62 現代の図書館 VoI.51 N02 ( 2013 ) 図 1 学校の年次別建設実績 ( 件 ) 4,000 全保有面積 . 15 , 193 万 m2 経年 25 年以上で改修が必要なもの : 9 , 9 万 m2 3,000 改修済 1 094 万 m2 2,000 経年 25 年未満 4 165 m ーロ 2 1 , 000 ※公立学校施設実態 調査をもとに作成 0 5 5 5 5 1 5 1 5 1 5 5 5 5 2 2 2 1 1 1 1 0 9 0 O 9 9 9 9 9 9 9 0 9 0 1 8 8 9 6 6 7 7 6 1 6 6 1 6 6 1 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 年 図 2 バシェットギャップの概念 投資量 将来の更新投資 過去の公共投資 ( 1970 年代がピーク ) ( 2020 年代がピーク ) / ヾシェット・ 老朽化 ギャップ 現状予算 5 1 1 1 1 きだろう。 不可能な財源確保 老朽化を放置するのは確かに危険だ。であれ ば , 公共投資をして設備を新しくすればよいでは ないかと考えるかもしれないが , そうではない。 我が国の公共投資は急激に増加した後に急激に減 少するピラミッド型を描いている。図 1 は , 学校 も官僚も国民も , 筆者を含む学者もそのことに気 建設実績のグラフだ。ピーク時と最近の実績を比 べると 5 分の 1 に減っている。今後 1970 , 80 年 づかなかった。 現在われわれは 2 番目のピラミッドに足をかけ 代に建設された学校施設が老朽化し建て替えなけ て登り始めた段階に過ぎない。これから年々老朽 ればならなくなっても , その予算は 5 分の 1 しか 化は進み , 更新を必要とするインフラが増えてい ないことを意味している。 く。一方 , 予算はピラミッドの底程度にしか存在 このピラミッド構造は , 学校以外のすべてのイ しない。日本人は , 「増大する更新投資需要を , ンフラに共通している。数年前までは , これだけ 減少した公共投資予算でまかなう」というジレン ピラミッドを作ったのだからもうこれからはよい マに自らを追い込んでしまったのだ。 だろう , 今後は教育や福祉に予算を振り向けるべ 予算が減っていることを示したのか図 3 であ きだと考える人が多かった。 2009 年衆院選前の る。これによると , 国と地方の公共投資 ( 折れ 民主党のスローガン「コンクリートから人へ」は 線 ) のピークは 1990 年代後半であり , その後 それを明示したものだった。確かに , 不必要なコ 年々減少して現在はピーク時の半分程度になって ンクリートは要らない。だが , 今のインフラをあ いることがわかる。歴代の政権は公共投資が憎く る程度維持するための更新投資は必要だ。つま て圧縮したのではない。高齢化等による社会保障 り , 第 2 のピラミッドが必要になる ( 図 2 ) 。「コ 支出の増加を低迷する税収の範囲内でまかなうに トから人へ」の議論はこの第 2 のピラ ンクリ は , ほば唯一の削減可能な支出である公共投資の ミッドを忘れていた。民主党だけでなく , 自民党 1 年
インフラ老朽化問題の深刻さと図書館への示唆 63 図 3 公共投資と社会資本ストックの推移 ( 名目 GDP, 10 億円 ) 45,000. O 500 , 000.0 400 , 000 ℃ 40 , 000. O 450 , OOO. 0 35,000. O 350 , OOO. O 30,000. O 300,000. O 25 , 000.0 250 , OOO. 0 20,000. O 200 , 000.0 1 5 , 000.0 150 , 000.0 1 0,OOO.0 1 OO , 000.0 5,000.0 50 , 000.0 0 ℃ 0. O 社会資本ストック ( 左 , 棒線 ) ー公共投資 ( 右 , 折れ線 ) 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 9 9 9 9 9 9 9 9 9 O O 0 0 O 8 8 8 8 9 9 9 9 9 O O O 0 0 0 2 4 6 0 2 4 6 8 0 2 4 6 8 削減によらざるを得なかったのである。 