したことによる。 三つの理由の根拠は , 先例および関連する事象 に求めることができる。例えば , 2000 年度に開 始された日本図書館協会の「中堅職員ステップ アップ研修 (1) 」は , 図書館員の専門的能力を高 めることを目的としているが , 「レファレンスク 工スチョンの処理」は , 「レファレンスインタ ビューの方法」と「レファレンスツールの評価」 とともに , 一貫して基本科目となっている。毎年 の文部科学省地区別研修や各地の研修会の実践例 を確認すると , 「質問回答サービス」は常に主要 テーマの一つに位置づけられている。また , レ ファレンス質問の処理は , 有志による自己研修活 動である「レファレンス探検隊」で用いられてい る手法であり , 必要かっ取り組みやすい研修テー マであると予想される。さらに , レファレンス サービスに関係する啓蒙書の多くは , この技能を 中心に解説されており , 図書館員の専門的能力と して「わかりやすい」ものとみなすことができる。 3 . 2 形式 研修プログラムは , 演習形式を基本としてい る。すなわち , 参加者に事前課題に取り組むこと を求め , その結果をもとに研修会を開催する手順 としている。研修会では , 作業結果を比較しなが ら解説することを基調とした。演習は , 事前課題 に対する参加者の取り組みと , 研修会当日の講師 とのやりとり ( インタラクション ) , ならびに 参加者間の意見交換から構成される。 事前課題は , 前節で説明したように , レファレ ンス質問の処理を行うものである。この作業を事 前課題としたのには , 二つの意図があった。ーっ は , 作業時間を確保するためである。もうーっ は , 参加者の勤務している図書館の環境のもとで 解決することを狙いとしたためである。 従来行われている研修会の中には , 研修会場で 課題となるレファレンス質問を提示し , その場で 処理を行う形態のものある。これには , 会場に調 査資料が用意されていることが必要となり , 会場 の制約が大きくなる。また , 参加者によっては , その会場に用意された資料の利用に必ずしも慣れ ているわけではないことから , 実質的な調査時間 「レフア協」研修モードを活用した研修活動の実践 31 に無駄が生じやすい。 また , 参加者が行う作業は , 勤務する図書館等 で行い , 日常の活動との関係を意識しながら進め ることが望ましいと判断した。そのため , 勤務し ている図書館で所持する資料 , 情報源の利用条件 を踏まえた取り組みとすることを優先した。 3 . 3 研修方法 研修プログラムの汎用性を高めるためには , 研 修方法に留意する必要がある。すなわち , 研修の 開催者 , 講師 , 参加者のいずれもが扱いやすい方 法を用いることが望まれる。研修プログラムで は , これに関係する二つの構想を , 方法として組 み入れた。ーっは , 研修への取り組みが参加者間 で共有され , 相互に刺激が得られるようにするこ とである。もうーっは , 研修会に参加するという 物理的な制約を少しでも減らすために , ICT を 最大限に活用した遠隔型の研修を志向することで ある。 前者は , レファレンス質問の処理に関して , 参 加者の取り組みを相互に比較できるようにするこ とを意味する。後者は , そうした取り組みをネッ トワーク上で「いつでも」「どこでも」できるよ うにし , 参加者の研修参加に対する物理的・心理 的ハードルを下げることを目指している。また , 取り組んだ結果がネットワーク上に掲載できれ ば , それ自体が記録として保持され , 意見付与や 二次利用などを可能にすることから , 研修プログ ラムとしての効用が高まるからである。 3.1 で説明した技能を対象に , 上記の方法を用 いて効果を高めるためには , ネットワーク上で研 修用のプラットフォームを用意することが考えら れる。大学の授業では , BIackboard をはじめと する教育用のプラットフォームが利用されてお り , 研修用に援用することもできる。しかし , れには経費が伴うことから , 開催者にとっては ハードルの一つとなる。そこで , レフア協の可能 性に , 筆者は着目した。このシステムでは , レ ファレンス事例を参加館が登録していることか ら , 上記の研修方法に適用できると判断したので ある。また , 無償で利用でき , かっ , 参加者に とって身近であるとともに , 搭載されているコメ
