考える - みる会図書館


検索対象: UP 2016年8月号
38件見つかりました。

1. UP 2016年8月号

先日、『高校数学でわかるアインシュタインーーー科学という 音を伝える媒質は空気であり、空気がないと音は伝わらな 考え方』 ( 東京大学出版会 ) と『科学という考え方ーー・アインシ い。光を伝える媒質として想定されたのが「エーテル」であ ュタインの字宙』 ( 中公新書 ) を同時に出版した ( 以下ではそれる。「アインシュタインが初めてエーテルの存在を否定した」 ぞれ、『版」と『新書版』と略す ) 。タイトルから想像されると言われることがあるが、ある物事の存在を否定することは ように、どちらもアインシュタインの相対性理論 ( 相対論 ) を「悪魔の証明 (p 「 obatio diabolica) 」と同じで、科学的な議論に 中心に扱っている。元々は一つの講義録を二冊に分けたものはならない【酒井邦嘉『科学者という仕事』一三ー二四頁、中 で、両者を並行して読み進めれば、理解が深まるだろう。 公新書三〇〇六 ) 】。例えば「お化けが存在しない」というこ 相対論をめぐっては、最初の発表から百年以上経った今なおとは科学的に証明できないのだ。正しく言えば、「アインシュ = 蹶解か流布している。ここでは、特殊相対性理論に関する典型タインの相対論により、エーテルが不要であることか証明され 的な誤解を四つ取り上げる。最初の二つは相対論の基礎につい た」とい、つことである。 てのもので、続く二つは相対論の効果に関するものである。相 アインシュタインは、一九〇五年に発表した論文 ( 以下では 対論の持っ理論的な整合性や、数学的な美の一端に触れていた「第一論文」と呼ぶ ) の初めに、「。光を伝える媒質。に対する地 だきたい。 球の相対的な速度を確かめようとして、結局は失敗に終ったい くつかの実験をあわせ考えるとき、力学ばかりでなく電気力学 ①アインシュタインは「エーテル、の存在を否定した ? においても、絶対静止という概念に対応するような現象はまっ 相対論をめぐる誤解 酒井邦嘉 相対論をめぐる誤解 6

2. UP 2016年8月号

余地を残しつつ、相対論の確かな道筋を示すことに専心した。 【アインシュタイン ( 井上健他訳編 ) 『アインシュタイン選集 1 』 一五頁、共立出版 ( 一九七一 ) )- と書かれている。その一方 ②物体が光速を超えられないのは相対論の前提である ? で、相対速度によらない「固有質量」も導入されている【同、 相対論と言うと、「物体は光速を超えられない」ということ一二頁】 が前提になっていると誤解されがちだ。物体が光速を超えられ 相対論では長らくこの三種類の質量 ( 運動質量、静止質量、固 ないこと自体は正しいが、これは相対論の帰結であって前提で有質量 ) が想定されてきたのだが、よく整理して考えれば、運 はない【『版』六四頁】。相対論の前提とは、「 4 次元時空動量とエネルギーの定義には元から質量が含まれていて【「 の慣性系はすべて同等であり、あらゆる物理法則は慣性系間の版』八三ー八五頁】、その質量自体が慣性系によらない不変 変換に対して不変である」という特殊相対性原理だけである。 量なのである【同、一五三ー一五四頁】。質量は常に不変であ 「 4 次元時空」とは、 3 次元空 間 2 ) と時間ー ( あるいはる一方で、「物体の運動量は光速に近づくと大きくなるーと言 光速を掛けた ) を合わせたものを一言う。また、光の実体はうのが正しい。また、「光速を超える物体は『虚数の質量』を 電磁波であり、光速は電磁気学の法則によって導かれる定数で持つ」と新聞で報道されたことがあったが【酒井邦嘉「いかに ある【『新書版』一六七ー一六八頁】。「光の伝播速度は、光源分かりやすく正確に伝えるか」、 . ミミミミ No. 291 も p. 70 ー 77 や観測者の運動速度によらず常に一定であるーという光速不変 ( 2014 ) 】、たとえ計算上であっても質量が虚数に変化すること の原理は、特殊相対性原理の一部であり、相対論の前提だっはない。 た。光速不変の原理と、物体が光速を超えられないという法則 は、レベルの違うものとして区別する必要がある。 ④光速に近づくと時間が縮む ( 遅くなる ) ? 「第一論文」には、「静止系で考えると、走っている時計は遅 れることになる」と書かれていた【『相対性理論』三五頁】。そ ③物体が光速に近づくと重くなる ? 相対論の専門書でも、「物体の質量は光速に近づくと増大すの三年後にミンコフスキーは、ある物体上の一点に固定した時 る ( 重くなる ) 」と書かれている本が多数ある。例えばアイン門。 日てある「固有時ーという考え方を導入した。基準となる固有 シュタインの論文に対する解説では、「運動質量〔運動する物時と同じ時間間隔を、その物体に対して相対運動する慣性系 体の質量〕は静止質量〔静止時の質量〕に比べて大きくなるの時計で計ると、固有時より必ず長くなる【『版』八〇ー 相対論をめぐる誤解 8

