炎上。猛烈な対戦車砲の砲撃で , 多数のドイツ 軍戦車が破壊された。 ソ連軍の頑強な抵抗を必死に排除し , おそろ しいはどの損害をこうむりながらドイツ軍は , この日 1 日かかって約 5 km 前進 , その翌日はさ らに多くの損害に悩みながら 5 km 前進した。 の間の死傷者約 2 万 5 , 000 名 , 戦車・自走砲の損 失は約 200 両というたいへんなものであった。そ れでも北方軍はクルスクの北約 6()km にあるオリ ホバトカ台地に到達した。しかし , 前進はそこ で止まった。 ソ連空軍活躍す ドイツ軍の前進をくいとめる原動力になった ソ連空軍はこの のは , ソ連空軍の活躍だった。 防衛戦のために約 2 , 650 機の航空機を集めてい た。その主力は , 単発複座のイリューシンⅡー 2 M3 、、シュトルモビク ' ' 地上襲撃機 , ベトリヤコ 闘機で , 質的にもドイツ空軍とほば互角 , 数の 上ではドイツ空軍をしのいでいた。 なかでも I ト 2 , pe ー 2 の地上攻撃はすさましい ソ連軍が 1 時間以上も砲弾の雨 ものであった。 をドイツ軍の頭上に降らせる間 , 1 群の Pe-2 が 急降下してはつぎつぎに交替で爆撃を加える。 I ト 2 シュトルモビクは地表スレスレの 5 m から 10 m という超低空で , 激しいポンプの筒先から水 をぶちまけるような勢いで 23rn11 機関砲 2 門 , 7.62 機銃 2 挺を打ちつばなしにして突っこみ , 小 型爆弾の雨を降らせてドイツ軍目標の頭上を飛 び抜け , ぐるりと後方にまわりこんで , 浅いダ イプから銃撃を加えながら引き返す , いわゆる 「死のサークル」戦法を用いた 激しい銃爆撃にドイツ軍は息つくひまもない。 小口径の対空砲火では , 堅固な防弾板に身を固 ドイツ めたシュトルモビクはビクともしない。 戦闘機群が , 戦場 E 空の直衛にかけつけてソ連 機を追い払おうとするが , 超低空で飛行するソ 連機はなかなかしぶとい ゲアハルト中尉の Bf109G は , I ト 2 を地上すれ この低空では両者ともそれはどの すれで追う。 速度差は感しられない。地上の戦車や樹木が流 れるように後方にすぎ去ってゆく。ソ連機は右 に左にと機尾を振りながら , 後部座席の 12.7mm 機銃で応戦する。 光像式照準器にシュトルモビクを捉えた。 20 機関砲の砲口から射弾が正確に敵機の胴体に 吸いこまれる。しかしおちない。こんどは高度 をさらに下げて , ソ連機の青白い下面を慎重に ねらって全機銃を斉射。弾丸は確かに命中して いるのが見えるのに , シュトルモビクは煙も吐 かない。射弾は厚い装甲にはしかれているのだ。 ゲアハルトは思わすののしった さらに追尾する彼に向かって , 12.7m 幾銃の 割りあい正確な射弾がとんでくる。高度はさら 44
戦いでもドイツ空軍は , 制空権を決定的に自軍 のものとすることがどうしてもできなかった。 そもそも作戦開始にあたってドイツ空軍参謀 長イェショネク大将は , 東部戦線のドイツ空軍 が持つ , 第一線機の約半数をクルスク前面に引 き抜いて配備した。作戦開始の 7 月 5 日の 24 時 間に , 廷べ 3 , 000 回の出撃 , シュッーカ部隊にい たっては 1 日に 6 回も出撃を行なった。日がた つにつれてこのペースは落ちたが , それでも 7 月中の平均出撃回数は 1 日に 1 , 000 回というハ だが , ドイツ空軍のこの努 イベースであった 力も , ソ連空軍の払った同様の努力と , 数の上 での優勢をはね返すことは , 結局できなかった のである。 何とか Bf109 を高度 5 , ()()()m 以下の戦闘に引きこ もうとくいついてゆく。 地上で炎上する両軍の戦車は , しだいにその ドイツ軍 数を増した。やがて日没も近くなり , の増援部隊が戦場に到着し , 戦況はようやくド ドイツ軍は戦場を確保 イツ軍に有利に傾いた。 し , ソ連軍は主目的とした S S 機甲軍団の撃滅 は達成できす , ソ連戦車は戦場を離脱した。 