社会 - みる会図書館


検索対象: 現代の図書館 2013年 09月号
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1. 現代の図書館 2013年 09月号

男女共同参画センターライプラリー 187 男女共同参画センター ライブラリー ~ 平等なアクセスを基盤とした情報リテラシー 青木玲子 サービスのあり方を実感し , 挨拶は錯覚ではな く , 今後 , 日本の男女共同参画センターライプラ リーと公立図書館と館種を超えて連携する可能性 があることを確信するものとなった。 情報に対する平等なアクセスを基盤とする多様 2012 年夏 , ヘルシンキで開催された IFLA の なサービスは , 男女共同参画センターライプラ 開会式に出席していた筆者は , IFLA 代表の挨拶 リーが目指す情報リテラシーサービスの基盤でも を聞きながら , 図書館の大会ではなく , 男女共同 ある。本稿は , 男女共同参画センターライプラ 参画センターライプラリー 1 ) の大会の挨拶を聞 リーの情報発信の考え方 , また利用者のニーズ , いているような錯覚にとらわれた。地域の生活に 情報リテラシーサービスの特色を明らかにするこ 根ざした学習の場として , またコミュニティー活 とによって , 公立図書館や大学図書館との館種を 動の場として , 地域の機関と共同しながら図書館 越えた連携の可能性について考察するものであ が市民の生活貢献に力を注ごうという大会委員長 る。またマルチメディアを使用した海外の図書館 のメッセージであった 2 ) 。 や女性団体の情報サービスの事例を紹介しつつ , 筆者の関係する男女共同参画センターライプラ 男女共同参画センターライプラリーの情報リテラ リーは , 男女共同参画社会の推進をミッションと シー実践が進展することを期待するものである。 した施設に付属するライプラリーである。フィン ランドは , 一貫して格差のない平等な社会の確立 / 男女共同参画センター を社会政策の中心課題としてあげてきた。情報へ ライプラリーの概要 の平等なアクセスを確保し , 情報による社会的格 差を埋める機関として図書館は社会に認知されて 1975 ~ 1985 年の「国連婦人年の十年」を契機 いる。その後公立図書館を訪れて , Free access として , 世界的にも女性の地位向上を目指す政策 tO information, Sense Of community, Open- が進んだが , 日本においてもその女性政策を展開 mindness, Transparency, Reliability, Equality 3 ) する施設が 1977 年以降 , 全国各地に設立された。 をミッションとしてはっきりと打ち出した情報 各施設の名称は , 婦人会館 , 女性センター , 男女 共同参画センター , 女性教育会館などと多様であ る。名称は違っても女性の地位向上 , 女性の人権 を擁護することのミッションは一貫して今も変わ はじめに 1 あおきれいこ キーワード : 男女共同参画センターライプラリー 情報リテラ

