11 図 1 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 解決すべき各課題について「重要」と回答した大学図書館の割合の変移 ・・ 0 ・・利用者サー ビスの向上 - ロ - 情報リテラ シー教育の 充実 強化 との連携の ーー社会・地域 の明確化 * の位置づけ ・・・・大学図書館 環境の整備 提供・保存 ー電子情報の 90.0 % 80. O% 50 ℃ % 40.0 % 70 ℃ % 60.0 % 30.0 % 20.0 % 10.0 % 0.0 % 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 764 -- ロ 201 1 年 769 【参考】調査時の国公私立大学数 734 752 760 747 出典 : 文部科学省学術情報基盤実態調査「大学図書館編」 ( 作図は筆者 ) * 「大学図書館の位置づけの明確化」については 2011 年調査より「機能面」の質問項目から「組織・運営 面」に移り , 「大学全体における大学図書館の位置づけの明確化」として訊ねられており定義が若干変化 したが , 参考にこの年についても回答率を記載した。 ここで言う「情報リテラシー」は IT スキルを 注 : 「大学図書館編」の回答は図書館が記入することから , 除く「学術情報リテラシー」と捉えられていると推察される。 ても , 「情報リテラシー」は「コンピュータや ネットワークの基礎的な理解 , コンピュータやソ フトウェアの操作 , 情報検索能力等」とされ , IT スキルとしての比重が高く , 「大学図書館編」 ではなく「コンピュータ及びネットワーク編」の 中で教育に関する実施調査がおこなわれている。 しかしその教育についての関心は高まっており , 2011 年 5 月時点で全国 769 大学のうち 94.5 % に あたる 727 大学が何らかの情報リテラシー教育を 実施していると回答している。 「情報リテラシー教育を実施した組織の区分」 を見てみると , 「学部・研究科」が最も多く 432 % となっており , 「情報処理関係施設」が 10.7 % と続くが , この調査では定義の性質上「図 書館」単体での実施は 1.1 % と非常に少ない。し かし「複数組織で実施」が 33 % となっており , 教 館が自らの機能として主体的に向上させるべき重 は 494 大学 ( 642 % ) と急激に増加し , 大学図書 ( 9.7 % ) であったのに対して , 5 年後の 2011 年に 回答している大学は , 2006 年にはわすか 71 大学 教育の充実」を「解決すべき課題として重要」と 館編」を見ると , 「機能面」で「情報リテラシー な変化が生まれてきている。同調査の「大学図書 が多かったが , こ数年で図書館側の意識に大き 応じてガイダンス等の形で部分的に担当すること このように , これまで図書館は学部等の依頼に る場合などはここに含まれるものと考えられる。 ている点を見ると , 図書館が学部等と協働してい 検索技術」について 672 大学 ( 87.4 % ) が実施し 育内容のうち図書館と学術情報に関係する「情報
新規会員募集中 日本図書館協会は、 : いつでもア せひこの機会にお手続きを ! 新規こ入会の方と、こ紹介の会員の方には、入会特典のプレゼントがあります。 各種キャンペーンについては、ホームページをこ覧ください。 JLA 企画入会 トップに調査部キャンペーン 日本図書館協会検索 木岡 全国図書館大会 兄 0 夏 & 年度入会キャンペーン 図書館の発展を支えて亶 0 年 日本図書館協会 〒 104-0033 東京都中央区新川 1 -11-14 TeI 03-3523-0811 代 キャンペーン担当直通 TeI 03-3523-0815 Fax 03-3523-0841 e-mail kikaku@jla.0「.jp
8 現代の図書館 VoI. 51 No. 1 ( 2013 ) 社 . 2 開 8. p. 13 ー 20 9 ) 高田淳子 . 公共図書館における情報リテラシー教育の現 状 . 現代の図書館 . vol. 45 , no. 1 , 2 開 7 , P205 ー 212 10 ) 慈道佐代子 . 情報リテラシー教育と利用教育 : 大学図書館 と公共図書館 . 図書館・図書館学の発展 : 21 世紀の初頭の図 書館 . 日本図書館研究会 . 2010. P219 ー 220 (1) 図書館ツアーの事例。 