140 現代の図書館 VoI.51 N 。 .3 ( 2013 ) 【図 2 】 input 投入 output 活動結果 outcome 成果 impact 影響 出典 : 著者作成 ・インブット指標 : 全国小学校における 30 人学級の割合 , 下水道の整備率 , 児童図書館の蔵書数 , 新 生児 NICU べッド数 , 1976 年以前建築の建物を耐震化する予算。 ・アウトブット指標 : 図書館の入館者数 , べッドの稼働率 , 耐震化診断率。 ・アウトカム指標 : 渋滞原因になっている道路工事期間の削減率 , メタポ診断を受けた人の成人病予 防率 , 耐震化補強工事を受けた家屋数。作文コンクールで入賞した児童が図書館を利用した比率。 のが仕事なので , いわゆる政策形成者 , 政策決定 者である。図書館の業務であれば地元出身の有名 作家の図書館建設 ( 地域振興 ) , 指定管理者制度 の導入 ( マネジメントの基本方針の設定 ) , 児童 図書館と一般の公立図書館との統合 , 大阪府と大 阪市の統合による公立図書館の再編成・廃止など が考えられる。 ところで , 政策を考える人 ( とくに政治家 ) と 専門家との関係は , 比較的良好であった。医療や 介護 , 教育 , そして図書館などのサービスにはそ の「顧客」がいて , 多くの場合それは地域住民 , すなわち有権者だからである。たとえば , 特定課 題に対して政治が一定方向を政策で指示し , それ を現場のプロフェッショナルが知恵を出して課題 解決に向け協力する場合 , 解決「プログラム」が 作成される。図 1 でいえば①→②→③である。 こで行われる評価は当然③のプログラム評価にな る。 逆に , 現場からあがってきた課題に政治が解決 策の方向性を示す場合もある。図 1 では②→① である。当然①で示された方向にそってプログラ ムが現場主導で作成され , そのプログラム評価が 行われる。いずれにしても , プログラムとその評 価は政治家にとっても , 現場のプロフェッショナ ルにとっても , 住民視点のアカウンタビリティを 考えるときにきわめて有効なツールになる。もち ろんこの場合 , アカウンタビリティとは単なる説 明責任ではなく , プログラム活動の結果について 顧客や有権者が納得いくように説明できる , 政治 家やプロフェッショナルの能力をいう。コスト削 減は , 浪費や乱費の場合を除けば , 第一義的な問 題ではなかった。 ここに別の要素が図 1 の④に入り込ん しかし , できて , この政治家とプロフェッショナルとの良 好な関係が崩れた。それが NPM であり , 政治家 と住民はマネジメントの現場で繰り返されるコス ト削減 , 人員カットの言葉に幻惑された。コスト カットや人員削減に熱心でないプロフェッショナ ルは , 一種の抵抗勢力と見なされ , 政治家とマ ネージャーの共通の敵になった。 3 NPM の影響 20 世紀の終わりに日本では , 新しい公共部門 管理の思想が入り込んで , 評価の実践に大きな負 の影響を及ばした。すなわち新公共経営 (New Public Management :NPM) である。政策の企画 立案と政策実施部門を別組織として分け , 実施部 門のマネジメントを考える NPM の特徴は大住に よれば以下の 4 点に集約される ( 大住 1999 , p. 1 , 引用者一部修正 ) 。 ①経営資源の使用に関する裁量を広げる (Let Managers Manage) かわりに , 業績・成果 (Management by Results) による統制を行う。 そのための制度的な仕組みとして , ②市場メカニ ズムを可能な限り活用する。たとえば民営化手 法 , 工ージェンシー , 内部市場などの契約型シス テムの導入である。③統制の規準を顧客主義に転 換する ( 住民をサービスの顧客と見る ) 。④統制 しやすい組織に変革する ( ヒェラルキーの簡素 小泉改革 , 政権交代などの大きな政治的な変動
156 現代の図書館 VOL51 No. 3 ( 2013 ) らについては , 図書館内では耐震 , 固定対策を , また , 書架メーカーなどに働きかけて落下や転倒 を低減する構造のものを開発するなどの工夫も必 要だろう。 OA 機器 , AV 機器 , 各種サーバー等 のコンピュータシステムは大きな被害はなかった ようだが , 重要なデータは必す館外にバックアッ プを持っことが重要である。民間企業では本社ー 工場 , 支店間で定期的にバックアップを相互交換 しているところもある。 ( 3 ) 初動 ~ 復旧 ~ 開館まで この部分は『宮城県図書館における東日本大震 災の被災・復旧の記録』のみの参照であるが , 発 災から館内放送での呼びかけ , 避難誘導 , 利用者 帰宅の措置 , 復旧要員の参集と復旧活動まで , お おむね指揮命令に沿って適切に行動したことが見 て取れる。他の多くの図書館もこれに準する活動 ができたとすれば , 日頃の職員への防災教育と訓 練の成果であると思われる。 開館の時期については , 震災から数日後に開館 した図書館もあれば , 頻発する余震や建物への深 刻な被害などで数カ月後に再開した図書館もあ る。これらは建物の新旧や地盤の強弱など , その 場所固有の要因がある。これらの復旧の早さや遅 さから , 一概に BCP として活かせる教訓を見出 すことはできないが , 日頃から本震 , 余震を含め た転倒・落下防止 , 固定対策がとられていれば , それだけ物的被害は軽微ですみ , 開館が早まった であろうことは間違いない。 