1 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .3 ( 2013 ) らない。 独立行政法人国立女性教育会館 ( 以下 , NWEC) の「女性関連施設データベース」 4 ) によると , 女 性関連施設と総称されるこれらのセンターは , 全 国に分布して約 350 館ある。 1999 年に「男女共 同参画社会基本法」が制定され , 男女共同参画社 会の推進が国民の責務となった後 , 名称も男女共 同参画センターと変更する施設が多くなっている。 男女共同参画センターは , 基本的には , 情報提 供 , 学習 , 市民交流 , 研究調査 , 情報提供などの 機能を持ち , その機能の統合的な運営によって , 男女共同参画社会の推進を目指す地域拠点施設と して位置づけられている。情報提供機能として付 属する図書室 , 情報センター , 情報コーナーを運 営する。 350 館のうち情報発信のための固有のスペース があるところが 307 館 , NWEC の 12 万冊を頂点 として蔵書が 5 万冊以上の施設は 9 施設 , 1 万冊 から 5 万冊以内を所蔵するのは 51 施設である。 男女共同参画センターライプラリーは , スペース は狭く , 所蔵図書は少ないが , 公共図書館と同様 に市民サービスを担いつつ , 専門図書館として , 、ニコミや市民活動資料などの一次史料など多様 な形態の資料を収集 , 全国各地で情報サービスを 展開している。 男女共同参画ライプラリーの 情報リテラシー 1 . 平等なアクセスを目指して 専門図書館としてのミッションは , 1975 年 , メキシコで開催された第 1 回「世界女性会議」に 遡る。この会議は , 女性政策展開のための具体的 な世界共通の目標が話しあわれた会議であった。 同時に日本の女性政策進展のきっかけとなり , 現 在の「男女共同参画センター」設立の起動点とも なった会議である。その会議で提案された重要課 題は , 「平等・平和・開発」であるが , 「情報はカ」 として注目され , その目標を達成するためには , 世界の女性が社会の現状を知り , 自らのカで自立 して生きるために , 男女の「情報アクセス格差」 2 の解消が目指された。平等な情報アクセスを支援 することこそ , 男女共同参画センターライプラ リーの基本的なミッションであった。 1970 年代 には「情報リテラシー」という言葉は日本の図書 館界でも一般的ではなかったが , 情報にアクセス できない女性のための情報リテラシー教育を目指 して男女共同参画センターイプラリーは現在に 至っている。 2. 課題解決のための情報リテラシー 1995 年 , 第 1 回のメキシコ会議 ( 1975 年 ) に 続く第 4 回の「世界女性会議」が北京で開催さ れ , 日本からも 5000 人の女性が参加した。この 会議では , 以下にあげる A から L の , 男女平等 な社会を目指して解決すべき 12 項目の課題 , A 「女性と貧困」 , B 「女性の教育と訓練」 , C 「女性 と健康」 , D 「女性に対する暴力」 , E 「女性と武 カ戦争」 , F 「女性と経済」 , G 「権力及び意思決 定における女性」 , I 「女性の人権」 , J 「女性とメ ディア」 , K 「女性と環境」 , L 「女児」が , 北京 行動綱領として採択された。以後 , 国の行動計 画 , 白書などもこの項目を支柱として構成され た。北京行動綱領の項目は , 専門図書館として男 女共同参画センターライプラリーにおける , 情報 リテラシーを必要とする重要な課題となった。こ れらの課題には , 喫緊に解決すべき課題もあり , また実態はあっても社会的に顕在化していない課 題もある。 同時に北京行動綱領の項目は , 取組むべき内容 とともに , 情報リテラシーを必要とする利用者の セグメント化を明らかにした。生活するための課 題解決を必要としている人々である。たとえば行 動綱領 A 「女性と貧困」は , シングルマザーや , 仕事を得られない若者もターゲットとなるであろ う。また , 女性と暴力では , ドメスティクバイオ レンスの被害者 , また加害者もターゲットとな る。今 , 日本の公共図書館では , 従来の大人 , 子 ども , 障がい者・高齢者といった利用者のセグメ ント化をより多様に展開して , 外国人や人種・民 族なども視座に入れた情報リテラシーサービスが 行われつつある。しかし , 性による ( 男性 , 女 性 , 性的マイノリティー ) 利用者のセグメント化