情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 7 参加人数は市町村図書館等職員研修が 20 数名 活発な活動が展開された。当時は大人が読ませた ( 募集定員は 30 名 ) , 館内研修も同程度だが , そ い本を高校の図書館に置くことが主流であり , 図 書館の利用はあったものの貸出は少なかった。賛 の他は概ね 10 数名程度である。他の講座と比較 否もあったが , 貸出の拡大は図書館の活性化につ して特に多くもないが少なくもない。 同じテーマをもとに複数の別の対象に実施する ながった。 ことは , 効率的な業務運営につながる。講座の内 しかし , 学校図書館の蔵書は 2 万冊弱程度が一 般的であり , 生徒は 3 年で卒業していく。卒業後 容や配布資料は対象によってアレンジするが , 工 も含めて , 身近な生活の中で必要とする情報を得 夫を重ねることで担当者のスキルアップにもつな ることができるようさらに何かできることはない がる講座を開催する場合 , 参加人数をあげるこ かと素朴に考えはじめたことが発端である。その とが課題となるが , 同じテーマを重ねることで参 後県立図書館に異動したが , サービスの根幹に変 加人数の累積が図れる。 わりはないように思う。 3 . 3 サービス展開のこれから どのような規模の図書館においても , 実践の必 「 2011 年度調査」では主に個人利用者を対象と 要性 , 可能性はあると考えている。 するサービスを調査項目として設定した。 しかし , 都道府県立図書館にとって個人利用者 《謝辞》 「 2011 年度調査」については日本図書館情報学 だけではなく市町村図書館の職員 , 学校司書や教 会研究助成を受けました。調査にご協力ください 職員 , 行政職員もサービス対象である。 ましたみなさまに厚く御礼申し上げます。 学校支援や行政支援に関連づけて実施される例 修士課程修了後もご指導くださいます田村俊作 もあり , 各自治体の図書館でも , 特定の集団を対 慶應義塾大学教授に改めて感謝申し上げます。 象とするサービスを視野にいれる必要がある。 まとまった調査はないが , 政令指定都市以外の く注 > 市町村図書館の地域住民に対する身近なサービス 1 ) 文部科学省 ; これからの図書館の在り方検討協力者会議 . 事例もあるはずである。 これからの図書館像 : 地域を支える情報拠点をめざして ( 報 対象別のサービスとしては , 特に子どもを重視 告 ). p. 10 する必要がある。子どもを対象に作成された調べ 2 ) 野末俊比古 . 情報リテラシー教育 : 図書館・図書館情報学 方案内・パスファインダーの事例がある 19 ) 。 を取り巻く研究動向 . カレントアウェアネス . N 。 .302 , 2009 年 12 月 20 日 . ( オンライン ) , 入手先 非来館者へのサービスも含めたホームページの <http:〃current.ndl.go.j p/print/book/export/htm レ 15547 〉 , 活用などサービス展開をさらに拡大させる可能性 ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). はあり , 事例の集積と整理が今後の課題である。 3 ) 高田淳子 . 公共図書館における情報リテラシー教育の枠 組みー現況調査を基に . 2012 年度日本図書館情報学会春 季研究集会発表要綱 . 日本図書館情報学会 , 2012 年 5 月 12 4 おわりに 日 , P27 ー 30 4 ) Association of CoIIege & Research Libraries. 現場の司書である筆者が , 情報リテラシー教育 Presidential Committee on lnformation Literacy: Final Report". ( オンライン ) , 入手先 を関心分野として調査していることを不思議に思 く http://www.ala.org/acr レ publications/whitepapers/ われる方もあるかもしれない。情報リテラシー教 presidential 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 育との関わりについて最後に付記しておく。図書 5 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編 . 図書館利用教育 館利用教育から情報リテラシー教育にいたるサー ガイドライン合冊版図書館における情報リテラシー教育支 援サービスのために . 日本図書館協会 , 2001 , p. 81 ビスの流れと重なるからである。 6 ) 注 5 ) p. 11 ー 17 筆者が県立高校の学校司書であった 1990 年代 , 7 ) 注 5 ) p. 49 ー 64 県立高校の図書館では生徒が読みたい本を提供し 8 ) 大串夏身 . " 第 1 章課題解決型サービスを提供する意義 ". 図書館の最前線 3 : 課題解決型サービスの創造と展開 . 青弓 ようという試みがあり 20 ) , 利用を増やすための 0 1 三
