知識 - みる会図書館


検索対象: 現代の図書館 2013年 03月号
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1. 現代の図書館 2013年 03月号

24 現代の図書館 Vol. 51 N 。 .1 ( 2013 ) シー時代の 図 書館 マノレチリテラ メディア・情報リテラシーに関する モスクワ宣 訳須永和之 , 直江千寿子 メディア環境の変容と情報化の急激な進展は , これをふまえ , 2012 年 6 月 24 日 ~ 28 日にモ かってないほど個人と社会に影響を与えている。 スクワで「知識社会に向けたメディア・情報リテ こうした環境に順応して生活のあらゆる局面で効 ラシーに関する国際会議」が , 以下の 3 つの目 果的に問題を解決するために , 個人 , コミュニ 的のもと開催された。 ティ , 国は , 新しい情報と知識を探索して , 批判 ・情報 , メディア , 教育に関する専門家 , 政府 的に評価して , 既存のツールを用いて異なる形態 官僚 , そして社会全般に対して , メディア情 で創造し , さまざまな伝達手段で情報と知識を共 報リテラシー支援の重要性や基準 , 今日的役 有する能力を身につけるようにする。 割に関する人々の意識を喚起すること こうしたリテラシーが生活の質を向上させる新 この分野における主要な問題占概略的政 たな機会を生み出す。それでも , 個人 , 組織 , 社 策 , 専門的方針を明らかにすること 会は自由で効果的な情報の利活用のため , 議論の ・メディア・情報リテラシー (MIL) に関する 余地のある項目もあるが以下のような , すでに 国際的 , 地域的 , 国内的な対応の強化に寄与 顕在化しつつある障壁と課題に取り組まなければ すること ならない。 この会議は , ロシアを議長とする政府間のユネ ・限られた人間の能力 , 情報の資源 , 社会基盤 スコみんなのための情報計画のもとに , ロシアの ・検閲 , パプリックドメインにおける情報の制 文化省 , 出版・マスコミュニケーション局 , ロシ 限 , 情報の商業化 , 民営化 , 独占 ア・ユネスコ委員会 , ユネスコみんなのための情 ・文化および言語の多様性への無関心 ( 尊重の 報計画とユネスコ事務局 , 国際図書館連盟 欠如 ) (IFLA), ユネスコ教育情報工学研究所 , ュネス ・情報へのアクセス , 情報の伝達 , 情報の所有 コみんなのための情報計画ロシア委員会 , 国際図 に対する過剰で不適切な法的障壁 書館協力センターによって開催された。 ・情報 , とりわけ個人的なデジタル情報の長期 会議にはすべての大陸を代表する 40 カ国から 保存への意識の欠如 約 130 名が参加した。参加者は , 主要な専門国際 ・当事者間 ( 図書館とメディアを使う教育者と 政府機関や非政府組織の責任者や専門家 , 知識社 の間 , マスメディア会社と学術団体との間な 会の確立において世界を牽引する専門家 , ジャー ど ) の分野を越えた学際的な協働関係の欠如 ナリズム・図書館・教育分野の第一線の研究者・ 大学教員 , 教育機関・図書館・出版・電子メディ アを担当する政府機関の責任者や代表 , メディ ア・情報リテラシーの専門家の国際的および各国 の協会の代表 , メディア・情報リテラシーに関す , 1 三 学学 大大一 院立シ 學国ラ 國浜テ き : 報 ゅこ情 かちド がえワ なお一 すなキ

