コミュニティ - みる会図書館


検索対象: 現代の図書館 2013年 06月号
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1. 現代の図書館 2013年 06月号

「場所としての図書館」再考 59 図 7 武蔵野美術大学図書館の書架壁 て , 図書館だけでなく書店およびメディアレンタ り上げ , 多数の論文を掲載している 25 ) 。これら ル業を合わせた三つの機能を実現する場所として は場所としての図書館の議論をさらに拡張するも 始まったことが日本の図書館の新しい可能性を示 のであるので , いずれ取り上げて論じてみたい。 したと受け取ることもできる。図書館関係者のな かには挑戦と受け取る人もいるだろうし , 筆者も く注 > この図書館の運営体制でユミュニディの歴史性や 1 ) GuiIIaume de Laubier (photographer), T ん財 0 召に〃曜〃 文化性をどこまで追求できるのかに疑問がないで わ・わ耀にの月 Thames & Hudson Ltd. , 2003. Candida Hofer, わ・わ耀 , Thames & Hudson Ltd. , 2005. はない。しかしながら , 日本における「場所とし 2 ) Web 上には同様の主旨で図書館を紹介するべージが存在 ての図書館」として現れるべくして現れた図書館 している。 "BeautifuI-Libraries.com/ http://www.beautiful-libraries. であることは間違いない。 com/in dex. html こうして見てくると , 日本で「場所としての図 "The 25 Most Beautiful College Libraries ⅲ the WorId" 書館」が生み出されるのは , 必ずしもデジタル図 http://flavorwire.com/280318/the-25-most-beautifuI-public- 書館に対するアンチテーゼというわけではないこ libraries-in-the-world "The 25 Most Beautiful Public Libraries in the World" とがわかる。、図書館という制度がようやぐ人ダの http://flavorwire.com/240819/the-25-most-beautifuI-college- 意識のなかで一定の位置づけをもつようになった libraries-in-the-world ということが大きい。 1970 年代からバブルを経 、・ The Most Beautiful Libraries in the World" て図書館の機能が共有されるようになり , 情報を http ・ //www.mymodernmet.com/profiles/blogs/christoph- steelbach-bibliotheken フローのものとしてとらえるだけでなく , ストッ 3 ) 同書表紙よりのコピー クとしてとらえる見方が現れてくるようになっ 4 ) 根本彰「場所としての図書館」に関する議論カレントア た。つまり図書館は単なる資料提供の機関ではな ウェアネス No. 268 , 285 , p.2 ト 25. (http://current.ndl.go.jp/ Ca1580 ) 同じものは , 根本彰「理想の図書館とは何か : 知の く , コミュニティのなかで過去と現在 , そして末 公共性をめぐって」ミネルヴァ書房 , 2011. に収録。 来をつなぐ場所に変貌しようとしているのであ 5 ) 久野和子「「第三の場」としての学校図書館」図書館界 る。こでコミュニティとは , とりあえずは公共 vol. 63 , no. 4 , 2011 , p. 296 ー 313. 図書館にとっては地域コミュニティであり , 大学 6 ) John E. Buschman and GIoria J. Leckie(eds. ) The Library as Place : History, Community, and Culture, Libraries 図書館にとっては当該大学コミュニティである UnIimited, 2007. 川崎良孝ほか訳「場としての図書館 : 歴史 , が , 同時に , そこから拡がる知識コミュニティあ コミュニティ , 文化』京都大学図書館情報学研究会 , 日本図 るいは人間コミュニティ全般を指すものである。 書館協会 ( 発売 ) , 2 開 8. 7 ) Ray O lde n b u rg , The Great Good Place: Cafés, Coffee アメリカの図書館専門誌わ耀 T 〃赤は最 Shops, Bookstores, Bars, Hair Salons, and Other Hangouts 近 , 図書館建築および空間を特集テーマとして取

