4 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) の館種の図書館に必要とされることから , 「図書 館利用教育ガイドライン総合版」をベースに 「公共図書館版」を加え , " 子どもや大人が情報活 用能力の育成・向上を図るために公共図書館が支 援するサービス " とした。図書館の活用法・情報 の評価も含めた情報探索法・レポート作成支援な どのための情報活用法まで幅広くとらえる。 サービスという用語を用いるのは , 公共図書館 ではさまざまな図書館活動は住民に対する支援や サービスという観点で位置づけられており , 情報 リテラシー教育は " 情報リテラシーの育成を支援 するサービス " とみなされているからである。 情報リテラシー育成支援サービスの領域と目標 については , 「図書館利用教育ガイドライン総 合版」をもとに表にまとめた [ 表 ] 。 2 . 2 図書館利用教育から 情報リテラシー教育へ 公共図書館のサービスとして , 情報リテラシー 教育はどのように位置づけられるのだろうか。公 共図書館のサービスの変遷と重ねあわせながら , たどってみる。 公共図書館のサービスは , 読書の支援のための 貸出を中心に進められてきた。本や雑誌を見たり 借りたりすることが主な利用であれば , 図書館利 用教育は「図書館の使い方」を知る程度で , あま り複雑である必要はなかった。 貸出サービスは既に定着したが , さらに近年は 課題解決を支援するサービスの充実が求められて いる 8 ) 。ビジネス支援や法情報 , 健康情報など新 たなサービスが模索されているが , 住民が自らの 力で必要な情報を獲得できるよう支援するサービ スの基盤となるのが , 情報リテラシー教育であ る。 図書館のサービスや情報の特性と各種情メディアの特性に応各種メディアの特性 専門的職員による支報源の探し方・使い 援など , 利用する方方を知り , 情報探索エ・整理・保存の方情報倫理や情報発信 高さは , 情報リテラシーという言葉が公共図書館 20 館中 15 館 ( 75.0 % ) の回答を得た。回収率の 政令指定都市図書館 ( 中央館 ) からは , 調査館数 府県立図書館から調査館数 60 館中 59 館 ( 98.3 % ) , リテラシー教育の現況についての調査」では都道 2011 年度に実施した「公共図書館における情報 からである。 という名称が浸透していなかったことに配慮した たのは , 当時まだ公共図書館では情報リテラシー の名称に情報リテラシーという言葉を用いなかっ 事例が育まれつつあることを確認している。調査 情報リテラシー育成を支援するようなサービスの 調査」 9 ) ( 以下「 2006 年度調査」とする。 ) では , 書館利用方法・情報の探し方講座などについての 2006 年度に実施した「公共図書館における図 実施している。 2006 年度と 2011 年度に郵送による質問紙調査を 及び政令指定都市図書館 ( 中央館 ) を対象に , 筆者は現況を把握するため , 都道府県立図書館 について簡潔に述べる。 れているのだろうか。関連する調査をもとに現況 が , 公共図書館のサービスはどのようにすすめら 潜在的 , 顕在的なニーズがあることは明らかだ 2 . 3 公共図書館の現況 ラシー教育へと拡大されることになる。 報活用も視野にいれ , 図書館利用教育は情報リテ 図書館の中だけではなく , 図書館の外にある情 報源も含めることは日常化している。 ンターネットやオンラインデータベースなどの情 方案内・パスファインダーの作成においても , イ ている。現在では , レファレンスサービスや調べ 源は図書館の中にある本や雑誌だけではなくなっ 情報環境の変化により , 図書館が提供する情報 表情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目標 : 「図書館利用教育ガイドライン総合版」より 領域 1 印象づけ 図書館があることを 認識し , 必要なとき に利用できることを 知る。 目標 2 サービス案内 法を学ぶ。 3 情報探索法 の方法を学ぶ。 4 情報整理法 じた情報の抽出・加 法を学ぶ。 5 情報表現法 の方法を学ぶ。 と活用法を理解し ,