2. 現代の図書館 2013年 03月号

で認識されている図書館情報サービスの役割に ついても触れるべきである。目的と達成目標 は , しかるべき公式の機関から出される教育ポ リシーと一致させる必要があり , また親機関や 国から学生・卒業生の学習成果・能力として求 められている資質を満たす必要がある。 計画と評価図書館情報学教育プログラムでは , 計画・評価の過程を明確にし , それらを定期的 に行っていくべきである。そうした過程では , 図書館情報学分野やそれを含む上位社会におい て今後予測される変化を踏まえつつ , ポリシー や手順が絶えず見直される必要がある。教員 , 職員 , 学生を計画・評価の活動に関わらせると ともに , 設置機関や実務家にも意見を求めるべ きである。教育プログラムは , その国で規範と される教育要件や専門職認証評価要件を満たし ービ 達成目標 G2. カリキュラムの要素 ていなければならない。 コア・カリキュラムでは , 以下に挙げる要素が 重要である。 図書館情報学力リキュラムのコア要素は以下の 原則 と方法を組み込むこと ・カリキュラムの中に地域固有の先住民の知識 り組みに繋がるものを含めること ・過去の取り組みのうち , デジタル環境での取 5 . 情報資源管理 , これには情報の組織化・処 4 . 情報の伝達過程 ス計画 3 . 情報ニーズの評価とそれに対応するサ 2 . 情報の生成 , 伝達 , 利用 報ポリシー・倫理 , 図書館情報学の歴史 1 . 情報環境・社会が世の中に及ばす影響 , 情 とおりである。 7 . 図書館情報学分野のあらゆる成果とサービ 6 . 情報の研究 , 分析 , 解釈 式や媒体も多様である 理・検索・資料保存・修復が含まれ , 表現形 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン スに対して情報通信技術を応用すること 8 . ナレッジマネジメント 9 . 情報機関の運営 10. 情報と図書館利用の成果に対する量的・質 的評価 37 り , 図書館情報学分野における研究や実践の理論 スやその他の教育的経験から構成されるべきであ 的や達成目標に基づいて , 統合された一連のコー 図書館情報学力リキュラムは , プログラムの目 達成目標 G3. カリキュラム 2012 ) 。 統性・革新・敬意・言語の問題がある (Lilley, となる価値観やテーマとしては , 伝統・保護・正 語で表現される ) 。一方 , 先住民に共通する中核 マをもっている ( 自身の文化構造から派生する言 community) は , 自分たち独自の価値観やテー る。そのため , それぞれの先住民社会 (indigenous 民にはそれぞれ共通点もあるが , 大きな違いもあ てさらに理解が深まるであろう。地域固有の先住 これらの特徴は , その価値観を知ることによっ が重要である点 うした人びとに合った調査方法を用いること る情報資源やサービスについて調べる際 , そ ・地域固有の先住民の図書館利用者が必要とす ことの影響 語が , 先住民の知識の枠組みに内在している ・地域固有の先住民の [ 思考 ] 過程・信条・ 構造についての理解 ・地域固有の先住民の知識の重要性 , 多様性 , ること。その範囲は以下を含む。 11. 地域固有の先住民の知識パラダイムを認識す ては , 以下の指針を示す。 番目の地域固有の先住民の知識パラダイムについ 文書の範囲を超えている。しかしコア要素 11 上記の要素すべてについて述べることは , この すること 11. 地域固有の先住民の知識パラダイムを認識