2. 現代の図書館 2013年 06月号

・モノ・コトをつなぐ「まちじゅう図書館」 ヒト 111 次いでいる。沖縄から北海道まで「まちじゅう図 △バスポートに押された各館のスタンプ 書館のつくり方」に関する問い合わせをいただい ある。三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングは , ている。 何も難しいことはないのだ。「本がある」とい 三菱 UFJ フィナンシャル・グループの総合シン う場を作り , それを知っていただくことでコミュ クタンクである。 ニケーションとしての場ができてくる。 渋谷はしご図書館には , 23 店舗が参加してい 同じように展開しているところがある。東京・ る。多くはカフェだが , 他にもお米屋さん , コ 渋谷や原宿にて期間限定で行われた「渋谷はしこ ミュニテイラジオ局 , コワーキングスペースなど 図書館」である。 がある。 主催者のコメントによると , 「まち全体をネッ 提供された約 30cm 四方の箱を軒先に置き , そ トワーク化された『生きた図書館』とする社会実 の中に自分の本を並べるというものだ。まさにま 験プロジェクトです。 3 月 9 日 ( 土 ) ~ 24 日 ちじゅう図書館である。この企画でもキャラク ( 日 ) のプロジェクト期間中は , 渋谷にあるカ ター「はしごん」を使って展開している。はしご フェやショップなどに , 店舗オーナーにとっての んは , 公式ホームページによると , とっても好奇 渋谷に関わる本や , 趣味・趣向などにちなんだ本 心旺盛で , まちにあるいろんなお店をはしごする が並ぶ小さな本棚を置き , それらを「はしご」し のが大好きなキャラクター。本をたっくさん読ん て楽しむことができるネットワーク型の図書館を でいて , とっても物知りということ。まちじゅう 展開します。」 ( 公式サイトより ) 図書館もそうだが , キャラクター設定により , ど 企画したのは , 株式会社ックルバ ( 以下ックル うして欲しいのかという参加と行動を促してい バ ) と三菱 UFJ リサーチ & コンサルティングの る。 若手社員。ックルバは , 空き店舗やオフィスをリ 私も数軒をはしごしてみた。 「カフェから広がるまちづくり」をコンセプト ノベーションしてコワーキングスペースにした り , コミュニティスペースを作ったりとコミュニ としている TOWN DESIGN CAFE JINGUMAE0 ティ空間を演出している若手のべンチャー企業で さまざまなコミュニティ活動をサポートする複合

