可能性 - みる会図書館


検索対象: リアル鬼ごっこ
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1. リアル鬼ごっこ

時に、一対一になる可能性が大きいことだ。人が多ければ多いほど、それが障害となって逃 げられる可能性も高くなるはずだ。無論、自分にとっても障害になる可能性があるのだが いつの間にか二十分が経過していた。翼が妙なことに気づいたのはその時だった。十一時 とはいえ、この大都会は人であふれている。この日もそうだ。だが、その多くの人々が歩く のをやめて、顔を強張らせながら、翼を見つめている。中には、翼を見つめて、隣の人に何 やら話しかけている人もいる。何が言いたいのだろう。翼は疑問に思い、 「何 ? 何 ? 」 と小声で周りにいた人々に聞いた。誰一人、答える者はいなかった。翼は段々と気味が悪 くなってきた。しかし、改めて見回してみて一つ気づいたことがあった。人々は自分を見て いるのではない。自分の遥か後ろに視線が集中しているのだった。 まさかー まさか ! ウソだろ まさか , 絶対に信じたくはなかった。自分の心臓が激しく音をたて始める。人々の目線を追うよう に翼はゆっくり、ゆっくりと : : : それはまるで、ゼンマイ仕掛けの人形のように、首だけを 後ろに向けた。その瞬間、喉がカラカラになり、言葉が一つも出なくなった。全身にくる大 きな震え。それを抑えるかのように、拳をギュッと握り締める。しかし、少しも震えがやま

2. リアル鬼ごっこ

し」 「さすがはじいだ。後に褒美を取らせよう」 そう言ってワインを一口飲んだ。じいは緊張の糸が緩んだのか、安堵の表情を浮かべて、 「あ、ありがたき幸せ。光栄に存じます」 「うむ。しかし、まだまだ私は満足しておらんぞ。もっともっと佐藤を減らすんだ。よい 「は ! 王様の期待に背かぬよう努めさせて頂きます」 王様はじいの毅然とした態度に満足そうに小さく頷き、 「しかし、これから数が減るにつれて、捕まえる可能性も少なくなってくるだろう。そこで 鬼たちの規制を変更することにした」 じいは片眉を吊り上げて王様に尋ねた。 国「変更でございますか ? 」 う「うむ。これからは共同で捕まえても手柄として認めよう。そして、今日からは一人捕まえ れるごとに多額の賞金を与えよう。そうすれば今以上に佐藤を減らすことが可能になる。この 命令を王国中の兵士に伝えろ。もちろん、捕まえられなかった兵士にはそれなりの重罰を加 2 える。それもしつかりと伝えるのだ ! 」

3. リアル鬼ごっこ

ここまでで何回振り返っただろう。翼はもう一度、振り返った。まだ追いかけて来ている。 「ちっ ! しつけーな」随分と走ったために、お互い既に全速力ではなくなっていた。まる でマラソン大会のようだ。 ここまでくると長期戦だ。どちらが先に潰れるか、それで勝敗が決まる。日々、練習に明 け暮れていた翼が圧倒的に有利なのかもしれないが、一つだけ不安なことがあった。それは、 今の状態でまた違う鬼に遭遇した場合だ。現に先ほどと違う鬼に追いかけられている今、そ もしそんなことになれば、すがの翼も逃げ切れる可能性が の可能性がないとは言えない。 少なくなる。そんな最悪の事態だけは起きないようにと神様に願いつつ、今は走るしかなか つ」 0 「いいよ、やってやるよ。どちらが先に潰れるか勝負してやる」 ひたすら前を見つめながら小さく言った。今翼にあるのは恐怖よりも、陸上の最高記録保 持者のプライドだった。プライドにかけてこの勝負 : : : 負けられない。 佐それからしばらく走り続け、翼は後ろを振り返ると、ニャリと口元を緩めた。とうとう鬼 プ がこらえきれずに立ち止まり、その場で膝に手をついて、追いかけるのを諦めた姿が見えた ダ のだ。それでも翼は足を止めることなく、鬼との距離を一気に突き放した。鬼の姿が段々と 小さくなっていった。あの鬼からは完全に逃げ切ったようだ。今は鬼の気配すら感じられな

