おじいさん - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
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1. ごんぎつね

しかし、おばあさんは字を読んだのではなかったのです。な・せなら、こんなひとりごとを しいました。 じぞう 「地蔵さんもなにもないのに、なんでこんなとこにさいせんがあるのじやろう」 そしておばあさんはいってしまいました。 海蔵さんは、右手にのせていたあごを、左手にのせかえました。 こんどは村のほうから、しりはしよりした、がにまたのおじいさんがやってきました。 しようへい 「庄平さんのじいさんだ。あのじいさんはむかしの人間でも、字が読めるはずだ」 と、海蔵さんはつぶやきました。 いいながら、こしをのばして おじいさんは箱に目をとめました。そして「なになに」と ふだを読みはじめました。読んでしまうと、「なアるほど、ふふウん、なアるほど」と、ひ きしゃ どく感心しました。そして、ふところのなかをさぐりだしたので、これは喜捨してくれる つばき なと思っていると、とりだしたのはふるくさいたばこいれでした。おじいさんは椿の根も とでいっぷくすっていってしまいました。 かいぞう 164

2. ごんぎつね

「そのおじいさんが竹笛をふいておりました。ちょっとした、つまらない竹笛だが、とて もええ音がしておりました。あんな、ふしぎにうつくしい音ははじめてききました。おれ きよく がききとれていたら、じいさんはにこにこしながら、三つ長い曲をきかしてくれました。 おれは、おれいに、とん・ほがえりを七へん、つづけざまにやって見せました」 「やれやれだ。それから ? 」 「おれが、その笛はいい笛だといったら、笛竹のはえている竹ゃぶをおしえてくれました。 そこの竹でつくった笛たそうです。それで、おじいさんのおしえてくれた竹ゃぶへいって みました。ほんとうにええ笛竹が、なん百すじも、すいすいとはえておりました」 こばん 「むかし、竹のなかから、金の光がさしたという話があるが、どうだ、小判でもおちてい たか」 あまでら はなと、つ 「それから、また川をどんどんくだっていくと小さい尼寺がありました。そこで花の撓 にわ 東海・近畿地方の神社で、五月八日に ; おこなわれる豊年をいのるおまつり ) 力ありました。お庭にいつばい人がいて、おれの笛くらいの大 ふえ たけぶえ きん ふえだけ 100

3. ごんぎつね

よしひこ んわんわん、と長く余韻がつづいた。すると吉彦さんが、 たに 「西の谷も東の谷も、北の谷も南の谷もなるそゃ。ほれ、あそこの村も、あそこの村も、 なるそや」 と、なそのようなことをいった。 「ほんとだ、ほんとだ」 たるや きのすけ と、樽屋の木之助じいさんと、ほか二、三人の老人があいづちをうった。 ・ほくはなんのことやら、わけがわからなかったので、あとでおとうさんにきいてみたら、 せつめい おとうさんはこう説明してくれた。 「ごんごろ鐘ができたのは、わたしのおじいさんのわかかったしぶんで、わたしもまだ生 まれていなかったむかしのことだが、そのころは村の人たちはみなお金というものをすこ ししかもっていなかったので、村じゅうがそのわずかずつのお金をだしあっても、まだ鐘 を一つつくるにはたりなかった。そこで西や東や南や北の谷にすんでいる人たちゃら、もっ ′」うりき ととおくのあっちこっちの村まで合力してもら、こ し冫いったんだそうだ。合力というのは、た がね よいん ろうじん 130

4. ごんぎつね

はじめたらいいでしよう。 とみてつ すると、富鉄さんという、大きい鼻のおじいさんが、いいことを思いだしてくれました。 もんあきな さかだに あぶらがし それはいまから四十年くらいまえ、村の一文商いやが、坂谷まで油菓子の仕入れにいっ じけん たかえり、ろっかん山のきつねにばかされて、まいごになったという事件でありました。 いずみ そのとき、村の人びとは、かねやたいこをならして、山や谷をさがして歩き、ついに、泉 だに 谷の泉のなかで、ももひきを頭にかむって、がつがっふるえながら、「これはええ湯じゃ、 もんあきな ええかげんじゃ」といっている一文商いやを見つけだすことができたのでありました。富 せつめい 鉄じいさんはこの話をよく知っていて、こまかく説明しましたが、それもそのはずで、き つねにばかされたのはじぶんのことだったのです。 とみてつ 富鉄さんの話をきいてみれば、きつねにばかされるということも、ありそうに思えまし た。ろっかん山では、 いまでもよく、きつねのちらりと走りすぎるのが見られますし、村 こえ のなかでだって、さむい冬の夜ふけには、むじなの声がきけるのですから。また、たとい きつねやむじなにばかされないにしても、よっている人間というものは、ばかされている あたま はな

5. ごんぎつね

うば車のむきをかえねばならなかった。・ほくたちは、このやっかいなうば車をかわりばん こにおしていったのである。 しよう′」 正午じぶんに、・ほくたちは町の国民学校についた。きのうのところに、なっかしいごん ごろ鐘はあった。 「やあ、あるなア、あるなア と、おじいさんは鐘が見えたときいった。そして、さわりたいから、そばへうば車をよせ てくれ、といった。・ほくたちは、おじいさんのいうとおりにした。 おじいさんはうば車から手をさしのべて、なっかしそうにごんごろ鐘をなでていた。 ・ほくたちはべんとうをもっていなかったので腹ペこになって、村に二時ごろかえってき し′」と ふかたに た。それから深谷までおじいさんをとどけにいってくるのは、らくな仕事ではなかった。 が、感心なことに、だれもいやな顔をしなかった。・ほくらはびつこをひきひき深谷までゆ き、おじいさんをかえしてきた。 タご飯のとき、きようのことを話したら、おとうさんが、それはよいことをした、とおっ ゅうはん がね かね かお はら 146