神奈川県立図書館 . ・・図書館大公開 ". ( オンライン ) , 入手 先 く https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/yokohama/ information/disclose-l. html) , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 12 ) 国立国会図書館 . ・・レファレンス協同データベース ". ( オ ンライン ) , 入手先 く http:〃crd.ndl.go.j p/reference/ 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). レファレンス事例集と連動した事例。 福井県立図書館 . ・・レファレンス事例集 ". ( オンライン ) , 入手先 く http ・ //www.library.pref.fukui.jp/reference/reference— top. html#jirei 〉 , ( 参照 2013-2-25 ). 13 ) 国立国会図書館 . ・・リサーチ・ナビ公共図書館パスファ インダーリンク集 ". ( オンライン ) , 入手先 く http ・ //rnavi. ndl. go. jp/research—guide/pubpath. php 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 14 ) ビジネス支援と関連づけて作成された事例。大阪府立中之 島図書館 . ・ゼジネス支援サービスビジネス Web 情報源 ". ( オンライン ) , 入手先 く http ・ //www.library.pref.osaka.jp/nakato/busi—top.html 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 15 ) 学校支援と関連づけて実施された事例。 大阪府立中央図書館 . ・・大阪府立中央図書館における学校 支援サービスの取組み ". ( オンライン ) , 入手先 く http://www.library.pref.osaka.j p/lib/kiyo—pdf/kiy039-02. pdf 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 16 ) 行政支援と関連づけて実施された事例。 神奈川県立図書館 . 、・県の新採用職員研修で図書館活用法 を案内しました ". ( オンライン ) , 入手先 く http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/recommend/?p= 112 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 17 ) 大阪府立中央図書館 . " 図書館サービス紹介パネル ". ( オ ンライン ) , 入手先 く http 〃 www.library.pref.osaka.j p/centra レ panerukasidasi0. html) , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 18 ) 鳥取県立図書館 . " 法情報検索マップ年金問題 ". ( オン ライン ) , 入手先 <http ・ //www.library.pref.tottori.jP/Ct/0ther000000200/ nenkin3. pdf 〉 , ( 参照 2013-2 ー 25 ). 19 ) 横浜市立図書館 . " 横浜探偵団 ( よこはまたんていだん ) ". ( オンライン ) , 入手先 く http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/library/kids/ tanteidan/ 〉 , ( 参照 2013 ー 2-25 ). 20 ) 学校図書館 de 予約します ! ! 決定版 . 学校図書館問題研究 会神奈川支部 . 1991. 64P ( 2012.2.25 受理 )