男女共同参画センターライプラリー 191 キャッチコピー "We Can End lt" に賛同する男 性は , lwillpromise とサインをする。写真 ( 下 ) は , 図書館の cafe スペースにあるキャンペーン ポスターで , 写真 ( 上 ) は , 男性図書館員のサイ ンがある。よく見るとこのサインのなかには , ロ ンドン市長のサインもあり , キャンペーン開始時 には市長とともに記者会見を行ったそうである。 女性センターは , このキャンペーンを運営し , 5000 人の男性に確実に DV のメッセージを伝え , ワークショップには 5000 人が参加するように目 標値を定めて , 成果を確かなものとしているこの 目標値を定めた事例は日本でも , 参考になる。 ( 2 ) 地域で加害者である男性へ伝える キャンペーン "Ring the Bell 2013 年 3 月に開催された第 57 回婦人の地位委 員会 (CSW57) の討議テーマは , 「親密な関係に 関する女性や女児に対する暴力の廃絶」であっ た。この委員会会期中に発表された国連も共催す る「 RingtheBeII 」キャンペーンのインドの事例 を紹介する。暴力をふるう男性の声が聞こえる家 を近所の男性たちが訪ねて , 玄関ドアのベルを押 す , 出てきた加害者男性に無言のメッセージを伝 える。 Y 。 uTube の映像を使って , 男性から男性 へのメッセージを印象づけるものである。この キャンペーンでは , 男性が中心となった DV を テーマとする地域研修プログラムも伝えている。 ( 3 ) SNS を活用した ロンドンの公立図書館のカフェに掲示されたキャンペーン ポスター上のポスターには 1 will p 「 omise " のサイン "Stop the VioIence" キャンペー / DV の情報リテラシー支援は , 前述したように 生も ) 手元にある iPhone にアプリケーションプ 第一義は被害者にあり , 加害者の暴力 , 追跡から 被害者を守ることである。公にできない支援があ ログラムを提供している。 り , 一方緊急性のある支援でもある。支援の社会 アプリケーションプログラムには , 以下の五つ 的な体制が整っても , 被害者が孤立することもあ のアクセスがデザインされている。 ① Choose a circle of 6friends ( 常にアクセス る。 DV の支援に必要な情報を , SNS を活用して 可能な 6 人の友人・知人 ) 世界的なネットワークで個人的に届けるキャン ② Groupe SMS and GPS ( ショートメッセー ペーンが始まっている。このキャンペーンは , ジとともに出会いの場所など地図が利用でき Face book, Twitter, flickr, YouTube を駆使し て情報の交換 , また DV に反対する声明 , 支援 る ) ③ Emergency and custom hotlines ( 病院や の募金活動なども展開しながら , 女性の ( 被害者 シェルター , 支援団体など ) のみならず , デート DV の予防のために女子学 PLEDGE DOMESTtC ABUSE WE CAN END 灯イ ” 13 ) 線 DOMESTIC ABUSE WE CAN ENDIT 、 14 )
男女共同参画センターライプラリー 187 男女共同参画センター ライブラリー ~ 平等なアクセスを基盤とした情報リテラシー 青木玲子 サービスのあり方を実感し , 挨拶は錯覚ではな く , 今後 , 日本の男女共同参画センターライプラ リーと公立図書館と館種を超えて連携する可能性 があることを確信するものとなった。 情報に対する平等なアクセスを基盤とする多様 2012 年夏 , ヘルシンキで開催された IFLA の なサービスは , 男女共同参画センターライプラ 開会式に出席していた筆者は , IFLA 代表の挨拶 リーが目指す情報リテラシーサービスの基盤でも を聞きながら , 図書館の大会ではなく , 男女共同 ある。本稿は , 男女共同参画センターライプラ 参画センターライプラリー 1 ) の大会の挨拶を聞 リーの情報発信の考え方 , また利用者のニーズ , いているような錯覚にとらわれた。地域の生活に 情報リテラシーサービスの特色を明らかにするこ 根ざした学習の場として , またコミュニティー活 とによって , 公立図書館や大学図書館との館種を 動の場として , 地域の機関と共同しながら図書館 越えた連携の可能性について考察するものであ が市民の生活貢献に力を注ごうという大会委員長 る。またマルチメディアを使用した海外の図書館 のメッセージであった 2 ) 。 や女性団体の情報サービスの事例を紹介しつつ , 筆者の関係する男女共同参画センターライプラ 男女共同参画センターライプラリーの情報リテラ リーは , 男女共同参画社会の推進をミッションと シー実践が進展することを期待するものである。 した施設に付属するライプラリーである。フィン ランドは , 一貫して格差のない平等な社会の確立 / 男女共同参画センター を社会政策の中心課題としてあげてきた。