TPP が企業法務に与える影響 確約制度等の導入による 独禁法調査対応へのインバクト 森・濱田松本法律事務所 弁護士池田毅、 ~ 2016 年 3 月 8 日に国会に提出された独占禁止法に関する TPP 整備法案は , 公正取引委員 会 ( 以下「公取委」という ) の審査を , 正式な行政処分に至ることなく終結することを可 能にするいわゆる「確約制度」を導入するものである。「確約制度」の導入は , TPP の合 意内容の反映というよりも , ここ数年国内で行われていた審査手続および防御権の見直し の延長線上に位置づけられる。「確約制度」は , 現在議論が進んでいる課徴金制度の見直 しとともに , 企業による公取委が行う調査に対する対応方針を大きく変える契機となるた め , その概要を理解しておくことは重要である。 連載 最終回 に独占禁止法を制定した国である日本は , ① や④については以前から実現している。⑤に ついては従前からの 2 国間の協力協定や MO TPP 競争政策章 ( 16 章 ) は , 競争法令の制定 , U における規定を TPP 加盟国との間に拡張 競争当局間の協力等について定めており , 主 するものである。また , ②については審判制 な規定内容は下記に記載のとおりである。 度を廃止して意見聴取手続を導入した平成 25 年の独占禁止法改正 ( 以下「平成 25 年改正 法」という ) により , ⑥については , 「独占 ①競争法の制定・維持 , 競争当局の維持 禁止法審査手続に関する指針」 ( 2015 年 12 月 ②処分前の事業者による意見陳述等の機会 25 日公表 ) により , それぞれ実現されている。 の確保 したがって , TPP 整備法案では , ③の「合意 ③合意により事件を解決する制度の導入 により事件を解決する制度の導入」のみが取 ④競争法の違反について被害者の民事的救 り上げられている。 済を求める権利の採用 なお , 広い意味での競争政策の観点から ⑤競争当局間の協力 は , TPP 国有企業章 ( 17 章 ) も重要であるが , ⑥競争法令の執行等の透明性確保 整備法案の内容とはなっておらず , 本稿では TPP 参加国の中には 2015 年に競争法を施 取り上げない。 行したばかりのプルネイのような国もある が , カナダ・アメリカに次いで世界で 3 番目 I TPP 競争政策章 1 1 1 ビジネス法務 2016.10
0 朝新 0 い 中国「不正競争防止法」全面改正へ 一重要項目と日本企業への影響 中国政法大学比較法学研究院 講師原吉 中国の「不正競争防止法」は 1993 年一公布・施行されて以来 , 23 年間いかなる改正も行 われなか。た。 23 年 0 = わたる中国 0 市 ; 経済 0 急速な発展を経て現在 0 「不正競争防止 法」 ( 以下「現行法」という ) は , 関連する市場経済活動を調節する重要法律の 1 っとし て , 絶えず発生する各種の不正競争の現実的な問題に直面し , すでに時代遅れとなってお り , 改正の必要性に迫られている。しかし , 当該法律は非常に重要な法令であるため , 各 方面の軋轢も非常に激しく , ゆえに , これまで同法の改正を進めることができなかった。 先ごろ , 国務院の法制弁公室は , 「不正競争防止法 ( 改正草案審議提出稿 ) 」 ( 以下「改正 稿」という ) を正式に公表し , 法律改正のための重要な第一歩を踏み出した。今回の改正 内容は , 現行法 33 条のうちの 30 条におよび , そのうち 7 条が削除され , 新たに 9 条が追加 され , はじめての全面的な改正ということができる。本稿では , 改正稿における重要な内 容に注目しながら , 企業における対応策を検討していく。 ものである。独占禁止法がない時代 , これら 朝独占禁止法との関係の整理 の規定は競争秩序を規律する役割を果たして きたが , 2008 年に中国において「独占禁止 現行法は合計で 11 種類の違法行為を規定し 法」が公布されて以降 , これらの違法行為は ており 1 このうち , ①公益事業企業による 「独占禁止法」によっても禁止されるように 独占的地位の濫用 , ②政府およびその所属部 なり , これにより法律適用の問題が生じるよ 門による行政権限の濫用による競争の制限・ うになった。このため , 今回の改正稿では上記 排除行為 , ③競争相手の排斥を目的としたダ の①②③④の競争制限行為を削除したが , ⑤ ンピング行為 , ④抱き合わせ販売および条件 通謀入札行為についてはそのまま残された 2 。 付取引行為 , ⑤通謀入札行為は , 競争を制限 また , 「独占禁止法」により規制できないが する性質を備え , 独占行為的な色合いが強い 競争排除の性質を有する「相対的に優位な地 1 当該 1 1 種類の行為は , 具体的に . 模倣行為 , 市場支配的地位濫用行為 , 行政独占行為 , 商業賄賂行為 , 誤解を招く虚偽広告 行為 , 営業秘密侵害行為 , 競争相手の排斥を目的としたダンピング行為 , 抱き合わせ販売および条件付取引行為 , 巨額懸賞販 売行為および詐欺的な景品付販売行為 , 競争相手を貶める行為 , 通謀入札行為を含む。 127 ビジネス法務 2016.10