6 災害時における図書館の使命と役割 災害時における図書館の使命と役割とは何だろ うか。これを考えるには , 「 3. BCP 策定のポイ ント」で述べたように , 災害時に BCP をどのよ うに役立てたいのか , その「目的」を明確にする ことが何より肝要である。こでは BCP の導入 意義の最も大きい業種として , サプライチェーン に組み込まれている製造業の「 BCP の目的」を 例に , これと比較するところからはじめよう。 ・製造業 X 社の BCP の目的 : 「大規模災害で 事業が停止しても , 早期に生産活動を再開 し , サプライチェーン全体および工ンドユー ザーへの影響を最小限にとどめること」 では図書館の場合はどうだろう。製造業 x 社 と同じように書くことはできるだろうか。 ・ Y 市立図書館の BCP の目的 : 「大規模災害で 業務が停止しても , 早期に本の貸出し業務を 再開し , 市民サービスへの影響を最小限にと どめること」 これは間違いではないが , BCP の目的を貸出 サービスの継続に限定してしまうと , 非常事態下 での活動の緊急性や優先性から考えて , 動機がや や希薄と言わざるを得ない。そこで , もう少し幅 広い観点から図書館の持つ次のような特長に着目 して考えてみよう。 ( 1 ) 図書館の公共サービス性 どんな市民も自分の必要としている情報や知識 を知る権利があるが , 図書館はそれを保障してく れるサービスである。これは「日常」→「災害 時」に読み換えても根本的な意義や目的は変わら ない。災害時における意義や目的はこの後の ( 3 ) と ( 4 ) で具体化される。 ( 2 ) 常に不特定多数の人が出入りしている場所で あること 図書館は日中多くの利用者が出入りする場所で ある。災害が発生したとき , 一般の利用者はもと より , 特に高齢者や児童 , 身体障害者などの災害 弱者の安全をいかに守り , 家族に送り届けるかが 大きな課題となる。 ( 3 ) 人々の心のよりどころであること 私たちは知識や情報を得ることで , 心の充足や 安らぎを得ることができる。とくに災害で財産を 失った人々に対する機会均等なサービスは不可欠 であるし , 災害のトラウマや避難所の単調な生活 から人々を解放するという意味でも , 図書サービ スの果たす役割は大きい。
138 現代の図書館 Vol. 51 N 。 .3 ( 2013 ) などである ( 山谷 2012 , p. 11)0 これにあら探しをする , 重箱の隅をつつくとい う活動も含めてよいかもしれない。「私はあなた の仕事を評価する」という場合 , かなり主観と価 値判断が入った意味になり , 別の意味で難しい。 このように , 非常に多くの意味を「評価」に込め ているのが日本の状況である。だから , 本来児童 に対する教育効果 (outcome) の評価であるべき 教育評価が , 学力調査と言い換えられ , その実態 は国別や地域別 , そして最近は学校別のランキン グにかわり , 順位の上下に一喜一憂する事態が出 てくる。 ただし政策評価 , 行政評価 , 独立行政法人評価 が制度化されて 10 年以上たった 2010 年以降 , 評 価の意味については一定の了解がある。「評価」 活動が次の二つに収斂してきたからである。すな わちプログラム評価と業績測定 (performance measurement) である。プログラム評価とはプ ログラムの評価で , このプログラムとは政策や計 画の目標を達成するために考案した手段 ( 政策手 段 ) 群 , それらの選択基準 , 運用方法 , スケジュー ル , 成功・失敗の判断基準などを記述するもので ある。プログラムが政策目標の達成に貢献したか どうかという意味での有効性を調査する活動か , プログラム評価なのである (Medicare や Medicaid, Head—start program の evaluation) 。 ただし , 以下のような抽象的文言をミッション宣 言だと主張して置いたとしても , それはプログラ ムにはならないので , 評価不可能である。すなわ ち , 「公立図書館の使命は常に住民の目線に立ち , 地域の中核図書館として新しい時代の要請や , 住民の多様なニーズや課題に迅速・的確に対応 することにあります。図書館は地域住民の課題 解決や生涯学習を支えることができる存在とな ることを求められています。図書館サービスが 向上し人々へのサポートが充実することは , その地域の文化・産業の発展やまちづくりのた めの力となります。公立図書館は , こうした使 命をミッションステートメントとして表現し , その実現を目指します。」 こうした評価不可能な宣言を た首長は , とに かくなんでもよいから具体的指標を設定するよう 求め , その測定による図書館のコントロールに拘 泥しはじめるのである。しかしそれはプログラム なき似非業績測定だと , 評価の専門家からは批判 される。 もともと業績測定はパフォーマンス測定とも呼 ばれ , アメリカでは 1970 年代初めに登場した。 プログラムがその目的を達成したかどうかの有効 性 , すなわちアウトカム ( 成果 ) を数字で表した 基準を置き , この基準に向けてどれだけ実績を上 げたかの測定により , 組織の仕事ぶりの把握とコ ントロールをめざしていた。