Ⅳ公開買付けによる取得 「市場取引等」のうち , 市場買付け以外の 方法として利用できるのが公開買付けであ る。公開買付けに拠れば , 短期間のうちに均 ーの値段で自己株式を取得することができ る。公開買付けを利用して自己株式取得を実 施することには , 短期間に均一の価格でまと まった数量の株式を買い付けられることに加 え , 公開買付け規制により情報開示と株主間 の平等も期待できることがメリットとしてあ げられる 18 。なお , 上場会社が市場外で自己 株式を取得する場合は原則として公開買付け を用いなければならないが ( 金商法 27 条 22 の 2 第 1 項 1 号 ) , それ以外の手段選択の制約はない。 取得方法の多様化に起因する 議論 1 取得方法の選択を会社に委ねることの是非 前述したように , 上場会社は , 「市場取引 等」によって自己株式を取得するにあたり 種々の取得方法から自由に選択することがで きる。これは , 上場会社のニーズに応える意 味では実態をふまえたものであるが , 一方で 売却に応じる株主の利害を念頭に置くと問題 がありそうである。 「市場取引等」の範疇に属する各買付け方 法であっても , 買付価格と買付期間の点から みると単純買付けとそれ以外の各買付け方法 とでは顕著な違いがある。すなわち , 単純買 付けは日々の市場動向に基づいて買付価格が 常に変動し , 買付期間も 1 年を超えなければ 取得枠の問題として会社が自由に定めること V = 自己株式取得規制の現囮的論点 ができる。一方で , 単純買付け以外の方法 は , 原則として取得前に買付価格が固定さ れ , 取得期間も 1 日 (ToSTNeT 市場におけ る買付けなど ) または 20 ~ 60 営業日 ( 公開買 付け ) と制約がある。 では , 買付価格と買付期間に差異が出る買 付け方法の選択権が会社にあることは異論な く容認できようか。自己株式取得が顕著に増 加している現状をふまえると , ある程度の期 間の中で複数回の自社株買いを実施する上場 会社もこれまで以上に多くなることは容易に 予想できる。この場合でも , 株主は , 会社が 選択した取得方法に従いみずからの投資判断 を行わなければいけない。 上場会社については , 取得方法の選択権は 経営事項であり株主に介入の余地がないと考 えることが自然かもしれないが , 制度枠組み のあり方の 1 っとして自己株式取得のような 会社の財務戦略に関わる問題は株主とコンセ ンサスがとれていることが望ましいとも思わ れる。このような点を考慮し , 上場会社に対 して事業年度ごとの取得方法を含む自社株買 いの具体的な予定について株主に説明義務を 課すことも考えられよう 19 。 2 取得方法の違いと市場に対する影響 ファイナンス理論の説明に依拠すれば , 自 己株式取得 ( の発表 ) は一般的に株価の上昇 をもたらし , 少なからず市場に影響を与え る 20 。また , インサイダー取引規制における 重要事実に自己株式取得が含まれていること から ( 金商法 166 条 2 項 1 号二 ) , 自己株式取得 が市場に影響を与えることは法的にも認識さ れている 2 ここで ToSTNeT 市場における各買付け方 18 近藤光男 = 吉原和志 = 黒沼悦郎「金融商品取引法入門 ( 第 4 版 ) 」 ( 商事法務 , 201 5 ) 386 ~ 387 頁参照。 19 これはコーボレートガバナンス・コードの解釈からも無理からぬものと思われる。澤口実 = 内田修平 = 福田剛「コーポレート ガバナンス・コードへの対応に向けた考え方〔Ⅱ〕」商事法務 2067 号 6 1 頁 , 65 頁参照。 2 。宮崎・前掲注 8 ・ 86 ~ 87 頁。 21 神崎克郎 = 志谷匡史 = 川口恭弘「金融商品取引法」 ( 青林書院 , 2012 ) 1 232 頁。 ビジネス法務 2016.7 109
