十四年 - みる会図書館


検索対象: リアル鬼ごっこ
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1. リアル鬼ごっこ

そう言った途端、父は翼から目をそらした。 「そ、それ、どういうことだよー・」 体の状態も忘れ、翼は父の体を大きく揺らしてそう叫んだ。 母の死を告げた父は苦しそうな呼吸をしてはいるが、先ほどに比べると随分と落ち着いて いる。そして、翼に全てを語った。 「十四年前 : : : 益美と愛は俺たちの前から姿を消した。縁が切れたとはいえ、肉親だ。愛は 元気か ? 生活はできているのか ? お前は知らなかっただろうが、必要最低限の連絡は取 っていたんだ。そんな日々が一ヶ月も続いたある日の夜だった。携帯に電話が入った」 「もしもし、はゝ、はい、そうですが。え ? 益美が ? どういうことですか ? 事故 ? 事故って : : : ま、益美の容態は ? 益美は、益美は大丈夫なのですか ? 」 輝彦はうつろな表情で電話を切った。時刻は夜の十時半。既に翼は自分の部屋で寝息を立 てている。翼に全てを話すべきだろうか : しかし、悩むまでもなく、答えは出ていた。 ヾゝ ) ゝ 0 ゝ やはり、翼には言わない方力しし しや、言えなかった。年齢が年齢である。もう少し翼が 大人になっていれば話は別だが、今の翼にはとても言えなかった。その後、なかなかタイミ ングが掴めず、話を切り出せなかったのだ。そして、十四年の月日が経った。

2. リアル鬼ごっこ

「私たち十四年ぶりに再会できたんだよ ? せつかく会えたのに : 愛は言葉を詰まらせた。 「そうだな。今、その話はやめよう」 そうだよ。愛の言うとおりだ。十四年ぶりの再会なんだ。それなのに、何でこんな暗い会 話を。 「ごめん。つい 愛はそれを否定するように、 「ううん、しようがないよ。国がこんな状態だもん。それより、これまで離ればなれだった でしょ ? お互いのことを話そうよ」 愛は多少明るさを取り戻していた。 「ああ、そうだな」 過翼も笑顔を見せて言った。 「それじゃ、お兄ちゃんから」 互 二人は十四年間の出来事を、何一つ隠さず語り合った。 最初に翼が語り始めた。中学一年の頃までは父の暴力で心を閉ざし、一人も友達がいなか

3. リアル鬼ごっこ

プロローグ 一つの提案 十四年の月日 開会式 鬼ごっこ始動 追いかけっこ 十四年目の真実 ダブル佐藤 荒れ狂う王国Ⅷ 目次 悲惨な逃亡劇 再会 互いの過去 生まれ故郷 あの時の映像 クリスマスの最終日 ラスト鬼ごっこ 閉会式での願い事 解説横里隆

4. リアル鬼ごっこ

一日二十四時間のうちの一時間。その一時間のうちに自分の命が狙われたら人間はどんな 心境に陥るのであろうか : 西暦三〇〇〇年。人口約一億人、医療技術や科学技術、そして、機械技術までがかってな いほど発達し、他の国に比べると全ての面でトップクラスであるこの王国で、″佐藤〃とい う姓を持った人口はついに五百万人を突破した。二十人に一人が″佐藤〃というこの時代。 運悪くその時代に生まれた一人の少年″佐藤翼 % まさか、名字が〃佐藤〃であるために命 が狙われようとは、考えもしなかった : グ今をさかのばること、十四年前。あの時の記憶は今でも鮮明に覚えている : ロ当時七歳だった翼の生活は真っ暗だった。父親である輝彦が母親の益美に対して暴力を振 プ るう日々。それを目の前で見せつけられプルプルと震えていた翼と四歳になる妹の愛。時に 7 はその二人にさえ、輝彦は暴力をふるっていたのだ。最低の父親である。毎日のように酒を プロローグ ねら

5. リアル鬼ごっこ

翼は大学のトラックをただひたすら走り続けていた。昨日から町中が妙に慌ただしいこと には気づいていたが、恐怖の鬼ごっこが開始されるという事実をまだこの時は知らなかった。 ましてやそれが自分の命に関わるなど思いもせず、短距離を何度も何度も走り続けていた。 実の母と妹の愛と悲劇の生き別れをした佐藤翼は、あれから十四年の月日を経て、大学三 年生になっていた。 結局、母は翼を迎えに来ず、別れたあの日から翼は父親と二人きりの生活を送っていた。 これまでの十四年は、翼にとって辛く厳しい歳月だった。二人がいなくなった直後の父は日 日 に日に横暴さを増していき、毎日のように酒をあおっては翼に当たり、暴力を振るっていた。 四そんな翼が、心を閉ざすのは時間の問題だった。しかし、母と妹の愛のことは一時たりとも 頭から離れなかったし、いつの日か母が自分を迎えに来てくれると信じていた。 陸上部の顧問を務めていた阿部先生に声をかけられたのは、そんな生活が続いていた中学 十四年の月日 いっとき