6 現代の図書館 VOL51 N 。 .1 ( 2013 ) の公開は , 利用者の課題解決のヒントとなる。 ( 6 ) 調べ方案内・パスファインダーの作成 利用者の課題解決支援のツールである。国立国 会図書館 " リサーチ・ナビ公共図書館パス ファインダーリンク集 " 13 ) に各参加館の事例が リンクされている。 ( 7 ) 特定テーマのためのリンク集の作成 14 ) 利用者の課題解決支援のツールである。 ( 8 ) 各種講座などの開催 利用者支援のためのプログラム。 OPAC 検索 , データベース検索などの検索スキルのための講 座 , 図書館活用講座 , テーマ別の調べ方講座な どがある。各講座には , 情報の評価や著作権の 問題などが織り込まれることもある。 対象を個人とする場合と , 学校支援 15 ) や行政 支援 16 ) に織り込む形で , 特定の集団に対して 集合型のサービスとして開催される場合があ る。図書館の外へ出かけて実施する「出前講 座」の形をとる場合もある。調べ方講座の展開 事例については , 32 で後述する。 ( 9 ) その他 図書館紹介のための展示パネルの貸出 17 ) や特 定テーマの関連情報と資料の配架位置案内を組 みあわせたチラシ作成の事例 18 ) がある。 3 . 2 調べ方講座の展開事例 「 2011 年度調査」を実施した際に , 神奈川県立 図書館では特に調べ方講座の開催について特色が あることを改めて認識した。さまざまな調べ方講 座を開催していること , 同じテーマをもとに異な る対象に対して開催している点である。 筆者の主な業務はレファレンスサービスと各種 講座の講師を務めることである。 2008 年度に担 当となってから 2012 年度までの 5 年間に , イン ターネットの検索 , 法情報 , 美術情報 [ 図 2 ] や 漢詩 [ 図 3 ] などの調べ方講座を , 対象もさまざ まに行ってきた。 各種講座の講師を短期間に務めることができた のは , 県立図書館のレファレンス事例と講座開催 関連資料の蓄積によるものである。筆者だけでは なく , 他の課の職員も各種講座の講師を担当して いる。 図 2 2010 年度神奈川県立図書館県民公開講座 「美術資料の調べ方入門」 ( 2010 年 7 月 14 日実施 ) 美術資料に関するご質問あれこれ 0 画家クロード・モネについて簡潔に知りたい。 . 。 ・蓮華王院本堂にある風ネ申・雷ネ申像の写真が載っている本は ? ・平山郁夫画伯の生没年や絵の評価額を知りたい。 ・小野道風の書を探している。 図 3 ( 1 ) ( 2 ) ( 3 ) ( 4 ) ( 5 ) ・異本伊勢物語絵巻六段の芥河にある、 男が左手に持っている丸い物ロ何か ? ・尾形光琳の『燕子花図屏風』について、 どのくらいの量の金が使われているのか 記述のある資料や論文を知りたい。 2011 年度神奈川県立図書館県民公開講座 「漢詩の探し方入門」 ( 2012 年 2 月 8 日実施 ) 本日の予定 はじめに よくある漢詩関連のこ質問 渓詩について 日本と漢詩 ( 漢文学 ) との関係 調べる時のヒント ・ 1 1 : 1 0 ~ 1 1 : 20 頃休憩 ( 6 ) 調べるにはどうしたらワ - 事例をもとに ( 7 ) 調べる時の参考になる本やインターネットなど * 「漢詩の探し方入門ー漢詩を周べるための本やインターネットー」 年度に他の職員が担当したのが最初である。当時 この講座は市町村図書館等職員を対象に 2008 の調べ方入門講座 " を事例としてあげる。 「 2011 年度調査」で他に類例がなかった " 漢詩 90 分程度を基本に開催している。 館内職員向けの講座のみ 60 分としたが , 概ね る。 ) , 館内職員向け研修で筆者が講師を担当した。 び特別支援校 2 校に学校司書を全校配置してい 職員対象の研修 ( 神奈川県では県立高校 144 校及 書館等職員研修 , 高校連携による学校司書及び教 年度及び 2012 年度に , 県民公開講座 , 市町村図 ーズがあることから , 2011 けることもあり , 利用者や市町村図書館から漢詩関連の質問を受 献 , 事例集などを加えた資料を配布している。 はパワーポイントを使わずに , レジメに参考文
イン図書館の中に置かれているものの , 五つの組 織は機能的にそれぞれが独立しており , 例えば 「学習戦略開発」部門は「速読法」「時間管理法」 「プレゼンテーション技能改善」「ノート記録術」 「図書館とライティングセンターを使った調査・ ェッセイ執筆」などの多様な学習支援ワーク ショップを開催しており , 「ライティングセン ター」はレポート・論文執筆に関する個別コンサ ルティング面談 ( 予約制・ 1 人 1 年で 9 回まで ) をおこなっており , 「学習法」と「執筆・発信」 それぞれを分けて支援している。 クイーンズ大学図書館の「リサーチ・ヘルプ」 カウンターには「 Ask Here! 」と書かれた立て札 が置かれ , 48 時間の訓練を受けた大学院生の Teaching Assistant (TA) が対応するため , 所 蔵調査に始まり用途に応じたデータベース選択・ 活用というレベルまでの質問であれば大部分がこ こで対応でき , 専門分野に踏み込んだ質問のみ担 当のⅱ brarian に引き継ぐため , 少ない専任職員 でも高い利用者支援サービスが達成できている。 