一瞬 - みる会図書館


検索対象: リアル鬼ごっこ
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1. リアル鬼ごっこ

大介は一瞬戸惑ったが、 「ま、まあ、とにかく、これかららしいな、閉会式」 と一一 = ロうと翼は . 軽く頷いた。 「ああ : ・・ : みたいたな・ 喋り方も無気力なままだった。 「ま、まあ、とにかくた , ・明日からはまた走っていこ一つー・ 大介は無理に明るさを装ったが、翼は虚ろな目のままだった。 「ああ・ : ・ : そうだな」 この言葉を最後に一人の兵士が言った。 「さあ、そろそろ時間だ ! 早く乗れ ! 」 寂しげに言うと最後に翼は一瞬だけ大介を見つめた。そして、翼が車に乗り込み、走り去 でって行く様子を部員たちは黙って見送っていた。一方の翼は一度も振り向かず、胸元に手を 会当てると、鋭い目つきで前を見据えていた。こうして、翼を乗せた車は閉会式が行われる宮 殿へと走って行った。

2. リアル鬼ごっこ

が静かに近づいてくる。翼は左右から挟まれる形となった。鬼が近づいて来るにつれて、翼 の頭には、父が死んだ時の表情、洋が銃で撃たれた姿、そして、愛が鬼に捕まって、苦しみ ながら殺されていく姿が思い浮かんできた。その一つ一つの想像が翼を今以上に狂わせてい った。嫌だ : : : 俺は : 鬼が徐々に迫り来る。いまだに翼は足を動かそうとしていなかった。嫌だ : : : 嫌だ : : : 俺 ある程度の距離に達した所で二人の鬼がピタリと足を止めた。 父が、洋が、そして、愛が死んでいった。嫌だ : : : 俺は : : : 俺は : : : 死にたくない。 死にたくない〃 と小さく口にした途端、翼は突然、震えだした。そして、翼は法えるようにして、そこか ら全力で駆け出した。左右からは警戒音が発せられた。この日、初めての鬼ごっこが今、幕 を開けた : ・ 翼は狂ったかのように鬼から全力で逃げていた。もう、大切なものを全て失い、守るべき ものがなくなった翼の足は異常なほどに速かった。一瞬にして鬼たちとの距離が開いたが、 翼は一度も後ろを振り返らず、 「嫌だ、死にたくない :

3. リアル鬼ごっこ

「ええ : : : 分かったわ」 恭子が頷くのを見て翼はホッとした。あのままでは本当にこの子は自殺すらしかねないと 思っていたからだ。この話の間、翼は鬼ごっこが実行されている事実を忘れていた。恭子と その話をしたのはこれが初めてだった。 「それより、今まで鬼に会ったかい ? 」 一瞬にして顔が強張り、雰囲気が一変した。 「ううん、私は一度も。あなたは ? 」 「俺もだよ。佐藤さんが逃げ回る姿も目にしていない。本当に鬼ごっこなんて実行されてい ると田 5 一つ ? ・」 〃実はウソなんじゃない ? 〃という言葉を期待していた。そう言ってもらえれば少しは心が 休まると思っていたのだが、翼の期待をものの見事に恭子は打ち壊した。 「実行されてるわよ」 動 始「え ? 」 っ 「別に誰もが鬼に追いかけられるわけじゃないし、必ずしも鬼の姿を見るわけでもない。確 鬼 率的にね」 「確かに、俺たちのような佐藤さんがいてもおかしくはないな」

4. リアル鬼ごっこ

は似合わない。門、 日近で見る少女の顔立ちは幼いが、いかにも品の良い感じだったからだ。 少女は自分と同じ状況に立たされている〃仲間〃がいたことに、安堵の笑みを浮かべた。 「良かった。少しは安心した」 ほっとした様子で翼に向き直った。 「私、恭子です。佐藤恭子。あなたは ? 」 可愛らしい口調で自己紹介してきた。翼は一瞬戸惑いながら、 「あ、ああ、俺は佐藤翼。よろしく」 しようぜん お互いの紹介も早々に、恭子は隣のプランコのイスに悄然として腰を下ろした。翼に話し かけることもなく、ため息ばかりが耳につく。その様子をじっと眺めていた翼は、 「どうか : : : した ? 」 と聞いた。 恭子はチラリと翼を見てから視線を下に向け、 動 始「ええ・・ : : ちょっと」 ) 」意味ありげな返事だった。 鬼 「こんな時になんだけど、何かあったの ? 相談に乗るよ」 恭子の顔を覗きながら言った。プランコの鎖を両手で握り締めながら、恭子は一つ頷いて、

