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検索対象: 現代の図書館 2013年 09月号
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1. 現代の図書館 2013年 09月号

を乗り越えて , 日本ではこの NPM の発想は拡大 し , 影響力を強めてきた。独立行政法人制度の導 入 , PPP, PFI, 指定管理者制度 , 市場化テス ト , 官民競争入札 , 公共サービス改革などの言葉 で表されるさまざまな改革は , 実施部門だけでな く公共部門全体をターゲットに進められた。 しかし一部の人びとは , その改革の意志を全否 定しないけれども , 違和感を抱いていた。もちろ ん前述の大住もその著書の中で , NPM 改革の課 題を海外の事例を引きながら予測していた。「イ ンブット面での成果はある程度評価しうるもの の , アウトカム ( 業績 ) 評価の点では , 評価方法 そのものも含めさまざまなマイナス面も指摘され ている」 ( 大住 1999 , p. 39 ) 。 そもそも日本では政策の企画立案部門と実施部 門との分離の意味を知らず , 意義を理解しない公 務員が多いため , 政策評価なのか日常業務活動の 業績測定なのかが不明なまま , 「評価」 ( 実は測定 とチェック ) が行われた。そこでは過剰に ごまとした部分に執着した。その代表は独立行政 法人である。国と地方の独立行政法人評価が指定 管理者制度の導入 , 人員削減 ( 年度計画 2 % ) , 物件費削減 ( 毎年 1 % ) , 管理費削減 , 管理職削 減 , 組織の統廃合 , 人件費抑制 , 保有資産の見直 し・売却 , 給与水準の適正化 ( ラスパイレス指数 の注目 ) , 役職員の給与水準の適正化など , 内向 き業務のチェック作業に多くの時間がとられ , 過 剰にインブットが意識されるようになったのであ る。すなわち , 効率化といいながら実は節約 , カットである。これが評価規準になってしまって 評価の矮小化が進んだが , これは何も独立行政法 人だけでなく , あらゆる公共サービスに及んだ。 なぜこうした結果に陥ったのか。理由はすでに 明らかである。日本では三重県庁をはじめとする 多くの自治体 , そして多くのコンサルタントに よって NPM が喧伝され , また NPM ではないに しても同じ改革の処方箋を持っォズボーンとゲー プラーの著書切怩〃〃〃 g Go 怩翔川れ一 ( 1992 ) カゞ 『行政革命』 ( 1995 ) とタイトルを変えて出版され たように , 公務員の精神革命として進められたか こでは企業の「マネジメント」のマ らである。 インドを持っ公務員になることが革命の第一歩で 公共サービスの評価における理論と実践 141 あると考えられた。すなわち , 政策思考で結果志 向 ( 信頼を前提としているので手続チェックはし ない ) , だから事前チェックもしない , 本人が自 己反省 ( 評価 ) しながら成果を出す , こうした理 想である。しかし現実はむすかしい。行政の現場 では伝統的な意識から抜け出せない・ public administrator' が , 民間企業の経営者・起業家マ インドを身につけた・ pub ⅱ c manager' を僭称して 評価を始めた。 そこに四つの勘違いと間違いが起きた。 ( 1 ) 政策評価がねらう有効性やアウトカムより も , むしろ慣れ親しんだ明治以来の・ lega ト framework' へのコンプライアンスを過剰に 意識した。重箱の隅を突っつくような , 箸の 上げ下ろしまで云々するチェック作業がサー ビス提供者を疲労させる。 ( 2 ) NPM の誤解から評価がコスト削減策に なったので , 担当者が理解できる範囲の現場 知 , 相場観だけで評価を運用した。その結 果 , はじめに経費削減ありきの似非評価が蔓 延する。 ( 3 ) 評価をよく知らない人が測定と混同したた め・ evaluation' でなく・ measurement' を多用 した結果 , 入場者の人数 , 貸出冊数など形式 的な数字 (output 指標 ) が一人歩きする。 その結果 , 評価が真に必要とする情報を産出 できたかどうかレビューするために行う評価 の評価 (meta-evaluation) については監査 や監察のやり方で対応した。 ( 4 ) 評価対象の多くは・ policy' ではなく 、叩 eration' の業務であったため , 効率を求め られた人が評価対象の「重箱の隅を突っつ く」膨大な作業負荷に悩む非効率がますます 発生した ( 山谷 2 開 8 , PP223 ー 224 ) 。評価とは 名ばかりの , 手続チェック作業が信じられな い程たくさん待ち受けていたのである。 何のためにサービスを提供するのか , 本当は何 をしたいのか , 何が求められているのか , それが 今は何をしているのかなどの根源的な問いが忘却 され , 「昨日と同じ明日が続く」前提で , 日常業 務の説明文書的な評価書が積み重ねられる。コス ト・カットが目的の形式チェックばかりでは「評