2. 現代の図書館 2013年 09月号

が , 「司書の広域異動」といった力業に取り組む モチベーションをもっとはとても思えない。むし ろ , 指定管理者の全国展開のなかに「事実上の専 門職制が確保される可能性」を見るほうが現実的 であると思うが , 指定管理者の内実に関するデー タを持ち合わせていないので , 判断は留保せざる をえない。 およそ新鮮味は欠くかもしれないが , 次のよう な視点から公立図書館のサービスを見直し , 再構 築していくことが , 今後の人材確保・職員養成の 第一歩となると思えるのである。 「現在の日本が超高齢社会であることを直視し , 公共図書館も , よりよい地域とするために , だれ が地域の住民であり , 地域づくりの担い手はだれ なのか , そのためにはどのようなサービスを , ど こで提供すればよいのかといった点を考えていく 必要がある。このことは , 公共図書館経営の基本 に立ち返ることにすぎない。」 13 ) 最後になるが , 本稿を書くにあたって , 調布市 立図書館の小池信彦館長にお話をうかがう機会を つくっていただいた 調布市は , いわゆる司書職制度が確立している わけでも , 市の人材育成基本方針のなかに司書の 採用・育成が書き込まれているわけでもないが , 過去 6 年間で 14 人の司書を採用している。全国 で司書として採用される公務員が年間数十名にす ぎない現状を考えれば , 異例の自治体といっても いいかもしれない。 一般行政事務職員として採用された新入職員 は , 入所後 10 年で三つの職場に配属されるとい う人事ルールがあるということだが , 司書にその ルールは適用されず , 図書館内で 3 年程度で他の 係・担当に配置換えするようにしているという。 ただし , 本人が希望し , 館長が認めた場合は , 図 書館以外の職場へ異動し , 本人の意向を尊重して 図書館へ復帰することも可能だということであっ このお話をうかがいながら , この人事ルール を , 「本人の意思を無視した他職種への配転が行 われないこと」を担保する防御的なものととらえ るのではなく , むしろ西尾勝のいわゆる「公共感 コミュニティ・ファシリテイターとしての公立図書館職員 151 覚」を涵養するために積極的に活用すべきではな いかと思った。 公立図書館の業務を受託ないし管理指定されて いる民間事業者の司書は , いわゆる図書館業務し か従事できないが , このようなルールがあれば , 福祉 , 環境 , 都市計画といった自治体業務につ き , そのうえで図書館に復帰することが可能だか らである。司書として採用された後 , このような 業務を経験することによって課題解決のための情 報活用の必要性・重要性を体で覚えていくだろう し , 政策形成支援のセンス , 「公共感覚」も磨か れていくだろう。このようなキャリア・アップを 経て中堅職員として図書館に戻ることによって , より広い視野からサービスを見直すことも可能と なるはずである。 公立図書館の職員が , 地域社会の課題に向き合 い , その解決に向けたファシリテイターの一人に ならんとするのであれば , このような人材育成の あり方も考えられていいように思われる。 く注 > 1 ) 上林陽治「非正規公務員」日本評論社 , 2012 年 , p. 39 ー 43 2 ) 前掲 1 ) p. 45 3 ) 日本図書館協会図書館員の問題調査研究委員会編「すべて の公共図書館に司書の制度を』日本図書館協会 , 1984 年 , p. 10-11 4 ) 西尾勝「自治・分権再考一地方自治を志す人たちへ』ぎょ うせい , 2013 年 , p. 142 ー 143 5 ) 日本図書館情報学会研究委員会編「図書館情報専門職のあ り方とその養成」勉誠出版 , 2006 年 , p. 95 ー 110 6 ) 前掲 4 ) p. 149 ー 150 7 ) この基準は 2012 年 12 月に改正されているが , 高齢者に対 する記述については 281 年版のほうがわかりやすいので , あえて改正前の基準を引用した。 8 ) 溝上智恵子・呑海沙織・綿抜豊昭編著「高齢社会につなぐ 図書館の役割高齢者の知的欲求と余暇を受け入れる試み」 学文社 , 2012 年 , p. 143 ー 145 9 ) 前掲 8 ) p. 118 ー 120 10 ) 「調布市地域情報化基本計画一市民の手による e コミュニ ティづくり」 2 開 4 年 , p. 64 ー 65 http://www.city.chOfu.tokyo.jp/www/contents / 1182237551693 / htm レ common / other / 4688461 d83. pdf ( 2013.8.27 受理 ) 13 ) 前掲 8 ) P22 ー 23 12 ) 柳与志夫「知識の経営と図書館」勁草書房 , 289 年 , 年 , p. 99 ー 123 (I) 根本彰「続・情報基盤としての図書館」勁草書房 , P22 2004

