EU 個人情報保護規則のポイントと日本企業の対応扉 対してとられた施策について , 速やかに ( 遅く とも要求の受取から 1 カ月以内に ) 情報を提供 しなければならない。この期間は要求の複雑さ や件数に基づき , 最大 2 カ月延長されうるが , その際には , 延長の理由を , 要求の受取から 1 カ月以内に情報主体者に知らせられなければな らない。また何の施策も取らない場合は , 遅く とも 1 カ月以内にその旨とともに管轄機関への 不服申立てや法的な救済を求めることができる 旨を伝えなければならない。 また , これらの情報提供と要求への対応は無 料でなされなければならない。ただし , 情報主 体者からの要求が明らかに根拠のないものであ ったり , 過剰である場合には , 情報管理者は合 理的な手数料を請求したり , 要求を断ることも できる。 さらに情報が集められた当初の目的以外の目 的で情報処理を行う場合には , 情報処理を行う 前に , 情報管理者は情報主体者に対して , 新た な目的に関する情報その他適切な情報を提供し なければならない。また , 情報が情報主体者か ら直接得られたものでない場合には , 情報の入 手先に関する情報も提供しなければならない 2 。。 7 情報主体者の権利 GDPR では , 95 年指令の下で情報主体者に与 えられていた権利が現代の状況に合わせてアッ プデートされたとともに , 新しい権利も設けら れている。情報主体者の権利には以下のような ・修正する権利 ( 16 条 ) ・アクセスの権利 ( 15 条 ) ものが含まれる。 2 。 GDPR 1 4 条。 19 GDP 日 12 条。 ・プロファイリングに反対する権利 ( 22 条 ) ・処理に反対する権利 ( 21 条 ) ・データポータビリティーの権利 ( 20 条 ) ・処理を制限する権利 ( 18 条 ) ・消去の権利 ( 「忘れられる権利」 ) ( 17 条 ) これらの権利の中で , 特に重要と思われる権 利について以下説明を行う。 ( 1 ) 消去の権利 ( 「忘れられる権利」 ) この権利は検索エンジンに関わる訴訟などが ニュースになったことから , 新しい権利のよう に考えられているが , 実際には 95 年指令の下で すでに存在していた権利であり , GDPR では訴 訟の判決をふまえて , その権利の具体化と詳細 化を行っている。これは , 情報主体者は一定の 理由に基づいて , 情報管理者に個人情報の消去 を求めることができるという権利である。その 理由には以下のようなものが含まれる。 ・情報が収集または処理された目的に関して 必要がなくなった場合 ・情報処理が情報主体者からの同意によって 行われている場合に , その同意が撤回され , かっ他の合法性の条件などがあてはまらな い場合 ・情報主体者が情報の処理に反対し , かっそ れに優先する適切な理由が存在しない場合 , または情報主体者がダイレクトマーケティ ングに反対した場合 ・違法に情報処理がなされている場合 ・ EU または加盟国の法律に基づいて情報が消 去されなければならない場合 ・ 16 歳以下の未成年者ロ SS を提供するため に情報が収集された場合 また , 情報管理者が個人情報を公にしていた 場合は , 情報管理者は利用可能な技術と実施の コストを勘案したうえで , 当該情報を処理して いる第三者に通知を行い , 情報主体者が個人情 報のリンク , コピー , 複製の消去を求めている ことを伝えなければならない。ただし言論の自 由の権利や他の法律の下での義務を理由に削除 を拒むこともできるとされている。 ビジネス法務 20167 65