ム , 最新の技術をもってすれば最低でも 70 年は 負債に依存することも無理である。日本の国と 利用できる。 100 年以上の長寿命化インフラも珍 地方の負債の水準は名目 GDP 比 250 % 近く , しいものではない。だから , 長寿命化が進められ OECD 諸国の中でギリシャやイタリアをもしの ている。 ぎ最悪の水準にある。もともと日本はそれほど負 一見効率的に見えるかもしれないが , 実は大き 債依存度の高い国ではない。 1994 年時点では他 な落とし穴がある。 70 年後には人口が大幅に減 の諸国と同様に 100 % 以下の水準にあった。われ 少しているのだ。 2012 年に国立社会保障・人口 われの先輩は , 戦後復興 , 東京五輪 , 大阪万博 , 問題研究所が発表した超長期予測では , 今から 高度成長 , バブル期を通じて一貫して公共投資を 70 年後の 2083 年の人口は 6400 万人 , 今のちょ 行ったが , それは , 増加する人口と税収という うど 2 分の 1 だ。今後の公共投資は完成したとた 「成長する身の丈」の範囲内だった。だから借金 んに稼働率が低下し , まだ十分に使える状況でも は増えなかった。 いすれは半分しか使われなくなってしまうのだ。 し力し , バブル経済崩壊後 , 右肩上がりの経済 人口減少の中 , 放置すれば物理的崩壊 , 無理に 成長カ終焉を迎えたにもかかわらす , 相変わらず 借金すれば財政破たんという厳しい二者択一を避 成長を前提とした公共投資依存の経済政策を続け けるためにはどうすればよいだろうか。すでに安 倍政権では 2013 年度予算で公共投資を大幅に拡 た。すでに十分なインフラのストックが蓄積され ていたにもかかわらず , 新しいインフラが次々に 大した。予算を拡大するのは手つ取り早い方法で 建設された。反面 , 老朽化を眼前に控えていた ある。しかし , この方法は抜本的な解決には結び ( はすの ) 既存インフラの維持管理はあと回しに つかない。筆者の試算では , 現在のインフラをす べて維持しようとするだけでも ( つまり , 新しい された。こうした維持管理軽視の風潮が冒頭の物 投資を一切しなくても ) 年間 8.1 兆円の更新投資 理的危険を生んだといっても過言ではない。 を 50 年間続けることが必要である。 GDP べース 人口減少とアベノミクスの限界 の公的固定資本形成の年間約 20 兆円と対比する と規模の大きさがわかる。公共投資の追加を 1 , 2 年行うことは可能かもしれないが , 50 年間続 今後はこれに人口減少が加わる。すでに多くの けることは無理だ。 地域で絶対的な人口減少時代に突入している。現 今 , 行うべきことは , 年間 8.1 兆円の予算を確 在では人口増加している東京都や沖縄県でも早晩 減少に転じる。インフラを今新設 ( 更新 ) した場 保することではなく , 年間 8.1 兆円の予算がかか
66 現代の図書館 VoI. 51 N02 ( 2013 ) 規投資が優先されてきたかといえば , 政治家に とっては新しい施設を作るほうが業績になるから であるし , 市民にとっても今まであった施設がそ のままあるよりも , 新しい施設ができたほうが目 立つからである。こうした考えが施設の肥大化を 生んだ。だが , 現在あるものすら全部を維持する ことができない状況であるにもかかわらず , 新規 投資をしている場合ではない。十分に理解を得ら れる原則だ。 第 2 に数値目標である。漠然と施設規模を減ら しましようといってもなかなか実効性を伴わな い。具体的に何 % 削減という数字を出せば , 目安 ができる。さいたま市では公共施設の延べ床面積 を 15 % 削減するという目標を立てた。実は , さ いたま市は政令市の中でもっとも人口 1 人当たり の延べ床面積が小さい。それでも将来的には大幅 な予算不足が見込まれ , 削減の数値目標に踏み 切ったのである。 第 3 に事前協議制度である。新設 , 更新 , 大規 模改修工事を行う案件を進める場合には , 担当部 署に事前に協議することが義務付けられている。 従来のような縦割りの発想では , 公共施設マネジ メントの担当部署以外は意に介さずに従来通りの 方法で進めてしまう。これではいすれ大混乱が生 じる。