3. 現代の図書館 2013年 09月号

で調べたい」 ( 合法性・合規性 ) ときには評価は 役に立たない。会計検査か , 警察の捜査が使われ る。 要するに , 評価とは調べることで , 調べる前に 評価の目的 ( 何を知りたいのか ) , 調べる主体 ( 誰がいくら金をかけて調べるのか ) , 採用される 基準 ( 有効性や効率 , 公平などであり , より深い 価値観や規範の準則というときには規準 ) が明確 であるべきで , 事前評価か事後評価か , それとも 中間評価であるかは問わない。ただし , どの程度 深く広く調べ , いつからいつまで調査期間を設定 するのかは , 調べる人の都合上明確にしておく必 要がある。図 2 にあるように , 評価の対象 ( ア ウトブット・アウトカム・インパクト ) の選択 , 評価の精度 , 評価費用に関わるからである。公共 サービスとはいっても , その分野ごとに評価の方 法や評価基準 , タイムスケジュールは違う。それ を認識しているかどうかは , 図 1 を見ながら再考 する必要がある。 おわりに 紙幅が尽きたので , 最後に提言で締めくくりた い。公共サービス , とくに図書館のようなサービ スにおいて評価を試みる場合には , 以下の諸点が 重要である。 第 1 に , 何のために評価をするのか , これを確 認しなければ評価は迷走し , 関係者は負担を強い られる。場合によっては膨大で無意味な作業負担 によって評価担当者は心を病み , 大量に産出され た詳細だが難解な評価結果を見て , 混乱した意思 決定者は誤った判断をする。 第 2 に , 日本評価学会の評価士養成講座などを はじめとして , さまざまな機会によって評価の理 論を学習する必要があり , この学習によって得ら れた知見は政治家や住民の勘違いを矯正し , 公共 サービス現場の混乱を回避するために必須であ る。なぜなら評価とは多くの手法からなる応用分 野だからであり , さまざまなツールが入っている ツール・キットである。どのツールを選択するの かは現場の症状 , 政治家の意向に配慮した評価専 門家のアドバイスを受けるべきである。単純なコ 公共サービスの評価における理論と実践 143 スト削減に偏った評価は住民に迷惑をかけること を知るべきである。 したがって第 3 に , 評価を試みる前に現場では 何に困っているのか , 何のために評価をするの か , 確認する必要がある。確認をサポり , 流行し ているというだけで試みられた評価や事業仕分け が迷走する実例は多い。すなわち , 流行の指定管 理者制度を導入した結果 , 安易に専門職員を非正 規雇用することになり , 賃金・処遇の面で正規職 員に及ばず , モチベーションの維持や定着率など に悪影響が出た図書館の例がある ( 堤伸也 2013 , p. 84 ) 。本来の目的を犠牲にし , サービスの質低 下のツケを住民に強いながらコスト削減を行った 典型事例である。もちろんこうした問題を解決す るプログラムを作成する必要があるが , そうした プログラム作成を指示すべき政治家が NPM に幻 惑され , 住民の多数がその政治家を情緒的に支持 する場合 , 問題は放置される。 そもそも NPM の思考にある競争原理は , 地域 社会に敗者を作り出すことを記憶すべきであろ う。競争による勘違いのコスト削減は地域社会の 衰弱を早めるだけだったが , これもまた評価の本 来の意味を知らない人の仕業である。多元的な評 価を構想する時期に来ている。 く参考文献 > 1 ) Mathison, Sandra ed. ( 2 開 5 ) , E 〃 0 ℃ / の市〃 E ん〃朝〃 , Sage. 2 ) Osborne, David, and GaebIer, Ted ( 1993 ) , 〃怩厩 g GO 怩〃〃尾〃匚・ / / 0 にに〃〃に第〃召″ 4 / s. カレ″なレのん尸川 g にカ励け明 Plume. ( 高地高司・他訳〔 1995 〕「行政革 命」日本能率協会マネジメントセンター ) 3 ) 大住莊四郎 ( 1999 ) 「ニュー・パプリック・マネジメント 理念・ビジョン・戦略」日本評論社 . 4 ) 堤伸也 ( 2013 ) 「公立図書館の業務委託の実態を考察する : 2011 年「公立図書館の業務委託などに関する調査』より」 「自治総研」公益財団法人・地方自治総合研究所 , 2013 年 7 月号 . 5 ) 山谷清志 ( 2 開 8 ) 「 NPM においていかなる「責任」を実現 するか」 , 村松岐夫・編著「公務改革の突破口政策評価と 人事行政」東洋経済新報社 , 第 11 章 . 6 ) 山谷清志 ( 2012 ) 「政策評価」ミネルヴァ書房 . ( 2013.8.30 受理 )