3. 現代の図書館 2013年 06月号

プの設計 , 信頼形成メカニズムの設計 , 参加者の 内部変化のマネジメントが挙げられる。 地域の居場所という具体的な空間をプラット フォームという視点から設計するメリットは多 ーっは , 来場者の相互作用を価値創出の本質 として捉えることが可能になるという点である。 来場者をサービスの利用者としてではなく , 場づ くりの主体として位置づけることで , 主体的に行 動し , 適切な距離感で他の来場者と信頼関係を築 いていくためのルール設計やコミュニケーショ ン・パターンに配慮することができるだろう。 二つ目のメリットとして , 高齢者や障害者 , 子 育て支援やまちづくりなど多様なテーマを持っ地 域の居場所を , 表面的な形態の違いではなく , 本 質的な人と人とのつながりという水準で検討でき るようになる。さらに , 来場者を時間とともに成 長する主体として捉え , 他者との関係だけではな く , 来場者の内部の変化にも配慮した設計が可能 となる。地域の居場所は , 一般の商業施設や公共 施設には見られない独特の約東事や組織形態を持 つ事例が多く , また運営者の人柄や思想に左右さ れる比重も大きいことから , これまではどのよう に設計するかが問題になることはあまりなかった が , 協働プラットフォームという , 利用者との相 互作用を含めたプロセスを重視する場所性の生成 手法を用いることで , より多くの人が設計プロセ スを共有できるようになるはすだ。 こうした場所性の生成は , 情報通信技 さらに 術の発展によりデジタル化 , ネットワーク化が進 む図書館サービズのあり方にも , 少なくない知見 をも - たーら一してぐれるのではないだろうか。スマー トフ - ォーンや SNS が対面的な人 - 間関係にとって替 わるのではなく一 , ー逆に情報サーピスが手軽に - 利用 できる状況になればなるほー - ど←ーー素 . 朴なユ - ミーユニ ケーションツールである「地域の居場所」への ーズが高まるのと同じよ・うーーにに場所をしての図 - 書館への期待は今後ますます高まると思われる。 従来の図書館サービズが機能設計に特化してきた のであれば , これからの図書館は場所性をどのよ うに生成していくのが問われるだろう。 大きな経済成長や人口増加の望めない定常化社 会に向けて , 今あらためて , 私たちは , 本来の生 関係性のはぐくむ場所 105 活とは何か , 地域とは何か , 幸せとは何かを考え ざるを得ない局面に置かれている。一人ひとりが 他者とともによりよく生きられる居場所としての 地域を , あらためて創出していくことが不可欠で あろう。そのひとつの試みが , 「地域の居場所」 といえるのではないだろうか く参考文献 > ・青木淳「原つばと遊園地ー建築にとってその場の質とは何 か」王国社 , 284 年 ・延藤安弘・小杉学・名畑恵「世田谷まちづくりにおけるキー パーソンのスキルとセンスの考察 : ナラテイプ・プランナー / パーソンの技術・哲学に関する研究」「日本建築学会 学術講演梗概集」 F-I, 1087 ー 10 頁 , 2 開 8 年 ・大分大学福祉科学研究センター「コミュニティカフェの実態 に関する調査結果」 2011 年 ・慶應義塾大学教養研究センター「 3 人寄れば , 地域が動く ? 「芝の家」プロジェクト記録 : 2011 年度」 2012 年 ・慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所「芝地区の新た なコミュニティ創造事業に関する調査研究研究報告書 : 昭 和の地域力再発見事業の評価』 2012 年 ・国領二郎・慶應義塾大学 SFC 研究所「創発経営のプラット フォーム協働の情報基盤づくり」日本経済新聞社 , 2011 年 ・坂倉杏介・保井俊之・白坂成功・前野隆司「「共同行為にお ける自己実現の段階モデル』による「地域の居場所」の来場 者の行動分析東京都港区「芝の家」を事例に」「地域活性 研究』 V 。 1.4 , 2013 年 , 23 ー 30 頁 ・田中重好「地域から生まれる公共性一公共性と共同性の交 点」ミネルヴァ書房 , 2010 年 ・ Maslow, A, H. , Mo 廂 0 〃イげ so 〃〃な , Harpercollins College Div, 1954. ・広井良典「コミュニティを問い直す一つながり・都市・日本 社会の未来』筑摩書房 , 289 年 ・エドワード・レルフ「場所の現象学一没場所性を越えて」高 野岳彦 , 石山美也子 , 阿部隆訳 , 筑摩書房 , 1999 年 ( 2013.6.10 受理 )