大学院生レベルになると専門ⅱ brarian の存在 意義が大きくなってくるが , 多くの librarian が 氏名と担当分野と連絡先 (E-maiI アドレスを含 む ) を Web 上に公開している。日本の感覚で見 ると , 公開によって膨大な質問・相談メールに忙 殺されることが懸念されるが , クイーンズ大学で は基礎的な図書館利用 , 学習スキルを身につける 各種ワークショップに加えて相当なレベルまでは 先述の訓練を受けた TA が対応しているため , librarian に寄せられるメールは高度な内容に限 られ , 1 日に数件程度だという。これにより , 専 門に特化した講習の企画実施などに注力できてい る。 サービスの高度化は , 担当者の自主的な努力だ けでは継続性・発達性の維持は難しいため , 適切 な評価システムが必要となる。視点をアメリカに 戻すと , 大学図書館協会 (ACRL) が 2004 年に 旧基準を更新して設けた「高等教育機関における 図書館基準」 9 ) には , 「学習成果への図書館の貢 献」の項目が加わり , 図書館はアンケートやイン タビュー調査によって「図書館利用により , 学生 がいかに成長したか」を測り , 大学教育への貢献 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 13 度を可視化することが必要となった 10 ) 。このよ うに測定した利用者の成長度は , 日本においても 支援の必要性を裏付ける上で重要な指標となるだ ろつ。 5 課題と解決策 5 . 1 大学教育の中での 各種リテラシーの位置づけ アメリカにおいて 1980 年代から現在まで発展 してきた情報リテラシー教育は , 「図書館の利用 教育を発展させたもの」ではなく , 「高度情報化 社会で大学が学生に育成すべき目標として大学の カリキュラムの中に統合して初めて育成可能なも の」と捉えられ , 教育改革運動として進められて きたこのことは , 日本においても図書館お よびその職員のみの視点でなく , 大学全体のカリ キュラムと育成目標を俯瞰的にとらえ , 教員を始 めとする大学の構成員のうち誰がいっ何を教える かを明確にして検討すべき課題であることを示唆 している。 例えば IT スキルについては大学内に高度な専 門性を持っ教職員がいる場合が多く , またメディ ア・リテラシーについては社会学・社会情報学の 知見が必要となるため , その分野の教員あるいは 外部講師が担当すべきと考える大学が多いだろ う。また情報倫理も重要である。検索エンジンで 見つけた出典不明の情報を安易に切り貼り ( コ ピー & ペースト ) してレポートを書いてしまう 「コピペ問題」については , アメリカやカナダの librarian たちとの間でもしばしば話題となるが , 「少しでも早い時期に学び , 無価値な情報に踊ら される時間を省いて , より本質的な学習・研究に 費やして欲しい」と考えるのは , 世界中の大学関 係者にとって共通の願いである。日本においても 近年 , 高等学校から大学に入り能動的な学習形態 への移行を支援するため , 1 年生を対象とした初 年次教育への関心が高まっている。その一環とし て , 図書館による各種の講習の中で「著作権の概 要」や「引用表記の方法」に触れている例も多い が , この点は大学教育の根幹に関わる問題なの
4 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) の館種の図書館に必要とされることから , 「図書 館利用教育ガイドライン総合版」をベースに 「公共図書館版」を加え , " 子どもや大人が情報活 用能力の育成・向上を図るために公共図書館が支 援するサービス " とした。図書館の活用法・情報 の評価も含めた情報探索法・レポート作成支援な どのための情報活用法まで幅広くとらえる。 サービスという用語を用いるのは , 公共図書館 ではさまざまな図書館活動は住民に対する支援や サービスという観点で位置づけられており , 情報 リテラシー教育は " 情報リテラシーの育成を支援 するサービス " とみなされているからである。 情報リテラシー育成支援サービスの領域と目標 については , 「図書館利用教育ガイドライン総 合版」をもとに表にまとめた [ 表 ] 。 2 . 2 図書館利用教育から 情報リテラシー教育へ 公共図書館のサービスとして , 情報リテラシー 教育はどのように位置づけられるのだろうか。公 共図書館のサービスの変遷と重ねあわせながら , たどってみる。 公共図書館のサービスは , 読書の支援のための 貸出を中心に進められてきた。本や雑誌を見たり 借りたりすることが主な利用であれば , 図書館利 用教育は「図書館の使い方」を知る程度で , あま り複雑である必要はなかった。 貸出サービスは既に定着したが , さらに近年は 課題解決を支援するサービスの充実が求められて いる 8 ) 。