4. 現代の図書館 2013年 09月号

アドボカシーーアメリカ政治の一断面 167 ◆特集◆画ロロ図正目回目 アドボカシー ーみリカ政治の一断面 アドボカシーの噴出 1 . 長い 60 年代 1 等なアメリカを目指す黒人の公民権運動に多大な 離法に基づく人種差別主義の廃絶 , 差別のない平 SDS を中心とした「新しい左翼」は , 人種分 democracy) 」の意義を強く打ち出した。 提供」しようと , 「参加デモクラシー (participatory うに組織され , 人間が共に参加するための方途を の質と方向を決定し , 社会が人間の独立を促すよ 「社会的な決定への個人の参加が自分たちの生活 となった。後者は , 主として白人中産階級学生が , え , 「産業社会」的価値観を根底から問い直すもの 前者は , 環境問題に関する考え方を根本的に変 言である。 (SDS) による組織綱領のポート・ヒューロン宣 ガン州ポート・ヒューロンでの民主社会学生同盟 ンの著作『沈黙の春』の出版 , もうーっは , ン その一つは , 海洋生物学者レイチェル・カーソ る。 重要な二つのマニフェストが表明された年であ シー (advocacy) の展開と方向性を考える上で 1962 年は , その後のアメリカにおけるアドボカ オバマ大統領がこの世に生を受けた翌年の かわたじゅんいち : 神戸学院大学法学部 キーワード : アドボカシー , アドボケート , アメリカ政治 , ルトウェイ内部政治 , 利益団体 , ロビイング ィヾ 河田潤 影響を受けてのものであった。公民権運動の指導 者キング牧師が「私には夢がある」演説を行った 1963 年には , べティ・フリーダン (Betty Friedan) が『新しい女性の創造』 (The 純川怩」ⅵの を出版した。女性に個としての自立を求める同書 は , 高学歴の中産階級女性を中心に広く受け入れ られた。フリーダンは , 1966 年に全米女性組織 (NOW) を結成した。 NOW は躍進し , 戦前から の婦人有権者同盟 (LWV) などの組織も活気づ いた。 公民権運動 , 「新しい左翼」 , NOW などは , 黒 人 , 少数派民族集団 , 女性を「二級市民」に押し やってきた社会構造を問い質し , 「物質主義的価 値」への疑念を広く呼び起こした。 2. 自由主義の終焉 総じていえば , これらの運動は , 労組を含むビ ジネス・業界団体が主導する資本主義的民主主義 体制に異議を申し立てるものであった。政党・議 会・行政に , 米国農業局連盟 (AFBF), 米国労 働総同盟・産業別労働組合会議 (AFL-CIO), 商 業会議所 (Chamber of Commerce) , 全米製造業 者協会 (NAM) などの組織化された経済関連団 体がロビー活動を通して圧力をかける集団的多元 主義政治への挑戦といってもよかろう 1 ) 。 「ベルトウェイ内部」で進行する利益団体と政 府の無原則な取引 = 「利益集団自由主義 (interest group liberalism) 」は , 公共利益や社 会的公正の実現を困難にしていった。政治学者の セオドア・ロウィは , そうした戦後アメリカ政治

5. 現代の図書館 2013年 09月号

149 図 2 コミュニティ・ファシリテイターとしての公立図書館職員 孤立ゼロプロジェクトのイメージー。見守り ' から " 寄り添う " 地域社会へ 【現状】孤独死に対応する見守り あんしん協力機関 気づく なげ 民生児量委員 地域包括支援センター 【今後】孤立に寄り添う社会を目指す 援立・防災要援護者調査 あんしん協力機関 ( 町会、老人クラブ、商店街など ) 民生委員 気づく人の多様化 ( 近第の人、協力機関以外の人 ) 気づく ーによ り・ ) 、び飛 つなける あんしん協力員 町会・自治会 民生委員 老人クラブ ボラ万ィアなど り添 あんしん協力員 町会・自治会 会参加 老人クラブなど 就労 町会・自治会活動 NPO ・ボランティア 大学 生学習 を ( ー での要支援者の 総合窓口ま設 ( 絆づくり担当 ) 高齢者窓口 ( 地域包括支援センタ - ) 障がい者窓口 ( 福被事務所、保健総合セン ) 若年者窓口 ( 社会福社協第会 ) 居場所を つくる 住区センター 悠々会館 老人クラブ NPO 自主ク・ル - フ・など 「気づく」から「社会参加」までの各施策や事業をつなき、 瓢立ゼロの社会を目指しま http:〃www.city.adachi.tokyo.j p/chiiki/documents/koritsuzer0250228—1. p df ( 2013 年 8 月 15 日アクセス ) ※足立区ホームページ「孤立ゼロプロジェクト推進活動の概要」より をする自己完結型の個人から , 図書館での講座 , ボランティア活動などを契機にサークル , グルー プとして活動する人々 , さらには受動的ではある が図書館のアウトリーチ・サーピスを支えとする 利用者まで , その対象は幅広く , サービス発展の 可能性も大きい。まさしく超高齢社会の基幹的な 社会教育施設であり , 高齢化したコミュニティの なかで人と人との新たな関係をデザインし , 創出 する可能性を秘めている。 だとすれば , 広く医療・福祉関係者 , 地縁関係 団体 , NPO などの代表者とも対話を重ね , 高齢 社会対策のなかでの図書館の位置づけや役割を可 視化していく努力が求められるであろう。 2. 地域情報化 公立図書館は , それぞれ存立する地域の情報化 の拠点である。 センターの役割を果たそうとするのであれば , 地 しかし , 公立図書館が生活や仕事に役立つ情報 割いている。 ミュニケーションといった事柄に , 記述の過半を 電子申請 , 情報技術を介した行政と市民とのコ いだろうか。計画の多くは , 行政事務の電子化 , 書館の役割を書き込んでいる例は少ないのではな 「情報基盤整備計画」といった計画のなかに , 図 しかし , 各市町村の「地域情報化推進計画」 ない。 ネットワークを形成している公立図書館も少なく データベースを構築したり , 地域の類縁機関との 電子媒体の割合がふえている現在 , 地域情報の 収集・提供は基幹となる業務の一つであったし , 印刷媒体が中心の時代にも , 地域・行政資料の