5. リアル鬼ごっこ

「お兄ちゃん ! 」 二度目で振り向いた翼に、愛は後ろを指した。振り向くと鬼の姿は完全に消えていた。よ うやく翼は足を緩めた。 「平気か ? 」 翼は一つも息を切らしてはいなかった。 「うん。一応ね・ : ・ : 」 愛の方は多少息が切れていたが、軽く微笑みながら言った。 するとすぐに、翼と愛の後ろで激しい足音が聞こえてきて、翼と愛はビクッと後ろを振り 向いた。翼の口から深いため息が洩れた。鬼だった。それも先ほどの鬼のようだ。やはり完 全にまいてはいなかったのだ。 像逃げようと前を向いた翼は、一瞬自分の目が信じられなかった。大きな警戒音が鳴り響く のと、そこには鬼が三人もいたのだ。 の「ウ、ウソでしょ ? 」 愛が語尾を震わせ悲痛な声を上げる。後ろからは二人、前からは三人の鬼たちが、二人を 挟むようにしてやって来る。そこは字路だったので左にしか逃げ道はなかった。翼と愛は

6. リアル鬼ごっこ

細い道を走り続けてから一つの曲がり角もないし、一向に道が太くならない。それに最初は 住宅が左右に建ち並んでいたのだが、今は段々と住宅の数も減ってきている。まさか、この 先は : それからしばらく逃げ続けた翼と洋は前方へ目を向けた。一瞬にして翼の顔がこわばった。 そこから先は行き止まりだったのだ。はっきりとは見えなかったが、少なくとも翼の目には そう映っていた。洋の顔を見ると、妙に落ち着きはらっている。 「おい、どうする ? 行き止まりじゃないのか ? 」 「大丈夫ゃ。俺に任せろ」 、 ' 後ろを振り向くと、ス 息は乱していたものの、慌てる口調でもないし、妙に冷静たった。 , ピードこそ落ちてはいるが、鬼たちはいまだしつこく追いかけて来る。しかし、それは二人 にとっても同じことだった。スピ 1 ドは確実に落ちているし、徐々に行き止まりへと近づい 劇ている。駄目か ! 諦めかけたその時、 逃「翼、やるぞ ! 」 声を震わせながらそう言った。洋は相当疲れているようだ。 「何を ? 何をやるってんだよ ! 」 剏「ええか ? これから、俺はいちかばちかの大勝負に出る。そうでもしないと逃げ切れん」

7. リアル鬼ごっこ

188 一晩中、町を彷徨い続けていた。 洋のことだけが翼の頭を駆け巡り、愛を捜し出す気さえ起きなかった。このままではいけ ないとは思うのだが、どうしても、とうしても : 遥か遠くを見つめて歩く翼は精神異常者と思われたのか、道行く人々も自然と道端にそれ ていく。 なおもふらついた様子で歩道を歩いている翼の遥か前方で、大きな叫び声がした。 「止まれ ! 止まらんか ! 」 人々は足を止めて、声の出所を探している。翼も足を止めていると、前方から人混みをか き分けて走って来る若い男が目についた。その後ろからは警官が追いかけてくる。きっとこ の若い男も佐藤なのだろう。 そうこうしているうちに男が近付いてくる。翼は表情を一切変えずに男と警官の″追いか けっこ〃を眺めていた。 「どけー 男は翼に向かってそう怒鳴った。それでもフラフラ歩いている翼に、男は激しくぶつかっ た。翼は吹っ飛んで地面に転がった。男も一瞬、よろけたものの、後ろを気にしてそのまま

