁 ~ 277 頁参照 ) , 1986 年頃以降は , 「税務調査の手続の瑕疵 は , 原則として更正処分の効力に影響を及ほすものではな く , 例外的に , 税務調査の手続が刑罰法規に触れ , 公序良俗 に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなど 重大な違法を帯び , 何らの調査なしに更正処分をしたに等し 特集 / 国際的租税回避への法的対応 基づいて行政処分 ( 課税処分 ) の有効性が失わ れるかどうかを判断するよりも , 課税庁が訴訟 において提出する個々の証拠についてその証拠 能力の有無を判断する方が , 判断過程が批判可 能な形で示されるため , 適切なのではなかろう 2. 私人が不適切な方法で取得した情報に 基づく課税処分 次に , 私人が必ずしも適切とは言えない方法 で取得した情報を課税庁が課税処分を基礎づけ る証拠として ( あるいは納税者が課税処分の違 法性を基礎づける証拠として ) 利用することが できるか考えてみたい 20 ) 。具体的には , パナ マ文書で恐らくそうであるように , 内部告発者 が情報を取得し報道機関を通じて公開する場 合 , 税務行政機関等カ坏適切な方法で情報を取 得した私人から直接情報を取得する場合 (1) , 及び , 不適切な方法で情報を取得した私人が証 人となったりその作成した文書が書証となった りする場合が考えられる。 いものとの評価を受ける場合に限り , 更正処分の取消事由と なるものと解するのが相当である」 ( 東京地判平成 27 年 5 月 28 日裁判所 HP ( 平成 25 年 ( 行ウ ) 第 36 号 ) ) といった一般 論へと収斂している。 19 ) 金子宏「租税法〔第 21 版〕」 ( 弘文堂 , 2016 年 ) 873 頁及び塩野・前掲注 (1) はこのように問題設定していると考 えられる。また , 前注で引用した裁判例の一般論も , 同様の 問題設定を前提としているように読める。なお , 田中健治 「行政手続の瑕疵と行政処分の有効性」藤山雅行 = 村田斉志 編「新・裁判実務大系 ( 25 ) : 行政争訟〔改訂版〕」 ( 青林書院 , 2012 年 ) 1 % 頁も参胆 20 ) 私人が取得した情報については , 国税通則法が定め る質問検査権を行使するための要件のような情報取得を根拠 づける法規範が存在するわけではない。このため , 課税庁が 取得した情報と同じ意味で違法収集証拠ということはできな (1) 2 開 8 年 2 月にドイツ連邦情報局が , 4 開万ユーロ以 上の対価を支払ってリヒテンシュタインの銀行の元職員から 顧客情報を入手したという事例はこれにあたる。「「脱税の 巣」リヒテンシュタインの隠し口座 , 大捜査 : 独 , 顧客情報 を 7 億円で入手」朝日新聞 2 開 8 年 3 月 1 日東京版朝刊 7 面 参 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 27