6. リアル鬼ごっこ

幸運だったと言うべきか、それとも悪運が強いと言うべきか、この日も何とか、あと二、 三分で鬼ごっこが終了するところまでこぎ着けた。 あれから翼は警戒に警戒を重ねながら、住宅街を歩き回っていた。少しでも鬼が出没しな さそうなところで時間を稼いでいたのだ。悪いイメージがくつついて離れなかったので、表 通りには足を踏み入れなかった。二日間の経験から、人通りの激しい場所に鬼が出没する可 能性が高いことが分かった。なるべくなら表通りに足を踏み入れない方がいい 実「よし、あと一分・・・・ : もう少しだ」 の 今ならこの場で見つかったとしても、ほんの少し走ればこの日の鬼ごっこは終了する。多 目 四少、重圧が軽くなった。 十 「そろそろ家に戻るか」 そう言うと、もう一度時計を見直した。あと三十秒、二十秒 : : : 時計を確認しながらも、 十四年目の真実

7. リアル鬼ごっこ

「しかしだな : と全てを言う前に 「心配しないで下さい : : : 大丈夫ですから」 これ以上言っても無駄だと判断し、 「そうか・・ : : 分かった」 と言って、ゆっくりと走り始めた翼の様子を眺めていた。翼の走る姿を見るのはもしかす : と心のどこかで感じていた。 るとこれが最後かも : 翼は大声で叫びながら走った。嫌なことを振り払うかのように全力でがむしやらに走った。 だからといって恐怖や不安は消えなかったが、それでも翼はただ、走り続けた : 横浜市中区。町なかとは一線を画した住宅街にある一戸建てが翼の自宅だった。母と妹と 別れた場所である。あれから十四年経ったが、変わったことといえば周りの風景ぐらいであ ひときわ ろう。遠く離れたところに巨大な遊園地ができ、レトロ風に作られた大きな観覧車が一際目 立った。夜景が綺麗で恋人たちのデートスポットでもある。だが、その町全体が鬼ごっこの 四準備で慌ただしい。 十 町に設置されている巨大なスクリーンで〃リアル鬼ごっこ〃が大きく取り上げられており、 王国中の佐藤さんが不安と恐怖に見舞われる中、翼は自宅へ帰った。午後六時半を回った頃

8. リアル鬼ごっこ

涙をポロポロとこばし、翼は二人に別れを告げた。 〈迎えに来るから〉という母の一 = ロ葉を信じて : この時の二人の姿を翼は決して忘れることはなかった。七歳の子供にとっては、あまりに 衝撃的な出来事であった。 それ以来、翼は父の虐待に耐え続けた。 そして、いっしか十四年の月日が流れていった :

9. リアル鬼ごっこ

154 を貸しながら、あっという間に去って行った。 すぐに女子生徒が洋の前まで駆け寄って、何度も何度もお礼を言った。洋の顔は先ほどと は一変し、照れた表情を浮かべている。そして、彼女は最後に深く頭を下げて帰って行った。 今の洋の目はあの時と同じだった。洋と一緒なら心配はいらない、必ず愛は見つかると、 信じさせてくれる目だった : 二人は洋のアパートから隣町の新北野に来ていた。父の言ったことが正しければ、この町 のどこかに愛が住んでいるに違いない。まだ鬼に捕まっていないことを信じて、今はどんな 手段を使ってでも愛を捜すしかないのだ。しかし、大まかな住所だけを頼りに、町全体を歩 き回って愛を捜そうなど無茶にも程がある。そして、不覚にも翼は父の弟の名前を知らなか った。接する機会がなかったし、何より父に弟がいたことすら知らなかったのだ。実の親子 なのに、翼は父のことを本当に知らなすぎた。翼は一体、十四年の日々を誰と過ごしてきた のだろうと思わずにはいられなかった。 しかし、今はそんなことを考えている余裕もないし、時間もない。より確実に愛を見つけ る方法を二人は考え、同じ結論に辿り着いた。王国管理センターである。それは各地域ごと に設置された、王国の全てのデータが保管されている場所である。そこならかなりの情報が

10. リアル鬼ごっこ

会 201 再 愛は翼を必死に支えた。 「純子 ! 」 二人は力を合わせて、翼の体をひとまず愛の自宅に運び込んだ。 こうして翼は、大きな犠牲や辛い道のりを経て、やっとの思いで、十四年目にしてようや 、最愛の妹 " 愛。に行き着いた。しかし、それは一瞬の喜びであって、まだまだ戦いは終 わらない。翼には愛を守るという義務がある。ここからが本当の修羅場であることを翼は確 信していた :