そういうことがないようにするため , 事前 協議制度の導入が不可欠である。 さいたま市では , 4 月の市長選挙で公共施設マ ネジメントを推進してきた現職が大差で再選され た。施設を再編するという , ある意味厳しい政策 も市民に支持されたのだ。確実に流れは変わって きたと思う。 省インフラ 以上で明らかなように , 今の日本に必要なの は , 「財政負担により社会資本を大量に保有して いることが豊かである」という理解をあらため , 「財政負担が少なくても質の高いスマートな社会 資本を持っ」知恵である。 大半の国民は , 今ある社会資本すら維持できな い状況を知れば , 新規に投資しないことはもちろ ん , 現在ある社会資本の削減の必要性も理解でき ると思う。最近各地で実施されている住民意向調 査では , 老朽化や財政の厳しさをきちんと説明す ることにより , 今まで実施した自治体すべてで 8 割以上の市民が削減の方針を支持することが明ら かになっている。 こで , 新しい考え方として「省インフラ」を 提唱したい。「省インフラ」とは , 一定の公共 サービスを提供するのに必要なインフラ量 ( 原単 位 ) を引き下げることである。 第 1 はコンパクト化だ。 A さんと B さんの間 を結ぶものがインフラだとすれば , 人口が減るに つれて 1 人当たりの負担は大きくなる。だが , A さんと B さんに近隣に移動してもらうことがで きれば投資を集中させることができる。いわゆる コンパクトシティである。高い防潮堤の代わりに 高台移転によって津波被害を避けるという発想も コンパクト化の一例だ。 3 階層マネジメントの広 域化や多機能化もコンパクト化の効果を持つ。 第 2 は分散化だ。コンパクト化は人口減少時代 の切り札だが , 現実に中心部への人の移動は難し い。そこで , ある程度の人口が残る地区を準コン パクト拠点として位置づけ , インフラの機能を分 散して持たせることも考えられる。電力の世界で は大量生産 , 大量流通の原発 , 火力発電所に対し て , 小水力 , 太陽熱など自分の足元で生産する再 生可能エネルギーが進められつつある。下水道で もネットワーク型の公共下水道ではなく , 浄化槽 方式を採用すれば分散処理できる。 第 3 はデリバリー化である。診療所 , 図書館 , デイケア施設などの施設を地区ごとに設置するの は無理だ。こうした機能を配達に変える。医療機 器や図書を乗せた自動車を使って , 公共サービス を定期的に配達すれば大幅に費用を節約すること ができる。コンビニや美容室などの民間の機能を 乗せた配達サービスも十分可能だ。 いすれも , インフラを固定的に考えずに , 省イ ンフラによって期待する機能を別の形で実現して いる。 かって日本を襲った構造変化の中でもっとも大 きなものの一つが石油危機である。エネルギー源 の多くを中東に依存していた日本にとって , 石油 危機は絶対に乗り越えなければならない構造変化
インフラ老朽化問題の深刻さと図書館への示唆 65 りする。補助金を負担しても , 自治体が自ら施設 る。公共施設マネジメントは , 数年前に , 神奈川 を保有するよりははるかに低いコストですむ。 県藤沢市や千葉県習志野市が公共施設マネジメン 以上を進めることで発生する土地や建物の余剰 ト白書を公表した時点から本格化した。公共施設 スペースは民間に売却や賃貸して収入を得る。 マネジメント白書とは , すべての公共施設を対象 残すべき施設の建設 , 維持管理 , 運営には積極的 にして , 建設年月 , 延べ床面積 , 構造 , 耐震状 に民間活力を導入する。 PFI や指定管理者などの 況 , 利用状況 , 経費などを詳細に記述したもので PPP 手法は有効に機能するだろう。 ある。これによって , 公共施設の老朽化や費用対 3 階層マネジメントの利点はすべての機能が維 効果が市民の目に明らかになった。 持されている点である。隣町に行く , 民間施設を 公共施設マネジメント白書を作成した多くの自 借りるなど不便にはなるかもしれない。しかし , 治体では , 専任組織を設置し , 将来の施設の再編 今まで通りの機能と市民の安全と健全な財政が達 等を内容とする公共施設マネジメント方針を策定 成できるのである。多少の不便は甘受すべきであ し実施に移すことになる。