3. UP 2016年8月号

から、二つの慣性系に置かれた時計を見せ合ったとしよう。二させておく。以下の図では便宜上、慣性系を直交座標系、慣 つの時計が指し示す時間が異なるなら、一方からは自分の時計性系を斜交座標系として、両者で一致する原点を〇とした が相手より進んでおり、他方からは自分の時計が相手より遅れ【『新書版』一六〇ー一七九頁 ていて、それぞれの観測結果が食い違うことになる。この問題慣性系で x Ⅱ 0 に置かれた時計について時間な ( 固有時 ) が を解決するには、相対論的に正しい「時間の計り方」を理解す経っとき、慣性系の時計で経過する時間を求めてみよう。 る必要がある。 図 1 で軸上の点 (), 3 ) から軸と平行な線を引くと、 1 を与える。交点 4 次元時空の座標系として、空間を 1 次元として横軸 ( 工軸と交わる点がある。この交点が求めたいだ 軸 ) 方向にとり、時間を縦軸 ( 軸 ) にとって、 2 次元に単純 ( 0. ミ、 1) は、慣性系で (0,ct1) を通るエ軸に平行な線より必 化して考えよう。慣性系から見たとき、もう一つの慣性系ず ( 斜交座標系の傾きに関係なく ) 上にあるから、 c ニ▽ 3 とな 申ひていることになる。また、 の相対速度を霍とする。慣性系 K (t) と慣性系 K 、を . ミ、 ) って、慣性系で計った時間はイ それぞれに、同じ性能で同期させた時計を複数配置する。ま時間となの関係は次式のようになる【『版』六八ー六九 た、 x Ⅱ 0 とⅡ 0 に置いた時計を使って、 7 0 と ( 、Ⅱ 0 で同期頁】 ct'l 1 0 図 1 時間の伸び 1 0 図 2 逆に見た「時間の伸び」 相対論をめぐる誤解 10

4. UP 2016年8月号

ン タ A 」 図 春日直樹 意 る え 考 ら 性 この数年、科学研究や科学史を学びながら人類学者として考に認知科学者が「対称性バイアス」と呼ぶように、私たちには対 の えてきたことがある。アナロジーという思考様式の方向生につ↓から↓を導く傾向があるために、べース・アナログ ジ いてである。ご存じのようにアナロジーとは、或る対象の未知からターゲット・アナログへの推論が逆方向にも稼働するよう ロ ナ な側面を、別の対象の既知な側面へと対応させて理解する方法な錯覚が生まれるのである。今春に刊行した『科学と文化をつ ア なぐ , ーーアナロジーという思考様式』 ( 春日直樹編、東京大学出 である。認知科学では、前者 ( Ⅱ未知な領域 ) を「ターゲット ・アナログ」、後者 ( Ⅱ既知の領域 ) を「べース・アナログ」と版会 ) を編みながら、私はアナロジーと対称性の関係に思索を 呼んで両者の関係を検討してきた。双方を構成する各要素が一めぐらせた。アナロジーが対称性を充たすと考えるのは確かに 錯覚だが、私たち人類はアナロジーを非対称なままに双方向的 対一に対応しており、互いに異種同型と判別できる場合に、べ ース・アナログはターゲット・アナログの精確なモデルとなに活用する術を、いろいろと身につけてきたのではなかろう り、アナロジーはただの類推から科学の議論へと変わる。表現か。 を変えれば、科学的な思考は二つのアナログのいずれもが他方たとえば「儀礼」と呼ばれる普遍的な事象は、必ずしも明確 のべースとなりうるまでに、関係性を厳密に特定するわけであな目的をもつわけではない。むしろ実生活や夢や空想から特定 る。 のモチーフを作りあげて、それを真剣に間違いのないように演 アナロジーは私たち人類の生活にとって不可欠な思考様式だじていく。アルフレッド・ジェルが六〇年代末に調査したパプ が、厳密な論理ではないためにしばしば弊害をもたらす。とくアニューギニアのウメダ社会を例にとれば、そこではヒクイド アナロジーの非対称性から考える 意図と。ハターンー科学と文化をつなぐ思索