して自己株式を取得するものである。そもそ も , 自己株式取得を実施するためには , ①取 得株式数・②取得対価の総額・③最長 1 年の 取得期間 ( 以下① ~ ③をまとめて「取得枠」 という ) につき株主総会あるいは取締役会決 議により定めること ( 以下「機関決定」とい う ) が会社法上求められているが ( 会社法 156 条 1 項 , 165 条 2 項・ 3 項 ) , 単純買付けによ れば , 機関決定された取得枠の範囲を超えな ければ , 市場の動向を見極めたうえで自由に 自社株を買い進めることができる。その意味 で取得者にとって , もっとも自由度の高い買 付け方法と言えよう。 ( 2 ) 事前公表型のオークション市場における 買付け 11 事前公表型のオークション市場における買 付けとは , 買付日の前日の立会終了後 ( 15 時 以降 ) に , 買付け内容を適時開示システム (TDnet) を通じて公表し , かかる買付け内 容に基づき公表翌日の立会時間内に取得を行 うものである。 ーこで事前に公表されるの は , 買付価格 ( 前日終値以下の価格 ) や買付 け株式数などである。この方法は , あくまで もオークション市場における買付けであるた め , 取得日当日の市場の動向次第では事前に 公表した買付価格よりも高い値段で市場価格 が推移することもあり , このような場合は取 引が成立せず予定株式数を取得できない可能 性もある。とは言え , 成行注文は全量執行さ 売り方の株主が成行注文で発 れることから , 注すれば売却の機会は高くなる。 12 2 ToSTNeT 市場における買付け ( 1 ) 終値取引 (ToSTNeT-2) 終値取引とは T 。 STNeT 市場における取引 のうち , 前日の立会市場で決まった最終値段 ( 終値 ) で立会時間外に売り注文と買い注文 を集めて取引を成立させるものである。自己 株式取得で終値取引を用いるためには , 取得 日前日の終値で取得する旨を前日の立会終了 後 ( 午後 3 時以降 ) に事前に公表することが 求められ , 取引は翌日の立会開始前の時間帯 ( 午前 8 時 20 分 ~ 午前 8 時 45 分 ) に行われる 13 終値取引においては , 買付価格が終値に固定 されるため価格優先の原則は働かず , 取引の 成立は時間優先の原則により決せられる。 ( 2 ) 自己株式立会外取引 (ToSTNeT-3) 14 自己株式立会外取引は , 自己株式取得に特 化した ToSTNeT 市場を利用した買付け方法 で , 平成 20 年に新設されたものである 15 。自 己株式立会外取引も , 終値取引と同様に , 前 日の終値で取得する旨を事前に公表し , 取得 日の立会開始前の時間帯 ( 午前 8 時 00 分 ~ 8 時 45 分 ) に売り注文を集め買い注文とマッチ ングさせることで取引が行われる。終値取引 とは , 買い注文をすることができるのは当該 自己株式取得を実施する買付け会社に限られ る点 , 売り注文の総数量が買付け数量を超え た場合は注文発注者の属性や申込数量に基づ くあん分方式により決せられる点に違いがあ る 16 。現在では , 多くの上場会社が終値取引 ではなく , 自己株式立会外取引を利用して自 己株式を取得している 17 11 東京証券取引所「東証市場を利用した自己株式取得に関する QA 集」 12 頁 ( 2015 年 3 月 20 日改訂 ) 。 http://www.jpx. CO. jp/equities/t 「 ading/own-company-sha 「 es/tvdi\/Q0000006haj-att/OwnSha 「 eQA. pdf 12 東京証券取引所・前掲注 1 1 ・ 8 ~ 1 0 頁。 13 川井洋毅「東証市場を利用した事前公表型の自己株式取得」商事法務 1 525 号 73 ~ 74 頁。 14 東京証券取引所・前掲注 1 い IO ~ 1 1 頁。 15 江頭ほか編著・前掲注 2 ・ 607 頁〔松井智予〕。 16 東京証券取引所・前掲注 1 1 ・い ~ 1 2 頁。 17 江頭ほか編著・前掲注 2 ・ 607 頁〔松井智予〕。 108 ビジネス法務 2016.7
連載 自己株式取得規制の現代的論点 、。。 ~ 自己株式の取得方法の多様化と その問題点を考える 神戸学院大学法学部 准教授宮崎裕介 多様な取得方法が 認められている背景 I はじめに Ⅱ わが国における , 上場会社による自己株式 I で述べたように上場会社の自己株式取得 取得の制度的特徴の 1 っとしてあげられるの の方法が多様化しているのは , 会社法 165 条 が , 取得方法に選択肢があることである。 1 項にいうところの「市場」の意義が定まっ ておらず 2 , また各買付方法に対するニーズ れは , 現行法上 , 「市場取引等」 ( 会社法 165 条 1 項 ) の枠組みのもと , 上場会社が利用でき が会社により異なることが背景にあるのでは る自己株式取得の手段として複数の買付方法 ないだろうか。 