1496 - みる会図書館


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1. ジュリスト 2016年8月号

Monthly Juri-site 次号予告 特集 震災と企業法務 8 月 25 日発売 / 9 月号 / 1497 号定価 1440 円 鼎談 連載 ・企業の防災・ BCP における 国際ビジネス紛争処理の 法的課題 / 法実務⑥ / 松井秀樹・津久井進・中野明安 島田まどか / 一井泰淳 ・震災と株主・投資家対応 / 時論 / 広瀬元康 松井秀樹 lnformation Lounge 木村敬 ・震災時の労務対応 / 荒井太一 ・震災と契約法務 / 荒井正児 ・震災と金融業務 / 小田大輔・吉田和央 前号のご案内 編集室メモ ・パナマ文書の公表などにより世界的な資産 7 月号 / 1495 号定価 1440 円 Monthlyl Jurist 隠しや税逃れに批判が高まっています。本号で 特集 は , タックス・コンプライアンス , 一般的租税回 会社法施行 1 0 年の 避否認規定など , 国際的租税回避への法的対 応策についてご検討いただきました。 ( 足立 ) 実情と課題 ・京都支店の設備の補修や更新をすることにな りました。特に先生方の目に触れる機会の多い ・特集にあたって / 神田秀樹 会議室もその対象となりそうです。工事の完了 8 月号 / 1496 号 ・上場会社による種類株式の利用 / は年明けの頃 ? 来年に支店の会議室で会合を Aug. 2016 NO. 1496 加藤貴仁 される先生方 , ぜひ御期待ください。 ( 大原 ) ・選挙のたびに投票率の低さが話題となるが , ・コーポレート・ガバナンスと社外取締役 2016 年 8 月 1 日発行 選挙権が「 18 歳以上」に拡大されてから初の参 の位置づけ / 前田雅弘 毎月 1 回 1 日発行 院選も例外ではなかった。いよいよ改憲を問 ・監査等委員会設置会社の現状と課題 / 編集人 / 亀井聡 う国民投票が現実味を帯びるなか , 低投票率 神田秀樹・山中利晃 発行人 / 江草貞治 が常態化したままでよいのだろうか。 ( 浦川 ) ・取締役報酬に関する規律の現状と課題 / デザイン / 株式会社キタダデザイン ・青々とした草原の中 , 新築の家々がまばら 伊藤靖史 印刷所 / 株式会社暁印刷 に建っていた。多くが津波に流された石巻の , ・会社補償及び D & 0 保険の最新動向と 発行所 / 株式会社有斐閣 2016 年初夏の風景だ。整然とした仙台市内と 課題 / 武井一浩 の落差に , 「また来てくださいね」との言葉に , 気 ・株主総会に関する法制の現状と課題 / がっくと両手が土産で塞がっていた。 ( 川村 ) 株式会社有斐閣 尾崎安央 ・母親と旅行へ。少しばかり孝行のつもりが , 101 ー 00 51 ・子会社管理義務をめぐる理論的課題 / 私への心配は尽きないようで , いつまでも親は 東京都千代田区神田神保町 2 ー 17 舩津浩司 親 , 子は子。親子に限らず師弟や先輩後輩もあ [ 本社 ] ・キャッシュアウトの合理性を活かす るいはそのようなものかもしれませんが , 何が 有斐閣本社ビル しか応えられる日がくるのかどうか。 ( 三宅 ) 法制度の構築 / 飯田秀総 営業部 / 電話・・・・・・・・・ 03 ー 3265 ー 6811 : 渋めのワインが好きでお願いしたところ「渋 ・組織再編法制 / 中東正文 定期購読係 / 電話・・・ 048 ー 465 ー 8321 みを感じるワインは失敗作で置いていない」と [ ジュリスト編集室 ] 言われた。その真偽はともかく , 断言する姿勢 神田神保町ピル 10 階 に感心した。「頑固」の評価も聞かれる店だが , 電話・・・ ・・・ 03 ー 3264 ー 1311 同じ作り手としてどこか見習いたい。 ( 亀井 ) FAX ・・・ ・・・ 03 ー 3264 ー 1250 E-mail ・・ ・・・ jurist@yuhikaku.co.jp http://www.yuhikaku.co.jp 本書の無断複写 ( コピー ) は , 著作権法上 での例外を除き , 禁じられています。複写さ れる場合は . そのつど事前に , ( 社 ) 出版者著作権管理機構 ( 電話 0 3 ー 3 5 1 3 ー 6 9 6 9 . F A X 0 3 ー 3 5 1 3 ー 6 9 7 9 . e-mail : info@jcopy.or.jp) の許諾を得てください。 アユリ入ト アユリ入ト 会社法施行 10 年の 実情と課題 お詫びと訂正 小誌 1495 号 15 頁記載の加藤貴仁先生の現職 「東京大学教授」は「東京大学准教授」の誤りで す。お詫びして訂正いたします。 JCOPY [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 120