る専門書を出版する組織・機関の代表 , メディア 関係者であった。 会議では , 以下について参加者の合意が得られ 1 . メディア・情報リテラシー (MIL) は , 市民 施設 , 団体 , コミュニティ , 個人から成る , 開 かれた多元的 , 包括的 , 参加型の知識社会の持 続可能な発展のための必須条件である。 2 . MIL は知識 , 態度 , スキル , そしてアクセ ス・分析・評価・利用・創作に求められる実践 , 人権を尊重する創造的で法的・倫理的手段によ る情報や知識の伝達を組み合わせたものと定義 される。 メディア・情報リテラシーを持つ一人ひとり の個人は , 私生活や専門的業務 , 公的活動で多 様なメディアや情報源と情報の選択肢を使うこ とができる。彼らはいつどんな情報が何のため に必要か , そしてどこでどのように入手できる かを知っている。彼らはその情報を誰が何のた めに創り出したかを , メディア・情報の供給者 と記録保管する機関の役割や責務 , 機能と同様 に理解している。 彼らはメディアやあらゆる種類のコンテンツ 製作者を通して , 情報やメッセージ , 信条 , 価 値を分析し , また , 自ら発見して生み出した情 報を , 一般的 , 個人的 , 社会的状況の指標に照 らして検証することができる。 こうして MIL 能力は学習 , 批判的思考法 , 解釈の能力を包含 する情報通信技術の枠に収まらず , 職業 , 学 歴 , 社会の境界も越えて横断的に拡大する。 MIL はあらゆる種類のメディア ( ロ承文化 , 印刷物 , アナログ , デジタル ) およびあらゆる 形態・フォーマットの情報源に対応するもので ある。 3 . MIL の理念は , 2003 年のプラハ宣言「情報 リテラシー社会に向けて」 , 2005 年のアレキサ ンドリア宣言「情報社会を照らす光」 , 2011 年 のメディア・情報リテラシーに関するフェズ宣 言および IFLA のメディア・情報リテラシー勧 告などの , これまでの国際的な報告書に基づ く。 MIL は国連ミレニアム開発目標や世界人 権宣言 , 世界情報社会サミットが推進する目標 メディア・情報リテラシーに関するモスクワ宣言 25 の達成に向け , 効果的に遂行するために必要不 可欠な能力を支援するものである。 4 . これらの目的を達成するため , 個人 , コミュ ニティ , 企業 , 組織 , 国家は , それら自身およ び自身をとりまく物理的・社会的環境に関する 情報や , それらの情報を発見 , 理解 , 伝達され るさまざまなメディアの理解を継続的に必要と する。しかしながら , メディアは絶え間なく変 化するものである。新しい技術開発は仕事や余 暇 , 家庭生活 , 市民としての立場を変え続けて いる。世界中の人々は , 異なるメディア , 双方 向性 , ネットワーク , グローバル化の結合に よって一層定義される環境のなかで生活してい る。特に若者 ( に限ったことではないが ) に とって , メディアやイ中間とのネットワークの重 要性は増しており , それらが従来の学習環境以 外での成長の場として大部分を占めるように なっている。今日 , メディアの創造はもはや専 門家集団に限るものではない。すなわち , 今や 誰もがそれを生み出せるようになっている。 5 . 同時に , デジタル・ディバイドは依然として 重大な問題となっている。開発途上国の多くの 人々は , 情報やメディアをまったく入手できて いない。先進国でさえ , 技術への物理的なアク セス制限を受けており , すべての階層の多くの 人が , 生活のあらゆる面 ( 例えば , 居住地や国 家 , 地域 , 国際的レベルでの , 個人面や社会 面 , 教育面 , 職業面 ) において , 十分な情報に 基づく判断をして , 問題を解決するために必要 な , 批判的かつ高度な思考スキルを欠いてい る。 以上のことから , 「知識社会に向けたメディ ア・情報リテラシーに関する国際会議」の参加 者たちは各国の首脳に申し入れをおこなう。対 象となるのは , 国連機関 ( 特にユネスコ ) , 政 府間組織 , 非政府組織 , 教育研究機関 , 職能団 体 , メディア機関 , 文化・社会施設 , ネット ワーク , 以下の提言に関係する企業や業種であ る。 a. MIL は個人やコミュニティ , 経済や市民社会 の向上と発展に不可欠であると認識すること。