4. 現代の図書館 2013年 06月号

101 図 1 共同行為における自己実現の段階モデル 来場者の行動変化根源的共同性場の共同性自覚的共同性 関係性のはぐくむ場所 目的的共同性 段階的発展 共同性の 生存・安心・ 愛 / 所属感・ 承認・ 自己実現 . : 利用者としてくつろぐ ・居場所として訪れる 自己実現の 段階的発展 に生じ , さまざまな施設や組織と柔軟に連携した 公益的な活動となっている点である。活動を通じ てさらにつながりが広がり , 地域コミュニティの なかにきめ細やかな信頼関係が形成されるという 動的な動きにつながっている。 つながりと活動の創出メカニズム こうして , 「芝の家」からは , 多様なつながり と活動が生まれているのであるが , 特定のプログ ラムがあるわけでもなく , 活動支援に力を入れて いるわけでもないにもかかわらず , こうした動き が活発に起こるのはなぜだろうか。これを分析す るために我々が考案したモデルが , 「共同行為に おける自己実現の段階モデル」 ( 図 1 ) である ( 坂倉ら , 2013 ) 。 このモデルは , 来場者の行動を , 「利用者とし てくつろぐ」状態から , 次第に「居場所として訪 れる」 , 「スタッフの役割を担う」 , 「地域活動をは じめる」といった形で段階的に発展する過程とし て捉え , それを促進する要因を , 他の来場者との 信頼関係の構築による共同性の深まりと , 他者と の関係を通じた自己実現意欲の高まりの二つの要 素から説明しようとする枠組みである。 「芝の家」で活発に活動している来場者は , 特 定の行動的な来場者のみではなく , その担い手は 学生からシニア層までまちまちである。また , 初 : スタッフの役割を担う ・地域活動をはじめる かった。 の三つの段階の進展が鍵となっていることがわ に来場者が主体的に活動に取り組むためには , 次 化の過程をまとめたのが , 図 2 である。最終的 「芝の家」で活動する人に共通してみられる変 意識や行動を変化させていく来場者 る。 なコミュニティにも応用可能な知見だと考えられ が高まるにつれて自発的な活動が活発になるよう はなく , 講座やサークルなど , 参加者の帰属意識 かってきた。おそらく , 他の地域の居場所だけで ころ , 意識や行動の変化の細かなありようがわ このモデルに基づいたインタビューを行ったと うに観察される。 的な要因が絡み合った結果としての変化であるよ の気づきなどを通じた内的動機づけといった複合 他者との出会いや信頼関係の構築 , 自分らしさへ ーの目的であるというよりは , さまざまな形での は地域課題の解決や個人的関心の充足といった単 対価や尊敬の獲得といった外的動機づけ , あるい こうした行動を促す要因は , に見える。さらに から運営の手伝いや独自の活動を始めているよう く , 徐々に「芝の家」に馴染んでいき , ある時期 めての訪問時から直ちに活動を始めることはな

5. 現代の図書館 2013年 06月号

112 現代の図書館 Vol. 51 N02 ( 2013 ) カフェで , 地域情報の受発信 , 地域の方々による ワークショップ , まちづくりセミナー , 企業イベ ントなどさまざまな活動を行っている。 ここに設置されたはしご図書館の箱には , ワー クショップに関する本やまちの情報などの本が並 んでいた。 音楽やアートにこだわった FMdiningcafebar では , やはり公共の図書館ではあまり見かけない ここならではの図書館という感じに仕 本が並び , 立てられていた。小池精米店には , ぎっしりとお 米やそれにまつわる本が並べられていた。本箱の そばにはたくさんのお米袋が並べられ , 参加して いる方が楽しんでいることが感じられた。 やはりここでもコミュニケーションを意識した 展開となっていた。また渋谷 , 原宿という込み 入った街の中でお店を探しながら歩くということ も大変楽しかった。 北海道恵庭市では , 「恵庭市人とまちを育む読 書条例」制定記念事業として , 市立図書館が中心 となり , まちじゅう図書館を展開しようとしてい る。 まずは , 「本のまちづくりってどんなこと ? 」 と題して , 私やまち塾@ まちライプラリー ( 持ち 寄った本でつくるライプラリー , 大阪や東京で展 開されている ) の提唱者の礒井純充さんを招いて のトークショーや , 「 10 年後の読書のまち未来予 想図を自由に語り合おう」と題したワールドカ フェを市民のみなさんと展開し , まちじゅう図書 館の面白さなどを語り合っている。 これからも多くのコミュニティが , まちじゅう 図書館やそれに類似した活動を展開するのではな いかと予想される。大変ありがたい。この活動が 盛んになると , いすれまちじゅう図書館を通した ブックツーリズムができてくるだろうとも考えら れる。そのときが , 小さな輪としていたコミュニ ティがお互い繋がれるチャンスかもしれない。 これからの活動 私が所属する NPO 法人オプセリズムでも , ま ちじゅう図書館をさらに発展させていきたいと考 えている。その一つが「東北・まちじゅう図書館 プロジェクト」である。 2 年前の震災時 , 図書館関係者はもちろん , 多 くの方々が被災地に本を送った。まちとしょテラ ソでもボランティアのみなさんと一緒に本を送っ た。 しかし , あの本はどこへいったのだろうか。 部は仮設住宅のコミュニティスペースにあるだろ う。または , 仮設の図書館に運ばれているだろ つ。 多くの本は , まだまだ必要とされる道具だと考 える。もっとたくさん本と触れ合い , 人と接する 場所を増やしたいと考えている。 本を送るのではなく , 「図書館を届ける」とい う活動が必要なのではないかと考えている。 被災地では , 仮店舗での営業が開始され , 仮設 の商店街が開設されている。週末などはイベント の開催などで , 集客があるように見える。また , 観光客などで盛り上がっているように感じられる が , 平日に訪れてみると , 人はまばらである。 私たちは , そこにいる方々と話をし , いつもそ こに , 人がいるという状態を作りたいと考えた。 そこには会話がある。そんな空間と時間をつな いでいきたい ! そう考えたとき , そこには「ま ちじゅう図書館」が必要なのではないかと , 本と いう道具で人と人がふれあえる場を創りだす必要 があるのではないかと考える。 東北で年内の展開を目指して , まちじゅう図書 館の活動を始めている。 もちろん , 東北だけではなく , 日本中でまち じゅう図書館を展開させたい方々への協力は惜し まない。たくさんの本を通してのワクワクする場 づくりのお手伝いをさせていただきたい。そう 願っている。 ( 2013.6.7 受理 )