2. ジュリスト 2016年8月号

最高裁時の判例 保証協会の双方に主債務者が反社会的勢力であ 責の成否についての考え方を示したものとし て , 実務上参考になると思われるので , 紹介す るか否かを調査すべき義務があることを明らか にした ( なお , 当事者の一方が , 保証契約の締 る次第である。 結や融資の実行前に , 主債務者が反社会的勢力 であることを把握していた場合には , これを他 方当事者に知らせて , 保証契約の締結や融資の 実行をしないようにすべき義務があることは言 を俟たないであろう ) 。もっとも , 信用保証制 度を利用して融資を受けようとする者が反社会 的勢力であるか否かを調査する有効な方法は , 実際上限られている。このため , 本判決は , 調 査の程度について , 調査の時点において一般的 に行われている調査方法等に鑑みて相当と認め られるものであればよいとして , 高度の調査義 務は課していない ( なお , 本件の差戻し後の控 訴審〔東京高判平成 28 ・ 4 ・ 14 金判 1491 号 8 頁〕は , X 銀行が行った調査について , 政府 関係機関による指針等の内容に照らして , その 時点において一般的に行われている調査方法等 に鑑みて相当と認められるから , X 銀行に調 査義務違反は認められないとして , Y の保証 免責の抗弁を排斥しているが , 調査義務違反の 有無の具体的な判断の在り方を示す事例として 参考になると思われる ) 。 2 そして , 本判決は , 金融機関に前記の意 味での調査義務違反が認められ , その結果 , 保 証契約が締結されたといえる場合には , 本件免 責条項にいう「保証契約に違反したとき」に該 当し , 信用保証協会が , 同条項により保証契約 に基づく保証債務の履行の責めを免れるとの判 断を示した。ただし , 免責の範囲を決めるに当 たっては , 信用保証協会の調査状況等も勘案す るとして , 一部免責の可能性もあり得ることを 示唆した。これは , 比喩的にいえば , 過失相殺 的な処理も可能であることを示唆したものと考 えられる。 本件は , 事後的に主債務者が反社会的 Ⅳ 勢力であることが判明した場合に関し , 高裁での判断が分かれていた金融機関と信用保 証協会との間の保証契約の錯誤無効の成否につ いての事例判断を示すとともに , 新たに保証免 一三 75 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

3. ジュリスト 2016年8月号

特 集 中米バナマの法律事務所から流出した 「バナマ文書」が公表され , 世界的な資 産隠しや税逃れに注目が集まり , また , 批 判も高まっています。本特集では , 国際 的租税回避への法的対応策について , 理論と実務の両面から分析しました。 SpeciaI Feature 国際的 租税回避への 法的対応 lndex タックス・シェルターからタックス・コンプライアンスへ 国際的脱税・租税回避への対抗 「バナマ文書」に基づく課税処分及び 脱税犯の訴追の可能性 一般的租税回避否認規定の適用が争われた裁判例 一般的租税回避否認規定 一般的租税回避否認規定について 国際的情報収集 1 1 2 3 3 4 5 実穂吾志子生如 政圭剛裕忠章 里村 藤崎村妻 中吉 渕伊宮岡浅 13 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