2. 現代の図書館 2013年 09月号

BCP 策定のためのポイントと課題 153 図防災計画と BCP の相違 ・これまでの防災の考え方 切迫した問題・課題が どっと押し寄せる 場当たり的な対応を 迫られる 災害が発生したら・・ ( 消火 - 避難・救護 - 安否確認 ) 自衛消防組織 復旧 完了 災害 発生 ・ BCP の考え方 〉災害対策本部組織 自衛消防組織長 " 重要な活動の継続 災害が発生した引・ ( 消火・避難救護・ 安否確認 ) 復旧活動 災害の予防と初動対応 ( 初期消火 , 避難誘導 , 救 応 ) から災害対策本部 , 重要業務の継続や復旧活 護 , 安否確認など ) を規定したものである。火災 動にかかわるトータルな要素が組み込まれて今日 のように災害の規模が限定的ですぐに終息する場 の BCP として確立している。昨年 5 月には , 事 合はこれでも対処できるが , 大規模災害では電 業継続管理の要件をマネジメントシステムとして 気・ガス・水道 , 公共交通機関が寸断し , 修理 , 標準化した国際規格「 IS022301 」が発行された。 修復の手配もままならない状態 , つまり復旧の目 ところで , 今日の日本国内の BCP 普及の実態 処がたたない状態が続くため , 初期の対応だけで はどうだろうか。 2012 年の内閣府の調査では , は限界がある。 BCP を策定ずみか現在策定中と答えたのは大企 BCP はこのようなときでも , 利害関係者に迷 業の 72 % , 中小企業では 36 % となっているが , 惑がかからないように最低限の業務やサービスを 「はじめに」で述べたように , その中身について 提供し続けるとともに , スムーズに復旧が進むよ は玉石混交で実効性に疑問の余地があるため , 今 うな実行手順と必要な資源を規定した計画であ 後も継続的に見直しを行う必要がある。また , 今 る。防災計画 ( 初動対応 ) のあとを引き継ぐ行程 後は国がイニシアチプをとって BCP の教育カリ までを含めたものが BCP であるといってよい。 キュラムを充実させ , 必要に応じて資格試験制度 また , 従来の防災計画では自衛消防組織が中心と を導入して , 体系的で応用の利く BCP のノウハ なって対応に当たるが , BCP ではこれを「災害 ウを啓蒙 , 普及させる必要があると考える。 対策本部組織」に発展させて , より機能的に活動 するという特長もある ( 図を参照 ) 。 2 防災との違い , BCP の利点など 次に , BCP はだれにとってどのように役立つ のかを考えてみよう。まず , 災害が終息しなけれ BCP がどのようなものであるかを理解するに ば , 事業停止によるありとあらゆる切迫した問題 は , 従来の「防災計画」と比較してみるとわかり や課題が津波のように一気に押しよせ , たいへん やすい。消防計画などに代表される防災計画は , 復旧 完了 災害 発生