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190 現代の図書館 VoI. 51 No. 3 ( 2013 ) マルチメディアにアクセスできない人々などとと 各地域で公共図書館と男女共同参画センターライ もに , DV の被害女性が挙げられている。人が多 プラリーの情報リテラシー共有のための連携を期 勢出入りするカウンターで被害者との対話は難し 待したい。特にデート DV については , 大学図 い。しかし , 情報ニーズは必ずあり , ライプラ 書館 , 学校図書館連携を特に期待するものであ リーからの支援のインフォメーションは , 何らか る。 の方法で必ず届けられなければならないと述べら 2 . DV の廃絶に向けての れている。 社会的な情報リテラシー 図書館における DV 被害者への情報サービス のための研究は進んでおり , 米国図書館協会 暴力の問題は , その実態について社会的に共有 (ALA) は , 「過去 1 年間で最も優れた英語の図 されるべき情報リテラシーの課題である。 DV に 関する多数の図書 , 統計 , さまざまな支援を伝え 書館研究論文」として , テキサス大学情報学部の ウェストプルック (Lynn Westbrook) 助教によ るパンフレットや被害者に配布する支援カード , る論文「文脈内における危機情報ニーズの理解 : パープルリボンキャンペーンなど , 多くの試みか 親密なパートナーによる暴力からの生還者の場 なされているが , しかし , この 10 年間に DV 件 合」 10 ) を発表した。 数が減少することはなく , 2 年半たった東日本大 親密な関係のパートナーによる暴力の被害者は 震災の被災地での DV も伝えられている昨今で アメリカでも後をたたす , ウェストプルック助教 ある。社会的なキャンペーンといってもターゲッ は , 被害者にとって支援サービスに関する情報は トが絞られす , 漠然としたキャンペーンに留まっ 必須であるものの , 情報へのアクセスが十分に保 ている。問題解決のための情報リテラシーという 正されていないことを指摘すると同時に , 公共図 観点が必要ではないだろうか。 DV の廃絶ために 書館はコミュニティの情報アクセスを支援する重 は , 「強者から弱者への暴力」である DV の本質 要な公共機関として , 一般的にその機能が十分活 的な問題をどのように伝えるか , 誰が , 誰に , ど 用されていないと主張する。ウェストプルック助 のようなツールを使って伝えるのか。 DV を単に 教は , DV の被害者ニーズや支援情報の研究デー 「知識」に留めることなく , 廃絶のための具体的 タを収集し , そのデータを公共図書館サービスと な行動ができるように , 多くの人々が集まるス 関連付けながら , 「日常生活における情報探索理 ポットで情報を伝えていかなければならない。 言侖 (everyday life information seeking theory : 次の事例は , 図書館と女性センターの連携 , 男 ELIS theory) に照らして分析している。 性にターゲットを絞った , 男性が行動する DV 被害者の情報ニーズを分析 , 整理した上でウェ 防止キャンペーンである。 ストプルック助教は , 図書館が被害者に必要な情 ( 1 ) 図書館男性職員が約束する 報を提供できる施設へと変貌していくために必要 な条件として , 「地域の社会サービスに関する "Domestic Abuse We Can End に 「 The ldea store 」 (l) は , ロンドン市内の , 世 データベース整備」「親密な関係のパートナーに 界各国の移民が多く , 識字率も低く , 就業率も低 よる暴力被害者に配慮した図書館のポリシーや サービスの展開」「図書館スタッフの訓練」の 3 いタワーハムレット地域に建てられた公立図書館 点を挙げている。 DV 被害者の対応体制が即 , 日 である。地域住民の情報ニーズ調査と , 地域の特 本の図書館で整うには , まだ時間がかかると思わ 色を活かした , さまざまな情報サービスを実施し れるが , いずれこの論文は有効活用できると考え て , 現在ではイギリスでも利用率が高い図書館と なっている。 る。 日本では , 男女共同参画センターや女性団体が この図書館と同じ地域で活動する女性センター 「 JAGONARI 」 (2) との共同キャンペーンは , 男性 DV に関する支援情報 , 支援のノウハウ , スタッ (We) が情報発信するキャンペーンで , その フ訓練の専門家の情報を蓄積している。まずは , 1 三ロ