情報へ ライプラリーの概要 の平等なアクセスを確保し , 情報による社会的格 差を埋める機関として図書館は社会に認知されて 1975 ~ 1985 年の「国連婦人年の十年」を契機 いる。その後公立図書館を訪れて , Free access として , 世界的にも女性の地位向上を目指す政策 tO information, Sense Of community, Open- が進んだが , 日本においてもその女性政策を展開 mindness, Transparency, Reliability, Equality 3 ) する施設が 1977 年以降 , 全国各地に設立された。 をミッションとしてはっきりと打ち出した情報 各施設の名称は , 婦人会館 , 女性センター , 男女 共同参画センター , 女性教育会館などと多様であ る。名称は違っても女性の地位向上 , 女性の人権 を擁護することのミッションは一貫して今も変わ はじめに 1 あおきれいこ キーワード : 男女共同参画センターライプラリー 情報リテラ
アドボカシーーアメリカ政治の一断面 167 ◆特集◆画ロロ図正目回目 アドボカシー ーみリカ政治の一断面 アドボカシーの噴出 1 . 長い 60 年代 1 等なアメリカを目指す黒人の公民権運動に多大な 離法に基づく人種差別主義の廃絶 , 差別のない平 SDS を中心とした「新しい左翼」は , 人種分 democracy) 」の意義を強く打ち出した。 提供」しようと , 「参加デモクラシー (participatory うに組織され , 人間が共に参加するための方途を の質と方向を決定し , 社会が人間の独立を促すよ 「社会的な決定への個人の参加が自分たちの生活 となった。後者は , 主として白人中産階級学生が , え , 「産業社会」的価値観を根底から問い直すもの 前者は , 環境問題に関する考え方を根本的に変 言である。 (SDS) による組織綱領のポート・ヒューロン宣 ガン州ポート・ヒューロンでの民主社会学生同盟 ンの著作『沈黙の春』の出版 , もうーっは , ン その一つは , 海洋生物学者レイチェル・カーソ る。 重要な二つのマニフェストが表明された年であ シー (advocacy) の展開と方向性を考える上で 1962 年は , その後のアメリカにおけるアドボカ オバマ大統領がこの世に生を受けた翌年の かわたじゅんいち : 神戸学院大学法学部 キーワード : アドボカシー , アドボケート , アメリカ政治 , ルトウェイ内部政治 , 利益団体 , ロビイング ィヾ 河田潤 影響を受けてのものであった。公民権運動の指導 者キング牧師が「私には夢がある」演説を行った 1963 年には , べティ・フリーダン (Betty Friedan) が『新しい女性の創造』 (The 純川怩」ⅵの を出版した。女性に個としての自立を求める同書 は , 高学歴の中産階級女性を中心に広く受け入れ られた。フリーダンは , 1966 年に全米女性組織 (NOW) を結成した。 NOW は躍進し , 戦前から の婦人有権者同盟 (LWV) などの組織も活気づ いた。 公民権運動 , 「新しい左翼」 , NOW などは , 黒 人 , 少数派民族集団 , 女性を「二級市民」に押し やってきた社会構造を問い質し , 「物質主義的価 値」への疑念を広く呼び起こした。 2. 自由主義の終焉 総じていえば , これらの運動は , 労組を含むビ ジネス・業界団体が主導する資本主義的民主主義 体制に異議を申し立てるものであった。政党・議 会・行政に , 米国農業局連盟 (AFBF), 米国労 働総同盟・産業別労働組合会議 (AFL-CIO), 商 業会議所 (Chamber of Commerce) , 全米製造業 者協会 (NAM) などの組織化された経済関連団 体がロビー活動を通して圧力をかける集団的多元 主義政治への挑戦といってもよかろう 1 ) 。 「ベルトウェイ内部」で進行する利益団体と政 府の無原則な取引 = 「利益集団自由主義 (interest group liberalism) 」は , 公共利益や社 会的公正の実現を困難にしていった。政治学者の セオドア・ロウィは , そうした戦後アメリカ政治