両軍ともにそれぞれ 300 両以上の戦車を失い , 燃える両軍の戦車が吹き上げる黒煙は , 戦場の あちこちでくすぶる撃墜された航空機の煙とと もに , 夕暮れの空に死者を弔う焼香の煙のよう に立ち昇った。 この日行なわれた史上最大といえる戦車どう しの戦いは , ソ連軍の反撃を撃退したドイツ軍 の戦術的な勝利であったが , この勝ちが , 実は 戦略的な敗北につながる皮肉なものだった。 戦いが終わって , 戦闘に参加したソ連第 5 親 衛戦車軍には 500 両の手持ち戦車が残ったのに 対して , フッサー将軍の S S 機甲軍団の残存戦 闘可能の戦車は , 350 両に過ぎなかった。空の ソ連軍反攻ーーー " ツイタテレ作戦 " 中止 クルスク南方で , 両軍戦車軍団が激しく衝突 した 7 月 12 日 , 戦線北西部からは新手のソ連軍 が , ドイツ軍を分断しようと反攻を開始した。 その 2 日前の 7 月 10 日には , 連合軍がイタリア 南部のシチリア島に上陸した。ヘルマン・ゲー ドイツ軍にとって早急に対処を迫られる問題だった。 押し寄せるソ連戦車の大群を , どうやって撃破するか , 解決法のひとつは , 空から攻撃することだ。主翼にぶら下げた 37mm 砲の威力はききめがあった。写真はユンカ ス J u87 に 37mm の Fla k 田高射機関砲を装着し , はじめて言式射を行なったときのもの。 52
3 機編隊で離陸して行く Hsl 29 。対戦車戦闘に , 地上の歩兵部隊襲撃に かに重要かを如実に示している。あの頑丈な戦車も , 空からの一撃には , クルスクの戦いは空からの攻撃がい あっけないほどのもろさを呈した。 ドイツ第 9 戦車師団は I ト 2M3 の大群に むった おそわれた。たちまち「死のサークル」が始ま り , シュトルモビクはつぎつぎに機銃を発射し ながらドイツ戦車の頭上をとび越え , 後方にま わり込んで浅い角度のダイプで突進する。 シュトルモビクの右主翼付根にある N ー 37 37 m 黼包の砲口が火を吹くと , 戦車集団の先頭近く を走るティーゲル戦車が火を吹いてたちまち停 止。燃える戦車からころがり出る搭乗員たち。 次の瞬間 , 弾薬が誘爆したのか , あの重い石答 を空中高く吹きとばす大爆発が起こった。その 後ろを走るもう一両も , 別のシュトルモビクの 37m 黼包で仕とめられる。 弾丸を使い果たしたシュトルモビクは , 地上 をはうように低空で戦場を離脱 , その間ドイツ 機甲師団の上空には , 残りの I ト 2 が「死のサイ クル」を回しつづけ , 弾薬と燃料の補給を終わ った機が戦場に到着して , 攻撃を再開する。 地上から打ち上げる対空機銃も , I ト 2 にはて んで効き目が薄い。何しろ、、空飛ぶ戦車 ' ' の異 名をとるはど , ぶ厚い防弾鋼板に守られている ので有名だ。 I ト 2 は , 工ンジンの支持部からエンジンの下 面 , 乗員 2 名ぶんの座席を , すつばりと一体構 造の厚さ 12mm の防弾鋼板の「ふろおけ」で包み , 滑油冷却器も 8mm の鋼鉄板で保護している。 イロットを保護する防弾ガラスは前面で何と 65 mm の厚さ , この防弾ガラスのキヤノピーを 8 mm 鋼板の枠がガ、ツシリと囲っている。ソ連の乗員 は , この重装甲とパンチカに絶大の信頼をよせ , あだ名を優しい「イリューシャ ( 女性の名 ) 」と 呼んでいた 事実 , 口径 20m 心人下の銃弾では , たとえ直撃 しても貫徹することはできなかったし , また , 2 包弾ですら , 命中の角度によってはこの防 弾鋼板を打ち破れないことが多かった。 約 20 分間続いた「死のサイクル」攻撃で , ド イツ第 9 機甲師団の戦車約 70 両は地上で炎上し た。同じようなすさまじい光景が , 戦線の至る ところでくりひろげられた。 46