5. UP 2016年8月号

学問の図像とかたち・イラストから読む教科書ショートスカート癶場寺田寅彦 〔法の森から。ー〈 A 〔 0 帚「ざョ ~ = 0 「。「。。 ~ 。→〔。 w 〉〕 1 ( 新連載 ) レソ . ーの一一 0 一は法律かワ・長谷部恭男 相対論をめぐる誤解酒井邦嘉 アナロジーの非対称性から考える意図とハターン科学と文化をつなぐ思索春日直樹 英米法の航海『英米民事訴訟法』に込めた思い溜箭将之 〔「イスラーム問題」の構築と移民社会ー・ニ〇一五年パリ危機からその後〈〕 1 ( 新連載 ) 統ムロ A 」除の一間一宮島喬 リ - こ - 7 a- 目トに : 〔行政責任を考える〕 3 「居住の権利」を奪う政策の貧困新藤宗幸ー - - ーー。。。。、・・、懿 〔初期「帝大新聞」の研究ー「創刊資金の謎」〕 5 『山川健次郎日記』に見る、九九年の東京帝国大学清水あっし 〔書評〕奥泉光・群像編集部編『戦後文学を読む』、あるいは、いま「戦後文学」を読むこと成田龍一 〔日本美術史不案内物の味」カ佐藤康宏 すゞしろ日記第回山口晃 執筆者紹介 学術出版 第四五巻第八号 ( 通巻五ニ六号 ) ニ 0 一六年八月五日発行 ( 毎月五日発行 ) 定価 ( 本体価格一 00 円十税 ) ( 一年分一 0 〇 0 円送料・税共 ) ・京大学出版会 ・ Numbe 「 526 、 August2016 館 書 0 図Ⅷ 9 立

6. UP 2016年8月号

長候補者等の選挙」として章を設けて語られているが、このよ ー第 ( 本・ヤキ類鶩目きっ , に付されてゐるが、素たに決をみない、これ先づ鑑難載 平賀博士を推薦か 山出一ま産士がされ画に第まし、改めて全敎授の うな記事記載は一切ない。「文部省イ ( 則よ ( 中略 ) 総長・学長の学 總長問題依然愼重續く」 , 内進められ , 。。が要確 大 實と見られる、も ^ 日ヒ景みの語められ、文 国 創、の第」委っ新新受霎当引冒・ぎ . とーする一 ~ 亭たゞでは士 = 第・・を靡 . 、′靡、新たに候補を推薦し、 互選につき特に異議をさしはさむということはなかった」が、 十四日改めて學部毎に全敎授の意向がめられたが未だ文部富局に推第の運びに至らぬ模樣である、ま第 ~ されを梦第中難・ 帝 をられ、創だけはれないのま第・、ー第方無」整駅ある一々・内「羅すをされ、内れ工を窮の窮 & ある ただしこれに続けて「総長公選」が文部省内規であったため京 の 総長選をめぐる記事「平賀博士を推薦か」 ( 「帝国大学新聞」一九三八 ( 昭和十三 ) 、「この内規が、戦前最大の難局に遭遇する事態が生じた。 年 年十二月十九日号 ) 。この前週号で「全教授の意嚮に基き」 ( 選挙のことか ) 山田三 良、平賀譲教授が有力と報じられたが、その後山田氏が辞退を表明。この号で平賀いわゆる荒木改革案と呼称される事件がそれである」とある。 教授の「推薦」に至ったという記事である。「慎重続く」という表現に帝大事務当 一九三八 ( 昭和十三 ) 年に予備役陸軍大将・荒木貞夫が文相一 局の当時の緊張感が伺える。 る に就任し、「慣行として行われてきた総長以下の選挙は法的根 見 の四月二十日付『朝日新聞』に「帝大総長公選」の同様の記事は拠がない」と、その変更を求めてきた事件だ。軍国主義下で大 見えるが、その扱いについては触れてないので「文部省内規と学自治に政府が直接介入する動きだったが、「東京帝国大学は、 なる」という部分が小野記者の「特種」といえるかもしれない 文部省と真向うから対立する立場を採」った。『百年史』は総健 山 普通選挙もない時代に帝大の「総長公選」はやはり、相当重長公選については譲らなかった、としている。 大な問題だった。山川総長は、大学評議会の結論と寺内正毅首では荒木文相側の「負け戦」だったかというと、当時東京帝 っとむ 相との間に立ち、相当な摩擦と葛藤があったことがうかがえ大の書記官だった石井勗の著書『東大とともに五十年』 ( 原書測 の 金 る。これは当然山川から小野への直話であろう。小野がこの本房、一九七五年 ) によると、ちょっと違った話が伝えられてい 資 刊 を書いたのは五十年近く後のことだが、この生々しい話は強くる。つまり荒木文相は「東大は名を取り、自分は実を取った 創 彼の印象に残ったのだろう。首相の寺内正毅は長州出身で、山と言っている、というのだ ( 同書八一 5 八二頁 ) 。平賀譲海軍技 川より二歳年長だ。陸軍大臣を長く務めたが、若いころは長州術中将が次の総長に選ばれたこと、また帝大側は「公選」「選究 の 軍の一員として戊辰戦争にも参加している。会津白虎隊出身の挙」という一言葉を以後使わないことにしたというのが、荒木の 山川とはお互いに当然そういう意識もある。 取った「実」の中身だ。平賀総長の選出前後 ( 一九三八年十一一 月 ) の『帝大新聞』記事を見ても、確かに「選挙」「公選」の締 期 文字はなく「推薦」という書き方が目立つ。両方の見解を見な 初 いと、中々わからないものである。 ( 右上写真参照 ) 東京大学の正史『東京大学百年史』では、通史第一一巻に「総 「総長公選」をめぐる、東京帝大と荒木文相のバトル 一三ロ