34 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) 探索し , その結果をレフア協に事例として登録す ることを求めるものとしている。質問に対する回 答を求めるという内容は , 奥の先行事例があり , 目新しさはないが , 広く了解が得られる手法であ る。ただし , 研修プログラムでは , 回答そのもの ではなく , 回答に至るプロセスを重視することを 強調した。すなわち , 回答が得られたかどうかで はなく , 仮に回答が得られなくてもプロセスやア プローチに妥当性があったかどうかに着目した。 これは , 参加者の勤務する図書館の相違に配慮し てのことである。どんなに妥当なアプローチで あっても , 利用できるレファレンス情報源に限界 があれば , 十分な回答は難しいからである。 言い方を換えれば , この研修プログラムは , 正 解を求めることを意図していない。レファレンス 事例に関して , その評価の一部に「解決 / 未解 決」が位置づけられるが , 極めて相対的である。 同じ検索結果に関して , 何らかのヒントが欲しい 者の場合は「解決」であっても , 網羅的な情報を 求める者にとっては「未解決」だからである。 また , 登録された結果の解説では , 取り組みを 比較することを主眼にした。それゆえ , 比較の効 果が高まるよう , 事前課題の設定に工夫をしてい る。例えば , 同じ回答を入手できる多くの情報源 が存在するもの , 同じ情報源を利用しても索引語 や検索語を変えると結果が異なってしまうもの , 情報源によって観点の相違や掲載情報の幅が大き いもの , といった具合である。また , レファレン ス質問の背景にある利用者のニーズや利用者の属 性などにより , 検索方法や情報源の選択に違いが 生じることなども意識できるよう , 研修会当日に 解説したり , コメントによって強調したりした。 さらに , 事前課題を用意するにあたって , 扱う テーマに関しては , 公立図書館職員を対象にする という点から , 特定の主題に集中しないようにし た。これに加えて , 資料案内の技能を高められる ように , 文献を求めるレファレンス質問と事実を 確認するレファレンス質問とを , バランスよく組 み入れるようにした。また , 公立図書館で尋ねら れることが多いと言われる , 人物情報や統計情報 を検索する課題を含めるようにした。さらに , 開 催地の地域資料を活用したり , 地域情報を確認し たりするものを必ず含めた。図 3 は , 北九州市 立中央図書館における研修会での実例を , 出題の 趣旨や留意点とともに示したものである。 4 、おわりに 効果的な研修プログラムを構築するには , 実践 の積み重ねが必要である。本稿で示した研修プロ グラムを参考にして , レファレンスサービスの研 修が促され , かっ充実することになれば , 筆者と してこの上ない歓びである。 ただし , これからの研修活動は , 実施すること だけが重視されるのではなく , 研修の実態を記録 し , 考察を加える営みを伴わなくてはならない。 すなわち , 研究的な視点から取り扱う必要があ る。とりわけ , 一定の性質を有する研修プログラ ムを「モデル」として位置づけ , そのモデルの有 効性 , すなわち , 妥当性 , 重要性 , 持続性など を , 実証する活動を行うことが必要となろう。こ の実証作業は , 研修という実践に基づいて行うこ とから , 自然科学における実験のようには進めら れないが , 少しでも客観性を担保できるように 多様な調査方法を駆使して推進することが求めら れる。 本稿で提示した研修プログラムについても , うした実証作業が必要とされよう。その作業は , 前述した研究活動の主目的であるが , その成果に ついては , 稿を改めて示すこととしたい。 く注 > 1 ) 研究は , 日本学術振興会科学研究費補助金を得て , 「成果 共有型ネットワークを活用した図書館員の技能育成に関する 研究」 ( 萌芽研究・研究代表者・小田光宏 , 286 ー 2007 年度 ) と , 「成果共有型ネットワークを活用した独習 / 協調研修プ ログラムに関する実証的研究」 ( 基盤研究 (C) ・研究代表者・ 小田光宏 , 2008 ー 2010 年度 ) の 2 期で行なった。 ( 2012.10.17 受理 ) く補記 > 本稿受理後 , 研修プログラムの有効性を検証した研究成果と して , 次の論考を著している。 小田光宏「成果共有型ネットワークを活用したレファレンス 研修プログラムの有効性に関する実証的研究」『図書館界』 64 巻 5 号 , 2013 年 1 月 , p. 310 ー 326
