② 6 つの分類 「 IT の専門学校卒だから IT の仕事」などと履歴 書や経歴書だけで判断すると , マッチングに失敗 することが多い。そこで成澤さんは , 障害者の適 性を見極める際に 6 つの分類を重視している。 PC を使えるかどうか , 1 人で行うかチームで行うか , マニュアル型か臨機応変型か , という観占だ たとえば , PC を使えて , チームで行うマニュ アル型ならば , アンケートの集計業務に向いてい そうだ。このように FDA では , さまざまな委託 業務を訓練生に体験させながら特徴を見極め , よ り長期の就労に向けた準備をしている。 ③活用例 FDA ではこれまでに 70 種類以上の業務を受託し てきた。施設外就労には , 1 人・複数・職員同行 のパターンがあり , 面談の有無 , 採用を前提とす るかどうか , 業務の頻度 , 受託金額の設定などは , 企業との相談で決める。採用前提ではない受託業 務として , 訓練生が入れ替わりながら続いている 業務もある。データ入力や電話のアポインターな どのデスクワークもあれば , 飲食店の仕込みやオ フィスの清掃など , 身体を動かす仕事もある。業 種は , 電気屋・花屋・飲食店・ビルメンテナンス・ 製造・出版・医薬品・介護・清掃など , とにかく 幅広い。累積では 1 , 000 社ほど , 現在進行中では 30 社ほどの企業から業務を受託している。 FDA には現在 , 18 ~ 63 歳までの約 80 名が通所 している。彼らの住まいは , 神奈川・東京・埼 玉・千葉の 1 都 3 県にわたるが , 業務委託もその 1 都 3 県を対象工リアとし , 急ぎならば相談から 3 営業日でスピード対応をしている。 訓練生の抱える病気は 40 種類以上だ。大手企 業で管理職まで経験した方や , IT 工ンジニアと して活躍した末に精神障害を来した 40 ~ 50 代の こうした方であれば , 高度な業務にも 方もおり , 対応できる。一方で , 知的障害者などはくり返し 作業が得意な場合が多く , データ入力や封入作業 で力を発揮する。このように , 各人の能力をしっ 62 かりと見極めることで , FDA に来た訓練生の多 くが活躍の場を見つけられている。 ④導入の流れ 企業への業務委託導入は , すべて成澤さんが窓 ロとなる。そのこだわりは , 経営トップと話をす ること。従業員数万人の企業が相手でも , 常に役 員以上の責任者と話す。障害者活用は , 想いに共 感して取り組まなければうまくいかないからだ。 導入までの一般的なステップは , ① FDA での打 ち合わせ ( 施設見学や業務内容の相談 ) , ②候補 者とともに企業を訪問し , 座談会兼会社見学 ( 顔 合わせや労働条件の調整 ) , ③就業開始 , の 3 段 階だ。最初の問い合わせから業務開始までは , 平 均 2 カ月程度である。また , 経営幹部との会議や 社内向けの講演依頼などにも柔軟に対応している。 ( 5 ) FDA の受け入れ状況と実績 FDA には , 他の施設でうまくいかなかったり , 受け入れを拒否されたりした方も多くやって来る。 初回面談は必ず成澤さんカ対応するが , 障害当事 者でもある彼の存在は大きい。 FDA では , 2 年間上限の就労移行支援と , 期 間制限のない就労継続 B 型の 2 事業を行ってい るため , 一般就労ができなかった場合は , 2 年を 過ぎても通所を続けられる。このように , 複数の 事業を行う多機能型事業所は増加傾向にあるが , 3 つの事業所を異なる雰囲気で運営していること も , 多様な障害者の受け入れが可能という点で , FDA の強みの 1 つである。土曜日の午後には希 望者でレクリエーションを行い , コミュニケーシ ョンの機会を増やす工夫もしている。 また , 通所には障害者手帳が必須だと思われが ちだが , FDA では手帳所持は 6 割で , 残りの 4 割 は診断書取得である。 FDA に来たことをきっかけ に , 初めて診断を受ける方も少なくない。「大学 は出たけれど , 就職がうまくいかなくて・・・」など と , 生きづらさに直面してやって来る若者も多い。 通所者の障害内訳は , 精神が 5 割 , 発達が 3 割 , 企業診断 2016 / 8