7. UP 2016年8月号

軸と交わる交点がなを与える。交点召 (), 3 ) は、置性系 >tl ー CÜ で点 (), ミ、 1) を通る軸に平行な線より必ず ( 斜交座標系 の傾きに関係なく ) 上にあるから、 3 ▽ミ、一となって、性系 前述のように物体の速度は光速に達しえないので、必ずで計った時間は伸びていることになる。なお図 1 と図 2 では、 がグラフ上で同じ長さとなるように表一小しており、の方は v< c である。すると、 0 △ △ 1 だから △ 1 と 一致しない なり、①式の分母は 1 より小さいため、ニ▽ュか成り立つ。っ ここで、次のような疑問が生じる。図 1 で置性系の時計を まり、時間は伸びている。 基準にすれば、慣性系 i< の時計は遅れているのではないか。① 次に、時間の伸びが「相対論的」であることを確かめるた式を次のように変形してみよう。 め、二つの慣性系を入れ替えて考えてみよう。すなわち、慣性 系で、Ⅱ 0 に置かれた時計について時間 ( 固有時 ) が経っ とき、慣性系の時計ではどのくらいの時間なが経過するだろ 、つ 1 刀 図 2 で軸上の点 ( 0. ミ、 1) からエ軸と平行な線を引くと、 へ劬。ん社 柏木義円と親鸞 近代のキリスト教をめぐる相克 市川浩史著キリスト者として 日本の帝国主義化への反対を 貫き、地域伝道と社会批判運 動を活発に展開した柏木義円 ( 1860 ー 1938 ) 。その思想形成 を出自である真宗寺院および 親鸞との葛藤・内的対話の軌 跡から探り、明治の精神の可 能性と限界に迫る。 2600 円 国学の曼陀羅 宣長前後の神典解釈 東より子著本居宣長の前 後に登場した田安宗武・上 田秋成・橘守部・平田篤胤・ 富士谷御杖・吉岡徳明らの 記紀解釈を集積体として読み 解き、人間と神々のコスモロ ジーを穿つ。 2500 円 禅からみた日本中世 の文化と社会 天野文雄監修日本中世の 文化や社会に「褝」がもたら した影響を、文学・美術・ 芸能・建築・社会・思想の 各分野の研究者が最新の研 究状況をふまえて、その新展 開を検証する。 4800 円 長谷川伸の戯曲世界 沓掛時次郎・瞼の母・暗闇の丑松 鳥居明雄著大衆文芸作家 として一世を風靡し、股旅物 の生みの親でもある長谷川 伸。傑作と名高い戯曲三編 を取り上げ、挽歌の視点か ら精緻に読み解き、大衆演 劇の根源を拓く。 3500 円 東京都文京区本郷 1 ー 28 ー 36 容 03-3814 ー 8515 * 税別価格 2 2 2 2 ①式と同様に 1 ー △ 1 だから、②式のユ△ニが成り立 つ。特殊相対性原理によればすべての慣性系は同等であり、ど 2 2 2 2 11 相対論をめぐる誤解