だったのだか、。 北から南下する部隊は , モーデル将軍の率い る第 9 軍が当たり , 南から北上するもう一方は , ホト将軍の率いる第 4 戦車軍と , ケンプフ将軍 のケンプフ別動軍が担当することになった。全 兵力は予備師団を加えれば 33 個師団 , その内 18 ドイツ軍としては乾坤一擲 個戦車師団という , ( けんこんいってき ) の大作戦であった。 モーデル将軍の第 9 軍は , 4 個軍団から構成 されていた。戦闘配置から見て , 東から第 23 軍 団 , 第 41 戦車軍団 , 第 47 戦車軍団 , それに一番 西側の第 46 戦車軍団であった。この 4 個軍団の 中で , モーデル将軍が打撃集団としたのは , 4 個戦車師団と 1 個歩兵師団から編成された第 47 この強力な軍団の左翼に 戦車軍団であった。 これを支える軍団として , 第 41 戦車軍団が配置 された。 第 41 戦車軍団は , 戦車師団ーっと歩兵師団 2 個を中心にした軍団であった。前述の第 47 戦車 軍団と比べると , かなりパワーが低下している。 モーデルはこのに気がついていたかれはこ れを補強するため , 第 656 重駆逐戦車連隊 第 653 重駆逐戦車大隊と兄弟部隊の第 654 重駆逐 戦車大隊からなる一一一 - の 9() 両の、、エレファント " 戦車部隊を配属したのである。そして更に , モ ーデルは兵力不足ろ ( ) K 日 ( 陸軍最高司令部 ) に 訴えて , 15()mm 砲を搭載した、、フンメル ' ' 部隊 の第 216 突撃戦車大隊を追加したのであった。 第 41 戦車軍団は戦力が強化された。特に火力 生産された。 だが、、エレファント " も、、フ の点で大きかった。 央にとび出た部分に注目した。 北のオリョール ンメル " も , 共に自走砲であった。深く対戦車 付近から , クルスクを中心に , 約 l()() km の円を 陣地を敷いた敵陣を突破するには , スピードと 描いた南のベルコロドまで , ドイツ陣内にコプ のように突き出ている戦線であった。 運動性にとは、しかったのである。 ヒトラーの作戦目的は , この突出部に集中し たソ連軍を , 南北から挾撃して包囲粉砕しよう というものであった。これは戦略上重要な地点 という意味からすると , スターリングラード攻 略作戦より , 更に戦略的意義はうすくなる。「に こくしく目の則にぶらさがった相手を , たた こういったヒトラー独特の感情 きのめすのだ」 を , 多分に含んだ作戦といえたであろう。 この作戦が , それまでの夏期攻勢と違ってい る点が一つあった。それはだましうちに近い 奇襲の要素が欠けていたということであった。 これは広大なロシアを縦横に走りまわる機甲部 隊の機動戦で , 勝利を得るための最重要な条件 を 激突 短いステップ地帯の夜空を , すさまじい光の 帯がながれた。地上の車両 , 戦車 , 火砲 , そし て家も木木も , 炎の嵐の中でビリビリふるえた。 重砲の炸裂。カチューシャ砲のうなり。光の 1943 年 7 月 5 日。 渦。地獄の始まりであった。 午前 2 時 2() 分。ドイツ第 9 軍の第 1 線陣地のこ とであった。 塹壕の中で仮眠中のドイツ軍兵士も , 地上の 宿舎で最後の作戦準備にせわしい将校たちも , それぞれ首をすくめて , 体を更に低くした。「な んたることだ」「砲兵隊は第 1 線の味方を撃っ 27
日が続いた。撃墜されれば , パラシュートで降 下しても捕虜になる敵地の上である。未帰還機 が増え , パイロット , 乗員の消耗は補充が追い つかないほど甚だしくなった 7 月 19 , 20 , 21 日とドイツ空軍は Ju88 , He111 , Ju87, HS129 を動員して , 突進してくるソ連戦 車 , 地上部隊の上に砲弾と爆弾の雨を降らせた。 プロイス少尉は 21 日の午後 , 戦闘から帰投中 に機上で戦死した。 2 回目の出撃を終えてプロ イス少尉は , 後方の自軍基地に向かって高度を あげながら全速で飛行した。戦場付近を絶えす うろっくソ連機のおかげでこのあたりは物騒だ ・可、一 0 携行した弾薬を使い果たした機体は軽くなって いるはすなのに , 速度が上がらない。