情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 5 図 1 図書館ツアーの例 会・人文系リサーチ・ライプラリー 神奈川県立図書館 利用するには資科を探す調べる・相談するお知らせ 資科劭 - ・情報志 ホーム > お矢せ〉県民公講座 > 図書館大公開 図害館大公開 県立図書館は市町村の図書館と何が違うの ? 何があって何をしているの ? 県立図書館の全館を司書職員の案内で X " り歩きなカち、普段は入れ、書庫内のお宝資料などもごらんいた だく人気請座。「県立図書館に行くのは初めて」という方、「行ったことはあるすれど、よく説明してほしい」、「あの 奥はどプよっているんだろう ? 」、う方に特におすすめです。 狭い階段がありますので歩きやすい靴でご参加ください。 ※神奈川県立図書館ホームページより「県民公開講座図書館大公開」 例をあげる。事例は調査結果や文献 , インター にも浸透していることを裏付けている。 ネットの情報などを参考に , 情報活用能力の育 「 2006 年度調査」と比較して , 課題解決を支援 するための調べ方案内・パスファインダーなどの 成・向上を図るという観点から選択した一例であ ツールや調べ方講座などのプログラムが増加し多 る。 「情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目 様になっている。 標」 [ 表 ] にあるように明確に区分されて実践が サービスについての意見では , " 情報活用能力 行われているわけではなく , さまざまなサービス の個人差は大きく , 図書館のように誰でも自由に 来られる場所でサービスを行うことは重要。 " に織り込まれていることが多い。 次に述べる ( 1 ) から⑨までのサービスは , どの " パスファインダーの作成 , 活用についての振興 図書館でも必すすべてを実施しなければならない が大切。また情報活用能力の育成 , 向上を図るた ということではない。図書館の規模や状況に応じ めの具体的な事例や方法がまとまっていると参考 て実践の一つのヒントとなればと考えている。 にしやすい。 " など公共図書館における情報リテ ( 1 ) 紙媒体の利用案内 ラシー育成を支援するサービスの重要性が肯定的 利用案内はホームページにもアップされるが , に述べられている。 手軽な紙媒体はサービス案内の基本となる。 二つの調査では , 悉皆調査が困難であることか ( 2 ) 掲示・配布物 ら事例が多いと推測される大規模図書館を対象と したが , 大規模図書館以外にも事例があることを サービスの使い方を知るために , OPAC や データベースの使い方 , 日本十進分類法の見方 指摘している文献もある 10 ) 。 情報リテラシー育成を支援するサービスの重要 を示すものなどさまざまなものがある。 性に対する認識は高まっており , 実践事例もある ( 3 ) 日常的なレファレンスサービス が , 参考となるようなマニュアルや事例集もない 検索の方法 , 特定テーマの調べ方など , 個別な 質問に対応して支援する。 まま , さまざまなサービスに織り込まれる形で展 ( 4 ) 図書館ツアー (l) [ 図 1 ] 開を模索されているというのが現況である。 書庫を中心とするバックャードッアーや見学会 3 実践のヒント と講座を組み合わせることもある。図書館への 訒識を深め , 利用方法を学ぶことができる。 ( 5 ) レファレンス事例の公開 3 . 1 サービスの方法と参考事例 ホームページや国立国会図書館 " レファレンス 協同データベース " 12 ) によるレファレンス事例 サービスの方法を整理し , あわせて関連する事 キーワード 一両県立トップー県立川崎一 活動評価・統計
32 現代の図書館 Vol. 51 N 。 .1 ( 2013 ) ント機能は , 講師と参加者との間での , あるい は , 参加者間での意見交換に活用できると考えた からである。さらに , 研修プログラムでは , シス テム中の「レファレンス事例データベース」への 登録作業を行うが , 登録フォーマットそのものが 有効であると認識した。すなわち , 登録フォー マット上に「回答プロセス」や「参考資料」など が用意されており , これらの記載によって , 処理 プロセスや典拠とした情報源に対する意識が高ま ると期待した。 ただし , このシステムは , 研修プラットフォー ムとして開発されたものではないことから , 当初 はシステムの参加館に「擬する」形で「研修会」 を位置づけて試行した。しかし , 2010 年度から は , システム内に「研修環境」が用意され , 名実 ともに研修プラットフォームとして機能するよう になった。なお , 研修環境は , 二つの利用が想定 される。ーっは , システムそのものをネットワー ク上のプラットフォームとして活用する場合であ る。もうーっは , すでに収められている「レファ レンス事例データ」や「調べ方マニュアルデー タ」を , 研修教材として活用する場合である。本 稿で示す研修プログラムは , 前者に該当する。 3 . 4 研修環境 上述した研修方法の実現には , ネットワーク環 境が前提となる。すなわち , 参加者がインター ネットにアクセスすることができ , レフア協を活 用できなくてはならない。したがって , 参加者の 勤務する図書館等に , ICT 環境が整っているこ とが最低限必要となる。