はなく , 著作権とは著作者に与えられたさま ざまな権利の総体だからである。著作権の概 要をまとめると【図表】のようになる。 2 著作権 = 「無断で〇〇するな」という権利 「著作権」という場合 , 「狭義の著作権」を 意味している場合が多い。狭義の著作権にも 多くの権利が含まれている。著作権法 ( 以下 「法」という ) は , 「著作者は著作物を〇〇 ( 例 : 複製 ) する権利を専有する」という形 で規定しているが , 簡単に言えば , 「〇〇権」 とは , 著作権者が他人に対して「勝手に〇〇 するなと言える権利」である。「他人」の立 場で見ると , 「著作権者に無断で〇〇すると ( 原則として ) 著作権侵害になる」というこ とである。「複製権」を例にすると , 著作権 者は他人に対して「自分の著作物を無断で複 製するな」と言える権利を持っており , 著作 物を複製したい者は , 著作権者から許諾を得 る必要がある。 ( 原則として ) と付記したの は , 著作権法上 , 著作権者の許諾を得なくて も利用できる場合が多く定められていること による。このような規定 ( 権利制限規定 ) に ついては , 第 3 回で詳述する予定である。 各権利の内容は , 字を読めばその内容の見 当がつくだろう。しかし実際には , 著作権法 上の用語には , 一般的な意味とは若干異なる 要素が含まれている場合もある。以下 , 事例 を検討しながら , ビジネスで問題となる可能 性が高い著作権について解説を加えたい。 3 複製権 ( 法 21 条 ) 複製権は , C 叩 yright という言葉からもわ かるように , 著作権の根幹をなす権利であ る。複製とは , 著作物を , 印刷・写真・複 写・録音・録画その他の方法により有形的に 再製することを意味する。デジタルデータと して保存することも複製になるため , 現代で は , 多くの場合 , 著作物の利用行為は複製を ビジネスシーンから考える著作権のキホン 伴うことになる。 事例 ( 1 ) のコピーは , 典型的な複製行為であ る。レジュメの内容にもよるが , 著作物とい える程度の創作性のあるレジュメであれば , 無断複製は原則として複製権の侵害になる。 レジュメには受講者の書き込みがあるという ことなので , 書き込みの分量が多ければ , も とのレジュメを原著作物とする二次的著作物 になっている可能性もある。しかし , 原著作 物の著作者 ( 原著作者 ) は , 二次的著作物の 利用に対しても著作権者と同様の権利を持っ ており ( 法 28 条 ) , 二次的著作物であっても , 原著作者に無断で利用することはできない。 受講者が熱心に大量の書き込みをしたレジュ メであっても , 原著作者 ( 事例の場合はおそ らくセミナー講師 ) に無断でコピーすること はできないことになる。部署内の少数コピー でも私的利用目的 ( 第 3 回で解説予定 ) には あたらないと考えられる。 4 譲渡権 ( 法 26 条の 2 ) 「譲渡権」と聞くと , 「買った本を人にあげ ると著作権侵害なのか」と思うかもしれない が , 譲渡権とは , 「著作物 ( 著作物の複製物 を含む ) を勝手に公衆に譲渡するな」と言え る権利である。著作権法上 , 「公衆」は不特 定の人に限らず , 特定多数の人も含むが , 個 人的に友人に書籍をあげる行為は公衆への譲 渡には該当しない。また , 譲渡権には「権利 の消尽」という制度がある。権利者や権利者 から許諾を受けた者によって , 公衆 ( 不特定 または特定多数 ) や特定少数の人に対して一 度著作物が譲渡されると , その著作物や複製 物がその後さらに譲渡されても , 譲渡権は働 かない ( 法 26 条の 2 ) 。つまり , 一度買った本 を権利者に無断で譲渡しても , 譲渡権侵害と はならないのである。事例 ( 2 ) の場合 , 配布資 料は講師が執筆した論文であり著作物なの で , 譲渡権は検討の対象となる。セミナーの ビジネス法務 20167 123