8. UP 2016年8月号

有斐閣 ( 価格は税別 ) 東京・神田・神保町 2 / Te に 03-3265-6811 http://www.yuhikaku.co.j p/ 安保法制から考える 憲法と立憲主義・ 民主主義 A5 判 長谷部恭男編 1 , 300 円 憲法学者 , ジャーナリス トが「憲法」の理念と「立 憲主義」「民主主義」といっ た基本原則の解説を通じ てその答えを追い求める。 民立憲か宀 主憲法ら女 主主と考 義義え る 安ま物てを法の第が守られるのか . 安保法物て立第主・・民主主義の理をは 仮たれ 0 のか . そのをえを この 1 冊に凝縮する。 憲法 9 条と 安保法制 政府の新たな憲法解釈の検証 阪田雅裕著 A5 判 2 , 600 円 元内閣法制局長官の著者 が新たな憲法解釈と安保 法制が抱える問題を検証。 学力・心理・ 家庭環境の 経済分析 全国小中学生の追跡調査から 見えてきたもの 赤林英夫・直井道生・ A5 判 敷島千鶴編著 3 , 1 00 円 ◎図書目録送呈◎ 7 相対論をめぐる誤解 たく存在しないという推論に到達する。〔中略〕ク光エーテルク ることがなかったのである【『新書版』一六九ー一七〇頁】。た という概念を物理学にもちこむ必要のないことが理解されようだし、エーテルの効果を観測しようとして開発された「二光束 【アインシュタイン ( 内山龍雄訳 ) 『相対性理論』一四ー一五、干渉計」という装置のアイディアは重力波の検出器に踏襲され 岩波文庫 ( 一九八八 ) 】」とだけ記している。 たので、実験自体には意味があった。 後にアインシュタインは、「特殊相対性理論がすべての慣性 相対論の多くの解説書では、判で押したように「エーテル 系の物理的同等性を明示したことから、静止しているエーテルと「マイケルソンーモー丿 ーの実験」の話から始まる。それ という仮説は支持しえないことが証明された。それゆえ、電磁は、電磁気学の直接的な発展に重きを置いたためであろう。 場が物質的な担い手の状態として把握されるべきだ、という考「光の媒質となりうる『真空』とは何か」という電磁気学の門 えは放棄されねばならなかった【アインシュタイン ( 金子務題は未解決だが、そのことと相対論は明確に切り離す必要があ 訳 ) 『特殊および一般相対性理論について』白揚社、一九二頁る。そこで今度の本ではエーテルの説明を一切省くことにし 三〇〇四 ) 】、と述べた。「慣性系」とは、加速度を持たずに等た。相対論は「エーテル」の議論と独立して構築されたのであ 速で直線運動をする座標系である。エーテルの存在を検証しより、ニュートンの唱えた「絶対的な不動の空間、という概念 うとした「マイケルソンーモ ー丿ーの実験」は、特殊相対性原【『新書版』一一六頁】の放棄こそが最大の前進だった。それは 理 ( 後述 ) に基づくアインシュタインの思考に何ら影響を与え いかに革命的だったことか。今度の本は、読者が想像力で補う = 新刊案内 物・第ニ 木村第太 長谷部・男・編