また , 研修会が開催され る会場には , レフア協の画面が閲覧できるよう に , インターネット接続がなされた講師用 PC と 投影機器が用意されていることが求められる。も ちろん , 参加者一人一人が PC を利用できれば , さらに望ましいが , そうした環境を必要とするこ とは , 研修会の開催そのもののハードルを高くす ることにつながるため , 要件にはしていない。 3 . 5 開催要領 この研修プログラムでは 研修会の実施要領は , 筆者が一定の「標準」を 示し , 開催者の状況に合わせて調整した。標準 は , 先行事例や筆者の経験をもとにしながら定め た。まず , 事前課題の確認からレフア協への登録 までの間に 2 週間程度を設けるようにした。これ は , 事前課題を 2 週間かけて解決することを意図 したものではない。公立図書館の職員の勤務実態 を考慮してのことである。すなわち , 2 週間あっ たとしても , 参加者の労働環境や勤務体制によ り , 事前課題の解決にかけられる時間は , それほ ど多くはないと見込んだためである。 なお , 事前課題は , 参加者に一定の力量があ り , かっ , 情報源が十分に整っていれば , 30 分 程度で解決できる難易度を目安とした。ただし , 解決できなくてもかまわないことを伝えており , むやみに時間をかけることを求めてはいない。 研修会の時程としては , 2 ~ 3 時間を目安とし , 必要に応じて途中休憩を取る程度の長さとした。 これにより , 研修会を開催しやすくするととも に , 参加者の出席に伴う負担を少なくした。地域 によっては , 研修会場への遠方からの往復の時 間 , あるいは , 天候による制約があることを踏ま えての措置でもある。 参加者数は , 20 人から 25 人を理想とし , これ よりも多くなる場合には , 開催時間との関係で調 整するようにした。また , 研修プログラムでは , 事前課題への取り組みの結果を比較することを主 眼にしている。したがって , ーっの課題に対し て , 複数の参加者が取り組むことになるが , その 人数を 4 , 5 人程度と考えた。これは , 取り組み の結果の広がりがある程度得られるようにするこ とを意図しての設定である。これよりも少ない人 数の割り当ては , 演習問題に取り組まなかった り , 研修会を欠席したりする者がいたとき , 比較 できないというリスクが生まれてしまう。また , 人数を多くすると , 「右に同じ」式の解説が増え , 参加者の集中力が低下することにもつながる。し かも , 解説は , 参加者とのインタラクションを基 調にするため , 例えば一人に 5 分程度かかると考 えた場合 , 2 時間では 25 人分を扱えない。 3 . 6 事前課題 事前課題は , レファレンス質問に対する回答を
したことによる。 三つの理由の根拠は , 先例および関連する事象 に求めることができる。例えば , 2000 年度に開 始された日本図書館協会の「中堅職員ステップ アップ研修 (1) 」は , 図書館員の専門的能力を高 めることを目的としているが , 「レファレンスク 工スチョンの処理」は , 「レファレンスインタ ビューの方法」と「レファレンスツールの評価」 とともに , 一貫して基本科目となっている。毎年 の文部科学省地区別研修や各地の研修会の実践例 を確認すると , 「質問回答サービス」は常に主要 テーマの一つに位置づけられている。また , レ ファレンス質問の処理は , 有志による自己研修活 動である「レファレンス探検隊」で用いられてい る手法であり , 必要かっ取り組みやすい研修テー マであると予想される。さらに , レファレンス サービスに関係する啓蒙書の多くは , この技能を 中心に解説されており , 図書館員の専門的能力と して「わかりやすい」ものとみなすことができる。 3 . 2 形式 研修プログラムは , 演習形式を基本としてい る。すなわち , 参加者に事前課題に取り組むこと を求め , その結果をもとに研修会を開催する手順 としている。研修会では , 作業結果を比較しなが ら解説することを基調とした。演習は , 事前課題 に対する参加者の取り組みと , 研修会当日の講師 とのやりとり ( インタラクション ) , ならびに 参加者間の意見交換から構成される。 事前課題は , 前節で説明したように , レファレ ンス質問の処理を行うものである。この作業を事 前課題としたのには , 二つの意図があった。ーっ は , 作業時間を確保するためである。もうーっ は , 参加者の勤務している図書館の環境のもとで 解決することを狙いとしたためである。 