らも許諾を得ておくことが望ましい。さら に , 映画の原作者や脚本家は映画の著作権者 とは別に権利を持っているので , これらの権 利者 ( クラシカルオーサーといわれる ) から も許諾を得ることが必要となる。 さらに , 著作権法上 , 著作者ではないが著 作物の伝達に関与した一定の者に対して , 著 作権に類似する著作隣接権という権利が認め られている。本稿では隣接権の詳細は割愛す るが , 俳優や歌手といった実演家や , レコー ド製作者 , 放送事業者が著作隣接権者であ る。実演家には実演家人格権も認められてお り ( 法 90 条の 3 ) , 実演家の名誉声望を害する ような改変を無断で加えることはできない。 事例ではセリフの吹き替えが予定されている ので , 内容によっては俳優の実演家人格権を 侵害する可能性がある。このような場合に は , 俳優の許諾も得ておくことが望ましい。 映像コンテンツはこのように権利者が多岐 にわたることがあり , その場合事後的に権利 者の許諾を得るには手間と時間を要する。新 たに映像コンテンツを作る際には , 最初から 事後の利用を考えて権利処理をしておくこと が肝要だ。著作物の利用に関する契約につい ては , 第 5 回で取り上げる予定である。 2 職務著作 映画の著作物では , 著作者と著作権者が最 初から一致しないが , 他に , 創作者が著作者 にならない例として , 職務著作 ( 法 15 条 ) が ある。①著作物の創作について会社 ( 法人 ) が企画しており , ②会社の従業員が , ③職務 上の行為として創作し , ④会社の名義で公表 され , ⑤雇用契約や就業規則によって従業員 が著作者となることが定められていない場合 は , その著作物については , 創作した従業員 ではなく会社が著作者となる。ちなみに , 映 画の著作者についても , たとえば美術監督が 映画制作会社の従業員であり , 職務著作とし て映画の創作にあたった場合は , 美術監督個 人自身は映画の著作者にならない。 実務上は , 雇用契約や就業規則において , 業務上創作した著作物の著作権は会社に帰属 する旨を明記している場合が多い。後日の紛 争を避けるためにも , 著作権法の規定に依存 するだけではなく , 従業員と会社の間で明示 の合意をしておくことをお勧めする。 3 権利者不明の場合 Ⅱでは著作権を持つ者について解説してき た。映画の著作物は権利者が多く権利処理が 大変だと書いたが , 実務上さらに困るのは , 権利者が不明の場合である。古い作品に限ら ず , 比較的最近の作品であっても , 権利者の 連絡先が不明になっている場合は少なくな い。ビジネス上は , 権利者やその連絡先が不 明の著作物は使わない , またはリスクをとっ て無断で使ってしまうこともあると思うが , 「相当な努力を払ってもその著作権者と連絡 することができないとき」には , 文化庁長官 の「裁定」を得て , 相当額の補償金を供託す ることによって , 権利者からの許諾を得ずに 著作物を利用できるという制度がある ( 法 67 条 1 項 , 同 103 条 ) 。平成 28 年 2 月に文化庁は 過去に裁定を受けた著作物等のリストを公表 し , このような著作物等の権利者捜索につい て「相当の努力」のハードルを下げる措置を とって裁定制度の利便性向上を図った。権利 者に連絡が取れない作品を利用したい場合の 選択肢として , 裁定制度も覚えておきたい。 唐津真美 ( からつまみ ) 骨董通り法律事務所所属。 1993 年早稲田大学法学部 卒業 , 96 年弁護士登録 . 99 年米国ハーバード大学ロ ースクール LL. M. 修了 , 2000 年ニューヨーク州弁護士 登録。英国系法律事務所を経て 05 年より現職。アート・ メディア・エンターテイメント業界を中心に企業法務 全般を取り扱う。特に , 著作権等の知的財産権に関す る相談や紛争解決 , および国内・国際契約の作成・交 渉に関する助言が多い。 126 ビジネス法務 20167