それはやがてプログ ラムの有効性よりは組織の生産性や稼働率を重視 する風潮 , あるいはコストカットを求める時代の 流れに合わせて , 数字にしやすいインブットとア ウトブットに集中するようになった。いずれにし ても , 政策評価と業績測定は異質の活動であるに しても , 同時並行的に普及し , 日本にも導入され たため , 誤解と混乱が多いのである。 このように いささか混乱気味の活動である が , 評価の使用目的は大きく二つ指摘できる。そ の一つは「評価 = 情報 ( データ ) 収集 + 分析・加 工 + 判断 + 政策提言」と考える場合である。た だ , この一連の活動をすべて自前で行うのは難し い。金銭的に余裕があればシンクタンクにデータ 収集と分析を依頼する場合もあり , 余裕がなけれ ば既存のデータベース・統計を活用することもあ る。日常的に収集し記録している情報やデータが ないときには , そもそも評価をすることができな い。それでも , 安易に目的に数値指標を付けさせ ようとし ( 利用者数や満足と答えた人の比率 ) , その達成度を測ればよいと考える人は , 評価を堕 落させる困った人である。 ところで , 自治体の公共サービスの場合 , 多く は現場の業務担当組織の自己評価の形をとるた め , データの収集や分析までは行うが , 判断の権 限までは持たない。つまりサービスの内容変更 , 規模縮小 , 廃止や停止の判断はできない。このた め第 2 の使用目的を考える必要がある。それは 「評価 = 情報収集 + 情報分析 + 評価結果の提供」 である。判断部分は外部の上司 , 選挙で当選する 人 , あるいは仕分け人に委ねるのが原則である。
162 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .3 ( 2013 ) ている。つまり , 図書館経営を論じる場合 , 図書 館が当たり前のように行ってきた業務を館種を超 えた図書館の経営戦略として位置づけ直す必要が ある。 2 経営戦略とは何か 経営戦略の概念は , Alfred D. Chandler が , & 耀〃〃イ S レれ ( 1962 ) の中で , 軍事学に おいて用いられていた「戦略 (Strategy) 」とい う概念を経営学の領域で初めて示したことによっ て生まれた 3 ) 。 1954 年に Drucker が指摘したよ , 1950 年代までは , 経営に不可欠な機能 は個別に論じられることがほとんどであったが , Chandler は彼の著作の中で , 戦略という概念を 用いることで , 組織内で拡大する各機能を統合し 0 そして , この Chandler が提示した戦略という 概念は , 1970 年代までに , lgor Ansoff, George A. Steiner, Kenneth R. Andrews, Charles W. Hofer と Dan SchendeI らによって体系的に理論 化された。 経営戦略の定義に関しても , さまざまな経営学 の研究者や実務家が行ってきたが , 伊丹敬之が , それらの経営戦略の定義を " 市場の中の組織とし ての活動の長期的な基本設計図 " 5 ) として端的に 示している。 これまでの図書館における 経営戦略の検討状況 図書館において明示的に記述された経営戦略 は , 1970 年代前半のアメリカの図書館において 長期経営計画として検討され始めたものである。 当時の経営戦略は , 経営学の領域で検討された経 営理論を数年程度遅れて図書館に適用しようとす るものであった 6 ) 。また , その多くは , 図書館の 所属母体などから経営計画を求められたことに対 応するためのものであり , 図書館が主体的に経営 戦略の立案を推進したものではなかった。経営戦 略を立案する機会は , 図書館が所属する組織で大 規模な改変がある場合などに限られていた。 3 その後 , アメリカの図書館で継続的に経営戦略 が求められるようになってきたのは , 1990 年代 からである。この頃 , アメリカを中心に世界的に も経済状況が悪化し , 図書館においても説明責任 が求められたことが理由であると考えられる。 一方 , 日本の図書館おいて経営戦略が継続的に 検討されるようになってきたのは , 2000 年代に 入ってからのことであり , その多くは長期経営計 画と呼ばれるものであった。 図書館固有の特性に基づいた 経営戦略の必要性 日米あるいは館種を問わず , 図書館において検 討された経営戦略の多くは , 適切に執行されるこ とが少なく , その経営戦略と実際の組織とが離 れ , 経営戦略という企画業務と図書館の実務とが 連動していないことが多かった。これは , 図書館 において経営戦略が検討されるようになってから の歴史が浅く , さらに従来の図書館業務と経営戦 略の立案業務はその内容が大きく異なっていたた めである。つまり , 図書館員は経営戦略の立案業 務に不慣れであり , その執行も難しかったのであ そして , 近年 , 病院や教育機関といった非営利 組織を対象にそれぞれの機関に固有の経営戦略が 検討されてきている。これは , 理念や目的が大き く異なる非営利組織においては , その組織に固有 の経営戦略が必要だからである。つまり , 非営利 組織である図書館の経営においても , 従来の方法 でうまくいかない場合には , 図書館の特性にあっ た固有の経営戦略が求められる。 図書館における経営戦略 図書館における経営戦略は , 基本戦略と個別戦 略から説明することができる。基本戦略とは , 館 種を超えた多くの図書館で共通して採用されてき たサービス , 業務 , 組織形態を統合的に記述した ものであり , あらゆる図書館で採用すべき経営戦 略である。つまりこれは , 経済環境や情報技術環 境 , またそれらに影響を受けた利用者の情報行動 4