従来行われている研修会の中には , 研修会場で 課題となるレファレンス質問を提示し , その場で 処理を行う形態のものある。これには , 会場に調 査資料が用意されていることが必要となり , 会場 の制約が大きくなる。また , 参加者によっては , その会場に用意された資料の利用に必ずしも慣れ ているわけではないことから , 実質的な調査時間 「レフア協」研修モードを活用した研修活動の実践 31 に無駄が生じやすい。 また , 参加者が行う作業は , 勤務する図書館等 で行い , 日常の活動との関係を意識しながら進め ることが望ましいと判断した。そのため , 勤務し ている図書館で所持する資料 , 情報源の利用条件 を踏まえた取り組みとすることを優先した。 3 . 3 研修方法 研修プログラムの汎用性を高めるためには , 研 修方法に留意する必要がある。すなわち , 研修の 開催者 , 講師 , 参加者のいずれもが扱いやすい方 法を用いることが望まれる。研修プログラムで は , これに関係する二つの構想を , 方法として組 み入れた。ーっは , 研修への取り組みが参加者間 で共有され , 相互に刺激が得られるようにするこ とである。もうーっは , 研修会に参加するという 物理的な制約を少しでも減らすために , ICT を 最大限に活用した遠隔型の研修を志向することで ある。 前者は , レファレンス質問の処理に関して , 参 加者の取り組みを相互に比較できるようにするこ とを意味する。後者は , そうした取り組みをネッ トワーク上で「いつでも」「どこでも」できるよ うにし , 参加者の研修参加に対する物理的・心理 的ハードルを下げることを目指している。また , 取り組んだ結果がネットワーク上に掲載できれ ば , それ自体が記録として保持され , 意見付与や 二次利用などを可能にすることから , 研修プログ ラムとしての効用が高まるからである。 3.1 で説明した技能を対象に , 上記の方法を用 いて効果を高めるためには , ネットワーク上で研 修用のプラットフォームを用意することが考えら れる。大学の授業では , BIackboard をはじめと する教育用のプラットフォームが利用されてお り , 研修用に援用することもできる。しかし , れには経費が伴うことから , 開催者にとっては ハードルの一つとなる。そこで , レフア協の可能 性に , 筆者は着目した。このシステムでは , レ ファレンス事例を参加館が登録していることか ら , 上記の研修方法に適用できると判断したので ある。また , 無償で利用でき , かっ , 参加者に とって身近であるとともに , 搭載されているコメ
36 現代の図書館 Vol. 51 No. 1 ( 2013 ) レベルを対象とし , どちらも専門的な資格に繋が るものである。 前回 2000 年に大幅にガイドラインを改訂して 以来 , 図書館専門職は多くの課題に直面してき た。なかでも無視できないのは , インターネット や他のデジタル技術とともに生じた課題であり , そのすべてがわれわれの日常生活の多くにまで持 ち込まれている。それとともに , 一部のライプラ リー・スクールでは i-School の考え方が採用さ れるようになったが , これは , 同じ国の中で同種 のスクールが行っている , 伝統的ではあるが未だ 有効な図書館情報学教育のやり方と競合するよう になっている。また , 図書館情報学教育で必要と される多くの教育・知識基盤が , 他の専門職 , 例 えば , アーカイブズ学・博物館学・記録管理学の 領域を含むことが明らかになっている。さらに は , 教育プログラムの知識基盤において地域固有 の先住民問題 (indigenous matters) が欠落して きたことも指摘しておく必要がある。 IFLA 教育研修分科会 (Education and Training Section : SET) では , 常任委員会 (Standing Committee) に , ガイドラインの改訂に責任をも つ小委員会を任命した。そのメンバーは , Gillian Hallam 教授 , S. B. Ghosh 教授 , Kerry Smith 准 教授である。改訂版を以下に記す。 [ 執筆代表 ] Kerry Smith 准教授 : FALIA ( オーストラ リア図書館情報協会フェロー ) , IFLASET ガイドライ ン小委員会委員長 , 2012 年 7 月 達成目標 このガイドラインの目的は , 世界中の図書館情 報学教育機関 ( / ライプラリー・スクール ) に対 し , 一連の望ましい実践の指針を提供し , 教育プ ログラムを開始したり運営したりする際に利用さ れることである。