Ⅱ審査手続と防御権の見直し 平成 25 年改正法では , その当時議論されて いた弁護士の事情聴取への立会いや弁護士秘 匿特権 (legal privilege) 等の防御権の見直 しが盛り込まれなかったため , 改正法附則 16 条では , 「事件関係人が十分な防御を行う ことを確保する観点から検討を行い , この法 律の公布後 1 年を目途に結論を得て , 必要が あると認めるときは , 所要の措置を講ずるも のとする」とされた。同附則を受けて 2014 年 2 月以降開催された「独占禁止法審査手続に ついての懇談会」では , 上記秘匿特権等の防 御権とあわせて , 「確約制度」や現在の機械 的な課徴金の算定を改める「裁量型課徴金制 度」等も議論された。 同懇談会の報告書 ( 2014 年 12 月 24 日公表 1 ) は , 事業者サイドが求めた弁護士立会権や弁 護士秘匿特権といった事業者の防御権強化の ための新たな制度については , 導入すべきと の結論に至らず , 従来の実務で認められてい る防御権を確認するだけのほば「ゼロ回答」 という評価もある。他方で , 同報告書は , 防 御権の強化を検討すると同時に「裁量型課徴 金制度」や「確約制度」等についても検討を 進めていくことが適当であるとした。 2016 年 3 月に国会に提出された TPP 整備 法案は上記のうち「確約制度」を導入しよう とするものであるが , 並行して公取委が 2016 年 2 月に設置した「独占禁止法研究会 2 」 では「裁量型課徴金制度」の導入が議論され ている。同研究会が 7 月 13 日に公表した論点 整理では , 課徴金制度の諸論点のほか , 弁護 士秘匿特権等の防御権についても論点として あげられている。なお , 同論点整理は 8 月 31 日 18 時を期限として意見募集手続に付され ている 3 以上のとおり , 事業者側の防御権の強化と 公取委の事件調査能力強化とはバランスを保 ちながら , その両方を向上させなければなら ないのであり , 「確約制度」や「裁量型課徴 金制度」等もそれぞれの制度単独の内容とと もに , 上記の一連の議論全体における位置づ けを理解しておく必要がある。もっとも , 今 般「確約制度」が , 「裁量型課徴金制度」や 防御権の議論とは離れて TPP 整備法案とし て独立して導入されることとなり , また , 「独占禁止法研究会」が課徴金制度の見直し を主眼としているため , 秘匿特権等の防御権 の強化の議論だけが置き去りにされないかが 懸念される。したがって , 事業者としては今 後の議論の進展を注視する必要があろう。 Ⅲ裁量型課徴金制度と確約制度 上記のとおり , 「裁量的課徴金」と「確約 制度」は , ともに防御権の強化に対して当局 が事業者との協調的な関係の下に事件処理を 行う領域の拡大のために検討されていたもの ここで両制度の概要と , これら であるため , の制度の導入による事業者の対応への影響を 検討する。 1 裁量型課徴金制度 「独占禁止法研究会」の論点整理では , 「裁 量型課徴金制度」は , 「独占禁止法違反行為 に対して , 事業者の調査への協力・非協力の 程度 , 違反行為の態様 , 違反行為への関与度 合い等を勘案して , 当局の裁量により課徴金 額を決定する仕組み」と定義されている。現 1 http://www8 ℃ ao. go.jp/chosei/dokkin/finalrepo 「 t. html 2 http://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/dkkenkyukai/index.html 3 http://www.jftc.go.jp/houdou/p 「 ess 「 elease/h28/jul/1 6070 ] 3ー3. html 112 ビジネス法務 2016.10