余りにも 酷使されたノーム・ローン・エンジンにガタが 来たのだろうか , 規定の出力はとても出ていな いのだ。スピードは時速 3()()km そこそこた そのときプロイス機を発見した 3 機のヤクー 3 が , 後上方からしのび寄っていた。先頭の 1 機 の光像式照準器 ( OPL ) が , HS129 のオムスビ形 の胴体をとらえ , パイロットの拇指が , 発射ポ リンク降下戦車師団のティーゲル重戦車が , 上 陸部隊を水際で迎え撃ち , 88m 黼包と軍艦とが撃 ち合いを演したのは有名な話である。 連合軍を食い止めるのに , 機甲部隊をどこか らイタリアに送るか。ヒトラーは東部戦線から 以外にはその答えを持たなかった。 こうして北 と南からクルスクをもぎとろうとくいこんだ鉄 の爪は , ソ連軍の鋼鉄のヨロイに打ち当たって 止まってしまった。 ドイツ軍の侵攻作戦が止まっていた突出部北 方で , ソ連軍は逆にドイツ軍部隊の包囲せん滅 をねらって行動を起こした。 ドイツ空軍は作戦 可能の可動機を大いそぎでかき集め , ドイツ軍 陣地を , オリョール付近で突破して前進してく るソ連戦車の進撃を空から叩き , 味方地上軍が 態勢を立ち直す時間を稼ごうとした。 せつかく優勢を保っていた南方の空から , ド イツ空軍機の姿が減っていった。地上攻撃機・ 爆撃機は北方の戦場に急派されたのである。夜 あけから日没までシュッーカや Hs 129 は , ソ 戦車の大群を食いとめるため出撃をくり返す毎 ユンカース Ju88 は , ドイツ空軍の双発爆撃機の代表作だった。大小さまざまの爆弾を積み , ヨーロッパの各戦 線に姿を見せた。その使い良さで , 偵察 , 夜間戦闘 , 急降下爆撃 , 雷撃などの用途に用いられた。 53
2 メッサーシ、ミット Bf 田 9G の編隊。ドイツ空軍の主力戦闘機であった本機は , 第 2 次世界大戦の初期から活躍 , 次次に性能を向上させながら , ヨーロッパの空を敗戦の日まで暴れまわった。 胴体と主翼から爆弾がはなれて落下してゆく。 付け根から外側に向かって三角形に先細りの 地上でチカッと光ってすぐ黒い煙と土砂がわき 特徴ある主翼 , 液冷工ンジン。プロペラ・スピ 起こって来る。大きい黒煙は 250kg, 小さいのは ナーから突き出した機関砲・・・・・・ヤクー 9D だ。す 兵員殺傷用の 50kg 爆弾のものだろう。 でに襲いかかられたシュッーカの何機かが火に ものすごい対空砲火だ。シャワーをさかさに 包まれる。 したように いろとりどりの曳光弾が打ち上げ ゲアハルト中尉は本能的に上方を見た。「い られる。シュッーカの被害が甚大だ。 1 機 , ま た」前方からヤクー 9 戦闘機の 1 隊が猛然と突っ た 1 機と黒煙の尾を引きながら , 地面への最後 こんでくる。胴体の中心と , 向かって右側がチ の旅をつづけるもの , 対空砲火の直撃を受けて , カチカと光った , と見る間に彼の Bf 109 の左側 オレンジの炎のかたまりとなるものか相いつぐ。 を曳光弾が飛び去る。アッというまにすれ違っ とつぜん , イヤフォーンに味方の交信がはい た。と思う間もなく , こんどは後上方からの射 弾が激しくキヤノピーをかすめる。 「南部地区の全戦闘機・・ 「危ない′ ・・・迎撃せよ」 かすかだ。そうか , やつばりソ連機のおでまし ソ連戦闘機のパイロットもめつきり腕をあげ か。ゲアハルト中尉は急いで照準器のスイッチ て来ている。うかうかすると食われる。彼はス を入れる。全機銃は装瞋されている。 ティックをぐっと前に押しこんで降下した。彼 「こちらにも来るぞ」 の B f 109 を追い越したヤク -9D が眼の前に止ま 眼下を茶色つほ。いグリーンの機体が流れるよ ったように見える。ゲアハルトは , スロットル うに横切って行く。 をグイと押してエンジンの出力を上げた。燃料 「敵機だ′ 噴射式のダイムラー ・べンツ DB605A はすぐに る。