4. ジュリスト 2016年8月号

Yanaga Masao ロ筑波大学教授 弥永真生 会社法判例速報 ロ東京地判平成 27 年 9 月 7 日 平成 26 年 ( ワ ) 第 26378 号 , 株式会社 CDM コンサルティング対 FBC 株式会社 , 株主総会決議無効確認等請求事件 , 判時 2286 号 122 頁 事実 「会社法 109 条 2 項は , 公開会社でない株式 会社は , 残余財産の分配を受ける権利 ( 105 条 Y ( 被告 ) の株主である X ( 原告 ) と Z ( 被告補助 1 項 2 号 ) に関する事項について , 株主ごとに異なる取 参加人 ) は , 平成 25 年 1 月 8 日 , 基本合意 ( 本件基 扱いを行う旨を定款で定めることができる旨規定する 本合意 ) を締結し「 X 及び X 社長 A は , 除染に関 し , それぞれが所有する知的財産権 ( ノウハウ , 営業 が , その趣旨は , いわゆる閉鎖会社においては , 株主の 異動力泛しく , 株主相互の関係が緊密であることが通 秘密等を含む。 ) の全てについて , 速やかに , Y に独 占的な専用実施権 ( 期間 3 年 ) を賦与する」と ( 第 3 常であることから , 株主に着目して異なる取扱いを認 めるニーズがあるとともに , これを認めることにより 項 ) , 「 Y の解散時における残余財産については , 現 預金その他の金融資産全てを Z が , 金融資産以外の 特段の不都合が生じることはないと考えられるためで 全ての財産を X がそれぞれ配分を受けるものとす あると解される。・・・・・・そうすると , 残余財産の分配に関 る。」と ( 第 6 項 ) , それぞれ定めていた。 する属人的な定めについて , 定款変更という形式がと その後 , Y は , 同年 11 月 20 日開催の株主総会に られなくても , 全株主が同意している場合などには , おいて , X が本件基本合意に基づく特許権の専用実 定款変更のための特殊決議があったものと同視するこ 施権を付与しなかったことから , Y の事業遂行が不 とができるし , 他に権利を害される株主がいないので 可能になったとして , Y を解散する旨の決議をした。 あるから , 会社法 109 条 2 項の趣旨に反するところ はなく , 有効であると解すべきである。 ( なお , このよう そして , Y は , 平成 26 年 6 月 30 日 , 同日時点の残 余財産である 7994 万 227 円のうち , X が支払請求を に解さないで , 前記の属人的な定めについて , 全株主が していた額の一部である 217 万 2687 円を留保した上 同意しているのに , 定款変更という形式がとられなかっ で , その余を , B (X から平成 25 年 2 月 26 日に Y たことのみをもって , その効力が否定されると解する の株式を譲り受けた ) 及び Z に対して残余財産とし ことは , 禁反言の見地から相当でないと思われる。 ) 」 て分配した。他方 , X は , Y に対し , 同年 7 月 4 日 「会社法 502 条は , 株主の残余財産分配請求 Ⅱ 到達の内容証明郵便により , X が Y に対して少なく 権が会社債権者に劣後するという本質的なこと とも 229 万 7220 円の債権を有している旨主張すると を明らかにする規定であり , 同条ただし書は , 迅速な ともに , X の保有する株式数に応じた残余財産の分 清算手続のために , 相当財産を留保することによって 配をするよう請求した。ところが , Y は , 同年 7 月 債権者が株主に優先することを確保した場合に限っ 10 日 , 留保していた財産も , B 及び Z に対して残余 て , 債務弁済前でも残余財産の分配を認めたものと解 される。すなわち , 同条ただし書は , 債権者の主張す 財産として分配し , 同日開催の臨時株主総会におい る債権の存否又は額について争いがあるにもかかわら て , 清算事務が終了したとして , 決算報告を承認する 旨の決議 ( 本件決議 ) をした。 ず , 清算会社においてこれがないものとして残余財産 そこで , X が , 本件決議が無効であることの確認 を分配した後に , 上記債権の存在及び額が確定した場 を求めるとともに , 残余財産の分配及び遅延損害金の 合には , 債権者の優先性が害されることとなるが , そ 支払を求めて訴えを提起したのが本件である。 のような事態を避ける趣旨であると解される。そうす なお , 平成 25 年 11 月 20 日時点の Y の株主は , X ると , 清算会社は , 清算会社に対する債権の存在を主 ( 1 万 8 開 0 株 ) , z ( 4 万株 ) , B ( 2000 株 ) であった。 張する者がいる場合には , 債権者が債権の存在及び額 についての根拠を全く示さないなどといった特段の事 判旨 情がない限り , その存否及び額が確定するまでは , 相 一部認容 , 一部棄却 ( 東京高判平成 28 ・ 2 ・ 10 金判 当財産を留保しない限り , 株主に対する残余財産の分 1492 号 55 頁により控訴棄却 ) 。 配を行ってはならず , その存否及び額を確定すること に努めるべきものと考えられる。」 2 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