このガイドラインは , 教育プロ グラムの見直しと改善だけでなく , 新しいプログ ラムを計画し , また比較するための実用的なツー ルとして利用できる枠組みを提供するものであ る。このガイドラインは , 図書館情報サービス部 門の新しい教育プログラムを計画する際にも用い られることが期待される。 よく知られるように , 国によっては順守される べき広範な教育基準があり , この分野の専門職団 体が , 特に認証評価を行うために , LIS スクール にとって守るべき教育ポリシーを定めている。 のガイドラインの原則 (principles) が , そのよ うな国レベルの認証評価要件の基盤となることを 期待したい。 ガイドライン GI . 大きな枠組み 達成目標 図書館情報学教育プログラムの中身と組織にお ける地位づけは , 国内の他の職業・専門教育プロ グラムと同等である必要がある。専門職を養成す るためには , 教育プログラムが学位授与機関に置 かれる必要があり , 高等教育 ( 大学 ) レベルが妥 当である。図書館情報学教育プログラムは , 他の 教育プログラムと同じ基準に基づいて , 博士レベ ルの研究課程を提供する資格をもつべきである。 原則 使命図書館情報学教育プログラムの使命は , 般公開された公式文書に明記する必要がある。 プログラムの使命においては , 政治的・社会 的・経済的・実務的視点でその目的が述べられ るべきだが , それは当該専門職における偏見の ない価値観と合致している必要がある。使命 は , サービス対象集団を同定し , 国ごとのニ ズに対応するものであり , 独立・自立した機関 でない限り , 親機関の価値観と一致すべきであ る。図書館情報学教育プログラムは , 関連する 専門職と学問分野について認識されている事柄 をはっきりと示す必要がある。 目的と達成目標図書館情報学教育プログラムで は , その目的 (goals) を明記し , 目的から派 生する具体的な達成目標 (objectives) を掲げ るべきである。その中で , プログラムの根本原 理・原則・方法 , 専門分野 , 提供される養成レ ベル , 教育・サービス・研究上の価値観 , 社会
4 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) の館種の図書館に必要とされることから , 「図書 館利用教育ガイドライン総合版」をベースに 「公共図書館版」を加え , " 子どもや大人が情報活 用能力の育成・向上を図るために公共図書館が支 援するサービス " とした。図書館の活用法・情報 の評価も含めた情報探索法・レポート作成支援な どのための情報活用法まで幅広くとらえる。 サービスという用語を用いるのは , 公共図書館 ではさまざまな図書館活動は住民に対する支援や サービスという観点で位置づけられており , 情報 リテラシー教育は " 情報リテラシーの育成を支援 するサービス " とみなされているからである。 情報リテラシー育成支援サービスの領域と目標 については , 「図書館利用教育ガイドライン総 合版」をもとに表にまとめた [ 表 ] 。 2 . 2 図書館利用教育から 情報リテラシー教育へ 公共図書館のサービスとして , 情報リテラシー 教育はどのように位置づけられるのだろうか。公 共図書館のサービスの変遷と重ねあわせながら , たどってみる。 公共図書館のサービスは , 読書の支援のための 貸出を中心に進められてきた。本や雑誌を見たり 借りたりすることが主な利用であれば , 図書館利 用教育は「図書館の使い方」を知る程度で , あま り複雑である必要はなかった。 貸出サービスは既に定着したが , さらに近年は 課題解決を支援するサービスの充実が求められて いる 8 ) 。ビジネス支援や法情報 , 健康情報など新 たなサービスが模索されているが , 住民が自らの 力で必要な情報を獲得できるよう支援するサービ スの基盤となるのが , 情報リテラシー教育であ る。 図書館のサービスや情報の特性と各種情メディアの特性に応各種メディアの特性 専門的職員による支報源の探し方・使い 援など , 利用する方方を知り , 情報探索エ・整理・保存の方情報倫理や情報発信 高さは , 情報リテラシーという言葉が公共図書館 20 館中 15 館 ( 75.0 % ) の回答を得た。回収率の 政令指定都市図書館 ( 中央館 ) からは , 調査館数 府県立図書館から調査館数 60 館中 59 館 ( 98.3 % ) , リテラシー教育の現況についての調査」では都道 2011 年度に実施した「公共図書館における情報 からである。 