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168 現代の図書館 Vol. 51 No. 3 ( 2013 ) の現状に「自由主義の終焉」 (Lowi, 1969 ) の宣告 文を突きつけた。また , E ・ E ・シャットシュナ イダーは , 「多元主義的な天国の欠点は , その天 国の合唱が強い上流階級的なアクセントをおいて 歌われるということである。人民の 90 % がおそ らく圧力組織に加わることができないのである」 (schattschneider, 1960 : 35 [ 51 頁 ] ) と , 圧力団体政 治の上流階級的偏向を批判した。 3. アドボケートからアドボカシー組織へ 女性や黒人は , こうした「多元主義的な天国」 政治の従来的な紛争線を転換しようとした。ま た , 階級的には「天国」近くに寄食する白人工 リート学生も , 産業主義の成果である「豊かな社 会」 , ェリート主義的民主主義に反発したのであ る。草の根で広がる抗議活動 , 一部活動家の急進 化 , ヴェトナム反戦活動の激化 , プラック・パ ワーの台頭に符節を合わせるように , 「ジェン ダー」概念を鮮明にする女性解放グループも多く 生まれた。 黒人闘争 , キャンパスでのラディカリズム , ゲ イ / フェミニズム運動等を「抵抗のサイト」 (Duberman, 2 開 2 ) として , 「権利革命」 (EdsaII with EdsaII, 1991 ) は多様な声をアドボケート (advocate) していくが , 保守化が進む 1970 年代 には運動としては四分五裂する。 その一方で , 政治的抗議活動というよりは , 社 会サービスや文化活動を中心に「平等のための組 織化」を目指す「権利アドボカシー」 , さらには 新しい公共利益を主張する「市民アドボカシー」 は増え始めた (SkocpoI,2003)0 「ベルトウェイ内 部」に黒人 , 少数派民族集団 , 女性の声を届けた り , 環境保護や政治改革を主張する活動家のグ ループは , 「市民的権利・社会権の主張 , 権利侵 害の法的防衛 , 政府監視活動 , ロビイング」 (Russell and cohn, 2012 : 6 ) といったアドボカシー 活動を通じて世論を形成し , 立法過程に影響を与 えようとしだした。 当初はリべラル派が目立ったものの , 「プログ ラム支出」である社会保障費の負担増への反発 , 環境主義者が主張する産業規制への反発 , 「権利 革命」への道徳的反発などを組織化した保守派ア ドボカシーも 80 年代以降に急増する。いずれに しても , その後 , 各主張団体は , 保守 , リべラル を問わず「有効なアドボカシー組織を発展させ , その政治的パワーを増大させていったのである」 (paden, 2011 : 5 ) 。 このような経過をたどってアドボカシー・グ ループの数は , 20 世紀末までに 1960 年比で 4 倍 に膨れ上がった。その勢いに呼応するかのよう に , ビジネス・業界団体も公共アドボカシー戦略 2 ) を積極的に採り入れ , その面での非営利 / 営 利団体の境界を曖昧にしつつワシントンのアドボ ・コミュニティに闖入していった。 2 現代のアドボカシー・ワールド 1 . ワシントン「動物園」 首都ワシントンのアドボケート・ワールドは 「動物園」に擬えられよう。ただし , この「動物 園」は , 「各種あるいは各科のいくっかの見本を 必要としたが , その実数に比例した動物の各標本 は必要とはしない」 (Grossmann, 2012 : 77 ) 。 こうした性格をもつワシントン「動物園」の主 役級見本として , トム・ウォルドマンがピック アップした次の 29 の種・科を挙げるのに , たい した偏りはないであろう。メディア・アキュラ シー , 米国退職者協会 , 米国市民的自由連合 , 米 国心臓協会 , 米国イスラエル公共問題委員会 , 米 国在郷軍人会 , 米国アラブ反差別委員会 , 予算・ 政策プライオリテイセンター , 児童擁護基金 , キ リスト教徒連合 , 政府の浪費に反対する市民 , 税 の公正を求める市民 , 銃暴力阻止連合 , コモン・ コーズ , 家族リサーチ会議 , 地球の友 , グレイ・ パンサー , メキシコ系アメリカ人法的防衛・教育 基金 , 全米中絶・生殖権運動連盟 , 民族統一会 議 , 全米ゲイ・レスビアン・タスクフォース , 全 国都市同盟 , 全国女性政治コーカス , ポイント・ オプ・ライト事業団 , パプリック・シティズン , レインポー・ブッシュ連合 , 合衆国商業会議所 , 海外戦争復員兵協会 , 人口ゼロ成長 ( 2002 年に 人口コネクションに改称 ) (Waldman, 20 開 : 55 ー 61 ) 。 また , 表 1 は , そのワシントン「動物園」の