ビジネス支援や法情報 , 健康情報など新 たなサービスが模索されているが , 住民が自らの 力で必要な情報を獲得できるよう支援するサービ スの基盤となるのが , 情報リテラシー教育であ る。 図書館のサービスや情報の特性と各種情メディアの特性に応各種メディアの特性 専門的職員による支報源の探し方・使い 援など , 利用する方方を知り , 情報探索エ・整理・保存の方情報倫理や情報発信 高さは , 情報リテラシーという言葉が公共図書館 20 館中 15 館 ( 75.0 % ) の回答を得た。回収率の 政令指定都市図書館 ( 中央館 ) からは , 調査館数 府県立図書館から調査館数 60 館中 59 館 ( 98.3 % ) , リテラシー教育の現況についての調査」では都道 2011 年度に実施した「公共図書館における情報 からである。 という名称が浸透していなかったことに配慮した たのは , 当時まだ公共図書館では情報リテラシー の名称に情報リテラシーという言葉を用いなかっ 事例が育まれつつあることを確認している。調査 情報リテラシー育成を支援するようなサービスの 調査」 9 ) ( 以下「 2006 年度調査」とする。 ) では , 書館利用方法・情報の探し方講座などについての 2006 年度に実施した「公共図書館における図 実施している。 2006 年度と 2011 年度に郵送による質問紙調査を 及び政令指定都市図書館 ( 中央館 ) を対象に , 筆者は現況を把握するため , 都道府県立図書館 について簡潔に述べる。 れているのだろうか。関連する調査をもとに現況 が , 公共図書館のサービスはどのようにすすめら 潜在的 , 顕在的なニーズがあることは明らかだ 2 . 3 公共図書館の現況 ラシー教育へと拡大されることになる。 報活用も視野にいれ , 図書館利用教育は情報リテ 図書館の中だけではなく , 図書館の外にある情 報源も含めることは日常化している。 ンターネットやオンラインデータベースなどの情 方案内・パスファインダーの作成においても , イ ている。現在では , レファレンスサービスや調べ 源は図書館の中にある本や雑誌だけではなくなっ 情報環境の変化により , 図書館が提供する情報 表情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目標 : 「図書館利用教育ガイドライン総合版」より 領域 1 印象づけ 図書館があることを 認識し , 必要なとき に利用できることを 知る。 目標 2 サービス案内 法を学ぶ。 3 情報探索法 の方法を学ぶ。 4 情報整理法 じた情報の抽出・加 法を学ぶ。 5 情報表現法 の方法を学ぶ。 と活用法を理解し ,
34 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) 探索し , その結果をレフア協に事例として登録す ることを求めるものとしている。質問に対する回 答を求めるという内容は , 奥の先行事例があり , 目新しさはないが , 広く了解が得られる手法であ る。ただし , 研修プログラムでは , 回答そのもの ではなく , 回答に至るプロセスを重視することを 強調した。すなわち , 回答が得られたかどうかで はなく , 仮に回答が得られなくてもプロセスやア プローチに妥当性があったかどうかに着目した。 これは , 参加者の勤務する図書館の相違に配慮し てのことである。どんなに妥当なアプローチで あっても , 利用できるレファレンス情報源に限界 があれば , 十分な回答は難しいからである。 言い方を換えれば , この研修プログラムは , 正 解を求めることを意図していない。レファレンス 事例に関して , その評価の一部に「解決 / 未解 決」が位置づけられるが , 極めて相対的である。 同じ検索結果に関して , 何らかのヒントが欲しい 者の場合は「解決」であっても , 網羅的な情報を 求める者にとっては「未解決」だからである。 また , 登録された結果の解説では , 取り組みを 比較することを主眼にした。それゆえ , 比較の効 果が高まるよう , 事前課題の設定に工夫をしてい る。例えば , 同じ回答を入手できる多くの情報源 が存在するもの , 同じ情報源を利用しても索引語 や検索語を変えると結果が異なってしまうもの , 情報源によって観点の相違や掲載情報の幅が大き いもの , といった具合である。また , レファレン ス質問の背景にある利用者のニーズや利用者の属 性などにより , 検索方法や情報源の選択に違いが 生じることなども意識できるよう , 研修会当日に 解説したり , コメントによって強調したりした。 さらに , 事前課題を用意するにあたって , 扱う テーマに関しては , 公立図書館職員を対象にする という点から , 特定の主題に集中しないようにし た。これに加えて , 資料案内の技能を高められる ように , 文献を求めるレファレンス質問と事実を 確認するレファレンス質問とを , バランスよく組 み入れるようにした。また , 公立図書館で尋ねら れることが多いと言われる , 人物情報や統計情報 を検索する課題を含めるようにした。