「レフア協」研修モードを活用した研修活動の実践 【出題の趣旨・留意点】 もあれば訪れてみたい。 ◎日本の灯台は , 明治時代にお雇い外国人によって建設されたものが多いと聞いた。そうした例が , 北九州市に 図 3 事前課題の例 ・外国人名の姓からの検索 , 表記の異同などに留意する。 ・北九州市関係の地域情報・地域資料に対する理解を深める。 ・アプローチとして , 灯台 , お雇い外国人 , 北九州市の史跡などがあることを意識する。 ◎シェークスピアの「ロミオとジュリエット」が , 日本で初めて訳されたのはいつごろなのか。その当時の訳文 ・子どもが疑問に思いそうであると感知し , 児童資料の活用を考慮する。 ・飛行機の愛好家がウエプ上に掲載している情報をヒントとして活用することの意義を認識する。 ・空港や航空路の所管官庁や , 関係団体・機関などに絞り , インターネット上の情報を検索する。 ・求められている「主題」を明確にし , 所蔵している一次資料を有効に活用する。 ・北九州空港だけではなく , 全国の空港の状況を確認できる汎用性の高い情報源にも目を向ける。 【出題の趣旨・留意点】 空港や山口宇部空港などは , どうなっているのだろうか。 ◎北九州空港の滑走路に , 18 という数字が書いてあることに気づいた。これは , 何を意味しているのか。福岡 ・古い文献であることが明らかなため , デジタル化されている文献を調査に含めるようにする。 ・「文献 = 図書」という固定観念にとらわれず , 雑誌掲載の翻訳の可能性も視野に入れる。 ・翻訳文献を検索する上での注意事項として , 複数の訳者や異なる邦題の可能性などを意識する。 【出題の趣旨・留意点】 を読むには , どうしたらよいか。 ◎北九州市の冬の名産と言えば , やはり河豚でしようか。北九州市では , 河豚はどのくらい採れるのでしようか。 切に評価して活用することの必要性を理解する。 ・インターネット上に掲載されている情報の中に , 上記の記載に類するものがあることを確認し , 情報源を適 ・事実の確認だけではなく , 根拠法令の存在を確認することの重要性を意識する。 言えるのか , あるいは , どこがどのように誤っているのかを伝える意義を認識する。 ・レファレンスサービスの回答として , 「確かである」や「誤っている」だけではなく , 何に基づいて確かと 【出題の趣旨・留意点】 るという話を聞いた。これは , 確かなのか。 ◎日本の納本制度は , 納本冊数が 2 冊であり , 1 冊を国立国会図書館の東京本館に , もう 1 冊を関西館に収蔵す 【出題の趣旨・留意点】 ◎「天城越え」を読んでみたい。単行本でも文庫でも何でもよいのだが , どうすれば確認できるだろうか。 年 ( 月日 ) , 単位にも留意しながら行うことの意義を確認する。 ・統計データを回答として提供する際には , 典拠を示すだけではなく , 統計データの採取主体 ( 機関 ) , 採取 ・統計データを検索するための資料やデータベースの特性を認識する。 ・アプローチに , 統計 , 河豚 , 北九州市 , 名産品といった多様なものがあることを理解する。 【出題の趣旨・留意点】 ・「天城越え」を検索語としたときのノイズ ( 石川さゆりの歌 ) を減らす工夫や手法を考える。 ・自館の OPAC でタイトル細目が検索できるか確認し , その機能と限界について認識する。 ・目録情報の書誌階層に対する理解を再確認する。 能性があることを意識する。 ・検索対象とする文献が , 単行本 , 文庫本 , 全集などによって , 活用する情報源や検索方法に相違が生じる可 33
情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 3 特集′目目ロ住ロロロ 情報リテラシー育成を支援する 公共図書館のサービス ◆実践のヒントを中心に 子 古子 田 べる。 にはじめに 2 情報リテラシー育成を支援するサービス マルチリテラシーとは何か。その形はまだとら えがたいが , さまざまなリテラシーの可能性が包 2 . 1 情報リテラシーについて 含されている。その一つが情報リテラシーであ 情報リテラシー (information literacy) は , 「情 る。 報活用能力」と訳されることもある。 大学や学校で情報リテラシー教育は必要とされ アメリカでは , 1989 年にアメリカ図書館協会 ているが , 学校生活は長い人生の中の一時であ (American Library Association) 情報リテラシー諮 る。