については , まだまだ踏み込まれていない課題で ある。 野末俊比古は『情報リテラシー教育の実践』 5 ) において情報リテラシーの「リテラシー」とは , 「あるコミュニティー 一般には , ( 国・地域 ) に おいて生活 ( 機能 ) するために必要な読み書きで あり」 , 情報リテラシーを「問題解決のために情 報を主体的に活用する能力」と定義している。ま た 2008 年の文部科学省報告『これからの図書館 像一地域を支える情報拠点を目指して』 6 ) では , 「地域の課題を行なう図書館」が提案されている。 この報告書にかかわった根本彰は「理想の図書館 とは何か : 地域の公共性をめぐって』 7 ) において 「図書館の利害関係者は , 今来館している利用者 だけではない。あらゆる場面で情報や資料を必要 とするのに図書館を利用していない人が多いの は , 図書館が自分たちのニーズに応える存在では ないと考えるからである」と述べている。 従来の図書館における所蔵本を使って調べる , 探す情報リテラシーから ICT を駆使した情報リ テラシー , 地域における課題解決への多様な情報 リテラシーへと展開する議論に , 男女共同参画セ ンターライプラリーはあまり参画する機会はな かったが , すでに現場では , 社会の実態や暮らし の変動を受け止めて , DV のような喫緊に解決し なければならない情報リテラシー課題への取り組 みに , 動き出している。 ドメスティクバイオレンス (DV) 廃絶のための情報リテラシー支援 2013 年 6 月 , WHO ( 世界保健機構 ) は , 世界 の女性の 3 人に 1 人は , 配偶者 , 恋人からの暴力 の被害にあっており , アジアと中東で最もその割 合が高いという調査結果を発表した。 日本では , 内閣府「男女間における暴力に関す る調査 ( 平成 23 年 ) 」 8 ) によると , 配偶者 ( 事実 婚や別居中の夫婦 , 元配偶者も含む ) から「身体 に対する暴行」 , 「精神的な嫌がらせや恐怖を感じ るような脅迫」 , 「性的な行為の強要」のいすれか について「何度もあった」という人は , 女性 10.6 % , 男性 3.3 % , 一度でも受けたことがある 3 男女共同参画センターライプラリー 189 人は , 女性 32.9 % , 男性 18.3 % となっている。 4 人に 1 人が , 何らかの形で暴力を受けていること になる。 統計が示すとおり , 男性から女性への暴力が多 い。男女共同参画センターでは , 相談員など専門 家が中心となり , 関係機関との連携をとりなが ら , ライプラリーの情報提供も含めてセンターの 総合力で被害者支援をしている。 DV の防止のため情報リテラシーは , ( 1 ) 被害者 自身の支援と ( 2 ) 社会的な認知のための二つの側面 から取り組まなければならない。 1 . 被害者の支援 家庭内での私的な出来事として表面化しなかっ た DV は , 痛ましい殺人事件や女性たちの声か ら , 2001 年には「配偶者からの暴力の防止及び 被害者の保護に関する法律」が成立した。相談電 話など , 支援を求めて男女共同参画センターを訪 れる被害者に対する支援と関係機関連携は , 整備 されつつある。 DV の被害者は , 精神的 , 身体的 , 経済的なダ メージが大きく , 「情報を活用する力」を得て , 「主体的に生きる力」を取り戻すまでに長い時間 がかかる。 DV の被害者は , DV そのものについ ての認識がない場合があり , また精神的な束縛を 受けることによって , 家族や友人 , 地域のコミュ ニティーからの情報援助が受けられず , 孤立して いることが多い。男女共同参画センターが全国に 350 館あるとしても , 市町村レベルでは少ない。 近くで情報を得ることのできるアクセスポイント は多いほどよく , 公共図書館は , 少なくともフ リーにアクセスできる身近な施設として , 情報ア クセスポイントとなりうる。 DV の当事者は , 公 共図書館の利用者であるかもしれないのである。 しかし , なんらかのアピールをしなければ日本で は図書館に DV の情報があるとは思わないであ ろう。 1996 年に出版された TReference Services for the unused 』 9) には , 図書館のレファレンスサー ビスを提供されていない ( 利用できない ) 人々と して , 精神的な疾患を抱えているとライプラリア ンが思っている人々 , また学校へ行かない学生 ,
表 1 全国的アドボカシー団体の分布 組織タイプ ( 組織タイプ別 ) アジア太平洋系 黒人・アフリカ系 計 出典 : Strolovitch, 2 開 7 : 34. 女性権利・フェミニスト 公共利益 経済的公正 労働 移民の権利 市民的権利一その他 アメリカ先住民・インディアン ラティーノ・ヒスパニック系 数 32 40 35 8 175 153 21 137 714 割合 ( % ) 6.3 5.3 10.1 24.6 21.0 3.0 18.6 100.0 混み具合の現状を語っている。 700 余りの団体の うち , 「黒人・アフリカ系」が 40 , 「アジア太平 洋系」で 30 以上の組織が「動物園」を飾ってい る。少数派民族集団としては , 「ラティーノ・ヒ スパニック系」 , 「アメリカ先住民・インディア ン」と類別されている。 