6. ごんぎつね

ゅうき と勇気をふるって、・ほくがいった。すると、あとのものもみな、さんせいしてしまった。 ほんじつじようかい 「本日の常会、これでおわりツ」 まつお と松男君がさけんで、たあッと門の外へ走りだした。みんなそのあとにつづいた。 かめいけ 亀池のしたで、おじいさんのうば車においついた。・ほくたちは、おじいさんのむすこさ んにわけを話して、おじいさんをこちらへうけとった。おじいさんは子どものようによろ こんで、長い顔をいっそう長くして、あは、あは、とわらった。・ほくたちもいっしょに、 わらいだしてしまった。 ひつよう なにもしんばいする必要はなかった。きのうとおったばかりの道でも、すこしもたいく せいい つではなかった。心に誠意をもってよいおこないをするときには、・ほくらはなんどおなじ ことをしても、たいくっするものではない、 とわかった。それにおじいさんが、いろいろ おもしろい話をしてくれた。 ただ一つこまったことは、うば車のどこかがわるくなっていて、おしていると、右へ右 へとまがっていってしまうことたった。たからおす者は、十メートルぐらいすすむたびに、 そと もの 144

7. ごんぎつね

おじいさんは、ごんごろ鐘の出征の日を、一日まちがえてしまって、ついにごんごろ鐘 におわかれができなかったことを、たいそうざんねんがり、ロを大きくあけたまま、鐘の しゅろう なくなった鐘楼のほうを見ていた。 「きのう、おわかれだといって、あげん子どもたちが、ごんごんならしたが、わからなかっ ただかね」 あんじゅ と庵主さんも気のどくそうにいうと、 「ああ、このごろは耳のきこえる日ときこえぬ日があってのオ。きんのは朝から耳んなか ではえが一びきぶんぶんいってやがって、いっこうきこえんだった」 と、おじいさんはこたえるのだった。 ひとめ おじいさんはむすこさんに、町までつれていって鐘に一目あわせてくれ、とたのんだが、 むすこさんは、仕事をしなきゃならないからもうごめんだ、といって、おしいさんののつ たうば車をおして、門をでていった。 ・ほくたちは、しばらく、塀の外をきゅろきゅろとなってゆくうば車の音をきいていた。 がねしゆっせい 142

8. ごんぎつね

ど、つじよ、つ ・ほくはおじいさんの心を思いやって、ふかく同情せずにはいられなかった。 まつお じようかい それから・ほくたちの常会がはじまった。すると、まっさきに松男君が、 ていあん 「・ほくに一つ、あたらしし提案がある」 といった。みんなはなんだろうかと思った。 「それは、今のおじいさんを町までつれていって、ごんごろ鐘にあわしてあげることだ」 みんなはだまってしまった。なるほどそれは、だれもがむねのなかで思っていたことだ。 しいことにはちがいない。しかしみんなは、きのう、町までいってきたばかりであった。 またきようも、おなじ道をとおっておなしところにいってくるというのは、おもしろいこ とではない。 しかし、 「さんせい」 もんじろう と、紋次郎君がしばらくしていった。 「ぼくもさんせし がね 143

9. ごんぎつね

わたろう けれど和太郎さんはまけていないで、こういうのでした。 「世のなかはりくつどおりにやいかねえよ。いろいろふしぎなことがあるもんさ」 わすけくん さて、この天からさずかった子どもの和助君は、それからだんだん大きくなり、小学校 きゅうちょう どうきゅう ではわたしと同級で、和助君はいつも級長、わたしはいつもびりのほうでしたが、小学校 うしか がすむと和助君は和太郎さんのあとをついで、りつばな牛飼いになりました。そして、大 おうしよう とうあせんそう 東亜戦争がはじまるとまもなく応召して、いまではジャワ島、あるいはセレベス島に働し オしふんおじいさんになりましたが、まだげんき ていることと思います。和太郎さんは、・こ : さくねん です。おかあさんとよ・ほよ・ほ牛は一昨年なくなりました。

10. ごんぎつね

わたろう こうして、和太郎さんはお嫁さんとわかれてしまいました。 そののち、あちこちから、お嫁さんの話はありましたが、和太郎さんはもうもらいませ んでした。ときどき、もういっぺんもらってみようか、と思うこともありましたが、かべ を見ると、「やつばり、よそう」と考えがかわるのでした。 しかし、お嫁さんをもらわない和太郎さんは、ひとっざんねんなことがありました。そ れは子どもがないということです。 おかあさんは年をとって、だんだん小さくなっていきます。和太郎さんも、いまは男ざ かりですが、やがておじいさんになってしまうのです。牛もそのうちには、もっとしりが やせ、あばら骨がろく・ほくのようにあらわれ、ついには死ぬのです。そうすると、和太郎 さんの家はほろびてしまいます。 お嫁さんはいらないが、子どもがほしい、とよく和太郎さんは考えるのでありました。 よめ