9. ジュリスト 2016年8月号

この点につき , 刑事訴訟法の学説を見ると , ることを考えると , 一般論としては , 質問検査 「司法の無瑕性」の維持という観点から証拠が 権の行使に違法があった場合よりもなお , 証拠 排除される可能性があるとの指摘がある 22 ) 。 能力を否定する必要性は小さいと言わざるをえ これに対して , 民事訴訟においては , かっては ない。刑事訴訟法の学説と同様に , 「司法の無 証拠能力が否定されることはありえないと考え 瑕性」の観点から , 極めて例外的に証拠能力が られていたものの , 現在では証拠能力が否定さ 否定される場合がある , と考えるべきではない れる場合もあると考えられている 23 ) 。近年の か。なお , 私人が不適切な方法で収集した情報 民事訴訟法の学説では , 違法収集証拠排除の論 に基づく証拠の証拠カ ( 証明カ ) が実際上は小 拠は「当事者間の公平」及び「公正な裁判とそ さい , という可能性は十分に存在する。 れに対する信頼」という点にあり , また , 民事 3. 外国の税務行政機関が取得した情報に 訴訟法上の正当な証拠収集制度 ( 証拠保全 , 文 基づく課税処分 書提出命令 , 当事者照会等 ) を利用しないで収 集された情報については基本的には証拠能力を 外国の税務行政機関が取得した情報が課税処 否定するべきであるとの方針を示すものもあ 分を基礎づける証拠となりうることは , 明らか る 24 ) 。 である。確かに , 外国の税務行政機関は日本の それでは , 課税処分との関係ではどのように 国税通則法の質問検査権に関する定めに従って 考えるべきか。私人による不適切な情報収集そ 行動するわけではない。しかし , 日本は , 多国 れ自体について被害者が ( 契約違反 , 信認義務 間条約である税務行政執行共助条約 25 ) を締結 違反や不法行為に基づく損害賠償請求等によ しているほか , 数多くの二国間での租税条約な り ) 法的な救済を受ける余地があること , 及 いし租税情報交換協定を締結しているとこ び , 不適切な情報収集を行。た私人が何らカ : の ろ 26 ) , 租税条約実施特例法に外国税務行政機 刑事法によるサンクションを受ける可能性力あ 関が取得した情報の利用に関する特段の定めの 22 ) 井上・前掲注 14 ) 414 頁 ~ 417 頁。なお , 被告人と電 話で話した新聞記者が会話の内容を録音したテープの証拠能 力が争われた事案において , 最決昭和 56 年 11 月 20 日刑集 35 巻 8 号 797 頁は当該事案の事実関係の下では録音するこ とは「違法ではない」と判断し , テープの証拠能力を否定す る被告人の主張を退けた。もっとも , 注 20 ) で述べた観点か らすると , 本決定で「違法」というときにそのことが何を意 味しているのか , また , 「違法」という概念を用いて論じる 必要があったのか。必ずしも明らかでないように思われる。 23 ) 問題状況につき , 例えば , 林昭ー「窃取された文書 の証拠能力」民事訴訟法判例百選〔第 5 版〕 140 頁 ( 2015 年 ) , 杉山悦子「民事訴訟における違法収集証拠の取扱いに ついて一一適正な裁判を可能にする証拠収集制度を考える道 標として」伊藤眞先生古稀祝賀論文集「民事手続の現代的使 命』 ( 有斐閣 , 2015 年 ) 311 頁 , 堀清史「民事訴訟における 違法収集証拠についての覚書」臨床法務研究 ( 岡山大学 ) 14 号 1 頁 ( 2015 年 ) を参照。裁判例では , 例えば , 「民事訴訟 法は , いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがな く , 当事者が挙証の用に供する証拠は , 一般的に証拠価値は ともかく , その証拠能力はこれを肯定すべきものと解すべき ことはいうまでもないところであるが , その証拠が , 著しく 反社会的な手段を用いて , 人の精神的肉体的自由を拘東する 等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであると きは , それ自体違法の評価を受け , その証拠能力を否定され てもやむを得ないものというべきである」という一般論が述 べられている ( 東京高判昭和 52 年 7 月 15 日判時 867 号 60 頁 ) 。 24 ) 杉山・前掲注 23 ) 328 頁 ~ 335 頁。しかし , 民事訴訟 法の正当な証拠収集制度が重要であり , 特に , 民事訴訟法 220 条 4 号ハ・ニで提出義務を免れている営業秘密やプライ バシーが侵害から保護されなくてはならないとしても , 不法 行為に基づく損害賠償請求のような証拠排除以外の方法を通 じて上記制度及び営業秘密やプライバシーが護られる場合が あるということも考慮すべきなのではなかろうか。 25 ) その内容につき , 増井良啓「マルチ税務行政執行共 助条約の注釈を読む」租税研究 775 号 253 頁 ( 2014 年 ) 参 照。 26 ) こで , 租税条約 ( 租税協定 ) とは , OECD モデル 租税条約のような所得課税に関する国際的二重課税排除のた めの条約のことであり , 租税情報交換に関する定め (OECD モデル租税条約 26 条参照 ) も含むものである。これに対し て , 租税情報交換協定とはもつばら租税情報交換について定 めた条約であって , 前掲注 6 ) で言及したパナマとの条約は こちらに属する。 28 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

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ArticIe Special Feature 特集国際的租税回避への法的対応 神戸大学教授 「バナマ文書」に基づく 課税処分及び脱税犯の訴追の可能性 渕圭吾 Fuchi Keigo I. はじめに 1 . 財産の帰属関係を 不明にすることが問題である 「パナマ文書 (the Panama Papers) 」が話題 になっている。パナマ文書とは , タックス・ヘ イプンでの会社設立に携わるパナマの法律事務 所「モサック・フォンセカ (Mosack Fonseca) 」 が作成した業務用ファイルで , 顧客とのやりと りや登記関連の申請書類など 1150 万点の情報 が含まれる。匿名の人物から南ドイツ新聞が入 手し ICIJ ( 国際調査報道ジャーナリスト連合 (the lnternational Consortium of lnvestigative Journalists)) を通じて , 各国の報道機関 ( 日 本では朝日新聞社と共同通信社 ) が分析と取材 を進めてきたものである 1 ) 。 2016 年 6 月上旬 現在 , パナマ文書についての本格的な分析はよ うやく少しずつ現れてきているという状況であ り 2 ) , パナマ文書が何を明らかにするのか , ま た , どの程度の影響を及ばすのか , については まだわからない。 しかし , 世界各国の租税制度との関係でタッ クス・ヘイプンの何が問題なのか , ということ は , すでに明らかになっていると言ってよい。 言で言うならば , タックス・ヘイプンにおけ る公益信託や財団法人の設立及びそれらへの財 産の移転を通じて意図的に財産の帰属関係が外 24 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 部からわからないようにし , それによって , 相 続税 ( 遺産税 ) の脱税を行うことが , 可能に なっている 3 ) 。すなわち , もはや自分の財産で はなくなったというフリをしておきながら , 実 際には必要に応じてその財産を費消し , にもか かわらず , 相続税の申告の際には相続財産に含 めない。ところが , 世界各国の課税当局は , 何 層にも積み上げられた公益信託や財団法人の存 在により , また , タックス・ヘイプンが必要な 情報を提供しない ( 場合によってはそもそも把 握していない ) ことにより , 真の財産の帰属関 係を把握することが難しく , 結局 , 脱税を立証 務署長またはその上位の機関 ) としては , 則調査・捜査を行うことで , 日本の課税庁 ( 税 るいはこれらの情報を端緒として税務調査・犯 パナマ文書に含まれている情報を利用し , 課税処分等の基礎となりうるか 2. バナマ文書に含まれる情報は できないかもしれないのである 4 ) 。 これ あ ンセカの内部の者が何らかの意図に基づいて報 もっとも , パナマ文書は恐らくモサック・フォ 下 , これらを併せて「課税処分等」と呼ぶ ) 。 て訴追することが可能になるかもしれない ( 以 た , 日本の検察庁は同様の納税者を脱税犯とし なかった納税者に対して課税処分を行い , ま まで情報不足により課税処分をすることができ