また , 「市民的権利一その他」は公民権 , 市民 的自由 , レスビアン・ゲイ・両性愛 , LGBT, 刑 事司法 , アラブ・ムスリム系 , 反人種差別 , 宗教 的少数派 , 多文化主義等を主唱する団体 , 「経済 的公正」は反貧困 , 福祉の権利 , 反ホームレス , 反飢餓を主唱する団体 , 「公共利益」は消費者団 体 , 環境保護団体 , 人種・ジェンダー・経済的公 正を主張する「良き政府」グループなどが含まれ る。「女性権利・フェミニスト」は黒人女性組織 , 生殖権主張団体 , 女性健康促進団体などを含み , 140 ほどの団体がワシントンを舞台にアドボカ シー活動を展開していることがわかる。 このように , 「アドボカシーの噴出 (advocacy explosion) 」 (Berry, 19 別 ) の時代といわれる現代 においては , 従来 , 非政府市民社会アクターとし て研究されてきたアドボカシー組織は今や , 「アメ リカのガバナンスにとって部外者ではなく , 全国 的な政治的諸制度の一つの重要な構成要素として 公的代表とアメリカ民主主義にとって重要な問題 を突きつけているのである」 (Grossmann, 2012 : 3 ) 。 アドボカシーーアメリカ政治の一断面 169 2. 「動物園」化の要因 こうしたアドボカシーの増大をもたらし では , た政治的 , 社会的な要因としてはどのようなもの が考えられようか。 こでは , 以下の 3 点のみを 確認しておくにとどめたい。 まず , 1 点目は , アメリカの多元主義的民主主 義観それ自体に求められよう。それは , 「アドボ ・システムは , 誰もがそのプロセスに入る ことができ , あらゆる見解を公平な公聴に付す , という民主的な期待を前提」としている。たとえ そこで , 「限られた人数の , しかも公選されたわ けでもないリーダーたちが , 公共的基底集団のた めに繰り返し意見を表明することに加担してい る」としても , 彼らに政治過程を満たす重要なス ペースを与え , そのことを支えるという感覚が政 治文化として共有されていることが重要である (Grossmann, 2012 : 9 ー 10 ) 。 2 点目は , アドボケート対象としての中央政府 や司法の役割の拡大である。例えば , ウオレン・ コートの司法積極主義 , ジョンソン政権の「偉大 な社会」計画 , ニクソン政権の環境保護局 , 労働 安全衛生局の創設 , カーター時代のエネルギー 省 , 教育省の新設などが , 従来地方や州政府の関 心マターであった争点を , 連邦議会や最高裁 , 大 統領の決定に委ねる場面が増大した点が指摘でき よう (Judis, 2 開 0 ) 。 3 点目は , 争点が複雑化し , 対立的になるにつ れ 3 ) , アドボカシー活動にとって「インサイド・ ロビー」や法廷闘争の手法 , 巧みな広報活動 , 優 れた資金調達力の比重が高まったことが指摘され よう。こうした政治資本は , 1970 年代 , 80 年代 を通じて専門化していくビジネス・業界ロビーに 対抗するためにも , 特に権利・市民アドボカシー にとって必要となった。そうした資源を社会の高 学歴化が用意し , 「アドボケートへの献身と欲求」 (strolovitch, 2007 : 74 ) をもつ一部の高学歴ェリー トを引きつけたのである。
190 現代の図書館 VoI. 51 No. 3 ( 2013 ) マルチメディアにアクセスできない人々などとと 各地域で公共図書館と男女共同参画センターライ もに , DV の被害女性が挙げられている。人が多 プラリーの情報リテラシー共有のための連携を期 勢出入りするカウンターで被害者との対話は難し 待したい。特にデート DV については , 大学図 い。しかし , 情報ニーズは必ずあり , ライプラ 書館 , 学校図書館連携を特に期待するものであ リーからの支援のインフォメーションは , 何らか る。 の方法で必ず届けられなければならないと述べら 2 . DV の廃絶に向けての れている。 社会的な情報リテラシー 図書館における DV 被害者への情報サービス のための研究は進んでおり , 米国図書館協会 暴力の問題は , その実態について社会的に共有 (ALA) は , 「過去 1 年間で最も優れた英語の図 されるべき情報リテラシーの課題である。 DV に 関する多数の図書 , 統計 , さまざまな支援を伝え 書館研究論文」として , テキサス大学情報学部の ウェストプルック (Lynn Westbrook) 助教によ るパンフレットや被害者に配布する支援カード , る論文「文脈内における危機情報ニーズの理解 : パープルリボンキャンペーンなど , 多くの試みか 親密なパートナーによる暴力からの生還者の場 なされているが , しかし , この 10 年間に DV 件 合」 10 ) を発表した。 数が減少することはなく , 2 年半たった東日本大 親密な関係のパートナーによる暴力の被害者は 震災の被災地での DV も伝えられている昨今で アメリカでも後をたたす , ウェストプルック助教 ある。