3. 現代の図書館 2013年 03月号

る専門書を出版する組織・機関の代表 , メディア 関係者であった。 会議では , 以下について参加者の合意が得られ 1 . メディア・情報リテラシー (MIL) は , 市民 施設 , 団体 , コミュニティ , 個人から成る , 開 かれた多元的 , 包括的 , 参加型の知識社会の持 続可能な発展のための必須条件である。 2 . MIL は知識 , 態度 , スキル , そしてアクセ ス・分析・評価・利用・創作に求められる実践 , 人権を尊重する創造的で法的・倫理的手段によ る情報や知識の伝達を組み合わせたものと定義 される。 メディア・情報リテラシーを持つ一人ひとり の個人は , 私生活や専門的業務 , 公的活動で多 様なメディアや情報源と情報の選択肢を使うこ とができる。彼らはいつどんな情報が何のため に必要か , そしてどこでどのように入手できる かを知っている。彼らはその情報を誰が何のた めに創り出したかを , メディア・情報の供給者 と記録保管する機関の役割や責務 , 機能と同様 に理解している。 彼らはメディアやあらゆる種類のコンテンツ 製作者を通して , 情報やメッセージ , 信条 , 価 値を分析し , また , 自ら発見して生み出した情 報を , 一般的 , 個人的 , 社会的状況の指標に照 らして検証することができる。 こうして MIL 能力は学習 , 批判的思考法 , 解釈の能力を包含 する情報通信技術の枠に収まらず , 職業 , 学 歴 , 社会の境界も越えて横断的に拡大する。 MIL はあらゆる種類のメディア ( ロ承文化 , 印刷物 , アナログ , デジタル ) およびあらゆる 形態・フォーマットの情報源に対応するもので ある。 3 . MIL の理念は , 2003 年のプラハ宣言「情報 リテラシー社会に向けて」 , 2005 年のアレキサ ンドリア宣言「情報社会を照らす光」 , 2011 年 のメディア・情報リテラシーに関するフェズ宣 言および IFLA のメディア・情報リテラシー勧 告などの , これまでの国際的な報告書に基づ く。 MIL は国連ミレニアム開発目標や世界人 権宣言 , 世界情報社会サミットが推進する目標 メディア・情報リテラシーに関するモスクワ宣言 25 の達成に向け , 効果的に遂行するために必要不 可欠な能力を支援するものである。 4 . これらの目的を達成するため , 個人 , コミュ ニティ , 企業 , 組織 , 国家は , それら自身およ び自身をとりまく物理的・社会的環境に関する 情報や , それらの情報を発見 , 理解 , 伝達され るさまざまなメディアの理解を継続的に必要と する。しかしながら , メディアは絶え間なく変 化するものである。新しい技術開発は仕事や余 暇 , 家庭生活 , 市民としての立場を変え続けて いる。世界中の人々は , 異なるメディア , 双方 向性 , ネットワーク , グローバル化の結合に よって一層定義される環境のなかで生活してい る。特に若者 ( に限ったことではないが ) に とって , メディアやイ中間とのネットワークの重 要性は増しており , それらが従来の学習環境以 外での成長の場として大部分を占めるように なっている。今日 , メディアの創造はもはや専 門家集団に限るものではない。すなわち , 今や 誰もがそれを生み出せるようになっている。 5 . 同時に , デジタル・ディバイドは依然として 重大な問題となっている。開発途上国の多くの 人々は , 情報やメディアをまったく入手できて いない。先進国でさえ , 技術への物理的なアク セス制限を受けており , すべての階層の多くの 人が , 生活のあらゆる面 ( 例えば , 居住地や国 家 , 地域 , 国際的レベルでの , 個人面や社会 面 , 教育面 , 職業面 ) において , 十分な情報に 基づく判断をして , 問題を解決するために必要 な , 批判的かつ高度な思考スキルを欠いてい る。 以上のことから , 「知識社会に向けたメディ ア・情報リテラシーに関する国際会議」の参加 者たちは各国の首脳に申し入れをおこなう。対 象となるのは , 国連機関 ( 特にユネスコ ) , 政 府間組織 , 非政府組織 , 教育研究機関 , 職能団 体 , メディア機関 , 文化・社会施設 , ネット ワーク , 以下の提言に関係する企業や業種であ る。 a. MIL は個人やコミュニティ , 経済や市民社会 の向上と発展に不可欠であると認識すること。

4. 現代の図書館 2013年 03月号

18 現代の図書館 V 矼 51 N 。 .1 ( 2013 ) 要になる。 筆者の学校図書館では , 2001 年から「総合的 な学習の時間」の第 1 時限目として図書館メディ ア・オリエンテーションを実施してきた 1 ) 。この オリエンテーションは , 学習指導要領の改訂に伴 い新たに設けられることになった , 「総合的な学 習の時間」における学習活動を , 学校図書館が積 極的に支援するための第一歩として , その教科を 担当する教員組織と図書館の合同企画として実施 してきた。また , 情報リテラシー教育導入のため のオリエンテーションでもあり , この実施に至っ ては高校の教科「情報」を担当する教員との棲み 分けにより , 図書館が情報リテラシー教育を担当 することとなった。 生徒が「総合的な学習の時間」を始めとし , そ の他のさまざまな教科における学習活動を主体的 に学習していくためには , その土台として必要な 知識とスキルを学び身につけることが重要であ る。生徒自身が , このオリエンテーション以後行 われるさまざまな調べ学習の中で , このオリエン テーションで学んだ記憶を活用し , 自らの情報リ テラシーをも活用し育成していく。学校図書館は 調べ学習の礎を築くことから始まる。 3 調べ学習から探究学習へ 2012 年 4 月から中学校で , 2013 年 4 月から高 校で実施されることとなった新学習指導要領で は , 社会に出た際に実践で試されるカ , 「思考 カ・判断力・表現力」の育成を今までの知識や技 能の習得とともに重視している。新学習指導要領 で重視している「思考カ・判断力・表現力」は , 教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活 動を充実することで育成するとしている。このこ とは , 生徒がそれまでに身につけた知識やスキル を活用する学習活動を , 「総合的な学習の時間」 の中で教科横断的に展開しなければならないこと を意味している。また , 学校図書館を活用してと あるように , その学習の場が学校図書館であるこ とが明白になったことで , 探究的な学習を支援す るということも明白となった。 そして , この学習活動は知識基盤社会をよりよ く生きていくためのカ , OECD におけるキー コンピテンシー ( 主要能力 ) に基づいている。 キー・コンピテンシーの三つのカテゴリー① 相互作用的に道具を用いる能力 , ②異質な集団で 交流する能力 , ③自立的に活動する能力 2 ) は , すべて「単なる知識や技能だけではなく , 技能や 態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活 用して , 特定の文脈の中で複雑な要求 ( 課題 ) に 対応することができる力」 3 ) を構成している。 れは , 生徒が将来社会に出た際に遭遇するさまざ まな課題や問題を自分のカで解決できる , 自立し た学習者として社会を構成するために必要な力で ある。その力を育成する探究的な学習では , 生徒 が主体的にさまざまな情報源を活用し , 複雑な課 題を自分のカで解決するという学習活動が必須と なる。また , その学習は個人で行うだけでなく , 社会構成主義的な学習観に基づいて , 集団の中で 行われることが重要である。他の学習者とコミュ ニケーションをとりながら相互作用的に学び合 い , それぞれの課題を解決していく過程で自らの 中に新しい知識を取り込むとともに再構成し組織 化する。このような学習を通して生徒は自立した 学習者となっていくのである。 探究的な学習は , すべての教科の応用科目とし て設定されるとともに , 自らのカで獲得した知識 やスキルの活用を組み立て , 集団の中でコミュニ ケーションしながら行われる主体的な学習活動で ある。また , 新学習指導要領の実施は , 学校図書 館の活動にも大きな変化をもたらす。学校図書館 が支援する学習の形態が変われば , その活動内容 も大きく変わらなければならない。学校図書館が 支援すべき活動内容について , 再構築が必要と なったのである。 4 問いをつくる 思考カ・判断力・表現力の育成を学校図書館が どのように行うのか。この答えは , 思考のプロセ スの可視化にある。知識を活用するためには , 批 判的に考え , 判断し , 評価するという思考のプロ セスを習得することが不可欠である。 しかし , 今まで調べ学習として実施されてきた