図書館における情報セキュリティ対策のあり方と個人情報保護 183 なお , 武雄市立図書館における指定管理者制度 応が求められることもあり得るため , すべての情 導入をめぐる問題としては , 社団法人日本図書館 報を消去することは現実的ではない。このような 協会「武雄市の新・図書館構想について」 (http:// 事態を避けるために , 自治体側がすべての情報を 主体的に管理することがよいようにも思えるが , そ w w w. j 1 a. 0 r. j p / d e m a n d / t a b i d / 7 8 / D e f a u I t. aspx?itemid=1487, 2012 年 5 月 28 日 ) として , 指定 もそも , そのような管理を前提にした委託であれ 管理者による図書館運営のあり方に関わって解明 ば , 指定管理者に管理業務を委託する意味がない。 されるべき 6 項目 ( ①指定管理者制度導入の理由 よって , 指定管理者の変更が生じることも予め 想定した上で , 移行前の事業者と移行後の事業者 は何か , ②指定管理者制度導入の手続きについ て , ③図書館サービスと「付属事業」について , との間で , 移管する情報の機密性 , 完全性 , 可用 ④安定的な労働環境 , ⑤図書館利用の情報 , ⑥図 性を確保する上で必要な手続を定めるなどの対応 を事前に決めておくことが必要である。 書館利用へのポイント付与 ) が示されている。 のうち , 図書館利用の情報については , ポイント 9 ー守るべき情報 付与と一体となっている図書館利用カードについ て , 利用者の秘密を守るという観点から肯定でき 図書館において , 利用者の読書記録など他人に ないとの見解が示されている。 知られることを欲しない情報が秘密として保護さ 8 指定管理終了後の情報は何処へ ? れることは誰もが期待していることであり , 図書 館利用者も , 図書館の運営者側も , それを当然の ことと考えている。しかし , 秘密というのは絶対 指定管理者制度により図書館の運営を行う場 合 , 未来永劫にわたって同一事業者が運営を担い に他人に知られないことを意味し , それらの情報 が利用されることも想定していない。 続けるとは限らない。その際に問題となるのが , 図書館における利用者のプライバシー保護につ 指定管理者の指定期間終了後における情報の取扱 いては , 「図書館の自由に関する宣言」において明 いである。 確にされ , 「図書館員の倫理綱領」 ( 1980 年 ) にお 指定管理者が管理を受託している期間内に取り いてもその秘密を漏らさないことが定められてい 扱う個人情報については , 適切な安全管理のもと る。これによって , 利用者の読書事実や利用事実 取り扱われることが求められることは言うまでも 等の , 図書館が業務上知り得た「秘密」の保護に なく , 業務運営にあたっては , すべて指定管理者 ついては , 従来から明確な対応が行われている 5 ) 。 側が必要な情報の取り扱いを行うことになる。 利便性の向上と運用の効率化 , 運営資金の節約 指定期間が終了し , 別の指定管理者に管理業務 が , 利用者の秘密 , 利用者の守られるべき思想信 を移行することになった場合 , 業務を行うにあ 条の自由に優先することはあり得ないはずが , 最 たって取り扱ったすべての個人情報をすべて移行 近では , 利便性の追求こそが図書館運営の最優先 することはもとより , 業務から退いた事業者が保 事項であるかのような動向があることには危惧を 有していた情報はすべて廃棄・消去が実施される 必要がある。しかし , コンピュータで処理されて 覚える。 いた情報については , それらの情報が記録されて 10 」匿名化の誤解 いたサーバなどが , 引き続きその施設に設置され 利用されているような場合を除き , 業務を受託す 情報セキュリティ対策のために , 個人情報を匿 る事業者が管理していたコンピュータや , 記録媒 名化することで , その情報が漏洩した場合に第三 体に記録されている情報については , それらすべ 者からすると個人情報には該当しない情報とし てを廃棄・消去することは極めて困難である。 て , 個人への影響を減らす上で有効と考えられる また , 業務の移行後に問題が発生したような場 ことがある。また , 情報を匿名化することで , 個 合に , 前の管理者が保有している情報によって対 を