3. 現代の図書館 2013年 09月号

図書館に返却している。 ワシントンの未返却記録は偶然見つかっただけ であり , 組織的・体系的に情報が管理されていた わけではない。しかし , 「記録」が残されていた からこそ , 未返却事実を確認することができたと し、える。 貸出記録の取扱いについて , 2005 年に個人情 報保護法が全面施行された時点では , 公共図書館 などにおいては利用者の秘密保護の観点から極力 保有しない方向で対応がなされていた。法律の施 行後も , 条例が適用されるため , 本来は個人情報 保護法の義務規定が適用されないはずの公立図書 館においても , 個人情報保護「法」への取り組み がなされるようになると , 貸出履歴のみならず , 個人情報が記録された図書の閲覧制限に至るま で , 個人情報「保護」の名の下にさらに個人情報 を保有しない ( してはならない ) という取り組み がなされている 9 ) 。 その背景には , 「貸出業務へのコンピュータ導 入に伴う個人情報の保護に関する基準」 (http:〃 www.jla.or.jp/portals/()/htmレprivacy/kasidasi.html) において , 「貸出記録は , 資料が返却されたらで きるだけすみやかに消去しなければならない」と 定められているからである。そのため , 練馬区立 図書館が 2008 年 1 月に「貸し出し履歴保存返 却後 13 週間 ( 91 日間 ) 」システムを導入したと きには , 貸出履歴の保存に関して新聞報道がなさ れるとともに論争が生じている 10 ) 。 一方 , 同じく 2005 年に , 私立大学図書館協会 西地区部会に加盟する大学図書館 ( 241 館 ) に実 施したアンケート調査結果 11 ) からは , 調査対象 図書館の 87 % において , 返却後も貸出記録を保 有しているとの結果が出ている。つまり , 公共図 書館における貸出履歴の保存は , 個人情報保護法 の施行後もタブー視され , 履歴保存を決定した図 書館について批判的な報道もなされてきた一方 で , 大学図書館では貸出記録は削除されていない ことが明らかになっている。 12 迷惑 ( 違法 ) 行為の確認と貸出記録 返却延滞者および蔵書の毀損 ( 破り取り・切り 図書館における情報セキュリティ対策のあり方と個人情報保護 185 図書館の活性化と利用者の利便性向上のため 活用することの是非 貸出記録をビッグデータとして 裏返しではないかと疑わざるを得ない側面もある。 報の適正な取扱いと保護がなされていないことの 情報セキュリティ対策が実施されておらず , 個人情 貸出記録の保存をめぐる懸念は , 実は , 適切な 背景にあると思われる。 理のポリシー欠如 ) といった懸念が , この問題の ③利用者の監視につながるのではないか ( 情報管 生するのではないか ( 情報管理の自信のなさ ) , か ( 目的外利用の懸念 ) , ②漏洩や不正利用が発 ①保存することで際限なく利用されるのではない 存したとしても何ら問題が生ずることはないが , ることで , たとえ貸出記録を履歴としてすべて保 利用目的の範囲内で適正に取得管理 ( 保存 ) す 求められている検討事項といえる。 報を保存し , 目的の範囲内で利用することが本来 保存と利用の「目的」を明確にした上で必要な情 り , 「保存 = 利用」という単純な図式ではなく , 「利用」の両面から検討が求められている。つま われる。貸出記録の保存の問題は , 「保存」と に保存すべきではないという見解が多いように思 人の思想・信条が明らかになるような情報は一律 しかし , 貸出記録の保存には抵抗感があり , 個 目的で貸出記録を保存することも必要であろう。 ることができる。また , 迷惑 ( 違法 ) 行為の特定 個人情報保護関連の法令に基づいて適法に保有す 返却延滞者情報は , 図書館の財産保護のために することは不可能である。 ところが多い。それでは , 違法行為従事者を特定 扱うとともに , 貸出記録から履歴を消去している 定期間を経過すると未返却図書を除籍図書として 図書館が定めた督促期間経過後 , 未返却のまま一 公共図書館などでは , 返却延滞者については , 拠として不可欠な記録となる。 可欠である。そのためには , 貸出記録の保存は証 るためには , 過去の貸出記録を検証することが不 器物損壊罪にあたる違法行為 ) の行為者を特定す 取りや落書きなど ) , 汚損等の迷惑行為 ( 本来は