位を濫用する行為」を改正稿に加えた。 「独占禁止法」が「市場力」に対してより 重点を置き , 大型企業を主要な規制対象とし ているのと異なり , 「不正競争防止法」の多 くの内容は具体的な経営行為のうち「不当 性」に対してより重点を置いている。よっ て , 企業にとってはある意味「大にも小にも 適用される」法律であるため , 日系企業とし ては , 大規模であるかまたは小規模であるか を問わず , 「不正競争防止法」の規制にさらに 注視し , 適切に対応していく必要がある。 相対的に優位な地位の濫用に 対する規制の導入 1 「優越的地位の濫用」類似の制度 改正稿は , 市場支配的地位を有しないが , 取引において相対的に優位な地位を有する事 業者の不公平な取引行為について規範規定を 置いた。これは日本の優越的地位の濫用の制 度に類似するもので , 改正稿において新たに 創設された制度である。改正稿によれば , 事 業者は相対的に優位な地位を利用して , 次の 不公平な取引行為をしてはならない。 ①正当な理由なく , 取引相手の取引対象 を限定すること ②正当な理由なく , 取引相手が指定の商 品を購入するよう限定すること ③正当な理由なく , 取引相手とその他の 事業者との取引条件を限定すること ④みだりに費用を徴収し , または取引相 手に対しその他の経済利益を提供するよ う不合理に求めること ⑤その他の不合理な取引条件を付加する ある取引行為が上記の規定に違反するか否 かを確定するには , 当事者が「取引において 相対的に優位な地位を有すること」が前提と なる。「相対的に優位な地位」とは何かにつ いて , 改正稿は , 「具体的な取引の過程にお いて , 取引の一方が資金 , 技術 , 市場参入 , 販売ルート , 原材料調達等の面において優位 な地位にあり , 取引相手が当該事業者に依存 し , 他の事業者に切り替えることが困難であ ることを指す」と明確に定めた。「優位」お よび「依存」を条件としているが , 当該定義 をみる限りでは , 改正稿における「相対的に 優位な地位」に対する定義は , 「独占禁止法」 における「市場支配的地位」に対する定義に 比べてかなり緩和されている。 最も重要な点は , 市場支配的地位の定義に おいては , 「独占禁止法」はまずはじめに 「関連市場」を画定し , その後関連市場の状 況に対し全面的かっ綿密な分析を行ったうえ で , 支配的地位を有するかどうかを確定する ことを要求しているが , 相対的に優位な地位 の定義においては , 改正稿はまずはじめに関 連市場を画定すべきか否かを明確にしておら ず , 相対的に優位な地位の判断の基礎を具体 的な取引行為の発生時の取引双方の力関係の 直接的な対比に置いていると推測され , この ため「相対的に優位な地位」が容易に認定さ れるおそれが間違いなく存在するという点で ある。定義が緩和されたことにより , 事業者 は仮に「独占禁止法」における市場支配的地 位を有しないとしても , 今後は枕を高くして 眠れなくなる。 2 過料金額の増大 また , 相対的に優位な地位の濫用に関する 規定においては , いかなる場合が「合理的」 2 すなわち , 通謀入札行為については , 依然として競争に対してもたらされる実質的な影響について多くを考慮しなくても , 関 連行為に従事しさえすれば , 「不正競争防止法」に違反する可能性がある一方 , 「独占禁止法」に違反するか否かについては , 「独占禁止法」の帰責原則に従って別途分析されることとなる。 128 ビジネス法務 2016. IO
価格引上げの目安を初めて提示 平成 27 年度主要企業結合事例 男 ) 兄 矛一三ロ 実解 NE 日 A 工コノミックコンサルティング 東京事務所代表 / ヴァイスプレジデント石垣 ~ 告品 届出数・進んた審査段階・規制 はじめに された事案数 平成 27 年度の企業結合の届出件数は , 289 件 公正取引委員会 ( 以下「公取委」という ) から 6 件増加して 295 件となった。平成 25 年 は , M & A 等の企業結合により企業行動が一 度に底を打って以降 , 企業結合の届出数は 体化して市場競争が損なわれることを未然に 年々増加している。 防ぐために , 独占禁止法に則り企業結合の審 査・規制を行っている。企業の生き残りや成 【図表 1 】過去 3 年間における公取委が受理し 長を目的とした市場シェアが大きい企業同士 た届出の処理状況 の統合は , 市場競争減退の懸念を理由に独禁 平成平成平成 法上の企業結合規制によって計画そのものが 25 年度 26 年度 27 年度 実現できない可能性がある。 