始されます。そして、逃げ切った佐藤さんには王様が何でも願いを叶えて下さるという素晴 らしいご褒美が待っております』 アナウンスが流れる中、翼は遥か上空を見つめていた。 『それでは、そろそろ時間です。明日の″閉会式〃でお会いしましよう : : : ブツッと放送が切れたと同時に、これが最後である、始まりの長いサイレンが王国中に響 き渡った。 十二月二十四日、日曜日、〃リアル鬼ごっこ〃最終日 : : : スタート。
270 のは、たった一つの思いだ。たった 〃何としてもャツに制裁を加えてやりたい〃 それからも翼はべッドに腰掛けたまま、写真の中の愛を見つめているだけだった。 「王様、もうじき最後の鬼ごっこが開始されますね」 じいは一一一口った。 「おう。何だかこっちまでワクワクするのう」 王の胸はときめいていた。 「長かったですね、王様」 じいはむにもないことを言って王様のご機嫌をとっていた。 「ふふふ、明日からが楽しみで仕方がないわ」 「王様、今の町の状況を確認してみましよう」 じいの合図で王様の前方に大画面のスクリーンが現れた。 『間もなく最後の″リアル鬼ごっこ〃が開始されようとしています。クリスマスを楽しく過 ごす人がいる一方で、残り少なくなった全国の佐藤さんたちは、これから恐怖の一時間を過 ごすのです ! 一体、何人の佐藤さんがこの最終日に逃げ切ることができるのでしよう
七日間逃げ切った佐藤さんには褒美が出される。しかし、王様は最初から褒美など考えても いないし、逃げ切れる人間は一人もいないと決めつけていた。王様は″佐藤〃を殺すことし か頭にない。大まかに言えば、これが全てだった。その後、王様はゲームをやっていく上で の細かいル 1 ルを説明し始めた。 まず最初に、期間は十一一月十八日から二十四日の七日間、夜の十一時から一時間、つまり 零時までが鬼ごっこの時間となる。鬼ごっこ開始の合図はサイレンで知らせ、無数のスピ 1 カーを全国に設置する。終わりはサイレンではなくべルで知らせ、それが鳴ればその日の鬼 ごっこは終了となる。 二つめは、鬼ごっこが開始されたら、基本的にどこに逃げようが隠れようがよしとする。 三つめは、逃げる時は必ず自分の足で逃げなければその時点で失格、見つかり次第鬼によ って抹殺される。十一時から十二時の間は乗り物の運行を全てストップさせる。車も全て通 行止め、もちろんバイクもだ。そして自転車も。その間、乗り物に乗っている者が発見され た場合、それは名字に関係なくただちに処刑するという滅茶苦茶なものだった。 鬼ごっこの時間外はどんな生活をしようとも許される。例えば社会人なら仕事に行かなく てもよいし、学生なら学校に行かなくてもよいとする。残された命の時間を自由に使うこと が可能であり、最も大切な人に最後の別れを告げに行こうと、身辺整理をしようと自由であ ほうび
「はつはつは ! そうか ! お前もそう思うか ! 今日の最終日が楽しみだのう」 言った後も王様は大声で笑っている。じいは恐る恐る質問を投げかけた。 「それよりも王様 : ・・ : 」 「ん ? 何だ ? 」 笑いを収めて王様は言った。 「最終日を終えて、もし、万が一 : : : 万が一、生き残った者がいたならば : 考えを ? 」 王様は表情を歪ませ、 「何だ、私を疑っているのか ? 」 じいは両手を振ってそれを慌てて否定した。 え、そういう意味で言ったわけでは。ただ、どのようにお考えなのかと : 口調が必死だった。王は目を閉じフンと笑うと、 「私も男だ。この最終日に生き残った者には、約束どおり何でも願いを叶えてやろう」 妙に自信満々の口調で言うと、途端に目を鋭くさせた。 「しかし、じい ! 」 明らかに口調を強め、人さし指をじいに向けて、 : どのようなお
258 十二月二十四日、日曜日。王国では、ついに〃リアル鬼ごっこ〃最終日の朝を迎えていた。 六日目の時点で報告されていた生き残りの〃佐藤〃さんの数は実に五万人。王国一の数を誇 った佐藤という名字も、今では信じられないくらいに少なくなってしまっていた。一人また 一人と佐藤さんが減っていく喜びに王様は一人興奮しており、最終日のことを考えるだけで ワクワクしてしまったのか、昨夜はなかなか眠りに就けなかった。しかし王様の願いはただ 一つ : : : 全ての〃佐藤〃という名字が消えてくれることなのだ。そんな自分勝手でわがまま な発想がこんな馬鹿げた計画を実行させたのだが。しかし、今一番気にかかるのは、昨日の 終了時点で更に何人の佐藤さんたちが犠牲になったかであった。佐藤愛を含めて何人の犠牲 者が。じいはそれをいち早く王様の耳に報告しに行った。 王様は玉座にもたれかかり、じいからの報告を待っていた。 「王様 : : : 」 クリスマスの最終日