眠れる人材の活用で中小企業の未来を拓け ! 、 【第 4 回】 あの頃の自分が出会いたかった人になりたい 、 PO 法人 FDA 理事・成澤俊輔氏に聞く 但田真紀 中小企業診断士 1 . 障害者雇用の実態を知りたくて 多様な人材活用施策の中で , 大きな母数を持っ のが障害者雇用だ。厚生労働省の平成 27 年資料 によると , 18 ~ 64 歳の在宅障害者数は 324 万人。 法に基づく障害福祉サービスを活用して一般就労 をした障害者数は , 平成 15 年には 1 , 288 人だったが , 平成 26 年には 10 , 920 人と , 11 年間で約 8.5 倍に増 えた。だが , まだまだ伸びしろはある。 とは言え , 障害者雇用は義務だから , 企業もや むなく対応しているのが実情ではないか。義務の ない従業員 50 名以下の会社には , 関係のない話 ではないか。また , 精神・知的障害者の就労は難 しいのではないか。ーーー大変失礼ながら , 筆者に はそのような先入観があり , 障害者が企業で活躍 するイメージを描けないまま , NPO 法人 FDA ( 以下 , FDA) 理事の成澤俊輔さんを訪ねた。 2. FDA の取組みと特徴 ( 1 ) 就労移行支援と就労継続支援 FDA は神奈川県川崎市を拠点に , 就労移行支 援と就労継続支援 B 型の事業を運営している。 いすれも , 障害者総合支援法における就労系障害 福祉サービスだ。就労移行支援では企業などへの 就労を目指し , 研修や就職支援・職場定着支援を 60 行う。就労継続支援 では , 一般就労に結 びつかなかった方な どが , 仕事をしなが ら訓練などの支援を 受け , 仕事に応じて 賃金や工賃が支払わ れる。雇用契約を伴 う A 型と , 雇用契 企業診断 2016 / 8 筆者が成澤さんに初めてお会いしたのは , ある ( 2 ) 障害者雇用は企業からのメッセージ ければ何よりである。 企業における障害者活用の可能性を感じていただ り上げる。現場の実態をお伝えすることで , 中小 こからは , 成澤さんの FDA での取組みを取 ため , 本稿での説明は以上とする。 ンターネット上でわかりやすい資料を閲覧できる 機構の『はじめからわかる障害者雇用』など , イ 者雇用については , 高齢・障害・求職者雇用支援 され , 発達障害も診断されれば対象となる。障害 なお , 障害者は法律で身体 / 知的 / 精神に区分 よっては工賃が支払われることもある。 がある。前述の就労移行支援においても , 施設に 約を結ばない B 型 成澤俊輔・ NPO 法人 FDA 理事 ~
勉強会だった。機敏な身のこなしは活気にあふれ , 「若くて仕事ができそうな人だな」という印象が 残った。彼の眼がほとんど見えていないことには まったく気づかなかった。 成澤さんは , 3 歳のときに網膜色素変性症と診 断された。視力は徐々に低下し , 31 歳となった 現在では光しか見えない。 3 年前には , ウイルス 性髄膜炎とてんかんも患った。 2011 年に FDA の事務局長に就任し , 現在は理 事を務める成澤さんは , 企業開拓や訓練生との面 談を一手に担う。これまでに 2 , 000 の企業と打ち 合わせをし , 年間 1 , 000 件の個人面談にも対応する。 成澤さんに打ち合わせ相手の顔は見えていない が , 対峙していると , 彼が障害者であるという事 実はすぐに忘れてしまう。記憶力だけを頼りに メモを一切とらない成澤さんの会話のテンポはと ても速く , ついていくだけで精一杯だ。 「障害者雇用は , 企業から従業員さんに対する メッセージだと考えています。あなたが何かあっ ても守りますよ , あなたがあなたらしく働くこと を応援しますよ , というメッセージです」 成澤さんの話は , この言葉から始まった。私た ちは , 誰もが障害者になるかもしれないし , 障害 を持っ子どもが産まれる可能性もある。そのよう な中で , 障害者を雇用していることは , 従業員や 家族を大事にする会社であるという安心感につな がる。また , 従業員の手に余る業務を切り出して 障害者に任せることで , 従業員は本来業務に集中 でき , 仕事のパフォーマンスを上げられる。 成澤さんが考える企業視点での障害者活用には , マイナスをゼロにする活用と , ゼロをプラスにす る活用がある。前者は , 経理担当者の月末作業な ど , 手持ちの業務を減らすこと。後者は , お客様 への手紙書きや紙資料のデータ化など , 時間があ ればやりたい作業に取り組むことだ。 そう考えると , 思い浮かぶ業務はありそうだが , そのために障害者を「雇用」するのは難しい場合 も多いだろう。そこでポイントとなるのが , 「業 企業診断 2016 / 8 務委託」による障害者活用だ。 ( 3 ) 雇用と業務委託ー 2 つの障害者活用 FDA のような就労移行支援事業所では , 訓練 生は研修を受講しながら , 体力や習慣などの基礎 力を養う。それができると , 受託業務などを活用 して職業訓練を行い , 就労を目指す。企業からの 業務委託には , 訓練事業所で行う施設内就労と , 企業を訪問して行う施設外就労の 2 通りがある。 施設内就労に慣れた訓練生は , 施設外就労で就 業の可能性を探る。 FDA では , 施設外就労を 1 ~ 2 カ月で設定している。障害者雇用では環境に なじめるかが大切なため , 月末月初や体調のリズ ムも含めた , 長期間での見極めが重要なのだ。 