295 264 289 公取委は , 毎年 , 10 件程度の事案を選ん 281 275 257 で , 企業結合審査の実例を公表している。毎 年公表される事例集は , 企業結合審査の姿勢 や実態を読み解くためのほとんど唯一の資料 となっている。 本稿は , 公取委公表の「平成 27 年度におけ る主要な企業結合事例について」 ( 平成 28 年 6 月 8 日 ) を題材にして , 公取委の近年の審査 手法や判断の傾向について解説する。届出件 数や各事例の整理を行った後で , 経済分析が 用いられた大阪製鐵・東京鐵鋼の事例と , フ ァミリーマート・ユニーの事例について詳細 な紹介と検討を行う。 合計届出数 第 1 次審査で終了し たもの 第 1 次審査終了前に 取下げがあったもの 第 2 次審査に移行し たもの 第 2 次審査で終了し た件数 問題解消措置を前提 として独占禁止法上の 問題はなしとした件数 平成 27 年度も , 第 1 次審査で終了する事案 が圧倒的に多く 95 % を越えている。第 1 次審 査で終了する事案の割合は近年大きな違いを 見せていない。第 2 次審査に移行した案件 は , 6 件にとどまる。昨年に引き続き , 第 1 8 3 6 4 3 4 2 3 1 2 1 105 ビジネス法務 2016.10
れがある。また , EU 離脱後のシナリオによ っては , 英国と EU 間の移動の自由が制限さ れ , 契約の履行に要する費用 ( 人の移動コス トや関税など ) が大幅に増加することもあり うる。あるいは , ライセンスや独占的な販売 権等について , 当然に英国も含むものという 前提で , 地理的範囲を「 EU 加盟国内に限り 認める」というような規定をしていた場合に は , 既存の契約の文言のままでは実態と文言 が乖離してしまう。 これらの問題を網羅することは容易ではな いが , たとえば , 支払や対価の均衡性につい ては , 今後締結する契約や既存の契約の見直 しの中で , 「為替変動の幅が一定の限度を超 えた場合には , 対価の再設定や支払通貨の変 更ができる」という旨の条項を設けることが 考えられる。 企業法務への影響 ( 2 ) ーーその他法制度の適用 1 概要 続いて , EU 離脱によって影響が生じるこ とが予想される各種規制法 , その他法制度に ついて , 規制の概要 , EU 離脱の影響 , それ への対応策等を検討する。 2 競争法 ( 独占禁止法 ) 現在は , EU 規則に基づき , 欧州委員会と 各加盟国の当局との間で競争法違反事件につ いての調査権限が分配され , 二重調査や二重 執行が生じないように手当がされている。し かし , EU 離脱により , 欧州委員会と英国当 局 (Competition & Market Authority) とが 同一の事件に対して同時に管轄権を有するよ うになり , かっ , EU 競争法における判断や 事実認定に英国当局が拘束を受けなくなる結 果 , EU と英国とで当局の規制レベルに差が 生じる可能性がある。その場合 , 企業は双方 英国の ELJ 離脱による企業法務への影響郞 の競争法をいずれも遵守する体制を整える必 要が生じる。他にも , 企業結合規制におい て , 英国および EU 競争法上の届出義務が発 生する場合 , EU の「ワンストップショップ」 の恩恵を受けて , 欧州委員会にのみ届出をす れば別途英国当局に対する届出は免除されて いるが , EU 離脱後は , 英国当局と欧州委員会 の双方に届出をしてクリアランスを得なけれ ばならず , 企業の負担の増加が見込まれる。 3 個人情報保護 EU では , 個人情報の取扱いに対する規制 を強化する一般データ保護規則 (GeneraI Data Protection ReguIationo 以下「 GDPR 」 という ) が 2016 年 4 月に採択され , 2018 年 5 月から発効する予定である。 GDPR によれば , EU 域内のある企業が , 個人情報を EU 外に転 送しようとする場合には , 転送先の国の個人 情報保護が欧州委員会および欧州裁判所から 「十分である」 (adequate) と認められるか , 当該企業が個別に各国の当局から認証を得る 等の要件を満たす必要がある。 英国に GDPR が及ばないということになれ ば , 英国は EU とは別に独自の個人情報保護 に関する規制を設けることになる。もし当該 英国内の規制による個人情報保護が「十分で ある」と認められなければ , EU 加盟国から 英国へ個人情報を転送するために , 各企業は 訒師の取得などの適切な措置を講じる必要が ロ心、ロ あることになる。また , 別の問題として , EU 加盟国の各国当局からの認証は , 1 カ国 から得れば足りるため , 日本企業の中には , 英語も通じかっ EU 本社機能を有する英国に おいて認証を受けようとしていた企業も多 い。しかし , 英国に GDPR が及ばないことに なれば , 各企業は英国以外の国で認証を受け る必要が出てくる。 ビジネス法務 2016.10 59