その過程では , 市民の 合意形成や , 公民連携による施設整備や維持管理 る。 方法の検討が行われる。 自治体の取り組み さまざまな方法を組み合わせているさいたま市 の取り組みの中で , 他自治体でも参考になる三つ このように公共施設をいかに再編していくか , の特徴を紹介しよう。 戦略的に考えることが公共施設マネジメントであ 第 1 に新規投資抑制原則である。今までなぜ新 表 1 公共施設マネジメントの取り組み事例 自治体 組織体制 神奈川県泰野市 方針・計画 市民の合意形成 公民連携 ・公共施設 ・公共施設再配置計画 ・町会等での説明 ・シンポル事業の ( 含む方針 ) 策定 ・シンポル事業 ( 中 再配置推 PPP 導入に向けた 進課 学校と地域施設の 調査中 複合化事業等 ) ・資産管理 ・公共施設再生計画基本 ・町会単位での説明 ・市庁舎建て替え , 課 方針策定 シンポジウム 学校再編等での導 入を検討中 ・改革推進 公共施設マネジメント 市民ワークショップ ・体育館の民間譲渡 計画策定 担当 実施 ・総合計画への織込み ・行政改革 公共施設マネジメント ・公共サービス公民 シンポジウム 計画 ( 方針編 ) 策定 推進本部 ・パプリックコメント 連携提案制度を実 施済 ・無作為抽出アンケー 公共施設マネジメント 調査 ト 公営住宅再編計画 備 , 町内公共施設整備 千葉県習志野市 埼玉県宮代町 さいたま市 兵庫県伊丹市 ・左記 PFI 事業 ・提案型公共サービ ス民営化制度 香川県 まんのう町 千葉県我孫子市 ・企画担当 ・企画課
図書館への示唆 危険な老朽化インフラ 朽化していなかったが , 金属製の付属物は劣化し は建築後 35 年であり , トンネル本体としては老 2012 年 12 月に天井板が崩落した笹子トンネル る。 今後何も対策を打たなければ , 物理的に崩壊す ことになる。 半である。これらは現在 30 ~ 40 年経過している 年代後半 , 学校施設が 70 年代後半から 80 年代前 80 年代前半 , 公営住宅が 70 年代前半 , 公園が 70 前半 , 河川 ( 水門 , ダム ) が 80 年前後 , 港湾が く建設されたのは 1960 年代後半 , 橋梁が 70 年代 ナンス戦略小委員会資料によると , 道路が最も多 国土交通省社会資本整備審議会社会資本メンテ 維持更新する時期が迫っているのである。 を生んだ。大量のインフラがいっせいに老朽化し だが , 集中的かつ大量の整備が大きな社会問題 かにしてくれた。 間に集中して整備され , 私たちの生活を急速に豊 た。これらのインフラは , 高度成長期前後の短期 要性を満たすためにさまざまなインフラが作られ 館 , 道路 , 橋 , 水道 , 下水道など , さまざまな必 学校 , 病院 , 公営住宅 , 公民館 , 図書館 , 美術 私たちの身の回りには多くのインフラがある。 設マネジメント ねもとゆうじ : 東洋大学 インフラ老朽化問題の深刻さと図書館への示唆 ◆特集◆場所としての図書館 インフラ老朽化間題の深刻さと キーワード : インフラ , 老朽化 , 公共施設 , 社会資本 , 公共施 61 根本祐ニ の責任は厳しく問われるようになったと考えるべ 義務とみなされ , 万一事故が発生した場合は , そ 今や老朽化による危険を回避することは管理者の を得ないこととされていたかもしれない。だが , 従来は , あるいは老朽化は気づかなくてもやむ 国各地にある。 た。老朽化施設の使用停止例は , このほかにも全 ホールの天井が危険であるとして使用を停止し された。本年 4 月 , 市川市市民会館は老朽化した 老朽化対策の遅れた施設だ。その弱い部分が直撃 沢市役所本庁舎だ。どの地域でも庁舎はもっとも 陥った。一番震源地から遠かったのは神奈川県藤 別に全国で 30 棟以上の役所庁舎が使用不能に 東日本大震災では , そのほかにも津波被害とは い」という考え方だろう。 ず , 結果として人を死に至らしめた。その罪は重 うる立場にあるにもかかわらず十分な対策を施さ 業務上過失致死傷で訴えた。「老朽化対策を行い 化が真の原因である。遺族は管理者を相手取って らず人身事故となったのは , 築 77 年という老朽 法制度ではあってはならないことだ。にもかかわ 名の方が亡くなった。震度 5 強での崩壊は現在の 度 5 強の東京都心の九段会館の天井が崩落し , 2 建築物も例外ではない。東日本大震災では , 震 だった。 れたが , 人身事故になってもおかしくない事故 習中の男子高校生で , 機敏に対処し何とか難を逃 大きく傾く事故が起きた。渡っていたのが駅伝練 の吊り橋である第一弁天橋のワイヤーが破断し , ていた。 2013 年 2 月には , 浜松市の建築後 48 年