4. 現代の図書館 2013年 09月号

コミュニティ・ファシリテイターとしての公立図書館職員 147 すると , 図書館内部における階統的管理体制 全体を俯瞰し , まちづくりの焦眉の課題を把握 が専門業務遂行にあたっての自立性を制限し し , その課題解決のためにどのような役割が果た ているのではなく , 図書館を包含する全体機 せるのか , 包含組織と緊張をはらみながらも建設 構の管理体制が , 図書館という組織自体の自 的な対話を重ねてゆく。このような作業を続ける 立性を奪っていると考えるのが妥当であろう。 ことによってはじめて , 職員集団のあり方 , 人材 結論の部分は , 公立図書館が行政施策の一つと 育成のあり方についても , 議論の俎上に載ってく るのではないだろうか。現在の公立図書館の実状 して税を財源に経営・運営されていること , ある いは図書館が独自の予算編成権や人事権をもたな を見るとき , その隘路を切り開いてくれるのは , いことからも , 自明のことだといえる。すでに述 このような地道な取り組みしかないように思える のである。 べたように , 現在の公立図書館が典型的な非正規 労働の職場となっているのも , それぞれの自治体 地域社会のファシリテイター が厳しい財政環境のもと , 定数を削減し , 非常勤 職員の増大 , 業務委託の拡大 , 指定管理者の導入 をはかってきた結果である。しかし , この論考で ・ 1 . 高齢社会と図書館 大切なのは , 排他的な議論を誘発しかねない司書 の「専門性」を見つめ直し , 個々の職員の専門性 いま , それぞれの市町村が最も頭を悩ませてい る課題は何だろうか。 よりも , 職員集団・組織の専門性に着目し , その おそらく , 少子高齢社会のなかでのコミュニ 組織と包含組織との関係性を問うている点であ ティのあり方ではないだろうか。 る。 西尾勝は , 先程の引用に続けて , 自治体職員の 図 1 は , 今後 2100 年までの東京都の人口の変 究極的な拠り所 , 本質は何かと問い , それは「ま 遷を推計したものである。 2020 年にピークを迎 え , その後は坂を駆け下りるように減少してい ち」の全体像を把握し , 行政サービスの全体像を く。一方 , 高齢者の人口比率は増加し , 2020 年 把握するなかで涵養される「公共感覚」ではない には東京に住む 4 人に 1 人が 65 歳以上となり , かとこたえている。保育士を例に , 公務員の保育 士もいれば , 民間の保育士もいるなかで , 公務員 一人暮らしの高齢者も 84 万人に達すると推計さ の保育士の優位性について , 次のように述べてい れている。 このような将来予測のもと , 地域福祉 , あるい る。 「 ( その優位性とは ) 自分のまち全体の保育の は地域防災の観点からも , 高齢者の孤立を少しで も緩和し , ともに支えあうコミュニティを創出し 状況 , あるいは公設保育所や民間保育所の実態 ていくことが喫緊の課題とされている。 2013 年 がどうであるかをきちんと把握できているとい 度予算においても , 各市区町村とも共通の問題意 うことである。待機児の推移であるとか , 公 哉を抱き , 関係事業費を計上している。 設・民営の良い面と悪い面についても , しつか たとえば足立区では , 2013 年 1 月 1 日に「孤 り説明できるはずだ。また , 出産の悩みや小学 校入学への不安など , 直接保育に関係のないこ 立ゼロプロジェクト推進に関する条例」を施行 とについても , きちんと役所に橋渡しできる人 し , 2013 年度予算には事業費 1 億 997 万円を計 が , 公務員である保育士なのである。民間の保 上している。図 2 は , そのイメージ図である。 このように , 現在 , 各市区町村の最大の課題の こうした責務はない。税金をもって雇 育士に , ーっである高齢社会対策 , あるいは高齢化したコ われている公務員であればこその使命が , ミュニティの活性化について , 公立図書館はどれ にあるのではないか。」 6 ) 公立図書館の職員にとっても , 事情はまったく だけ明確な問題意識をもって取り組んでいるだろ 同じだと思われる。図書館のなかだけで現在の課 うか 2001 奛月に告示された「公立図書館の設置 題や将来のあり方を論ずるのではなく , 行政施策 一一二卩

5. 現代の図書館 2013年 09月号

VOL51 no. 3 2013.9 徳 現代の図書館 Libraries Today ISSN 0016 ー 6332 男女共同参画センターライブラリーー平等なアクセスを基盤とした 0 図書館マネジメントのキーワード 0 日本図書館協会現代の図書館編集委員会 日本における NPM—「公共性」の観点からの再評価・宮﨑文彦 日本の図書館における資金調達ー現状と展望・福田都代 公共サービスの評価における理論と実践・山谷清志 コミュニティ・ファシリテイターとしての公立図書館職員 ・木下究 BCP 策定のためのポイントと課題・昆正和 日本とアメリカにおける図書館の経営戦略・小泉公乃 アドボカシーーアメリカ政治の一断面・河田潤一 図書館データマイニングのすすめー図書館マーケティングの可能性 を広げるために・南俊朗 図書館における情報セキュリティ対策のあり方と個人情報保護 ー指定管理者制度 , 貸出記録の保存 , 匿名化 , ビッグデータ活用 への懸念を手がかりに・新保史生 情報リテラシー・青木玲子 市立文聿館 160887403 一般