業種別 M & A における法務デュー・ディリジェンスの手引き ービスの範囲・期間 , 修理等が必要な場合の 製品について契約相手方以外に提供しない義 務を負っている場合がある。 このような条項が定められている場合に は , 独占的権利の条件・範囲 , 違反した場合 のサンクション ( 違約金等 ) について確認し 8 当該条項が対象会社の事業活動に及ばす影響 がどの程度のものなのか , M & A 取引の実行 後に買収者が意図しているビジネス展開が可 能なのかといった点について検証する必要が ある。 ( カ ) 瑕疵担保責任・品質保証責任 仕入契約や業務委託契約に関しては , 仕入 先・業務委託先が対象会社に対して負担して いる瑕疵担保責任等について , 販売契約に関 しては , 対象会社が販売先に対して負担して いる瑕疵担保責任等について , まずは民商法 上の原則を確認したうえで 9 , そのような法 律上の責任が契約上どのように修正されてい るかという点の確認が必要である 1 また , この点については , 対象会社が納入 した製品に係る瑕疵等について販売先から責 任追及をされた場合において , 仕入先・業務 委託先にその原因があれば , 対象会社から仕 入先・業務委託先に対してその責任を追及で きるよう , 同一水準の責任内容・期間を設定さ れているかという観点でも確認すべきである。 ( 3 ) 保守に関する契約 販売した製品に関して , 販売先やエンドユ ーザーとの間で保守 ( メンテナンス ) のサー ビスに係る契約を締結している場合には , 当 該保守契約の内容を確認し , 契約上の保守サ 費用負担がどう定められているか , 保守サー ビスの再委託が可能か等について確認し , 対 象会社が過大な義務を負っていないかについ て確認を行う必要がある。 製造業の場合 , たとえば , 販売後も長期間 にわたってメンテナンスのために特定の部品 等の製造を継続すべき義務を負っている場合 等もあり , このような場合 , 当該製品に係る 製造ラインを長期間維持しなければならない ことから , M & A 取引の実行後の対象会社の 事業展開に重大な制約となることもありうる。 宮下央 ( みやしたおお ) T Ⅵ総合法律事務所バートナー弁護士。 2004 年弁護士 登録。取扱分野は , M&A ・経営統合 , 課徴金・インサイダ ー取引規制をはじめとした法令違反事件の対応 , 会社法・ 金融商品取引法全般。 07 年から 1 0 年まで任期付公務員 として金融庁に在籍し公開買付制度 , 課徴金事案等を 担当。主要著作・論文として『企業法務のための金融商 品取引法』 ( 中央経済社 , 2015 ) , 「政策保有株式の売 却に係る法的留意点」商事法務 2108 号等。 田中健太郎 ( たなかけんたろう ) TM 聡合法律事務所弁護士。 2007 年司法試験合格後 09 年 3 月中央大学卒業時まで法職多摩研究室専任講師。 10 年弁護士登録 , M&A ( 買収ファイナンスを含む ) およ びフランチャイズを中心に扱う。著書・論文は「シチュエ ーション別フランチャイズ契約のトラブル防止・対応策』 ( 共著 , レクシスネクシス・ジャパン , 2016 ) , 「日本にお ける表明保証に係る裁判例の傾向・分析と保険活用の可 能性」 MARR OnIine2015 年 6 月号 ( 共著 ) 等多数。 木宮瑞雄 ( きみやみずお ) T Ⅵ総合法律事務所弁護士。 2012 年早稲田大学大学 院法務研究科卒業 , 1 3 年弁護士登録。 M&A, 一般企 業法務 , 商事関連訴訟 , 独占禁止法等を中心に扱う。 近著として , 「改正会社法と実務対応 Q & A I 企業統治 ( ガバナンス ) に関連する改正項目」金融法務事情 2014 年 9 月 25 日号 ( 共著 ) , 「会社役員のための法務 ハンドブック ( 第 2 版 ) 』 ( 共著 , 中央経済社 , 201 5 ) 等。 8 合併や吸収分割により契約を承継する場合 , 買収者が直接これらの義務を負うことになる可能性がある。