が認められていることに起因する。上場会社 の大半が「市場取引等」により自己株式を取 1 「市場」の意義 得しているのが実態であるか 1 ここで用い 会社法 165 条 1 項には , 「市場」について特 ることができる各買付方法を整理し , 横断的 に定めておらず , 具体的に同項が示すところ に分析する試みはこれまであまりなかったと の取得方法は明確ではない。この点につき , 金融商品取引所 ( 東京証券取引所 ) 3 のオーク 思われる。しかしながら , 体系性の欠如が指 摘されている自己株式取得規制において , ション市場に加え , 東京証券取引所の立会外 のような視点に立って考察を行うことは制度 市場である ToSTNeT (Tokyo Stock Exchange 枠組みのあり方を検討する本連載においては Trading NeTwork System) 市場も , 同項に 必須の作業でもある。 言うところの「市場」に含まれると一般的に 解されている 4 。もっとも , ToSTNeT 市場 第 2 回は , 上に述べた各買付方法を概観し たうえで , 取得方法に対する規制の検討を通 における取引は , 価格優先 5 ・時間優先の観 じた問題点の抽出・検討を行う。なお , 本稿 点から競争売買と言えるか議論の余地がある が 6 , 少なくとも市場取引として位置づける では特に断らない限り前述した「市場取引 等」を対象として議論を進める。 ことに異論は唱えられていない 7 。いずれに 1 「市場取引等」以外で自己株式を取得するためには , 特定の株主からの取得として株主総会の特別決議が必要なため ( 金商法 27 条の 22 の 2 項 1 号 , 会社法 1 60 条 1 項 , 309 条 2 項 2 号 , 1 58 条 ) , 上場会社が機動的に自己株式取得を行う方法とし ては適していないことが影響していると思われる。 2 江頭憲治郎 = 中村直人編著「論点体系会社法 1 総則 , 株式会社 I 』 ( 第一法規 , 20 ] 2 ) 604 頁〔松井智予〕。 3 本稿では特に断らない限り東京証券取引所を念頭に置く。 106 ビジネス法務 2016.7
法ついての東京証券取引所の説明をみると , 「既に決定した価格で , かっ , 立会時間外の 取引のため , マーケットに直接的なインパク トを与えることはない」との立場がとられて いることがわかる 22 。確かに , 事前公表が前 日の立会終了後になされ , 取引も取得日の立 会開始前に行われることからすると ,ToSTNeT 市場における買付けが行われた直後の市場の 動向はともかくとして , 当該取引限りにおい ては市場に対する影響はないかもしれない。 また , 東京証券取引所も複数のシステムを利 用して相場操縦が行われないように市場への 影響に配慮した運用がなされている 23 もっとも , 現在の自己株式取得の増加の一 因でもある JPX 日経インデックス 400 は 3 年 平均の ROE のスコアを重視しており 24 , 上場 会社は中長期的な視野に立ち自己株式取得を 実施する必要がある。これらをふまえると , 今後 , 1 つの企業により継続的に自己株式取 得が実施されることが当然に予想され , 市場 に影響を与える取得方法とそうではない取得 方法とが併存することに何らかの対処が必要 となることも十分に考えられる。 無論 , この議論は , ToSTNeT 市場におけ る取引は市場に影響を与えないとする東京証 券取引所の見解に依拠するもので , 現状 , の点に関する実証研究が熟している段階には ない。とは言え , 以上に述べた , 取得方法の 多様化と市場に対する影響を考えることは無 益ではないと思われる。 3 実務の発展と取得方法の多様化 近時 , 信託方式あるいは投資一任方式と呼 22 東京証券取引所・前掲注 1 い 8 頁。 23 江頭ほか編著・前掲注 2 ・ 607 頁〔松井智予〕。 ばれる方法を用いて単純買付けを行う上場会 社が多くみられるようになった。これらの方 式では , 自己株式取得を企図している会社か ら委託された証券会社もしくは信託銀行 ( 以 下「買付け受託者」という ) が買付けの執行を 実際に行う 25 。