6. 現代の図書館 2013年 09月号

126 現代の図書館 Vol.51 N 。 .3 ( 2013 ) 日本の図書館における資金調達 ◆特集◆回ロ住マ区ツ目回目 ・現状と展望 1 はじめに PPP, 資金調達 , クラウド・ファンディング キーワード : 公共図書館 , ファンドレイジング , 寄付活動 , ふくだいくよ : 北海学園大学 版される書籍の中から「利用者に求められる資 式で開館した図書館がある。毎年 8 万点前後 , 出 書を募り , それで蔵書のほとんどをまかなう」方 田町図書館のように , 設立当初から「広く寄贈図 福島県矢祭町のもったいない図書館や宮城県柴 が落胆して帰るなどといった残念な状況があるだ 図書類が新刊書に更新できないため , 成人利用者 童書が十分に揃っていなかったり , 実用書や参考 め , 子どもたちが来館しても , 借りたいような児 小規模の公共図書館では資料費が不足しているた 果的なサービスを提供することは困難である。中 利用者に求められる最新の資料を揃えられす , 効 実施しようとも , 十分な予算が得られなければ , 義がある。どんなに熱心に利用者へのサービスを を掲げて始まった制度だが , 背景 . には節約至上主 施設の運営に民間のノウハウ活用するという目標 ことに重点が置かれているように思われる。公共 を可能な限り低コストに抑え , 運営費を節約する 制度の主たる目的は , 依然として資料費や人件費 書館の運営を手がけている。しかし , 指定管理者 み , さまざまな企業や NPO 組織が各地で公共図 日本では近年 , 図書館の指定管理者制度が進 福田都代 料」を図書館員が選べ , 雑誌や視聴覚資料の乏し い購入予算を増額する努力を実らせ , 必要な資料 を購入できる余裕をもちたい。 また , 全国的に正職員の数を削減して , 不安定 な雇用条件のもとで働くスタッフが増加している ため , 司書としての働きに見合った待遇を確保す ることが困難になり , 経験を積んだ将来有望な司 書たちが職場を去らざるを得なくなる。司書が 「官製ワーキングプアー」の代表とみなされる状 況は憂慮される。単純な表現かもしれないが , 結 局のところ , 資料 , 施設および人員の問題を解決 するために , 図書館に最も必要なものはカネであ る。 アメリカでは公共図書館の増改築 , 人件費およ び資料費の削減の対案として資金調達活動が活発 に行われてきた。大学図書館においても , 図書館 長が資金調達活動に直接関わったり , 大学で雇っ たファンドレイサー (fundraiser) と呼ばれる資 金調達担当官の助言を受けたりしながら , 特殊・ 貴重コレクションの構築や電子化にまつわるシス テム構築費用などを確保するため , 篤志家や全米 各地の財団に寄付や補助金を広く求めている。ま た , 図書館に対して財政支援を行う各種の財団が 数多く存在する。イギリスでは大英博物館を創設 した例にみられるように , 宝くじの収益の一部を あてて , 資金を調達する活動が従来から行われて 日本では 2011 年に新たな寄付金制度が実現さ れ , 日本ファンドレイジング協会が 2009 年に発 足 , 2010 年以降 , 個人や団体の寄付に関する

