情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 3 特集′目目ロ住ロロロ 情報リテラシー育成を支援する 公共図書館のサービス ◆実践のヒントを中心に 子 古子 田 べる。 にはじめに 2 情報リテラシー育成を支援するサービス マルチリテラシーとは何か。その形はまだとら えがたいが , さまざまなリテラシーの可能性が包 2 . 1 情報リテラシーについて 含されている。その一つが情報リテラシーであ 情報リテラシー (information literacy) は , 「情 る。 報活用能力」と訳されることもある。 大学や学校で情報リテラシー教育は必要とされ アメリカでは , 1989 年にアメリカ図書館協会 ているが , 学校生活は長い人生の中の一時であ (American Library Association) 情報リテラシー諮 る。情報社会において , 情報活用能力の育成は生 問委員会 (Presidential Committee on lnformation 涯にわたって必要とされる。すでに 2006 年の Literacy) による最終報告 4 ) が発表され , その後 「これからの図書館像 : 地域を支える情報拠点を の情報リテラシー展開の契機となった。 めざして ( 報告 ) 」において , 公共図書館の情報 日本では , 1993 年 , 日本図書館協会図書館利 リテラシー育成の重要性が述べられている 1 ) 。 用教育委員会が発足し , 2001 年には『図書館利 しかし , 2009 年の研究文献レビューでは公共 用教育ガイドライン合冊版図書館における情報 図書館の研究や文献はほとんどないことが指摘さ リテラシー教育支援サービスのために』 5 ) を刊行 れている 2 ) 。社会教育機関である公共図書館の役 している。各館種別のガイドラインとその共通基 割は重要だが , 具体的にどのような実践が可能な 盤となる「総合版」 6 ) から構成されており , 主に のであろうか。 2011 年度に筆者が実施した「公共図書館にお 大学図書館を中心に普及した。 ける情報リテラシー教育の現況についての調査」 3 ) 「公共図書館版」 7 ) も作成されたが , 当時の図 ( 以下「 2011 年度調査」とする。 ) では , 情報リ 書館サービスの現況に対応したものとはなってい テラシーの育成に関連する事例があることを確認 なかったこともあり , 普及はしなかったものの公 共図書館のサービスの変遷とともに関連するサー している。 ビスが育まれていくことになる。 公共図書館における情報リテラシー教育の現況 とサービスの方法及び参考となる事例について述 日本の公共図書館については一定の共通識に 、ルい卩 もとづいた定義や用語などもまだ明確にされてい ない。 じゅんこ : 神奈川県立図書館 たかだ 「 2011 年度調査」では , 仮枠として定義を情報 キーワード : 情報リテラシー , 情報リテラシー教育 , 情報活用 リテラシー教育は公共図書館だけではなくすべて 能力 , 利用教育 , 図書館利用教育 , 公共図書館
4 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .1 ( 2013 ) の館種の図書館に必要とされることから , 「図書 館利用教育ガイドライン総合版」をベースに 「公共図書館版」を加え , " 子どもや大人が情報活 用能力の育成・向上を図るために公共図書館が支 援するサービス " とした。図書館の活用法・情報 の評価も含めた情報探索法・レポート作成支援な どのための情報活用法まで幅広くとらえる。 サービスという用語を用いるのは , 公共図書館 ではさまざまな図書館活動は住民に対する支援や サービスという観点で位置づけられており , 情報 リテラシー教育は " 情報リテラシーの育成を支援 するサービス " とみなされているからである。 情報リテラシー育成支援サービスの領域と目標 については , 「図書館利用教育ガイドライン総 合版」をもとに表にまとめた [ 表 ] 。 2 . 2 図書館利用教育から 情報リテラシー教育へ 公共図書館のサービスとして , 情報リテラシー 教育はどのように位置づけられるのだろうか。