で調べたい」 ( 合法性・合規性 ) ときには評価は 役に立たない。会計検査か , 警察の捜査が使われ る。 要するに , 評価とは調べることで , 調べる前に 評価の目的 ( 何を知りたいのか ) , 調べる主体 ( 誰がいくら金をかけて調べるのか ) , 採用される 基準 ( 有効性や効率 , 公平などであり , より深い 価値観や規範の準則というときには規準 ) が明確 であるべきで , 事前評価か事後評価か , それとも 中間評価であるかは問わない。ただし , どの程度 深く広く調べ , いつからいつまで調査期間を設定 するのかは , 調べる人の都合上明確にしておく必 要がある。図 2 にあるように , 評価の対象 ( ア ウトブット・アウトカム・インパクト ) の選択 , 評価の精度 , 評価費用に関わるからである。公共 サービスとはいっても , その分野ごとに評価の方 法や評価基準 , タイムスケジュールは違う。それ を認識しているかどうかは , 図 1 を見ながら再考 する必要がある。 おわりに 紙幅が尽きたので , 最後に提言で締めくくりた い。公共サービス , とくに図書館のようなサービ スにおいて評価を試みる場合には , 以下の諸点が 重要である。 第 1 に , 何のために評価をするのか , これを確 認しなければ評価は迷走し , 関係者は負担を強い られる。場合によっては膨大で無意味な作業負担 によって評価担当者は心を病み , 大量に産出され た詳細だが難解な評価結果を見て , 混乱した意思 決定者は誤った判断をする。 第 2 に , 日本評価学会の評価士養成講座などを はじめとして , さまざまな機会によって評価の理 論を学習する必要があり , この学習によって得ら れた知見は政治家や住民の勘違いを矯正し , 公共 サービス現場の混乱を回避するために必須であ る。なぜなら評価とは多くの手法からなる応用分 野だからであり , さまざまなツールが入っている ツール・キットである。どのツールを選択するの かは現場の症状 , 政治家の意向に配慮した評価専 門家のアドバイスを受けるべきである。単純なコ 公共サービスの評価における理論と実践 143 スト削減に偏った評価は住民に迷惑をかけること を知るべきである。 したがって第 3 に , 評価を試みる前に現場では 何に困っているのか , 何のために評価をするの か , 確認する必要がある。確認をサポり , 流行し ているというだけで試みられた評価や事業仕分け が迷走する実例は多い。すなわち , 流行の指定管 理者制度を導入した結果 , 安易に専門職員を非正 規雇用することになり , 賃金・処遇の面で正規職 員に及ばず , モチベーションの維持や定着率など に悪影響が出た図書館の例がある ( 堤伸也 2013 , p. 84 ) 。本来の目的を犠牲にし , サービスの質低 下のツケを住民に強いながらコスト削減を行った 典型事例である。もちろんこうした問題を解決す るプログラムを作成する必要があるが , そうした プログラム作成を指示すべき政治家が NPM に幻 惑され , 住民の多数がその政治家を情緒的に支持 する場合 , 問題は放置される。 そもそも NPM の思考にある競争原理は , 地域 社会に敗者を作り出すことを記憶すべきであろ う。競争による勘違いのコスト削減は地域社会の 衰弱を早めるだけだったが , これもまた評価の本 来の意味を知らない人の仕業である。多元的な評 価を構想する時期に来ている。 く参考文献 > 1 ) Mathison, Sandra ed. ( 2 開 5 ) , E 〃 0 ℃ / の市〃 E ん〃朝〃 , Sage. 2 ) Osborne, David, and GaebIer, Ted ( 1993 ) , 〃怩厩 g GO 怩〃〃尾〃匚・ / / 0 にに〃〃に第〃召″ 4 / s. カレ″なレのん尸川 g にカ励け明 Plume. ( 高地高司・他訳〔 1995 〕「行政革 命」日本能率協会マネジメントセンター ) 3 ) 大住莊四郎 ( 1999 ) 「ニュー・パプリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略」日本評論社 . 4 ) 堤伸也 ( 2013 ) 「公立図書館の業務委託の実態を考察する : 2011 年「公立図書館の業務委託などに関する調査』より」 「自治総研」公益財団法人・地方自治総合研究所 , 2013 年 7 月号 . 5 ) 山谷清志 ( 2 開 8 ) 「 NPM においていかなる「責任」を実現 するか」 , 村松岐夫・編著「公務改革の突破口政策評価と 人事行政」東洋経済新報社 , 第 11 章 . 6 ) 山谷清志 ( 2012 ) 「政策評価」ミネルヴァ書房 . ( 2013.8.30 受理 )
130 現代の図書館 Vol. 51 No. 3 ( 2013 ) する , あるいは一部の場所に寄付者の名前を命名 することも行われている。命名権は期間限定だと しても , 寄付者に敬意を表する上で , 日本の図書 館でも活用できるのではないだろうか。アメリカ では寄付者自身の名前でなく , 寄付者が自分の家 族や親しい友人にちなんで命名することを希望す れば , 対応している図書館もある。 日本では以下のような事例がある。 2008 年 : 米子市・・・・・・美術館・図書館ェリアに 命名権を導入 2009 年 : 奈良県斑鳩町・・・・・・図書館のべンチや 蔵書に名前やメッセージを残すこと 2012 年 : 名古屋市・・・・・・命名権の対象を図書館 にも拡大 ⑨著名人による寄付 図書館に対する寄付は , 寄付者が著名人であっ ても , 本人の希望により控えめな寄付者である場 合 , マスコミで報道されることは非常に少ない。 アメリカでは俳優や歌手 , コメンテーターなどが 図書館に寄付したことがニュースでしばしば取り 上げられるが , 日本では以下のような事例があ る。 寄贈するプロジェクトを完了。 