また , 特に問題が大 きいのは , これらの規定が対象会社だけではなく対象会社のグループ会社の行為をも禁止の対象に含めている場合 , 契約書の 定義上 , 対象会社の親会社やグループ会社の行為によって対象会社の契約違反が生じることがありうるため , そのような内容 となっていないか , 特に注意深く確認する必要がある。 9 たとえば , 商人間の売買契約においてその目的物にただちに発見することのできない瑕疵がある場合における瑕疵担保責任の 期間は , 原則として 6 カ月間である ( 商法 526 条 2 項後段 ) 。 1 。たとえば , 責任追及ができる要件や期間 , 損害賠償の上限額等が法律上の規定と異なる建付けに修正されていることが考えら れる。 ビジネス法務 2016.10 77
法務英語 / もっと伝わる 0 Neither Niantic nor... any other party involved in creating, producing, or delivering the Services or Content will be liable tO you for any indirect, incidental, special, punitive, exemplary, or consequential damages, including lost profits, loss Of data, or goodwill, service interruption, computer damage, or system failure or the cost Of substitute servl ces.. 当社・・・・・・または本サービスもしくはコンテンツの作成 , 製作もしくは提供に関与したその他の当事者の いずれも , ・・・いかなる間接的損害 , 偶発的損害 , 特別損害 , 懲罰的損害賠償または派生的損害 ( 逸失 利益 , データ若しくは業務上の信頼の喪失 , サービスの中断 , コンピューターへのダメージもしくはシ ステム障害または代替サービスの費用を含みます ) についても , ・・・お客様に対して責任を負いません。 consequential damages 」の例示として記載 れており , 直接損害である逸失利益について されている。米国の近時の裁判例 ( たとえば , 責任を負うとしても , リスクは許容範囲内と もいえよう。 Biotronik v. Conor Medsystems lreland, 2014 WL 1237154 , 2014 N. Y. LEXIS 575 (). Y. March 27 , 2014 ) ) では , 逸失利益は派生的損害等には 分類されないと判示したものがあるため , 本 規約のような記載では , たとえば「直接損害 である逸失利益」や「派生的損害ではない逸 本稿では , 英語で利用規約を作成する際の 失利益」については本会社が責任を負うこと 留意点について解説した。利用規約の作成に となりそうである。しかし , そのような結論 は , 契約法理 , 個人情報保護法制 , IT/IP, が本会社が意図したものかどうかは疑問があ 紛争解決等 , さまざまな法分野の知識が必要 る。逸失利益は , 間接損害や付帯損害の一例 である。英文の規約は , 準拠法が日本法でな として記載するのではなく , それらと並存す い場合も多く , 現地の弁護士との協働が不可 る独自の類型として除外することが , サービ 欠となる。本稿が英語で利用規約を作成する ス提供者の責任限定という観点からは望まし 際の参考になれば幸いである。 いと思われる。 西理広 ( にしみちひろ ) もっとも , 本規約は , ユーザーが本アプリ スキャデン・アープス法律事務所。弁護士・ニューヨ ーク州弁護士。 Stanfo 「 d Law School 卒業 (LL. M. )。 を商用目的で利用することを禁止しており , M & A その他の国際取引を多く手掛ける。 いわゆるリアル・マネ トレーディング (RMT) も禁止している 5 ため , ユーザーが Ken D. Kumayama ( けんくまやま ) 直接損害としての逸失利益を立証できる場合 Skadden, A 「 ps, SIate, Meaghe 「 & 曰 om の P 引 0 A は 0 オフィス所属。テクノロジー刀 P に関連する取引や は想定しづらい 6 。また , 本規約では , サー 個人情報保護法制を専門とする。日本語に堪能で日本 ビス提供者の責任の上限額が 1 , 000 ドルとさ 企業の案件に多数関与。 5 具体的には , 以下のような使用が禁止されている。