このようなスキームがとられ るのは , 買付者である上場会社と買付け受託 者との間に情報遮断措置 ( チャイニーズ・ウォ ール ) を設けることで , 取得枠に基づき継続的 に自己株式取得を実施する際のインサイダー 取引規制への抵触を回避するためである 26 信託方式や投資一任方式による自己株式取得 は , 言わば実務により開発された取得方法で あり , 前述した買付者の法的リスクの軽減と 円滑な自己株式取得の実施が見込める 27 。も っとも , 買付け受託者の責任をはじめ法的問 題点についは解決しているとは言えず , 信託 法との関連も含め理論的な解明が必要である。 宮崎裕介 ( みやざきゅうすけ ) 2010 年神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程 単位取得 . 同年神戸学院大学法学部専任講師 , 1 3 年よ り現職。著書として「判例法理経営判断原則』 ( 共著 . 中央経済社 , 2012 ) 。 24 日経会社情報編「 JPX 日経インデックス 400 完全ガイド』 ( 日本経済新聞社 , 2014 ) 2 頁。 25 矢野正紘「自己株式取得に係る「インサイダー取引規制に関する Q & A 』の検討〔上〕」商事法務 1 8 刀号 47 頁 , 49 頁。 26 矢野・前掲注 25 ・ 47 ~ 50 頁。 27 川口恭弘「金庫株制度と内部者取引規制」同志社法学 53 巻 9 号 53 頁 , 64 頁参照。 * 本稿は JSPS 科研費 1 5K16968 による成果の一部である。 110 ビジネス法務 20167
は , 「今後 , 実施予定」とするものや「実施 するかどうか検討中」とするものがほとんど であった。これは , 取締役会の実効性評価と いう実務が , わが国においてはこれまで比較的 なじみのない取組みであるためと考えられる。 いつほう , 補充原則 1 ー 2 ④の議決権電子 行使のための環境整備・招集通知の英訳につ いては , 「実施予定なし」とするものが過半 を占めている。議決権電子行使や招集通知の 英訳は海外投資家が主な利用者として想定さ れるところ , 自社の株主構成においてそうし た株主が少ないことを実施しない理由として 説明する例が多く見られた。 原則 4 ー 8 の独立社外取締役の 2 名以上の 選任については , 「今後 , 実施予定」や「実 施するかどうか検討中」とするものが多くを 占めている。独立社外取締役の選任は , 会社 法の改正やガバナンスコードの策定を受けて 急速に進展しているが , この傾向は今後も継 続していくことが予想される。 朝コードの原則に基づく開示状況 ガバナンスコードには , たとえば原則 1 ー 4 における政策保有に関する方針など , 自社 の方針や基準 , 手続などの開示を求める原則 が 11 個ある。以下では , いわゆる政策保有株 式と取締役会の実効性評価に関する上場会社 の開示状況について紹介したい。 1 原則 1 ー 4 : いわゆる政策保有株式 政策保有株式に関しては , ガバナンスコー ドでは , 「政策保有に関する方針」と「政策 保有株式に係る議決権行使の基準」の開示を 求めている。 まず , 「政策保有に関する方針」について は , 事業会社を中心に , 配当やキャピタルゲ インの獲得といった投資採算や取引関係の維 コーボレートガバナンス・コードへの対応状況 ビジネス法務 20167 99 た。自己評価の収集はアンケートとインタビ 役会で審議 , 確認するという事例が見られ 報告し , 評価結果に基づく機能向上策を取締 取締役会の実効性に関する評価を取締役会に を行ったうえで , その分析結果に基づいて , 締役会議長を中心に外部専門家を交えた分析 役会の実効性に対する自己評価を収集し , 取 や , 個別のインタビューといった形で , 取締 続については , 取締役等に対するアンケート まず , 取締役会の実効性の分析・評価の手 を求めている。 会の実効性評価の結果の概要を開示すること ていくため , ガバナンスコードでは , 取締役 じて , こうした継続的改善のサイクルを回し ると考えられる。株主との建設的な対話を通 て継続的に充実を図っていくことが必要にな ふまえた課題の解決や強みの強化などを通じ 能しているかを定期的に検証し , その結果を していくためには , 取締役会全体が適切に機 取締役会がその役割・責務を実効的に果た 評価 2 補充原則 4 ー 11 ③ : 取締役会の実効性 旨を開示している例も見られる。 