5. 現代の図書館 2013年 03月号

そのためには , まずは大学が置かれた状況 ( 年 間予算に対して図書館の資料費・人件費が占める 割合など ) を知り , 経営側と共通の認識を持っこ とが必要となる。さらに中央教育審議会の答申な どを受けて文部科学省が近い将来にどのような政 策を実行に移そうとしているかを推察し , それに 対して図書館がいかなる貢献ができるかを提案す るべきであろう。例えば学術情報リテラシーは先 述の答申でも学士力の汎用的技能に挙げられてい るが , その教育の高度化に図書館が貢献すること によって学生が論文や統計データなどの客観的論 拠に基づいたレポートや論文を書けるようにな り , 各科目担当教員の指導上の負担を減らして教 育の本質化に注力できる点などを , 講習会の参加 者アンケート等のデータ ( 各種データベースや学 術ツールの認知度・利用度など ) を分析して予測 される効果を示す必要がある。 改善に必要となる人的・財政的負担の措置につ いては , 複数の大学が連携して資料価格の交渉を するコンソーシアム形成や , 各大学図書館団体が おこなっている研修や研究事業について国公私立 の壁を越えた情報交換による効果拡大・知識交流 などの取り組みに加えて , 図書館自らが業務効率 化の可能性 ( 専門性の必要なコア業務を洗い出し て専任職員の力をそこに傾注し , TA などの活用 によって非正規雇用者にとっても技能取得と成長 の機会を作りながら教育研究支援機能を高度化す る戦略的アウトソーシング 13 ) など ) を提案し , 大学側との対話によって有効な解決策を探る必要 がある。 6 まとめ これまでは査読など一定のプロセスを経た学術 情報のみが冊子体で流通していたが , その在り方 は多種多様となった。現在は根拠の不明確な情報 を個々人が大量にインターネット上に発信してお り , それらは有料情報よりも容易に手に入る上 に , 一見まことしやかに書かれている。適正な学 術情報リテラシー教育を受ける機会を持たない若 者は , 扇動的な情報に踊らされやすい上に , 誤っ た情報を再発信 (SNS のシェアなど ) すること マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 15 に関して無頓着になる可能性が高い。大学時代 は , 従来の教養・専門教育とは別に , このような 意識を改めて社会人として情報を扱う自覚を持っ ための期間とも考えられるため , 総合的な学術情 報リテラシーの涵養は大学の果たすべき重要な役 割の一つとなっている。 インターネットの影響はグーテンベルクによる 活版印刷の発明とは比較にならないほど大きい が , それすらも変革の途上に過ぎず , 今後もさら に変わっていくだろう。しかし , 社会で生きてい くために必要な力の根底は普遍的で , 今も昔もさ ほど変わらないのではないだろうか。「問題の解 決に際して裏付けのある情報を集め , 歴史的・国 際的な視点を含め多角的に分析して客観的に批判 し , 新たな解決策を立案し , 論理的に文章化・図 示化して伝達可能な形で発信する能力」の涵養を 支援することに関して言えば , 大学と図書館とそ の職員の果たすべき役割は常に変わらない。 しかし「図書」や「館」という言葉の前提がす でに変わっているように , 情報を扱う専門職とし て求められる能力も , 高度情報化・国際化への対 応が必要となる。例えば , 大学図書館の職員には 司書課程で教わる知識・技能に加え , 英語力やコ ンピュータ技術 , 対人コミュニケーション能力な どが重要になってきている。ランガナタンによる 図書館学の 5 原則にある「成長する有機体」と は , その職員の成長すべき点をも示唆しており , もうーっの原則である「利用者の時間を節約す る」とは , ともすれば一般検索エンジンやフリー 百科事典に頼り切って無駄な遠回りをしがちな学 生に対し , 正しい学術情報リテラシー教育をおこ なうことも示しており , これらの原則もまた普遍 なのではないだろうか。 く注 > 1 ) 大城善盛 . 大学図書館を中心とした情報リテラシー論ーア メリカ・オーストラリア・イギリスにおける議論を中心に . 大学図書館研究 . Vol. 82 , 2 開 8 , P23 ー 32 2 ) 大城善盛 . アメリカの大学図書館界における情報リテラ シーの研究ー理論と実践の歴史的分析を通して . 花園大学文 学部研究紀要 . VOL42 , 2010 , p. 26 ー 53 原文 : presidential Committee on lnformation Literacy. Final Report, 1989