公 共図書館のサービスの変遷と重ねあわせながら , たどってみる。 公共図書館のサービスは , 読書の支援のための 貸出を中心に進められてきた。本や雑誌を見たり 借りたりすることが主な利用であれば , 図書館利 用教育は「図書館の使い方」を知る程度で , あま り複雑である必要はなかった。 貸出サービスは既に定着したが , さらに近年は 課題解決を支援するサービスの充実が求められて いる 8 ) 。ビジネス支援や法情報 , 健康情報など新 たなサービスが模索されているが , 住民が自らの 力で必要な情報を獲得できるよう支援するサービ スの基盤となるのが , 情報リテラシー教育であ る。 図書館のサービスや情報の特性と各種情メディアの特性に応各種メディアの特性 専門的職員による支報源の探し方・使い 援など , 利用する方方を知り , 情報探索エ・整理・保存の方情報倫理や情報発信 高さは , 情報リテラシーという言葉が公共図書館 20 館中 15 館 ( 75.0 % ) の回答を得た。回収率の 政令指定都市図書館 ( 中央館 ) からは , 調査館数 府県立図書館から調査館数 60 館中 59 館 ( 98.3 % ) , リテラシー教育の現況についての調査」では都道 2011 年度に実施した「公共図書館における情報 からである。 という名称が浸透していなかったことに配慮した たのは , 当時まだ公共図書館では情報リテラシー の名称に情報リテラシーという言葉を用いなかっ 事例が育まれつつあることを確認している。調査 情報リテラシー育成を支援するようなサービスの 調査」 9 ) ( 以下「 2006 年度調査」とする。 ) では , 書館利用方法・情報の探し方講座などについての 2006 年度に実施した「公共図書館における図 実施している。 2006 年度と 2011 年度に郵送による質問紙調査を 及び政令指定都市図書館 ( 中央館 ) を対象に , 筆者は現況を把握するため , 都道府県立図書館 について簡潔に述べる。 れているのだろうか。関連する調査をもとに現況 が , 公共図書館のサービスはどのようにすすめら 潜在的 , 顕在的なニーズがあることは明らかだ 2 . 3 公共図書館の現況 ラシー教育へと拡大されることになる。 報活用も視野にいれ , 図書館利用教育は情報リテ 図書館の中だけではなく , 図書館の外にある情 報源も含めることは日常化している。 ンターネットやオンラインデータベースなどの情 方案内・パスファインダーの作成においても , イ ている。現在では , レファレンスサービスや調べ 源は図書館の中にある本や雑誌だけではなくなっ 情報環境の変化により , 図書館が提供する情報 表情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目標 : 「図書館利用教育ガイドライン総合版」より 領域 1 印象づけ 図書館があることを 認識し , 必要なとき に利用できることを 知る。 目標 2 サービス案内 法を学ぶ。 3 情報探索法 の方法を学ぶ。 4 情報整理法 じた情報の抽出・加 法を学ぶ。 5 情報表現法 の方法を学ぶ。 と活用法を理解し ,
情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 5 図 1 図書館ツアーの例 会・人文系リサーチ・ライプラリー 神奈川県立図書館 利用するには資科を探す調べる・相談するお知らせ 資科劭 - ・情報志 ホーム > お矢せ〉県民公講座 > 図書館大公開 図害館大公開 県立図書館は市町村の図書館と何が違うの ? 何があって何をしているの ? 県立図書館の全館を司書職員の案内で X " り歩きなカち、普段は入れ、書庫内のお宝資料などもごらんいた だく人気請座。「県立図書館に行くのは初めて」という方、「行ったことはあるすれど、よく説明してほしい」、「あの 奥はどプよっているんだろう ? 」、う方に特におすすめです。 狭い階段がありますので歩きやすい靴でご参加ください。 ※神奈川県立図書館ホームページより「県民公開講座図書館大公開」 例をあげる。事例は調査結果や文献 , インター にも浸透していることを裏付けている。 ネットの情報などを参考に , 情報活用能力の育 「 2006 年度調査」と比較して , 課題解決を支援 するための調べ方案内・パスファインダーなどの 成・向上を図るという観点から選択した一例であ ツールや調べ方講座などのプログラムが増加し多 る。 