64 現代の図書館 Vol. 51 N02 ( 2013 ) らないようにすることなのである。そのために は , できるだけ財政負担の軽い方法を考えていく というマネジメントが必要だ。 3 階層マネジメント 筆者は , 公共施設全般に対して「 3 階層マネジ メント」を提唱している。公共施設を受益者の範 囲の大小によって 3 種類に分け , それぞれごとに 異なる処方箋を用いるものだ ( 図 4 ) 。 第 1 層の【全域】とは自治体の全域に受益者が いる施設であり , 公立病院 , 中央図書館 , 文化 ホール , 総合運動施設などが該当する。これら は , 市の全域だけでなく近隣都市にも便益をもた らすので , 自分の町だけでなく隣町と共用する 【広域化】を進める。今までは , 隣町にあれば自 分の町にもほしいというワンセット主義があった かもしれない。必要なインフラすら維持できない 状況では , ワンセット主義は贅沢である。これ を , 隣町にあれば一緒に使うという発想に変え る。意識を切り替えさえすればすむことであり , もっとも簡単な方法である。 第 2 層の【校区】とは小中学校区単位の施設で ある。学校 , 児童館 , 学童クラブ , 保育所 , 幼稚 園 , デイケアセンター , 地区図書館 , 公民館など 図 4 3 階層マネシメント が該当する。これらの中でもっとも規模が大きく 老朽化しているのが学校である。少子化が進めば 学校自体の数の見直しが不可避であるが , 学校は 避難所を兼ねていることが多く , 残すべき学校は 逆にしつかりと作り直すことが必要だ。その際 , 学校単独ではなく , 校区内の他の施設が持ってい た機能も果たせるように【多機能化】する。今ま では個々の施設を別々に建設するのが原則だった が , 多機能化することによって , 会議室 , 音楽 室 , 調理室など同じ機能を持っスペース , 玄関 , 事務室 , 階段 , 廊下などのサプスペースは共用で きる。 こうして多機能化すれば必要なスペースは維持 しても , 少なくとも 2 ~ 3 割の負担削減はでき る。単なる複合化ではなく , 仕様を決めずに , 将 来の地域の人口構造やニーズの変化に応じてどの ような用途にも変えられるようにしておくのが重 要である。建築技術的にはすでに確立されている スケルトン・インフィル方式が有効である。 第 3 層の【住区】には公営住宅や集会所があ る。この階層の施設は自治体が財産を持たない 【ソフト化】を進める。民間アパートがある都市部 では公営住宅を建て替えることをやめて , 民間ア パートに入居してもらい家賃補助に切り替える。 集会所は , 民間の学習塾などの空き時間を時間借 1 層 2 層 3 層 全域 庁舎 , 病院 , 博物館・美術 館 , 中央図書館 , 文化ホー ル , 大型体育施設 校区 館 , 地区図書館 育所 , 老人福祉施設 , 公民 学校 , 児童館 , 幼稚園・保 住区 集会所 , 公営住宅 広域化 ワンセット主義を捨てて , 他市と分担する。 余剰 多機能化 中核コミュニティ施設を建 設し , 各機能がテナントと して入る。 ソフト化 余剰 不動産活用 余剰 民間施設を利用し必要に応じて費用を補助 する。公営住宅は建て替えず , 民間アバー トへの家賃補助に切り替える。