5. ジュリスト 2016年8月号

の考慮要素の 1 っとすべきである。 このように考えるならば , 第三者による婚姻侵害が 法適用通則法 20 条のもとで同 25 条に定める準拠法 と同一の法に附従的に連結される可能性を否定すべき ではないであろう。とくに本件のように Y と XI ら夫 婦の本国法が同一とみられる場合には , ここでの附従 的連結が第三者 (Y) の予測を害することもないと思 われる。しかし , 本件では不貞行為がニューヨークで 行われるなど , 上記以外に日本との結びつきがそれほ ど強いわけではないから , 法適用通則法 17 条に従い ニューヨーク州法を適用した判旨Ⅲの判断は , 結論的 には妥当であった。 そうすると , 今度は法適用通則法 17 条にいう「加 害行為の結果が発生した地」 ( 結果発生地 ) の解釈が 問題となる。学説上は , 被害者が不貞行為の事実を 知った当時の被害者の居住地とする見解 ( 佐藤文彦・ 平成 25 年度重判解〔ジュリ 1466 号〕 301 頁 ) や , 婚 姻の身分的効力に関する同 25 条に定める地が結果発 生地になるとする見解 ( 村上幸隆・戸籍時報 717 号 22 頁 ) などがある。判旨Ⅲは上記のいずれとも異な り , 「不貞行為の当時」の「 XI の生活の本拠」を基準 としている。これは不貞行為 , すなわち加害行為の当 時の被害者の住所地または常居所地を基準としたとみ ることもできるが (See Webb and North, Thoughts on the PIace of Commission of a Non-Statutory Tort, 14 1. C. L. Q. 1314 , p. 1354 ) , むしろ , 夫婦間の 「関係」的利益の侵害は夫婦の婚姻共同生活地で発生 するとの立場から , 本件では XI と X2 の生活の本拠 が一致しないために , X2 が XI の居住するニュー ヨークに渡航して同地で婚姻共同生活を営んでいた点 を重視したものとして , 判旨の考え方を積極的に評価 したい。 2 判旨Ⅳは , Y がニューヨークにおいてメールを 送付して行った名誉毀損行為と日本においてしたそれ とを一括し , Y の名誉毀損行為が日本語でなされて いたことやその相手の多くが日本国内に所在していた ことなどから , XI の常居所地 ( 法適用通則法 19 条 ) であるニューヨークよりも日本が密接関係地 ( 同 20 条 ) といえるかどうかを検討している。しかし , 国際 裁判管轄につき加害行為をニューヨークと日本とで分 けてとらえるならば ( 上述Ⅱ 2 参照 ) , 20 条における 密接関係地の検討も名誉毀損行為ごとに行う方が親和 的である。本件では Y の名誉・信用毀損行為の時間 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 118 的・内容的近接性によってこの点が曖味であるけれど も , たとえば名誉毀損情報の内容が異なる場合や , 内 容が同一であっても発信に時間的間隔がある場合など には , それぞれ別個の行為として準拠法を考えること になると思われる ( 渡辺惺之「インターネットによる 国際的な民事紛争と裁判」高橋和之ほか編・インター ネットと法〔第 4 版〕 357 頁参照 ) 。 3 最後に , 本判決の法適用通則法 22 条 2 項の適 用の仕方 ( 判旨 V ) は首肯できない。本判決は同項を 根拠に日本法のみによって慰謝料額を認定しようとす るけれども , これでは日本法がニューヨーク州法より も高額な慰謝料額を認定する場合に不当な結果をもた らすことは明らかであり , 同項の適用を誤ったものと いうべきである。 本判決の評釈として , 長秀之・ NBL 1060 号 73 頁 がある。なお , 脱稿後に中西康・平成 27 年度重判解 ( ジュリ 1492 号 ) 302 頁に接した。