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男女共同参画センターライプラリー 193 7 ) 根本彰「理想の図書館とは何か : 知の公共性をめぐって』 ミネルヴァ書房 , 2011 8 ) 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書平成 25 年度』 2013 9 ) Fay Zipkowitz ed. by 尾〃化立ない面に″〃″イ , The Haworth Press,1996 10 ) Lynn Westbrook"Un derstan din g Crisis lnformation Needs in Context: The Case Of lntimate Partner Violence Survivors" ん耀 Q Ⅷげ , NO. 78 ( 3 ) , 2 開 9 II) http://www.ideastore.co.uk/ 12 ) http://www.J agonari.org/uk/index.html 13 ) http://breakthrough.tv/ringthebelレ 14 ) http・//xchange.futureswithoutviolence.org 15 ) http・//www.nwec.j p/j p/center/ 16 ) http//winet.nwec.j p/tictconsult/ く参考文献 > ・ Leslie Edmonds HoIt & Glen E. HoIt. ″況なん訪耀 & な / 0 励に君 00 Doing 〃ルに Ca 劜 American Library Association, 2010 ・小林卓 , 野口武悟「図書館サービスの可能性利用に障害の ある人々へのサービスその動向と分析」日外アソシェー ツ , 2012 ・日本図書館協会現代の図書館編集委員会「現代の図書館」 ( 特集 : マイノリティサービスー社会的包摂と多様性 ) VOL. 50, no. 3 , 2012.9 ・市村櫻子「 NWEC 図書パッケージ貸出サーピス一年半男 女共同参画の情報と知識を若い世代に」「 NWEC 実践研究第 2 号 ( 複合キャリア ) 」独立行政法人国立女性教育会館 , 2012 ( 2013.6.20 受理 )