8. リアル鬼ごっこ

216 を確かめながら走っていた。男はそのまま一直線に駆け抜け、翼の視界から消えていった。 数秒後に鬼が : : : 二人もいるじゃないかー それでも翼は焦らなかった。何といってもこの距離だし、酷いかもしれないが、鬼はこの ままあの男を追い続けると思い込んでいたからだ。しかし、一人の鬼の目に翼と愛の姿がチ ラッと映ったのか、一瞬立ち止まった。警戒音が鳴り、進路を変えて一気に追いかけてきた。 「ちっ , なんだよ ! 」 その音に愛もハッと後ろを振り返ると、更にスピードを上げた。 鬼との距離が徐々に離れていくのを確認した翼は視線を前に戻した。車が一台通れるかど うかの道を抜けると、その先は二つに分かれていた。向かって斜め右の道は細い道路がつな がっているが、このまま真っ直ぐ走るとそこからは道が途絶えて、辺り一面の大きな森に入 ってしまう。 「恐夂ー・ど一つする ? 」 愛は迷わず森を指さした。 「よしー・」 二人は森の中に入って行った : 真っ暗な森は、一歩踏み出すたびに″ガサガサ〃と音を立て、その音だけが森中に反響し

9. リアル鬼ごっこ

87 追いかけっこ 上部の楽しそうな練習風景を目の当たりにして鼓動が高鳴り、彼らが無性に羨ましくて仕方 がなかった。俺も走りたい : : : 何も考えずにゴールだけを目指して。 翼の口からはため息だけが洩れていた。鬼ごっこのこと、母や愛のこと、どこにも姿の見 えない大介のこと。何もかもが嫌になってきた。何一つ希望の光が見えない。大事な友達も なくし、母や愛との再会も絶望的だ。それに一週間も逃げ切るなんて本当は無理なのではな いか ? 遅かれ早かれ捕まるならいっそのこと : 一瞬だけそんな考えがよぎったが、そ れだけは考えてはいけないと思い直した。自分で昨日、恭子に言ったじゃないか ! 言った 本人が死んでも いいなんて、何を考えているんだ俺は : : : しつかりしろ ! 信じろ ! 自分 を信じるんだ。心に強く言い聞かせたものの、やはりどこかでは弱気になっているのだった。 気を紛らわすために別のことを考えてもみたが無駄だった。今は母や愛、それに恐怖の鬼ご っこに勝るものは何一つなかった。 金網に両手をかけたままポーツと突っ立っていた翼は、なおもその場所から動こうとはせ ず、グラウンドを見つめ続けていた : 全国の佐藤さんに刻一刻と迫りくる恐怖の時間。生きている限り、佐藤さんたちにはその 時が必ず訪れる。そして、今日もまた、その時間が近づいていた。今日は何人の佐藤さんが 犠牲になるのだろうか :

10. リアル鬼ごっこ

くる二人の緊張感を和らげていた。和やかな雰囲気が二人を包む : しかし、安心していたのもっかの間、二人の遥か後ろで、またもや警戒音が発せられたの だ。二人はとっさに後ろを振り向いた。鬼だ。鬼が追いかけて来ている。 「翼 ! 逃げるぞ ! 」 洋が叫ぶと同時に、二人は全力で走っていた。しばらく休んだせいか、二人の体力もかな り回復していた。 「こっちゃ ! 」 洋は角を左に曲がった。それから二人はひたすら一直線に走り続けた。 真っ直ぐ走っている二人の目に交差点が映っていた。 「どうする ? 」 翼は洋に目を向けて言った。 劇「真っ直ぐや ! 」 逃洋が一一一口うと翼は小さく頷いた。 驂後ろを見ると、鬼は足を緩めることなく追いかけて来ている。 交差点にさしかかった。二人はそのまま一直線に走り抜けた。そこまではよかった。しか し、翼の目にほんの一瞬だけ飛び込んできたものがあった。左の道に鬼の姿が一瞬、本当に