6. 現代の図書館 2013年 06月号

関係性のはぐくむ場所 99 現したような , 人と空間との固有の親密な関係性 どのようなものであ 生み出すつながりの形とは , の希薄化を招いた。これは単にくつろげる場の減 ろうか。 少を意味するだけではなく , 他者とともに場をつ くることによって保たれていた地域の紐帯が弱体 機能性と場所性 化したということでもある。 こうした人々の関係性を含めた場所性を取り戻 場 , 場所 , 居場所といった言葉は , いずれも空 したいという欲求こそ , 多くの人が地域の居場所 間的な概念ではあるが , 建築や施設だけを想起す に寄せる期待の本質ではないだろうか。このよう る言葉ではない。建築や施設が必す , 何らかの機 に考えると , 地域の居場所をコミュニティ形成と 能を担う空間であるのに対して , 居場所という言 いう機能に従属する手段だけに矮小化して捉える 葉にはそれよりも広くゆるやかなイメージがあ ことはできない。場所性が生じるのは , 人々のあ る。よそよそしさではなく親密さやあたたかさ いだに信頼関係や帰属意識が生じる過程そのもの を , 画一的なサービスよりも柔軟で自由な過ごし であり , その過程こそが地域の居場所の本質と考 方をイメージさせる言葉である。 建築家の青木淳は , 原つばと遊園地という対比 えられるからである。 筆者は , 地域の居場所から市民のつながりや活 を用いて , 利用者がどのように楽しむのかがあら 動が生じるメカニズムや , 地域の居場所に特有の かじめ規定されている遊園地と , 偶然性や利用者 成立過程をテーマに研究を行っている。 の能動性によって生まれる原つばの違いについて は , 筆者が 2008 年より手がけてきた「芝の家」 論じ , 後者だけが実現できる自由な空間があると を , 地域の居場所の一つの事例として紹介しなが いう ( 青木 , 2004 ) 。また , 都市計画家の延藤安弘 ら , 一般的な施設とは異なる特徴を紹介していき は , 住民参加のまちづくりにおいてはさまざまな 主体によって物語が生まれていく過程が重要だと 指摘する ( 延藤 , 2008 ) 。 芝の家の概要 こうした空間観はいずれも , 日常生活を機能に よって分解し , 個別要素の再構成によって最適な 東京都港区芝 3 丁目にある地域の居場所「芝の 環境を設計するという「住む機械」としての建築 家」は , 港区芝地区総合支所と慶應義塾大学の協 空間のアンチテーゼといってよいだろう。そこで 働によって実施されるコミュニティ形成事業「芝 問題となるのは , 空間の形や運営手法ではなく , の地域力再発見事業」の拠点である。開設は 場を成り立たせる基本原理の違いである。 2008 年 10 月で , 現在は月曜日 ~ 土曜日までの週 居場所は , 空間が提供する機能だけではなく , 6 日間開室し , 子どもから高齢者まで誰もが気軽 また人がその空間に持っ想いだけでもなく , 空間 に立ち寄り , 自由に過ごせる居場所として地域に ーーと人とが相互に関わりあうことによって成り立 つ訂人のぬくもりを感じられる親密さ , 参加者が 定着している。 「芝の家」の大きな特徴は , 港区の委託事業で 主体的に関わることのできる柔軟さといった地域 あるにもかかわらす , 特定のサービスを提供する , -- ーの居場所の魅力は , 施設プログラムにあらかじめ 施設とは異なり , ますは来場者が居心地よく過こ ー書き込まれているのではなく , その場に集う人々 せるような場づくりを心がけ , そこから生まれる ・ , - の行動や気持ちを含めた全体によって生み出され 関係性からさまざまな活動をひきだしていこうと るものである。すなわち , 機能性の設計と場所性 いう姿勢にある。 の生成は , 本来異なる次元のプロセスであるとい 実際に , 運営は学生や近隣住民ら一般の市民に えるのだ。 よって担われており , 日々の運営を通じて , 地域 ところが , 近代的な都市が前者だけを設計原理 内外の人のつながりを広げている。こうしたつな として追求してきた結果 , 地理学者のエドワー がりの増加に応じて , 来場者が主催する数々のイ ド・レルフがプレイスレスネス ( 没場所性 ) と表