連載ビジネスシーンから考える著作権のキホン 事例 I 著作権の中身 第 2 回 著作権の中身 外部講師作成のセミナー教材の活用 社外のセミナーに参加した。受講費用は 会社負担のため , 内容を社内で共有した い。セミナーの内容を下記のように活用し た場合 , 著作権法上の問題はあるか ? ( 1 ) 配布されたレジュメに自分で書き込み したものをコピーして , 所属する部署内 で配市する。 ( 2 ) 受付に余っていた配市資料 ( 講師が執 筆した論文 ) を持ち帰り , 配布する。 ( 3 ) セミナーの内容をレポートにまとめて 配市する。 ( 4 ) ( 3 ) のレポートとともにセミナーの配市 資料をイントラネットにアップする。 1 著作権 = 権利の束 著作権は「権利の束」と言われている。 「著作権」という単一の権利が存在するので 【図表】著作権の概要 著作者の有する権利 ( 広義の著作権 ) C0pyrigt1t 、 骨董通り法律事務所 弁護士唐津真美 第 1 回では , 著作物とは何かという問題 と , 著作権以外にも問題になりうる周辺の法 律について , ビジネスシーンで出会うことが 多いさまざまなコンテンツを足掛かりに解説 した。今回は , 著作権にはどのような権利が 含まれているのか , また誰が権利を持ってい るのか , という点を解説したい。 公表権 者権氏名表示権 著人同一性保持権 名誉声望保持権 複製権 翻訳・翻案権等 上演権・演奏権 権欟上映権 産乍公衆送信権・伝達権 側ロ述権 の展示権 権義頒布権 譲渡権 貸与権 ニ次的著作物の利用に関する 原著作者としての権利 122 ビジネス法務 2016.7
っ工 ( 銀」 2 級帳す級一 についての対抗要件は登記であり ( 民法 177 ウ・・・・・・ x : 不動産登記は不動産の物権変動の 条 ) , 動産についてのそれは引渡しである ( 民 対抗要件にすぎず ( ア・イの解説参照 ) , 成 法 178 条 ) 。本肢の記述の前段にあるように 立要件でも有効要件でもない。 不動産登記には対抗力があるが , これは実際 ・・・〇 : 公信力とは , 登記が真実の権利関 工・・ に権利を有する場合にその主張を認めるもの 係と一致していない場合において , 無過失で であり , 実際に権利を有しない者にまで権利 登記を信頼して取引をした者に , 真実の権利 の主張を認めるものではない。よって本肢の 関係があるのと同様の権利の取得を認める効 後段の記述は誤りである。 力である。わが国における不動産登記にはこ イ・・・・・・ x : 不動産に関する物権の得喪および のような効力は認められていない。 変更は登記法に定めるところに従いその登記 オ・・・・・〇 : 推定力とは , 登記によって公示さ をしなければ , 第三者に対抗することができ れた権利関係が実際には存在しない場合にお ないが ( アの解説参照。民法 177 条 ) , 民法 177 いて , その不存在を主張する者は , 反証をあ 条の登記をしなければ対抗できない第三者と げなければならず , 反証がないときは公示 は , 当事者以外のすべての者をいうわけでは ( 登記 ) どおりの権利関係があるという扱い なく , 不動産物権の得喪および変更の登記欠 を受けるという効力をいう ( 最判昭 34.1.8 ) 。 缺を主張するにつき正当の利益を有する者に わが国における不動産登記には公信力はない が ( 工の解説参照 ) , 限られる ( 大連判明 41.12.15 ) 。 この推定力はある。 ① 解 答 第 3 問一第 6 章第 1 節より出題ー 労働組合に関する次のア ~ オの記述のうち , その内容が適切でないものの組み合わせを① ~ ⑤の中から 1 つだけ選びなさい。 ア . 労働組合とは , 労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向 上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体をいう。 イ . 主として政治運動または社会運動を目的とする団体であっても , その目的が労働者の経済 的地位の向上を図ることであるときは , 労働組合と認められる。 ウ . 労働者が労働組合を結成するにあたっては , 事後に使用者の承諾が必要である。 工 . 労働組合は , 使用者に対し経費援助を求めることができる。 オ . 労働組合は , 組合規約を定め , 議決や運営を民主的に行わなければならない。 ① アイウ②アイオ③アェオ④イウ工⑤ウェオ 156 ビジネス法務 2016.7