6. ジュリスト 2016年8月号

2016 August # 1496 特集 国際的租税回避への 去的対応 Special Featu 「 e Page タックス・シェルターからタックス・コンプライアンスへ 中里実 14 ー会社法と租税法の融合の必要性 国際的脱税・租税回避への対抗 吉村政穂 19 バナマ文書の影響 「バナマ文書」に基づく課税処分及び 渕圭吾 24 脱税犯の訴追の可能性 一般的租税回避否認規定の適用が争われた裁判例 伊藤剛志 31 旧 M 事件とヤフー / IDCF 事件 一般的租税回避否認規定 宮崎裕子 37 実務家の視点から く国際的租税回避への法的対応における 選択肢を納税者の目線から考える〉 一般的租税回避否認規定について 否認理論の観点から 国際的情報収集 残余財産分配と決算報告承認決議無効 会社法判例速報 ー東京地判平成 27 ・ 9 ・ 7 ハラスメントの調査・認定申立てに対する 労働判例速報 調査委員会の不設置等の配慮義務違反性 一学校法人関東学院事件 東京高判平成 28 ・ 5 ・ 19 協調的行動が生じやすい市場における企業結合審査 井本吉俊 6 独禁法事例速報 ー公取委発表平成 28 ・ 3 ・ 18 バロディ商標と不登録事由 小林利明 8 知財判例速報 一知財高判平成 28 ・ 4 ・ 12 多数の会社名義による不動産取引収益の人的帰属 佐藤英明 10 租税判例速報 東京高判平成 28 ・ 2 ・ 26 文 岡村忠生 44 浅妻章如 51 弥永真生 2 水町勇一郎 4

7. ジュリスト 2016年8月号

に止まるというべきであるのに , 被告人以外の 第三者の存在が強くうかがわれるとした点の 2 点に誤りがある旨指摘していたことを踏まえ , それぞれについて検討を加え , いずれの点でも 第 1 審判決の判断は明らかに不合理で , 経験則 に照らして不合理な判断といわざるを得ないと 説示している。詳細は決定書を参照されたい が , 本件の第 1 審判決は , A 供述の信用性判 断に当たって客観証拠である通話記録との整合 性自体は詳細に検討していたことから , 上記実 務家の論稿にあるような客観証拠の見落とし・ 矛盾といった問題点があったわけではないが , 受信が記録されていないなどといった通話記録 の性質に十分配慮しないまま , その証拠価値を 過大視し , それと A 供述との整合性を細部に ついて必要以上に要求したというべき証拠評価 をしていた点や , 抽象的な可能性というべき指 摘のみに基づいて A に指示を与えていた被告 人以外の第三者の存在の疑いを導き出し , A 供述の信用性を否定する評価をしていた点など が , 経験則違反というべき明らかに不合理な判 断と解されたものであろう。 本決定は , 平成 24 年判例の要請を満 Ⅳ たす控訴審判決として新たに一事例を追 加したもので , 控訴審の審査の在り方を検討す る上で参照価値が高いとともに , 共犯者供述の 信用性の判断の在り方に関しても参考になるも のと思われる。なお , 第一小法廷は , 本決定と ほば同じ時期に , 保護責任者遺棄致死被告事件 に関し , 被害者の衰弱状態等を述べた医師らの 証言が信用できることを前提に被告人両名を有 罪とした裁判員裁判による第 1 審判決を事実誤 認を理由に破棄した控訴審判決について , 刑訴 法 382 条の解釈適用を誤った違法があるとして 破棄 , 差戻しとしており ( 最ー小判平成 26 ・ 0 3 ・ 20 刑集 68 巻 3 号 499 頁 ) , 併せて参照され 86 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496