社会的なキャンペーンといってもターゲッ は , 被害者にとって支援サービスに関する情報は トが絞られす , 漠然としたキャンペーンに留まっ 必須であるものの , 情報へのアクセスが十分に保 ている。問題解決のための情報リテラシーという 正されていないことを指摘すると同時に , 公共図 観点が必要ではないだろうか。 DV の廃絶ために 書館はコミュニティの情報アクセスを支援する重 は , 「強者から弱者への暴力」である DV の本質 要な公共機関として , 一般的にその機能が十分活 的な問題をどのように伝えるか , 誰が , 誰に , ど 用されていないと主張する。ウェストプルック助 のようなツールを使って伝えるのか。 DV を単に 教は , DV の被害者ニーズや支援情報の研究デー 「知識」に留めることなく , 廃絶のための具体的 タを収集し , そのデータを公共図書館サービスと な行動ができるように , 多くの人々が集まるス 関連付けながら , 「日常生活における情報探索理 ポットで情報を伝えていかなければならない。 言侖 (everyday life information seeking theory : 次の事例は , 図書館と女性センターの連携 , 男 ELIS theory) に照らして分析している。 性にターゲットを絞った , 男性が行動する DV 被害者の情報ニーズを分析 , 整理した上でウェ 防止キャンペーンである。 ストプルック助教は , 図書館が被害者に必要な情 ( 1 ) 図書館男性職員が約束する 報を提供できる施設へと変貌していくために必要 な条件として , 「地域の社会サービスに関する "Domestic Abuse We Can End に 「 The ldea store 」 (l) は , ロンドン市内の , 世 データベース整備」「親密な関係のパートナーに 界各国の移民が多く , 識字率も低く , 就業率も低 よる暴力被害者に配慮した図書館のポリシーや サービスの展開」「図書館スタッフの訓練」の 3 いタワーハムレット地域に建てられた公立図書館 点を挙げている。 DV 被害者の対応体制が即 , 日 である。地域住民の情報ニーズ調査と , 地域の特 本の図書館で整うには , まだ時間がかかると思わ 色を活かした , さまざまな情報サービスを実施し れるが , いずれこの論文は有効活用できると考え て , 現在ではイギリスでも利用率が高い図書館と なっている。 る。 日本では , 男女共同参画センターや女性団体が この図書館と同じ地域で活動する女性センター 「 JAGONARI 」 (2) との共同キャンペーンは , 男性 DV に関する支援情報 , 支援のノウハウ , スタッ (We) が情報発信するキャンペーンで , その フ訓練の専門家の情報を蓄積している。まずは , 1 三ロ
192 現代の図書館 vol. 51 N 。 .3 ( 2013 ) ④ Engaging, social design ( 生活基盤をつく る ) ⑤ Free, easy to use interface ( 無料アクセス ) プログラムには , 「 Library 」という検索機能を 持った図書館へのアクセスポイントがあり , 今ま でに , 1000 以上の図書館がかかわり , 館内では HP にキャンペーン映像の提供もしている。世界 の支援ネットワークを背景に手元の簡単なアクセ スで , 多様な DV の支援情報システムを提供す る SNS の力に圧倒される。もちろん , 新しい ICT システムの活用のためには , アクセスデバ イスを解消するための ICT リテラシーの講座な どが必要であり , SNS に対して図書館が信頼の 高い情報を提供すること , またモニタリングも必 要である。 男女共同参画センターライプラリーと 4 各種図書関係機関の連携をめざして 課題解決の情報リテラシー事例とした DV の 支援実践からは , 被害者に情報提供することの困 難さ , また関係施設・機関との連携による情報提 供の必要性が問われている。人々の , さまざまな 生き方や , 生き方の困難さを共有しつつ , 具体的 な支援にもつながる図書館の情報リテラシーサー ビスの共通基盤は , 情報の平等なアクセスである ことを再確認した。まずは地域で , 公立図書館 , 学校図書館 , 大学図書館 , そして専門図書館がそ れぞれ特色ある情報アクセスポイントとして連携 することを期待したい。 NWEC は , 北京行動綱領の項目に加えて , 男 女共同参画社会推進に資する資料 ( 図書 12 万冊 , 雑誌 4000 タイトル , 30 万件の新聞記事 ) を所蔵 し , 全国の大学図書館 , また地域の生涯学習セン ター , 企業図書館に主題別パッケージとして貸出 を行い , 日頃各図書館では見えにくい男女共同参 画課題を提起している 15 ) 。