( 2 ) データポータビリティーの権利 情報処理が同意または契約履行に必要である ことを根拠として行われており , かっ当該処理 が自動的な手段で行われている場合 , 情報主体 者は個人情報を一般的に利用されているフォー マットで受け取り , 他の情報管理者へ移転する 権利を有する。さらに , 技術的に可能な場合 , 他の情報管理者への直接の情報の移転を求める 権利も有する。 ( 3 ) 処理に反対する権利 個人情報の処理が公共の利益または情報管理 者・第三者の利益を根拠に行われている場合 , 情報主体者はそのような情報処理に反対するこ とができる。ただし , 情報主体者の権利や自由 に優先したり , 法的請求の確立のための情報処 理の適切な根拠を情報管理者が提示したりする ことができる場合には , かかる要求を拒むこと ができる。ダイレクトマーケティングを目的と した処理に情報主体者が反対した場合には , 当 該目的による個人情報の処理は以後なされては ならない。 ④プロファイリングに反対する権利 プロファイリングとは , 個人情報を自動的に 処理して , その個人の特定の側面を評価するこ とを意味する。たとえば , 個人の仕事のパフォ ーマンス , 経済的状況 , 健康 , 指向 , 趣味等の 情報を自動的に処理することで , クレジット評 価や採用活動を行うことなどがプロファイリン グとみなされる。 GDPR の下では , 情報主体者 は法的な影響をもたらすようなプロファイリン グに晒されない権利を有しているとされている。 ただしプロファイリングが情報主体者と情報 管理者との間の契約の履行に必要 , 情報主体者 の同意 , EU または加盟国の法律の下で許容さ れていることなどの根拠に基づいて行われてい る場合は , プロファイリングを行うことは許さ れている。しかしながら , その場合でも情報管 理者は情報主体者の権利 , 自由 , および適切な 利益を保護するための施策を設けなければなら ないとされている。さらに , 情報主体者がその 意見を表明し決定に反対することができるよう に , 人による仲介を得ることができる権利を情 報主体者に与えなければならない。 8 一般的な義務 これまでに述べてきたような具体的な義務に 加えて , GDPR の下ではより一般的な義務も規 定されている。以下にその中でも特に重要なも のをいくっか紹介する。 ( 1 ) 情報管理者の義務 24 条 1 項では情報管理者の義務が以下のよう に規定されている。 「情報処理の性質 , 範囲 , 背景 , 目的と , 自 然人の持つ権利と自由に及ほすリスクの可能性 と重大性を勘案したうえで , 情報管理者は情報 処理が GDPR に基づいて行われていることを確 実にし , かっこれを証明できるような適切な技 術的および組織的な施策を実施しなければなら ない。これらの施策は必要に応じてレビューお よびアップデートされなければならない」 この「適切な技術的および組織的な施策」と いう概念は 95 年指令の下でも存在したが , 当時 からどの程度までの施策を講じれば適切とみな されるかは明らかではなかった。 GDPR の下で も , 上述の通り情報管理者がさまざまな要素を 勘案してかかる施策を決定しなければならない とされていることから , すべての情報管理者に おいて画一的な施策を設けることを求めるもの ではないことについては変更がないと思われ る。すなわち , 個人情報を大量に処理する情報 管理者においては , 高いレベルでの「技術的お よび組織的な施策」が求められることになる反 面 , あまり処理しない情報管理者においてはそ れなりの施策が求められるであろう。また , 情 報処理活動に関して相応である場合には , これ らの施策に適切な情報保護ポリシーを策定する ことも推奨されている。そのため , それなりの 66 ビジネス法務 20167