戦略を十分に尊重するなど投資先に配慮する ている。これに加えて , 投資先の経営方針や 判断するといった方針を示すものが多くなっ 中長期的な企業価値向上という観点で賛否を 基準」については , 投資先の持続的な成長や 次に , 「政策保有株式に係る議決権行使の ロセスについて詳細に開示する例も見られる。 策保有株式の保有意義や経済合理性の検証プ ものも見られる。これらの会社の中には , 政 とを基本方針としていく旨の方針を開示する しない旨を示すものや今後残高を削減するこ 行を中心に , 原則として政策保有株式を保有 いう方針が多く開示されている。一方で , 銀 た経済合理性で政策保有をするか判断すると 持・強化による中長期的な収益の拡大といっ
新・会社法実務問題シリーズ全 1 0 巻 ①定款・各種規則の作成実務・ 森・濱田松本法律事務所編 藤原総一郎・堀天子著 442 頁・定価 4 , 320 円 ( 税込 ) 0 会社運営の根幹である定款をはじめ、取締役会規則や監査役会規則 等の作り方・記載例を豊富な実例で解説。 ②株式・種類株式 戸嶋浩二著 480 頁・定価 5 , 076 円 ( 税込 ) ■株式・種類株式につき、法的論点や手続、規定例が充実した一冊。 26 年改正による変更点を織りこみ、細かな株式事務も解説。 ③新株予約権・社債・ 安部健介・峯岸健太郎著 416 頁・定価 4 , 320 円 ( 税込 ) ■資金調達、ストック・オプション、買収防衛策で利用される新株予 約権や新株予約権付社債、社債を解説。 ④株主総会の準備事務と議事運営・ 宮谷隆・奥山健志著 548 頁・定価 5 , 400 円 ( 税込 ) ■総会担当者や議長の視点で解説された株主総会の定番書。平成 26 年会社法改正やガバナンス・コード等の実務動向を反映。 ⑤機関設計・取締役・取締役会 三浦亮太著 280 頁・定価 3 , 240 円 ( 税込 ) ・取締役や取締役会につき会社法の規定や趣旨、実務を解説。初版に 収録した「株主代表訴訟」の章は削り「機関設計」を新設。 ⑥監査役・監査委員会・監査等委員会 奥田洋一・石井絵梨子・河島勇太著 336 頁・定価 3 , 672 円 ( 税込 ) ■監査役に関する体系的な説明に加え、平成 26 年改正をふまえ監査 委員会や監査等委員会につき解説。 ⑦会社議事録の作り方 松井秀樹著 444 頁・定価 4 , 536 円 ( 税込 ) ■議事録の作成方法を、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社、 指名委員会等設置会社に向け解説。 ⑧会社の計算・ 金丸和弘・藤津康彦著 340 頁・定価 3 , 672 円 ( 税込 ) ・実戦的な書式を数多く掲げることにより、計算書類の作成・監査・ 承認の手続きなど法務担当者に必須の会計知識を詳述。 ⑨組織再編・ 菊地伸・石綿学・石井裕介・小松岳志・高谷知佐子・戸嶋浩二 ・金 : 社淺・ 監査役・ 監査委員会・ 監査等委員会 新 , : 会社去 会社議事録 の作り方 物ま・取第会・ 資役、員第 会社の計算 定款・各種規則 の作成実務 [ 叡い各規凹ひな顰 を富 ! : 掲 : 株式・ 種類株式 物・会社法 新株予約権・ 社債 最新の行拿調達を内ロー 株主総会の 準備事務と 議事運営 ・に成 26 年会社法改ⅱキ 、ナ : 以・コードに対応 ! 新・会社 機関設計・ 取締役・ 取締役会 査の生みか分いる ! ヤ成閉負改止を気まえ 当よ第をを第を 解な会社算規第・ : : 滑知を分かりやすく解説 組織再編 峯岸健太郎・池田毅著 492 頁・定価 5 , 184 円 ( 税込 ) ・組織再編に伴う種々の手続やそれそれの法的問題を明らかにする。 中央経済社