課題解決のための情 報のリテラシー支援として , 「女性情報レファレ ンス事例集」 16 ) を , 図書館や男女共同参画セン タースタッフに提供している。「経済的に困難な 女性のためのパソコン講座」では , 全国の男女共 同参画センターが , DV 被害者も含めた参加者へ の特別な配慮と就労への継続的な情報支援などの 実践プログラム事例を蓄積していて , 公立図書 館 , 生涯学習センターなどの IT 講習にノウハウ を伝えることが可能である。専門図書館として男 女共同参画センターは , 社会的に解決すべき課題 提供をすることで連携の役割を担っている , DV で経済的に困難にある女性の支援などでは , 各種 図書館を情報スポットとして情報リテラシー連携 をして , 具体的な支援につなぐことができる。 今後 , 公共図書館を中心に , 図書館利用に障害 のある人々へのサービスなど , 利用者のニーズに 対応した多様な情報サービスが検討され , 展開さ れている。それらの情報サービスについて , 男女 共同参画ライプラリーも連携して役割を担わなけ ればならない。海外の事例に挙げた SNS やマル チメディアを活かした情報リテラシーシステム は , DV 支援に限らず , 図書館を利用することが 困難な人々への情報サービスとして活用が期待で きるものである。日本でも , NGO を中心に DV 支援には導入されつつある。そのシステムに , 図 書館の情報リテラシー支援はまだ見られない。 特色ある情報スポットとしての各種図書館との 地域連携・ネットワークの次のステップは , さら に多様な機関・団体と連携の枠を広げることであ り , SNS など多様なメディアを積極的に活用し , どのようなニーズであれ , 障害であれ , 解決すべ き課題であれ , 確実に当事者に届く信頼できる情 報リテラシーシステムの構築に参画することであ ると考える。 く注 > 1 ) 本稿で取り上げている「男女共同参画センターライプラ リー」の名称は , いわゆる「女性関連施設」に付属する図書 館・情報センター・図書室・情報コーナーなどの総称とした。 2 ) lngrid Parent, IFLA President, 2011 ー 2013 : opening message 3 ) Council for publec Libraries Strategy 2011 ー 2016 , HeIsinki 4 ) http:〃 winet. nwec.j p/sisetu/ 5 ) 引用文献 日本図書館協会図書館利用教育委員会編「情報リテラシー 教育の実践総ての図書館で利用教育を」日本図書館協 会 , 2010 6 ) 文部科学省「これからの図書館像一地域支える情報拠点を 目指して」 2 開 6
168 現代の図書館 Vol. 51 No. 3 ( 2013 ) の現状に「自由主義の終焉」 (Lowi, 1969 ) の宣告 文を突きつけた。また , E ・ E ・シャットシュナ イダーは , 「多元主義的な天国の欠点は , その天 国の合唱が強い上流階級的なアクセントをおいて 歌われるということである。人民の 90 % がおそ らく圧力組織に加わることができないのである」 (schattschneider, 1960 : 35 [ 51 頁 ] ) と , 圧力団体政 治の上流階級的偏向を批判した。 3. アドボケートからアドボカシー組織へ 女性や黒人は , こうした「多元主義的な天国」 政治の従来的な紛争線を転換しようとした。ま た , 階級的には「天国」近くに寄食する白人工 リート学生も , 産業主義の成果である「豊かな社 会」 , ェリート主義的民主主義に反発したのであ る。草の根で広がる抗議活動 , 一部活動家の急進 化 , ヴェトナム反戦活動の激化 , プラック・パ ワーの台頭に符節を合わせるように , 「ジェン ダー」概念を鮮明にする女性解放グループも多く 生まれた。 黒人闘争 , キャンパスでのラディカリズム , ゲ イ / フェミニズム運動等を「抵抗のサイト」 (Duberman, 2 開 2 ) として , 「権利革命」 (EdsaII with EdsaII, 1991 ) は多様な声をアドボケート (advocate) していくが , 保守化が進む 1970 年代 には運動としては四分五裂する。 その一方で , 政治的抗議活動というよりは , 社 会サービスや文化活動を中心に「平等のための組 織化」を目指す「権利アドボカシー」 , さらには 新しい公共利益を主張する「市民アドボカシー」 は増え始めた (SkocpoI,2003)0 「ベルトウェイ内 部」に黒人 , 少数派民族集団 , 女性の声を届けた り , 環境保護や政治改革を主張する活動家のグ ループは , 「市民的権利・社会権の主張 , 権利侵 害の法的防衛 , 政府監視活動 , ロビイング」 (Russell and cohn, 2012 : 6 ) といったアドボカシー 活動を通じて世論を形成し , 立法過程に影響を与 えようとしだした。 