1 ソ連の誇る T34 戦車を , 見事しとめた殊勲のドイツ軍 3 号突撃砲。炎上する戦車から脱出をはかった T34 戦車搭 乗員も , ドイツ軍の機銃にあえなく倒された。突撃砲は回転式砲塔を持たないため射角が制限される不利はあ ったが , 車体に比較して大型の砲を装備できるなど , 利点もあった。 小隊は撃滅したのであった。 ポヌイリの丘をめぐる戦いでは , セードフ曹 長のような小隊はいたる所にいた。また , それ 以上に頑強に抵抗して戦死したソ連兵士は , 数 え切れなかった。 この日の戦闘も , ソ連軍のペースで進められ た。戦車を支援して前進してくる歩兵は , ソ連 軍の砲火で , その度に追い返された。戦車はや むなく単独で前進することになった。 ドイツ軍 3 号および 4 号戦車は「ラッチ・プ ム」のスクリーンを突破できなかった。 ソ連軍 の火砲の前には , ドイツ戦車魂も勇気も無駄で あった 結局 , エレファント戦車が先頭を切らねばな だが , 旋回砲塔を持たない駆逐戦 らなかった。 車は , 強力な陣地を突破するための戦車ではな いのだ。敵戦車をたたきつぶすために この重 戦車は徹甲弾を多く携えて出動したが , 皮肉に も相手は対戦車砲と迫撃砲ばかりだった。徹甲 弾で砲をねらうことは , まるで中世時代のカッ ボールで大砲をねらうのと同じであった。当殃 高性能炸薬の榴弾で射つべきであった。直撃弾 でなければ砲は無傷なのだ。 巨象の砲手は , たちまち全弾を射ちつくした。 こうした戦場で全弾を射ちっくすことはご法度 だったが , 兵士は忘れてしまったのである。戦 場では混乱はつきものであった。 戦車兵たちは最後の手段をとった。 42 型機関 銃を射ったのである。それも 88mm 砲の内腔を通 して射撃したのだ。しかし , これは気やすめで しかなかった。 巨象は後退しなければならなかった。それも , 出撃した時の数はもどらなかった。ポヌイリの 丘を目の前にして , 多くの巨象が倒れていた。 あるものは炎に包まれ , あるものは弱点の足を 狙われて自爆していた 空には , 死せる巨象たちを弔うかのように 黒煙が高高とまい上がり , 暗雲のごとく地上の 修羅場をおおいかくしていた。ポヌイリの丘は まだソ連軍の手中にあった。 33
大きな爆弾搭載量 , すばらしい急降下速度と頑丈な機体で , 東部戦線のドイツ軍地上部隊 本機が急降下にはいると , 当時のドイツ戦闘機はほとんど追いつけなかった。円 44 年には ドイツに対する , ソ連の空からの反攻の原動力となった名機といえよう。 そのほかソ連機は , ドイツ機が前線にくる途 るために , ゲーリングはまだ第 2 戦線のなかっ 中を待ち受けて打撃を加えた。 とくに激烈な空 た西部 ドイツ , フランス , オランダーーー - 力、 戦が行なわれたのは , ドイツ空軍のクルスク鉄 ら飛行部隊を移入し , また , レニングラード付 道拠点の爆撃の際である。敵爆撃機はときたま 近や東部戦線の他の地域からも , 航空兵力を引 クルスクに突入して , わが方に損害を与えたが , き抜いてこなければならなかった。こうしてや その代償は非常に高くついた っと , 第 6 , 第 4 航空軍の保有機数は 2 , 000 機 たとえば 6 月 2 日の昼間と夜間爆撃の際 , ド に達した。 イツ空軍はソ連戦闘機のねばり強い攻撃と , 適 オリョール , プリャンスク , ハリコフ , ポル 確な対空地上砲火によって 145 機を失っている。 タワの飛行場には , 7 月はじめ , ドイツ空軍の ドイツ空軍はクルスクの近郊だけでなく , 優秀な空軍部隊が集結した。 ドイツ軍司令部の 独戦線の他の地区でも重大な損害をこうむった。 もくろみによると , これらの航空部隊は戦車師 夏季攻勢準備中 , ドイツ空軍は息つく間もな 団とともに , 夏季攻勢の主役を演ずる予定であ かった。損害は苦労のあげくやっと補充された。 った クルスク突出部の攻撃に参加する航空集団を作 ソ連最高司令部は , 空陸で鉄壁の守りをかた 73