契約書チェックの着眼点 よココ 項において , そのことが的確に盛り込まれて いるかをチェックすべきである。 なお , 以下の【原案 3 】は業務分担に具体 性を欠いた例 , 【修正案 3 】はそこを具体的 Ⅳ に記載した例である。法務担当者としては , できれば後者の程度まで落とし込みたい。 【原案 3 】 第・条 ( 業務分担 ) 本共同開発における A 社 B 社の業務分担 は以下の通りである。 ① A 社は , 新製品 a の開発に対し , 自社 保有の特許技術 ( 特許番号△△△△ ) の 情報提供及び同特許に関する技術的な協 力を行う。 ② B 社は , 新製品 0 の開発を行う。 の作成 特集 共同開発における成果物の権利 帰属 1 権利帰属を明確にすることの重要性 【原案 4 】 第・条 ( 成果物の権利帰属 ) 新製品 a に係る一切の権利は , A 社及び B 社の共有とする。 成果物に係る権利の帰属を明確にしていな いことで , 当事者間においてトラブルとなる ことは多い。 たとえば , 成果物完成に至るまでに生じた 発明に関する特許権の帰属や , 特許出願を誰 が行い , 誰の費用で行うのか明確に定めなか ったために , 成果物完成においてこちら側の 貢献度が高く , 本来であれば , こちら側に特 午が帰属すべきであるのに , 相手方が勝手に 特許権を相手方の名で出願してしまい , その 結果 , 成果物の特許権が相手に奪われてしま ったというようなケースが考えられる。 このような事態を避けるためにも , 成果物 に係る権利の帰属はできる限り明確に定めて おくべきであり , この点は , 共同開発契約書チ ェックにおいて非常に重要なポイントである。 【原案 4 】は , 一応 , 両社の共有となって いるが , 新製品 a に関し発明が生じた場合の 特許出願やその費用等についての定めがない ため , 上記で述べたような事態を避けること は困難と思われる。 2 権利帰属を定める場合の要素 では , 成果物に関する権利の帰属を定める 場合 , どういった点を考慮に入れておくべき であろうか。この点については , 以下の 3 つ の要素から考えていくべきと考える。 【修正案 3 】 第・条 ( 業務分担 ) 本共同開発における A 社 B 社の業務分担 は以下の通りである。なお , 以下に記載の ない業務が新たに発生した場合には , 両社 協議の上 , 同業務の分担を決定する。 ① A 社は , 以下の業務を担当する。 ア ) 自社保有の特許技術 ( 特許番号△△△ △ ) を化学物質 X に応用することの可能 性の検証 イ ) 化学物質 X に上記ア ) 記載の特許技術 を応用することが困難な場合には , 応用 可能となるよう , 本特許技術を改良する ことの検討 , 実施 ウ ) 上記ア ) 記載の特許技術を新製品 0 に 使用したことにより不具合が発生した場 合の解決策の提案 ② B 社は , 以下の業務を担当する。 ア ) 新製品 0 の基本構造案 , 外観テザイン 案の検討 , 作成 イ ) 新製品 0 の仕様案の検討 , 作成 ウ ) 新製品 0 の販売先の検討 , 販売計画案 旨ロ 37 ビジネス法務 2016.7
業法上行政的な一定の効果を生ずるのみであ るので , 書面 ( 契約書 ) を作成しなかったか らといって契約が無効となるわけではない。 ウ・・・・・・〇 : 定額請負とは , 契約の締結に際し て , 仕事の完成に必要な資材・労働その他の 見込額に一定の利潤を加えた額を請負代金と するものをいう。 解 第 2 問一第 3 章第 2 節Ⅱ 4 より出題ー 演習問題 2 級 工・・・・・・〇 : 概算請負とは , 契約締結に際して は概算額を定めるだけにとどめ , 後日最終的 な金額の確定をする予定のものをいう。実務 では通常 , 定額請負がとられている。 オ・・・・・・ x : 民法上 , 報酬は仕事の目的物の引 渡しと同時に与えなければならないとされて いる ( 民法 633 条 ) 。 答 ③ 工 . ① 不動産登記の効力に関する次のア ~ オの記述のうち , その内容が適切でないものの組み合わ せを① ~ ⑤の中から 1 つだけ選びなさい。 ア . 不動産登記には対抗力があるので , 不動産登記を備えていれば , 実体上の権利を有してい なくても , その権利を第三者に対抗することができる。 