という名称が浸透していなかったことに配慮した たのは , 当時まだ公共図書館では情報リテラシー の名称に情報リテラシーという言葉を用いなかっ 事例が育まれつつあることを確認している。調査 情報リテラシー育成を支援するようなサービスの 調査」 9 ) ( 以下「 2006 年度調査」とする。 ) では , 書館利用方法・情報の探し方講座などについての 2006 年度に実施した「公共図書館における図 実施している。 2006 年度と 2011 年度に郵送による質問紙調査を 及び政令指定都市図書館 ( 中央館 ) を対象に , 筆者は現況を把握するため , 都道府県立図書館 について簡潔に述べる。 れているのだろうか。関連する調査をもとに現況 が , 公共図書館のサービスはどのようにすすめら 潜在的 , 顕在的なニーズがあることは明らかだ 2 . 3 公共図書館の現況 ラシー教育へと拡大されることになる。 報活用も視野にいれ , 図書館利用教育は情報リテ 図書館の中だけではなく , 図書館の外にある情 報源も含めることは日常化している。 ンターネットやオンラインデータベースなどの情 方案内・パスファインダーの作成においても , イ ている。現在では , レファレンスサービスや調べ 源は図書館の中にある本や雑誌だけではなくなっ 情報環境の変化により , 図書館が提供する情報 表情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目標 : 「図書館利用教育ガイドライン総合版」より 領域 1 印象づけ 図書館があることを 認識し , 必要なとき に利用できることを 知る。 目標 2 サービス案内 法を学ぶ。 3 情報探索法 の方法を学ぶ。 4 情報整理法 じた情報の抽出・加 法を学ぶ。 5 情報表現法 の方法を学ぶ。 と活用法を理解し ,
34 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) 探索し , その結果をレフア協に事例として登録す ることを求めるものとしている。質問に対する回 答を求めるという内容は , 奥の先行事例があり , 目新しさはないが , 広く了解が得られる手法であ る。ただし , 研修プログラムでは , 回答そのもの ではなく , 回答に至るプロセスを重視することを 強調した。すなわち , 回答が得られたかどうかで はなく , 仮に回答が得られなくてもプロセスやア プローチに妥当性があったかどうかに着目した。 これは , 参加者の勤務する図書館の相違に配慮し てのことである。どんなに妥当なアプローチで あっても , 利用できるレファレンス情報源に限界 があれば , 十分な回答は難しいからである。 言い方を換えれば , この研修プログラムは , 正 解を求めることを意図していない。レファレンス 事例に関して , その評価の一部に「解決 / 未解 決」が位置づけられるが , 極めて相対的である。 同じ検索結果に関して , 何らかのヒントが欲しい 者の場合は「解決」であっても , 網羅的な情報を 求める者にとっては「未解決」だからである。 また , 登録された結果の解説では , 取り組みを 比較することを主眼にした。それゆえ , 比較の効 果が高まるよう , 事前課題の設定に工夫をしてい る。例えば , 同じ回答を入手できる多くの情報源 が存在するもの , 同じ情報源を利用しても索引語 や検索語を変えると結果が異なってしまうもの , 情報源によって観点の相違や掲載情報の幅が大き いもの , といった具合である。また , レファレン ス質問の背景にある利用者のニーズや利用者の属 性などにより , 検索方法や情報源の選択に違いが 生じることなども意識できるよう , 研修会当日に 解説したり , コメントによって強調したりした。 さらに , 事前課題を用意するにあたって , 扱う テーマに関しては , 公立図書館職員を対象にする という点から , 特定の主題に集中しないようにし た。これに加えて , 資料案内の技能を高められる ように , 文献を求めるレファレンス質問と事実を 確認するレファレンス質問とを , バランスよく組 み入れるようにした。また , 公立図書館で尋ねら れることが多いと言われる , 人物情報や統計情報 を検索する課題を含めるようにした。さらに , 開 催地の地域資料を活用したり , 地域情報を確認し たりするものを必ず含めた。図 3 は , 北九州市 立中央図書館における研修会での実例を , 出題の 趣旨や留意点とともに示したものである。 4 、おわりに 効果的な研修プログラムを構築するには , 実践 の積み重ねが必要である。本稿で示した研修プロ グラムを参考にして , レファレンスサービスの研 修が促され , かっ充実することになれば , 筆者と してこの上ない歓びである。 