9. 現代の図書館 2013年 09月号

1 現代の図書館 VoI. 51 N 。 .3 ( 2013 ) らない。 独立行政法人国立女性教育会館 ( 以下 , NWEC) の「女性関連施設データベース」 4 ) によると , 女 性関連施設と総称されるこれらのセンターは , 全 国に分布して約 350 館ある。 1999 年に「男女共 同参画社会基本法」が制定され , 男女共同参画社 会の推進が国民の責務となった後 , 名称も男女共 同参画センターと変更する施設が多くなっている。 男女共同参画センターは , 基本的には , 情報提 供 , 学習 , 市民交流 , 研究調査 , 情報提供などの 機能を持ち , その機能の統合的な運営によって , 男女共同参画社会の推進を目指す地域拠点施設と して位置づけられている。情報提供機能として付 属する図書室 , 情報センター , 情報コーナーを運 営する。 350 館のうち情報発信のための固有のスペース があるところが 307 館 , NWEC の 12 万冊を頂点 として蔵書が 5 万冊以上の施設は 9 施設 , 1 万冊 から 5 万冊以内を所蔵するのは 51 施設である。 男女共同参画センターライプラリーは , スペース は狭く , 所蔵図書は少ないが , 公共図書館と同様 に市民サービスを担いつつ , 専門図書館として , 、ニコミや市民活動資料などの一次史料など多様 な形態の資料を収集 , 全国各地で情報サービスを 展開している。 男女共同参画ライプラリーの 情報リテラシー 1 . 平等なアクセスを目指して 専門図書館としてのミッションは , 1975 年 , メキシコで開催された第 1 回「世界女性会議」に 遡る。この会議は , 女性政策展開のための具体的 な世界共通の目標が話しあわれた会議であった。 同時に日本の女性政策進展のきっかけとなり , 現 在の「男女共同参画センター」設立の起動点とも なった会議である。その会議で提案された重要課 題は , 「平等・平和・開発」であるが , 「情報はカ」 として注目され , その目標を達成するためには , 世界の女性が社会の現状を知り , 自らのカで自立 して生きるために , 男女の「情報アクセス格差」 2 の解消が目指された。平等な情報アクセスを支援 することこそ , 男女共同参画センターライプラ リーの基本的なミッションであった。 1970 年代 には「情報リテラシー」という言葉は日本の図書 館界でも一般的ではなかったが , 情報にアクセス できない女性のための情報リテラシー教育を目指 して男女共同参画センターイプラリーは現在に 至っている。 2. 課題解決のための情報リテラシー 1995 年 , 第 1 回のメキシコ会議 ( 1975 年 ) に 続く第 4 回の「世界女性会議」が北京で開催さ れ , 日本からも 5000 人の女性が参加した。この 会議では , 以下にあげる A から L の , 男女平等 な社会を目指して解決すべき 12 項目の課題 , A 「女性と貧困」 , B 「女性の教育と訓練」 , C 「女性 と健康」 , D 「女性に対する暴力」 , E 「女性と武 カ戦争」 , F 「女性と経済」 , G 「権力及び意思決 定における女性」 , I 「女性の人権」 , J 「女性とメ ディア」 , K 「女性と環境」 , L 「女児」が , 北京 行動綱領として採択された。以後 , 国の行動計 画 , 白書などもこの項目を支柱として構成され た。北京行動綱領の項目は , 専門図書館として男 女共同参画センターライプラリーにおける , 情報 リテラシーを必要とする重要な課題となった。こ れらの課題には , 喫緊に解決すべき課題もあり , また実態はあっても社会的に顕在化していない課 題もある。 同時に北京行動綱領の項目は , 取組むべき内容 とともに , 情報リテラシーを必要とする利用者の セグメント化を明らかにした。生活するための課 題解決を必要としている人々である。たとえば行 動綱領 A 「女性と貧困」は , シングルマザーや , 仕事を得られない若者もターゲットとなるであろ う。また , 女性と暴力では , ドメスティクバイオ レンスの被害者 , また加害者もターゲットとな る。今 , 日本の公共図書館では , 従来の大人 , 子 ども , 障がい者・高齢者といった利用者のセグメ ント化をより多様に展開して , 外国人や人種・民 族なども視座に入れた情報リテラシーサービスが 行われつつある。しかし , 性による ( 男性 , 女 性 , 性的マイノリティー ) 利用者のセグメント化

10. 現代の図書館 2013年 09月号

現代の図書館第 51 巻第 3 号 ( 通巻 207 号 ) 編集 : 日本図書館協会現代の図書館編集委員会 2013 年 9 月 25 日発行 発行 : 社団法人日本図書館協会〒 104 ー開 33 東京都中央区新川ト 11 ー 14 谷 03 ( 3523 ) 0811 ( 代 ) 振替 : 00100 ート 9375 ( 出版事業部専用 ) 定価 : 1 , 365 円 ( 本体 1 , 300 円 ) 印刷 : 有限会社吉田製本工房 Libraries T0day Vol. 51 No. 3 0 2013 Japan Library Association * 本誌からの無断転載を禁じます ISSNOOI 6 一 6332 本文は中性紙を使用しています