「情報リテラシー育成支援サービス : 領域と目 様になっている。 標」 [ 表 ] にあるように明確に区分されて実践が サービスについての意見では , " 情報活用能力 行われているわけではなく , さまざまなサービス の個人差は大きく , 図書館のように誰でも自由に 来られる場所でサービスを行うことは重要。 " に織り込まれていることが多い。 次に述べる ( 1 ) から⑨までのサービスは , どの " パスファインダーの作成 , 活用についての振興 図書館でも必すすべてを実施しなければならない が大切。また情報活用能力の育成 , 向上を図るた ということではない。図書館の規模や状況に応じ めの具体的な事例や方法がまとまっていると参考 て実践の一つのヒントとなればと考えている。 にしやすい。 " など公共図書館における情報リテ ( 1 ) 紙媒体の利用案内 ラシー育成を支援するサービスの重要性が肯定的 利用案内はホームページにもアップされるが , に述べられている。 手軽な紙媒体はサービス案内の基本となる。 二つの調査では , 悉皆調査が困難であることか ( 2 ) 掲示・配布物 ら事例が多いと推測される大規模図書館を対象と したが , 大規模図書館以外にも事例があることを サービスの使い方を知るために , OPAC や データベースの使い方 , 日本十進分類法の見方 指摘している文献もある 10 ) 。 情報リテラシー育成を支援するサービスの重要 を示すものなどさまざまなものがある。 性に対する認識は高まっており , 実践事例もある ( 3 ) 日常的なレファレンスサービス が , 参考となるようなマニュアルや事例集もない 検索の方法 , 特定テーマの調べ方など , 個別な 質問に対応して支援する。 まま , さまざまなサービスに織り込まれる形で展 ( 4 ) 図書館ツアー (l) [ 図 1 ] 開を模索されているというのが現況である。 書庫を中心とするバックャードッアーや見学会 3 実践のヒント と講座を組み合わせることもある。図書館への 訒識を深め , 利用方法を学ぶことができる。 ( 5 ) レファレンス事例の公開 3 . 1 サービスの方法と参考事例 ホームページや国立国会図書館 " レファレンス 協同データベース " 12 ) によるレファレンス事例 サービスの方法を整理し , あわせて関連する事 キーワード 一両県立トップー県立川崎一 活動評価・統計
18 現代の図書館 V 矼 51 N 。 .1 ( 2013 ) 要になる。 筆者の学校図書館では , 2001 年から「総合的 な学習の時間」の第 1 時限目として図書館メディ ア・オリエンテーションを実施してきた 1 ) 。この オリエンテーションは , 学習指導要領の改訂に伴 い新たに設けられることになった , 「総合的な学 習の時間」における学習活動を , 学校図書館が積 極的に支援するための第一歩として , その教科を 担当する教員組織と図書館の合同企画として実施 してきた。また , 情報リテラシー教育導入のため のオリエンテーションでもあり , この実施に至っ ては高校の教科「情報」を担当する教員との棲み 分けにより , 図書館が情報リテラシー教育を担当 することとなった。 生徒が「総合的な学習の時間」を始めとし , そ の他のさまざまな教科における学習活動を主体的 に学習していくためには , その土台として必要な 知識とスキルを学び身につけることが重要であ る。生徒自身が , このオリエンテーション以後行 われるさまざまな調べ学習の中で , このオリエン テーションで学んだ記憶を活用し , 自らの情報リ テラシーをも活用し育成していく。学校図書館は 調べ学習の礎を築くことから始まる。 3 調べ学習から探究学習へ 2012 年 4 月から中学校で , 2013 年 4 月から高 校で実施されることとなった新学習指導要領で は , 社会に出た際に実践で試されるカ , 「思考 カ・判断力・表現力」の育成を今までの知識や技 能の習得とともに重視している。新学習指導要領 で重視している「思考カ・判断力・表現力」は , 教科等を横断した課題解決的な学習や探究的な活 動を充実することで育成するとしている。