さらに , 開 催地の地域資料を活用したり , 地域情報を確認し たりするものを必ず含めた。図 3 は , 北九州市 立中央図書館における研修会での実例を , 出題の 趣旨や留意点とともに示したものである。 4 、おわりに 効果的な研修プログラムを構築するには , 実践 の積み重ねが必要である。本稿で示した研修プロ グラムを参考にして , レファレンスサービスの研 修が促され , かっ充実することになれば , 筆者と してこの上ない歓びである。 ただし , これからの研修活動は , 実施すること だけが重視されるのではなく , 研修の実態を記録 し , 考察を加える営みを伴わなくてはならない。 すなわち , 研究的な視点から取り扱う必要があ る。とりわけ , 一定の性質を有する研修プログラ ムを「モデル」として位置づけ , そのモデルの有 効性 , すなわち , 妥当性 , 重要性 , 持続性など を , 実証する活動を行うことが必要となろう。こ の実証作業は , 研修という実践に基づいて行うこ とから , 自然科学における実験のようには進めら れないが , 少しでも客観性を担保できるように 多様な調査方法を駆使して推進することが求めら れる。 本稿で提示した研修プログラムについても , うした実証作業が必要とされよう。その作業は , 前述した研究活動の主目的であるが , その成果に ついては , 稿を改めて示すこととしたい。 く注 > 1 ) 研究は , 日本学術振興会科学研究費補助金を得て , 「成果 共有型ネットワークを活用した図書館員の技能育成に関する 研究」 ( 萌芽研究・研究代表者・小田光宏 , 286 ー 2007 年度 ) と , 「成果共有型ネットワークを活用した独習 / 協調研修プ ログラムに関する実証的研究」 ( 基盤研究 (C) ・研究代表者・ 小田光宏 , 2008 ー 2010 年度 ) の 2 期で行なった。 ( 2012.10.17 受理 ) く補記 > 本稿受理後 , 研修プログラムの有効性を検証した研究成果と して , 次の論考を著している。 小田光宏「成果共有型ネットワークを活用したレファレンス 研修プログラムの有効性に関する実証的研究」『図書館界』 64 巻 5 号 , 2013 年 1 月 , p. 310 ー 326
ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 7 おわりに 2013 年 1 月 13 日 , 東京大学で行われた「子ど もの読書活動を考える国際シンポジウムー子ども たちの本読み事情 : アジア各国の今とこれから」 において , 基調講演を行った CaroI CoIIier Kuhlthau 博士は , 「探究的な学びをもたらす子ど もたちの読書」シンポジウム終了後のディスカッ ションの中ではっきりとこう言った。 "NOt seeking information, But seeking meaning ! ! " もしかすると私たちは自分に必要な情報を探し ているのではなく , 自分の意図することを他の人 が表現したものから探し出そうとしているのでは ないだろうか。 そう考えると , MuIti Literacy はこれから , Meaning Literacy となり , 自分が知りたい意図 を他人のテキストから読み解くことができるリテ ラシーを意味するのではないか。学校図書館で身 につけるカ , そのすべてが「 meaning 」でつな がっている。 く注 > 1 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会「情報リテラシー教 育の実践すべての図書館で利用教育を』 ( JLA 図書館実践 シリーズ ) , 日本図書館協会 , 2010 , 180P. 第 5 章 , 天野由貴「生きるための情報活用能力を育成する 「図書館戦争」から身近な問いと知識をつなぐ」 p. 61 ー 70 2 ) 森田英嗣「 ICT が変化させた社会と教育」「教育と文化」 68 巻 6 号 , 2012 , p. 6 ー 19 3 ) 文部科学省「 OECD における「キー・コンピテンシー」に ついて」 http://www.mext.go.jp/b—menu/shingi/chukyo/ chukY03/()()4/siryo/05111603 / 開 4. htm ( accesse d 20132.15 ) 4 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会図書館利用教育ハン ドブック学校図書館 ( 高等学校 ) 版作業部会「問いをつくる スパイラルー考えることから探究学習をはじめよう ! 」日本 図書館協会 , 2011 , 123P. 5 ) 文部科学省「 OECD 生徒の学習到達度調査一 289 年調査 国際結果の要約」 http://www.mext.go.jp.com/onent/a—menu/education/ detai レーiCSFi1eS/afiddfi1e/2010/12/07/1284443ー01. pdf (accessed 20132.15 ) ( 2013.2.15 受理 ) 23
