門 - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
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1. ごんぎつね

わたろう 牛ひきの和太郎さんは、たいへんよい牛をもっていると、みんながいっていました。だ にく ばね がそれは、よ・ほよ・ほの年とった牛で、おしりの肉がこけておちて、あばら骨もかそえられ ぐるま るほどでした。そして、から車をひいてさえ、じきに舌をだして、くるしそうに息をする のでした。 「こんな牛の、どこがいいものか。和太はばかだ。こんなにならないまえに、売ってしまっ て、もっとわかい、げんきのいいのを買えばよかったんだ」 じろうざもん しんぶんはい と次郎左ヱ門さんはいうのでした。次郎左ヱ門さんはわかいころ、東京にいて、新聞の配 げなん せんきようし 達夫をしたり、外国人の宣教師の家で下男をしたりして、さまざまなくろうをしたすえ、 しごと りくつがすきで仕事がきらいになって村にもどった、という人でありました。 しかし、次郎左ヱ門さんがそういっても、和太郎さんのよ・ほよ・ほ牛は、和太郎さんにとっ たっふ わた した

2. ごんぎつね

ました。それでないとくせになるから、というのでした。そこでみんなはねむい目をこす わたろう うち りながら、和太郎さんの家につめかけていきました。 和太郎さんは庭で、よぼよ。ほ牛をくびきからはずして、たらいに水をくんでのませてい ました。 じろうざもん 「やい、和太ーと、村でりこうもんの次郎左ヱ門さんがいいかけました。「おぬしは、村じゅ うのもんにえらいめいわくかけたが知っとるかや。おれたち、村のもんは、ゆうべひとね むりもせんで、山から谷から畑から野までかけずりまわって、おぬしをさがしたのだが、 おぬしはそれにたいしてたまっておってええだかや」 これでは次郎左ヱ門さんも、そうさく隊にはいっていたようにきこえますが、ほんとう はついさっきまで、家でねていたのです。 和太郎さんは、次郎左ヱ門さんのことばをきくと、びつくりしました。たいそう村の人 たちにすまないと思いましたので、「そいつア、すまなかったのオ」を十三べんもいって、 あたま せなか そのたびに頭をかいたり、背中をかいたりしました。そして、牛もじぶんもよってしまっ わた にわ うち

3. ごんぎつね

つけてきています。 じようねんばう 常念坊は門をはいると、 しようかん 「正観、正観」 と、庫裡のほうへむかってどなりました。 へんじ と返事がきこえて、正観が、ごそごそ鐘楼からおりてきました。 「おい、きつねだきつねだ。ほうきをもってこい ほうきを。ほうきでおいまくれよ」 正観はとんでいって、ほうきをもって、門のほうへかけつけました。 「おや、きつねがなにかくわえていますよ」 「ああ、だんごだ。とりあげろよ」 「ほい、したへおけ。 だんごはとりかえしましたが、きつねはすわったきりにげませ ん」 「だから、ほうきでおつばらえというのに」 しようろう

4. ごんぎつね

「それでは、わしはこのやぶのかげでまっているから、おまえらは、村のなかへはいって い。なにぶん、おまえらは盗人になったばかりだから、へまをしな いってようすを見てこ かね いように気をつけるんたそ。金のありそうな家を見たら、そこの家のどのまどがやぶれそ かまえもん ししカ釜右ヱ門」 うか、そこの家に大がいるかどうか、よっくしらべるのだそ。、、、、 「へえ」 と釜右ヱ門がこたえました。これはきのうまで旅あるきの釜師で、釜や茶釜をつくってい たのでありました。 えびのじよう 「いいか、海老之丞」 「へえ」 じようまえや と海老之丞がこたえました。これはきのうまで錠前屋で、家いえの倉や長持などの錠をつ くっていたのでありました。 かくべ 「いいか角兵ヱ」 「へえ」 たび ぬすびと かまし くらながもち ちゃがま じよう

5. ごんぎつね

と、まだ少年の角兵ヱがこたえました。これは越後 (k しからきた角兵ヱじしで、きのう“ そと までは、家いえのしきいの外で、さかだちしたり、とんぼがえりをうったりして、一文二 文の銭をもら ~ っていたのでありました。 かんなたろう 「いいか鉋太郎」 「へえ」 えど だいく しょこく と鉋太郎がこたえました。これは、江戸からきた大工のむすこで、きのうまでは諸国のお しゅうぎよう 寺や神社の門などのつくりを見てまわり、大工の修業していたのでありました。 「さあ、みんな、いけ。わしは親方だから、ここで、いっぷくすいながらまっている」 ぬすびとでし かまえもん一かまし えびのじようじようまえや そこで盜人の弟子たちが、釜右ヱ門は釜師のふりをし、海老之丞は錠前屋のふりをし、 角兵ヱはししまいのように笛をヒャラヒャラならし、鉋太郎は大工のふりをして、花のき 村にはいりこんでいきました。 かしらは弟子どもがいってしまうと、どっかと川ばたの草のうえにこしをおろし、弟子 どもに話したとおり、たばこをスツ。ハ、」 スッパとすいながら、盗人のような顔つきをして じんじゃ ぜに ふえ おやかた えちご かくべ かお もん