8. ジュリスト 2016年8月号

ArticIe SpeciaI Feature 特集国際的租税回避への法的対応 一般的租税回避否認規定について 京都大学教授 岡村忠生 Okamura Tadao ー否認理論の観点から I. 一般的否認規定のモデル 44 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 ず , 検討結果も普遍性を持ち得ないからであ いことにすると , 検討対象が客観的に定まら る 5 ) 。租税回避の意味を , 皆が別々に決めてよ 規定を客観的に検討することは不可能であ ことができない。そのため , 租税回避に関する ず 4 ) , 同一事実に対して誰もが同じ判断をする 意味 ) についての共通理解が形成されておら 葉の上の定義のことではなく , 本当の実質的な 少なくとも今のところ , 租税回避とは何か ( 言 厳密に捉えたものと考えられる。このように という見解がある。これは租税回避行為を狭く で〕税法上承認された行為にほかならない」 3 ) その限りで〔否認規定の対象とならない限り り異なるであろう。他方で , 「租税回避行為は の否認には根拠規定を必要とするかどうかによ 税回避に必要な要素とするか , また , 租税回避 規定と減免規定の両者 ) の充足がないことを租 ぎなかったのか ) は , 課税要件規定 ( 課税根拠 であったのか , 失敗した租税回避の試み 2 ) に過 租税回避と見るのか否か ( 否認された租税回避 いことである。たとえば , 外税控除事件 1) を , て , 理論的 , 学術的な共通理解が得られていな かし , まず問題となるのは , 租税回避につい 般的租税回避否認規定を論じることにある。し 本稿に与えられた課題は , 理論的観点から一 る。 以下では , この規定を「モデル否認規定」と呼 きるが , 個別的否認規定により代替できる ) 。 ( この性質を持たない否認規定を作ることはで の本質的な要素であり , 欠くことはできない し , 少なくとも前者の権限付与は , 一般的否認 現在の権力分立を変更する可能性がある。しか 量権を与えている。これらは , 租税法律主義や 文言により , 原則として司法審査に服さない裁 る権限を与え , 「税務署長の認めるところ」の より , この規定以外の法令とは異なる課税をす する法律の一切の規定にかかわらず」の文言に この規定は , 税務署長に対して , 「租税に関 る。 じるように , 一般的否認規定の重要な性質であ でなく , 対象を無限定とすることは , 以下で論 租税回避に限定していない。しかし , それだけ この規定は , 上記の理由から , 否認の対象を る。 ろにより , 租税の額を計算することができ 規定にかかわらず , 税務署長の認めるとこ 税務署長は , 租税に関する法律の一切の 否認規定を考える。次の規定が考えられる。 論者が想定する租税回避をも包含できる一般的 そこで , 本稿は , 検討対象として , いかなる

9. ジュリスト 2016年8月号

ArticIe Special Feature 特集国際的租税回避への法的対応 東京大学教授 タックス・シェルターから タックス・コンプライアンスへ 中里実 Nakazato Minoru 会社法と租税法の融合の必要性 はじめに OECD における BEPS プロジェクトの進行 と , パナマ文書の内容の公表を機会に , 現在 , 国際的な課税逃れに対する関心が急速に増して いる。これを受けて , 国際的課税逃れへの対応 策に関して , 総論としての本稿と , 国際的な情 報収集・実態解明関係 3 本 , 租税回避否認関係 3 本の論文からなる本特集を企画した。本稿に おいては , 国際的課税逃れ対応策の背後に存在 するタックス・コンプライアンスという考え方 について , 会社法との関係において述べる。 なお , パナマ文書については様々な報道がな されているが , インターネットでリークされた 情報それ自体の信頼性の問題 , 証拠力の問題 , プライバシーの問題等も関連してくるので , こではそれ自体について述べることはせず , 本 特集の他の論文に委ねたい。 I. タックスへイブンの利用目的 タックスへイプンの利用目的は , おおまかに いって , ①規制への対応 , ②課税逃れ , ③資産 隠し , ④取引隠しの 4 つであると考えられる。 このうち , ①は , 便宜置籍船等の実物経済活 動に関連する場合もあるが , 通常は , 金融関係 の業法規制に対応するためであることが少なく [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 ない。例えば , 日本法人が外国法人を保有する 14 場合 , 投資撤退に関する規制の厳しい外国から の投資撤退を容易にするために , タックスへイ プンの法人等を通じて株式保有をすること等は 幅広く行われているが , この類型に該当する。 また , ②についてであるが , ーロに課税逃れ といっても様々な形態が存在する。この問題と の関連で最も重要なことは , その具体的な手 法 1) を明らかにすることであるが , タックスへ イプン諸地域との租税条約における情報交換等 を通じて , 日本の納税者の情報は , 昔と比べる とかなり明らかにされている。 さらに , ③は , 収賄等の犯罪行為等により手 にした金銭等を隠すことであり , 問題が問題で あるだけに , 実態は闇に包まれている場合が少 なくないと考えられる。また , ④は , 犯罪行為 等に関連する取引を隠ぺいするために送金等を 隠すものであり , ③と同様のことがいえる。 重要なのが , 企業が当事者である場合 , ①と ②と③と④のいずれについても , 会社法との関 係で深刻な問題を生じうるという点である。し かし , 一般的にいって , 会社法の専門家のこの 問題に関する関心は低いのが実情である。 Ⅱ . 日本における議論の停滞と再開 日本における国際的課税逃れに関する議論 は , タックスへイプン対策税制や移転価格対策 税制等の法制度の解説がもつばらで , 課税逃れ