当初はリべラル派が目立ったものの , 「プログ ラム支出」である社会保障費の負担増への反発 , 環境主義者が主張する産業規制への反発 , 「権利 革命」への道徳的反発などを組織化した保守派ア ドボカシーも 80 年代以降に急増する。いずれに しても , その後 , 各主張団体は , 保守 , リべラル を問わず「有効なアドボカシー組織を発展させ , その政治的パワーを増大させていったのである」 (paden, 2011 : 5 ) 。 このような経過をたどってアドボカシー・グ ループの数は , 20 世紀末までに 1960 年比で 4 倍 に膨れ上がった。その勢いに呼応するかのよう に , ビジネス・業界団体も公共アドボカシー戦略 2 ) を積極的に採り入れ , その面での非営利 / 営 利団体の境界を曖昧にしつつワシントンのアドボ ・コミュニティに闖入していった。 2 現代のアドボカシー・ワールド 1 . ワシントン「動物園」 首都ワシントンのアドボケート・ワールドは 「動物園」に擬えられよう。ただし , この「動物 園」は , 「各種あるいは各科のいくっかの見本を 必要としたが , その実数に比例した動物の各標本 は必要とはしない」 (Grossmann, 2012 : 77 ) 。 こうした性格をもつワシントン「動物園」の主 役級見本として , トム・ウォルドマンがピック アップした次の 29 の種・科を挙げるのに , たい した偏りはないであろう。メディア・アキュラ シー , 米国退職者協会 , 米国市民的自由連合 , 米 国心臓協会 , 米国イスラエル公共問題委員会 , 米 国在郷軍人会 , 米国アラブ反差別委員会 , 予算・ 政策プライオリテイセンター , 児童擁護基金 , キ リスト教徒連合 , 政府の浪費に反対する市民 , 税 の公正を求める市民 , 銃暴力阻止連合 , コモン・ コーズ , 家族リサーチ会議 , 地球の友 , グレイ・ パンサー , メキシコ系アメリカ人法的防衛・教育 基金 , 全米中絶・生殖権運動連盟 , 民族統一会 議 , 全米ゲイ・レスビアン・タスクフォース , 全 国都市同盟 , 全国女性政治コーカス , ポイント・ オプ・ライト事業団 , パプリック・シティズン , レインポー・ブッシュ連合 , 合衆国商業会議所 , 海外戦争復員兵協会 , 人口ゼロ成長 ( 2002 年に 人口コネクションに改称 ) (Waldman, 20 開 : 55 ー 61 ) 。 また , 表 1 は , そのワシントン「動物園」の
男女共同参画センターライプラリー 193 7 ) 根本彰「理想の図書館とは何か : 知の公共性をめぐって』 ミネルヴァ書房 , 2011 8 ) 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書平成 25 年度』 2013 9 ) Fay Zipkowitz ed. by 尾〃化立ない面に″〃″イ , The Haworth Press,1996 10 ) Lynn Westbrook"Un derstan din g Crisis lnformation Needs in Context: The Case Of lntimate Partner Violence Survivors" ん耀 Q Ⅷげ , NO. 78 ( 3 ) , 2 開 9 II) http://www.ideastore.co.uk/ 12 ) http://www.J agonari.org/uk/index.html 13 ) http://breakthrough.tv/ringthebelレ 14 ) http・//xchange.futureswithoutviolence.org 15 ) http・//www.nwec.j p/j p/center/ 16 ) http//winet.nwec.j p/tictconsult/ く参考文献 > ・ Leslie Edmonds HoIt & Glen E. HoIt. ″況なん訪耀 & な / 0 励に君 00 Doing 〃ルに Ca 劜 American Library Association, 2010 ・小林卓 , 野口武悟「図書館サービスの可能性利用に障害の ある人々へのサービスその動向と分析」日外アソシェー ツ , 2012 ・日本図書館協会現代の図書館編集委員会「現代の図書館」 ( 特集 : マイノリティサービスー社会的包摂と多様性 ) VOL. 50, no. 3 , 2012.9 ・市村櫻子「 NWEC 図書パッケージ貸出サーピス一年半男 女共同参画の情報と知識を若い世代に」「 NWEC 実践研究第 2 号 ( 複合キャリア ) 」独立行政法人国立女性教育会館 , 2012 ( 2013.6.20 受理 )