6. 現代の図書館 2013年 03月号

ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 図 1 探究学習の「スパイラル」 19 学習活動の多くは , 情報を検索し , 収集し , 整理 する部分のプロセスが大半で , 課題の把握と評価 については , 授業時間等が足りないというような 理由から省略されることが多かった。しかし , 調 べ学習として何度も繰り返される , 情報を検索・ 収集・整理するという情報探索の内容だけでは , 技術的には向上しても , 生徒の思考力は育成でき ない。また , 与えられた課題を解決するだけでは 思考力を育成することは難しい。何が課題でどの ように学習を進めるのかということを生徒自身が 理解し学習そのものを構成できなければ , その学 習に対する生徒のモチベーションは上がらず , 自 ら「考え試行錯誤する」ということはない。与え られた課題の中から自分のテーマを設定するこ と , つまり自分だけの「問いをつくる」ことが , 生徒の「考える力」を育む学習方法となることは あまり認識されていない。 「問いをつくる」ことは , 何度もそのプロセス を繰り返すことが要求される。その「問い」に対 する自らの「意見や主張」を何度も検証し論理的 に構成することが必要となる。この「意見や主 張」は自らの問いに対する「仮説」となり , その 「仮説」を証明する , あるいは否定する証拠を探 しながら試行錯誤するスパイラル的な学習活動で ある。生徒は自分の興味から出た問いを探究する ことで , 自分の興味や自分自身を客観的に見るこ とになる。自分の思考や行動を客観的に見るこ と , この試行錯誤こそが生徒のメタ認知能力を高 めるとともに , 生徒の「考える力」である論理的 な思考力を育成する。 筆者らがつくった『問いをつくるスパイラル』 4 ) の「問いをつくる」プロセスは , 従来の探索モデ ルのような直線的なステップで表すのではなく , 生徒が「問いをつくる」過程で得た知識やスキル を巻き込んで , 竜巻のように学びを上昇しながら 拡張する , らせん形のプロセス ( 図 1 ) をたど る。これは , 探究学習がスパイラル型の学習活動 であることを示している。 また , 「問いをつくる」プロセスも , 探究学習 の「スパイラル」と同様に「スパイラル」な学習 活動である。図 2 は , 「問いをつくる」スパイラ ルを上から見た場合の図であるが , このプロセス には , 探究学習のプロセスにおける , 課題設定の 場面から評価までのすべての場面が含まれてい る。すなわち「問いをつくる」スパイラルは , 探 究学習そのものである。 探究学習は , 常に自分の問いを見直しながら , 新しい知識と技術を取り入れ , そのスパイラルを 拡張し上昇させることになる。それと同時に「問 いをつくる」プロセスを繰り返すことで , 「考え る力」すなわち思考力を生徒自身が鍛え育む。生 徒が生涯自立した学習者になるための最適なト レーニングが , 「問いをつくる」ことなのである。 「問いをつくる」スパイラルには , 三つの重要 な「問い」がある。それは , 「〇〇とは何か」と いう What の問い , 「なぜ〇〇なのか」という 「どのように〇〇すればいいのか」 Why の問い , という How の問いである。この三つの「問い」 を意識して , 生徒の始まりの疑問を生徒自身の問 いの形に変えることができれば , そのスパイラル 型学習は半分成功したに等しい。 実際の生徒の例を挙げると , 最近中国製品をよ く目にして , 中国は儲かっているのかが気になっ ている生徒は , 「中国経済」というキーワードか ら「日本で売られている中国製品には何がある か」という疑問をあげた。この疑問から始まっ て , 「なぜ , これだけ多くの中国製品が売られて