40 現代の図書館 VoI. 51 No. 1 ( 2013 ) 教員 , 職員は , その教育機関内外の関連する専門 職や学問分野について認識し , かつ意思疎通を図 るべきである。さらに教育プログラムは , その機 関の運営組織計画の中に確固たる地位を占める必 要がある。教育プログラムは , 教育機関の目的や 達成目標と知的一体性を保っ限りで , 自律性を備 えるべきである。 ガバナンス意思決定は , 明確に規定されかっ公 開されているポリシーに基づく必要がある。ガ バナンスに対して , 教員 , 職員 , 学生 , 卒業 生 , 設置主体が関与することを進めるべきであ る。重要な決定事項と活動内容は文書化するこ とが望ましい。 経済的支援図書館情報学教育プログラムは , 十 分な経済的支援のもとで , 現場の期待に応え , また別の同様な教育プログラムとも遜色のな い , 図書館情報学の学習課程を発展・維持して いくべきである。年間予算はプログラムの主任 が管理し , 財源規模は学生数 , 教員数 , 事務・ 補助職員数 , 教育資源 , 設備と関連させる必要 がある。 G7. 教育資源と施設 達成目標 図書館情報学教育プログラムに用いられる教育 資源と施設は , 最新に保たれるとともに , 深さ , 質・量ともに十分に有され , 教育プログラムで提 供される科目内容や教員の研究活動を支えること が求められる。 原則 図書館資源図書館資源は , 図書館情報学教育プ ログラムにおける教育・研究的側面を支援する ために , 最新かっ適切に保たれ , 学生と教員が 利用できる必要がある。そこには , 印刷や電子 形態の出版物 , 教育や研究を支援する一連の書 誌的ツールとオンラインツール , その他の適切 なメディアが含まれる。別の機関で所蔵される 情報資源へのアクセス手段も整えておくべきで ある。 情報技術資源コンピュータのハードウェアやソ フトウェア , マルチメディア資源は , 学生や教 職員が利用でき , 授業や教員の研究活動の際に 求められる利用水準を満たす必要がある。 インターネット資源教員と学生が適切にイン ターネットにアクセスし , 利用できることが求 められる。教育・研究のためのインターネット 利用に関するポリシーは , 図書館員にとって情 報の知的自由への関心が高い点に力点を置いて 作成し , 公表すべきである。 物理的な施設図書館情報学教育プログラムの施 設は , 教員 , 職員 , 学生がその目標を達成する のに十分な空間を提供すべきである。 く参照 > ・ Australian Library and lnformation Association (ALIA) http://www.alia.org/au.edu/ation/courses/accreditation. html and http:〃www.alia.org/au.edu/ation/courses/criteria.html ・ Chartered lnstitute of Library & lnformation ProfessionaIs ( CILIP) (formerly the Library Association (UK) ) see: http://www.cilip.org/uk/jobs-careers/qualifications/ accreditation/Pages/default. aspx ・ LiIley, A. S. ( 2012 ) . lntroducing "Awareness of lndigenous Knowledge Paradigms" IFLA core elements. AvaiIable from: s.c.lilley@massey.ac.nz ・ MedicaI Library Association (US) , see: http ・ //www.mlanet.org.edu/ation/policy/ ・ Special Libraries Association (US) , see: http://www.sla.org/content/learn/members.com/etencies/ index. Cfm ( 2013.5.8 受理 )