しろ , オークション市場と ToSTNeT 市場の 両市場からも自己株式取得を実施することが できるため , 買付け方法が市場によって異な ることーー買付け方法が利用する市場に依存 すること が現行法上は許容されているこ とになる。 2 上場会社のニーズ 上場会社による自己株式取得の方法にいく つかの選択肢があることが認められている 1 つの背景として , 東京証券取引所第一部に上 場しているような大企業といわゆる新興企業 向け新市場に上場しているような比較的規模 の小さな企業とでは , とりわけコスト面を考 慮したときに各会社の事情に合わせた選択の 余地を残す必要性があることがあげられる。 たとえば公開買付けによる自己株式取得を念 頭においた場合 , 新興企業向け新市場に上場 しているような成長過程の企業にとっては , 公告などを通じた開示義務にかかる費用や事 務負担に耐えられない場合も考えられる。 方で , このような企業も短期間に均一の取得 価格で自己株式を取得する必要性に迫られる ことはあり , 公開買付けよりも低コストと言 われる ToSTNeT 市場こそがニーズにマッチ することもある。ましてや , JPX 日経インデ ックス 400 が導入されたことにより , 規模の 大小を問わず多くの上場会社が ROE の向上 を目的とした自己株式取得を実施すべき状況 自己株式取得規制の現代的論点 にあることに鑑みると 8 , コスト面で各企業 が耐えうる自己株式の取得方法が選択できる ことはむしろ望ましいと言えよう。 また , 提携のために互いに株式を持ち合っ ている企業が , かかる提携を解消するにあた り相手方が保有している自社株を買い戻す必 要があることも考えられる 9 このような場 合は , なるべく市場に影響を与えない形で , かっ公開買付けよりも短期間のうちに取得す ることができる ToSTNeT 市場を用いた買付 けが好まれよう 1 。 Ⅲ市場における各買付け方法 では , 市場を通じた買付け方法 ( 以下「市 場買付け」という ) が多様化していることを 前提として , 現行規制においていかなる取得 方法が認められているのだろうか。以下で は , 市場買付けとして位置づけられる各買付 け方法を整理しよう。 1 オークション市場における買付け ( 1 ) 単純買付け 東京証券取引所に上場している企業の多く が用いているのがオークション市場における 単純買付け ( 以下「単純買付け」という ) で ある。この方法は , 言うなれば , 一般投資者 とともに発行会社も立会時間内の取引に参加 4 山下友信編「会社法コンメンタール 4 株式 [ 2 ] 」 ( 商事法務 , 2009) 42 頁〔伊藤靖史〕。なお , いわゆるグリーンシート 銘柄の証券会社を通じた取引や私設取引も含まれるかという議論もあるが本稿では立ち入らない。この点については , 酒巻俊 雄 = 龍田節編集代表「逐条解説会社法第 2 巻株式・ 1 」 ( 中央経済社 , 2008) 405 ~ 406 頁〔小林量〕参照。 5 中でも , 後述する終値取引 (ToSTNeT-2 ) は , 買付価格が固定されるため価格の点では競争原理が働かない。 6 証券取引法研究会編「金庫株解禁に伴う商法・証券取引法 ( 別冊商事法務 251 号 ) 」 ( 商事法務 , 2002) 1 2 ~ 1 3 頁。 7 山下編・前掲注 4 ・ 42 頁〔伊藤靖史〕。 8 宮崎裕介「なぜ自己株式取得が注目されているか ? 」本誌 1 6 巻 6 号 85 頁以下参照。 9 いわゆる政策保有株式についての開示を求めているコーポレートガバナンス・コード原則 1 -4 に関連して . 持ち合い株式と して他社が保有している自社株を取得することも考えられよう。中村直人 = 倉橋雄作「コーポレートガバナンス・コードの読 み方・考え方」 ( 商事法務 , 2015 ) 53 頁参照。 を , 自己株式立会外取引 (ToSTNeT-3) により取得したが , これは約 4 , 700 億円にも上る自己株式を市場に影響を与えな 1 。たとえば , 独フォルクスワーゲンとの提携を解消したスズキは , 提携解消に伴いフォルクスワーゲンが保有している自社株 いよう取得するために立会外取引を用いたとされている。日本経済新聞東京本社版 201 5 年 9 月 1 7 日朝刊 1 3 頁 イ′ / い 0 ビジネス法務 20167 107