イ . 不動産について権利を取得した者は不動産登記を備えなければ , すべての第三者にその権 利の取得を対抗することができない。 ウ . 不動産登記は不動産の物権変動の成立要件ではないが , 有効要件である。 オ . わが国における不動産登記には推定力がある。 わが国における不動産登記には公信力がない。 アイウ ②アイエ③アウェ④イウォ ⑤ イエオ 攻略 ポイント 不動産登記の効力についての知識をまとめておこう。とくにポイントとなる条文は 民法 1 77 条である。 【解説】 ア・・・・・・ x : 対抗とは , 権利の取得や移転など の権利の得喪 ( 物権変動 ) について , 当事者 以外の第三者に法律上主張することができる ことをいい , 対抗力とは対抗するカ ( 効力 ) ビジネス法務 件 ( 条件 ) を対抗要件という。なお , 不動産 をいう。対抗力が認められるために必要な要 2016.7 155
契約書チェックの着眼点 よココ ある。 V おわりに なお , これに関連して , 共同開発が途中で 中止となった場合の , それまでに完成した成 共同開発契約は , 他の契約類型以上に 担 果物の権利帰属についても重要なチェックポ 当者との連携が不可欠といっても過言ではな イントである。 この場合 , たとえば , 当初は , 成果物の権 く , 同担当者の思いをしつかりヒアリングし 利は共有としていたが , 相手方の資金が枯渇 ておくことが重要である。担当者によって したために共同開発が中止となったという事 は , 開発の目的や業務分担 , 開発の期間など が明確になっていない場合もあるので , 明確 情がある場合には , それまでに完成した成果 にする必要性を説明し , 担当者の十分な理解 物の権利をすべてこちら側に帰属させるとい うような取決めを , 開発中止時に行うことも を得たうえで , チェックを進めていくことが 必要である。本稿が読者の共同開発契約書チ 一考であろうし , そういった場合を想定した 条文を , あらかじめ共同開発契約書にいれて ェックの一助となれば幸いである。 おくのも得策である。 特集 【修正案 4 】 第・条 ( 成果物の権利帰属 ) 1 . 新製品 0 に含まれる発明 , 考案又は創作について , 特許権 , 実用新案権 , 意匠権 , 商標権 , 回 路配置利用権 , 著作権 ( 著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む ) その他一切の権利 ( 以下 , 総称して「知的財産権等」という。 ) のうち , A 社保有の特許 ( 特許番号△△△△ ) を使用した 部分に係る知的財産権等は A 社に帰属するものとし , それ以外の部分に係る知的財産権等は B 社に帰属するものとする ( 以下 , A 社に帰属する部分を「 A 社帰属部分」 , B 社に帰属する部分 を「 B 社帰属部分」という。 ) 。 2. A 社帰属部分に係る知的財産権等のうち , 出願が必要なものについては , A 社が , B 社帰属部 分のそれについては B 社が , 単独で出願することができる。但し , 当該知的財産権等の出願を 行うときは , 出願当事者は , 当該出願書類の写しを相手方に提出し , 機密情報が包含されてい るか否かについて相手方の事前の審査と確認を得なければならない。 3. 前項に基づく出願手続及び権利保全手続に係る費用は , 出願を行う各当事者が負担するものと する。 4. A 社又は B 社帰属部分について , 第三者との間で知的財産権等に関する紛争が生じた場合に は , 権利の帰属する各当事者がその責任と費用において当該紛争を解決しなければならず , 相 手方においてこれらの紛争等により支出した費用がある場合には , 相手方からの請求があり次 第これを支払わなければならない。 森田慈心 ( もりたしげみ ) 関西大学法学部卒業 , 立命館大学法科大学院修了。 2007 年弁護士登録。 08 年より大幸薬品株式会社に勤 務。主な著書として , 「企業のための弁護士活用術」 ( 共 著 . 日本加除出版 , 2015 ) 。 39 ビジネス法務 20167