現代の図書館編集方針 2005 年 12 月現代の図書館編集委員会 2013 年 6 月改定 1 . 編集方針 本誌は , 広く世界へ目を向け , 国内外における図書館 や情報提供機関等が直面する実践的課題を踏まえ , 図書 館および情報提供機関等の発展に貢献する論考を掲載す る。 ・その他の図書館関係者、図書館に関心をもつ者 ・その他図書館および図書館情報学に関心をもつ者 ・出版情報産業など関連業界の関係者 ・図書館情報学および関連分野の研究者 ・専門図書館の職員および関係者 ・学校図書館の職員および関係者 ・大学図書館の職員および関係者 ・公共図書館の職員および関係者 ・日本図書館協会会員 2 . 想定読者 的に取り上げる。 理論的なテーマやある程度の分量を要するテーマを積極 日本図書館協会が発行する季刊の「理論誌」として , 3 . 想定記事内容 ・我が国の図書館の参考に資する海外論文の紹介および ・現代の図書館界の展望を示す動向記事 ①「一般記事」 4 . 誌面構成 ク ・情報サービス・出版など関連分野の注目すべきトピノ ・日本図書館協会が関係する研究会・事業の成果 ・図書館に関する調査・研究の成果 ・図書館における諸活動の実際の記録 翻訳 頁ほどの前文 ( 「特集にあたって」 ) を総論の代わりと う , 総論および各論から構成する。場合によっては、 1 「特集」は , 当該テーマを様々な面から理解できるよ 2 , 3 本程度なら , 「小特集」として構成してもよい。 る。特集を構成する記事数は , 5 本程度を目安とする。 り下げられるテーマがあれば , 「特集」として取り上げ 近年話題となっているテーマ卩から , 多面的に掘 ②「特集」 ては , 主として上記 3. を想定する。 ものを取り上げ「一般記事」とする。記事内容につい 近年話題となっているテーマの中から , 注目すべき してもよい。 ③「シリーズ記事」 近年話題となっているテーマの中で , 継続的な掲載 が適当なテーマがあれば、「シリーズ記事」として連載 する。 5 . 原稿種別 く依頼原稿〉 上記 4. ① ~ ③の記事については , 編集委員会が執筆 候補者を選定し , その候補者に対して編集委員および編 集事務局が執筆を打診する。承諾が得られれば , 編集事 務局が書面をもって正式な執筆依頼を行う。 依頼原稿であっても , 提出された原稿の掲載の可否に ついては , 編集委員会の審議を経て決定する。その際に 原稿の一部修正 , 書き直しを求めることがある。 依頼する原稿はいすれも未発表のものとする。原稿分 量は、図・表・写真等を含め刷り上り 6 頁程度 ( 1 頁 = 22 字 X80 行 ) が望ましい。なお , 執筆者には原稿執筆 料を支払う。 く投稿原稿〉 本誌を日本図書館協会会員が行った研究成果の発表の 場として活用すべく , 会員からの投稿を積極的に受付け る。投稿は常時受付け , 誌面構成においては、「①一般記 事」と同様に扱う。投稿原稿の掲載の可否は , 編集委員 会の審議を経て決定する。その際 , 原稿の一部修正、書 き直しを求めることがある。 投稿原稿は必す未発表論文とし , 理論誌という性格を踏 まえ , 記述にあたっては可能な限りデータや客観的事実 を用いることを求める。原則として工ッセーや感想文的 な原稿は掲載しない。原稿分量は , 図・表・写真等を含 め刷り上り 6 頁程度 ( 1 頁 = 22 字 x 80 行 ) が望ましい。
だった。最終電車の時間繰り上げ , ネオンの早期 消灯 , テレビの深夜放送の休止などの節約策が 次々に実施された。さらに , 産業界では , 熱源の 変更 , 工場での工程・製造方法の見直し , 設備・ 機器の補修 , 効率的な設備への取替えが行われ た。日本人は石油危機に対して , 高くなった石油 を今まで通り買うために景気対策をしたわけでは なく , 使う石油を減らそうと省エネルギーを進め こうして日本経済は再生した。 インフラの老朽化や人口減少は石油危機以上の 構造変化だ。今後行うべきことは , 今までと同じ ように , 人が住んでいるところにすべてインフラ を整備する発想ではない。減少する人口に合わせ て少ない量で同じ効果をもたらすべき「省インフ ラ」なのだ。「省インフラ」はインフラ老朽化問 題への最強の処方箋であり , 新しい技術やシステ ム開発を促す成長戦略であり , 新興国にも十分応 用可能な国際貢献手段でもあるのだ。 公立図書館への影響 さて , 最後に , 公立図書館への影響を考えてみ ます , 公立図書館のみが聖域ではないという点 である。日本全体で大幅に更新投資予算が足りな い中 , インフラそれぞれの関係者が聖域を主張し ては収拾がっかなくなる。学校 , 道路 , 橋 , 水 道 , 下水道それぞれに必要性があって建設されて きた。今後これらのインフラも例外なく大幅な見 直しを迫られ , 学校や病院の統廃合や道路や橋の 使用停止が増える中 , 公立図書館だけは今まで通 りでなければならないという主張が , 納税者の納 得を得られるだろうか。 