7. 現代の図書館 2013年 09月号

154 現代の図書館 VoI. 51 No. 3 ( 2013 ) なことになってしまう。しかし適切に作られた BCP があれば , 計画に沿って合理的に動けるた め , 場当たり的に対処するよりもスタッフの労働 負荷や費やす時間を軽減でき , ムダな支出も生じ ない。復旧もはかどることになる。 また , BCP は事業者としての社会的使命や責 任を明確にした計画であるため , 事業停止による 利害関係者への影響を軽減できるというメリット がある。インフラ事業者やサプライチェーンに参 加している製造業などは , BCP を策定していな いと今後は生き残れない可能性もある。またこう した責任は , お客様や取引先に対するものだけで なく , 社員の雇用責任も含まれることは言うまで もない。 3 BCP 策定のポイント BCP の策定は , 防災マニュアルのように担当 社員が一人でこっこっ作るわけにはいかない。い ざというとき全員一丸となって行動するために は , トップや管理者層を交え , コンセンサスを取 りながらプロジェクトとして進める必要がある。 以下では BCP の考え方と作り方のポイントを前 半と後半に分け , それぞれ三つのステップで説明 する ( 防災点検や備蓄等の基本的な要件について は割愛する ) 。 前半の ( 1 ) ~ ( 3 ) は , BCP で最も重要な「非常事 態下での事業者としての使命と責任」およびその 「使命や責任を遂行するために必要な活動の種類 と手段」を決める作業である。 0 BCP 策定のポイント : 前半 ( 1 ) 自社にとって BCP の目的は何か ? 災害で業務が一斉に停止したとき , 自社は何を 守り , 何を維持するのかということ。社員の命と 事業資産を守るだけでは十分ではない。物流サー ビス業に例えると , 「どんなことがあってもお客 様が必要としている荷物を送り届ける」といった 目的を書き出してみるわけである。 ( 2 ) ( 1 ) の目的を達成するにはどんな活動を行えば よいのか ? 「どんなことがあってもお客様が必要としてい る荷物を送り届ける」という目的が決まれば , の目的を達成するためにやらなければいけない活 動が絞り込まれる。業務が停止した時点でのお客 様のニーズの優先順位付けとか , 輸送車両のバッ クアップ , 燃料の調達などである。 ( 3 ) ( 2 ) の活動を実行するには , どんな方法や手段 を使えばよいのか ? ( 2 ) を通じて重要な活動が決定したら , 次にこれ らの活動をどのような方法 , 手段で実現するかを 考える。大地震の直後には電気 , 電話 , パソコ ン , OA 機器などが使えず , ガソリンスタンドに 行っても輸送車の燃料を補給できる見込みはな い。そんなシビアな状況の中で , どうすれば活動 を続けることができるかを , 日常とは異なる発想 で考えることが大切である。 ー BCP 策定のポイント : 後半 後半の ( 1 ) ~ ( 3 ) は , 前半の会議で決まった事柄を 含めた BCP 文書の記載要件である。 ( 1 ) 初動対応手順に関すること これは会社の防災でおなじみの , 初期消火 , 避 難誘導 , 救護 , 二次災害の拡大防止 , 安否確認と いったもろもろの活動のことである。とくに安否 確認については , その手順 , 担当者 , 複数の確認 手段 , 報告先などをしつかり決めておく。都市部 などでは帰宅困難者の問題も起こるので , こうし た対応についても規定するのが望ましい。 ( 2 ) 災害対策本部の設置と運営 大規模災害では , ただちに災害対策本部を立ち 上げて特別な体制で業務の継続や復旧活動に当た る。重要なのは , いつ ( どんなときに ) , だれが , どこに集合するのかということ。この参集基準が あいまいだと , 肝心なときに必要なメンバーが集 まらないといった問題に直面する。災害対策本部 の運営に必要なツールやスタッフのための食料物 資などについても検討する。

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現代の図書館Ⅷ . 51 NO. 3 ・編集委員会 委員長 / 須永和之 ( 國學院大学文学部 ) 委員 / 柴田洋子 ( 国立国会図書館 ) 直江千寿子 ( 横浜国立大学 ) 依田一 ( 横浜市中央図書館 ) 米澤久美子 ( 東京都立府中東高等学校図書館 ) 特集 . 図書館マネジメントのキーワード 日本における NPM—「公共性」の観点からの再評価・宮﨑文彦 日本の図書館における資金調達ー現状と展望・福田都代ーーー・ノ % ハ、士一一一ノ 37 公共サービスの評価における理論と実践・山合清 . じ、 コミュニティ・ファシリテイターとしての公立図書館職員・木下究 BCP 策定のためのポイントと課題・昆正和 日本とアメリカにおける図書館の経営戦略・小泉公乃ーーノ 59 アドボカシーーアメリカ政治の一断面・河田潤一 図書館データマイニングのすすめー 〃 9 ノ 4 イ 図書館マーケティングの可能性を広げるために・南俊朗ーーノ 図書館における情報セキュリティ対策のあり方と個人情報保護ー指定管理者 制度 , 貸出記録の保存 , 匿名化 , ビッグデータ活用への懸念を手がかりに ・青木玲子一一一 787 ・新保史生ーーー 780 男女共同参画センターライプラリーー平等なアクセスを基盤とした情報リテラシー