基地に黒煙があがる。敵襲か ? それとも事故か。 く緊迫感が伝わってくる前線でのシーンである。 フォッケウルフ Fw 円 0 の一隊が出動する。画面からも何とな 歓声をあげて地上要員達が走り寄ってくる。メッサーシュミット Bf 日 0G-2 が出撃から帰還した。機首に大口径 砲を装備できたので , 対戦車攻撃 , 対爆撃機戦闘にと重用された。 Bf Ⅱ o はメッサーシュミット Bf 田 9 と共に ドイツ空軍戦闘機陣の双壁をなすものであった。 57
ゲル重戦車 , パンテル中戦車をふくむ 2 , 700 両の 戦車 , 兵員 90 万名を集結させ , 機甲軍団の指揮 は , フランスでの電撃作戦で勇名をはせたハイ ンツ・グーデリアン大将にゆだねられ , 空から この地上部隊を強力に支援する航空部隊の作戦 は , アルベルト・ケッセルリンク大将か彼自身 , 双発の偵察攻撃機フォッケ・ウルフ FW189 の繰 縦桿を握って指揮に当たった。 戦いの序曲 Hs129B のパイロット , プロイス少尉が基地を 発進する何時間もまえの午前 2 時すぎ , 前線で はソ連砲兵部隊の重砲約 500 門と , ロケット砲の いっせい砲撃が始まっていた。ソ連火砲の射弾 は , 砲撃準備中のドイツ砲兵陣地に落下した。 情報は事前にソ連側に洩れていたし , ドイツ軍 の砲撃開始の時間も , 捕虜にしたドイツ兵から 聞き出していたソ連軍の先制パンチである。 一時的に混乱したドイツ軍もすぐに立ち直り , ソ連軍の頭上に砲火のお返しを浴びせかけた。 ドイツ空軍の Ju87D シュッーカ , Ju88 など爆撃 機約 300 機も , ソ連砲兵陣地の上に爆弾の雨を降 らせ , 戦場は炎と爆煙におおわれた。 この日のためにドイツ空軍が集めた作戦可能 の第一線機は , 第 1 航空軍の 1 , 83 幾。その内訳 は地上攻撃を主任務とした第 1 , 第 2 , 第 77 急 降下爆撃航空団 (St. G) の合計 9 個連隊 , 地上 支援航空団 ( Sch. G) の Fw190 2 個連隊にヘン シェル Hs 129 B の 1 連隊 , それに加えて , 戦車攻 撃を主な任務とするプロイス少尉の所属する 4 個飛行中隊の H S129 B が , プルーノ・マイヤー 大尉 ( のちに少佐 ) に率いられて参加していた。 これら攻撃集団の掩護に当たるのは , 第 3 , 第 52 戦闘航空団所属の Bf 109 G の 6 個連隊と , 虎の子的存在だった JG51 と 54 ( 第 51 および第 54 戦闘航空団 ) の Fw190A0 さらに爆撃航空団は 第 1 , 第 3 , および第 51 爆撃航空団のユンカー ス Ju88 5 個連隊 , それにいささか旧式となって はいたが , KG4, 27 , 53 , および 54 の爆撃航空 団から引き抜かれた 1 固連隊が供出された。 このほかに , 第 1 長距離護衛戦闘航空団 (ZG 1 ) から Bf110G ー 2 を装備した戦車攻撃飛行中隊 と , ようやく作戦可能の段階にはいったユンカ ース Ju87G ー 1 ( 37mmFlak18 カノン 2 門を主翼下 にぶらさげて、、タンク・クラッカー ' ' と異名を とった ) の 2 個飛行中隊が , ワイス中佐の指揮 ドイツ空軍のユンカース」 u87 シ、ツーカ のもと , 第 1 , 第 2 急降下爆撃航空団から参加 する , という堂堂たる陣容であった。 ディーター・ゲアハルト中尉は , 乗機 Bf109G のキヤノピー越しに戦場上空を見まわした。敵 機はまだその機影をあらわさない。 「よし , 幸先いいぞ。もっとも , 出て来ても 叩き落とすだけのことだ」 彼はエンジンの回転計 , 燃料残量をチェック する。燃料は充分だ。彼の眼下を高度差 1 , 000m で Ju87D の大群がいなごのように見える。ダイ ムラー・べンツ DB 605A 工ンジンは快調に回っ ている。高度約 5 , 000 皿もうすぐ敵陣地上空だ。 シュッーカがつぎからつぎへと急降下して行く。