6. ごんぎつね

るから」 といいました。 あかばうおや わたろう その後、和太郎さんは、赤ん坊の親たちがあらわれるのをまっていましたが、ついにそ んな人はあらわれませんでした。 わすけ そこで、その子には和助という名をつけてじぶんの子にしました。そして、いつばいき けんのときにはいつでも、 てん 「おらが和助は、天からのさずかりものだ。おれと牛がよっぱらった晩に、天からさずけ てくださったのだ」 じろうざもん といいました。すると、りこうもんの次郎左ヱ門さんは、 りようしん 「そんなりくつにあわん話がいまどきあるもんか。子どもにや両親がなきゃならん。よっ ほ、つりっ て歩いているうちに天から子どもをさずかるようなことなら、世のなかに法律はいらない ことになる」 と、むずかしいりくつをいいました。 てん ばん

7. ごんぎつね

「かしら、こりや夜っぴてさがしてもむだらしい、もうよしましよう」 えびのじよう と海老之丞がくたびれたように、道ばたの石にこしをおろしていいました。 「いや、どうしてもさがしだして、あの子どもにかえしたいのだ」 と、かしらはききませんでした。 「もう、てだてがありませんよ。たたひとつのこっているてだては、村役人のところへうつ たえることだが、かしらもまさかあそこへはいきたくないでしよう」 ちゅうざいじゅんさ かまえもん と釜右ヱ門がいいました。村役人というのは、いまでいえば駐在巡査のようなものであり ます。 「うむ、そうか」 とかしらは考えこみました。そして、しばらく子牛の頭をなでていましたが、やがて、 「じゃ、そこへいこう」 といいました。そしてもう歩きだしました。弟子たちはびつくりしましたが、ついていく よりしかたがありませんでした。 あたま むらやくにん 114

8. ごんぎつね

「かしら、ただいまもどりました。おや、この子牛はどうしたのですか。ははア、やつば りかしらはただの盗人じゃない。おれたちが村をさぐりにいっていたあいだに、もうひと しごと 仕事しちゃったのだね」 釜右ヱ門が子牛を見ていいました。かしらはなみだにぬれた顔を見られまいとしてよこ をむいたまま、 子牛はおなかがすいてきたのか、体をかしらにすりよせました。 ちち 「だって、しようがねえよ。わしからは乳はでねえよ」 せなか そういってかしらは、子牛のぶちの背中をなでていました。まだ目からなみだがでてい ました。 そこへ四人の弟子がいっしょにかえってきました。 かまえもん ぬすびと かお 110

9. ごんぎつね

かんなたろう と鉋太郎が意気ごんでいいました。しかしかしらは、それにこたえないで、 「わしはこの子牛をあずけられたのだ。ところが、いまだに、とりにこないので弱ってい るところだ。すまねえが、おまえら、手わけして、あずけていった子どもをさがしてくれ ねえか」 「かしら、あずかった子牛をかえすのですかー と釜右ヱ門が、のみこめないような顔でいいました。 「そうだ」 「盗人でもそんなことをするのでご・せえますか 「それにはわけがあるのだ。これだけはかえすのた」 ぬすびとこんじよう 「かしら、もっとしつかり盜人根性になってくだせえよ」 と鉋太郎がいいました。 かしらはにがわらいしながら、弟子たちにわけをこまかく話してきかせました。わけを きいてみれば、みんなにはかしらの心もちがよくわかりました。 かまえもん ぬすびと き かお よわ 112

10. ごんぎつね

いました。これは、ずっとまえから火つけや盜人をしてきた、ほんとうの盜人でありまし 「わしもきのうまでは、ひとり・ほっちの盜人であったが、きようは、はじめて盗人の親方 、もんだわ というものになってしまった。だが、親方になってみると、これはなかなかいし しごとでし 仕事は弟子どもがしてきてくれるから、こうしてねころんでまっておればいいわけで ある とかしらは、することがないので、そんなつまらないひとりごとをいってみたりしていま した。 やがて弟子の釜右ヱ門がもどってきました。 「おかしら、おかしら」 かしらは、びよこんとあざみの花のそばから体をおこしました。 「えいくそツ、びつくりした。おかしらなどとよぶんじゃねえ、魚の頭のようにきこえる じゃねえか。たた、かしらといえ」 、 0 かまえもん ぬすびと からだ あたま おやかた