261 「今日で最終日 : : : 分かっているな ? 」 それだけだった。だが、じいはこの短い言葉で王様が言わんとしていることーー自分に何 を命令しているのか、すぐに理解できた。だからといって、じいは本心からは頷けなかった。 しかし、 「承知いたしました。王様の期待に背くことのないよう、今日中に全ての者たちを : : : 捕ま えます」 そう言うとじいは深々と頭を下げて王様の前から立ち去った。確信を得た王様は、 「よし ! これで : : : これで私の目標が一つ達成する」 そう呟くと王様はほくそ笑み、次第に口元から笑い声が洩れた。 一方、巷では六日間続いていた″リアル鬼ごっこ〃が今日で最終日とあってか、大きく騒 終がれていた。どの朝刊も一面に大々的に掲載され、どのチャンネルを回しても〃それ〃関連 ののニュースや情報一色で、普通の番組は一切放送されていなかった。どのテレビ局のアナウ ス マンサーも、 リ『ついにー ついに今日で最終日を迎えるリアル鬼ごっこ。果たして現在のところ、何人の 佐藤さんたちが生存し、そのうち何人が生き残るのでありましようか ? 全く予測もっきま せん ! 』
アナウンサ 1 も必要以上に興奮していた。これほどまでの犠牲者を出した計画が今日で最 終日とあれば、興奮せずにはいられないのだろう。しかし、それ以上に、興味津々といった ところも見受けられる。何人の佐藤さんたちが生き残るかと : 町中が騒がしい理由がもう一つあった。タイミング悪く″リアル鬼ごっこ〃の最終日と重 なり、話題性が薄れてしまっているのだが、今日はクリスマスイプであった。町のいたる所 でクリスマスの準備が行われていた。この日、幸せな夜を過ごす人々もいれば、同じ時刻に 恐怖と戦いながら必死になって逃げなければならない人もいる。同じ国に住んでいながらこ れほどの差があろうとは : : : 王国は既に狂ってしまっていた。 最終日とあってか、〃リアル鬼ごっこ〃と一切関係のない人々の意見もそれぞれだった。 『は 5 、やっと今日で終わるのか 5 。何だか長かったよ』 実行中の一時間、全国一斉通行止めの規制がなされており、その間は関係のない人々も細 心の注意を払わなければならなかった。確かに精神的にも疲れたであろう。 『今日で終わりかー。そういえばあれほど続いた犯罪もピタリと止まったね』 確かに佐藤たちの凶悪犯罪は既に一つもなくなっていた。それほど佐藤姓が少なくなって いる証拠だ。この日で全滅の可能性も大いにあり得る。それとは逆に、 『何人の人たちが生き残るんだろう ? 』
そう言った後、やはりまずかったかなと、久保田は不安になった。 しかし、意外な言葉が返ってきた。 「え ? あ、ああ、大丈夫、大丈夫 ! 俺が捕まると思うか ? 楽勝だよ楽勝」 それはどう考えても無理に強がっているとしか思えなかった。 皆はロを揃えて哀れむように言った。 「いやー、これからさー、″用事〃があるんだよ。悪いけど今日は俺、帰るわ。じゃ ! 」 右手を軽く上げて、誰にも発言の間を与えないまま、翼はリュックを片手に堂々とした歩 き方で去っていった。その様子に誰も声をかけられず、最後となるかもしれない翼の姿を、 悲しげに見送った。 おび 一方、翼は恐布に怯えた姿をさらすのだけは避けようと、必死に明るい自分を保っていた こら のだが、皆に背を向けてからはとうとう堪えきれなくなった。背中に皆の視線を感じながら、 震える体を必死におさえて会場をあとにした。 〃リアル鬼ごっこ〃まであと六時間 : 残り二時間を切った時、準備は全て整っていた。鬼の数から、待機場所、そして佐藤さん を捕まえるべき最終兵器ならぬアイテム″佐藤探知ゴーグル〃。これは、じいが全力を尽く
プロローグ 一つの提案 十四年の月日 開会式 鬼ごっこ始動 追いかけっこ 十四年目の真実 ダブル佐藤 荒れ狂う王国Ⅷ 目次 悲惨な逃亡劇 再会 互いの過去 生まれ故郷 あの時の映像 クリスマスの最終日 ラスト鬼ごっこ 閉会式での願い事 解説横里隆
じいは静かに王様に近寄った。 「おお、じいかー 待っていたぞ ! 」 「最終日ということで、色々お話が : 「そうだったな。ところで : : : 現在、生き残っている佐藤はどのくらいいるのだ ? 」 じいは一一 = ロいにくそ一つに、 「そのことですが : : : 昨日の終了時点でかなりの数を捕まえました。恐らく、生き残ってい る者は : : : 数える程度に : : : 」 じいは俯き、それより先はロにしなかった。側近たちもその言葉に驚き、目を伏せていた。 しかし、王様は生き生きとした表情で声を張り、 とうとうそこまで減らしたか ! 」 日 終 のじいはカなく言った。 ス マ「ん ? 何だ ? 何か不満でもあるのか ? 」 王様が眉を持ち上げてそう聞くと、じいはハッとして苦し紛れに微笑んだ。 ク え、大変、喜ばしい限りにございます」 じいが言うと王様は機嫌良さそうに大声で笑った。