このこ とは , 生徒がそれまでに身につけた知識やスキル を活用する学習活動を , 「総合的な学習の時間」 の中で教科横断的に展開しなければならないこと を意味している。また , 学校図書館を活用してと あるように , その学習の場が学校図書館であるこ とが明白になったことで , 探究的な学習を支援す るということも明白となった。 そして , この学習活動は知識基盤社会をよりよ く生きていくためのカ , OECD におけるキー コンピテンシー ( 主要能力 ) に基づいている。 キー・コンピテンシーの三つのカテゴリー① 相互作用的に道具を用いる能力 , ②異質な集団で 交流する能力 , ③自立的に活動する能力 2 ) は , すべて「単なる知識や技能だけではなく , 技能や 態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活 用して , 特定の文脈の中で複雑な要求 ( 課題 ) に 対応することができる力」 3 ) を構成している。 れは , 生徒が将来社会に出た際に遭遇するさまざ まな課題や問題を自分のカで解決できる , 自立し た学習者として社会を構成するために必要な力で ある。その力を育成する探究的な学習では , 生徒 が主体的にさまざまな情報源を活用し , 複雑な課 題を自分のカで解決するという学習活動が必須と なる。また , その学習は個人で行うだけでなく , 社会構成主義的な学習観に基づいて , 集団の中で 行われることが重要である。他の学習者とコミュ ニケーションをとりながら相互作用的に学び合 い , それぞれの課題を解決していく過程で自らの 中に新しい知識を取り込むとともに再構成し組織 化する。このような学習を通して生徒は自立した 学習者となっていくのである。 探究的な学習は , すべての教科の応用科目とし て設定されるとともに , 自らのカで獲得した知識 やスキルの活用を組み立て , 集団の中でコミュニ ケーションしながら行われる主体的な学習活動で ある。また , 新学習指導要領の実施は , 学校図書 館の活動にも大きな変化をもたらす。学校図書館 が支援する学習の形態が変われば , その活動内容 も大きく変わらなければならない。学校図書館が 支援すべき活動内容について , 再構築が必要と なったのである。 4 問いをつくる 思考カ・判断力・表現力の育成を学校図書館が どのように行うのか。この答えは , 思考のプロセ スの可視化にある。知識を活用するためには , 批 判的に考え , 判断し , 評価するという思考のプロ セスを習得することが不可欠である。 しかし , 今まで調べ学習として実施されてきた
ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 図 1 探究学習の「スパイラル」 19 学習活動の多くは , 情報を検索し , 収集し , 整理 する部分のプロセスが大半で , 課題の把握と評価 については , 授業時間等が足りないというような 理由から省略されることが多かった。しかし , 調 べ学習として何度も繰り返される , 情報を検索・ 収集・整理するという情報探索の内容だけでは , 技術的には向上しても , 生徒の思考力は育成でき ない。また , 与えられた課題を解決するだけでは 思考力を育成することは難しい。何が課題でどの ように学習を進めるのかということを生徒自身が 理解し学習そのものを構成できなければ , その学 習に対する生徒のモチベーションは上がらず , 自 ら「考え試行錯誤する」ということはない。与え られた課題の中から自分のテーマを設定するこ と , つまり自分だけの「問いをつくる」ことが , 生徒の「考える力」を育む学習方法となることは あまり認識されていない。 「問いをつくる」ことは , 何度もそのプロセス を繰り返すことが要求される。その「問い」に対 する自らの「意見や主張」を何度も検証し論理的 に構成することが必要となる。この「意見や主 張」は自らの問いに対する「仮説」となり , その 「仮説」を証明する , あるいは否定する証拠を探 しながら試行錯誤するスパイラル的な学習活動で ある。生徒は自分の興味から出た問いを探究する ことで , 自分の興味や自分自身を客観的に見るこ とになる。