情報社会において , 情報活用能力の育成は生 問委員会 (Presidential Committee on lnformation 涯にわたって必要とされる。すでに 2006 年の Literacy) による最終報告 4 ) が発表され , その後 「これからの図書館像 : 地域を支える情報拠点を の情報リテラシー展開の契機となった。 めざして ( 報告 ) 」において , 公共図書館の情報 日本では , 1993 年 , 日本図書館協会図書館利 リテラシー育成の重要性が述べられている 1 ) 。 用教育委員会が発足し , 2001 年には『図書館利 しかし , 2009 年の研究文献レビューでは公共 用教育ガイドライン合冊版図書館における情報 図書館の研究や文献はほとんどないことが指摘さ リテラシー教育支援サービスのために』 5 ) を刊行 れている 2 ) 。社会教育機関である公共図書館の役 している。各館種別のガイドラインとその共通基 割は重要だが , 具体的にどのような実践が可能な 盤となる「総合版」 6 ) から構成されており , 主に のであろうか。 2011 年度に筆者が実施した「公共図書館にお 大学図書館を中心に普及した。 ける情報リテラシー教育の現況についての調査」 3 ) 「公共図書館版」 7 ) も作成されたが , 当時の図 ( 以下「 2011 年度調査」とする。 ) では , 情報リ 書館サービスの現況に対応したものとはなってい テラシーの育成に関連する事例があることを確認 なかったこともあり , 普及はしなかったものの公 共図書館のサービスの変遷とともに関連するサー している。 ビスが育まれていくことになる。 公共図書館における情報リテラシー教育の現況 とサービスの方法及び参考となる事例について述 日本の公共図書館については一定の共通識に 、ルい卩 もとづいた定義や用語などもまだ明確にされてい ない。 じゅんこ : 神奈川県立図書館 たかだ 「 2011 年度調査」では , 仮枠として定義を情報 キーワード : 情報リテラシー , 情報リテラシー教育 , 情報活用 リテラシー教育は公共図書館だけではなくすべて 能力 , 利用教育 , 図書館利用教育 , 公共図書館
0 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン 35 0 訳 : 日本図書館協会国際交流事業委員会 国際図書館連盟 (IFLA) 教育研修分科会 ガイドライン 図書館情報学専門職教育プログラムのための このガイドラインは , 2012 年夏の国際図書館連 盟 (IFLA) 専門委員会 (ProfessionaI Committee) の会議で承認を得たものである。 目次 はじめに 目的 ガイドライン 0 GI. G2. G3. G4. G5. G6. G7. 参昭 大きな枠組み カリキュラムの要素 カリキュラム 教職員 学生 支援 教育資源と施設 このガイドラインは , 2000 年に行われた前回 の大幅な改訂に代わるものであり , 21 世紀に 入ってからの図書館情報サービスの発展を反映さ せ , ライプラリー・スクールのカリキュラムに取 り入れている。ガイドラインでは , 図書館情報学 教育プログラムにとって不可欠な目標の枠組みを 設定した。すなわち , 図書館情報学教育プログラ 0 ムに含めることが求められる有益なコア・カリ キュラムの要件 , 教育プログラムに関わる教員 , 職員 , 学生にとって必要な事柄 , そして , 情報資 源その他の資源によって教育プログラムを十分に 支える必要性である。 はじめに 図書館情報学教育プログラムには , 長く輝かし い歴史がある。過去の教育プログラムでは , 図書 館という建物の中における図書その他の資料のコ レクション形成が中心に据えられ , 図書館には , それらの資料の選択・収集・組織化・検索・貸出 を学んだ職員が配置されてきた。今日の図書館情 報学教育プログラムは , 物理的なコレクションや 建物の枠を超えてインターネットという仮想空間 に広がっている。今日では公共部門・民間部門・ 第三セクターを問わず , さまざまな状況下におけ る利用者への情報提供に力点が置かれているが , そこでの利用者とは必ずしも , 図書館の建物や図 書館環境に入ることができるとは限らず , あるい は入る意思をもっとも限らない。アーカイブズ・ 博物館・記録管理部門のパートナーとの協力がま すます顕著になっており , 共通の課題認識を教育 プログラムに含めることが適切である。教育プロ グラムは , [ 学部・ ] 実務レベル , 大学院・専門 レベル , 研究・博士レベルで提供されている。 こに示されるガイドラインは , 主に大学院と学部