7. 現代の図書館 2013年 03月号

20 現代の図書館 VoI. 51 No. 1 ( 2013 ) 図 2 「問いをつくる」スパイラル 共有する ・問いをつくるプロセスを ・中間発表する ・先生や司書に相談する ・つくった問いを人に説明する 6 共有する 6 評価する 評価する ・間いをつくるプロセスを ・作業をふりかえる ・つくった問いを見直す ・与えられた条件を確認する ・気になることを書く ・つくった同いをもとに、これからの 計画を書く 課題を確認し、 計画を立てる 0 表現する ・キーワードから疑問文をつくる ・問いに選んだ理由・考えを 書いてみる ・情報を集める ・キーワードを見つける 2 情報を探す 3 情報を整理する ・キーワードを選択する ・キーワードを関連づける ・問いをとりあえす決める ・問いを分けて考える ・小さな間いを整理する ・小さな間いをべる いるのか」→「なぜ , 日本の製品を真似したもの が多いのか」→「なぜ , コピー商品といわれるも のが多く出回っているのか」と調べながら自分の 問いを問うているうちに , 「どのようにすれば , パクリ商品 ( コピー商品を本人が定義づけて名づ けた ) を防げるのか」というような「問い」にた どり着いた。そこで彼女が本当に気になっていた ことは , 中国製品が売れて中国が儲かっているこ とではなく , 日本で売られている多くの中国製コ ピー商品が日本の経済にダメージを与えているの ではないか , 日本の商品を真似した中国のコピー 商品をどうやって防げばよいのか , そのためには どのような法律があり , どのような方策が必要で どう防ぐのかを知りたかったのである。 この生徒は , What の問いから始めて , Why の問いを繰り返すうちに , 自分の本当の興味・関 心に気づき , それを明確な自分だけの問いの形に 変えることができた。自分の興味・関心を明確に する「問いをつくる」スパイラルを繰り返すこと で , かなりの知識を獲得し活用して , 最終的な 「自分だけの問い」を創った。そして , このプロ セスにおいて , かなりの試行錯誤と自分自身への 問いかけを繰り返し , そこで本当の自分に気づい たのである。 『問いをつくるスパイラル』では , 始まりの 「問い」に関して , どのようなことが知りたいの か , 自分なりの意見や主張をどんなことでもよい から併せて書くようになっている。なぜなら , の意見や主張こそが生徒自身は気づかない「始ま りの仮説」になっていることが多いからだ。「〇 〇だと思う」という主張には , 「〇〇じゃないの だろうか」という本人の推測が含まれていること が多く , これが「始まりの仮説」になる。「問い」 をつくるスパイラルを何回もめぐって試行錯誤し ていく中で , この「始まりの仮説」を肯定できる ような , あるいは否定するような証拠を見つけな がら , 常にこの「仮説」を考察・検証する。 このことは , 先に挙げた例において , 「中国製