ただし , これからの研修活動は , 実施すること だけが重視されるのではなく , 研修の実態を記録 し , 考察を加える営みを伴わなくてはならない。 すなわち , 研究的な視点から取り扱う必要があ る。とりわけ , 一定の性質を有する研修プログラ ムを「モデル」として位置づけ , そのモデルの有 効性 , すなわち , 妥当性 , 重要性 , 持続性など を , 実証する活動を行うことが必要となろう。こ の実証作業は , 研修という実践に基づいて行うこ とから , 自然科学における実験のようには進めら れないが , 少しでも客観性を担保できるように 多様な調査方法を駆使して推進することが求めら れる。 本稿で提示した研修プログラムについても , うした実証作業が必要とされよう。その作業は , 前述した研究活動の主目的であるが , その成果に ついては , 稿を改めて示すこととしたい。 く注 > 1 ) 研究は , 日本学術振興会科学研究費補助金を得て , 「成果 共有型ネットワークを活用した図書館員の技能育成に関する 研究」 ( 萌芽研究・研究代表者・小田光宏 , 286 ー 2007 年度 ) と , 「成果共有型ネットワークを活用した独習 / 協調研修プ ログラムに関する実証的研究」 ( 基盤研究 (C) ・研究代表者・ 小田光宏 , 2008 ー 2010 年度 ) の 2 期で行なった。 ( 2012.10.17 受理 ) く補記 > 本稿受理後 , 研修プログラムの有効性を検証した研究成果と して , 次の論考を著している。 小田光宏「成果共有型ネットワークを活用したレファレンス 研修プログラムの有効性に関する実証的研究」『図書館界』 64 巻 5 号 , 2013 年 1 月 , p. 310 ー 326
ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 7 おわりに 2013 年 1 月 13 日 , 東京大学で行われた「子ど もの読書活動を考える国際シンポジウムー子ども たちの本読み事情 : アジア各国の今とこれから」 において , 基調講演を行った CaroI CoIIier Kuhlthau 博士は , 「探究的な学びをもたらす子ど もたちの読書」シンポジウム終了後のディスカッ ションの中ではっきりとこう言った。 "NOt seeking information, But seeking meaning ! ! " もしかすると私たちは自分に必要な情報を探し ているのではなく , 自分の意図することを他の人 が表現したものから探し出そうとしているのでは ないだろうか。 そう考えると , MuIti Literacy はこれから , Meaning Literacy となり , 自分が知りたい意図 を他人のテキストから読み解くことができるリテ ラシーを意味するのではないか。学校図書館で身 につけるカ , そのすべてが「 meaning 」でつな がっている。 く注 > 1 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会「情報リテラシー教 育の実践すべての図書館で利用教育を』 ( JLA 図書館実践 シリーズ ) , 日本図書館協会 , 2010 , 180P. 第 5 章 , 天野由貴「生きるための情報活用能力を育成する 「図書館戦争」から身近な問いと知識をつなぐ」 p. 61 ー 70 2 ) 森田英嗣「 ICT が変化させた社会と教育」「教育と文化」 68 巻 6 号 , 2012 , p. 6 ー 19 3 ) 文部科学省「 OECD における「キー・コンピテンシー」に ついて」 http://www.mext.go.jp/b—menu/shingi/chukyo/ chukY03/()()4/siryo/05111603 / 開 4. htm ( accesse d 20132.15 ) 4 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会図書館利用教育ハン ドブック学校図書館 ( 高等学校 ) 版作業部会「問いをつくる スパイラルー考えることから探究学習をはじめよう ! 」日本 図書館協会 , 2011 , 123P. 5 ) 文部科学省「 OECD 生徒の学習到達度調査一 289 年調査 国際結果の要約」 http://www.mext.go.jp.com/onent/a—menu/education/ detai レーiCSFi1eS/afiddfi1e/2010/12/07/1284443ー01. pdf (accessed 20132.15 ) ( 2013.2.15 受理 ) 23