次に , 費用情報を把握する必要があるという点 である。公立図書館の建設や維持に市民の支持を 求めるには , 市民が負担している費用 ( 税金 ) を 明らかにしなければならない。前述の公共施設マ ネジメント白書を見ると , 一般的な公立図書館を 建設・維持管理・運営するには , 貸出者数 1 人当 たり 1000 円の費用がかかっている。公立図書館 は本を買わないといけないのでコストがかかるの は当然だと思うかもしれないが , 図書資料費にか インフラ老朽化問題の深刻さと図書館への示唆 67 かっているコストは全体の 1 割の 100 円に過ぎな い。残りの 900 円は人件費 , 施設経費 ( 減価償却 費 , 維持管理修繕費 ) , 光熱水費等である。公立 図書館は , 実は , 本ではなく「ヒト」と「モノ」 のために大半の経費を費やしているのである。 建設費と維持管理運営費のバランスも驚く数字 だ。毎年の維持管理運営費 ( 含む改修 , 減価償却 費 ) は当初建設費の 30 % 程度かかる例が多い。 言い換えると , 建設費 10 億円の図書館は , 当初 は確かに 10 億円でも , 50 年使ううちには 10 億 円 X30 % X50 年 = 150 億円の維持管理運営費を 必要とすることになる。仮に建設費を全額補助金 でまかなったとしても , その 15 倍の費用を負担 する必要がある。しかもその多くは建設時点で関 与していない次世代の負担なのだ。この数字も市 民の理解を得るのはなかなか難しい。 公立図書館が置かれた環境はかくも厳しいもの だ。ますは , この危機意識を共有すべきだろう。 だが , 知恵はあると思う。 コストの多くを占める人件費は , 民間委託 ( 指 定管理者や PFI を含む ) やボランティア市民参 加で減らすことができる。施設関係費は , 多機能 化した学校や庁舎の建物と一体化したり , 近隣都 市と共同所有するなどの方法で大幅に削減でき る。学校図書室と一体化し , 学校ごとに個性的な 選書を行い , 市全体でバラエティを広げることも 考えられる。公民館やコミュニテイセンターなど の市民利用施設の役割を図書館に担わせ多機能化 する方法 , 自治体の周辺部には常設図書館ではな く定期的に図書館車を送る方法もある。民間宅配 サービスと一体化すれば輸送コストも大幅に引き 下げることができる。 今後 , 「省インフラ」は聖域なく進む。大幅に 負担を下げてもサービスレベルを維持するにはど うすればよいのか , 今こそ知恵が求められている のである。 ( 2012.6.4 受理 )
68 現代の図書館 VoI. 51 No.2 ( 2013 ) ◆特集◆場所としての図書館 図書館における空間デンと 利用者行動 はじめに て推定属性・姿勢・行為を記録 ) や追跡調査 ( 入 ロット調査 ( 調査員が 10 ~ 15 分で館内を巡回し 2007 年以降はアンケート調査に加え , 巡回プ 0 な想いを持って図書館を利用していることを示し いると整理した。このように , 利用者はさまざま うかは , 図書館の施設サービスに大きく関係して が成長した後も親が単独で継続して利用するかど り , 学習目的の利用や図書館離れが生じ , 子ども で , 子どもは成長すれば友人と来館するようにな ステージによる図書館利用の変化を示したもの また , 図 1 は子どもをきっかけとしたライフ 待していることがうかがえた。 転換できる」 25 % など図書館に「非日常性」を期 「新しい興味や関心を見つけられる」 35 % , 「気分 調べたいことがわかる」が 60 % と最も多いが , 書館へのイメージを尋ねたもので , 「知りたい 『現代の図書館』でも報告している 2 ) 。表 1 は図 用意識などを構造的に整理し , その内容の一部を 図書館における利用圏域の二重構造や利用者の利 を行い , 学位論文としてまとめた 1 ) 。