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( 3 ) 重要な活動の一覧 ここには , 前半の ( 3 ) で決定したこと , つまり事 業の目的を達成するために必要な活動の一覧と , それぞれの活動を実行に移すための方法 , 手段を 箇条書きや表形式でまとめる。日常の業務手順を そのまま書くのではなく , 前に述べたように , イ ンフラなどが使えない状況のもとで , どうすれば BCP の目的に沿った活動を実現できるのかを書 4 BCP 完成後の管理と活用 くのがポイントだ。 ーティングと同じ感覚で進められる。 対処すればよいかを討論するというもの。社内 を想定し , BCP を参照しながらその災害にどう 急点検訓練」など。机上の訓練は , 何か災害事例 上の二つがある。実地では「安否確認訓練」「緊 2 回のペースで行う。 BCP の訓練には実地と机 難誘導 , 救護訓練などは , これまでどおり年 1 , まず「防災訓練」は必須である。初期消火 , 避 ( 1 ) どんな訓練を行えばよいか ? の二つだ。 はここにある。基本的な BCP の訓練の要件は次 である。 BCP に「訓練」が不可欠とされる理由 実行力や行動力を身に付けた " 社員自身 " だから BCP という名の紙の東ではなく , BCP に即して 非常時に社員を守り , 事業を守ってくれるのは してきても , ほとんど役には立たない。なせなら 出しの奥で埃をかぶっている BCP を引っ張り出 な問題もある。大地震が起きたときだけ棚や引き また , " いざというとき動けない " という切実 つかめなかったといった話はよくあることだ。 サービス業者を呼ばうとしたら , 移転して所在が と。災害が発生した際 , BCP に規定した保守 ように定期的に見直しと更新を行う必要があるこ ーっは , BCP に記載した情報が古くならない き機能しないからである。 においても管理し , 活用しないと , いざというと することが目的ではない。次の二つの意味で日常 BCP は災害が起きたときだけ取り出して参照 BCP 策定のためのポイントと課題 155 ( 2 ) 年に何回 , いつ行えばよいか ? 一般に防災訓練などのスケジュールを組み立て るときは , 会社の年間行事一覧を作成してそこに 組み込むことが多い。 BCP の訓練も同じである。 例えば防災訓練は年 1 回 , 8 月下旬 ~ 9 月 1 週目 の防災週間に行うとしたら , BCP の訓練もそこ に含めるか , あるいは人事異動のある年度初め や , 社内研修の一環として組み込む方法もあるだ ろう。 5 図書館の被害の傾向と対策 こからは後半の説明に入る。ます東日本大震 災における被災地図書館の状況を考察してみた。 目的は図書館の被災に何か特徴的な傾向はあるの か , あるとすれば BCP 上どのようなことに配慮 すればよいかを探ることである。情報源は宮城県 図書館発行『宮城県図書館における東日本大震災 の被災・復旧の記録』の他 , 宮城県 , 岩手県 , 福 島県 , 茨城県の図書館の被害状況を参照した ( い すれも参考文献を参照 ) 。ただし , 大津波による 壊滅的被害を受けた三陸沿岸部の一部の図書館は 特異なケースとしてここには含めていない。各資 料からは次のようなことがわかった。 ( 1 ) 人的被害 全体としては負傷者がほとんど出ていない。こ の理由はいろいろあるだろう。推測の域を出ない が , 例えば壁据え付けの書架を除きフロア中央の 書架は背の低いものが多いので , 本の落下による ケガはなかった , 日頃の避難訓練等の成果が出 た , といったことである。総じて図書館というの はフロア全体がゆったりとしていて , 避難しやす く安全な施設であるという印象を裏付けるもので あった。 ( 2 ) 物的損害 建物のヒビ , 壁や天井ポードの剥離 , ガラス片 の飛散 , エレベータの停止 , 照明器具の外れ , 防 火シャッターの歪み等はどの事業者にも共通する 被災事象である。図書館特有の被災事象として は , 本の落下や書架の転倒が多く見られた。これ