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104 現代の図書館 Vol. 51 N02 ( 2013 ) 図 4 協働プラットフォームの設計要件 参加者の内部変化のマネジメント 計 の 割 役 加主 加主 グループ 、グループ 加主 コミュニケーション・パターンの設計 インセンティブ設計 信頼形成メカニズムの設計 プラットフォーム構築の担い手 形成と自発的な活動が継続し , 発展するための培 新たな場づくりに向けて 養器のような働きを , 地域コミュニティに果たし ていると考えられる。また , 自発的な活動を創出 協働プラットフォーム設計 する地域の居場所は , 地域活動に関心のある目的 というアプローチ 意識の高い人だけではなく , 幅広い人が地域のさ 地域の居場所の本質を生み出すのは , 機能の設 まざまな活動へ参入する機会を提供できる仕組み 計ではなく , 人々の自発的な関わりによって生じ もある。 る場所性である。しかし , では , 私たちはこうし 生き甲斐を感じながら自己実現に向かうこと , た場が偶然生まれるのを待つほかないのだろう 他者とのつながりのなかで自分を確かめ新たな行 動を起こしていくこと , 地域で活動することでさ 地域の居場所をつくる本質的な要因は , 来場者 らに生き甲斐を実感し , つながりを増加させてい の偶発的な出会いや成長であるがゆえに , それら くこと。こうした循環を通じて地域が活性化して を自在にコントロールすることは難しい。しか いくような暮らし方は , きわめて人間らしい生き し , そうした関係性ができるだけ生まれやすい環 方だといってよいだろう。そのためには , 他者と 境を整えるための設計は可能なはずだ。筆者は , の関わりあいをゆるす開かれた場が物理的に存在 「協働プラットフォーム」という概念で , 地域の することが非常に重要である。こうした場と人の 居場所が成立するための設計要件を研究している 関わりを , 地域社会のなかにどうビルトインして が , 最後にその展望に触れてまとめとしたい。 いくことができるか。これが , 現代的な居場所づ 協働プラットフォームとは , まず人が集まり , くりの課題とだといってよいだろう。 そこで互いに関わり合うことで , 想像もしていな かったような新たな価値が立ち上がる仕組みであ こうしたプラットフォームを る ( 国領ら , 201D 。 設計するための変数としては , コ、 ミュニケーショ ン・パターンの設計 , 役割の設計 , インセンティ