『 schola 』を全国の主要 50 図書館に 2010 年 : 坂本龍ー総合監修による音楽全集 た 10 ) 方法として , 文庫の設置を提案し る。同図書館ではこの基金を活かす ども福祉基金」として積み立ててい し , 2008 年から「ダルビッシュ有子 は 1 勝をあげるたびに 10 万円を寄付 「ダルビッシュ文庫」を開設。同投手 て , スポーツに関する本を揃えた 市中央図書館に , 約 200 万円をかけ 2009 年 : ダルビッシュ投手が出身地の羽曳野 ライン書店のアマゾンのサイトにリストアップ 図書館で求めている図書や資料を図書館がオン よる寄贈本集め ⑩ウィッシュ・リスト ( 欲しいものリスト ) に し , それを参考に個人がアマゾンで本などを購入 して , 図書館に寄贈する方法である。 ウィッシュリストは欧米諸国において , 結婚し たり , 子どもが生まれたカップルが受けとるプレ ゼントが重ならないように , 特定の店に「必要な ものリスト」をあらかじめ提示し , プレゼントを 贈りたい親戚や友人たちにその店で必要なものを 買ってもらう仕組みである。日本では結婚や出産 祝いには金銭でのやりとりが一般的であり , ウィッシュリストはほとんど普及していない。こ の方法を図書館向けに適用し , 「図書館の蔵書と して希望する本をリスト化して , 寄贈してもら う」方法が一般化されれば , 図書館側は不要な資 料を受け入れることを避けられ , 効率的な支援方 法となりうる。 アメリカではこの方法を採用する図書館が従来 から存在するが , 日本で知られるようになったの は 2011 年の東日本大震災で被災した宮城県の東 松島市図書館や南三陸町図書館に対して行われた ものである。しかし , この二つの図書館は被災地 の図書館であり , 蔵書が失われたという特殊事情 があって実施に抵抗感がなかったが , 図書館に よっては特定のオンライン書店と提携することに 躊躇することがあるかもしれない。 ( 1 1 ) メモリアルブック制度 2007 年より佐賀県立図書館で行われている。 佐賀県の場合は , 人生の節目となる結婚や出産 , 団体の記念行事として , 個人は 1 ロ 2 , 000 円 , 団 体は 1 ロ 5 , 000 円で申し込みを受け付けている。 寄付者が希望するジャンルの本を選ぶことが可能 になっている 12 ) 。メモリアルブック制度はアメ リカの図書館が始めたものに影響されているとみ られる。 公共投資と図書館 PPP, ふるさと納税 , 3 1 . PPP の導入 ニ公募債 日本では公的機関が行ってきた公共サービスの 一部の企画 , 運営 , 資金調達などを民間企業で分
現代の図書館投稿規定 2007 年 4 月現代の図書館編集委員会 2013 年 6 月改訂 1 本誌は日本図書館協会が発行する季刊誌であり、当協会 の会員は投稿することができる。 2 本誌は、広く世界へ目を向け、国内外における図書館や 情報提供機関等が直面する実践的課題を踏まえ、図書館 および情報提供機関等の発展に貢献する論考を掲載する 理論誌である。理論誌という性格から、原稿には、記述 にあたって可能な限りデータや客観的事実を用いること を求める。また原則として工ッセーや感想文的な原稿は 掲載しない。 3 投稿原稿は必ず未発表のものとする。原稿分量は、図・ 表・写真等を含め刷り上り 5 ~ 6 頁程度 ( 1 頁 = 22 字 x 84 行 ) が望ましい。 4 原稿の執筆は、「「現代の図書館」執筆要綱」に従って行う。 5 投稿は、下記にて随時受付ける。 [ 送付先 ] 〒 104-0033 東京都中央区新川 1-11-14 社団法人日本図書館協会現代の図書館編集委員会 E-mail : gendai@jla.or.jp 6 送付する原稿の形式は、原則として電子テキスト ( テキ ストファイル形式、または MS-WORD 形式 ) とする。電 子テキストが難しい場合は、印刷原稿を郵送してもよい。 原稿は、掲載の可否に関わらず、原則として返却しない。 7 投稿原稿の掲載の可否は、編集委員会の審議を経て決定 する。また、その際に、原稿の一部修正や書き直しを求 めることがある。なお、査読の後、掲載が決定した日を 原稿受理の年月日とする。 8 著者校正は初校のみとする。その際に、原則として大幅 な修正や追加は認めない。 9 掲載論文には、掲載誌 1 部と論文の抜刷 20 部を送付す る。 10 本誌に掲載される論文の著作権は日本図書館協会に帰属 する。著作権の扱いの詳細に関しては編集委員会に問い 合わせること。 一三ロ 己す。 4 書出しと改行は、行頭より 1 文字を下げる。翻訳の場合 の改行は、原文に準する。 5 句読点 ( , 。 ) 及びカッコ ( 「」 ) 、引用符 ( " " ) 等は明 確に付し、いすれも全角 ( 原稿用紙 1 こま ) をあてる。 6 数字は、引用文及び漢語の一部として漢数字が習慣的と なっている場合を除き、原則としてアラビア数字を用い、 半角 ( 原稿用紙 1 こまに 2 字 ) をあてる。 【アラビア数字の例】 5 冊、 50 万円、 5 分の 1 ( あるいは 1 / 5 ) 、第 5 表、第 55 条・ 【漢字を用いる例】一般に 一時的に、一見して、第三 者、数百人・・ 7 本文中の書名、誌名は「」でつつみ、雑誌論文名、記 事名は「」でつつむ。欧文書名及び誌名はイタリック 体とする。 