4. リアル鬼ごっこ

81 鬼ごっこ始動 息をつきながら、天井を見つめる。公園での恭子の言葉が妙に気になり、頭から離れなかっ ″確率的に言えば、鬼に遭遇しない佐藤さんも存在する〃 この言葉の裏を返せば、一日目に運悪く鬼に発見され、追いかけられて、捕まって、最終 的には殺された佐藤さんもいるはずなのだ。はずじゃない、必ずいるのだ。たまたま翼は鬼 に発見されず、公園で全てを忘れ、楽しいとまでは言わないが、恭子との思い出に残る一時 を過ごすことができた。が、これからは甘くない。鬼ごっこが続けられるにつれて、王国中 そうなれば自分が追いか の佐藤さんは消えてゆくのだ。馬鹿げた王様の発案のために : けられて捕まる可能性も高くなっていくわけだ。その前にどうしても母と愛に会わなければ ならない。それだけが心残りだ。とにかく今は、父が無事に帰って来ることを祈るだけだ。 今は待っしかない : 疲れのせいか、まぶたが重くなり、次第に翼は深い眠りへと落ちていった。二日目の朝を 迎える :

5. リアル鬼ごっこ

アナウンサ 1 も必要以上に興奮していた。これほどまでの犠牲者を出した計画が今日で最 終日とあれば、興奮せずにはいられないのだろう。しかし、それ以上に、興味津々といった ところも見受けられる。何人の佐藤さんたちが生き残るかと : 町中が騒がしい理由がもう一つあった。タイミング悪く″リアル鬼ごっこ〃の最終日と重 なり、話題性が薄れてしまっているのだが、今日はクリスマスイプであった。町のいたる所 でクリスマスの準備が行われていた。この日、幸せな夜を過ごす人々もいれば、同じ時刻に 恐怖と戦いながら必死になって逃げなければならない人もいる。同じ国に住んでいながらこ れほどの差があろうとは : : : 王国は既に狂ってしまっていた。 最終日とあってか、〃リアル鬼ごっこ〃と一切関係のない人々の意見もそれぞれだった。 『は 5 、やっと今日で終わるのか 5 。何だか長かったよ』 実行中の一時間、全国一斉通行止めの規制がなされており、その間は関係のない人々も細 心の注意を払わなければならなかった。確かに精神的にも疲れたであろう。 『今日で終わりかー。そういえばあれほど続いた犯罪もピタリと止まったね』 確かに佐藤たちの凶悪犯罪は既に一つもなくなっていた。それほど佐藤姓が少なくなって いる証拠だ。この日で全滅の可能性も大いにあり得る。それとは逆に、 『何人の人たちが生き残るんだろう ? 』

6. リアル鬼ごっこ

308 在なのと同様、表現者も本だけにこだわらない自由な存在となって、そこに互いに通じる作 品を生み出しているのだ。 本作品のヒットを誰も予想できなかったように、ケータイ発の小説『 Deep Love 』シリ ーズのミリオンセラーも予想外の出来事だった。このような事例は今後ますます増えていく はずだ。そのことを偶然の結果ととらえるのではなく、業界にとっての新たな可能性ととら えることで、光は見えてくると信じたい。 『リアル鬼ごっこ』が教えてくれる、足元の床が抜け落ちるリアルな恐怖 くつがえ 本作品『リアル鬼ごっこ』がベストセラーとなったことは、出版業界の常識を覆す工ポッ クメイキングだったが、肝心の本の内容も、それに負けず劣らず、読む者の価値観をひっく りかえす構成となっている。 読む者は、突然、鬼ごっこという名の非日常に放り込まれた主人公・翼にシンクロしなが ら、次第に気付いていく。命を賭けた鬼ごっこは何も特別なものじゃないんじゃないかと。 考えてみれば自分たちが生きている現実の世界も不条理な物事で溢れているじゃないかと。 学生時代、たいした理由もなくイジメの対象にされたじゃないか。人生をすべて会社にさ あふ

7. リアル鬼ごっこ

ンサ 1 が原稿を読み始めた。 『繰り返し、緊急速報です』 大勢の国民が足を止めて、スクリーンに目を向けている。翼と愛もその場で立ち止まった。 『今回実行されているリアル鬼ごっこについて、六日目にしてようやく、生存している佐藤 さんたちの数が報告されました』 「何 ! 」 翼は思わず声を張り上げた。人々はアナウンサーの言葉に耳を傾けている。 『情報によりますと、生存している佐藤さんたちの数は : : : 五万人にまで減少している模様 です。繰り返します。生存している佐藤さんたちの数は五万人にまで減少しているとのこと です。残りの二日間で、全滅の可能性も高まっています』 アナウンサ 1 の勢い込んだ声が町中に響き渡ると、人々は騒然とした。 「五万 ! 五万人だと ! ウソだろ ? 」 まさか 故あまりの驚きで翼の声は震えており、顔も明らかに引きつっていた。まさかー いや、そんなは 生き残りが五万人。では、四百九十五万人以上は全て捕まり、そして : ・ 生 ずは : : : でも : ・ : 。もはや信じる信じないの次元ではない。翼はあぜんとして何も言えなか った。俺たちはその五万人の中の二人なのか。確かに思い当たる節がある。あれほどまでに