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「場所としての図書館」再考 51 ◆特集◆場所としての図書館 「場所とぼの図書館」再考 根本彰 しはじめに 筆者の手元に大判の図書館写真集が 2 冊ある 1 ) 。 そのなかの『世界でもっとも美しい図書館』 ( The 財 0 4 〃ん耀 s ル催 / のを 見てみよう ( 写真 1 参照 ) 。アメリカ議会図書館 館長ビリントンの序文のあとに , オーストリア国 立図書館から始まってロシア国立図書館まで 23 館の写真が掲載される。これらを設置者別にみる と , 国が 6 , 教会・修道院 5 , 大学 3 , それ以外 の個人・財団 9 となっている ( 表 1 参照 ) 。 ここには私たち日本の図書館関係者が知ってい る図書館とは別に拡がった世界がある 2 ) 。アメリ 力やロシアのような新興国のものを別とすれば , 写真 1 写真集「世界でもっとも美しい図書館』の表紙 基本的に近代以前につくられた図書館の美しさ , れて発展したところといえる。表 1 で図書館名 豪華さが表現されている。それらの図書館の設置 者は前近代的世界の政治的・宗教的権力者であっ の右にアスタリスクが付けられているところはそ うした図書館である。 たり , 王侯貴族であったりした。たとえばオース 逆にいえば , 23 館の図書館のうちそれ以外の トリア国立図書館は設置者が国となっているが , 半数は , 過去の豪華な建築 , そこに納められてい 実際にはハプスプルク家の宮廷図書館だったとこ る貴重な資料群 , そして何よりもそれが使われて ろであり , 20 世紀になって国立図書館に組み込 いたときの雰囲気をそのまま残しているものであ まれて一般に公開されるようになっている。 る。これらは , 一種の文化遺産であり , 多くの場 先ほどの本の表紙にはこの図書館の内部を写し 合観光の対象にもなっている。 た写真が使われている 3 ) 。ロシアやチェコの国立 日本の図書館の発展は基本的に明治以降であ 図書館もそういうところである。これらは前近代 り , その際に欧米を参考にしたとはいっても第二 図書館の存在に新しい図書館の機能が付け加えら 次大戦前の発展は政治的 , 軍事的 , 産業的な国家 づくりが最優先であって , 文化や学術に対して積 ねもとあきら : 東京大学 極的に進めていく考え方は限定的にしか存在しな キーワード : 場所としての図書館 , 図書館建築 , コミュニティ

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98 現代の図書館 V 矼 51 N02 ( 2013 ) ◆特集◆場所としての図書館 関係性のはぐくむ場所 ・地域の居場所から生まれる「つながり」と「活動」をめぐって 坂倉杏介 地域に求められるく居場所〉 子どもから高齢者まで , 地域の多様な人々が気 軽に立ち寄り自由に交流できる「地域の居場所」 に注目が集まっている。地域の居場所といっても 決まった形があるわけではなく , 名称も「地域の 茶の間」 , 「まちの縁側」 , 「コミュニティカフェ」 などさまざまだ。飲食店の形態をとる場合もあれ ば , ディサービスや子育てサロンが居場所になっ ているケースもある。共通するのは , 特定のサー 写真 1 ある地域の居場所の風景 ( 「うちの実家」 2011 年頃 ) ビス提供が主目的ではなく , 誰でもいっ来てもよ いし , いつ帰ってもよい , そして過ごしたいよう から急増している地域の居場所の特徴は , 運営主 に過ごせるというゆるやかさと , 人と人とのあた 体と対象者の多様化であるといってよい。すなわ たかい交流に主眼が置かれている点である。こう ち , 以前は地域福祉やまちづくりといった特定の した地域の居場所では , その規模の小ささにもか 分野の取り組みだった居場所づくりに いまや多 かわらず多種多様な活動が行われ , 地域のさまざ くの人が関心を持ち , 主体的に参加するように まな縁が紡ぎ出されている。 なったのである。 1980 年代ごろから見られた子どもや青少年の こうした動きの背景には , 一般的にコミュニ 居場所 , 社会福祉協議会の主導による高齢者のサ ティの衰退があるといわれる。核家族化や個人の ロンなど , 特定の人を対象とした居場所づくり 孤立 , また本格的な少子高齢化社会の到来 , 地域 は , それほど目新しい現象ではない。また , 地域 の災害対応力への危機感などから , 地域のつなが 住民の寄り合い所や活動拠点としては , 公民館や りが切実に求められるようになったからだという コミュニテイセンターが , 戦後から高度経済成長 のだ。もちろん , それは間違いではないけれど 期にかけて整備されてきた。 2000 年代に入って も , 携帯情報端末の普及やソーシャルネットワー キングサ一ビ・ズーて SNS ) ーなーどによって , ー従来の地 、縁や社縁を超えた新しいつながりは , 一以前に増し てつくりやすくなっている。にもかかわらず , 居 場所という素朴な手法に期待が集まるのはなぜな のだろうか。また , 居場所という空間的な装置が さかくらきようすけ : 慶應義塾大学グローバルセキュリティ 研究所 キーワード : 地域の居場所 , つながり , 場所 , 協働プラット フォーム , 芝の家