自分の思考や行動を客観的に見るこ と , この試行錯誤こそが生徒のメタ認知能力を高 めるとともに , 生徒の「考える力」である論理的 な思考力を育成する。 筆者らがつくった『問いをつくるスパイラル』 4 ) の「問いをつくる」プロセスは , 従来の探索モデ ルのような直線的なステップで表すのではなく , 生徒が「問いをつくる」過程で得た知識やスキル を巻き込んで , 竜巻のように学びを上昇しながら 拡張する , らせん形のプロセス ( 図 1 ) をたど る。これは , 探究学習がスパイラル型の学習活動 であることを示している。 また , 「問いをつくる」プロセスも , 探究学習 の「スパイラル」と同様に「スパイラル」な学習 活動である。図 2 は , 「問いをつくる」スパイラ ルを上から見た場合の図であるが , このプロセス には , 探究学習のプロセスにおける , 課題設定の 場面から評価までのすべての場面が含まれてい る。すなわち「問いをつくる」スパイラルは , 探 究学習そのものである。 探究学習は , 常に自分の問いを見直しながら , 新しい知識と技術を取り入れ , そのスパイラルを 拡張し上昇させることになる。それと同時に「問 いをつくる」プロセスを繰り返すことで , 「考え る力」すなわち思考力を生徒自身が鍛え育む。生 徒が生涯自立した学習者になるための最適なト レーニングが , 「問いをつくる」ことなのである。 「問いをつくる」スパイラルには , 三つの重要 な「問い」がある。それは , 「〇〇とは何か」と いう What の問い , 「なぜ〇〇なのか」という 「どのように〇〇すればいいのか」 Why の問い , という How の問いである。この三つの「問い」 を意識して , 生徒の始まりの疑問を生徒自身の問 いの形に変えることができれば , そのスパイラル 型学習は半分成功したに等しい。 実際の生徒の例を挙げると , 最近中国製品をよ く目にして , 中国は儲かっているのかが気になっ ている生徒は , 「中国経済」というキーワードか ら「日本で売られている中国製品には何がある か」という疑問をあげた。この疑問から始まっ て , 「なぜ , これだけ多くの中国製品が売られて
情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス 7 参加人数は市町村図書館等職員研修が 20 数名 活発な活動が展開された。当時は大人が読ませた ( 募集定員は 30 名 ) , 館内研修も同程度だが , そ い本を高校の図書館に置くことが主流であり , 図 書館の利用はあったものの貸出は少なかった。賛 の他は概ね 10 数名程度である。他の講座と比較 否もあったが , 貸出の拡大は図書館の活性化につ して特に多くもないが少なくもない。 同じテーマをもとに複数の別の対象に実施する ながった。 ことは , 効率的な業務運営につながる。講座の内 しかし , 学校図書館の蔵書は 2 万冊弱程度が一 般的であり , 生徒は 3 年で卒業していく。卒業後 容や配布資料は対象によってアレンジするが , 工 も含めて , 身近な生活の中で必要とする情報を得 夫を重ねることで担当者のスキルアップにもつな ることができるようさらに何かできることはない がる講座を開催する場合 , 参加人数をあげるこ かと素朴に考えはじめたことが発端である。その とが課題となるが , 同じテーマを重ねることで参 後県立図書館に異動したが , サービスの根幹に変 加人数の累積が図れる。 わりはないように思う。 3 . 3 サービス展開のこれから どのような規模の図書館においても , 実践の必 「 2011 年度調査」では主に個人利用者を対象と 要性 , 可能性はあると考えている。 するサービスを調査項目として設定した。 しかし , 都道府県立図書館にとって個人利用者 《謝辞》 「 2011 年度調査」については日本図書館情報学 だけではなく市町村図書館の職員 , 学校司書や教 会研究助成を受けました。調査にご協力ください 職員 , 行政職員もサービス対象である。 ましたみなさまに厚く御礼申し上げます。 学校支援や行政支援に関連づけて実施される例 修士課程修了後もご指導くださいます田村俊作 もあり , 各自治体の図書館でも , 特定の集団を対 慶應義塾大学教授に改めて感謝申し上げます。 