8. リアル鬼ごっこ

「いや、これは鬼に荒らされたんやろ」 部屋の中を眺めながらそう言った。 「まさか : 「恐らく : : ここに住んでいた佐藤さんは家の中に隠れていたんとちゃうか ? それで運悪 く鬼が近くにおった。その先は想像がつくやろ ? 」 翼をチラッと見て、再び家の中に視線を戻した。確かにその可能性は否定できない。だか、 果たして本当だろうか。翼はどこかで疑問を感じていた。しかし、洋の考えが正しかったと いうことが、次第に明らかになった。 いずれにしろここにも愛はおらず、二人はすぐに次の家に向かった。しかし : : : 三軒目、 四軒目、五軒目と家を探し出すことはできたが、どこも人の気配はなかった。そして、六軒 目で二人は先ほどと同じ光景に出くわしたのだ。こちらも酷かった。特に翼の目を引いたの は写真立てだった。何個もの写真立てが全て滅茶苦茶に壊され、床に散らばっている。赤ん 坊を抱いている母親のポロポロになった写真が目に入った。翼は写真を見ながら思った。こ の母親は子供と共にこの家で捕まったのだろうと。子供のために必死に抵抗した光景が目に 浮かんだ。そんな、抵抗もできない小さな赤ん坊の命さえ奪うのか。翼の体は怒りで震えた。 自分たちの無力さを感じながら、二人はその家を後にした。

9. リアル鬼ごっこ

て。今の俺には関係ないし クリスマスソングが聞こえる中、翼は走って走って走り続けた。限界を超えた翼の耳には 次第に音が聞こえなくなっていた。クリスマスソングも、周りの声も、鬼の激しい足音も。 そして、心臓の鼓動さえも。翼はまるで別世界に立たされているようだった。 今、翼を動かしているのは、 ″死への恐怖〃 ただそれだけだ。翼は大通りから再び裏道に入り込み、暗闇の中へと消えて行った。 いまだに三人の鬼たちが追いかけて来る。が、うまくいけば翼が生き延びられる可能性も 充分あり得る。 翼が何も考えずに左へ曲がったと同時に一人の鬼が目に飛び込んできた。慌てて翼は方向 を変えて走り続けた。すると、今度は前方から一人の鬼がやって来る。翼が右を見ると、そ こにも鬼が一人追いかけて来るではないか。 唯一、目の前に左に曲がる道がある。そこまで猛然とダッシュした。今は前方に一人、す ぐ後方には五人の鬼たちが迫っており、残り時間はまだ八分以上残されている。翼の持久力 も限界で、走り方もおばっかない。それでも必死に走る翼の後ろには六人の鬼たちが、そし

10. リアル鬼ごっこ

250 そう何度も何度も叫び続けたが、返事が返ってこないどころか物音一つ聞こえない。 愛の行方を追おうと翼は再び走り出していた。自分が逃げてきた道を一つ一つ思い出そう と必死だった。何としても、何としても愛だけは助けなければならなかった。自分の命を犠 牲にしてでも : 今も必死になって愛が逃げているのかと思うと、居ても立ってもいられなかった。同時に 自分に対しての腹立ちが収まらなかった。 いっしか翼は大きな道路に戻っていたが、あれから早くも十五分が経過しようとしていた。 幸いにもそれまでの間、鬼には見つからずに来られたが、一向に愛の姿は見えない。気を取 り直して再び走り出そうとした翼の前方に鬼が一人立っていた。くそ ! こんな時に ! 吐 き捨てるように言うと翼は後ろを振り向いて逃げ出していた。後ろで警戒音が鳴らされ、追 いかけられているにもかかわらず、翼は愛のことしか考えていなかった。 なるべくなら、あまり遠くへは行きたくなかった。しかし、愛の姿が一向に見当たらない ことを考えると、この近辺にいる可能性は少ないのかもしれない。そう思った翼は一気に走 り出した。一度後ろを振り返る。今回の鬼はまったく問題にならなかった。本気になった翼 の足には到底ついて来られず距離は離れるばかりだった。 どのくらい経ったろうか。町のどこを捜しても、結局愛の姿は見つからなかった。