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は , 学内に相応の施設・設備とサービスが必要に なる。 2012 年答申では , これを実現するものの一 っとして , 図書館機能の充実が掲げられ , 千葉大 学および上智大学の各図書館の事例をひきながら , ニング・コモンズの整備が例示されている。 最近の大学教育改革のトレンドに照らし合わせ てみると , その中心的なテーマである主体的な学 びを支援する基盤として , 図書館に注目が集まっ ていることが確認された。とりわけ , ラー ン グ・コモンズを中心に取り組んできた先進的な図 書館の活動に対する評価が , こうした流れを生み 出したとも考えられる。 2 ラーニング・コモンズと大学図書館 2.1 「ラーニング・コモンズ」と 呼ばれるもの こまでラーニング・コモンズという用 さて , 語を所与のものとして扱ってきたが , そもそも ニング・コモンズとはなにを指すのであろう インフォメーション・コモンズ (information commons) やナレッジ・コモンズ (knowledge commons) など , 類似のことばが多く存在する ように , ラーニング・コモンズとはなにかを一意 に定義するのは難しい。ラーニング・コモンズを 設置する各大学がそこでなにを実現するのかとい う戦略によって , その内容が大きく異なるからで ある。そのため , あえてラーニング・コモンズと いうことばを使わない大学もある。そこで , 本稿 では , 2007 年にマクマレン (susan McMullen) が行った調査をもとに , ラーニング・コモンズと はなにかについて検討したい。 マクマレンは , 米国の 18 大学を訪問調査した 結果 , ラーニング・コモンズを構成する九つの要 素を紹介している 10 ) 。ここでは国内の事情を考 ①コンピュータ・エリア コンヒュ 慮しながら , 筆するのが一般的となった今日 , 道具としてのコ ータを使ってレポートや卒業論文を執 ーっひとつの特徴について確認して 場としての大学図書館 83 ンピュータを備え付けるのは当然といえよう。デ スクトップ PC を設置するところもあれば , ノー ト PC を貸し出す図書館もある。無線 LAN によ り , どこからでもネットワークを利用できる環境 も整えられている。 ②サービス・デスク 図書館員によるレファレンス・サービスをはじ め , 情報技術担当者によるコンピュータ利用支 援 , 大学院生などの学生スタッフによる学習支援 サービスなどが行われる。 ③共同学習スペース ニング・コモンズの顔ともいえるスペース である。可動式の机や椅子 , ホワイトボードなど が設置され , 学生は自由に動かしながら , 共同学 習を行える場所を確保できる。個室タイプのグ ループ学習室も含まれる。 ④プレゼンテーション・サポート・センター マルチメディア・コンテンツの作成 , 編集な ど , 高度な作業を行える高性能 PC を設置したス ペースである。大判プリンタなどの出力装置も備 える。 ⑤教員支援 教員の教育面での情報技術支援などを行う。 ⑥教至 ある一定規模のクラスを収容できる教室型のス ペースで , 授業や情報リテラシー講習会などで利 用される。デスクトップ PC が設置されている教 室もあれば , ノート PC が備え付けられている教 室もある。 ⑦学生支援 レポート執筆を支援するライティング・セン ターや , キャリア支援センターなど , 学生生活を 支援するサービス・デスクが設置されている。 ⑧コミュニティ・スペース 会合やセミナー , レセプション , 文化イベント など , 学生らの交流機会を提供する場所である。 ⑨ラウンジ・エリア ソフアなどリラックスできる家具を用意した , 飲食のできるスペースである。有料のカフェを併 設する図書館もあれば , 自動販売機を設置すると ころもある。