また精神障害者などには , フルタイムは無理で も , 短時間勤務なら成果を上げられる人材も多い。 各人に適切な労働量を見つけることも , 定着のポ イントとなる ( ※厳密には施設外就労・施設外支 ここでは施設外就労と記す ) 。 援の区別があるが , 雇用を前提としない業務委託はピンポイントで 活用できるため , 中小企業からの依頼も多い。実 際 , FDA では従業員 5 名以下の企業も顧客とな っている。業務委託は実践的な訓練につながり , 訓練生に工賃も支払えるため , 多くの支援事業者 が積極的に取り組もうとしている領域だ。 ( 4 ) FDA における業務委託 @発業導入の要となる「仕事の切り出し」 成澤さんの話にたびたび登場するのが , 「仕事 の切り出し」という言葉だ。これは , 顧客企業が 障害者に委託する業務を決めることを指す。 顧客には , 委託する業務をはっきりと決めてい る会社もあれば , 具体的には未定という会社もあ る。顧客にヒアリングをし , 障害者に適した業務 を切り出すこと。そして , 多岐にわたる障害を抱 える訓練生の中から , その業務に適した方をマッ チングすることは , 成澤さんならではのノウハウ が詰まった大切な仕事だ。
その他 ( 身体・知的・難病・重複など ) が 2 割程 度である。全体の 2 ~ 3 割は , 就職後にうつ病な どにかかった方だ。就労移行支援後の進路は , 般就労が 5 割 , 特例子会社への就労が 2 割 , 就労 継続支援 A 型が 2 割 , B 型の継続が 1 割程度で , 合わせて約 9 割が施設から卒業できている。 3. 成澤さんの想い 最後に , 成澤さんご自身の想いを尋ねた。 「障害当事者であること , 障害者雇用に関する 学問的リテラシー , そして経営者経験ーー僕には この 3 つがそろっているので , 周りの方々に期待 していただけているのだと思います」 成澤さんの 31 年の人生には , 重い障害に加え , 帰国子女としての文化的ギャップ , 普通学校への 通学経験 , 大学での福祉学専攻 , 経営コンサルテ イング , 起業・引きこもり経験など , さまざまな キーワードが詰まっている。 視力が , 光と白黒程度しかわからなくなるまで に低下したのは , 7 年前のことだ。自分の姿も見 えなくなった成澤さんは悩み , 気づいた。 「自分はたまたま失明して気づいたけれど , 相 談ができない経営者も , 就職が決まらない学生も , 自身の存在に悩んでいます。僕は目が見えないけ れど , 周りの人が『良い笑顔ですね』と教えてく れるから , 自分が笑顔でいることがわかる。自分 のことは , 相手がわかってくれるんです。だから , 僕は誰かの相手になることこそが , 僕の仕事その ものだと思うようになったんです」 また , 現在の仕事は青春時代を取り返す試みで もあると , 成澤さんは言う。 成澤さんは , 18 歳までは孤独だった。視力の 弱い彼が普通学級に通っても , 部活動も , ゲーム やテレビを見て遊ぶこともできず , 周囲との会話 はなかった。そんな彼が人とのつながりを持った のは , 大学時代に始めた経営コンサルティング会 社での仕事がきっかけだった。人の役に立ち , 感 謝されることの喜びを知った彼は , FDA が部活 企業診断 2016 / 8 FDA のスタッフと。前列右から 3 人目が成澤さん のように楽しく , 前向きで助け合えるチームであ り続けるように , 努力を続けている。 そんな成澤さんの根底にあるのは , 「自分が出 会いたかった人になりたい」という想いだ。 少年時代 , 点字などを教えてくれる支援者はた くさんいた。けれど成澤さんが本当に欲しかった のは , 点字で文通する相手だった。必要なのは手 段ではなく , 心を通わせられる相手だったのだ。 だから成澤さんは , 「大丈夫だよ」と言ってあ げることが自分の仕事だと信じている。就労を目 指して頑張る人 , 手帳の診断を待つ人 , そして悩 める経営者たちに寄り添い , 支えるために , 彼は 今日も走り続ける。 4. おわりに 活用に向けて いますぐに障害者を雇用することは難しくても , 業務委託ならば活用できるという中小企業は多い のではないだろうか。 FDA の対象工リアは前述の 1 都 3 県であるが , 就労支援事業所は全国に 3 , 000 弱存在する。研修 を経て施設内就労 , 施設外就労を行うことは , 国 の法律に沿ったやり方であり , 多くの就労移行支 援事業所は , 仕事を受託する企業を求めている。 全国展開をしている民間企業運営の施設もあれば , 熱心な支援者が運営する小さな施設もある。興味 を持たれた方はぜひ , 対象ェリアの就労移行支援 TEL : 044 ー 245 ー 5112 十五番館 9 階 住所 : 神奈川県川崎市川崎区駅前本町 15 ー 5 く NPO 法人 FDA 〉 事業所を検索してみてほしい。 63