28 現代の図書館 Vol. 51 No. 1 ( 2013 ) 図 1 研修プログラムの骨子 A. 目的 レファレンス質問を処理する際に必要な , 資料・情報の検索および回答の技能を高めることを目指す。 【要点】 ・回答に至るまでのプロセスを意識し , また , それを評価できるようになることを目指す。 ・資料や情報を的確に検索するための基本原理を確認し , 汎用性および持続性を高めることを重視する。 ・館種を公立図書館と想定し , そこに寄せられるレファレンス質問の処理に必要な技能を対象とする。 B. 形式 課題を解決する演習形式を基本とし , 参加者自身が作業に取り組み , その結果に基づいて指導を行う。 【要点】 ・参加者が行う作業は , 研修会以前に取り組む「事前課題」とし , 一定の時間がかけられるようにする。 ・参加者が行う作業は , 参加者が勤務する図書館等で行い , 日常の活動との接続性を高めるようにする。 ・研修会では , 講師による一方向的な解説は最小限にし , 参加者とのインタラクションまたは参加者間の意見 交換を促す指導を優先させる。 C. 方法 国立国会図書館が運営するレファレンス協同データベース・システム ( 以下 , 「レフア協」 ) の研修環境を活用 し , 搭載されている機能を活かした研修方法を実践する。 【要点】 ・事前課題に取り組んだ結果を , 研修会以前に , 遠隔から「レフア協」に登録できるようにする。 「レフア協」に登録された結果を , 参加者間で相互に確認し , 比較できるようにする。 ・「レフア協」のコメント機能を利用し , 研修会前に講師から結果に対する講評ができるようにする。 ・研修会終了後にも , 「レフア協」に登録された結果をもとにした活動を , 参加者ができるようにする。 D. 環境 ネットワーク環境のもとで行うことを前提とする。 【要点】 ・参加者がインターネットにアクセスし , 「レフア協」を利用できることを参加要件とする。 ・研修会場において , 「レフア協」の画面が閲覧できるように , インターネット接続がなされた講師用 pc と 投影機器を用意する。 E. 開催要領 研修会の開催は , 要点に記載する内容を目安とするが , 開催者の希望や状況に応じて柔軟に対応する。 【要点】 ・事前課題への取り組みに , 2 週間程度が確保できるように開催日を決定し , また , 開催の準備を行う。 ・研修会の実施時間は , 2 時間から 3 時間を目安として計画する。 ・参加者は , 20 人から 25 人を理想とし , 研修時間が 2 時間の場合は 25 人程度 , 3 時間の場合は 30 人程度を 目安にして調整する。 F. 事前課題 事前課題は , 研修会の目的 , 形式 , 方法 , あるいは , 開催条件を考慮して用意する。 【要点】 ・事前課題の内容は , レファレンス質問の処理に関する基本原理を解説するのに有効なものとするとともに 多様な検索・回答プロセスが想定されるものを優先させ , また , 開催地の地域資料・地域情報を求めるもの を含める。 ・事前課題の数は , 4 , 5 名の参加者が同じ課題に取り組めるようにすることを標準とする。
0 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン 35 0 訳 : 日本図書館協会国際交流事業委員会 国際図書館連盟 (IFLA) 教育研修分科会 ガイドライン 図書館情報学専門職教育プログラムのための このガイドラインは , 2012 年夏の国際図書館連 盟 (IFLA) 専門委員会 (ProfessionaI Committee) の会議で承認を得たものである。 目次 はじめに 目的 ガイドライン 0 GI. G2. G3. G4. G5. G6. G7. 参昭 大きな枠組み カリキュラムの要素 カリキュラム 教職員 学生 支援 教育資源と施設 このガイドラインは , 2000 年に行われた前回 の大幅な改訂に代わるものであり , 21 世紀に 入ってからの図書館情報サービスの発展を反映さ せ , ライプラリー・スクールのカリキュラムに取 り入れている。ガイドラインでは , 図書館情報学 教育プログラムにとって不可欠な目標の枠組みを 設定した。すなわち , 図書館情報学教育プログラ 0 ムに含めることが求められる有益なコア・カリ キュラムの要件 , 教育プログラムに関わる教員 , 職員 , 学生にとって必要な事柄 , そして , 情報資 源その他の資源によって教育プログラムを十分に 支える必要性である。 はじめに 図書館情報学教育プログラムには , 長く輝かし い歴史がある。過去の教育プログラムでは , 図書 館という建物の中における図書その他の資料のコ レクション形成が中心に据えられ , 図書館には , それらの資料の選択・収集・組織化・検索・貸出 を学んだ職員が配置されてきた。今日の図書館情 報学教育プログラムは , 物理的なコレクションや 建物の枠を超えてインターネットという仮想空間 に広がっている。今日では公共部門・民間部門・ 第三セクターを問わず , さまざまな状況下におけ る利用者への情報提供に力点が置かれているが , そこでの利用者とは必ずしも , 図書館の建物や図 書館環境に入ることができるとは限らず , あるい は入る意思をもっとも限らない。アーカイブズ・ 博物館・記録管理部門のパートナーとの協力がま すます顕著になっており , 共通の課題認識を教育 プログラムに含めることが適切である。教育プロ グラムは , [ 学部・ ] 実務レベル , 大学院・専門 レベル , 研究・博士レベルで提供されている。 こに示されるガイドラインは , 主に大学院と学部