「… fo 「 any comme 「 cial pu 「 pose o 「 fo 「 the benefit of any thi 「 d pa 「 ty 0 「 in a manne 「 not pe 「 mitted by these Te 「 ms, including but not limited tO (a) gathe 「 ing in App items O 「 「 esou 「 ces fO 「 sale outside the App, (b) pe 「 fO 「 ming se 「 vices in the App in exchange fO 「 payment outside the App, O 「 (c ) sell, 「 esell, 「 ent, orlease the APQ O 「 you 「 Account 」 6 この点 , 日 MT が禁止されていなかった場合には , サーバーが長期間ダウンする等の理由で相当期間に亘って配信が中断され た場合に , 相当の期間と金額を費やしてきた重課金ユーザーによる , 日 MT によりあげられるはずであった利益を得られなか った等の主張がされるリスクがある。 特集 おわりに 39 ビジネス法務 2016.10
中国「不正競争防止法」全面改正へ に該当し , いかなる場合が「合理的でない」 の手段で賄賂行為を行うことにより商品を販 に該当するか , すなわち「正当化事由」の確 売または購入してはならない。帳簿に記帳す 定についての規定が現時点では明確ではな ることなく密かに相手側の組織または個人に く , 今後個別のケースにおいて徐々にルール リべートを贈ることは , 贈賄行為として処分 が確立されていくものと考えられるが , 行政 する。相手側の組織または個人から , 帳簿に 機関および司法機関に大きな自由裁量権が残 己帳することなく密かにリべートを受け取る されるおそれがある。特に注意すべきは , 改 ことは , 収賄行為として処分する。事業者は 正稿が , 違法行為の処罰について違法経営額 商品を販売または購入するときに , 明示的方 の同額以上 5 倍以下の過料に処し , 違法経営 法で相手側に値引きすることができ , イ中介人 額がない場合 , または違法経営額を計算でき に手数料を支払うことができる。事業者が相 ない場合は , 情状に基づき 10 万元以上 300 万 手側に値引きし , 仲介人に手数料を支払うと 元以下の過料に処すると明確に定めた点であ きは , 必ず事実どおりに記帳しなければなら る。違法経営額 ( 一般的に原価または費用を ない。値引き , 手数料の支払を受けた事業者 控除する前のすべての売上高を指す ) に基づ は , 必ず事実どおりに記帳しなければならな き計算されるため , 当該過料金額が「独占禁 い」と定めている。 止法」における処罰金額に比べはるかに高く 他方 , 改正稿では , 概念追加列挙方式を採 なる可能性がある 3 。まさにこの条項によっ 用して商業賄賂の概念および典型的な商業賄 て極めて大きな影響がもたらされる可能性が 賂行為を明確に定めたが , 現行法で使われて あるため , 改正稿は , 一般的な不正競争行為 いる「帳簿に記帳することなく密かに」や が県レベル以上の監督検査部門によって処罰 「事実どおりに記帳」等の表現は削除された。 されるのと異なり , 相対的に優位な地位を濫 改正稿は , 「商業賄賂とは , 事業者が取引相 用した違法行為に対してはさらに上級の地級 手または取引に影響を及ばす可能性のある第 市レベル以上の監督検査部門によって処罰を 三者に対し , 経済的利益を供与し , またはそ 行わなければならないことを要求したのであ の供与を約束することによって , それが事業 る。とはいえ , 中国は範囲が非常に広いた 者のために取引の機会または競争上の優位性 め , 各地の法律執行の基準や程度を統一する の獲得をはかるよう誘導することを指す。経 ことができるか否かは , 今後考察するに値す 済的利益の供与またはその供与の約束は商業 る問題の 1 つである。したがって , 資金およ 贈賄にあたり , 経済的利益の収受または収受 び技術の面において中国企業に比べ比較的に の同意は商業収賄にあたる」と明確に定め 強い実力を有する日系企業としては , 相対的 た。実際の商業賄賂事件においては , 贈賄主 に優位な地位の濫用に関する制度の導入およ 体は , 取引相手のみならず , 贈賄主体の目的 びその運用を注視していく必要がある。 達成を幇助する能力を有する第三者に対して も贈賄を行う可能性がある。収賄主体は , 通 常 , 取引と密接な関係にあり , かっ取引に影 商業賄賂規制の強化 響を及ばす能力を有する者であり , 一般的に はイ中介機構 , プローカー , 政府関連部門の職 1 記帳への記載の要否 員等がこれにあたり , これらの収賄主体の本 現行法は , 「事業者は , 財産またはその他 質的な特徴を「取引に影響を及ばす可能性の 3 「独占禁止法」における市場支配的地位濫用行為に対する処罰基準は前年売上高の 1 % から 1 0 % までである。 一三ロ 129 ビジネス法務 2016.10