24 現代の図書館 Vol. 51 N 。 .1 ( 2013 ) シー時代の 図 書館 マノレチリテラ メディア・情報リテラシーに関する モスクワ宣 訳須永和之 , 直江千寿子 メディア環境の変容と情報化の急激な進展は , これをふまえ , 2012 年 6 月 24 日 ~ 28 日にモ かってないほど個人と社会に影響を与えている。 スクワで「知識社会に向けたメディア・情報リテ こうした環境に順応して生活のあらゆる局面で効 ラシーに関する国際会議」が , 以下の 3 つの目 果的に問題を解決するために , 個人 , コミュニ 的のもと開催された。 ティ , 国は , 新しい情報と知識を探索して , 批判 ・情報 , メディア , 教育に関する専門家 , 政府 的に評価して , 既存のツールを用いて異なる形態 官僚 , そして社会全般に対して , メディア情 で創造し , さまざまな伝達手段で情報と知識を共 報リテラシー支援の重要性や基準 , 今日的役 有する能力を身につけるようにする。 割に関する人々の意識を喚起すること こうしたリテラシーが生活の質を向上させる新 この分野における主要な問題占概略的政 たな機会を生み出す。それでも , 個人 , 組織 , 社 策 , 専門的方針を明らかにすること 会は自由で効果的な情報の利活用のため , 議論の ・メディア・情報リテラシー (MIL) に関する 余地のある項目もあるが以下のような , すでに 国際的 , 地域的 , 国内的な対応の強化に寄与 顕在化しつつある障壁と課題に取り組まなければ すること ならない。 この会議は , ロシアを議長とする政府間のユネ ・限られた人間の能力 , 情報の資源 , 社会基盤 スコみんなのための情報計画のもとに , ロシアの ・検閲 , パプリックドメインにおける情報の制 文化省 , 出版・マスコミュニケーション局 , ロシ 限 , 情報の商業化 , 民営化 , 独占 ア・ユネスコ委員会 , ユネスコみんなのための情 ・文化および言語の多様性への無関心 ( 尊重の 報計画とユネスコ事務局 , 国際図書館連盟 欠如 ) (IFLA), ユネスコ教育情報工学研究所 , ュネス ・情報へのアクセス , 情報の伝達 , 情報の所有 コみんなのための情報計画ロシア委員会 , 国際図 に対する過剰で不適切な法的障壁 書館協力センターによって開催された。 ・情報 , とりわけ個人的なデジタル情報の長期 会議にはすべての大陸を代表する 40 カ国から 保存への意識の欠如 約 130 名が参加した。参加者は , 主要な専門国際 ・当事者間 ( 図書館とメディアを使う教育者と 政府機関や非政府組織の責任者や専門家 , 知識社 の間 , マスメディア会社と学術団体との間な 会の確立において世界を牽引する専門家 , ジャー ど ) の分野を越えた学際的な協働関係の欠如 ナリズム・図書館・教育分野の第一線の研究者・ 大学教員 , 教育機関・図書館・出版・電子メディ アを担当する政府機関の責任者や代表 , メディ ア・情報リテラシーの専門家の国際的および各国 の協会の代表 , メディア・情報リテラシーに関す , 1 三 学学 大大一 院立シ 學国ラ 國浜テ き : 報 ゅこ情 かちド がえワ なお一 すなキ
で認識されている図書館情報サービスの役割に ついても触れるべきである。目的と達成目標 は , しかるべき公式の機関から出される教育ポ リシーと一致させる必要があり , また親機関や 国から学生・卒業生の学習成果・能力として求 められている資質を満たす必要がある。 計画と評価図書館情報学教育プログラムでは , 計画・評価の過程を明確にし , それらを定期的 に行っていくべきである。そうした過程では , 図書館情報学分野やそれを含む上位社会におい て今後予測される変化を踏まえつつ , ポリシー や手順が絶えず見直される必要がある。教員 , 職員 , 学生を計画・評価の活動に関わらせると ともに , 設置機関や実務家にも意見を求めるべ きである。教育プログラムは , その国で規範と される教育要件や専門職認証評価要件を満たし ービ 達成目標 G2. カリキュラムの要素 ていなければならない。 