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36 現代の図書館 Vol. 51 No. 1 ( 2013 ) レベルを対象とし , どちらも専門的な資格に繋が るものである。 前回 2000 年に大幅にガイドラインを改訂して 以来 , 図書館専門職は多くの課題に直面してき た。なかでも無視できないのは , インターネット や他のデジタル技術とともに生じた課題であり , そのすべてがわれわれの日常生活の多くにまで持 ち込まれている。それとともに , 一部のライプラ リー・スクールでは i-School の考え方が採用さ れるようになったが , これは , 同じ国の中で同種 のスクールが行っている , 伝統的ではあるが未だ 有効な図書館情報学教育のやり方と競合するよう になっている。また , 図書館情報学教育で必要と される多くの教育・知識基盤が , 他の専門職 , 例 えば , アーカイブズ学・博物館学・記録管理学の 領域を含むことが明らかになっている。さらに は , 教育プログラムの知識基盤において地域固有 の先住民問題 (indigenous matters) が欠落して きたことも指摘しておく必要がある。 IFLA 教育研修分科会 (Education and Training Section : SET) では , 常任委員会 (Standing Committee) に , ガイドラインの改訂に責任をも つ小委員会を任命した。そのメンバーは , Gillian Hallam 教授 , S. B. Ghosh 教授 , Kerry Smith 准 教授である。改訂版を以下に記す。 [ 執筆代表 ] Kerry Smith 准教授 : FALIA ( オーストラ リア図書館情報協会フェロー ) , IFLASET ガイドライ ン小委員会委員長 , 2012 年 7 月 達成目標 このガイドラインの目的は , 世界中の図書館情 報学教育機関 ( / ライプラリー・スクール ) に対 し , 一連の望ましい実践の指針を提供し , 教育プ ログラムを開始したり運営したりする際に利用さ れることである。このガイドラインは , 教育プロ グラムの見直しと改善だけでなく , 新しいプログ ラムを計画し , また比較するための実用的なツー ルとして利用できる枠組みを提供するものであ る。このガイドラインは , 図書館情報サービス部 門の新しい教育プログラムを計画する際にも用い られることが期待される。 よく知られるように , 国によっては順守される べき広範な教育基準があり , この分野の専門職団 体が , 特に認証評価を行うために , LIS スクール にとって守るべき教育ポリシーを定めている。 のガイドラインの原則 (principles) が , そのよ うな国レベルの認証評価要件の基盤となることを 期待したい。 ガイドライン GI . 大きな枠組み 達成目標 図書館情報学教育プログラムの中身と組織にお ける地位づけは , 国内の他の職業・専門教育プロ グラムと同等である必要がある。専門職を養成す るためには , 教育プログラムが学位授与機関に置 かれる必要があり , 高等教育 ( 大学 ) レベルが妥 当である。図書館情報学教育プログラムは , 他の 教育プログラムと同じ基準に基づいて , 博士レベ ルの研究課程を提供する資格をもつべきである。 原則 使命図書館情報学教育プログラムの使命は , 般公開された公式文書に明記する必要がある。 プログラムの使命においては , 政治的・社会 的・経済的・実務的視点でその目的が述べられ るべきだが , それは当該専門職における偏見の ない価値観と合致している必要がある。使命 は , サービス対象集団を同定し , 国ごとのニ ズに対応するものであり , 独立・自立した機関 でない限り , 親機関の価値観と一致すべきであ る。図書館情報学教育プログラムは , 関連する 専門職と学問分野について認識されている事柄 をはっきりと示す必要がある。 目的と達成目標図書館情報学教育プログラムで は , その目的 (goals) を明記し , 目的から派 生する具体的な達成目標 (objectives) を掲げ るべきである。その中で , プログラムの根本原 理・原則・方法 , 専門分野 , 提供される養成レ ベル , 教育・サービス・研究上の価値観 , 社会

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ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 7 おわりに 2013 年 1 月 13 日 , 東京大学で行われた「子ど もの読書活動を考える国際シンポジウムー子ども たちの本読み事情 : アジア各国の今とこれから」 において , 基調講演を行った CaroI CoIIier Kuhlthau 博士は , 「探究的な学びをもたらす子ど もたちの読書」シンポジウム終了後のディスカッ ションの中ではっきりとこう言った。 "NOt seeking information, But seeking meaning ! ! " もしかすると私たちは自分に必要な情報を探し ているのではなく , 自分の意図することを他の人 が表現したものから探し出そうとしているのでは ないだろうか。 そう考えると , MuIti Literacy はこれから , Meaning Literacy となり , 自分が知りたい意図 を他人のテキストから読み解くことができるリテ ラシーを意味するのではないか。学校図書館で身 につけるカ , そのすべてが「 meaning 」でつな がっている。 く注 > 1 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会「情報リテラシー教 育の実践すべての図書館で利用教育を』 ( JLA 図書館実践 シリーズ ) , 日本図書館協会 , 2010 , 180P. 第 5 章 , 天野由貴「生きるための情報活用能力を育成する 「図書館戦争」から身近な問いと知識をつなぐ」 p. 61 ー 70 2 ) 森田英嗣「 ICT が変化させた社会と教育」「教育と文化」 68 巻 6 号 , 2012 , p. 6 ー 19 3 ) 文部科学省「 OECD における「キー・コンピテンシー」に ついて」 http://www.mext.go.jp/b—menu/shingi/chukyo/ chukY03/()()4/siryo/05111603 / 開 4. htm ( accesse d 20132.15 ) 4 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会図書館利用教育ハン ドブック学校図書館 ( 高等学校 ) 版作業部会「問いをつくる スパイラルー考えることから探究学習をはじめよう ! 」日本 図書館協会 , 2011 , 123P. 5 ) 文部科学省「 OECD 生徒の学習到達度調査一 289 年調査 国際結果の要約」 http://www.mext.go.jp.com/onent/a—menu/education/ detai レーiCSFi1eS/afiddfi1e/2010/12/07/1284443ー01. pdf (accessed 20132.15 ) ( 2013.2.15 受理 ) 23