地方都市の 館の図書館で , 土曜日一日来館者アンケート調査 1992 年から 1998 年に三重・滋賀・岐阜県の 16 中井孝幸 表 1 図書館に対するイメージ ( 複数回答 ) 知りたいこと・調べたいことがわかる 日課として来る 友人・知人と出会い、交流する 時間をつぶせる 勉強や作業のための場所がある 自分の世界に浸れる 新しい興味や関心を見つけられる 気分転換できる 家族や友人とレジャー的に来られる その他 回答数 ( 人 ) 59.5 2.7 2.4 11.9 18.9 11.0 34.3 24.7 7.5 4.4 1658 なかいたかゆき : 愛知工業大学 キーワード : 公共図書館 , 大学図書館 , 選択性 利用行動 , 利用意識 , 館から退館まで館内での利用を調査員が記録 ) を 公共図書館と大学図書館で行っている。公共図書 館と大学図書館は , 利用者層や利用内容 , 提供し ているサービスも異なるため単純に比較はできな いが , 空間デザインと利用者行動の関係から図書 館という「場」に何を求めて利用しているのかを 整理し , 今後の図書館計画への示唆を得たいと考 えている。今回は事例報告 3 ・ 4 ) が主となり , 図 書館名は適宜省略して表すが , 調査事例等の詳細 については参考文献を参照してもらいたい。 1 図書館での基礎的な利用行動と利用意識 ( 1 ) 利用者の滞在に対する意識 1990 年代の調査では , 公共図書館の平均滞在 時間は 49 分程度であったが , 2007 年以降の調査
80 現代の図書館 Vol. 51 N02 ( 2013 ) 10 ) 中井孝幸 , 秋野崇大 . 図書館の雰囲気が場の選択に与える 影響に関する研究その 1 ~ 2. 日本建築学会大会学術講演梗 概集 . E- 1 , 2010 , p. 323 ー 324 , p. 325 ー 326 (1) 榛葉詠美子 , 野間元太 , 中井孝幸 . 児童開架スペースにお ける利用者の姿勢・行為からみた居場所形成について一イン ターネット時代における「場」としての図書館に関する研 究・その 1 , 日本建築学会東海支部研究報告集 . 第 48 号 , 2010 , p. 377 ー 380 12 ) 谷口桃子 , 山本智奈津 , 中井孝幸 . 公共図書館における属 性別座席選択からみた来館を促す場の魅力に関する研究 . 日 本建築学会東海支部研究報告集 . 第 48 号 , 2010 , p. 385 ー 3 13 ) 中井孝幸 . 来館を促す施設的な配慮ー滋賀県の大・中・小 規模図書館の調査から . 第 31 回図書館建築研修会 ( 2 開 9 年 度 ) 来館を促す建築的魅力ー非来館型利用が増える中で。場 としての図書館 " を考える . 日本図書館協会 . 289 , p. 46 ー 59 14 ) 蒋逸凡 , 中井孝幸 . 「個人」と「グループ」利用からみた 大学図書館での居場所形成 . 日本建築学会大会学術講演梗概 集 . E-I, 2012 , P245 ー 246 15 ) 秋野崇大 , 中井孝幸他 . 場選択と利用者意識からみた図書 館計画に関する研究・その 2 , 日本建築学会東海支部研究報 告集 . 第 50 号 , 2010 , p. 473 ー 476 16 ) 中井孝幸 . 安全な避難のために一公共図書館での滞在利用 に関する行動調査から . 第 33 回図書館建築研修会 ( 2011 年 度 ) 東日本に学ぶ . 日本図書館協会 . 2012 , p. 83 ー 98 17 ) 中井孝幸 . 行動観察調査からみる「場」としての図書館利 用 . LISN. No. 153 , 2012 , p. 13 ー 16 , No. 154 , 2012 , p. 10 ー 16 18 ) 根本彰 . 理想の図書館とは何か一知の公共性をめぐって . ミネルヴァ書房 . 2011 19 ) アントネッラ・アンニョリ著 ( 萱野有美訳 , 柳与志夫解 説 ). 知の広場一図書館と自由 . みすず書房 . 2011 20 ) 吉田右子 . デンマークのにぎやかな公共図書館ー平等・共 有・セルフヘルプを実現する場所 . 新評論 . 2010 (1) 植松貞夫 , 冨江伸治 , 柳瀬寛夫 , 川島宏 , 中井孝幸 . JLA 図書館実践シリーズ 13 , よい図書館施設をつくる . 日本図書 館協会 . 2010 22 ) ジョン・ E. ブッシュマン , グロリア・ J. レッキー編著 ( 川 崎良孝 , 久野和子 , 村上加代子訳 ). 場としての図書館ー歴 史 , コミュニティ , 文化 . 京都大学図書館情報学研究会 . 2 開 8 ( 2013.6.3 受理 )