行の日本の課徴金制度は , 原則として売上額 等に一律に一定率を乗ずることにより画一 的・機械的に算定されるため , 被疑事業者に とって公取委の調査に対して協力するインセ ンテイプがなく , また , 諸外国の制度との制 度とも整合しないというのが上記論点整理に おける問題意識である。そのため , 調査協力 の度合いを考慮して課徴金額を加減算できる 算定方式の是非等が議論されている。 今後導入される可能性がある裁量型課徴金 については , 本稿執筆時点ではいまだ論点整 理への意見募集段階にとどまり , 具体的な制 度設計は明らかでない。もっとも , 公取委が 違反行為ごとに任意の課徴金算定率を決定で きるような制度のみが裁量型というわけでは ない。裁量型というのは幅のある概念であ り , 現行法においても , 主導的地位 ( 7 条の 2 第 8 項 ) や早期離脱 ( 同 6 項 ) が加減算要素 となっており , 実務上これらの規定を適用す るかにつき一定の公取委の裁量が働いている ことは否定できないことからすれば , すでに 裁量型による課徴金の算定は一部導入されて いるともいいうる。そして , 上記論点整理の 問題意識からすれば , 調査への協力度合いが 課徴金算定に影響を与える制度導入が将来的 になされる見込みは高い。もっとも , 調査協 力の面が注目されがちであるが , 違反行為へ の関与の度合いを課徴金額に反映する等につ いても十分な検討がなされることが望まれる。 2 確約制度 日本の議論において主に参照されている欧 州委の確約制度は , 価格カルテルや入札談合 等のハードコア・カルテル以外の違反行為に 対して , 第三者が意見表明をする機会を経た うえで , 法的な違反の認定や制裁金の賦課を TPP が企業法務に与える影響 することなく審査を終結するというものであ る。上記の「独占禁止法審査手続についての 懇談会」報告書では , 「必すしも実態解明プ ロセスにおける調査に協力するインセンティ プをもたらすとはいえないかもしれないが , 競争上の懸念を効率的かつ効果的に解消する ことが可能となる仕組み」と位置づけられる。 日本に同様の制度がこれまでなかったわけ ではなく , 現行法上の警告 ( 審査規則 26 条 ) や平成 17 年改正前法の勧告制度や同意審決制 度も , 確約制度と同様の機能を一定程度果た していた 4 。 TPP 整備法案における確約制度 は , より欧州委の確約制度に近いものを正式 な制度として導入するものと評価できる。 3 企業実務へのインバクト 裁量型課徴金と確約制度は , いずれも公取 委の調査に協力を行うことで , 調査対象企業 も相応のメリット ( 課徴金の減額や行政処分 の免除 ) を受けることができる制度である。 現行制度では , 不当な取引制限と呼ばれる価 格カルテルや入札談合にのみ適用される課徴 金減免制度 ( リニエンシー制度 ) の下で , 違 反事実を自主申告して課徴金の減免が受けら れる以外には , 企業には公取委の調査に積極 的に協力するインセンテイプは存在しない。 不当な取引制限以外の再販売価格の拘束や優 越的地位の濫用等の不公正な取引方法や私的 独占の事案では , 「警告・注意相当である」 または「違反事実がない」と主張するほかに は , 実効的な対応方法がなかった。 しかし , 裁量型課徴金や確約制度の導入後 は , 従来より幅広い違反行為類型において , 公取委の調査に協力するかどうかの選択肢が 与えられることになる。これらの制度の活用 により課徴金等の制裁リスクを軽減できる可 4 拙著「 [ 米国・ EIJ 独禁法判例研究 ] 第 10 ] 回販売価格の拘束および最恵国待遇 (MFN) を行っていたオンラインホテル予 約サイト等に対してなされた確約決定 (Commitment Decision) が司法審査により取り消された事例」公正取引 782 号 86 頁以下日召 イ′ノハ、 0 ヒジネス法務 2016.10 113