9. UP 2016年8月号

手が、弓を思いきり引いて森の奥深くへと打ち込むことでフィを呈するが、最後には射主の弓によって「外部」へと押し戻さ 門、村人たちれてしまう。これが精一杯に大胆な言い換えではなかろうか ナーレを飾る。射手が最後に登場するまでの二日日 は非人間である何かへとみすからを類比させながら、あるパタむしろ私たちが問うべきは、こうしたパターンのつながりを ーンでの「外部」「内部」の要素を別のパターンのそれと重ね、つうじてべース・アナログとターゲット・アナログの非対称性 ノターン ネがどの程度保持されているのか、逆の表現をすれば、ヾ あるいは逆に対置させることによって、アナロジーの構造を夏 の間の変換が理解の方法から操作の対象へとどれほど変貌を遂 層化していく 一例をあげれば、若い狩人たちが神話上の女性テタグワナとげているのかであろう。「非知」としての「外部」を組み込ん して、魚の仮面をつけて踊るシーンがある。そこにはテタグワだアナロジーの試行的な反復によって、パターンの百科事典の ナだけでなくパンナタムーという魚への類比が生じており、こようなものが編み上がっていく、と考えられるからである。こ の魚が動物としてもっパターン、魚の仮面を構成する植物にまのとき、儀礼と日常の非対称で双方向的な関係の内側には、置 ハン換の規則で充ちたお馴染みの「象徴コード」が姿を現す。意志 つわるパターン、さらにはデザイン・神話・踊り・動作・ とパターンの結びつきはいうまでもなく、この水準を射程にお ナタムーの同音異義語といった各次元におけるパターンがテー マ化する。各パターンで「外部」「内部」の要素が読み込まれさめた上で、語り直さなければならない ( かすが・なおき人類学 ) るか、多くのパターンは「内部」どうしのつながりを作りだす と同時に、「外部」の要素を押し出すパターンとも対比的な複 合を形成するのである。 このように「外部」と「内部」を節合し直す過程で、「外部」 春日直樹編 が「内部」に直結するような側面が目立っと、「秩序の転倒 とも呼べる場面が現れる。かって人類学者が「反構造」とか 科学と文化をつなぐ 「否定」とか論じ、「実存」や「純粋相対性」に思いをはせた事アナロジーという思考様式 象だが、深読みは廩むべきだろう。あるパターンでの「外部」 の要素が別のパターンでの「内部」の要素へと執拗に節合し直 されるために、「外部」が「内部」へと挿入されたような様相 東京大学出版会 ( 表示は本体価格 ) < 5 判・三六四頁・四二〇〇円 19 アナロジーの非対称性から考える意図とパターン

10. UP 2016年8月号

ヘルギーのプルッセル 厳戒態勢の隣国を避けるかのように、。 何に連動していくのかーーニつの事件から 国際空港で三月、の名による爆破事件が起こり、多数の犠 森千香子氏の「パリ襲撃事件のもう一つの恐怖」 ( 本誌七月牲者を生んだ。そして三カ月後、一見関係ないとみえる「英国 号 ) のすぐれたリポートと省察を承け、時間的スパンと視野をの離脱 Brexit 」の国民投票結果のニュースが世界中をか 広げるかたちで、二つの事件に象徴される危機のその後、およけめぐったが、はたしてフランスの危機と無縁の動きといえる び関連する問題を取り上げ、読み解いてみたい。 会 一連の出来事の背景には、国際的なイスラーム過激派運動、 一一月一三日 ( 同時多発テロ 危機はまだ過去形で語れない 民 移 事件 ) 以来フランスは「非常事態」の下におかれていて、それシリア内戦、「イスラミック・ステイト」問題があるが、 築 「ヨ常事態権力の行使」とはど私はこれらの背景じたいを考察する能力をもたない。フランス は容易に解除されそうにない。ト 構 の範囲の措置を許すのか明示されす、「状况により必要とされと諸国の移民の問題への関心と視点からこれにアプローチ初 る諸措置をとる」 ( 一九五八年憲法第一六条 ) とある。言論、表するもので、細い茎を通して世界を覗くといった体の議論とな ム 現、人身の自由など国民と住民の基本的権利に制限が加えられることを恐れつつ、筆をとるものである。 フランスの二つの出来事を、簡単に復習しておくと、預一言者ス る可能性があるわけで、当局が「ムスリム」と類別する市民・ 住民をもつばら対象範囲に、数千件におよぶ令状なし家宅捜索 ( ムハンマド ) のイラスト ( 漫画 ) を掲載した週刊新聞の編集室 を、アルカイダ系とされる移民出自の青年が襲い、同時にその を行うなど、尋常でない状況が続いてきた。 ・新連載「イスラーム問題」の構築と移民社会ーー一一〇一五年バリ危機からその後へ 1 統合と排除の間で 宮島喬 二〇一五年パリ危機からその後へ ] 1 統合と排除の間で