象とするサービスを視野にいれる必要がある。 まとまった調査はないが , 政令指定都市以外の く注 > 市町村図書館の地域住民に対する身近なサービス 1 ) 文部科学省 ; これからの図書館の在り方検討協力者会議 . 事例もあるはずである。 これからの図書館像 : 地域を支える情報拠点をめざして ( 報 対象別のサービスとしては , 特に子どもを重視 告 ). p. 10 する必要がある。子どもを対象に作成された調べ 2 ) 野末俊比古 . 情報リテラシー教育 : 図書館・図書館情報学 方案内・パスファインダーの事例がある 19 ) 。 を取り巻く研究動向 . カレントアウェアネス . N 。 .302 , 2009 年 12 月 20 日 . ( オンライン ) , 入手先 非来館者へのサービスも含めたホームページの <http:〃current.ndl.go.j p/print/book/export/htm レ 15547 〉 , 活用などサービス展開をさらに拡大させる可能性 ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). はあり , 事例の集積と整理が今後の課題である。 3 ) 高田淳子 . 公共図書館における情報リテラシー教育の枠 組みー現況調査を基に . 2012 年度日本図書館情報学会春 季研究集会発表要綱 . 日本図書館情報学会 , 2012 年 5 月 12 4 おわりに 日 , P27 ー 30 4 ) Association of CoIIege & Research Libraries. 現場の司書である筆者が , 情報リテラシー教育 Presidential Committee on lnformation Literacy: Final Report". ( オンライン ) , 入手先 を関心分野として調査していることを不思議に思 く http://www.ala.org/acr レ publications/whitepapers/ われる方もあるかもしれない。情報リテラシー教 presidential 〉 , ( 参照 2013 ー 2 ー 25 ). 育との関わりについて最後に付記しておく。図書 5 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会編 . 図書館利用教育 館利用教育から情報リテラシー教育にいたるサー ガイドライン合冊版図書館における情報リテラシー教育支 援サービスのために . 日本図書館協会 , 2001 , p. 81 ビスの流れと重なるからである。 6 ) 注 5 ) p. 11 ー 17 筆者が県立高校の学校司書であった 1990 年代 , 7 ) 注 5 ) p. 49 ー 64 県立高校の図書館では生徒が読みたい本を提供し 8 ) 大串夏身 . " 第 1 章課題解決型サービスを提供する意義 ". 図書館の最前線 3 : 課題解決型サービスの創造と展開 . 青弓 ようという試みがあり 20 ) , 利用を増やすための 0 1 三
イン図書館の中に置かれているものの , 五つの組 織は機能的にそれぞれが独立しており , 例えば 「学習戦略開発」部門は「速読法」「時間管理法」 「プレゼンテーション技能改善」「ノート記録術」 「図書館とライティングセンターを使った調査・ ェッセイ執筆」などの多様な学習支援ワーク ショップを開催しており , 「ライティングセン ター」はレポート・論文執筆に関する個別コンサ ルティング面談 ( 予約制・ 1 人 1 年で 9 回まで ) をおこなっており , 「学習法」と「執筆・発信」 それぞれを分けて支援している。 クイーンズ大学図書館の「リサーチ・ヘルプ」 カウンターには「 Ask Here! 」と書かれた立て札 が置かれ , 48 時間の訓練を受けた大学院生の Teaching Assistant (TA) が対応するため , 所 蔵調査に始まり用途に応じたデータベース選択・ 活用というレベルまでの質問であれば大部分がこ こで対応でき , 専門分野に踏み込んだ質問のみ担 当のⅱ brarian に引き継ぐため , 少ない専任職員 でも高い利用者支援サービスが達成できている。 大学院生レベルになると専門ⅱ brarian の存在 意義が大きくなってくるが , 多くの librarian が 氏名と担当分野と連絡先 (E-maiI アドレスを含 む ) を Web 上に公開している。