実務解説 新連載 連載 EU 個人情報保護規則のポイントと日本企業の対応 育児・介護休業の取得要件が緩和 平成 28 年改正雇用保険法等の解説 D & O 保険に関する社内手続 Q & A 開示情報から見る コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 6 月総会直前対策 ! 総会後の役員等に関する登記実務 特許戦略を再確認 ! EU での特許取得・訴訟の新制度 画像デザインの保護拡充 ! 商標・意匠審査基準の改訂 経済制裁緩和後のイランビジネス 第 1 回関税・原産地規則の実務上のポイント TPP が企業法務に与える影響 」 U [ Y 岩村浩幸 鳥井玲子 梶元孝太郎 森下真生 青木博通 石川智也 鈴木龍介 渡邉浩司 柴田 久 最終回障害者と安全配慮義務 増田陳彦・ 裁判例にみる企業の安全配慮義務 自己株式取得規制の現代的論点 80 森・濱田松本法律事務所 法務のお悩み相談 期間の計算方法 森明日香・ 法 x 経済学の現在地 第 2 回自己株式の取得方法の多様化とその問題 点を考える 宮崎裕介・ 要件事実・事実認定論の根本的課題 第 6 回要件事実・事実認定基礎理論⑤ ・・ 106 第 3 回経済学の発展と独禁法 理論と実証を両輪として 川濵昇・・ LEGAL HEADLINES 2016 76 60 85 90 95 101 1 1 1 132 138 ・・ 142 ・・ 145 ーー・一続々・事実認定論とはどのような考え方か 会社法・金商法の新視点 唐津真美・・ 第 2 回著作権の中身 ビジネスシーンから考える著作権のキホン 伊藤滋夫・・ ・・ 122 第 15 回アメリカにおける株式の公募に対する法 経産省 , 株主総会プロセスの電子化促進等に関する 研究会報告書を公表他 森・濱田松本法律事務所編 6 試験関係 ビジネス実務法務検定試験 ( 1 ・ 2 ・ 3 級 ) 演習問題 OTHER ISSUE 編集後記・次号のお知らせ 160 規制の一断面 若林泰伸・ ・・ 127
ト会社法・金商法 第 15 回 0 載の新視点 アメリカにおける株式の 公募に対する法規制の一断面 早稲田大学 教授若林泰伸 はしめに を一括登録すれば , 希薄化および株価下落の 懸念から , 株価がディスカウントされること を恐れたためであった 2 。また , 持分証券の 変動価格による募集 (At-the-Market Offerings : 本稿は , 近時のアメリカにおける株式の公 ATMs) については , 数量制限や引受業者に 募方法と発行開示規制との関わりについて論 よる売付けの規制による制限が厳しかったた ずることで , 証券発行開示規制についての理 論的な根拠を再検討するための議論の材料を め , あまり利用されなかった。 他方 , 株式の伝統的な公募の方法による資 提供しようとするものである。 金調達は , 固定価格による確約引受募集によ って行われていたため , 相場操縦的な空売り による市場価格の下落や証券発行の失敗のリ スクが高まっていた。 1970 年代からこのよう アメリカにおける株式の公募の方法は , な方法による株式の公募に際して , 相場操縦 IPO とその後に行われるもの (Seasoned 的な空売りがかけられる事例が増加し , 1988 年 Equity Offerings : SEOs) とで大きく異なる にようやく暫定的な Rule 10b -21 ( 1994 年に正 式に採択 , 後のレギュレーション M の Rule 面があるが , 近時の SEOs に要する時間は著 105 ) として結実したが , こうした相場操縦 しく短縮されているのが現状である。これに 的な空売りが株式の公募プロセスの迅速化 , は , 周知のとおり , 1982 年に導入された一括 登録 (shelf registration) 制度の影響が多分 機関投資家への販売を中心とした公募を促進 にある。一括登録制度の導入により , その当 していくこととなった。 時 3 ~ 4 週間かかっていた登録手続は数時間 このような状況は , 1992 年に SEC が一括登 から数日に短縮されたと言われる 1 。制度導 録の方法として株式と債券の指定をすること 入当初に時間短縮の恩恵を受けたのは , 債券 なく一括登録を行うことを認める包括一括登 録 (universal or unallocated shelf registration) 募集であり , 一括登録制度を利用した普通株 を認めたことで 3 , 特に 1997 年以降大きく変 式の募集は進まなかった。これは , 普通株式 1 K. Thomas Liaw, The Business of lnvestment Banking 85 (John Wiley & Sons c. , 1 999 ). 2 SEC Release No. 33-6943 (July 1 6 , 1 992 ) , at 10. 3 SEC Release No. 33-6964 (Octobe 「 29 , 1 992 ). 2005 年証券募集規制改革まで の株式の公募 127 ビジネス法務 20167