10. 現代の図書館 2013年 09月号

140 現代の図書館 VoI.51 N 。 .3 ( 2013 ) 【図 2 】 input 投入 output 活動結果 outcome 成果 impact 影響 出典 : 著者作成 ・インブット指標 : 全国小学校における 30 人学級の割合 , 下水道の整備率 , 児童図書館の蔵書数 , 新 生児 NICU べッド数 , 1976 年以前建築の建物を耐震化する予算。 ・アウトブット指標 : 図書館の入館者数 , べッドの稼働率 , 耐震化診断率。 ・アウトカム指標 : 渋滞原因になっている道路工事期間の削減率 , メタポ診断を受けた人の成人病予 防率 , 耐震化補強工事を受けた家屋数。作文コンクールで入賞した児童が図書館を利用した比率。 のが仕事なので , いわゆる政策形成者 , 政策決定 者である。図書館の業務であれば地元出身の有名 作家の図書館建設 ( 地域振興 ) , 指定管理者制度 の導入 ( マネジメントの基本方針の設定 ) , 児童 図書館と一般の公立図書館との統合 , 大阪府と大 阪市の統合による公立図書館の再編成・廃止など が考えられる。 ところで , 政策を考える人 ( とくに政治家 ) と 専門家との関係は , 比較的良好であった。医療や 介護 , 教育 , そして図書館などのサービスにはそ の「顧客」がいて , 多くの場合それは地域住民 , すなわち有権者だからである。たとえば , 特定課 題に対して政治が一定方向を政策で指示し , それ を現場のプロフェッショナルが知恵を出して課題 解決に向け協力する場合 , 解決「プログラム」が 作成される。図 1 でいえば①→②→③である。 こで行われる評価は当然③のプログラム評価にな る。 逆に , 現場からあがってきた課題に政治が解決 策の方向性を示す場合もある。図 1 では②→① である。当然①で示された方向にそってプログラ ムが現場主導で作成され , そのプログラム評価が 行われる。いずれにしても , プログラムとその評 価は政治家にとっても , 現場のプロフェッショナ ルにとっても , 住民視点のアカウンタビリティを 考えるときにきわめて有効なツールになる。もち ろんこの場合 , アカウンタビリティとは単なる説 明責任ではなく , プログラム活動の結果について 顧客や有権者が納得いくように説明できる , 政治 家やプロフェッショナルの能力をいう。コスト削 減は , 浪費や乱費の場合を除けば , 第一義的な問 題ではなかった。 ここに別の要素が図 1 の④に入り込ん しかし , できて , この政治家とプロフェッショナルとの良 好な関係が崩れた。それが NPM であり , 政治家 と住民はマネジメントの現場で繰り返されるコス ト削減 , 人員カットの言葉に幻惑された。コスト カットや人員削減に熱心でないプロフェッショナ ルは , 一種の抵抗勢力と見なされ , 政治家とマ ネージャーの共通の敵になった。 3 NPM の影響 20 世紀の終わりに日本では , 新しい公共部門 管理の思想が入り込んで , 評価の実践に大きな負 の影響を及ばした。すなわち新公共経営 (New Public Management :NPM) である。政策の企画 立案と政策実施部門を別組織として分け , 実施部 門のマネジメントを考える NPM の特徴は大住に よれば以下の 4 点に集約される ( 大住 1999 , p. 1 , 引用者一部修正 ) 。 ①経営資源の使用に関する裁量を広げる (Let Managers Manage) かわりに , 業績・成果 (Management by Results) による統制を行う。 そのための制度的な仕組みとして , ②市場メカニ ズムを可能な限り活用する。たとえば民営化手 法 , 工ージェンシー , 内部市場などの契約型シス テムの導入である。③統制の規準を顧客主義に転 換する ( 住民をサービスの顧客と見る ) 。④統制 しやすい組織に変革する ( ヒェラルキーの簡素 小泉改革 , 政権交代などの大きな政治的な変動