日本の感覚で見 ると , 公開によって膨大な質問・相談メールに忙 殺されることが懸念されるが , クイーンズ大学で は基礎的な図書館利用 , 学習スキルを身につける 各種ワークショップに加えて相当なレベルまでは 先述の訓練を受けた TA が対応しているため , librarian に寄せられるメールは高度な内容に限 られ , 1 日に数件程度だという。これにより , 専 門に特化した講習の企画実施などに注力できてい る。 サービスの高度化は , 担当者の自主的な努力だ けでは継続性・発達性の維持は難しいため , 適切 な評価システムが必要となる。視点をアメリカに 戻すと , 大学図書館協会 (ACRL) が 2004 年に 旧基準を更新して設けた「高等教育機関における 図書館基準」 9 ) には , 「学習成果への図書館の貢 献」の項目が加わり , 図書館はアンケートやイン タビュー調査によって「図書館利用により , 学生 がいかに成長したか」を測り , 大学教育への貢献 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 13 度を可視化することが必要となった 10 ) 。このよ うに測定した利用者の成長度は , 日本においても 支援の必要性を裏付ける上で重要な指標となるだ ろつ。 5 課題と解決策 5 . 1 大学教育の中での 各種リテラシーの位置づけ アメリカにおいて 1980 年代から現在まで発展 してきた情報リテラシー教育は , 「図書館の利用 教育を発展させたもの」ではなく , 「高度情報化 社会で大学が学生に育成すべき目標として大学の カリキュラムの中に統合して初めて育成可能なも の」と捉えられ , 教育改革運動として進められて きたこのことは , 日本においても図書館お よびその職員のみの視点でなく , 大学全体のカリ キュラムと育成目標を俯瞰的にとらえ , 教員を始 めとする大学の構成員のうち誰がいっ何を教える かを明確にして検討すべき課題であることを示唆 している。 例えば IT スキルについては大学内に高度な専 門性を持っ教職員がいる場合が多く , またメディ ア・リテラシーについては社会学・社会情報学の 知見が必要となるため , その分野の教員あるいは 外部講師が担当すべきと考える大学が多いだろ う。また情報倫理も重要である。検索エンジンで 見つけた出典不明の情報を安易に切り貼り ( コ ピー & ペースト ) してレポートを書いてしまう 「コピペ問題」については , アメリカやカナダの librarian たちとの間でもしばしば話題となるが , 「少しでも早い時期に学び , 無価値な情報に踊ら される時間を省いて , より本質的な学習・研究に 費やして欲しい」と考えるのは , 世界中の大学関 係者にとって共通の願いである。日本においても 近年 , 高等学校から大学に入り能動的な学習形態 への移行を支援するため , 1 年生を対象とした初 年次教育への関心が高まっている。その一環とし て , 図書館による各種の講習の中で「著作権の概 要」や「引用表記の方法」に触れている例も多い が , この点は大学教育の根幹に関わる問題なの
現代の図書館 Libraries Today ISSN 0016 ー 6332 VOL51 no. 1 201 3 0 マルチリテラシー時代の図書館 0 日本図書館協会現代の図書館編集委員会 情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス ー実践のヒントを中心に・髙田淳子 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割 ・梅澤責典 ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? ・天野由貴 メディア・情報リテラシーに関するモスクワ宣 ・訳 : 須永和之 , 直江千寿子 投稿「レフア協」研修モードを活用した研修活動の実践 ・小田光宏 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン ・国際図書館連盟 (IFLA) 教育研修分科会 , 訳 : 日本図書館協会国際交流事業委員会 図書館における指定管理者制度の導入の検討結果について 2012 年調査報告・日本図書館協会図書館政策企画委員会 徳市立、、館一般 1 も 0813660