わった。この制度によれば , 1 つの一括登録 書において複数の証券の登録が可能とされる ため , 発行者は一括登録の段階で発行する証 券の種類を特定する必要はなく , 実際に証券 を発行する段階で証券を特定すれば足り , ま た登録した証券の種類ごとの発行予定証券の 数量についても記載は求められず , 追補目論 見書に記載すればよいため , 発行時の証券市 場の状況を見て有利な資金調達を行うことが 可能となった 4 。継続開示義務の履行を 3 年 から 1 年に短縮し , 浮動株の時価総額を 7 , 58 万ドルに減額するなどの規制緩和も行 われた。これらの制度改正が , 株式の一括登 録募集を増やすことに貢献したのである。 こうした株式の公募に関する規制環境の変 化は , 株式の公募の実務を変えることに繋が っていった。たとえば , 伝統的には株式の公 募の際に調達資金の確保やリスク分散等を目 的としてシンジケートを組んで株式の分売か 行われてきたが , 90 年代を通してシンジケー トに参加する証券業者の数は減少していっ た。この背景には , 売り手側の証券業者の事 情として , ウォール街の投資銀行の規模の拡 大は資本の拡大を伴っており , シンジケート によるサポートの必要性を減少させたこと , 技術発展によりコンピュータシステムを介し て全国的に株式取引を行うことができるよう になったため , 地方の証券業者を利用する必 要が減少してきたこと 5 , 発行者が幹事引受 業者に求めるサービスの拡大に伴って , 株式 募集で得られる手数料の配分が変わってきた ことなどが指摘される。他方 , 買い手側の投 資家の事情としては , 40 年前には株式投資家 の比率として個人投資家と機関投資家の割合 が 8 : 2 であったものが正反対になり , 株式 募集における機関投資家の存在感が著しく高 まったことから , 機関投資家とのパイプを持 たない地方の証券業者のシンジケート参加が 減少したことなどが指摘される。 IPO の事例 ではあるが , 機関投資家が引受業者ごとに買 い付ける株数を指定し , それに従って , 各引 受業者が当該機関投資家に指定数量の株式を 売却するといった , 機関投資家の交渉力の強 さを表す記事もある 6 。 2000 年代には , シンジケートを組まないで 株式募集が行われる場合も出てきたとされ る 7 。これには , 発行者側の交渉力が高まった ことも背景として指摘される。すなわち , 公 開会社の CFO がウォール街での証券実務の 経験や引受プロセスの理解から , 株式募集に おける分売業者への報酬の対価を厳しく求め るようになってきた結果 , 分売に参加する業 者の選定や分売を行う業者に対して支払う手 数料の引下げを要求するようになってきた。 適合性原則などの規制の強化も , 引受業者が 適切に法令を遵守しないことから負担する価 格変動リスクを管理し , そうした手続を自動 化する方向で作用し , これもシンジケートを 利用しない原因ともなっていると指摘される。 このように , アメリカでは公開会社の SEOs の際に , シンジケートを利用しないか , あるいは利用するとしてもより少数の分売業 者で分売を行う傾向が一層顕著になってい き , 販売先をもつばら機関投資家とする実務 とも相まって , 株式の公募プロセスの迅速化 とコストの低下が進んでいったものと推測さ れる。 4 AutO 「 e, et al., The Revival Of Shelf-Registe 「 ed CO 「 PO 「 ate EquitY Offe 「 ings, 1 4 J. CO 「 P. Fin. 32 , 34 ( 2008 ). Tunick, inf 「 a note 7. 6 Wi 「 th,ls This the Death Of the Syndicate?,Investment Deale 「 s' Digest 20 ()P 「ⅱ 2 1, ] 997 ). 7 Tunick, Say Goodbye tO The Syndicate,lnvestment Deale 「 s' Digest (June 28 , 2004 ). 5 128 ビジネス法務 20167