コア・カリキュラムでは , 以下に挙げる要素が 重要である。 図書館情報学力リキュラムのコア要素は以下の 原則 と方法を組み込むこと ・カリキュラムの中に地域固有の先住民の知識 り組みに繋がるものを含めること ・過去の取り組みのうち , デジタル環境での取 5 . 情報資源管理 , これには情報の組織化・処 4 . 情報の伝達過程 ス計画 3 . 情報ニーズの評価とそれに対応するサ 2 . 情報の生成 , 伝達 , 利用 報ポリシー・倫理 , 図書館情報学の歴史 1 . 情報環境・社会が世の中に及ばす影響 , 情 とおりである。 7 . 図書館情報学分野のあらゆる成果とサービ 6 . 情報の研究 , 分析 , 解釈 式や媒体も多様である 理・検索・資料保存・修復が含まれ , 表現形 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン スに対して情報通信技術を応用すること 8 . ナレッジマネジメント 9 . 情報機関の運営 10. 情報と図書館利用の成果に対する量的・質 的評価 37 り , 図書館情報学分野における研究や実践の理論 スやその他の教育的経験から構成されるべきであ 的や達成目標に基づいて , 統合された一連のコー 図書館情報学力リキュラムは , プログラムの目 達成目標 G3. カリキュラム 2012 ) 。 統性・革新・敬意・言語の問題がある (Lilley, となる価値観やテーマとしては , 伝統・保護・正 語で表現される ) 。一方 , 先住民に共通する中核 マをもっている ( 自身の文化構造から派生する言 community) は , 自分たち独自の価値観やテー る。そのため , それぞれの先住民社会 (indigenous 民にはそれぞれ共通点もあるが , 大きな違いもあ てさらに理解が深まるであろう。地域固有の先住 これらの特徴は , その価値観を知ることによっ が重要である点 うした人びとに合った調査方法を用いること る情報資源やサービスについて調べる際 , そ ・地域固有の先住民の図書館利用者が必要とす ことの影響 語が , 先住民の知識の枠組みに内在している ・地域固有の先住民の [ 思考 ] 過程・信条・ 構造についての理解 ・地域固有の先住民の知識の重要性 , 多様性 , ること。その範囲は以下を含む。 11. 地域固有の先住民の知識パラダイムを認識す ては , 以下の指針を示す。 番目の地域固有の先住民の知識パラダイムについ 文書の範囲を超えている。しかしコア要素 11 上記の要素すべてについて述べることは , この すること 11. 地域固有の先住民の知識パラダイムを認識
マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 9 , マルチリテラシー時代の図書館 マルチリテラシー時代における 大学図書館と職員の役割 典 貴 梅 術的な作法も求められる。 1 はじめに リテラシーとは本来「読み書きの能力」を指す が , 高度情報化社会でこのように多様化したリテ 大学図書館は , インターネットの発達を受けて ラシーの涵養は大学全体で取り組むべき課題であ 従来の冊子体資料に加え , 雑誌記事や新聞のバッ り , 高等学校までの教育との接続 , 教養教育 , 専 クナンバー・統計・法令・判例データベースなど 門教育 , 卒業後のキャリアなどとも深く関わるた 電子情報を契約・提供してきた。さらに , 学生に め , 教員を主体とした総合的な視点による教育目 対してそれらを複合的に活用する「学術情報リテ 標とカリキュラム設計が不可欠となる。 ラシー」の涵養に取り組んでいる。 その中で大学図書館とその職員が果たすべき役 契約した図書館の利用者のみが閲覧できる有料 割とは何か。それを大学の意思決定者の理解を得 の電子情報は責任の所在が明確だが , 誰でもアク ながらどのように果たしていくべきかを考察する。 セスが可能な Web 上には , SNS を始め個人が発 日本における 信するプログやフリー百科事典など , 必ずしも正 2 「情報リテラシー」の定義と , 確性が保証されていない情報が氾濫し , 玉石混交 となっている。 学内での用語の整理・統一の必要性 大学生・大学院生がレポートや論文を書く際に は , 単に検索エンジンで多くの情報を集めるだけ 日本の大学において「情報リテラシー」という でなく , 必要に応じて有料を含む適切なデータ 言葉は , コンピュータ・リテラシーまたは IT ス べース , 電子ジャーナルなどを使い分ける「探し キルとしばしば混同される。