現代の図書館Ⅷ . 51 NO. 1 ・編集委員会 委員長 / 須永和之 ( 國學院大学文学部 ) 委員 / 石澤文 ( 国立国会図書館 ) 小野理奈 ( 東京工業大学附属図書館 ) 塩崎亮 ( 国立情報学研究所 ) 直江千寿子 ( 横浜国立大学 ) 依田一 ( 横浜市立大学学術情報センター ) 米澤久美子 ( 東京都立大田桜台高等学校図書館 ) 特集 . マルチリテラシー時代の図書館 情報リテラシー育成を支援する公共図書館のサービス ー実践のヒントを中心に・高田淳子一一 3 マルチリテラシー時代における大学図書館と職員の役割・梅澤貴典ーーー 9 ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? ・天野由貴ーー - ノ 7 メディア・情報リテラシーに関するモスクワ宣言 ・訳 : 須永和之 , 直江千寿子一一一 24 投稿 「レフア協」研修モードを活用した研修活動の実践・小田光宏ーー - 27 図書館情報学専門職教育プログラムのためのガイドライン ・国際図書館連盟 (IFLA) 教育研修分科会 , 訳 : 日本図書館協会国際交流 事業委員会一一 35 図書館における指定管理者制度の導入の検討結果について 2012 年調査報告 ・日本図書館協会図書館政策企画委員会一一 47
ML (MuIti Literacy) に替わる次の ML とは何か ? 7 おわりに 2013 年 1 月 13 日 , 東京大学で行われた「子ど もの読書活動を考える国際シンポジウムー子ども たちの本読み事情 : アジア各国の今とこれから」 において , 基調講演を行った CaroI CoIIier Kuhlthau 博士は , 「探究的な学びをもたらす子ど もたちの読書」シンポジウム終了後のディスカッ ションの中ではっきりとこう言った。 "NOt seeking information, But seeking meaning ! ! " もしかすると私たちは自分に必要な情報を探し ているのではなく , 自分の意図することを他の人 が表現したものから探し出そうとしているのでは ないだろうか。 そう考えると , MuIti Literacy はこれから , Meaning Literacy となり , 自分が知りたい意図 を他人のテキストから読み解くことができるリテ ラシーを意味するのではないか。学校図書館で身 につけるカ , そのすべてが「 meaning 」でつな がっている。 く注 > 1 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会「情報リテラシー教 育の実践すべての図書館で利用教育を』 ( JLA 図書館実践 シリーズ ) , 日本図書館協会 , 2010 , 180P. 第 5 章 , 天野由貴「生きるための情報活用能力を育成する 「図書館戦争」から身近な問いと知識をつなぐ」 p. 61 ー 70 2 ) 森田英嗣「 ICT が変化させた社会と教育」「教育と文化」 68 巻 6 号 , 2012 , p. 6 ー 19 3 ) 文部科学省「 OECD における「キー・コンピテンシー」に ついて」 http://www.mext.go.jp/b—menu/shingi/chukyo/ chukY03/()()4/siryo/05111603 / 開 4. htm ( accesse d 20132.15 ) 4 ) 日本図書館協会図書館利用教育委員会図書館利用教育ハン ドブック学校図書館 ( 高等学校 ) 版作業部会「問いをつくる スパイラルー考えることから探究学習をはじめよう ! 」日本 図書館協会 , 2011 , 123P. 5 ) 文部科学省「 OECD 生徒の学習到達度調査一 289 年調査 国際結果の要約」 http://www.mext.go.jp.com/onent/a—menu/education/ detai レーiCSFi1eS/afiddfi1e/2010/12/07/1284443ー01. pdf (accessed 20132.15 ) ( 2013.2.15 受理 ) 23