10. ジュリスト 2016年8月号

ArticIe Special Feature 特集国際的租税回避への法的対応 神戸大学教授 「バナマ文書」に基づく 課税処分及び脱税犯の訴追の可能性 渕圭吾 Fuchi Keigo I. はじめに 1 . 財産の帰属関係を 不明にすることが問題である 「パナマ文書 (the Panama Papers) 」が話題 になっている。パナマ文書とは , タックス・ヘ イプンでの会社設立に携わるパナマの法律事務 所「モサック・フォンセカ (Mosack Fonseca) 」 が作成した業務用ファイルで , 顧客とのやりと りや登記関連の申請書類など 1150 万点の情報 が含まれる。匿名の人物から南ドイツ新聞が入 手し ICIJ ( 国際調査報道ジャーナリスト連合 (the lnternational Consortium of lnvestigative Journalists)) を通じて , 各国の報道機関 ( 日 本では朝日新聞社と共同通信社 ) が分析と取材 を進めてきたものである 1 ) 。 2016 年 6 月上旬 現在 , パナマ文書についての本格的な分析はよ うやく少しずつ現れてきているという状況であ り 2 ) , パナマ文書が何を明らかにするのか , ま た , どの程度の影響を及ばすのか , については まだわからない。 しかし , 世界各国の租税制度との関係でタッ クス・ヘイプンの何が問題なのか , ということ は , すでに明らかになっていると言ってよい。 言で言うならば , タックス・ヘイプンにおけ る公益信託や財団法人の設立及びそれらへの財 産の移転を通じて意図的に財産の帰属関係が外 24 [ Jurist ] August 2016 / Number 1496 部からわからないようにし , それによって , 相 続税 ( 遺産税 ) の脱税を行うことが , 可能に なっている 3 ) 。すなわち , もはや自分の財産で はなくなったというフリをしておきながら , 実 際には必要に応じてその財産を費消し , にもか かわらず , 相続税の申告の際には相続財産に含 めない。ところが , 世界各国の課税当局は , 何 層にも積み上げられた公益信託や財団法人の存 在により , また , タックス・ヘイプンが必要な 情報を提供しない ( 場合によってはそもそも把 握していない ) ことにより , 真の財産の帰属関 係を把握することが難しく , 結局 , 脱税を立証 務署長またはその上位の機関 ) としては , 則調査・捜査を行うことで , 日本の課税庁 ( 税 るいはこれらの情報を端緒として税務調査・犯 パナマ文書に含まれている情報を利用し , 課税処分等の基礎となりうるか 2. バナマ文書に含まれる情報は できないかもしれないのである 4 ) 。 これ あ ンセカの内部の者が何らかの意図に基づいて報 もっとも , パナマ文書は恐らくモサック・フォ 下 , これらを併せて「課税処分等」と呼ぶ ) 。 て訴追することが可能になるかもしれない ( 以 た , 日本の検察庁は同様の納税者を脱税犯とし なかった納税者に対して課税処分を行い , ま まで情報不足により課税処分をすることができ