8 文中の引用文は " " の中に入れ、また引用文が長い場 合は改行し、本文より 2 文字さげて記す。 9 外国語は、原則として慣用呼称をカタカナ書きにし、必 要に応じて人名、地名、新訳の事項名等の原綴を ( ) 内に記す。ただし同一語の原綴は、その初出の語のみ付 す。ローマ字の小文字は、半角 ( 原稿用紙 1 こまに 2 字 ) とする。 10 文中ゴシック体 ( 太字体 ) にするものの下には - ー一線を、 欧文でイタリック体 ( 斜体 ) にするものの下には、 ~ 、 . 、 - 、 -. - 線 をひく。 11 引用文献、注は脚注とせす、本文中の該当箇所の右肩に 小さく I) 、 2 ) 、 3 ) のごとく示し、別紙にその順序に配 列して一覧で示す。 12 文献の記載方法は『科学技術情報流通技術基準 SIST02 参照文献の書き方』 ( 入手先 http:〃sist-jst.jp/handbook/ sist02_2007/sist02_m. htm ) 及び「 SIST02 suppl. 参照文 献の書き方 ( 補遺 ) 電子参照文献の書き方』 ( 入手先 http://www.jst.go.jp/SIST/handb00k/sist02sup/ sist02sup—m. htm) に準拠する。 【例】 R. P.. ドーア江戸時代の教育 . 東京 , 岩波書店 , 1970 , 321P. 岩猿敏生 . 、・ A 図書館とはなにか ". 図書館ハンド ブック . 第 5 版 . 東京 , 日本図書館協会 , 1990 , p. 1- 8. 小田泰正 . レファレンス・ワークか読者援助か . 図書 館雑誌 . V 司 .59 , No. 9 , 1965 , p. 396-399. 日本図書館協会 . 、・図書館イベントカレンダー 20 開 ". 日本図書館協会 . ( オンライン ) , 入手先く http:〃 www.j la. or.j p/cale n dar. html 〉 , ( 参照 2006-02-14 ). 13 図、表、写真等は別紙とし、これに図版番号とそのタイ トルを必す記す。その挿入位置は原稿本文中に指定する。 現代の図書館原稿執筆要綱 2007 年 4 月現代の図書館編集委員会 1 原稿は横書きとし、提出後再訂正の必要がないよう字句、 内容を明確に記した完全原稿とする。 2 原稿には題名及びその英訳、キーワード、著者の姓名の ローマ字書きを添える。 3 文体は簡潔な文章ロ語体とする。漢字は原則として常用 漢字を用い、新かなづかいによる。書誌学的な理由など から、特に旧字体を使用する必要がある時は、その旨を
表 1 全国的アドボカシー団体の分布 組織タイプ ( 組織タイプ別 ) アジア太平洋系 黒人・アフリカ系 計 出典 : Strolovitch, 2 開 7 : 34. 女性権利・フェミニスト 公共利益 経済的公正 労働 移民の権利 市民的権利一その他 アメリカ先住民・インディアン ラティーノ・ヒスパニック系 数 32 40 35 8 175 153 21 137 714 割合 ( % ) 6.3 5.3 10.1 24.6 21.0 3.0 18.6 100.0 混み具合の現状を語っている。 700 余りの団体の うち , 「黒人・アフリカ系」が 40 , 「アジア太平 洋系」で 30 以上の組織が「動物園」を飾ってい る。少数派民族集団としては , 「ラティーノ・ヒ スパニック系」 , 「アメリカ先住民・インディア ン」と類別されている。 また , 「市民的権利一その他」は公民権 , 市民 的自由 , レスビアン・ゲイ・両性愛 , LGBT, 刑 事司法 , アラブ・ムスリム系 , 反人種差別 , 宗教 的少数派 , 多文化主義等を主唱する団体 , 「経済 的公正」は反貧困 , 福祉の権利 , 反ホームレス , 反飢餓を主唱する団体 , 「公共利益」は消費者団 体 , 環境保護団体 , 人種・ジェンダー・経済的公 正を主張する「良き政府」グループなどが含まれ る。「女性権利・フェミニスト」は黒人女性組織 , 生殖権主張団体 , 女性健康促進団体などを含み , 140 ほどの団体がワシントンを舞台にアドボカ シー活動を展開していることがわかる。 このように , 「アドボカシーの噴出 (advocacy explosion) 」 (Berry, 19 別 ) の時代といわれる現代 においては , 従来 , 非政府市民社会アクターとし て研究されてきたアドボカシー組織は今や , 「アメ リカのガバナンスにとって部外者ではなく , 全国 的な政治的諸制度の一つの重要な構成要素として 公的代表とアメリカ民主主義にとって重要な問題 を突きつけているのである」 (Grossmann, 2012 : 3 ) 。 アドボカシーーアメリカ政治の一断面 169 2. 「動物園」化の要因 こうしたアドボカシーの増大をもたらし では , た政治的 , 社会的な要因としてはどのようなもの が考えられようか。 こでは , 以下の 3 点のみを 確認しておくにとどめたい。 まず , 1 点目は , アメリカの多元主義的民主主 義観それ自体に求められよう。それは , 「アドボ ・システムは , 誰もがそのプロセスに入る ことができ , あらゆる見解を公平な公聴に付す , という民主的な期待を前提」としている。