かっては同様であっ 方の知識」に加えて , テレビや新聞などのメディ たアメリカでは , 1980 年代の終わりまでに大学 アについても情報を鵜呑みにせず , 真偽を批判的 図書館関係者が中心となり , 両者が異なる概念で に見極めて取捨選択する見識が必要となる。さら あることを通念化させることに成功しているが , に問題の背景にある歴史や文化を踏まえる幅広い 日本では大学教育や生涯学習という広い視野で捉 教養が , 考察する上では欠かせない。発信する際 えることなく図書館に関わる部分のみが論じられ には , その出典情報を明示するなどの倫理観と学 てきた 1 ) 。 したがって , まずは用語の整理を試みたい。 「情報リテラシー」について , その先進国である アメリカにおける代表的な定義としては , アメリ カ図書館協会 (ALA) 会長情報リテラシー諮問 委員会の「最終報告」 ( 1989 年 ) がある。その中 うめざわたかのり : 中央大学大学院戦略経営研究科事務課 キーワード : 学術情報リテラシー , 情報リテラシー教育 , 利用 者教育初年次教育 , 教育研究支援 , 電子図書 ニング・コモンズ
11 図 1 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 解決すべき各課題について「重要」と回答した大学図書館の割合の変移 ・・ 0 ・・利用者サー ビスの向上 - ロ - 情報リテラ シー教育の 充実 強化 との連携の ーー社会・地域 の明確化 * の位置づけ ・・・・大学図書館 環境の整備 提供・保存 ー電子情報の 90.0 % 80. O% 50 ℃ % 40.0 % 70 ℃ % 60.0 % 30.0 % 20.0 % 10.0 % 0.0 % 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 764 -- ロ 201 1 年 769 【参考】調査時の国公私立大学数 734 752 760 747 出典 : 文部科学省学術情報基盤実態調査「大学図書館編」 ( 作図は筆者 ) * 「大学図書館の位置づけの明確化」については 2011 年調査より「機能面」の質問項目から「組織・運営 面」に移り , 「大学全体における大学図書館の位置づけの明確化」として訊ねられており定義が若干変化 したが , 参考にこの年についても回答率を記載した。 ここで言う「情報リテラシー」は IT スキルを 注 : 「大学図書館編」の回答は図書館が記入することから , 除く「学術情報リテラシー」と捉えられていると推察される。 ても , 「情報リテラシー」は「コンピュータや ネットワークの基礎的な理解 , コンピュータやソ フトウェアの操作 , 情報検索能力等」とされ , IT スキルとしての比重が高く , 「大学図書館編」 ではなく「コンピュータ及びネットワーク編」の 中で教育に関する実施調査がおこなわれている。 しかしその教育についての関心は高まっており , 2011 年 5 月時点で全国 769 大学のうち 94.5 % に あたる 727 大学が何らかの情報リテラシー教育を 実施していると回答している。 「情報リテラシー教育を実施した組織の区分」 を見てみると , 「学部・研究科」が最も多く 432 % となっており , 「情報処理関係施設」が 10.7 % と続くが , この調査では定義の性質上「図 書館」単体での実施は 1.1 % と非常に少ない。し かし「複数組織で実施」が 33 % となっており , 教 館が自らの機能として主体的に向上させるべき重 は 494 大学 ( 642 % ) と急激に増加し , 大学図書 ( 9.7 % ) であったのに対して , 5 年後の 2011 年に 回答している大学は , 2006 年にはわすか 71 大学 教育の充実」を「解決すべき課題として重要」と 館編」を見ると , 「機能面」で「情報リテラシー な変化が生まれてきている。同調査の「大学図書 が多かったが , こ数年で図書館側の意識に大き 応じてガイダンス等の形で部分的に担当すること このように , これまで図書館は学部等の依頼に る場合などはここに含まれるものと考えられる。 ている点を見ると , 図書館が学部等と協働してい 検索技術」について 672 大学 ( 87.4 % ) が実施し 育内容のうち図書館と学術情報に関係する「情報