受講者は , 規模によって特定多数または特定 ートを作成し , その中で配布資料やレジュメ 少数の人に該当するだろう。問題は , 余って を引用する行為であれば , 著作権法上の「引 いた配布資料についても講師が「 ( 特定多数 用」として認められる可能性がある。引用に または少数の人に ) 譲渡した」と言えるかと ついては第 3 回で解説予定である。 いう点だ。会社で配布したい旨を告げて持ち 帰ったならば問題ないと思われるが , 「 1 人 6 公衆送信権 ( 法 23 条 1 項 ) 1 部お持ちください」と書いてあるのに , 残 著作権者は「著作物を無断で公衆に送信す っていた資料を黙って持ち帰ったような場合 るな」という権利を持っている。これが公衆 は , 権利者からの譲渡の存在に疑問が残る。 送信権である。インターネットで配信する行 為が典型的であり , 実際に送信が行われなく 5 翻案権 ( 法 27 条 ) ても , コンテンツを無断でアップロードして 著作権者は「著作物を無断で翻訳・編曲・ 送信が可能な状態に置いた段階 ( 送信可能 変形・翻案するな」と言える権利を持ってい 化 ) で , 公衆送信権の侵害になる。また , す る。これが翻案権である。条文上 , 翻案の例 でに述べたように「公衆」には特定多数も含 として脚色と映画化があげられているが , 原 まれるので , 社内からのみアクセスできるイ 著作物を加工して , その表現上の本質的な特 ントラネットであっても , 無断でアップロー 徴を維持しつつ , 新たに創作的な要素を加え ドすれば公衆送信権の侵害になる。 て二次的著作物を創作する行為が「翻案」で 事例 ( 4 ) では , 受講レポートに加えて配布資 ある。原著作物に創作性のないわずかな加工 料をアップロードしている。上述のように を施しても , それは複製の域を出ないことに レポート本体はセミナー資料等の二次的著作 なる ( もっとも , 無断で行えば複製も翻案も 物に該当しない可能性もあるが , 本件の配布 著作権侵害になるので , 著作物に手を加えて 資料は他人の著作物なので , 配布資料を無断 利用した行為を著作権侵害として訴える訴訟 でイントラネットにアップする行為は , 公衆 では , 原告は複製権侵害または翻案権侵害と 送信権の侵害となる。 いう主張をする場合が多い ) 。 事例 ( 3 ) では , 受講者はセミナーの内容をま 7 著作者人格権 ( 法 1 8 ~ 20 条 , 1 13 条 ) とめてレポートを作成している。セミナーの 以上で検討した行為は , いずれも経済的な レジュメや配布資料のみならず , セミナーで 権利 ( 財産権 ) としての著作権の問題であ 講師が話した言葉も言語の著作物として保護 る。財産権としての著作権は , 一般的な財産 を受けるが , 受講者がセミナーの内容を咀嚼 と同様に , 契約等によって他人に譲渡するこ し , 受講者自身の言葉でまとめてレポートを とが可能であり , 著作権者が死亡すれば遺産 作成した場合は , レポートは受講者自身の独 相続の対象にもなる。一方 , 著作物を創作し 立の著作物であって , 講師の言葉やセミナー た著作者が一身専属的に取得し , 著作物の経 資料の二次的著作物を作成したとはいえない 済的権利を第三者に譲渡しても著作者が持ち だろう。セミナーで取り扱われた情報自体は 続ける権利として , 著作者人格権がある。上 己の【図表】にあるように , 著作者人格権に 著作物ではないからだ。レポートの形式をと りつつ , 実際には配布資料に多少の手を加え も複数の権利が含まれるが , すでに公表され たに過ぎない場合は , 配布資料の翻案になる ている著作物について通常問題になるのは , 受講者自身の言葉でレポ 同一性保持権 ( 法 20 条 ) と名誉声望保持権 ( 法 と思われる。なお , 一三ロ 124 ビジネス法務 2016.7