たとえ そこで , 「限られた人数の , しかも公選されたわ けでもないリーダーたちが , 公共的基底集団のた めに繰り返し意見を表明することに加担してい る」としても , 彼らに政治過程を満たす重要なス ペースを与え , そのことを支えるという感覚が政 治文化として共有されていることが重要である (Grossmann, 2012 : 9 ー 10 ) 。 2 点目は , アドボケート対象としての中央政府 や司法の役割の拡大である。例えば , ウオレン・ コートの司法積極主義 , ジョンソン政権の「偉大 な社会」計画 , ニクソン政権の環境保護局 , 労働 安全衛生局の創設 , カーター時代のエネルギー 省 , 教育省の新設などが , 従来地方や州政府の関 心マターであった争点を , 連邦議会や最高裁 , 大 統領の決定に委ねる場面が増大した点が指摘でき よう (Judis, 2 開 0 ) 。 3 点目は , 争点が複雑化し , 対立的になるにつ れ 3 ) , アドボカシー活動にとって「インサイド・ ロビー」や法廷闘争の手法 , 巧みな広報活動 , 優 れた資金調達力の比重が高まったことが指摘され よう。こうした政治資本は , 1970 年代 , 80 年代 を通じて専門化していくビジネス・業界ロビーに 対抗するためにも , 特に権利・市民アドボカシー にとって必要となった。そうした資源を社会の高 学歴化が用意し , 「アドボケートへの献身と欲求」 (strolovitch, 2007 : 74 ) をもつ一部の高学歴ェリー トを引きつけたのである。
( 4 ) 貴重な文化的財産である図書利用価値の大きさ 心のよりどころである図書館自体が被災して貴 重な情報資産を利用できなくなることは , 図書館 の存在意義がゆらぐことであり , BCP の目的が 果たせないことでもである。これは , 防災・減災 対策として事前に考えておかなければならない課 題である。 以上に述べたいくつかの見方や考え方を総合的 に勘案すると , 非常時における図書館の BCP は どうあるべきかが見えてくる。 7 図書館経営における BCP のあり方 ます , 前セクションで述べた図書館の使命と役 割の考え方をもとに , ( 筆者の個人的見解として ) BCP の目的をまとめると次のようになる。 ・すべての図書館利用者および職員の身の安全 を守ること。 ・心のよりどころとしての本の貸出しサービス を継続すること。 ・貴重な文化的財産である図書の保全と早期復 旧をはかること。 このような目的を持つ BCP は , 具体的 にはどのような活動要件を備えていればよいだろ こでは「初動対応のあり方」 , 「業務・ サービスの継続と復旧」の二つの側面から考えを 述べたい。なお , ひと口に図書館といっても , い わゆる「中央図書館」と呼ばれている中央組織と その傘下にある各地区の図書館 ( 地区図書館と呼 ぶことにする ) とでは , 活動内容について共通す る部分と異なる部分があると考えられる。以下で は , この点をふまえてそれぞれの BCP のあり方 を説明する。 ■初動対応のあり方 初動対応は人命の確保と二次災害拡大の防止が 最大の目的であるため , 中央・地区図書館とも採 るべき行動はおおむね共通と考えてよいと思う。 基本的な行動の流れは , 発災→身の安全確保→避 難誘導 ( 安全なエリアへの集合 ) →点呼・安否確 認→来館者への情報提供 ( 災害情報 , 公共交通機 BCP 策定のためのポイントと課題 157 関 , 道路等の周辺情報 ) →帰宅指示・・・・・・となるだ ろう。 こで留意したいのは最後の「帰宅指示」であ る。都市部では公共交通機関の途絶による人や車 の大混雑と大渋滞 , 山間部では土砂崩れやダム崩 壊 , 大洋沿岸部では大津波発生の危険などがある ため , 安易に帰宅を指示してはならない場合もあ る。市町村によっては図書館が帰宅困難者の一時 受入場所に指定されているところもあるので , 積 極的に災害時協定を結ぶなどして継続的な利用者 の安全確保につとめる必要がある。 また , 初動の際にどこまで適切かっスピーディ に動けるかは , 日常の訓練の取り組み度合いに比 例するといっても過言ではない。現行の防災訓練 だけでなく , さまざまな災害の種類や被害の状況 を想定した机上訓練 ( 机上討論 ) なども有効であ る。 ■業務・サービスの継続と復旧 ( 1 ) 中央・地区図書館共通の役割 帰宅困難者対応は初動の一環であったが , 避難 施設としての提供はその後を継ぐ重要な活動であ る ( 気仙沼市本吉図書館などの例 ) 。また , 被災 状況 , 復旧状況 , 安否不明者に関する情報は一過 性のものではないので , 中央図書館と各地区図書 館のネットワークを活かして , 継続的な情報収集 と発信を行えるようにしなければならない。 次に図書の巡回・出張貸出しサービスの充実で ある。本節冒頭では BCP の目的として「心のよ りどころとしての本の貸出しサービスを継続する こと」と述べた。日本図書館協会の活動記録に は , 都内の図書館職員が被災地を巡ってさまざま な支援を行ったことが記載されている。こうした 活動については , どこへ ( 避難所 , 学校 , 介護施 設 , 保育園等 ) , どんな移動手段で , どんな図書 を持参し , どのようなサービス ( 貸出し , 読み聞 かせ等 ) を提供するか , スタッフ ( 職員 , ボラン ティア等 ) は何名必要か , こうした活動を速やか に実行するためには事前にどんな情報が集まれば よいかといった段取りや手順をあらかじめ BCP に規定しておくのが望ましい。