10. 現代の図書館 2013年 03月号

22 現代の図書館 VoI. 51 No. 1 ( 2013 ) 書をする習慣があるということが , 読解力を向上 させた要因になっているという分析結果につな がった。まず , 読書が好きという習慣のうえで , さまざまな文章を読んだり , 読み方を学ぶという ことが重要になる。 さらに , 視覚的に表現された「非連続型テキス ト」を読解できなければ , そのような視覚的表現 で表現することができないしそのような表現力 は身につかないということも忘れてはいけない。 視覚的な表現は , 異文化間のコミュニケーション において , 効果を発揮するという点でも重要であ る。言葉で表現できなくても , 図式化して表現す ることで理解できるということは , これからのグ ローバルな社会において身につけておきたい能力 である。そして , コミュニケーションの手段とし て多様な表現力を身につけていれば , 異文化間の 問題解決に役立っということが容易に推測でき る。 日本の学校においても社会科などで「非連続系 テキスト」の読解などをするように薦める単元も あることが , 使用されている教科書から読み取れ ることもある。それを生徒の発達段階において , どの段階からどのレベルを読ませるかなど , 体系 的な指導が可能となれば , 表現力を必要とする探 究学習において大いにその効果を発揮するだろ う。自分の思考・考え・意図を適切で効果的に表 現できれば , 探究学習はより拡張し高度になる。 探究的な学習のカギである「読解力」を育てる ためにも , 学校図書館における「読書」というも のをもう一度考え直す必要がある。「読書」が , 強制されす好きなものだけを読むことがよいとさ れてきたその価値観を , 今一度見直す時期に来て いる。 PISA 調査で学力が世界一とされたフィンラン ドを筆者が視察で訪れた際に , その国民性を表す 表現として , 「新聞をよく読む国民である」とい う言葉がよく使われていた。その言葉を裏づける ように , 公共図書館にはさまざまな言語で書かれ た新聞が 400 種ほど置かれており , 無料の新聞も 多く発行されていることや多くの住民が新聞を読 んでいた姿が印象的であった。また , 見学先の高 校で話を聞いた生徒会長の生徒が , 10 歳頃から 毎日新聞を読んでは , その日の気になった記事に ついて両親と話し合うことが日課であると語って いたことからも , 新聞というメディアを有効に活 用し , 「読解力」を身につけていることが推測で 日本の学校図書館でも , 2012 年度にすべての 学校に新聞を 1 紙配置できるような取り組みが行 われているが , ただそれを配置するだけではなん の効果もないことは明白である。先のフィンラン ドの生徒も , 自分が読み解いた内容を両親と話し 合うことで組織化し , 自分の知識に再構成したこ とで「読解力」が身についたのである。そのよう な他者と集団で行う活動を合わせて行わなけれ ば , 「読解力」は身につかない。 さまざまな学習活動の中で , さまざまなジャン ルのテキストを読むとともに , 視覚的に表現され たテキストをも読む「読書」を組み込みながら , 集団で行う学習活動を組み込んだカリキュラムが 必要である。 6 学習を支援するということ 図書館が学習を支援するためには , さまざまな リテラシーを理解するとともにその育成方法をも 理解し指導することが必要となる。学習のための 蔵書や場所を提供するだけでは , 本当の意味での 学習を支援することにはならない。学校図書館を 出て社会や大学に出て行く生徒が , 自立した学習 者として身近な課題を解決したり , 高等教育にお ける新しい知識の創造を行えるよう , その土台を しつかり作って送り出すことが目標であり使命で もある。 しかし , 現状では学校図書館間でも行っている リテラシー教育の内容に格差が生じているため , それに続く大学ではさらにその格差が広がってき ているように思われる。自立した学習者の学習支 援には , モチベーションの維持が必要である。生 徒の期待を裏切らない発達段階に合ったプログラ ム , 大学に入学した後にはその土台から発展し展 開できる体系的なプログラムや指導方法を , 館種 を超えて改めて考える時期に来ているのではない だろうか。